鮮明な月

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間章 ソノサキの合間の話

間話121.正しいおくすりのススメ3

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「ゆぅきぃ。」

自ら甘えた声をだして、名前を呼ぶ。たったそれだけの事をすれば目の前の邑上悠生が絶対に我慢できなくなるのが、もう邑上誠にもちゃんと分かっていて。だからこそ誠は甘えて強請り、悠生だけに効果を示す媚薬を更に振り撒く。誠が好きだという悠生にしか効かない、誠自身という媚薬。実は誠自身としては自分にこんなことが出来るなんて、思いもしていなかった。こんな風に行動と声音で猫撫で声を出すのは、好きでもない相手を篭絡する時。そう思っていた誠はこれ迄はずっとこんな声が、自分が何かを本気で強請るために使えるなんて知らなかった。

こう言ってみたらいいよ?

そう榊仁聖が秘密だよと言いながらあの時コッソリと教えてくれたのは、『抱っこして』と甘えてみるということだった。何をいっているんだ?と正直誠は思ったのだけれど、成人にもなって抱っこしてくれなんて普通は言わないでしょ?と仁聖は笑って言ったのだ。それに別に抱っこじゃなくてもいい、実際には頭を撫でてとかでも構わないらしい。ただ唯一その相手にだけ子供のようなことを強請る一言を作ると良いということなのだという。どうやら仁聖の恋人氏も仁聖よりもかなり歳上で、時々この手で彼から甘えられるのが仁聖にしてみると破壊力抜群なのだというのだ。

ギャップ萌えだよね、うん。時々して上げると悠生がメロメロになると思うな

そういうものなのか……と一寸感心したのは事実だし、その後試しに玄関先で『抱っこして』とお強請りしてみたら確かに悠生は仁聖のいう通りあっという間に目に見えてデレデレになったわけで。それに一寸……というか……かなり誠はその後にスルリと自分の気持ちを悠生に伝えられた気がする。お陰で誠が必死にリハビリを頑張っている事で起きていた弊害、悠生に悲しい顔をさせなくてすむようになった。それにあれを切っ掛けに悠生の気持ちが、何だか前より誠にも理解しやすくなったのだ。それは正直とってもありがたいことだし、誠の気持ちもストレートに伝わりやすくなったのもいい。
そうして誠が甘えた声で名前を呼び、悠生に縋りつく。そうすれば悠生がどんなに我慢していても、熱く滾る怒張を露にして獣のように自分を求めるのは目に見えているから。

「ゆ、ぅきぃ。」

甘えきった砂糖菓子みたいな声で耳元に囁く誠の声に、限界を迎えた悠生の身体が勢いをつけて動く。沢山の人間があのキッチンウェアのポスターをみて、ワインを酌み交わす相手と悠生が食事を終えて寛ぎ、やがてはベットに向かうのだと想像したのに違いない。そうしてその先で淫らに汗ばむ悠生の身体を妄想したのかも、そう思ってしまうとチリチリ胸の奥に妬けるように熱さを感じてしまう。それでも今こうして目の前に横たえられ泣かされているのは誠であって、他の小娘なんかじゃないのも事実だ。そうしてジェルに濡れそぼった穴にブチュブチュと淫らな音を立てて突き立てられる熱くて固い怒張に、誠は大きな歓喜の甘い悲鳴を上げていた。

「あ。はぁう!!んんっ!あぁあぁ!」

突き破られるかと思うほどに勢いよく、固くて長く太いモノに一気に深々と貫かれてしまう。先端が一気に最奥を叩きつけてくるのに、喉を仰け反らせて歓喜の悲鳴が絶え間なく溢れ落ちていく。そんな誠の細い腰に悠生の指が更に強く食い込み引き寄せて、ゴツゴツと怒張が誠の奥を抉じ開けようとしている。

「あ、あぁ、あ!」

潤滑油代わりの媚薬ジェルの存在が、何時もより早く深く悠生を絡めとって自ら奥へと飲み込んでしまう。必死に悠生にしがみついていないと、突き上げが激しすぎて弾き飛ばされてしまいそうで怖いくらい。誠がそう必死になって悠生に縋りつくのが、悠生にとっては更に興奮を煽り立てている。

「ひ、あぁ!あっ!あぁ!!」
「あぁ、スッゴい……蕩けてて、あっつくて…………ヤバい……すぐ、出そう……っ!」

低く呻くような悠生の雄の歓喜の声に、誠の身体の芯も快感の熱で溶けてしまいそうだ。こんな自分に悠生が興奮して盛って必死に腰を振り立てているのだと理解するだけで、悠生という媚薬が腹の奥で破裂して誠を狂わせてしまう。

「や、ぁ……ゆ、ぅきぃ。や、ぁ、おく、もっ、とぉ。」

縋りつく首元で甘い熱を込めて耳元に囁く誠の甘え声に、無意識に悠生の喉がゴクリと鳴るのが聞こえる。そうして更に容赦なく荒っぽい動きで激しく乱暴に体内をゴツゴツと最奥を先端で突き回され、あっという間に気を失う程の凄まじい快楽に押し上げられていく。結腸の奥、S字の奥で曲がった部分を押し上げ、その先を押し開きグプリ……と嵌まる感触に全身が痙攣のように震えて蕩けていくのが分かる。目の前がチカチカと瞬き歓喜に失禁したようにドロドロと鈴口から蜜を滴らせ、しがみつく首元で酸素を求めるだけで唇を閉じることも出来なくなってしまう。

「ふぁ、あ、あぁんぁ……あ、あぁ。」
「あぁ、もう誠ってば、可愛い。すき。すきっ!愛してる!」

更に耳朶を噛みねぶりながら熱く囁く声に擽られながら、奥にきつく嵌まった怒張の先端をチュコチュコと肉襞をコソゲるように小刻みに激しく擦りたてる。その動きの産み出す快感に、誠は泣きじゃくるように喘ぎ弱々しく頭を振るしか出来ない。

「ひゃ、う、あぁ!あんっあぁ、んんっう!あっ!」
「ヤバい……これ、凄い、チンコ溶けそう……誠の中キュウキュウってチンコに絡んでくる……、いい、ヤバい……止まんない……いい、いい。」

フシダラな言葉を放ち激しく前後に腰を揺すりたて続けられて、全身で押し潰すようにのし掛かる悠生の身体の重さに酔う。互いに何もかもが熱くて気持ち良くて、訳が分からなくなるような快感。獣みたいに悠生に腰をカクカクと前後に突き動かされるのに、誠の方もヘコヘコと淫らに腰を前後に動かして快感を奥で受け止めている。

「あぁ、やっばい……誠の腰使い……エロ……。」

そんなの悠生の方だって同じと誠は思うけれど、そんなことを言うよりも更に激しい快感に上り詰めるのを選んでしまう。そんな風に狂う人間をみて鼻で笑ってきた筈の自分が、自分からそれを求めるしか出来なくなる。そんな人間染みた感情が自分にもあるなんてことは知りもしなかった。

「奥チュコチュコ、気持ちい?」
「い、ゆ……きぃ……い、いよぉ、い、ぃのぉ。」

もう気持ち良くて仕方がない。こうして教え込まれた新しい快感に抵抗する力なんてもてないし、抵抗する必要すら感じさせられないまま。こんな風に愛される事が自分にあるなんて、信じられない程幸せに包まれる。

「あぁ、マジでヤバい……可愛い、蕩けてて、本気まじ誠、ほらもっと言って、ほら。」
「ゆ、ぅきのチンコ、でぇ、奥チュコチュコ……い、ぃのぉ。ゆ、……きぃ、すきぃ。いい、よぉ、ゆぅきぃ。」
「ヤバ……っそれたまんな、可愛い……。エロ、すぎて、たまんな、い。」

悠生が望むままの痴態を晒して必死に悠生にしがみつき誠は、何度もキスを落とされながら酩酊する快感にドップリと耽る。そうしながら誠は、媚薬なんて存在しなくて本当に良かったなんて朧気に心のどこかで思っていた。



※※※



「媚薬って本当にあるものなのかなぁ?しゃちょー。」

頬杖をつきながら、これまた久々にとんでもないことを言い出した結城晴に、外崎宏太は眉を上げて馬鹿言うなと言わんばかりの溜め息をつく。何度も教えてんだろと言いたげな様子の宏太に、『現実にはないってのは分かってるけどさぁ』と晴は頬杖をついて眉を潜める。

「邑上誠の店って乱痴気騒ぎしてたんだろ?あれはどういうことなの?」

既に警察が2度も立ち入りを行った邑上誠の店は、あの件の薬の販売元だったのは言わなくてもの話だ。そして外崎了が一度「」警察に捕まったのも、あの店舗の中で酩酊している状態での事だった。了曰く錠剤を購入した時何となく甘ったるく感じる臭いがしていて、それが服用した後には少し身体からしていた気がするという。そして同時に先だっての事件の最中、邑上誠のベットに引き込まれる羽目になった了は同じ甘い香の薫りで酩酊させられたのだ。そして同じ場所に乗り込んだ晴は、三浦和希に『この臭いは嗅がないほうがいい』と言われたのだった。

「ってことはさぁ?臭いが問題ってこと?」

宏太達が乗り込んだ時には既に窓は割られているし、宏太自身としてはそれどころの話ではなかったので録に臭いなんて気にもしなかった。それでも了を助けようと乗り込んだ時に一緒にいた鳥飼信哉が、室内に焚き籠められていた香炉を第一に蹴り散らしたのは確かだ。(因みに後から信哉には何でそっちが先だったのかと、一応は聞いた。そうしたら随分意味深に焚き上げていたから臭いし気持ち悪くてと、信哉はケロリと答えていたが。)了曰く邑上誠は『薬の原液を埋めてミスト状にしている』ような話をしていたとか。

「……ならさぁ、あれって液体なんだ?よね?元々。」

分かりきったことではあるが、突き詰めるとそうなる。何らかの液状化のものを濃縮して混ぜ物をして錠剤にしているということで、その錠剤に含有する量がマチマチなのは、安定した触媒を探していたということなのだろう。もしくは一定の量がないと触媒に中和されるということなのか。

「…………そうなるな。」
「…………そしたらさぁ?運ぶのって瓶とか、だよね?」

不意に結城晴が何を言いたくて、この話を始めたのか宏太は理解してしまった。原液の薬剤を何らかの保管をしておくためには、それなりの設備が必要。しかもそういうものを輸送するための、輸送車なんかも必要。それらを持っていて花街近郊を動き回っても誰も可笑しいとは思わない昔からあった輸送会社が、ここにきて一社突然雲隠れしたのを先日問いかけたのは晴だ。そこは取り扱いとしては幅がありワインや日本酒など温度管理が必要な酒類も取り扱っていたから冷蔵倉庫も持っていた筈だ。

「…………それで、か。」

その突然の雲隠れは久保田惣一関係には上手く情報が流れなかったというのは、既に宏太達の耳にはいっていた。惣一は自分達関連だけではないし、取引が残っている酒店に連絡してみたら慌てて駆けつけてきたという。どうやらリストをつくって上から順に連絡したつもりが、何件か似た名前の店舗を飛ばしてしまったとか。(惣一は『偶々何件か連絡漏れがあったみたいだよ。』と呑気に笑っていたが、『茶樹』に似た名前の店は確かに近郊には『チャイキ』やら『茶器屋』やら、『居酒屋・茶の間』やら『バー・チャチャ』なんてものまで居酒屋を含め酒を扱う店舗でも似た臭いのが乱立しているのは事実。まぁそんなことはさておき、偶発ではなく故意の事だったのだとすれば。)

「まぁ、それはさておきさぁ?原液なら媚薬効果出るってこと?」
「…………お前な…………。少しお前を見直した自分が馬鹿に思える…………。」

ワクワクしながら問いかけてくる晴に、大きなあからさまな溜め息混じりに宏太がそう言い、その2人を苦笑い混じりの少し暗い顔で了が眺める。というのは、あれから庄司陸斗が、パッタリと出勤してこないのだ。勿論バイトではあるから出勤してこなければ給料にならないだけではあるし、一応はLINEには『スミマセン、家の事情でゴタゴタしてて。』と定期的に連絡は来ている。それに元々は必要だから雇ったというよりは、向こうが無理矢理に近い方向で雇ってと押し込んできたものだ。宏太は今のところ何も言わないけれど、このまま顔を出さずに来ないとなると流石に解雇でもおかしくはない。

「ね、了は興味ないの?!媚薬!!」
「んん?ど、どうかな、俺はあんまり…………。」

その件に関しては内心としては余り了としては、話題に加わりたくない。何しろ個人的にその件の薬を入手して服用してしまった事があるし、晴はもうスッカリ記憶から削除しているみたいだが副作用で卒倒し記憶を失うなんて事態も経験した。おまけにその後遺症なのか、関係ない時にも一過性の健忘にも陥っているのだ。なので余り乗り気でない話題性に了は賑やかに微笑んで退場したわけだが、晴の尽きない好奇心は宏太に身を乗り出している。

「だってさ?見てみたいじゃん?好きな人ならみたいでしょ?メロメロになって、好きにしてってなるの。」
「…………そりゃ媚薬関係ねぇだろ。」

結局は恋人の狭山明良が晴と比較しても冷静なタイプだからと言いたいらしいのだが、そこに自分達を巻き込むんじゃないと宏太も言いたい。少なからず了はあの薬の件に関しては今もかなり責任を感じているのだし、自分と一緒に居るのだからそんなものは必要もない訳で。

「でも、見てみたいし聞いてみたいんだもん。」
「…………お前、ほんとに馬鹿だな。」
「はぁ?!しゃちょーはいいよ!昔からそういう経験値バリバリだもんね?でも、俺はそういうのに夢見る若いピチピチなお年頃なのー!!」
「あ?そりゃ俺が年寄りだって言いたいのか?ん?」

おっと、余計な事を言ったと晴が思った時には、現実としては少し遅かった。
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