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間章 ソノサキの合間の話
間話108.おまけ おうちデート2
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珍しく榊仁聖の帰途が遅い。
大学帰りの普段の帰宅と比較しても、時間的に随分遅くなっている。けれどももし遅くなるなら当然のようにしてくる連絡もまだ一本も来ていなくて、榊恭平は少しだけ首を傾げて再三にチラチラと時計を見上げスマホを眺めるを繰り返している。つい先日みたいに『同窓会にいってくるから遅くなる』と数日前から何度も何度も宣言してあるのとは違うし、因みに今夜はモデルの仕事が入っているとは聞いてもいない。というか最近のモデルのバイトは休みの事が多くなっていて、モデルの仕事としても大学が休みの日の日中に出ていて夕方には戻っていることが多かったりする。それに大学での事なら昼間の内に連絡が入ってそうなものだし。なんて普段の仁聖の暮らしを考えると恭平も思ってしまうわけなのだが。
でもまぁ、仁聖だって成人ではあるからなぁ…………
勿論恭平にしたら、心配は心配ではある。かといって成人男子の帰宅時間が分からないからと、執拗に連絡をとるって言うのもどうなんだろうか。それに遅いとは言っても、まだ20時過ぎ程度。過去の同じ年頃の自分はどうだったんだ?とふと考えてみると、実際のところ定期的な仁聖の来訪の日以外はどうしていたか記憶にない有り様だ。大体にして成人男子相手に実の母親がする心配としてもどうなのかと思う範疇の事なのだろうし、これが日付を跨いだって言うなら兎も角。自分が心配だからといってこちらから『連絡しろ』というのも流石に躊躇ってしまう。
うーん…………でもなぁ
とはいえ普段なら仁聖は、率先して自分から大概は連絡をくれるのだ。ほんの少し……例えば19時を過ぎるけど、今晩はコレコレを作る予定で仕込んであるから夕食は待っててとか、今帰ってるところだからご飯作るのは待っててくれなきゃやだとか。しかも何度かそれをスルーして恭平がキッチンに立ったら、帰ってきた仁聖に本気で切ない顔で不貞腐れられてしまったので恭平としても少し困る。その仁聖が珍しく音沙汰もないというのに、ソワソワとしてしまうのはこれはもう仕方がないことなのかもしれない。結局ウロウロソワソワしながら恭平自身も落ち着かずに過ごしていて、何も手がつかないでいる。
もう諦めてちょっと気分を変えないと……
そう切り替えてキッチンに向かい、お湯を沸かして珈琲でも入れるかと手を伸ばしたのとほぼ同時。バタバタと玄関先で駆け込んでくるような音がして、更に何か大きな荷物のようなものを廊下の先の自室の前辺りで置く気配がする。そうして息を切らせながら、賑やかな足音がリビングに向かって慌てて駆け込んでくる。
「ごめん!!遅くなっちゃった!!心配したよね?!ごめん!!」
「あ、あぁ、いや、お帰り。何かあったのか?」
「ただいまぁ。連絡しようとしたら、スマホの電池切れしてて!」
勢い込んで駆け込んできて矢継ぎ早に誤りだした仁聖に、恭平の方が少し面食らいながら改めてお帰りを口にしている。どうやら何か用事を済ませようとして、連絡しようとしたらスマホの電池が切れていたようだ。それで何処かで充電するよりは、走って帰った方が早いと慌てて走って帰ってきたということらしい。
「何もなかったんならいいんだ。少し心配してた。」
「ごめん、途中で電話出来るとこあればよかったんだよね、俺も慌てちゃって。」
1人に1台が当然の世の中では、逆に公衆電話なんて物の方が珍しい世の中だ。電池切れでもコンビニによれば、充電の器具も買えるとなると尚更公衆電話は少なくなっている。しかも慌てるとある筈のものも、何故か全くもって目に入らないなんて事はよくある話しだ。
「それにしても、何してたんだ?」
仁聖はその問いかけに苦笑いして肩を竦めると、ちょっと待ってて・先に上着とかおいてくると上着を脱ぎながら颯爽と歩き出していた。その様子に何か起きたから帰れなかったという様子ではあるけれど、仁聖にしてもそれほど嫌な事ではなかったらしいと恭平には見える。そうしてパタパタと自室から戻ってきた仁聖は、少し慌てた様子で当然みたいに恭平の横をすり抜けキッチンに駆け込む。
「ごめん、ご飯は?」
「今から作ろうかと……思ったところだった。」
「よかった、ならそこで聞いてて。俺、話しながら作るから。」
自分が作ろうかと思ったと恭平は言ったのに、仁聖からはそこに座って話し相手してと言われてしまう。もうこうなると恭平としても仁聖に抵抗しようがなくなってしまうので、最初からソワソワしてないで作っておけばよかったのにと今更ながらに内心では思う。兎も角恭平は大人しくカウンターに腰かけて、仁聖が手際よくカフェエプロンを身に付けるのを眺めることにするのだった。
恭平の様子に安堵したのか、仁聖が手早く調理を始めて。そうしながら話し始めたのは、先日の同窓会での元同級生に起こっていたゲーム流行の話し。先日は流石に帰宅が遅かったし仁聖もホロ酔いで、まだユックリと聞けてなかった部分の話だ。それを聞いていて恭平が1番の驚きに目を丸くしたのは、異母弟の宮内慶太郎も最近のスマホアプリでゲームをしていたと仁聖が話したところなのは言うまでもない事だろう。
「ゲーム……かぁ。俺も興味がないもんな…………。」
唖然とした口調でポツリと恭平が呟いたのに、そうなんだよなと仁聖もコンロを扱いながら思う。そう先程結城晴達とも話していて気がついたのだが、仁聖がゲームに興味を持たなかったのは恭平がゲームには興味がないからという部分が途轍もなく大きい。これでもし恭平がゲームをする側の人間だったら、確実に仁聖はゲームに関して恭平がやるものなら須く網羅していた筈だ。そういう意味では仁聖の興味は恭平に左右されている訳で、どちらかと言えば今ならゲームをするよりは本を読む方が楽しいのだ。何しろ本だと恭平からオススメを教えて貰えるし、恭平の好きな本を教えても貰える。どんな話が好きで、どんな文章が好みなのかとか、そういうのをキラキラした瞳で恭平から嬉しそうに教えて貰えるのが仁聖にはとっても楽しい。もしその対象がゲームだったら、話題についていけるだけでなく話が盛り上がるようゲームをやりこんだ筈だ。
さてさて話が大きくずれたが、そういう訳で仁聖は産まれて始めて、同じ年頃の同窓生との感覚の差に多大なカルチャーショックを受けた。そしてそれが普通なのかと気がついた仁聖は、更に自分とそれほど歳や思考回路が変わらないように感じる結城晴に『ゲームってしてないのはちょっと普通とは外れてる?』と問いかけてみた訳だ。そうしたらそんなことないという否定ではなく、完璧にそんなのおかしいと力一杯に晴に頷かれてしまったのである。
そんなら試しに家来て触ってみたら?
そして、最新ゲームでなくとも体験するなら皆でやるようなパーティーゲームなんてものものもあるから、見てみるか?と結城宅に誘われたということなのである。因みに誘われた時にはこれ程遅くなる予定ではなかったらしく、もっと早く帰れる予定だったのだという。それが何でこんなに遅くなったかと言えば、途中庄司陸斗が来訪し、更に狭山明良迄帰宅して、何故か4人で対戦に摺り変わったからだった。
「だってさぁ、ドンケツになったら良二さんの『超絶おもてなしプリン』を奢るなんて言い出すんだよ?晴ってば。」
「はは、それは負けられないな。」
そうして先程まで続いた晴達との白熱のテレビゲームでのカート対決の話。結局練習として始めた初回から仁聖はほぼ負け無しだったわけで、他の3人の勝負魂に火が着いてしまったらしい。お陰で真剣勝負の4人対戦になってしまった訳だ。因みに本気の4人対戦となると、絶対的な経験値の低い仁聖は流石に1位をキープできなかったのはいうまでもない。でも仁聖は2位とか3位には順位は落ちたものの、総合的にはドベにはならなかった。結果的に総合完璧なドベになったのは、実は結城晴だったりする。
何でだよー!!!姫ぇええ!!
得意キャラだと宣言したお姫様キャラを使ってから尚更順位がガックリ落ちたが故の晴の悲鳴に、他の面々はもう余りの残念ぶりに腹を抱えて笑うしかない。何しろどう見ても自滅方向で突っ込んでいるとしか思えないし、晴自身が自分で罠に向かって突っ込んでおきながら『なんでそこ行く?!!!』とか盛大に叫ぶからだ。どう考えてもワザと突っ込んでるとしか思えないのだけど、それはコントローラーがおかしいとか画面の見る場所を間違ったとか必死に晴が言い訳するわけで。
センスないんじゃない?晴
はぁぁ?!そんなことありません!もう一回!!
という会話が4人の間で繰り返され、結果として予定超過となった訳なのだ。
因みに4人対戦後の総合での1位は狭山明良、2位が仁聖で僅差の3位が庄司陸斗だ。仁聖としても別段赤い配管工長男キャラでなくても、緑の配管工次男キャラでも緑の恐竜キャラでもやり方で勝てることが分かった。仁聖的にはゲーム経験値が上がった感はなくもないので良しとする。ともあれ、このゲームなら操作も難しくないし、他にもこういうゲームなら初心者でも楽しく出来るよと明良や晴から聞いて来たのだという。
「…………ん?でも…………興味はないんだろ?ゲームに。」
「うん、でも、さ?してみたいことはある、んだよね。」
ゲームに興味はないけど、ゲームでしたいことがある?その矛盾した仁聖の発言に、恭平は首を傾げて、あっという間に魔法のような仁聖の手で出来上がっていく副菜と主菜を眺める。これはゲームでなければ出来ないことがあるって言うことなのだろうけれど、ゲームで何が出来るのかもよくわからない恭平ではその内容は想像もつかない。カチャカチャと食器を鳴らしていた仁聖が、恭平の視線に気がついて少し恥ずかしそうに頬を染めて俯く。どうやら恭平の顔には『それで仁聖は何がしたいんだ?』という問いかけがあからさまにハッキリと浮かんでいたらしい。仁聖は食器に出来た料理を盛り付けながら、俯き加減のまま頬を染めてポソポソと呟く。
「おうち………デート…………して、みたいなぁって。」
おうちデート?おうちは家の事なのだろうが、デートは外でするものなんじゃ?それは一体どういう意味なんだ?そう思ってしまっている自分は、世の中の事をしらなくて鈍いのだろうか?そんな今一つ言葉の意味が飲み込めていない恭平の顔に、仁聖が笑いながら自分も初めて聞いたんだけどとホンノリ頬を染めて言う。
因みに一応の豆知識ではあるが、『お家デート』とは恋愛関係にある2人がどちらかの家に行き、一定の時間行動を共にすることをいうらしい。これは一緒に外出し一定の時間行動を共にする『外出デート』に対する用語で、その内容はそのカップルによって、またその時々の状況によって様々である。定番の楽しみ方としては、テレビやゲーム、DVDや動画観賞、音楽、マンガ、インターネット、食事などが挙げられるそうだ。通常は女性の方としては手作り料理が一つのポイントになっており、また男性の方では雰囲気作りなどの演出が一つのポイントになることが多いようである。一般にお家デートは2人の時間をまったりと過ごせるので、のんびりしたい時に最適とか…………。また外出デートとは異なり、エッチは好きな時に出来てしまうなんてことから、ラブホとは違う感覚でじっくりと楽しめてしまうとか。なお、その際の準備は必須事項であり、ムダ毛や肌のお手入れ、勝負下着、避妊器具など、万全の用意をしておくことがポイントである。
さて、こんな豆知識はさておきだ。
2人で既に2年近く暮らしていて、今更ながら『おうちデート』もあったものではないのでは?という恭平の内心の意見は棚上げすることにして、結果論としては恭平とのラブラブおうちデートを目的に仁聖はこれまでしたことのないゲーム迄選択肢として準備してみたということらしい。
「おうちデート……。」
まぁ、なんというか表現としては可愛らしいのは確かで、それをしたいなぁと頬を染める仁聖が可愛いのは言うまでもない。それにやってみたいなんて珍しく申し出る仁聖も珍しいことだし、その程度位のことなら無理な話しでもないと思う。そして、そこまで考えて『あぁ』と納得したような声が溢れ落ちる。
「…………それで、俺に聞く前にもうゲーム機まで買ってきた訳か。」
「え?!な、なんで分かっちゃったの?!み、見えてた?!」
帰宅して仁聖が廊下の方で妙な音を立てていたのと、リビングと自室を行ったり来たりしていたのは、やはりそういうことだったらしい。どうやら早々に機器を購入してきたけれども、話してみて恭平が興味がないからと断固拒否という可能性に途中で気がついたと言うところだろう。
「お前がモデルで稼いだ金銭だから、買っても別に何も言わないぞ?」
「ええ、と、なんかちょっと恥ずかしかったんだよね……。」
娯楽のための道具を買ったことがなかったから、買うのも持ち帰るのもなんだか気恥ずかしかったのだと仁聖が苦笑いしている。
大学帰りの普段の帰宅と比較しても、時間的に随分遅くなっている。けれどももし遅くなるなら当然のようにしてくる連絡もまだ一本も来ていなくて、榊恭平は少しだけ首を傾げて再三にチラチラと時計を見上げスマホを眺めるを繰り返している。つい先日みたいに『同窓会にいってくるから遅くなる』と数日前から何度も何度も宣言してあるのとは違うし、因みに今夜はモデルの仕事が入っているとは聞いてもいない。というか最近のモデルのバイトは休みの事が多くなっていて、モデルの仕事としても大学が休みの日の日中に出ていて夕方には戻っていることが多かったりする。それに大学での事なら昼間の内に連絡が入ってそうなものだし。なんて普段の仁聖の暮らしを考えると恭平も思ってしまうわけなのだが。
でもまぁ、仁聖だって成人ではあるからなぁ…………
勿論恭平にしたら、心配は心配ではある。かといって成人男子の帰宅時間が分からないからと、執拗に連絡をとるって言うのもどうなんだろうか。それに遅いとは言っても、まだ20時過ぎ程度。過去の同じ年頃の自分はどうだったんだ?とふと考えてみると、実際のところ定期的な仁聖の来訪の日以外はどうしていたか記憶にない有り様だ。大体にして成人男子相手に実の母親がする心配としてもどうなのかと思う範疇の事なのだろうし、これが日付を跨いだって言うなら兎も角。自分が心配だからといってこちらから『連絡しろ』というのも流石に躊躇ってしまう。
うーん…………でもなぁ
とはいえ普段なら仁聖は、率先して自分から大概は連絡をくれるのだ。ほんの少し……例えば19時を過ぎるけど、今晩はコレコレを作る予定で仕込んであるから夕食は待っててとか、今帰ってるところだからご飯作るのは待っててくれなきゃやだとか。しかも何度かそれをスルーして恭平がキッチンに立ったら、帰ってきた仁聖に本気で切ない顔で不貞腐れられてしまったので恭平としても少し困る。その仁聖が珍しく音沙汰もないというのに、ソワソワとしてしまうのはこれはもう仕方がないことなのかもしれない。結局ウロウロソワソワしながら恭平自身も落ち着かずに過ごしていて、何も手がつかないでいる。
もう諦めてちょっと気分を変えないと……
そう切り替えてキッチンに向かい、お湯を沸かして珈琲でも入れるかと手を伸ばしたのとほぼ同時。バタバタと玄関先で駆け込んでくるような音がして、更に何か大きな荷物のようなものを廊下の先の自室の前辺りで置く気配がする。そうして息を切らせながら、賑やかな足音がリビングに向かって慌てて駆け込んでくる。
「ごめん!!遅くなっちゃった!!心配したよね?!ごめん!!」
「あ、あぁ、いや、お帰り。何かあったのか?」
「ただいまぁ。連絡しようとしたら、スマホの電池切れしてて!」
勢い込んで駆け込んできて矢継ぎ早に誤りだした仁聖に、恭平の方が少し面食らいながら改めてお帰りを口にしている。どうやら何か用事を済ませようとして、連絡しようとしたらスマホの電池が切れていたようだ。それで何処かで充電するよりは、走って帰った方が早いと慌てて走って帰ってきたということらしい。
「何もなかったんならいいんだ。少し心配してた。」
「ごめん、途中で電話出来るとこあればよかったんだよね、俺も慌てちゃって。」
1人に1台が当然の世の中では、逆に公衆電話なんて物の方が珍しい世の中だ。電池切れでもコンビニによれば、充電の器具も買えるとなると尚更公衆電話は少なくなっている。しかも慌てるとある筈のものも、何故か全くもって目に入らないなんて事はよくある話しだ。
「それにしても、何してたんだ?」
仁聖はその問いかけに苦笑いして肩を竦めると、ちょっと待ってて・先に上着とかおいてくると上着を脱ぎながら颯爽と歩き出していた。その様子に何か起きたから帰れなかったという様子ではあるけれど、仁聖にしてもそれほど嫌な事ではなかったらしいと恭平には見える。そうしてパタパタと自室から戻ってきた仁聖は、少し慌てた様子で当然みたいに恭平の横をすり抜けキッチンに駆け込む。
「ごめん、ご飯は?」
「今から作ろうかと……思ったところだった。」
「よかった、ならそこで聞いてて。俺、話しながら作るから。」
自分が作ろうかと思ったと恭平は言ったのに、仁聖からはそこに座って話し相手してと言われてしまう。もうこうなると恭平としても仁聖に抵抗しようがなくなってしまうので、最初からソワソワしてないで作っておけばよかったのにと今更ながらに内心では思う。兎も角恭平は大人しくカウンターに腰かけて、仁聖が手際よくカフェエプロンを身に付けるのを眺めることにするのだった。
恭平の様子に安堵したのか、仁聖が手早く調理を始めて。そうしながら話し始めたのは、先日の同窓会での元同級生に起こっていたゲーム流行の話し。先日は流石に帰宅が遅かったし仁聖もホロ酔いで、まだユックリと聞けてなかった部分の話だ。それを聞いていて恭平が1番の驚きに目を丸くしたのは、異母弟の宮内慶太郎も最近のスマホアプリでゲームをしていたと仁聖が話したところなのは言うまでもない事だろう。
「ゲーム……かぁ。俺も興味がないもんな…………。」
唖然とした口調でポツリと恭平が呟いたのに、そうなんだよなと仁聖もコンロを扱いながら思う。そう先程結城晴達とも話していて気がついたのだが、仁聖がゲームに興味を持たなかったのは恭平がゲームには興味がないからという部分が途轍もなく大きい。これでもし恭平がゲームをする側の人間だったら、確実に仁聖はゲームに関して恭平がやるものなら須く網羅していた筈だ。そういう意味では仁聖の興味は恭平に左右されている訳で、どちらかと言えば今ならゲームをするよりは本を読む方が楽しいのだ。何しろ本だと恭平からオススメを教えて貰えるし、恭平の好きな本を教えても貰える。どんな話が好きで、どんな文章が好みなのかとか、そういうのをキラキラした瞳で恭平から嬉しそうに教えて貰えるのが仁聖にはとっても楽しい。もしその対象がゲームだったら、話題についていけるだけでなく話が盛り上がるようゲームをやりこんだ筈だ。
さてさて話が大きくずれたが、そういう訳で仁聖は産まれて始めて、同じ年頃の同窓生との感覚の差に多大なカルチャーショックを受けた。そしてそれが普通なのかと気がついた仁聖は、更に自分とそれほど歳や思考回路が変わらないように感じる結城晴に『ゲームってしてないのはちょっと普通とは外れてる?』と問いかけてみた訳だ。そうしたらそんなことないという否定ではなく、完璧にそんなのおかしいと力一杯に晴に頷かれてしまったのである。
そんなら試しに家来て触ってみたら?
そして、最新ゲームでなくとも体験するなら皆でやるようなパーティーゲームなんてものものもあるから、見てみるか?と結城宅に誘われたということなのである。因みに誘われた時にはこれ程遅くなる予定ではなかったらしく、もっと早く帰れる予定だったのだという。それが何でこんなに遅くなったかと言えば、途中庄司陸斗が来訪し、更に狭山明良迄帰宅して、何故か4人で対戦に摺り変わったからだった。
「だってさぁ、ドンケツになったら良二さんの『超絶おもてなしプリン』を奢るなんて言い出すんだよ?晴ってば。」
「はは、それは負けられないな。」
そうして先程まで続いた晴達との白熱のテレビゲームでのカート対決の話。結局練習として始めた初回から仁聖はほぼ負け無しだったわけで、他の3人の勝負魂に火が着いてしまったらしい。お陰で真剣勝負の4人対戦になってしまった訳だ。因みに本気の4人対戦となると、絶対的な経験値の低い仁聖は流石に1位をキープできなかったのはいうまでもない。でも仁聖は2位とか3位には順位は落ちたものの、総合的にはドベにはならなかった。結果的に総合完璧なドベになったのは、実は結城晴だったりする。
何でだよー!!!姫ぇええ!!
得意キャラだと宣言したお姫様キャラを使ってから尚更順位がガックリ落ちたが故の晴の悲鳴に、他の面々はもう余りの残念ぶりに腹を抱えて笑うしかない。何しろどう見ても自滅方向で突っ込んでいるとしか思えないし、晴自身が自分で罠に向かって突っ込んでおきながら『なんでそこ行く?!!!』とか盛大に叫ぶからだ。どう考えてもワザと突っ込んでるとしか思えないのだけど、それはコントローラーがおかしいとか画面の見る場所を間違ったとか必死に晴が言い訳するわけで。
センスないんじゃない?晴
はぁぁ?!そんなことありません!もう一回!!
という会話が4人の間で繰り返され、結果として予定超過となった訳なのだ。
因みに4人対戦後の総合での1位は狭山明良、2位が仁聖で僅差の3位が庄司陸斗だ。仁聖としても別段赤い配管工長男キャラでなくても、緑の配管工次男キャラでも緑の恐竜キャラでもやり方で勝てることが分かった。仁聖的にはゲーム経験値が上がった感はなくもないので良しとする。ともあれ、このゲームなら操作も難しくないし、他にもこういうゲームなら初心者でも楽しく出来るよと明良や晴から聞いて来たのだという。
「…………ん?でも…………興味はないんだろ?ゲームに。」
「うん、でも、さ?してみたいことはある、んだよね。」
ゲームに興味はないけど、ゲームでしたいことがある?その矛盾した仁聖の発言に、恭平は首を傾げて、あっという間に魔法のような仁聖の手で出来上がっていく副菜と主菜を眺める。これはゲームでなければ出来ないことがあるって言うことなのだろうけれど、ゲームで何が出来るのかもよくわからない恭平ではその内容は想像もつかない。カチャカチャと食器を鳴らしていた仁聖が、恭平の視線に気がついて少し恥ずかしそうに頬を染めて俯く。どうやら恭平の顔には『それで仁聖は何がしたいんだ?』という問いかけがあからさまにハッキリと浮かんでいたらしい。仁聖は食器に出来た料理を盛り付けながら、俯き加減のまま頬を染めてポソポソと呟く。
「おうち………デート…………して、みたいなぁって。」
おうちデート?おうちは家の事なのだろうが、デートは外でするものなんじゃ?それは一体どういう意味なんだ?そう思ってしまっている自分は、世の中の事をしらなくて鈍いのだろうか?そんな今一つ言葉の意味が飲み込めていない恭平の顔に、仁聖が笑いながら自分も初めて聞いたんだけどとホンノリ頬を染めて言う。
因みに一応の豆知識ではあるが、『お家デート』とは恋愛関係にある2人がどちらかの家に行き、一定の時間行動を共にすることをいうらしい。これは一緒に外出し一定の時間行動を共にする『外出デート』に対する用語で、その内容はそのカップルによって、またその時々の状況によって様々である。定番の楽しみ方としては、テレビやゲーム、DVDや動画観賞、音楽、マンガ、インターネット、食事などが挙げられるそうだ。通常は女性の方としては手作り料理が一つのポイントになっており、また男性の方では雰囲気作りなどの演出が一つのポイントになることが多いようである。一般にお家デートは2人の時間をまったりと過ごせるので、のんびりしたい時に最適とか…………。また外出デートとは異なり、エッチは好きな時に出来てしまうなんてことから、ラブホとは違う感覚でじっくりと楽しめてしまうとか。なお、その際の準備は必須事項であり、ムダ毛や肌のお手入れ、勝負下着、避妊器具など、万全の用意をしておくことがポイントである。
さて、こんな豆知識はさておきだ。
2人で既に2年近く暮らしていて、今更ながら『おうちデート』もあったものではないのでは?という恭平の内心の意見は棚上げすることにして、結果論としては恭平とのラブラブおうちデートを目的に仁聖はこれまでしたことのないゲーム迄選択肢として準備してみたということらしい。
「おうちデート……。」
まぁ、なんというか表現としては可愛らしいのは確かで、それをしたいなぁと頬を染める仁聖が可愛いのは言うまでもない。それにやってみたいなんて珍しく申し出る仁聖も珍しいことだし、その程度位のことなら無理な話しでもないと思う。そして、そこまで考えて『あぁ』と納得したような声が溢れ落ちる。
「…………それで、俺に聞く前にもうゲーム機まで買ってきた訳か。」
「え?!な、なんで分かっちゃったの?!み、見えてた?!」
帰宅して仁聖が廊下の方で妙な音を立てていたのと、リビングと自室を行ったり来たりしていたのは、やはりそういうことだったらしい。どうやら早々に機器を購入してきたけれども、話してみて恭平が興味がないからと断固拒否という可能性に途中で気がついたと言うところだろう。
「お前がモデルで稼いだ金銭だから、買っても別に何も言わないぞ?」
「ええ、と、なんかちょっと恥ずかしかったんだよね……。」
娯楽のための道具を買ったことがなかったから、買うのも持ち帰るのもなんだか気恥ずかしかったのだと仁聖が苦笑いしている。
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