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間章 ソノサキの合間の話
間話107.おまけ おうちデート
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「今時?!マジで?!」
そう驚き半分呆れ半分で声を張り上げられて、榊仁聖はそんなに大声でいうこと?と思わず眉を潜めてしまう。言うまでもなくここは何時も何故か気がつくと誰かと集まる中心になりつつある、珈琲と紅茶の芳しい香りで溢れた『茶樹』。そして何故か常連が集まる時にはアイドルタイムなのはいうまでもないが、本日も相変わらずのアイドルタイムで松尾むつきや佐倉は休憩中。そして久保田惣一も我が子の離乳食タイムとの事で、カウンターの中には鈴徳良二がその大きな声に驚いて目を丸くしたところである。
というのも先日同窓会で久々に再会した親友・川端敏三が同窓会ネタとして、最近嵌まっているものという話題をぶちあげた時のこと。最近の自分の流行りは『家事』と告げたら、絶妙に同級生達が割れた。
ええ?家事?!
という反応は同等でも、女性陣の主体の『そうそう、これからの男子は家事をするべきよね?』という反応と男性陣の殆どと僅かに女子を含んだ『ええ…………家事が趣味って……。』という残念なのを見る視線。何で家事が趣味になると、残念なものを見るようになるんだろうか?料理は楽しいし、洗濯だって楽しいし、風呂掃除だって後からついてくるご褒美を思えば…………まぁ仁聖の場合、榊恭平のために家事をしているという一面が大いにあるから楽しさ倍増なのは認めるしかないが……兎も角『家事』は楽しいのだけれども。
そして他の同窓生の半数が、置き方のテレビゲームの流行りゲームを上げたという話から流れが変わったのである。残念ながらこれまで全くゲームに興味を持ったことがない仁聖は、ゲーム自体買ったこともなければ誰かの家で眺めることはあっても触ったことすらない。だから言うまでもなく、同窓生が話しているゲームの事は全く知らないが、何となく話の中身を聞いていて大学の新しい親友である佐久間翔悟が、発売日の0時に購入したと大興奮でLINEして来たゲームの事かなと思う。
《リリアー!!!!やっぱりソックリだ!!》
そう叫ばれた記憶だけは鮮明で、そういえば以前リリアーヌ・オフェリア・フラウンフォーファーがゲームに出ている『リリア・フラウ』とか言うキャラクターソックリだと翔悟が叫んでいたのを思い出す。一度リリアに似ているって言われてどう?とは聞いたけど、当人は苦笑いだった筈だ。そう言えば最近は大学の聴講生としてキャンパスでリリアは活動しているし、モモこと宮井麻希子とも仲良くしてもらっているとか。
…………コスプレとかさせそうで怖いな……モモ達。
まぁ、そんな話は兎も角、同窓生の半数以上が一様にやっているという『ゲーム』というやつは、数年前流行ったゲームの続編らしい。一様に誰もが嵌まっているとか、やり込んでいるとワイワイと盛り上がっている。それに対してまるでゲームに知識のない仁聖は、へー……と盛り上がる話を眺めていたわけであって。そしてそのゲーム自体はやっていなくても、他の半数もゲーム機自体は持っているのが殆どなのに初めて気がついた。
…………え?もしかして、ゲーム機とか持ってるのが普通?
据え置き型ゲーム機だけでも何種類もあると聞いて、仁聖は内心でちょっと驚いてしまっていた。誰もが同じ機械で同じものをやっていて話しているんだと思い込んでいたのだが、聞いていたら別な機種とか次世代とか言い出している。しかも例えばAの機種で出ているゲームはBの機種では出来ないとか、Aの機種のゲームでもAの次世代機では出来ないとか。Aの機種とBの機種で、同じゲームのソフトが重複で発売されているとか。今度買うなら何の次世代機種とか、何のソフトは何々の機種でしか出さないとか…………
もうワケわからん!!!
しかも後半になったら今度はスマホでゲームの話しになったのだ。スマホでゲーム?いや、確かにアプリとして豊富に溢れているからゲームがあるのは知っているが、実のところ仁聖はLINE程度はするけど他のSNSはやっていない。自分のプライベートを世の中に配信する趣味は全くないし、他人の趣味とか他人のペットを眺めて楽しむ趣味もない。何となく配信動画程度は見るときはあるけど、基本的に最低限のことしかスマホでしていないのだ。それなのに置き型ゲームで遊んで、それ以外にスマホでゲーム?!!その時間、どこから捻出してるんだ?通学の間???え?そういうものなの?自分は何してるっけ?今晩の夕飯とか、買い物が必要かなとか…………え?何が普通なの?ある意味同じ年の同窓生だと言うのに酷いカルチャーショックを感じながら、流石にコイツは自分と同じだろうと思っていた宮内慶太郎を振り返ってみたら。
あ、俺もそれやってる。
そう他のアプリゲームに慶太郎が賛同したのに、仁聖は独り顔には出さなかったが愕然としたのだった。それを後日に何気なく『茶樹』で顔を合わせた年頃としては5つ上の結城晴に話したら、飛び出したのが冒頭の台詞である。聞いてみると兄と姉がいるという晴は、当然ながら子供の頃から家にはテレビゲームもあり持ち歩き出来るタイプのゲーム機もそれぞれが1台ずつ持っていたとか。後年にはそれぞれ独立して家を出たから当然ながら据え置き型も自宅に1台であり、今も家に1台あるし狭山明良と2人でやることもあるなんて言う。
「えぇ……でもテレビの前で座ってゲームって…………あんまし。」
「えー?仁聖だって、ゲーセンくらい行ったことあるだろ?家のって言ってもさ、それの延長みたいなもんだよ。」
「ゲーセン…………まぁ、いか、なくは、ないけど。」
実際のところ仁聖は声を張り上げないと会話の出来ない騒々しいあの環境が好きではなくて、高校生の辺りも今も余りゲームセンターという場所には行かなかった。勿論デートの合間にちょっとだけ女の子のご機嫌取りにU.F.O.キャッチャーなんて事くらいは男としてはあるのだけれど、正直リズムゲームやらカーレースやら何が面白いのか理解できない。促されてやってみれば普通に出来るのは出来るけれど、それで順位とかカスタマイズがどうとか、お金をかけてするものなのかなと思ってしまう。
「…………なんか、あんまり興味がなかったから…………。」
密かに独り立ちするためにお金を貯める方が優先だった仁聖としては、まるで興味がない部類だったわけである。それにスマホアプリのゲームの方もやっている暇がないと思っていたりもして、まるで興味がないわけで。そう聞くとまぁそういうのは好みの問題だしねと、良二が苦笑いしている。良二の方もどちらかと言えばゲームに興味のない人生らしくて、ゲームをする暇があったら料理をしているというから同等ということらしい。
「えー、でもさ、恋人と並んで座ってゲームってのはありじゃん?」
「ふぁ?」
恋人と並んで座って?その言葉に即座に反応した仁聖に気がついていないのか、晴は茶樹の新茶葉を使った芳しいミルクティをフウフウしながら美味しそうに啜り言う。
「時間がある時に2人で並んで座って、……それは、ありでしょ。」
それは確かに想像したことがなかった。2人で一緒に遊ぶって。これまでの恭平と仁聖には、『遊ぶ』ということに関しては余り経験がない。確かに2人で映画を観に行ったりとか、2人きりでドライブだってお泊まり旅行だってしているけれど、確かにそういうことはしたことがないのだ。
「そういうの、おうちデートっていうじゃん。」
「おうちデート!!?」
何それ?!なんか凄く楽しそう!!もう、なんかその言葉の響きだけで凄い楽しそうに聞こえてしまうのは何故だろうか?!だって『おうちデート』って何時でも出来ちゃうっとことでしょ?それって何すんの?
「おうちで2人で遊ぶってやつ?ゲームとか映画みたりとか?」
その言葉に何でか瞳を途轍もなくキラッキラさせて仁聖が前のめりになっているのに、晴は内心で『あ、ちょっと余計なことを教えちゃった気がする』と思ったのはここだけの話だ。
※※※
「それで…………なんで……家なわけ?」
そう帰宅して第一声で訝しげに問いかけたのは言うまでもないが家主の一人狭山明良で、リビングには何故か仁聖と晴だけでなく庄司陸斗がいる。そして何故か3人でテレビゲームの体勢で振り返って明良を見上げたわけだが、結果論としてゲーム機初心者の仁聖がどんなものなのか分からないで買うというのも困るだろうと晴が試しに家でやってみたら?と誘ったのだ。おまけに偶々やってきた陸斗が加わって、初心者ならこれでしょ?と某有名カートレースゲームをやり始めたということである。
某有名配管工長男がメインキャラクターで、次男の配管工や恐竜の子供みたいなの、異世界のお姫様に茸帽子の子供、亀のような魔王なんかが3頭身の姿でゴーカートに乗る、そう有名なあれだ。
「…………それはみたら分かったけど、…………しかし何でここでするのかね。」
仕事終わりの疲れを引き剥がすようにスーツを脱いで、奥から呆れ顔で戻ってきた明良の前で再戦ボタンを押しながら、何故か明良にもゲームコントローラーが投げ渡されている。
「明良は?出来んの?出来ないなら、見てても良いけどー?」
「はぁ?陸斗、お前誰に向かっていってんの?」
「ねぇ俺、これ選んで良い?さっきと同じ赤いの。」
等と一気にドタバタしているが、一応4人対戦で対戦開始。勿論陸斗の挑発に乗ったからには、明良も手を抜くつもりがないのは言うまでもない。そしてまだまだ初心者の仁聖が優先でキャラクター選択を許されるのは兎も角、他の3人は経験者ということよりも何故か張り合い本気でヤル気満々だ。
「仁聖は初心者マークでゲームに慣れるためだもんな。」
「そうそう、他の3人はガチで良いんだもんな?」
「あー?なにそのマウント?言っとくけど俺上手いよ?」
そんな風にコントローラーを握りながら牽制している様子に、あー確かに子供の時同級生達がこんな風になってたなぁ等と仁聖は懐かしく思ってしまう。こういう勝負感覚が楽しいってことなのかなぁ?等とのんびりしている内に『3……2……1……』のカウントダウンが始まる。そして『GO!』の表示と同時に激しいデッドヒートが始まったのだった。
赤やら青やら緑やらの甲羅が飛んできたり落ちていたり、バナナの皮が落ちていたり飛んできたりしてカートがスピンしたり、かと思えば茸が落ちていて突然ブーストがかかって飛び出したり。
「あぁ!!何してくれてンの!!バナナー!!」
「くっそ!甲羅!!!」
「おっしゃ!!墨!!」
何故かカートゲームだって言うのに、イカが出現し墨を吐き出して視界が暗くなる。こんな破天荒なのが楽しいってことなんだろうかと、思いながらバトルしている3人のカートをヌイヌイと避けながら先を進む。そうして結果的には仁聖がトップ通過だったりする。
「はぁぁ?!!何で1位?!」
「おかしいだろ!初心者の癖に最初っから全部1位って!!!」
「ええー?だって3人でバトルしてたから、そこ避けただけじゃん。」
そうなのである。初回の練習の時から仁聖は動体視力がいいといでもいうのかコントロール勘が良いのか、1度も負けなしの延々トップ通過だったりする。しかも4人対戦になったらなったで、他の3人が盛り上がって3人勝負を勝手に始めたわけで。それを避けてたら1位で通過しただけなのにーと何気なく言った仁聖に、3人の目の色が変わる。
「ほぉ?」
「なら、もう容赦無しでオッケーだよな?」
「そうそう、勝負事は真剣にやらないと。」
ええ?練習のためとゲーム機ってどんなものなのか教えてくれるためじゃなかったんだっけ?何でまたこんな真剣勝負の様相になってしまってるの?と問い返そうとしたのだけど、既に再び再戦ボタンは押されていて。しかも今度は、それぞれにキャラクター選択から容赦ない。
「わわ、ちょ、まって!」
「俺、コイツー!」
「えええ!」
「俺、こっちー。」
結局ワタワタしている仁聖を他所に、さっさと使い込みして慣れたキャラクターを奪い取っていく。大人げないでしょと嘆く仁聖に向かって、ニヤリと晴が笑いながら。
「今度ドンケツは、茶樹で超絶おもてなしプリンを奢る!!」
「はぁあ?!ちょっと、練習って。」
「自信がないなら、そういってもいいぞ?仁聖。」
「そしたら、許してやってもいい。」
3人からそれぞれにそう告げられて、はぁ?!と仁聖は眉を潜める。確かにゲーム機なんて物が分からないから見せて貰いたかったし、初めてで何も出来ないよりは出来た方がいい。しかも、仁聖は恭平の暮らしを知っているから、恭平もゲームの類いはしたことがないのを知っている(考えてみたら、仁聖は恭平が興味を示さないから自分も気にもかけてなかったのだ。)。だから自分が教えてあげられるなんて、ちょっといいと思ったのは事実だ。だからってこんな風に挑発されて、しかも奢れ?!はぁ?!何言ってんの?!なんかカチーンと来たんですけど?!その瞬間、スンッと仁聖の顔つきが変わったのは言うまでもない。
そう驚き半分呆れ半分で声を張り上げられて、榊仁聖はそんなに大声でいうこと?と思わず眉を潜めてしまう。言うまでもなくここは何時も何故か気がつくと誰かと集まる中心になりつつある、珈琲と紅茶の芳しい香りで溢れた『茶樹』。そして何故か常連が集まる時にはアイドルタイムなのはいうまでもないが、本日も相変わらずのアイドルタイムで松尾むつきや佐倉は休憩中。そして久保田惣一も我が子の離乳食タイムとの事で、カウンターの中には鈴徳良二がその大きな声に驚いて目を丸くしたところである。
というのも先日同窓会で久々に再会した親友・川端敏三が同窓会ネタとして、最近嵌まっているものという話題をぶちあげた時のこと。最近の自分の流行りは『家事』と告げたら、絶妙に同級生達が割れた。
ええ?家事?!
という反応は同等でも、女性陣の主体の『そうそう、これからの男子は家事をするべきよね?』という反応と男性陣の殆どと僅かに女子を含んだ『ええ…………家事が趣味って……。』という残念なのを見る視線。何で家事が趣味になると、残念なものを見るようになるんだろうか?料理は楽しいし、洗濯だって楽しいし、風呂掃除だって後からついてくるご褒美を思えば…………まぁ仁聖の場合、榊恭平のために家事をしているという一面が大いにあるから楽しさ倍増なのは認めるしかないが……兎も角『家事』は楽しいのだけれども。
そして他の同窓生の半数が、置き方のテレビゲームの流行りゲームを上げたという話から流れが変わったのである。残念ながらこれまで全くゲームに興味を持ったことがない仁聖は、ゲーム自体買ったこともなければ誰かの家で眺めることはあっても触ったことすらない。だから言うまでもなく、同窓生が話しているゲームの事は全く知らないが、何となく話の中身を聞いていて大学の新しい親友である佐久間翔悟が、発売日の0時に購入したと大興奮でLINEして来たゲームの事かなと思う。
《リリアー!!!!やっぱりソックリだ!!》
そう叫ばれた記憶だけは鮮明で、そういえば以前リリアーヌ・オフェリア・フラウンフォーファーがゲームに出ている『リリア・フラウ』とか言うキャラクターソックリだと翔悟が叫んでいたのを思い出す。一度リリアに似ているって言われてどう?とは聞いたけど、当人は苦笑いだった筈だ。そう言えば最近は大学の聴講生としてキャンパスでリリアは活動しているし、モモこと宮井麻希子とも仲良くしてもらっているとか。
…………コスプレとかさせそうで怖いな……モモ達。
まぁ、そんな話は兎も角、同窓生の半数以上が一様にやっているという『ゲーム』というやつは、数年前流行ったゲームの続編らしい。一様に誰もが嵌まっているとか、やり込んでいるとワイワイと盛り上がっている。それに対してまるでゲームに知識のない仁聖は、へー……と盛り上がる話を眺めていたわけであって。そしてそのゲーム自体はやっていなくても、他の半数もゲーム機自体は持っているのが殆どなのに初めて気がついた。
…………え?もしかして、ゲーム機とか持ってるのが普通?
据え置き型ゲーム機だけでも何種類もあると聞いて、仁聖は内心でちょっと驚いてしまっていた。誰もが同じ機械で同じものをやっていて話しているんだと思い込んでいたのだが、聞いていたら別な機種とか次世代とか言い出している。しかも例えばAの機種で出ているゲームはBの機種では出来ないとか、Aの機種のゲームでもAの次世代機では出来ないとか。Aの機種とBの機種で、同じゲームのソフトが重複で発売されているとか。今度買うなら何の次世代機種とか、何のソフトは何々の機種でしか出さないとか…………
もうワケわからん!!!
しかも後半になったら今度はスマホでゲームの話しになったのだ。スマホでゲーム?いや、確かにアプリとして豊富に溢れているからゲームがあるのは知っているが、実のところ仁聖はLINE程度はするけど他のSNSはやっていない。自分のプライベートを世の中に配信する趣味は全くないし、他人の趣味とか他人のペットを眺めて楽しむ趣味もない。何となく配信動画程度は見るときはあるけど、基本的に最低限のことしかスマホでしていないのだ。それなのに置き型ゲームで遊んで、それ以外にスマホでゲーム?!!その時間、どこから捻出してるんだ?通学の間???え?そういうものなの?自分は何してるっけ?今晩の夕飯とか、買い物が必要かなとか…………え?何が普通なの?ある意味同じ年の同窓生だと言うのに酷いカルチャーショックを感じながら、流石にコイツは自分と同じだろうと思っていた宮内慶太郎を振り返ってみたら。
あ、俺もそれやってる。
そう他のアプリゲームに慶太郎が賛同したのに、仁聖は独り顔には出さなかったが愕然としたのだった。それを後日に何気なく『茶樹』で顔を合わせた年頃としては5つ上の結城晴に話したら、飛び出したのが冒頭の台詞である。聞いてみると兄と姉がいるという晴は、当然ながら子供の頃から家にはテレビゲームもあり持ち歩き出来るタイプのゲーム機もそれぞれが1台ずつ持っていたとか。後年にはそれぞれ独立して家を出たから当然ながら据え置き型も自宅に1台であり、今も家に1台あるし狭山明良と2人でやることもあるなんて言う。
「えぇ……でもテレビの前で座ってゲームって…………あんまし。」
「えー?仁聖だって、ゲーセンくらい行ったことあるだろ?家のって言ってもさ、それの延長みたいなもんだよ。」
「ゲーセン…………まぁ、いか、なくは、ないけど。」
実際のところ仁聖は声を張り上げないと会話の出来ない騒々しいあの環境が好きではなくて、高校生の辺りも今も余りゲームセンターという場所には行かなかった。勿論デートの合間にちょっとだけ女の子のご機嫌取りにU.F.O.キャッチャーなんて事くらいは男としてはあるのだけれど、正直リズムゲームやらカーレースやら何が面白いのか理解できない。促されてやってみれば普通に出来るのは出来るけれど、それで順位とかカスタマイズがどうとか、お金をかけてするものなのかなと思ってしまう。
「…………なんか、あんまり興味がなかったから…………。」
密かに独り立ちするためにお金を貯める方が優先だった仁聖としては、まるで興味がない部類だったわけである。それにスマホアプリのゲームの方もやっている暇がないと思っていたりもして、まるで興味がないわけで。そう聞くとまぁそういうのは好みの問題だしねと、良二が苦笑いしている。良二の方もどちらかと言えばゲームに興味のない人生らしくて、ゲームをする暇があったら料理をしているというから同等ということらしい。
「えー、でもさ、恋人と並んで座ってゲームってのはありじゃん?」
「ふぁ?」
恋人と並んで座って?その言葉に即座に反応した仁聖に気がついていないのか、晴は茶樹の新茶葉を使った芳しいミルクティをフウフウしながら美味しそうに啜り言う。
「時間がある時に2人で並んで座って、……それは、ありでしょ。」
それは確かに想像したことがなかった。2人で一緒に遊ぶって。これまでの恭平と仁聖には、『遊ぶ』ということに関しては余り経験がない。確かに2人で映画を観に行ったりとか、2人きりでドライブだってお泊まり旅行だってしているけれど、確かにそういうことはしたことがないのだ。
「そういうの、おうちデートっていうじゃん。」
「おうちデート!!?」
何それ?!なんか凄く楽しそう!!もう、なんかその言葉の響きだけで凄い楽しそうに聞こえてしまうのは何故だろうか?!だって『おうちデート』って何時でも出来ちゃうっとことでしょ?それって何すんの?
「おうちで2人で遊ぶってやつ?ゲームとか映画みたりとか?」
その言葉に何でか瞳を途轍もなくキラッキラさせて仁聖が前のめりになっているのに、晴は内心で『あ、ちょっと余計なことを教えちゃった気がする』と思ったのはここだけの話だ。
※※※
「それで…………なんで……家なわけ?」
そう帰宅して第一声で訝しげに問いかけたのは言うまでもないが家主の一人狭山明良で、リビングには何故か仁聖と晴だけでなく庄司陸斗がいる。そして何故か3人でテレビゲームの体勢で振り返って明良を見上げたわけだが、結果論としてゲーム機初心者の仁聖がどんなものなのか分からないで買うというのも困るだろうと晴が試しに家でやってみたら?と誘ったのだ。おまけに偶々やってきた陸斗が加わって、初心者ならこれでしょ?と某有名カートレースゲームをやり始めたということである。
某有名配管工長男がメインキャラクターで、次男の配管工や恐竜の子供みたいなの、異世界のお姫様に茸帽子の子供、亀のような魔王なんかが3頭身の姿でゴーカートに乗る、そう有名なあれだ。
「…………それはみたら分かったけど、…………しかし何でここでするのかね。」
仕事終わりの疲れを引き剥がすようにスーツを脱いで、奥から呆れ顔で戻ってきた明良の前で再戦ボタンを押しながら、何故か明良にもゲームコントローラーが投げ渡されている。
「明良は?出来んの?出来ないなら、見てても良いけどー?」
「はぁ?陸斗、お前誰に向かっていってんの?」
「ねぇ俺、これ選んで良い?さっきと同じ赤いの。」
等と一気にドタバタしているが、一応4人対戦で対戦開始。勿論陸斗の挑発に乗ったからには、明良も手を抜くつもりがないのは言うまでもない。そしてまだまだ初心者の仁聖が優先でキャラクター選択を許されるのは兎も角、他の3人は経験者ということよりも何故か張り合い本気でヤル気満々だ。
「仁聖は初心者マークでゲームに慣れるためだもんな。」
「そうそう、他の3人はガチで良いんだもんな?」
「あー?なにそのマウント?言っとくけど俺上手いよ?」
そんな風にコントローラーを握りながら牽制している様子に、あー確かに子供の時同級生達がこんな風になってたなぁ等と仁聖は懐かしく思ってしまう。こういう勝負感覚が楽しいってことなのかなぁ?等とのんびりしている内に『3……2……1……』のカウントダウンが始まる。そして『GO!』の表示と同時に激しいデッドヒートが始まったのだった。
赤やら青やら緑やらの甲羅が飛んできたり落ちていたり、バナナの皮が落ちていたり飛んできたりしてカートがスピンしたり、かと思えば茸が落ちていて突然ブーストがかかって飛び出したり。
「あぁ!!何してくれてンの!!バナナー!!」
「くっそ!甲羅!!!」
「おっしゃ!!墨!!」
何故かカートゲームだって言うのに、イカが出現し墨を吐き出して視界が暗くなる。こんな破天荒なのが楽しいってことなんだろうかと、思いながらバトルしている3人のカートをヌイヌイと避けながら先を進む。そうして結果的には仁聖がトップ通過だったりする。
「はぁぁ?!!何で1位?!」
「おかしいだろ!初心者の癖に最初っから全部1位って!!!」
「ええー?だって3人でバトルしてたから、そこ避けただけじゃん。」
そうなのである。初回の練習の時から仁聖は動体視力がいいといでもいうのかコントロール勘が良いのか、1度も負けなしの延々トップ通過だったりする。しかも4人対戦になったらなったで、他の3人が盛り上がって3人勝負を勝手に始めたわけで。それを避けてたら1位で通過しただけなのにーと何気なく言った仁聖に、3人の目の色が変わる。
「ほぉ?」
「なら、もう容赦無しでオッケーだよな?」
「そうそう、勝負事は真剣にやらないと。」
ええ?練習のためとゲーム機ってどんなものなのか教えてくれるためじゃなかったんだっけ?何でまたこんな真剣勝負の様相になってしまってるの?と問い返そうとしたのだけど、既に再び再戦ボタンは押されていて。しかも今度は、それぞれにキャラクター選択から容赦ない。
「わわ、ちょ、まって!」
「俺、コイツー!」
「えええ!」
「俺、こっちー。」
結局ワタワタしている仁聖を他所に、さっさと使い込みして慣れたキャラクターを奪い取っていく。大人げないでしょと嘆く仁聖に向かって、ニヤリと晴が笑いながら。
「今度ドンケツは、茶樹で超絶おもてなしプリンを奢る!!」
「はぁあ?!ちょっと、練習って。」
「自信がないなら、そういってもいいぞ?仁聖。」
「そしたら、許してやってもいい。」
3人からそれぞれにそう告げられて、はぁ?!と仁聖は眉を潜める。確かにゲーム機なんて物が分からないから見せて貰いたかったし、初めてで何も出来ないよりは出来た方がいい。しかも、仁聖は恭平の暮らしを知っているから、恭平もゲームの類いはしたことがないのを知っている(考えてみたら、仁聖は恭平が興味を示さないから自分も気にもかけてなかったのだ。)。だから自分が教えてあげられるなんて、ちょっといいと思ったのは事実だ。だからってこんな風に挑発されて、しかも奢れ?!はぁ?!何言ってんの?!なんかカチーンと来たんですけど?!その瞬間、スンッと仁聖の顔つきが変わったのは言うまでもない。
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