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間章 ソノサキの合間の話
間話100.初めて……だから4
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「…………そんな、……そんなこと…………。」
そう囁き強く邑上誠の事を抱き締めた邑上悠生が、絞り出すような掠れた声で耳元に囁く。どんなに誠が奴隷として身体を投げ出してきたと知っても、女性器のようになるまで何人もの男に犯されてきたのだとしても。それでも今悠生が誠が好きだと思う気持ちは変わらないし、誠を自分のモノにしたいのも変わらない。どんなにこれ迄に誠が悪いことをして罪を重ねてきたのを知っていても、本来何もなく暮らしていれば誠があの無垢で柔らかな笑顔をした脆い人なのだと知ってしまった悠生にはもう誠を嫌うことも出来ないのだ。
「え、がお?」
「俺…………見たことなかった……誠が、あの時俺に向けてくれた笑顔…………。」
ずっと探していたのだと言わんばかりに、グシャグシャになった泣き顔に浮かべた花のような笑顔。あの時病室で記憶を失い完全にパニックになっていたのに、自分を見た時に安堵と共に浮かべた無垢な天使みたいな笑顔に悠生は激しく惹き付けられてしまった。それが喩え自分ではなく祐市に向けられたものだとしても、その笑顔に一瞬で恋に落ち誠に惚れたのは悠生自身だ。
「それだけじゃない、一緒にここで暮らして、全部…………全部好きだ……。」
誠が不自由な身体になったことなんて、悠生に言わせたら本心からどうでも良い事だった。誠が自分の傍で幸せそうに笑ってくれていたら、誠が自分だけのものになってくれたのなら。それだけが今も悠生の心を激しく突き動かしていく。男同士だということが些細なことにしか思えないくらいに、激しく強く突き動かされてしまう。
「好き。我慢なんか出来ない。誠が好き。」
「僕なんか…………。」
生きる価値がない。そんなことを言わせるしかない境遇に常に追い込まれてきた誠を、悠生はこれからどう引き留めたらいいのかは分からない。それでも初めて恋人みたいなキスをして抱き締めて、笑っていて欲しいし一緒にいたいだけ。それを何度も繰り返して伝え続ける事しか、悠生にはできないのも分かっている。
「…………一緒…………に?」
「昔…………一度……同じような、お願いしたよね。あの時は答えてくれなかった。」
実際には以前は少し違う意味だったのだけれど、確かに悠生は子供の頃にも同じような願い事を誠にしたことがある。小学生になった後に自分が誠と血が繋がっていない義理の兄弟なのだと、誠自身から淡々とした口調で告げられた時の事だ。その願いに誠は暫し黙り込み悠生を見下ろしていたが、結局その願いに対する答えは口にせず背を向けたのを覚えている。
あぁ、やっぱりこの人は自分が嫌いなんだ……
そうその背中を見つめて、哀しく思った。あれを何故誠が告げたのか今でも悠生には分からないし、あの時それを教えられた悠生は誠に嫌われいるから自分は捨てられるのだと恐怖したのを覚えている。
「俺、あの時…………誠に嫌われてて捨てられるんだって思った。」
その言葉に腕の中の誠が驚いたように勢い良くプルプルと首を横にふって、その動きでパラパラと涙が音を立てて溢れ落ちていく。あの時は聞けなかったけれど、それなら誠は何故あの時あんなことを悠生にワザワザ話したのだろう。そう顔に浮かんだのか、誠は戸惑いながら口を開く。
「あの時、お前に両親がいないのを教師から聞き出した同級生の親がいて…………市玄のことを知っている人間もいて…………下手に他の奴らから何か聞く前に話しておいた方がいいと思った。」
誠が呟くようにそう答えたので、改めて自分が養子だと言うことで傷つかないようにしようとしていたのだと気がつく。邑上市玄のことを詳しく知る人間なら、悠生が養子になった辺りはまだ市玄はギリギリ生きていたから誠のような意図で養子にされた可能性を考える人間だっていた筈だ。誠の瞳が市玄のことを思い出したせいなのか、僅かに揺れ理性を取り戻そうとするように周囲に戸惑いの視線を巡らせていく。それでもまだ何かスイッチが切り替わったままらしい誠の唇からは、昔の誠の声が淀みなく滑り落ちている。
「僕にお前を捨てる気なんかある筈ない。僕はただ…………お前を幸せに………しよ…………と。」
それはこれ迄には聞いたことのない誠の偽りのない本心だと分かって、悠生は息を飲んでしまう。悠生は誠からずっと嫌われていたのだと思い続けていて、誠は自分を邪魔して傷つけてばかりの存在なのだと思い込んできた。それでもここで改めて2人で暮らすうち、誠は実は不器用なだけで本当は自分を守ろうとしていただけなのではないかとも密かに考え始めていたのは事実だ。何しろ悠生には確かに両親はいなかったけれど、これ迄何も苦労らしい苦労をせずに育ってきたのだから。そうして、今こうして誠の本心を知った悠生には、あの時と同じ願い事を今度は立場を変えて願うしかない。
「ただ僕は悠生が…………大事…………で。」
「誠。」
遮られた声にパチパチと何度か瞬きをした誠が、やっと我に返ったみたいに真っ直ぐに悠生のことを見つめる。その視線が戻ってきたら再び言葉が遮られたみたいに言葉を失った誠に、悠生は顔を近づけ覗き込むようにして問いかけた。
「誠は俺の事好きだよね?」
その問いかけに普段のように頬を染めてしまう誠を見つめて、悠生は苦く微笑みかけソッと頬を両手で包み込む。可哀想な境遇に追い込まれ、それに慣らされ過ぎて常識の何もかもを奪われてしまった誠。その癖悠生のことを実は何よりも大事にしてくれて、自分なりに必死に育てようとしてくれていた人。その事実があるのを悠生もこれで理解したけれど。同時に本来の自分を取り戻そうとしている誠は混乱もしているに違いない。
「俺は本当に誠が好き。」
「だ、から……っ。」
「好きだから、俺だけ…………俺の誠になって?いい?許してくれる?」
自分のモノに。昔に悠生がお願いだから誠の傍に居させてと願ったのと同じ意味だけれど、今度は悠生がではなく誠が自分のモノになって傍にいてと願う。
ねぇ……お願い…………いい?許してくれる?
昔の言葉と重なるのか悠生の言葉に、クシャと誠の取り繕おうとしていた表情が崩れ落ちていく。どんなにこれは違うと否定しようとしても、悠生との行為を受け入れ始めた誠自身が、それに気がつき始めていた筈だ。誠が育ててきたのだから、悠生が自分とは全く違う立場で全く違う価値観の中で育っていたのを誠はちゃんと知っている。悠生の生きる世界の中には誠のような奴隷は何処にもいないし、悠生には誰かを傷つけようという意図すらない。
「そんな…………僕は…………。」
無理と言おうとしても、本心が透けてしまう。悠生が誠を『好き』と告げればそれは本当に誠を『好き』なのであって、悠生が誠を『愛している』と告げれば本当に誠を『愛して』しまっているのだ。それが分かっているから、もう答えは言わなくても分かっている。悠生もそれが分かっているから、まるで擽るみたいな視線で誠を見つめていて身体が震えてしまう。
どうしよう……こんな…………
悠生の熱っぽい視線で舐めるように見られるだけで、滅茶苦茶に身体の隅から隅までグチャグチャに犯されてしまっているみたいに感じている。視線だけでジンジンと誠の身体の芯が疼いているのを、悠生は誠が言葉にしなくても知っているとしか思えない。
「俺に、愛されるの…………いいでしょ?」
そう熱を含んで耳元に囁く甘い言葉を、誠にはもう否定できない。良くなかったら良くないと即答できるし、拒絶するならとっくに出来ていることなのだ。出来ないのは、自分がそれを受け入れていて、本心では自ら受け入れたがっているからだと分かってもいる。絡めとられ愛されて蕩けさせられるのを誠は本当は望んでいて、その相手が悠生なのを本心では喜んでしまっていた。自分が大事に育ててきた唯一の存在に、全力で全てを奪い取り愛されてしまうのに本心は誠は歓喜している。
「愛してる、誠。」
その言葉に腕の中で身をすくませてしまう誠を、悠生は宝物のように抱き寄せ耳元に唇を近づけてくる。悠生の唇がピチャピチャと淫らな音を立てて誠の耳朶を愛撫して、抱き締められた腰を引き付ける大きな悠生の手が熱い。
「もう俺にだけ喘いで、俺だけに泣かされて。…………全部俺だけのモノになって。」
「ひぁんっ!」
腰を離した悠生の指にピンッと再び立ち上がりつつある陰茎を弾かれ、甘い悲鳴が溢れ落ちてしまう。悠生にしゃぶられ悠生の唾液にまみれたままの自分の陰茎が、悠生の舌で刺激された鈴口から滴を滲ませ滑りにチリチリと熱を含んだみたいになっている。
「また、ここ、舐めて欲しい?」
指先に淫らに濡れた先端をつつきまわされて、耳朶を舐めながら囁かれるのに快楽に弱い身体が疼き眩暈がする。それを認めたら、誠は身体の奥底に痺れるような快感の重さを感じてしまっていた。そこを何度も何度も悠生の怒張で突き上げ擦り立てられて、激しくて甘い快楽に酔わされてしまう。それを思うとどうしようもなく渇望が襲ってきて誠の視線は、自然と悠生の顔を懇願の熱を宿して見上げてしまうのに誠自身はまだ気がつかない。
「舐めて欲しい……?誠。」
そうじゃないと思わず頭を振ってみせる誠に、ユルリと身体をベットに押し倒して悠生が柔らかな声で笑う。こういうところは悠生は父親そっくりなんだと今更ながらに彼の魅惑的な笑顔を見上げながら思う。それでも父親よりも遥かに惹き付けられ命令に背けなくなる笑みを浮かべて低く響くような声で問いかけられると、誠は何も抵抗できなくなってしまう。
「何が欲しい?」
自分から強請るように仕向けられていると分かっても、魅了されてしまった誠には逆らう気力すら湧かないのだ。震える手で自ら脚を開いてみせる自分が、どんな風に見えているのか。そんなのは悠生の視線を見れば説明なんかされなくても分かる。
「そこ、突かれるの本当に好きだな、誠は。」
微笑みながらそういわれるのに、羞恥心で頬が熱くなる。それでもツツッと悠生の指先に入り口を軽く擦られるのだけで、その先を期待して無意識に喉が仰け反り甘い声をあげてしまう。その姿に少しだけ不機嫌そうな声で、悠生が低く呟く。
「…………他の男にも…………あんな可愛くアンアン泣いてたの?誠は。」
「ちがう…………そこ、は、お前だけ。」
自分をあんな底知れない快楽に押し上げたのが、実は本当にこれ迄はいなくて悠生が初めてなのだ。言葉での説明は難しいけれど、あんな風に固く熱いもので奥を掻き回してきたのは悠生だけ。本当は初めてあんな風になったのだとここで伝えてしまったら、悠生はどんな顔をするのだろうとボンヤリと思う。それでも誠の言葉を聞いた悠生は、少し身体を乗り出してきて。
「俺だけ?本当に?奥までしたの、ほんと?」
何でか心を見透かされているみたいに悠生が目を丸くしてそんなことを問いかけてくるのに、もう誠は諦めるしかないと素直に頬を染めて俯き加減に頷くしかない。これまで誠が奴隷として身体を投げ出したのは年寄りやら半萎えの同じ立場の奴隷だったりしたのだから、こんな風に上り詰めさせられ続ける経験は初めてだ。そう辿々しく呟く誠に見る間に目の前の悠生の顔が真っ赤に染まっていく。あぁこれ普段は自分がなっているのだろうなぁとボンヤリ思いながら見上げていると、目の前で悠生は赤くなるのと同時に欲望にまみれた獣の色気を漂わせていく。
「そんな、ヤバい…………したいっ。したくなるよ……そんなの、聞いたら。」
ドロドロと熱を含む視線に射抜かれ誠には拒絶なんて出来る筈もないのに、悠生ときたらそんなことを今さら言う。根本まで杭を打ち込み激しく奥底を突き上げての絶頂を悠生から教えられて、それをここで拒絶なんかしても無駄なことだ。
「いまさら…………なに、いってるんだか…………。」
「はぁ?……誠がそれ言う?最初から言えば良かったじゃない、こんなの初めてだって。」
「…………いえない、ばか。」
頬を染めてそう呟く誠に、ウズウズとした顔で悠生は音を立てて服を脱ぎ捨てていく。それを眺めながら身体は欲望の灯を点していて、奥に悠生の固さと熱を打ち込み腹の奥を激しく掻き回して欲しがっているのを感じてしまう。悠生の精を腹の底に注ぎ込んで思う存分に愛して泣かせて欲しい、そう誠もずっと思っている。
「……ほ、しい?誠。」
「…………ぅ…………ん、ほし、い。おく、かきま、わして。」
もう悠生には何も隠せないのなら、誠には素直に大人しく本心を答えるしかない。本当は沢山して欲しいし愛してると言って抱いて欲しい。もっと抱き締めて口付けて、沢山奥に精液を注いで貰いたいと思っている。愛されてしまうのがこんなに気持ち良いなんて、本当にこれ迄は誠だって知らなかったのだ。だから悠生に恋人にするみたいにして欲しかったし、悠生には自分を必要だといって貰いたかった。
「うん、何回でもする。それに沢山愛してるし、俺には誠が必要だからね?俺の誠なんだから。」
幸せそうに悠生が微笑み、心の中を見透かした答えを悠生から全て囁かれる。それに誠は再び止めどなく溢れ出した涙を感じながらも、悠生を自らに迎え入れるために脚を自ら左右に大きく開いてみせていた。それに間を置かずに悠生が身体を押し付けるようにして上にのし掛かり股間に悠生自身の熱を感じるのに、誠は幸せそうにウットリとした顔で全てを迎えいれていた。
そう囁き強く邑上誠の事を抱き締めた邑上悠生が、絞り出すような掠れた声で耳元に囁く。どんなに誠が奴隷として身体を投げ出してきたと知っても、女性器のようになるまで何人もの男に犯されてきたのだとしても。それでも今悠生が誠が好きだと思う気持ちは変わらないし、誠を自分のモノにしたいのも変わらない。どんなにこれ迄に誠が悪いことをして罪を重ねてきたのを知っていても、本来何もなく暮らしていれば誠があの無垢で柔らかな笑顔をした脆い人なのだと知ってしまった悠生にはもう誠を嫌うことも出来ないのだ。
「え、がお?」
「俺…………見たことなかった……誠が、あの時俺に向けてくれた笑顔…………。」
ずっと探していたのだと言わんばかりに、グシャグシャになった泣き顔に浮かべた花のような笑顔。あの時病室で記憶を失い完全にパニックになっていたのに、自分を見た時に安堵と共に浮かべた無垢な天使みたいな笑顔に悠生は激しく惹き付けられてしまった。それが喩え自分ではなく祐市に向けられたものだとしても、その笑顔に一瞬で恋に落ち誠に惚れたのは悠生自身だ。
「それだけじゃない、一緒にここで暮らして、全部…………全部好きだ……。」
誠が不自由な身体になったことなんて、悠生に言わせたら本心からどうでも良い事だった。誠が自分の傍で幸せそうに笑ってくれていたら、誠が自分だけのものになってくれたのなら。それだけが今も悠生の心を激しく突き動かしていく。男同士だということが些細なことにしか思えないくらいに、激しく強く突き動かされてしまう。
「好き。我慢なんか出来ない。誠が好き。」
「僕なんか…………。」
生きる価値がない。そんなことを言わせるしかない境遇に常に追い込まれてきた誠を、悠生はこれからどう引き留めたらいいのかは分からない。それでも初めて恋人みたいなキスをして抱き締めて、笑っていて欲しいし一緒にいたいだけ。それを何度も繰り返して伝え続ける事しか、悠生にはできないのも分かっている。
「…………一緒…………に?」
「昔…………一度……同じような、お願いしたよね。あの時は答えてくれなかった。」
実際には以前は少し違う意味だったのだけれど、確かに悠生は子供の頃にも同じような願い事を誠にしたことがある。小学生になった後に自分が誠と血が繋がっていない義理の兄弟なのだと、誠自身から淡々とした口調で告げられた時の事だ。その願いに誠は暫し黙り込み悠生を見下ろしていたが、結局その願いに対する答えは口にせず背を向けたのを覚えている。
あぁ、やっぱりこの人は自分が嫌いなんだ……
そうその背中を見つめて、哀しく思った。あれを何故誠が告げたのか今でも悠生には分からないし、あの時それを教えられた悠生は誠に嫌われいるから自分は捨てられるのだと恐怖したのを覚えている。
「俺、あの時…………誠に嫌われてて捨てられるんだって思った。」
その言葉に腕の中の誠が驚いたように勢い良くプルプルと首を横にふって、その動きでパラパラと涙が音を立てて溢れ落ちていく。あの時は聞けなかったけれど、それなら誠は何故あの時あんなことを悠生にワザワザ話したのだろう。そう顔に浮かんだのか、誠は戸惑いながら口を開く。
「あの時、お前に両親がいないのを教師から聞き出した同級生の親がいて…………市玄のことを知っている人間もいて…………下手に他の奴らから何か聞く前に話しておいた方がいいと思った。」
誠が呟くようにそう答えたので、改めて自分が養子だと言うことで傷つかないようにしようとしていたのだと気がつく。邑上市玄のことを詳しく知る人間なら、悠生が養子になった辺りはまだ市玄はギリギリ生きていたから誠のような意図で養子にされた可能性を考える人間だっていた筈だ。誠の瞳が市玄のことを思い出したせいなのか、僅かに揺れ理性を取り戻そうとするように周囲に戸惑いの視線を巡らせていく。それでもまだ何かスイッチが切り替わったままらしい誠の唇からは、昔の誠の声が淀みなく滑り落ちている。
「僕にお前を捨てる気なんかある筈ない。僕はただ…………お前を幸せに………しよ…………と。」
それはこれ迄には聞いたことのない誠の偽りのない本心だと分かって、悠生は息を飲んでしまう。悠生は誠からずっと嫌われていたのだと思い続けていて、誠は自分を邪魔して傷つけてばかりの存在なのだと思い込んできた。それでもここで改めて2人で暮らすうち、誠は実は不器用なだけで本当は自分を守ろうとしていただけなのではないかとも密かに考え始めていたのは事実だ。何しろ悠生には確かに両親はいなかったけれど、これ迄何も苦労らしい苦労をせずに育ってきたのだから。そうして、今こうして誠の本心を知った悠生には、あの時と同じ願い事を今度は立場を変えて願うしかない。
「ただ僕は悠生が…………大事…………で。」
「誠。」
遮られた声にパチパチと何度か瞬きをした誠が、やっと我に返ったみたいに真っ直ぐに悠生のことを見つめる。その視線が戻ってきたら再び言葉が遮られたみたいに言葉を失った誠に、悠生は顔を近づけ覗き込むようにして問いかけた。
「誠は俺の事好きだよね?」
その問いかけに普段のように頬を染めてしまう誠を見つめて、悠生は苦く微笑みかけソッと頬を両手で包み込む。可哀想な境遇に追い込まれ、それに慣らされ過ぎて常識の何もかもを奪われてしまった誠。その癖悠生のことを実は何よりも大事にしてくれて、自分なりに必死に育てようとしてくれていた人。その事実があるのを悠生もこれで理解したけれど。同時に本来の自分を取り戻そうとしている誠は混乱もしているに違いない。
「俺は本当に誠が好き。」
「だ、から……っ。」
「好きだから、俺だけ…………俺の誠になって?いい?許してくれる?」
自分のモノに。昔に悠生がお願いだから誠の傍に居させてと願ったのと同じ意味だけれど、今度は悠生がではなく誠が自分のモノになって傍にいてと願う。
ねぇ……お願い…………いい?許してくれる?
昔の言葉と重なるのか悠生の言葉に、クシャと誠の取り繕おうとしていた表情が崩れ落ちていく。どんなにこれは違うと否定しようとしても、悠生との行為を受け入れ始めた誠自身が、それに気がつき始めていた筈だ。誠が育ててきたのだから、悠生が自分とは全く違う立場で全く違う価値観の中で育っていたのを誠はちゃんと知っている。悠生の生きる世界の中には誠のような奴隷は何処にもいないし、悠生には誰かを傷つけようという意図すらない。
「そんな…………僕は…………。」
無理と言おうとしても、本心が透けてしまう。悠生が誠を『好き』と告げればそれは本当に誠を『好き』なのであって、悠生が誠を『愛している』と告げれば本当に誠を『愛して』しまっているのだ。それが分かっているから、もう答えは言わなくても分かっている。悠生もそれが分かっているから、まるで擽るみたいな視線で誠を見つめていて身体が震えてしまう。
どうしよう……こんな…………
悠生の熱っぽい視線で舐めるように見られるだけで、滅茶苦茶に身体の隅から隅までグチャグチャに犯されてしまっているみたいに感じている。視線だけでジンジンと誠の身体の芯が疼いているのを、悠生は誠が言葉にしなくても知っているとしか思えない。
「俺に、愛されるの…………いいでしょ?」
そう熱を含んで耳元に囁く甘い言葉を、誠にはもう否定できない。良くなかったら良くないと即答できるし、拒絶するならとっくに出来ていることなのだ。出来ないのは、自分がそれを受け入れていて、本心では自ら受け入れたがっているからだと分かってもいる。絡めとられ愛されて蕩けさせられるのを誠は本当は望んでいて、その相手が悠生なのを本心では喜んでしまっていた。自分が大事に育ててきた唯一の存在に、全力で全てを奪い取り愛されてしまうのに本心は誠は歓喜している。
「愛してる、誠。」
その言葉に腕の中で身をすくませてしまう誠を、悠生は宝物のように抱き寄せ耳元に唇を近づけてくる。悠生の唇がピチャピチャと淫らな音を立てて誠の耳朶を愛撫して、抱き締められた腰を引き付ける大きな悠生の手が熱い。
「もう俺にだけ喘いで、俺だけに泣かされて。…………全部俺だけのモノになって。」
「ひぁんっ!」
腰を離した悠生の指にピンッと再び立ち上がりつつある陰茎を弾かれ、甘い悲鳴が溢れ落ちてしまう。悠生にしゃぶられ悠生の唾液にまみれたままの自分の陰茎が、悠生の舌で刺激された鈴口から滴を滲ませ滑りにチリチリと熱を含んだみたいになっている。
「また、ここ、舐めて欲しい?」
指先に淫らに濡れた先端をつつきまわされて、耳朶を舐めながら囁かれるのに快楽に弱い身体が疼き眩暈がする。それを認めたら、誠は身体の奥底に痺れるような快感の重さを感じてしまっていた。そこを何度も何度も悠生の怒張で突き上げ擦り立てられて、激しくて甘い快楽に酔わされてしまう。それを思うとどうしようもなく渇望が襲ってきて誠の視線は、自然と悠生の顔を懇願の熱を宿して見上げてしまうのに誠自身はまだ気がつかない。
「舐めて欲しい……?誠。」
そうじゃないと思わず頭を振ってみせる誠に、ユルリと身体をベットに押し倒して悠生が柔らかな声で笑う。こういうところは悠生は父親そっくりなんだと今更ながらに彼の魅惑的な笑顔を見上げながら思う。それでも父親よりも遥かに惹き付けられ命令に背けなくなる笑みを浮かべて低く響くような声で問いかけられると、誠は何も抵抗できなくなってしまう。
「何が欲しい?」
自分から強請るように仕向けられていると分かっても、魅了されてしまった誠には逆らう気力すら湧かないのだ。震える手で自ら脚を開いてみせる自分が、どんな風に見えているのか。そんなのは悠生の視線を見れば説明なんかされなくても分かる。
「そこ、突かれるの本当に好きだな、誠は。」
微笑みながらそういわれるのに、羞恥心で頬が熱くなる。それでもツツッと悠生の指先に入り口を軽く擦られるのだけで、その先を期待して無意識に喉が仰け反り甘い声をあげてしまう。その姿に少しだけ不機嫌そうな声で、悠生が低く呟く。
「…………他の男にも…………あんな可愛くアンアン泣いてたの?誠は。」
「ちがう…………そこ、は、お前だけ。」
自分をあんな底知れない快楽に押し上げたのが、実は本当にこれ迄はいなくて悠生が初めてなのだ。言葉での説明は難しいけれど、あんな風に固く熱いもので奥を掻き回してきたのは悠生だけ。本当は初めてあんな風になったのだとここで伝えてしまったら、悠生はどんな顔をするのだろうとボンヤリと思う。それでも誠の言葉を聞いた悠生は、少し身体を乗り出してきて。
「俺だけ?本当に?奥までしたの、ほんと?」
何でか心を見透かされているみたいに悠生が目を丸くしてそんなことを問いかけてくるのに、もう誠は諦めるしかないと素直に頬を染めて俯き加減に頷くしかない。これまで誠が奴隷として身体を投げ出したのは年寄りやら半萎えの同じ立場の奴隷だったりしたのだから、こんな風に上り詰めさせられ続ける経験は初めてだ。そう辿々しく呟く誠に見る間に目の前の悠生の顔が真っ赤に染まっていく。あぁこれ普段は自分がなっているのだろうなぁとボンヤリ思いながら見上げていると、目の前で悠生は赤くなるのと同時に欲望にまみれた獣の色気を漂わせていく。
「そんな、ヤバい…………したいっ。したくなるよ……そんなの、聞いたら。」
ドロドロと熱を含む視線に射抜かれ誠には拒絶なんて出来る筈もないのに、悠生ときたらそんなことを今さら言う。根本まで杭を打ち込み激しく奥底を突き上げての絶頂を悠生から教えられて、それをここで拒絶なんかしても無駄なことだ。
「いまさら…………なに、いってるんだか…………。」
「はぁ?……誠がそれ言う?最初から言えば良かったじゃない、こんなの初めてだって。」
「…………いえない、ばか。」
頬を染めてそう呟く誠に、ウズウズとした顔で悠生は音を立てて服を脱ぎ捨てていく。それを眺めながら身体は欲望の灯を点していて、奥に悠生の固さと熱を打ち込み腹の奥を激しく掻き回して欲しがっているのを感じてしまう。悠生の精を腹の底に注ぎ込んで思う存分に愛して泣かせて欲しい、そう誠もずっと思っている。
「……ほ、しい?誠。」
「…………ぅ…………ん、ほし、い。おく、かきま、わして。」
もう悠生には何も隠せないのなら、誠には素直に大人しく本心を答えるしかない。本当は沢山して欲しいし愛してると言って抱いて欲しい。もっと抱き締めて口付けて、沢山奥に精液を注いで貰いたいと思っている。愛されてしまうのがこんなに気持ち良いなんて、本当にこれ迄は誠だって知らなかったのだ。だから悠生に恋人にするみたいにして欲しかったし、悠生には自分を必要だといって貰いたかった。
「うん、何回でもする。それに沢山愛してるし、俺には誠が必要だからね?俺の誠なんだから。」
幸せそうに悠生が微笑み、心の中を見透かした答えを悠生から全て囁かれる。それに誠は再び止めどなく溢れ出した涙を感じながらも、悠生を自らに迎え入れるために脚を自ら左右に大きく開いてみせていた。それに間を置かずに悠生が身体を押し付けるようにして上にのし掛かり股間に悠生自身の熱を感じるのに、誠は幸せそうにウットリとした顔で全てを迎えいれていた。
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