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間章 ソノサキの合間の話
間話89.悲しい恋の行方13
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もう…………限界…………っ
そう邑上誠が頭の中で呟き欲望に折れそうになっているのは、祐市が何度も何度も蕩けるようなキスを繰り返すようになってしまったからだ。何しろ何度も何度も繰り返される羞恥プレイのようなキスの承諾に、芯まで蕩けさせられるようなキス。これまでとの関係性とは、まるで違う。これまで2人の間にあったのは緊縛や苦しむ程の快楽の調教であって、こんな優しくて甘くむず痒くなるような初心な恋人同士のやり取りなんかじゃない。
そう!!一体何の羞恥プレイなんだ!!これはっ!
これまでどんなに誠が頼んでも祐市はキスは絶対にしないと拒絶して、一度もしたことなかった癖にと思わず叫びたくなる。
祐市は自分とは真逆の男だった。祐市と言う人間は、常に穏和に微笑みながら行動する男なのだ。どんなに残酷で酷いことを相手にしていても、祐市は常に微笑んでいた。でもその微笑みは常に一定で感情に揺らぐことがないもので、それ自体が祐市が市玄に虐げられ続けて作り上げてきた仮面なのだと誠もよく知っている。
笑顔の仮面
作り込まれた祐市の生きるための仮面。祐市自身はそれ程直に市玄の慰み者になったことはないけれど、ある一定の年を過ぎてからは市玄の代役として誰かを虐げることを市玄から強いられるようになっていた。と言うのも次第に年老いて体力を失っていく市玄には、欲望はあっても体力が追い付かない。そうなると自分の代役に自分が望む行動をとらせて、先ずは楽しむことを好むようになってしまったのだ。その代役の白羽の矢が当たったのは他でもない祐市で、若い頃から余り造形としては美しいと言いがたかった市玄にしてみたら祐市は顔も身体も理想像だったのだろう。
つまりは市玄は祐市にそれをさせることで、自分がしている気分に浸っていたと言うわけだ。どんなにやりたくないことでも望んでやっているという顔をしていないとならない祐市が、常に仮面の笑顔を張り付けて生きるしかなくなってしまったのは誠にも分からないでもない。でも、もう市玄がいないのだから祐市が作り物の仮面を外して、行動も自由になったのは理解した。
理解はしたけれど、なんでこうなったのだ。
何故か頻繁に『好きだ』と囁かれるようになり、甘いキスを強請られて。結局頷くしかないのは、誠自身が祐市にされることが嫌ではないからだし、元々誠は祐市のことが心底好きだったから。それにしたって祐市に他に好きな女がいたのを知っているし、その女に自分が画策して酷いことをしたのも知っている。その祐市が自分を『好き』だなんて、何をどうどこで間違ったのだろう。
していい?
そう強請られて甘いキスを頻繁に繰り返されて、最近の誠の身体の中には常に熾火のような欲望がチリチリと燃え盛っていた。何しろ熾火が消える間もなく新たにキスは降ってくるし、『好き』だと低く囁くように繰り返されてしまう。それらには全く免疫がないことに、ここでの毎日で日常的にさらされ続けすぎている。大体にして、誠は日々着替えから風呂まで全て手を借りて生きている時点で、これまでの祐市がしていた誠の扱いとは天と地程の差があるというのに。しかも、しかもだ!
「にぃ、さん。あの…………。」
「うん、おやすみ、誠。また明日ね。」
祐市ときたらキスだけで満足したというかのように、誠から身体を離して柔らかな満足げな笑顔でそう言う始末。それに誠は制止する訳にも行かず先を強請る術もないのだから、誠は素直に『御休みなさい』と上目遣いに見つめて告げるしかない。待ってと言ってしまえば簡単なのかもしれないけれど、その先に誠は祐市に何と言えばいいのか。何をしてと言うのは承諾されるのかも分からないし、祐市が何をどこまで求めてくれるかも想像できない。そして誠がキスでこんなにも欲情しているなんて思いもしない祐市は、幼い子供を寝かしつけるみたいにポンポンと胸元を叩いて微笑むとスッと迷うことなく部屋から姿を消すのだ。
どうしたらいいんだ…………
闇の中で悶々としながら、自分の身体の中の激しい欲望を感じる。ところが未だに手が上手く動かせない状態の誠には、自分では思うように欲望を解消するための自慰もままならない。身体を労られ栄養をつけるように甲斐甲斐しく常に世話をされていると言うのに、どうしようもないこの溜まっていく欲望だけをスルーされ放置され続けているのだ。
駄目、もう、駄目。
ズリ……と不自由な手で何とか服を乱してみても、力を込めてそれを握ることも出来ないし、どうにか刺激しようにも熱くなって滑る先端を刺激も出来ない。もしこんな姿を祐市に見られたらとは思うけれど、もう始めてしまったらどうしようも出来ないのと分かっているし、もうここまで来たら欲望を隠しようもないのは分かっている。何しろ幾ら頭が動かなくなったとしても誠の身体は成熟して快楽を刻み込まれているのだし、こんなに焦れて焦れて気持ちいいことが欲しくて仕方がない。
「うっ…………ぅう。」
その苦悩めいた呻き声が、隣の部屋の祐市に聞こえない筈がなかった。
※※※
狡いことだと分かっていたけれど若い欲望に負けてキスを重ねるうちに、腕の中の反応が明らかに変化していくのに邑上悠生も気がついていた。最初は全身を強張らせて戸惑いを露にしていた誠は、次第に少しずつ悠生の身体に縋りつくように変わり、キスを待つような仕草さえ浮かべていく。
キスに慣れて快感を感じているのだとしか思えない。
トロリと快感に蕩けて潤んだ瞳で悠生のことを見上げ、続きを強請るような表情をしているとすら時には思う。ここのところの誠はキスを終えるとホンノリ上気させた頬に微かに息を荒げながら、そっと悠生の服を握り縋りつくように身体を寄せている。そのいじらしく可愛らしい姿にそのまま押し倒して襲ってしまいそうになるのを、何度グッと飲み込みこらえたことか。
そしてその夜もホゥ……と甘い吐息を溢してキスを終えた誠の色気の滲む潤んだ顔に、悠生は理性を総動員させておやすみと告げたのだ。そして大人しく自室に引きこもり悶々とした欲望を握りしめたのは言うまでもないけれど、普段と違ったのは何となく壁越しの誠が寝ている気配がない気がする。自分の吐き出した欲望の白濁を始末しながら、普段ならクウクウと寝息に耳を澄ますのだけどまるで息を詰めているみたいに気配が違う。
…………もしかして、また悪い夢でも見てるのかな…………
ここのところ誠はすっかり悪夢は見なくなっていたが、この家に来たばかりの頃は毎晩のように引き付けを起こすんじゃないかと思うようだった。息を詰めて身体を強張らせ身を縮めている誠を、悠生は抱き締めて『大丈夫、それは夢だよ、もうあいつはこないから』と繰り返し言い聞かせ続けて。そのお陰でなのか誠は数日もすると魘される事もなくなって、今度はしがみつかれて寝ている方が悠生にとって限界となったのは言うまでもない。何しろすっかり安堵して必死に悠生にしがみつきクウクウ眠る誠は、とんでもない破壊力の可愛らしさだったのだ。だから『これからは一人で寝ようね』と宣言し距離を置くしかなくなってしまったのだけれど、ここのところその境界線は途轍もなく危うい。
それは悠生が直に好きだと宣言して、誠にキスをするようになったからだ。
『祐市』だと思われていても当にその男は死んでいて、触れて『好きだ』と繰り返しキスをしているのは悠生なのだ。キスに慣れていなかった誠の様子は、きっと祐市とはキスは余りしてないのだと思っている。だから、あの反応は悠生だけのもので、悠生がしているから誠はあんな風に蕩けるのだ。
「うっ…………ぅう…………。」
考えを遮る苦悩の呻き声に、悠生は弾かれたように立ち上がり真っ直ぐに扉を開け放っていた。
「誠。」
魘されているの?と扉の中に向けて問いかけようとした言葉が、喉の奥でそのまま凍る。目の前にあったのは、薄靄のように月明かりにホンノリ照らされたけぶる、淫らでしかも艶やかな光景。
ベットの上の華奢で晒された滑らかな肢体に、乱された夜具。前開きのパジャマは幾つかだけボタンで止められ、肩から滑り落ちた袖を腕に残した程度しか身体に触れていない。やっと最近肉がつきはじめて以前のように肋が露骨に浮かなくなったが、その分幾つか薄い傷跡を模様のように浮かせる真っ白でしっとりとした陶器のような艶のある肌。視界にチカチカと瞬くように艶姿に晒している誠は、戸惑いに目元を真っ赤に染めてウルウルと泣き出しそうになりながら瞳で息を荒げて悠生を真っ直ぐに見上げている。そしてその身体の真ん中には赤く張り詰めて下折立つ華奢でツルリとした怒張が、先端からトロリと蜜を溢れさせていた。
誰かに襲われた…………訳じゃない…………
当然だがこの家には誠が知らない防犯センサーは多数ある。しかだがないのだ、何しろ誠自身は記憶がなくても、誠が持っている情報を隠したい人間は山のようにいる。だからこそ藤咲の知り合いでその点では信じられる相手という人から、悠生はこの家をかったのだ。それが何の反応もしていないのだから、誰かが来て襲われて……ということではない。
「に、……さぁ…………。」
潤んだ瞳で震える声に懇願するように呼ばれて、逆に少しだけど(完全に冷静になんて出来る筈がない、好きな人がこんなに淫らな格好で自分を必死に懇願しているのに冷静になれる男が世の中にいるだろうか。)頭が冷静に冷えたのが分かる。
目の前でぎこちなく動かそうとして思う通りに出来ない指先の様子からも、誠が溜まりきった欲望を自分で何とかしようとして出来なかったのだろう。
そうだった……誠は特に手がうまく使えない…………
食事をするのに橋が持てないし、朝の運動をしてやらないと自分の顔を拭くのにも倍以上時間がかかる。その誠が自分で欲望を解消しようとしても恐らくは上手くいかないのは言われなくても……だ。
薔薇色に染まった頬でハクハクと喘ぐような荒い吐息を溢す誠は、自分の身体を一瞬戸惑いながら見下ろし、どうしようもないと諦めたように潤んだ視線をあげる。誤魔化そうにも既に誤魔化しきれない程切羽詰まってしまっていて、自分で無理なら悠生に何とかしてもらわないとならない。
ベットに歩みよる自分から逃げ出そうともせず縋りつくように見上げて興奮の掠れた吐息を上げている誠に、ギシリと二人が乗るには小さなベットを軋ませて膝をつく。
「誠……、辛い?」
「う、つら……ぃ、にぃ、さ……も、ぼく……っ。」
切なく甘く強請る声に、喉の奥が奇妙な音を立てる。そっと手を伸ばして薔薇色の頬に触れれば、慾望に熱をもった肌が指先に吸い付くみたいに感じてしまう。ヒクヒクと微かに戦く綺麗な陰茎に手を伸ばすのを、潤んで濡れた瞳が焦がれているみたいに見つめている。
「んっ!うっ!!んんっ!」
先端を握り込みユックリと回すように擦る指先の動きに、誠は大きな甘い声をあげて腰が淫らに揺れ始めていた。自分自身で出来なかった刺激に誠の指が震えながら、悠生の胸元に縋り熱い身体を押し付けてくる。
「や、ぅ、うう!それ、んんっんぅ!!」
「これじゃ、いや?どんな風にされるのがいい?誠?」
淫らに左右に大きく開かれていく細い脚の合間に身体を挟み込み、誠の興奮の証を音を立てて擦り立てていく。数ヶ月の入院の間意識を失っていたのもあるし、まるで身体を動かしていなかったのもある。それが少しずつここで暮らしているうちに回復したからこそ、こんな風に性欲も取り戻しつつあるのだとは思う。心のどこかでキスをし始めてから、こういう風にいつか誠が追い詰められていくんじゃないかと悠生自身思っていた気がする。
狡いよな…………
誠がこういう風に我慢が出来なくなるように仕向けて、自分から求めてくるように。そう意識していたわけではないけれど、結果としてはそうなるように悠生の方が計画的に動いていたようにも思えてしまう。それでも指で扱き上げられる快楽に身悶え、縋りつく誠は淫らで扇情的で悠生の興奮を煽る。
「ふぁあ、あ、もっとお、あ、あぁ!つよ、くぅ!」
きつく握り擦り上げられて誠が腰をひくつかせ先端から熱い白濁を吹き出すまで、それ程の時間はかからない。絶頂に達して息を荒げている誠の芯が緩み柔らかくなった陰茎から、スルリと悠生が指を離すのに誠は戸惑いながら頭を振っていた。
「や、ぁも、と、にぃさ、も…………、と、ゆ…………ぅ、……ち、もっと。」
全身を奮わせながら既に達しきった筈の誠が、ユルリと脚を大きく開いて見せる。ホンノリと上気した淫らに白濁の蜜に濡れた股間をさらけ出し、誠が更に何を強請っているのか分からない悠生は戸惑う。それをどうとらえたのか誠は泣き出しそうになりながら、ズルッと身体を崩れ落として悠生の腹の辺りを動きの悪い指でまさぐる。
……っ、まさか…………っ
そう邑上誠が頭の中で呟き欲望に折れそうになっているのは、祐市が何度も何度も蕩けるようなキスを繰り返すようになってしまったからだ。何しろ何度も何度も繰り返される羞恥プレイのようなキスの承諾に、芯まで蕩けさせられるようなキス。これまでとの関係性とは、まるで違う。これまで2人の間にあったのは緊縛や苦しむ程の快楽の調教であって、こんな優しくて甘くむず痒くなるような初心な恋人同士のやり取りなんかじゃない。
そう!!一体何の羞恥プレイなんだ!!これはっ!
これまでどんなに誠が頼んでも祐市はキスは絶対にしないと拒絶して、一度もしたことなかった癖にと思わず叫びたくなる。
祐市は自分とは真逆の男だった。祐市と言う人間は、常に穏和に微笑みながら行動する男なのだ。どんなに残酷で酷いことを相手にしていても、祐市は常に微笑んでいた。でもその微笑みは常に一定で感情に揺らぐことがないもので、それ自体が祐市が市玄に虐げられ続けて作り上げてきた仮面なのだと誠もよく知っている。
笑顔の仮面
作り込まれた祐市の生きるための仮面。祐市自身はそれ程直に市玄の慰み者になったことはないけれど、ある一定の年を過ぎてからは市玄の代役として誰かを虐げることを市玄から強いられるようになっていた。と言うのも次第に年老いて体力を失っていく市玄には、欲望はあっても体力が追い付かない。そうなると自分の代役に自分が望む行動をとらせて、先ずは楽しむことを好むようになってしまったのだ。その代役の白羽の矢が当たったのは他でもない祐市で、若い頃から余り造形としては美しいと言いがたかった市玄にしてみたら祐市は顔も身体も理想像だったのだろう。
つまりは市玄は祐市にそれをさせることで、自分がしている気分に浸っていたと言うわけだ。どんなにやりたくないことでも望んでやっているという顔をしていないとならない祐市が、常に仮面の笑顔を張り付けて生きるしかなくなってしまったのは誠にも分からないでもない。でも、もう市玄がいないのだから祐市が作り物の仮面を外して、行動も自由になったのは理解した。
理解はしたけれど、なんでこうなったのだ。
何故か頻繁に『好きだ』と囁かれるようになり、甘いキスを強請られて。結局頷くしかないのは、誠自身が祐市にされることが嫌ではないからだし、元々誠は祐市のことが心底好きだったから。それにしたって祐市に他に好きな女がいたのを知っているし、その女に自分が画策して酷いことをしたのも知っている。その祐市が自分を『好き』だなんて、何をどうどこで間違ったのだろう。
していい?
そう強請られて甘いキスを頻繁に繰り返されて、最近の誠の身体の中には常に熾火のような欲望がチリチリと燃え盛っていた。何しろ熾火が消える間もなく新たにキスは降ってくるし、『好き』だと低く囁くように繰り返されてしまう。それらには全く免疫がないことに、ここでの毎日で日常的にさらされ続けすぎている。大体にして、誠は日々着替えから風呂まで全て手を借りて生きている時点で、これまでの祐市がしていた誠の扱いとは天と地程の差があるというのに。しかも、しかもだ!
「にぃ、さん。あの…………。」
「うん、おやすみ、誠。また明日ね。」
祐市ときたらキスだけで満足したというかのように、誠から身体を離して柔らかな満足げな笑顔でそう言う始末。それに誠は制止する訳にも行かず先を強請る術もないのだから、誠は素直に『御休みなさい』と上目遣いに見つめて告げるしかない。待ってと言ってしまえば簡単なのかもしれないけれど、その先に誠は祐市に何と言えばいいのか。何をしてと言うのは承諾されるのかも分からないし、祐市が何をどこまで求めてくれるかも想像できない。そして誠がキスでこんなにも欲情しているなんて思いもしない祐市は、幼い子供を寝かしつけるみたいにポンポンと胸元を叩いて微笑むとスッと迷うことなく部屋から姿を消すのだ。
どうしたらいいんだ…………
闇の中で悶々としながら、自分の身体の中の激しい欲望を感じる。ところが未だに手が上手く動かせない状態の誠には、自分では思うように欲望を解消するための自慰もままならない。身体を労られ栄養をつけるように甲斐甲斐しく常に世話をされていると言うのに、どうしようもないこの溜まっていく欲望だけをスルーされ放置され続けているのだ。
駄目、もう、駄目。
ズリ……と不自由な手で何とか服を乱してみても、力を込めてそれを握ることも出来ないし、どうにか刺激しようにも熱くなって滑る先端を刺激も出来ない。もしこんな姿を祐市に見られたらとは思うけれど、もう始めてしまったらどうしようも出来ないのと分かっているし、もうここまで来たら欲望を隠しようもないのは分かっている。何しろ幾ら頭が動かなくなったとしても誠の身体は成熟して快楽を刻み込まれているのだし、こんなに焦れて焦れて気持ちいいことが欲しくて仕方がない。
「うっ…………ぅう。」
その苦悩めいた呻き声が、隣の部屋の祐市に聞こえない筈がなかった。
※※※
狡いことだと分かっていたけれど若い欲望に負けてキスを重ねるうちに、腕の中の反応が明らかに変化していくのに邑上悠生も気がついていた。最初は全身を強張らせて戸惑いを露にしていた誠は、次第に少しずつ悠生の身体に縋りつくように変わり、キスを待つような仕草さえ浮かべていく。
キスに慣れて快感を感じているのだとしか思えない。
トロリと快感に蕩けて潤んだ瞳で悠生のことを見上げ、続きを強請るような表情をしているとすら時には思う。ここのところの誠はキスを終えるとホンノリ上気させた頬に微かに息を荒げながら、そっと悠生の服を握り縋りつくように身体を寄せている。そのいじらしく可愛らしい姿にそのまま押し倒して襲ってしまいそうになるのを、何度グッと飲み込みこらえたことか。
そしてその夜もホゥ……と甘い吐息を溢してキスを終えた誠の色気の滲む潤んだ顔に、悠生は理性を総動員させておやすみと告げたのだ。そして大人しく自室に引きこもり悶々とした欲望を握りしめたのは言うまでもないけれど、普段と違ったのは何となく壁越しの誠が寝ている気配がない気がする。自分の吐き出した欲望の白濁を始末しながら、普段ならクウクウと寝息に耳を澄ますのだけどまるで息を詰めているみたいに気配が違う。
…………もしかして、また悪い夢でも見てるのかな…………
ここのところ誠はすっかり悪夢は見なくなっていたが、この家に来たばかりの頃は毎晩のように引き付けを起こすんじゃないかと思うようだった。息を詰めて身体を強張らせ身を縮めている誠を、悠生は抱き締めて『大丈夫、それは夢だよ、もうあいつはこないから』と繰り返し言い聞かせ続けて。そのお陰でなのか誠は数日もすると魘される事もなくなって、今度はしがみつかれて寝ている方が悠生にとって限界となったのは言うまでもない。何しろすっかり安堵して必死に悠生にしがみつきクウクウ眠る誠は、とんでもない破壊力の可愛らしさだったのだ。だから『これからは一人で寝ようね』と宣言し距離を置くしかなくなってしまったのだけれど、ここのところその境界線は途轍もなく危うい。
それは悠生が直に好きだと宣言して、誠にキスをするようになったからだ。
『祐市』だと思われていても当にその男は死んでいて、触れて『好きだ』と繰り返しキスをしているのは悠生なのだ。キスに慣れていなかった誠の様子は、きっと祐市とはキスは余りしてないのだと思っている。だから、あの反応は悠生だけのもので、悠生がしているから誠はあんな風に蕩けるのだ。
「うっ…………ぅう…………。」
考えを遮る苦悩の呻き声に、悠生は弾かれたように立ち上がり真っ直ぐに扉を開け放っていた。
「誠。」
魘されているの?と扉の中に向けて問いかけようとした言葉が、喉の奥でそのまま凍る。目の前にあったのは、薄靄のように月明かりにホンノリ照らされたけぶる、淫らでしかも艶やかな光景。
ベットの上の華奢で晒された滑らかな肢体に、乱された夜具。前開きのパジャマは幾つかだけボタンで止められ、肩から滑り落ちた袖を腕に残した程度しか身体に触れていない。やっと最近肉がつきはじめて以前のように肋が露骨に浮かなくなったが、その分幾つか薄い傷跡を模様のように浮かせる真っ白でしっとりとした陶器のような艶のある肌。視界にチカチカと瞬くように艶姿に晒している誠は、戸惑いに目元を真っ赤に染めてウルウルと泣き出しそうになりながら瞳で息を荒げて悠生を真っ直ぐに見上げている。そしてその身体の真ん中には赤く張り詰めて下折立つ華奢でツルリとした怒張が、先端からトロリと蜜を溢れさせていた。
誰かに襲われた…………訳じゃない…………
当然だがこの家には誠が知らない防犯センサーは多数ある。しかだがないのだ、何しろ誠自身は記憶がなくても、誠が持っている情報を隠したい人間は山のようにいる。だからこそ藤咲の知り合いでその点では信じられる相手という人から、悠生はこの家をかったのだ。それが何の反応もしていないのだから、誰かが来て襲われて……ということではない。
「に、……さぁ…………。」
潤んだ瞳で震える声に懇願するように呼ばれて、逆に少しだけど(完全に冷静になんて出来る筈がない、好きな人がこんなに淫らな格好で自分を必死に懇願しているのに冷静になれる男が世の中にいるだろうか。)頭が冷静に冷えたのが分かる。
目の前でぎこちなく動かそうとして思う通りに出来ない指先の様子からも、誠が溜まりきった欲望を自分で何とかしようとして出来なかったのだろう。
そうだった……誠は特に手がうまく使えない…………
食事をするのに橋が持てないし、朝の運動をしてやらないと自分の顔を拭くのにも倍以上時間がかかる。その誠が自分で欲望を解消しようとしても恐らくは上手くいかないのは言われなくても……だ。
薔薇色に染まった頬でハクハクと喘ぐような荒い吐息を溢す誠は、自分の身体を一瞬戸惑いながら見下ろし、どうしようもないと諦めたように潤んだ視線をあげる。誤魔化そうにも既に誤魔化しきれない程切羽詰まってしまっていて、自分で無理なら悠生に何とかしてもらわないとならない。
ベットに歩みよる自分から逃げ出そうともせず縋りつくように見上げて興奮の掠れた吐息を上げている誠に、ギシリと二人が乗るには小さなベットを軋ませて膝をつく。
「誠……、辛い?」
「う、つら……ぃ、にぃ、さ……も、ぼく……っ。」
切なく甘く強請る声に、喉の奥が奇妙な音を立てる。そっと手を伸ばして薔薇色の頬に触れれば、慾望に熱をもった肌が指先に吸い付くみたいに感じてしまう。ヒクヒクと微かに戦く綺麗な陰茎に手を伸ばすのを、潤んで濡れた瞳が焦がれているみたいに見つめている。
「んっ!うっ!!んんっ!」
先端を握り込みユックリと回すように擦る指先の動きに、誠は大きな甘い声をあげて腰が淫らに揺れ始めていた。自分自身で出来なかった刺激に誠の指が震えながら、悠生の胸元に縋り熱い身体を押し付けてくる。
「や、ぅ、うう!それ、んんっんぅ!!」
「これじゃ、いや?どんな風にされるのがいい?誠?」
淫らに左右に大きく開かれていく細い脚の合間に身体を挟み込み、誠の興奮の証を音を立てて擦り立てていく。数ヶ月の入院の間意識を失っていたのもあるし、まるで身体を動かしていなかったのもある。それが少しずつここで暮らしているうちに回復したからこそ、こんな風に性欲も取り戻しつつあるのだとは思う。心のどこかでキスをし始めてから、こういう風にいつか誠が追い詰められていくんじゃないかと悠生自身思っていた気がする。
狡いよな…………
誠がこういう風に我慢が出来なくなるように仕向けて、自分から求めてくるように。そう意識していたわけではないけれど、結果としてはそうなるように悠生の方が計画的に動いていたようにも思えてしまう。それでも指で扱き上げられる快楽に身悶え、縋りつく誠は淫らで扇情的で悠生の興奮を煽る。
「ふぁあ、あ、もっとお、あ、あぁ!つよ、くぅ!」
きつく握り擦り上げられて誠が腰をひくつかせ先端から熱い白濁を吹き出すまで、それ程の時間はかからない。絶頂に達して息を荒げている誠の芯が緩み柔らかくなった陰茎から、スルリと悠生が指を離すのに誠は戸惑いながら頭を振っていた。
「や、ぁも、と、にぃさ、も…………、と、ゆ…………ぅ、……ち、もっと。」
全身を奮わせながら既に達しきった筈の誠が、ユルリと脚を大きく開いて見せる。ホンノリと上気した淫らに白濁の蜜に濡れた股間をさらけ出し、誠が更に何を強請っているのか分からない悠生は戸惑う。それをどうとらえたのか誠は泣き出しそうになりながら、ズルッと身体を崩れ落として悠生の腹の辺りを動きの悪い指でまさぐる。
……っ、まさか…………っ
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