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間章 ソノサキの合間の話
間話68.仕方がない2
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「で?………………何でここにいるわけ?」
冷え冷えとした凍りつく不機嫌な声で低く言いはなったのは、この部屋の主である片割れ狭山明良。その目の前にはもう一人の部屋の主である結城晴と一緒に当人のお土産だろう最近『超絶おもてなしプリン』と近郊で称される『茶樹のシェフ特性プリン』を当然な顔でパクついている庄司陸斗がいる。そう、言うまでもないがここは狭山明良と結城晴の愛の巣であって、2人の閨の睦言に堪えきれないからと賑やかに居候生活を陸斗が脱却したのは既に数週間前のことだ。
「え?プリン食べてるから?ね?晴。」
いや、お前そんな呑気な性格じゃなかったよな?!そうあからさまに明良が言葉ではなく目で言っているけれども、警察という立派な公僕の鎖から解き放たれた陸斗は現在自らの新しい人生設計を模索中だと言わんばかり長閑な顔である。そうして2人で仲良くソファーに寛ぎ、横でプリンに感動している晴の顔を覗き込む。
「美味しい物って幸せだよねー?晴ー?」
「うん、超旨い!産まれてからこんなの食ったことない!!」
晴がプリンの小瓶からすくい取った1匙を口にして、文字通りフォォ!!と旨さの感動に打ち震えているのは途轍もなく可愛い。小動物とか幼子のように微笑ましく可愛いのだが、相変わらず晴に全くもって危機感の『き』の字もないのには明良も苦い顔をするしかないでいる。一応陸斗は微妙ではあるが2人の恋敵宣言を突きつけているのだし、晴に1度不埒な行動もしている超が付く危険人物なのだ。それが何でか帰宅して2人で並んで呑気にプリンを食べながら、笑顔で『おかえりなさい』なんて言う有り様である。
「はぁーる?」
明良がこうして真っ黒な笑顔で微笑みかけている理由が全くもって分かっていない晴は、プリンを片手にポカンとしている。いや、それより骨折が治癒したので独り暮らしに戻った筈の陸斗が、足繁くここに遊びに来るのは如何なものか。そう陸斗は2人の閨の睦言に堪えきれないから出て行ったが、同時に晴と同じ仕事場に行っている。それにも関わらず、休みの日にはここにもお土産持参で頻繁に訪れるようになっているのだ。
…………でもさ?明良と仲良くなりたいって理由だと、俺も断れないし
独りの時は家に入れちゃダメと口を酸っぱくして説得する明良に、可愛らしく指をウニウニさせながら晴が上目遣いでそう答えたのには唖然とする。どうやら陸斗は晴に、これ迄誰も仲を取り持てなかった幼馴染み達の関係を改善するため力を貸して?と強請ったらしい。
何を今さら言うか
そう思うのは、そういう前提になる要素すら明良には見えないからである。何しろこれ迄1度として幼馴染みとして仲良くした記憶がない上に、関係を構築する必要性すら感じていない。しかも明良が素直にそう答えたら、……何となくそうなると薄々は分かってはいた、分かってはいたのだが…………晴は俄然幼馴染みの関係性の改善にやる気になってしまった。
「狙いは外崎さんだろ…………向こうにちょっかい出せよ…………。」
苦々しく明良がそう吐き捨てると、何故か陸斗ではなく晴の方が『そんなの絶対無理だよ』なんて笑う。それには流石に陸斗も不思議に感じたみたいで、プリンを当たり前みたいに明良に差し出して首を傾げる。当然仕事場として外崎邸に通うようになった陸斗も、外崎宏太と外崎了の仲睦まじい様子は度々見るだろう。それでも『絶対無理』の宣言には、世の中を知れば知るほど絶対なんてないと思う世界なので当然の問いかけかもしれない。
「了にちょっかいなんか出したら、即廃人にされるよ?」
「は?」
「…………流石にそれは過大評価じゃない?晴ーぅ。」
外崎宏太が異様なハイスペックなことは陸斗もここ数週間で十分な程理解しているが、元警察官としてはそんな器用な事が簡単に一般人に出来ることではないと思う。そう口にする陸斗に向かって晴は当然みたいに、プリンを口に運びながら無理だよと繰り返す。
「でも外崎さんは無理でも、了さんなら話は別だろ?」
「それこそ手をだそうなんて考えただけで、察知されるよ?しゃちょーに。」
「はは、スゴい評価高い。」
「違うって、実体験だよ。俺前の仕事辞めたの、それが理由だもん。」
「「は?」」
以前明良としては手も足も出ない程コテンパンにされたこともあるが、それは個人的な話であって仕事に関わることではない。しかも当然みたいに晴が口にしたのは、これ迄明良は全く知りもしない事だった。
というか、晴って何で仕事辞めたんだっけ?
あの時は確か高橋至と口論になったとかならないとか。そんな記憶はうっすらあるのだけれど、実際には当時はまだ晴とこんな関係になるとは思っていなかったから気にもかけていなかった。詳細は流石に口にしない。でも、まるで直に何か見て経験したように断言する晴に、何故か背筋がヒヤリとする陸斗の横でプリンをパコッと開けながら後で必ず聞こうと密かに決心する明良がいたのだった。
※※※
お願いと了が囁いた続きの言葉は、とんでもない破壊力だったと記憶を反芻して宏太が考えたのは仕方がない。何しろ腕の中で身を縮めるようにしてお願いと懇願した了の声はハッキリ言うが破格の可愛らしさの上に、桁違いに色っぽく淫らだった。
………もういっかぃ………乳首……………してぇ。
嫌だと自らが訴えたのは事実だけれど、その快楽に抗えなかった……とその声は見るまでもなく如実に雄弁に語っていた。でもある意味ではその言葉は宏太の想定の範囲の中にあった言葉でもあって、それに続いた言葉の方が実は宏太には腹の底にドスンと衝撃を投げつけたのだ。
…………それで、…………キス嵌め……して…………
お前、何処ででそんな言葉を覚えてきた?!と了を問い詰めたくなるくらい、淫らで可愛い震える声でのお強請り。そんな凶悪で一撃必殺の破壊力をもつ了のお強請りに、一度は冷静になろうと勤めた筈の宏太の理性が簡単に権利を放棄する。
止めろと言われても無理だ
生来の性質は実はサディストではないようだと、宏太自身が自分のことを今では思っている事は秘密である。何度も言うがあの若い頃のSMを試してみようという激しい渇望は、自分が何か感情を揺らすことがないのかと探していた一端に過ぎなかったのだ。結果論としてはそれのお陰で巡りめぐって了に出会えた訳だから感謝はするが、とはいえ必要でないことを無理にする必然性はない。なので了が望まなければ、SMをする必要性はないわけで。普通に愛撫するだけで了は可愛くトロトロに蕩けてしまうのだから、宏太は常に満たされるし何も問題ない。
それでもだ。
宏太にだって男の本能として、大切な相手を完全に支配したいという雄の欲望があるのは否めない。そして了の震える懇願の声は、宏太の欲望をなおのこと掻き立ててきて獣のように身体を突き動かす。
普段から自分のすることで、可愛く喘ぐのだけでもとんでもなく可愛いんだぞ?
しかもあの声で気持ちいい、もっとなんて甘え声で強請られて自分に支配されたいなんて訴えてこられたら。僅かでも冷静でいろと言う方が無理難題だ。自分が利己的な欲望で了を籠の鳥よろしく、調教して自分の腕の中に捕らえようとしていたのは何とか持ちこたえ我慢した。が、了から強請られてしまった後半戦は、もう全くもって宏太には理性の片鱗すらなかった。
両乳首をクリップで責められる痛みで苦悩を含んだ了の喘ぎは、とんでもなく可愛くて仕方がない。しかもその喘ぎすら自らの唇で奪いながら嵌めて欲しいなんて、それは理性がとんでも仕方ないのだ。
…………ヤバい…………これは駄目だ、可愛い……可愛過ぎる
途中うっすらと頭の中で、自分がそう呟いたのは分かってる。直に奥に熱を注ぎ込まれ、その熱に浮かされて酩酊している了の唇の中。一際熱く滑る舌を吸われて舌で擦られ、了の身体はいきっぱなしになっているようで全身が細かくビクビクと痙攣を続けている。苦手な筈の背後から突き入れても完璧に極まり尽くしているせいで、仰け反り締め付け掠れた声を溢すだけ。
これ以上は危険だぞ?
それでも口付けて欲しいのか身体を捩り身悶える了に暴走にブレーキをかけようとする理性が、それまでの活動を放棄していたとは言え全く働か無かったわけではないと言い訳だけは一応しておく。それでも項にゾロリと舌を這わされた了が、可愛い声を上げたのに宏太はもう一度理性をかなぐり捨ててやる。
「可愛い。了……可愛い。さとる、俺の、了。」
身体を再びゴロリと転がされ天井を向かせて脚を担ぐと、一端怒張の抜け落ちてしまった淫らな了の穴から宏太の精液が吹き出す淫らな水音が響く。それすら今の了には分かっていないのは、ハヒュッと少ない酸素を補充しようとする過換気めいた呼吸音しか了の口からは出てこないからだ。それでも再び乳首を責められながら、唇を塞がれ更に貫かれ続けた了は完全に自分の物だった。
「うぅっ、く、ふっう、うぅっ!」
しかも了はその後も全く制止する気配がない。それに加えて自分首に腕を絡め縋りつき、もっとやって、もっと激しく奪ってと熱烈に宏太を誘う。それをどうやって拒絶なんかするというのだ。誰よりも愛しくて焦がれて全てを奪いたいと願っているのに、そんな相手に対してあえて拒絶の選択なんかを悠長に考えられる人間がいるなら是非教えてもらいたい。出きるもんなら少し位身体のために自制心を身に付けるべきだとは思うが、その選択は無理にもほどがあるだろう?何しろ宏太にとって出来ることさっさとなら、今すぐそうしてしまいたくて仕方がない日々なのだから。
堪らん…………今すぐ…………全部……
天使のような可愛さで、小悪魔みたいに淫らで。そんな文字通りの蠱惑的な行動にどんなに振り回されているのだろう。出来ることなら今すぐこの無意味な視神経ごと抜き変え、移植でも何でもいいから目が見えるようにして了の艶姿を見たい。淫らに蕩けきった可愛い了を、この網膜に焼き付けてしまいたいのに。
見たい、お前の乱れる姿が…………
それでもそうできない宏太には、了が願うなら何でも叶えてやるしか出来ない。それに願い通りキスしながら、激しく嵌め続けるくらい大したことでもない訳で。そう言う意味では、これ迄に培ってきた古武術の身体能力には心底感謝する。
「うぅっう……くぅうう!!!うー……っ!!!」
その結果はここで言うまでもないだろうけれど、あっという間に了は凄まじい絶頂に痙攣した後一気に身体を弛緩させて崩れ落ちていた。そのまま宏太も間をおかずに達して奥にタップリと注ぎ込んだは良いが、締め付けはさておき抵抗力を失った身体に一瞬何が起きたか理解できないくらいには宏太が慌てたのは言うまでもない。
「了?さとる。さとるっ。」
グッタリした身体を抱き寄せ頬を撫でながら、名前を必死に繰り返し呼び続ける。何度も指を滑らせその瞳が閉じられているのを探り、呼吸を確認するのに冷静になれと頭の中で繰り返す。やがてこれ迄の多数の経験の成果か、了が絶頂で完全に失神したのだと判断するのはできた。
いやな経験値だな…………全く…………
苦い思いではあるけれど、獣の快感と欲望に負けたのは言うまでもない自分である。その身体を労るように玩具なんか取り外して柔らかな夜具で丁寧にくるみつつ、無意識に抱き寄せ繰り返し繰り返し呼吸を肌で確かめていた。
キスで酸欠になってたろうし、……何度もいっていたから余計だ
まともに喘ぐことも出来ないように口付けられながら、何度も絶頂に上り詰め続けたのだからこの結果は想定内の筈だ。そう頭の中で自分に言い聞かせ続ける。それでも了が確り目を覚ますまでは宏太も気が気でなく、何度も抱きかかえたまま頬を撫でてあやすように声をかけてしまう。
「了…………、さとる…………。」
余りにも長い時間気を失っているのなら、誰か状態を確認できる人間を呼び出す事も出来なくない。が、なるべくなら、そう言う手段は使いたくないのだ。いや、自分が仕出かした事を隠蔽したいのではなく、この腕の中の色っぽい了の艶姿を晒すのは絶対に避けたい。自分が無茶苦茶をしたのは分かっているが、この可愛い姿を自分が絶対に見られないのに他人に見せるなんて勿体なくて宏太がやりきれないからだ。
「ん…………、ぅ……。」
そんな事を思案していたら吐息のような呼気が了の胸の奥から大きく深く吐き出されて、ホンノリと肌に熱が吹き付けられていた。トロリと蕩けた吐息はやがて規則的な呼吸のリズムを取り戻して、目が覚めたのか頬に触れる宏太の手にスリ……と頬がすり寄る。
「さとる……?」
「こ、………………ぉた……ぁ?」
熱を含む吐息の中で弱く自分の名前を囁く声に、何故か胸の底がキシキシと軋み震える気がした。嫌われたくないのに欲望を押さえ込むことが出来ない自分を、了が恐れたりしたらと思わないわけではない。そうチラリの頭で考えた宏太の頬に、フワリと力のない了の指が触れる。
「こぉ、た。」
砂糖菓子みたいに柔らかくて甘い声が名前を呼び、ソッと唇に触れ優しい口付けをしてくる。そうしてそのまま頬擦りするように了が甘える仕草で、名前をもう一度呼ぶのを宏太はじっと身動ぎもせず聞いていたのだった。
冷え冷えとした凍りつく不機嫌な声で低く言いはなったのは、この部屋の主である片割れ狭山明良。その目の前にはもう一人の部屋の主である結城晴と一緒に当人のお土産だろう最近『超絶おもてなしプリン』と近郊で称される『茶樹のシェフ特性プリン』を当然な顔でパクついている庄司陸斗がいる。そう、言うまでもないがここは狭山明良と結城晴の愛の巣であって、2人の閨の睦言に堪えきれないからと賑やかに居候生活を陸斗が脱却したのは既に数週間前のことだ。
「え?プリン食べてるから?ね?晴。」
いや、お前そんな呑気な性格じゃなかったよな?!そうあからさまに明良が言葉ではなく目で言っているけれども、警察という立派な公僕の鎖から解き放たれた陸斗は現在自らの新しい人生設計を模索中だと言わんばかり長閑な顔である。そうして2人で仲良くソファーに寛ぎ、横でプリンに感動している晴の顔を覗き込む。
「美味しい物って幸せだよねー?晴ー?」
「うん、超旨い!産まれてからこんなの食ったことない!!」
晴がプリンの小瓶からすくい取った1匙を口にして、文字通りフォォ!!と旨さの感動に打ち震えているのは途轍もなく可愛い。小動物とか幼子のように微笑ましく可愛いのだが、相変わらず晴に全くもって危機感の『き』の字もないのには明良も苦い顔をするしかないでいる。一応陸斗は微妙ではあるが2人の恋敵宣言を突きつけているのだし、晴に1度不埒な行動もしている超が付く危険人物なのだ。それが何でか帰宅して2人で並んで呑気にプリンを食べながら、笑顔で『おかえりなさい』なんて言う有り様である。
「はぁーる?」
明良がこうして真っ黒な笑顔で微笑みかけている理由が全くもって分かっていない晴は、プリンを片手にポカンとしている。いや、それより骨折が治癒したので独り暮らしに戻った筈の陸斗が、足繁くここに遊びに来るのは如何なものか。そう陸斗は2人の閨の睦言に堪えきれないから出て行ったが、同時に晴と同じ仕事場に行っている。それにも関わらず、休みの日にはここにもお土産持参で頻繁に訪れるようになっているのだ。
…………でもさ?明良と仲良くなりたいって理由だと、俺も断れないし
独りの時は家に入れちゃダメと口を酸っぱくして説得する明良に、可愛らしく指をウニウニさせながら晴が上目遣いでそう答えたのには唖然とする。どうやら陸斗は晴に、これ迄誰も仲を取り持てなかった幼馴染み達の関係を改善するため力を貸して?と強請ったらしい。
何を今さら言うか
そう思うのは、そういう前提になる要素すら明良には見えないからである。何しろこれ迄1度として幼馴染みとして仲良くした記憶がない上に、関係を構築する必要性すら感じていない。しかも明良が素直にそう答えたら、……何となくそうなると薄々は分かってはいた、分かってはいたのだが…………晴は俄然幼馴染みの関係性の改善にやる気になってしまった。
「狙いは外崎さんだろ…………向こうにちょっかい出せよ…………。」
苦々しく明良がそう吐き捨てると、何故か陸斗ではなく晴の方が『そんなの絶対無理だよ』なんて笑う。それには流石に陸斗も不思議に感じたみたいで、プリンを当たり前みたいに明良に差し出して首を傾げる。当然仕事場として外崎邸に通うようになった陸斗も、外崎宏太と外崎了の仲睦まじい様子は度々見るだろう。それでも『絶対無理』の宣言には、世の中を知れば知るほど絶対なんてないと思う世界なので当然の問いかけかもしれない。
「了にちょっかいなんか出したら、即廃人にされるよ?」
「は?」
「…………流石にそれは過大評価じゃない?晴ーぅ。」
外崎宏太が異様なハイスペックなことは陸斗もここ数週間で十分な程理解しているが、元警察官としてはそんな器用な事が簡単に一般人に出来ることではないと思う。そう口にする陸斗に向かって晴は当然みたいに、プリンを口に運びながら無理だよと繰り返す。
「でも外崎さんは無理でも、了さんなら話は別だろ?」
「それこそ手をだそうなんて考えただけで、察知されるよ?しゃちょーに。」
「はは、スゴい評価高い。」
「違うって、実体験だよ。俺前の仕事辞めたの、それが理由だもん。」
「「は?」」
以前明良としては手も足も出ない程コテンパンにされたこともあるが、それは個人的な話であって仕事に関わることではない。しかも当然みたいに晴が口にしたのは、これ迄明良は全く知りもしない事だった。
というか、晴って何で仕事辞めたんだっけ?
あの時は確か高橋至と口論になったとかならないとか。そんな記憶はうっすらあるのだけれど、実際には当時はまだ晴とこんな関係になるとは思っていなかったから気にもかけていなかった。詳細は流石に口にしない。でも、まるで直に何か見て経験したように断言する晴に、何故か背筋がヒヤリとする陸斗の横でプリンをパコッと開けながら後で必ず聞こうと密かに決心する明良がいたのだった。
※※※
お願いと了が囁いた続きの言葉は、とんでもない破壊力だったと記憶を反芻して宏太が考えたのは仕方がない。何しろ腕の中で身を縮めるようにしてお願いと懇願した了の声はハッキリ言うが破格の可愛らしさの上に、桁違いに色っぽく淫らだった。
………もういっかぃ………乳首……………してぇ。
嫌だと自らが訴えたのは事実だけれど、その快楽に抗えなかった……とその声は見るまでもなく如実に雄弁に語っていた。でもある意味ではその言葉は宏太の想定の範囲の中にあった言葉でもあって、それに続いた言葉の方が実は宏太には腹の底にドスンと衝撃を投げつけたのだ。
…………それで、…………キス嵌め……して…………
お前、何処ででそんな言葉を覚えてきた?!と了を問い詰めたくなるくらい、淫らで可愛い震える声でのお強請り。そんな凶悪で一撃必殺の破壊力をもつ了のお強請りに、一度は冷静になろうと勤めた筈の宏太の理性が簡単に権利を放棄する。
止めろと言われても無理だ
生来の性質は実はサディストではないようだと、宏太自身が自分のことを今では思っている事は秘密である。何度も言うがあの若い頃のSMを試してみようという激しい渇望は、自分が何か感情を揺らすことがないのかと探していた一端に過ぎなかったのだ。結果論としてはそれのお陰で巡りめぐって了に出会えた訳だから感謝はするが、とはいえ必要でないことを無理にする必然性はない。なので了が望まなければ、SMをする必要性はないわけで。普通に愛撫するだけで了は可愛くトロトロに蕩けてしまうのだから、宏太は常に満たされるし何も問題ない。
それでもだ。
宏太にだって男の本能として、大切な相手を完全に支配したいという雄の欲望があるのは否めない。そして了の震える懇願の声は、宏太の欲望をなおのこと掻き立ててきて獣のように身体を突き動かす。
普段から自分のすることで、可愛く喘ぐのだけでもとんでもなく可愛いんだぞ?
しかもあの声で気持ちいい、もっとなんて甘え声で強請られて自分に支配されたいなんて訴えてこられたら。僅かでも冷静でいろと言う方が無理難題だ。自分が利己的な欲望で了を籠の鳥よろしく、調教して自分の腕の中に捕らえようとしていたのは何とか持ちこたえ我慢した。が、了から強請られてしまった後半戦は、もう全くもって宏太には理性の片鱗すらなかった。
両乳首をクリップで責められる痛みで苦悩を含んだ了の喘ぎは、とんでもなく可愛くて仕方がない。しかもその喘ぎすら自らの唇で奪いながら嵌めて欲しいなんて、それは理性がとんでも仕方ないのだ。
…………ヤバい…………これは駄目だ、可愛い……可愛過ぎる
途中うっすらと頭の中で、自分がそう呟いたのは分かってる。直に奥に熱を注ぎ込まれ、その熱に浮かされて酩酊している了の唇の中。一際熱く滑る舌を吸われて舌で擦られ、了の身体はいきっぱなしになっているようで全身が細かくビクビクと痙攣を続けている。苦手な筈の背後から突き入れても完璧に極まり尽くしているせいで、仰け反り締め付け掠れた声を溢すだけ。
これ以上は危険だぞ?
それでも口付けて欲しいのか身体を捩り身悶える了に暴走にブレーキをかけようとする理性が、それまでの活動を放棄していたとは言え全く働か無かったわけではないと言い訳だけは一応しておく。それでも項にゾロリと舌を這わされた了が、可愛い声を上げたのに宏太はもう一度理性をかなぐり捨ててやる。
「可愛い。了……可愛い。さとる、俺の、了。」
身体を再びゴロリと転がされ天井を向かせて脚を担ぐと、一端怒張の抜け落ちてしまった淫らな了の穴から宏太の精液が吹き出す淫らな水音が響く。それすら今の了には分かっていないのは、ハヒュッと少ない酸素を補充しようとする過換気めいた呼吸音しか了の口からは出てこないからだ。それでも再び乳首を責められながら、唇を塞がれ更に貫かれ続けた了は完全に自分の物だった。
「うぅっ、く、ふっう、うぅっ!」
しかも了はその後も全く制止する気配がない。それに加えて自分首に腕を絡め縋りつき、もっとやって、もっと激しく奪ってと熱烈に宏太を誘う。それをどうやって拒絶なんかするというのだ。誰よりも愛しくて焦がれて全てを奪いたいと願っているのに、そんな相手に対してあえて拒絶の選択なんかを悠長に考えられる人間がいるなら是非教えてもらいたい。出きるもんなら少し位身体のために自制心を身に付けるべきだとは思うが、その選択は無理にもほどがあるだろう?何しろ宏太にとって出来ることさっさとなら、今すぐそうしてしまいたくて仕方がない日々なのだから。
堪らん…………今すぐ…………全部……
天使のような可愛さで、小悪魔みたいに淫らで。そんな文字通りの蠱惑的な行動にどんなに振り回されているのだろう。出来ることなら今すぐこの無意味な視神経ごと抜き変え、移植でも何でもいいから目が見えるようにして了の艶姿を見たい。淫らに蕩けきった可愛い了を、この網膜に焼き付けてしまいたいのに。
見たい、お前の乱れる姿が…………
それでもそうできない宏太には、了が願うなら何でも叶えてやるしか出来ない。それに願い通りキスしながら、激しく嵌め続けるくらい大したことでもない訳で。そう言う意味では、これ迄に培ってきた古武術の身体能力には心底感謝する。
「うぅっう……くぅうう!!!うー……っ!!!」
その結果はここで言うまでもないだろうけれど、あっという間に了は凄まじい絶頂に痙攣した後一気に身体を弛緩させて崩れ落ちていた。そのまま宏太も間をおかずに達して奥にタップリと注ぎ込んだは良いが、締め付けはさておき抵抗力を失った身体に一瞬何が起きたか理解できないくらいには宏太が慌てたのは言うまでもない。
「了?さとる。さとるっ。」
グッタリした身体を抱き寄せ頬を撫でながら、名前を必死に繰り返し呼び続ける。何度も指を滑らせその瞳が閉じられているのを探り、呼吸を確認するのに冷静になれと頭の中で繰り返す。やがてこれ迄の多数の経験の成果か、了が絶頂で完全に失神したのだと判断するのはできた。
いやな経験値だな…………全く…………
苦い思いではあるけれど、獣の快感と欲望に負けたのは言うまでもない自分である。その身体を労るように玩具なんか取り外して柔らかな夜具で丁寧にくるみつつ、無意識に抱き寄せ繰り返し繰り返し呼吸を肌で確かめていた。
キスで酸欠になってたろうし、……何度もいっていたから余計だ
まともに喘ぐことも出来ないように口付けられながら、何度も絶頂に上り詰め続けたのだからこの結果は想定内の筈だ。そう頭の中で自分に言い聞かせ続ける。それでも了が確り目を覚ますまでは宏太も気が気でなく、何度も抱きかかえたまま頬を撫でてあやすように声をかけてしまう。
「了…………、さとる…………。」
余りにも長い時間気を失っているのなら、誰か状態を確認できる人間を呼び出す事も出来なくない。が、なるべくなら、そう言う手段は使いたくないのだ。いや、自分が仕出かした事を隠蔽したいのではなく、この腕の中の色っぽい了の艶姿を晒すのは絶対に避けたい。自分が無茶苦茶をしたのは分かっているが、この可愛い姿を自分が絶対に見られないのに他人に見せるなんて勿体なくて宏太がやりきれないからだ。
「ん…………、ぅ……。」
そんな事を思案していたら吐息のような呼気が了の胸の奥から大きく深く吐き出されて、ホンノリと肌に熱が吹き付けられていた。トロリと蕩けた吐息はやがて規則的な呼吸のリズムを取り戻して、目が覚めたのか頬に触れる宏太の手にスリ……と頬がすり寄る。
「さとる……?」
「こ、………………ぉた……ぁ?」
熱を含む吐息の中で弱く自分の名前を囁く声に、何故か胸の底がキシキシと軋み震える気がした。嫌われたくないのに欲望を押さえ込むことが出来ない自分を、了が恐れたりしたらと思わないわけではない。そうチラリの頭で考えた宏太の頬に、フワリと力のない了の指が触れる。
「こぉ、た。」
砂糖菓子みたいに柔らかくて甘い声が名前を呼び、ソッと唇に触れ優しい口付けをしてくる。そうしてそのまま頬擦りするように了が甘える仕草で、名前をもう一度呼ぶのを宏太はじっと身動ぎもせず聞いていたのだった。
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