鮮明な月

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間章 ソノサキの合間の話

間話57.夏の定番は結局

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浅い眠りの世界と現実の境界線をフワフワ漂いながら、狭山明良は夢現の心地で自分が見ているものは何なのだろう?夢なのだろうか?と考えている。
例年の恒例行事となりそうな夏の外崎邸でのバーベキューの後。去年と同じ和室に結城晴と陣取っていて、去年と違うのは和室に2人だけというところ。去年は鈴徳良二も一緒だったのだけれど今年は事前工作で明良が先手を打っていたし、藤咲信夫は何か用があったらしく途中離脱。そして新たに参加した槙山忠志はバイトがあるからと宿泊せず、残る一人の最大の懸念だった庄司陸斗の方は良二が上手いことリビングのソファーへと誘導してくれた。
そうして愛しい晴と布団でイチャイチャしながらノンビリ過ごし、トロトロと酔いに任せて眠りについた筈だ。何しろ場所が外崎邸なわけだから明良だっておいたはしない方がいいのは分かっているし、晴だってちゃんと酔っているながらに分かっていて今夜はスキンシップだけで終わらせた筈なのだけれど。

「ん…………ちゅ……ん、ぷぁ…………。」

何でだろうか?目下可愛い仕草で明良の股間に屈み込み、両手を怒張に添えて可愛いお口をアーンして唇から舌を伸ばして必死に口淫に耽る可愛過ぎる晴がいる。まだ目が覚めていないのか、覚めたら消える夢なのか?ちょっと今の明良には判断ができないのだけれど、目の前の光景は例えようもなく淫らで淫靡な快感を与えてくる。
とはいえこの行為自体を明良がすることはあっても、晴からして貰うとなると機会は格段に少ない。何しろこの行為自体には少しだけ明良がトラウマを持っていて、行為を『強いる』という感覚に不安感を感じてしまうからだ。それに関してはまぁ全くもってノーマルだった明良が、突然禿で脂ぎった中年・高橋至に無理矢理セクハラされていた過去を思えば仕方がない。

でも…………あれ?……えっと……

まだ夢現の頭を引き起こそうとするけれど、まるでピンクの靄のような霞が思考回路を動かそうとしない。フカフカの寝心地に見慣れない天井、周囲はまだそれ程は明るくないし。そして淫らな唇、しなやかな指先、それに舌。見ているものがまるで頭の中で上手く結び付かないのは何故だろうか。混乱しているとも言えるが、まるで混乱させそうとしているみたいに思考が働かない。

それにしても……何だろうかこの違和感。

楽しい淫らな寝起きのご奉仕と思えば途轍もなく最高の経験になるのだと思うのに、何故か絶妙にこの空気感には違和感を感じてしまう。全くもって違和感だ。何が違和感かって?そりゃこの状況全てが違和感に感じる。そんな明良がおかしいのか。その違和感を感じている明良の様子に、股に屈んでいた晴が不思議そうに見つめる。

「…………どうかしたの?」

あぁ問いかけてくる晴の声にまで違和感がある。
お陰で刺激で見事に屹立していた逸物が一瞬で萎えて、途端に冷え冷えとした頭が思考を動かし始めていく。先ずは何が違和感って和室でこんなフカフカの布団なんか幾ら外崎邸とはいえ、普段は小上がり程度に使う和室に高級マットレスなんかおける筈もない。それに自分達は昨夜は布団を敷いたし、客用の布団はまあ布団にしてはフカフカだけど、こんな雲みたいな寝心地じゃなかった。っていうか、こんな布団がそこらにあるか。それに見上げている天井の梁が違うし、天井自体が寝た時と違う。

「え?なに……なに言ってるの?」

そう、それにだ!晴が違うのは遺憾ともしがたい。明良の晴は確かに小動物みたいに可愛くて可愛すぎる存在だが。どうにも目の前の晴は晴を模倣している皮にしか見えない。

「ちょ、皮?!」

そう皮。晴の皮を被った何かにしか見えなくなっている。晴はそんな下品なビッチみたいな行動はなしないし、もし何かの間違いで『した』としてももっと可愛いし、恥じらいってものを持っている。大体晴はそんな話し方しないし、興奮してエッチになった晴は呂律が怪しくなるところが最高にエロくて可愛いんだ。それに何よりも昨日わりとしこたま飲んでいた晴が明良よりも晴かに早く我に返って、明良よりも先に起きて、しかも明良が気が付く前にそんな行動に出れるってところがおかしい。

「おかしくないでしょ?これが普通でしょ?」

しかもそう指摘してくる時点で、絶対におかしい。これは一体何なんだろう?そう言えばなんだが去年は晴が朝方訳の分からない経験をしたとか言って起きてからピャピャと後から泣いていた気がする。朝御飯中に宏太にチャチャを入れられて前日の続きで遊ばれている程度にしか思わなかったが、確か身体に触れられたような話ではなかったろうか。と言うことはそう言うことをする実害が実は本当に存在していて、しかも今年は自分に触れてきて。いやまて、去年は自分ではなく晴に触っ…………虐めたと言うことか?お前か?去年晴に触った奴は。

「え?なにそれ、なんでそこでキレるの?しかも虐めてないし。」

なんでか当たり前のようにそこを否定してくるその口ぶりが、なんでか庄司陸斗を思わせるし高橋至を思い起こさせるし、なんでかすげぇ腹立たしい。気が付けば昨日渡された客用の甚平は乱れることもなく着ているし、目の前の擬きは影の薄い投影みたいに揺らぐ。
あぁよく見たら晴はちゃんと腕に抱き締めてスヤスヤ眠っているし、この足元にうずくまっているのはなんだか見たことのない誰かだ。こうしてみたら以前晴が『五十嵐ハル』をしていた時にナンパしてきた屑にも見えるし、高橋にも見えるし自慰を強いた陸斗にも、晴を犯そうとした白鞘千佳にも見える。何でなんだか分からないが様々な不快な男の顔が折り重なるように見えていて、それに気が付いてしまったらとんでもなく腹立たしくてもう我慢ならない…………

が、我慢ならないって…………なに?



※※※



ピクッとリビングにいた外崎宏太が微かに頭を揺らして反応した次の瞬間、何処かに車でも突っ込んだんじゃないかという轟音が外崎邸の和やかなリビングに響き渡っていた。ビリビリと轟音で食器が揺れるキッチンでは何かをしていた鈴徳良二が慌ててキッチンの火を止めて、リビングで和やかに朝食をとっていた外崎了を始めとした面々は思わず食事の手を止めて飛び上がってしまう。凄まじい轟音はたった一度だけで、棚のグラスや何かのピリピリとした振動は次第に収まっていく。

「な、なに?!」
「く、車でも突っ込んだ?!」
「マジで?なに?」

良二が何を言うでもなく埃が被らないよう、まだ起きてこない結城晴達のために作りおいていたものにテキパキと蓋をかけている。晴達が他の面々より若干寝坊気味なのは、去年のこともあるから良二としては想定済。というか2人の方が今時の若いのとしては普通で、起きてきている方が少し起床が早いのだろう。聞かずに作りおいているが何しろ晴達2人の好みは『茶樹』でも様々オーダーしてきたものを見ていて知っているので、良二としては問題ないと思っている。因みに今朝の2人には具沢山のホットサンドプレートを、あと少しで完成手前というところまで良二は完璧に作りあげている。(そのホットサンドか余りにも美味しそうで、朝から仁聖がお代わりを強請し、たっぷりのバターでトーストしたパンにソースを乗せハムとチーズをサンドし、その上に目玉焼きを乗せたクロックマダムを作って貰ったのはここだけの話。ちなみに目玉焼きのないものは、クロックムッシュと呼ばれるそうである。)
外の音なのかと榊仁聖と庄司陸斗がリビングの窓から背伸びしながら庭先を眺めているが、目に見えて煙も炎も見えないし塀が崩れている気配もない。大体にして庭が広大なのでリビングの窓からでは、庭の1/3も見えない訳で。もしかして家の裏かな?と声をあげる仁聖の背中に向かって、了を手招き傍に寄せた宏太が一つ溜め息をつくと恭平と了に向かって低く呟く。

「明良だな。」

その言葉に傍にいた2人は一瞬なにを言ったか理解できなかったが、宏太の言葉に目を丸くしてリビングの奥を振り返る。ここに今はいない狭山明良は、和室の襖の向こうで結城晴と一緒に寝ている筈だけれども。宏太はその明良がやったことと限定している模様。

「え?あの音、和室?!」
「和室で何があんな音出すの?」

宏太には音源が何処かまでちゃんと判別していた様子だが、それ程には慌てている風でもない。リビングの窓辺でその言葉を聞いた仁聖と陸斗が微妙な顔つきになったのは、和室の中に何があったか思い出そうとしているからかもしれない。確か和室にあるのはテーブルにテレビに…………

「…………開けますか?」

物音のあともピクリともしない襖に、恭平が心配そうに問いかける。それに暫し考え込んだ風にして『なら陸斗と行け』と呆れ声で宏太が呟く。それには少しだけ窓辺で仁聖が不満そうな顔を浮かべたて見せたが、その人選が仕方がないことなのは言われなくても分かる。
何しろこの面子の中では恐らく恭平が実力的には一番強いのは言うまでもない。それにその次の実力者なのは恐らく盲目とはいえ家主の宏太ではある。その宏太なのだが実力としては申し分なくとも、盲目であるからこういう場合の状況を見て確認というのには適さない。そしてその次は実際のところは、最近まで仕事柄もあって空手の鍛練をしていた陸斗ということになるのだ。その意味では良二や仁聖、了は全く武道の経験がないので(まぁチラリと合気道を教えられたりなんかはしているとはいえ)ただの適度に運動神経が良いかどうか程度の一般人である。
それがちゃんと分かっているから恭平は素直に分かりましたと立ち上がるし、仁聖にはソファーの宏太の傍にいるように手招く。ある意味それが分かっていないのは陸斗の方だけれど、何とはなしに恭平飲身のこなしで察したみたいで素直に従う。

「恭平……。気をつけてよ?」

流石にあの音を聞くと不安もあるのか、仁聖が子犬が萎れたみたいな顔で言う。それに恭平は苦笑いしながら、何となく想定はつきそうではあるけれどとしなやかな足取りで襖に歩み寄った。

「…………明良君?晴君?起きてる?」

少し緊張した面持ちで声をかけてみるが、今のところ和室の中はシンッと静まり返っていて誰かの動いている気配はない。お互いに緊張した面持ちで恭平と陸斗が左右に分かれて襖に手をかけ、『開けるよ?』の言葉と共に襖を開く。



※※※



襖の向こうで、一体何が起きたか。

「お前、弁償な?月賦でもいいから。」
「はい…………。」

まぁ簡単には和室内に以前から設えてあったモダンな和風ローテーブルが、1つ影も形もなく粉砕されていたと言えばいいだろうか。恭平と陸斗が緊張した面持ちで開いた襖の向こうで、明良と晴は全く目覚めることなく熟睡していたのだが、その足元ら辺で格子状のお洒落なローテーブルが言葉通りに粉々に粉砕されていた訳で。これは何が起きたんだ?と2人がポカンとしていたら、背後から宏太が『明良が蹴ったんだろ。風切り音が聞こえた。』と呆れ顔でいう。何ですか?それはつまり寝ぼけて明良の蹴りがテーブルに飛んだと言うことですか?と呆れ果てていた面々の前で、ざわめく人の気配でやっと明良が起きて現状に我に返り青ざめたという顛末だ。

「まぁまぁ、出したまま置いてたこっちも悪かったんだし。」
「…………普通は宿泊先のテーブルは粉砕されない。宿屋のテーブル粉砕したら、客だって訴えられるから。」

何とか取り成そうとしてくれた了の言葉に、陸斗が鋭い指摘をしてきて萎れた耳が見えそうな明良が項垂れている。一応理由として何だかとんでもない不快な夢を見ていて蹴りを放った記憶はあるらしいということで完璧に夢を見て寝ぼけたというのは明良の言葉からも確定したが、流石にこれまで一度も破壊行動までは明良だってしたことがなかったそうだ。

「明良も寝ぼけるってあるんだ?」
「っていうか寝ぼけてて足の方は大丈夫なのか?明良君。」
「どんな夢見たんだ?」

馬鹿にされているわけではないのだが、逆に蹴った足を心配されるのでは更に身の置き所がない訳で。しかもあのなんだか気持ちいいんだが不快なんだかな夢は全部とは言えないが、ウッスラと記憶にまだ残っていて。

「…………高橋とか…………なんか、胸糞悪い奴ばっかり出てきた…………。」

その言葉に思わず了と晴が一緒になって『ウヘェ』と全力でウンザリした顔になるのを、陸斗だけが不思議そうに眺める。(一応良二も高橋至との接触はないのだが、この面々と交流があるので話だけは聞いているし、残念ながら『お仕置きロキウイルス』のしでかした『妙なおっさんのコスプレ画像』なら見たことがある。)

「それはさぁ…………仕方なくない?宏太さん。」
「仕方なくない。夢は夢。」
「えー?でも、宏太だってやりかねないだろ?」

仁聖だけでなく了にまで取り成されているのは事実だが、確かにローテーブルは粉砕なのは現実なのだ。それでも明良の夢の内容に周囲から何故か明良を擁護する気配の方が高まって行くのに、宏太が苦い顔で弁償はしなくてよろしいと折れるまでそれほどかからないのだった。

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