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間章 ソノサキの合間の話
間話50.夏の終わりに4
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シャワーで濡れた髪を丁寧にタオルで拭った後に背後から抱き締め髪に顔を埋めてきた外崎宏太に、外崎了はされるがままに腹の前で組み合わされた宏太のしなやかな指先を見下ろす。
そう言えば結局榊仁聖がなんで『待て』ができるようになったのか?という以前からの疑問は、榊恭平・仁聖ともに『年月での経験』なんて了にはどうにも出来ない答えが帰ってきた。どんな惚気かと呆れ果てもしたものの、仁聖曰く数年前には健康管理が適当だった恭平が(大学時代の成田了の目には、全くもって適当さは伺えなかった。つまりはあの当時の了には恭平の本質が見えなかったし、見抜けなかったのだということなのだろうと思う。)目の前で倒れたことがあって、仁聖は恭平の体調を常に気にかけるという特殊な癖がついたのだという。というか仁聖4歳からの恋だなんて正直唖然とするし、恭平の方だって仁聖が中学になった頃には少しずつ自覚していたなんて余りにも真っ直ぐな恋愛事情を聞かされると自分の不純な中高生の頃を思い出して落ち込みそうだ。まぁ子供の頃から日々恭平だけを見続けていた仁聖だから、体調とか微細な変化に気が付いてセーブが出来るということなのかもしれない。
「了?」
低く耳に響く戸惑いを含んだ宏太の甘い声。今の宏太は了が自分から言わなくても了の身体に触れ、声や様々な音を聞き取り身体の変化には直ぐに気が付く。まぁ時々箍が外れて暴走するし嫉妬で滅茶苦茶無茶なことをしたりはするけど、基本としては了の身体を労ってくれるし大事にしてくれている。エッチの『待て』に関しては…………自分の方も悪いかなとは思う。でもキッチンとかでの『待て』は聞けよ!!と思うことが多々なのだ。とはいえ今の宏太はどうしても目が見えないから表情や感情の変動や心の機微を汲み取ることが出来ない。だから分からない、教えてくれと了に何度も繰り返して訴えてくる。
前はそんなこと…………一度もなかったのにな。
目が見えている頃の宏太は確かにそういう点で了や周囲が何も言わなくても、状況を察して先んじて行動していたような気もしなくはない。けれど正直に言うと了としては、あの頃の宏太は了の心の変化なんか全く気にしていなかったようにすら感じてしまうことがあるのだ。それは今にして思えばきっと宏太の勘が良すぎて、宏太自身も了だけでなく誰にも今どう思っているかなんて必要性を感じなくて問いかけなかったからに違いない。
「了……?」
「ふふ、俺、今の宏太が一番好き。」
少し身体をずらして頭上を見上げるようにして了が言うと、了の髪に埋めていた顔が浮いて宏太の頬がブワッと真っ赤になるのが諸に見える。こんな風に好きと言われて嬉しくなっているけれど同時に非常に照れているのが、ハッキリと目に見えて分かってしまう。前はこんな風に顔に感情なんか出ない男だと思っていた。
「こぉた、愛してる。」
ブワブワッと更に宏太の頬が薔薇色になっていくのを見上げて、了はなんとも可愛いなぁと思う。以前の宏太ならこんなことを言おうものなら逆に冷え冷えした顔になって、『お前は何言ってんだ』と呆れた声で突き放すように言い放ち放置されたに違いない。それでも了が更に宏太にも同じような言葉を強請ろうものなら、滅茶苦茶に犯す勢いで抱かれて、なし崩しに言葉をかき消された筈だ。
「こぉ……たぁ?こぉたは?」
「お前…………全く……俺を悶え殺す気か?」
甘えきった了の言葉で、宏太の頬の熱が一向に引かない。そんな宏太を眺めている了が腕の中で笑っているのを察して、背後から抱きかかえたままの宏太が低く呟く。いやいや、こんな風にスキンシップをしている自分と宏太というのも、高校時代の自分からしたら驚きなんだよなと頭の中で思う。何しろ《random face》の店長をしていた宏太に、高校生の了は再三『セフレでいいから付き合おう』と言い続けていた。それを宏太は他にセフレがいたわけでもないのに、山ほどセフレがいるフリでスルーし続けていたわけで。
「愛してる、了。」
あの時は了に恋をしているなんて、自分でも気が付いていなかったのだと宏太は言う。ずっと了が大事だとは思っていたし、了が危険な目に遭わないようにコッソリ動いたこともあると教えられたのはここ最近のことだ。何で自分がそんな風に了のことを大切にしていたのか全く自分でも理解できなくて、何となくあの当時の了が昔の自分と似ているからなんだと勝手に理由を作っていたのだと宏太は言う。でも改めて今になって考えてみれば政治関係の家系の子供というところくらいは似ていたかもしれないが、宏太と了は考え方も行動も似ても似つかない。恋愛感情が理解できないってところは確かに同じだったのだろうが、性的にも自由奔放だった了と調教師になるまでの品行方正な宏太とは全く違うタイプの人間だ。だから今になって思えば宏太は了に出会った途端一目惚れでとっくに恋に落ちていて、もしこれが怪我をして目が見えなくならなかったとしたら別の形で了を手に入れたと思う。
別?
まぁその…………調教師的な…………方法で、…………だな。
言葉を濁していたが、結論は監禁でもなんでもして本職の手練手管で篭絡したんだろうと言うことか。とんでもないなと今では笑い話として了も言えるけれど、もし以前の宏太がそうしていたら、了は邑上誠のように調教師である宏太に何もかも投げ出して従属するだけの飾りになってしまう。そうしたらきっと宏太は、今のように了のことを愛してはくれなかったのではないかと何故か思ってしまう。そう告げると何故か宏太も、それはそうかもしれないと素直に同意したりもするのだ。何しろ宏太が心から愛していて大事だと感じるのは、宏太に調教されたわけではない今のままの了。怒ったり笑ったり自由にしていて自分のことを存分に振り回す了が、なにより宏太は愛しいのだから。
「ふふ、ヤバい、もぉ超幸せ過ぎて溶けそう。」
「……全く何言ってんだ、溶けるなら別のことで蕩けてろ。」
お互い良い具合に酔っているせいか、宏太が日常より更に甘やかそうとでも言うように身体を抱きかかえ直して膝の上に座らせ首筋に顔を埋める。大きな深い傷痕は変わらない。それでも唯一直に傷痕に触れることを拒否されない了の唇が、目蓋があった筈の場所に優しく口付けていく。それに以前は微笑むことのなかった宏太の口元が柔らかく緩んで、肉感的な厚い唇が肌に触れるのを感じ取っていく。
「愛してる。俺の了。」
「……ん…………今夜は少しだけ、だぞ?」
鎖骨に口付ける宏太の艶やかな黒髪を、抱き締められたままの了の指がすくように撫でながら言う。それを聞いているのかいないのか、宏太は抱き締めたまま腰の辺りに指を滑らせて了の服を剥ぎ取りだしている。折角風呂上りに着たばかりの夜着だけど、殆んど毎晩脱がされてしまうのにも何だか慣れてきてしまっていた。何しろ普段からセックス無しで寝ていたって、一緒に寝ている最中に宏太ときたら奇術師みたいに服を脱がせてしまう。目が覚めればよくて下着1枚で抱き締められているか、全裸ってことも多々あるのだ。着たまま寝たのなんて数える程しかない筈に違いない。
それに直に肌に触れながら寝る方が、宏太が好んでいるっていうのも了にだって分かっているし、もう宏太の体温が直に肌に触れる方が気持ち良いのも教え込まれてしまったし。
「少し……は、どこまでだ?ん?」
「んん、すこ、しは、少しぃ……んぅ。」
問いかけながら服を全て剥ぎ取られて、しかも意地悪な唇に甘く乳首を咥えこまれて思わず蕩けた吐息が了の口から溢れ落ちてしまう。ヤワヤワと唇で挟まれ固さを示した乳首の先端だけを、熱くてザラリとした舌先がつつくように舐める。
「あ、んっ……バカぁ、んっ。」
「少しだけだろ?んん?」
擽るように先端だけを焦らして愛撫されるのに、思わず了は手で宏太の頭をもっとと言いたげに引き寄せてしまう。それでも宏太は意地悪く舌を引っ込めて、押し付けられた先端だけをクリクリと弱く弄り回す。
「も、バカぁこぉた、もっとぉ。」
砂糖菓子のように甘えきった強請り声に、宏太は明らかに嬉しそうに見える顔をして見せる。了にこんな風に直に強請られるのが宏太にしてみると実は凄く嬉しいらしくて、何だか恥ずかしいのに了の方もつい強請り声になってしまう。了に強請られるままに強く噛みつき吸い上げられながら、腰を引き付けられて宏太の引き締まった身体に押し付けられるのが心地良い。
「あ、んんっ、こぉた、あっ!んんっ!」
「どう、する?ん?少し……なら、やめとくか?ん?」
意地悪に耳元に唇を寄せて囁きかけながら抱き締められて、宏太の体温にスッポリと包まれ尻の下に熱の塊みたいな宏太のモノを押し付けられてしまう。裸の股間を尻の割れ目に押し付けながら、言う言葉じゃないと了は首元に腕を絡めながら不満そうに呟く。
「こ、んな、押し付けてて、バカぁ。」
「お前が少しって言ったんだろ……ん?」
「少しだけぇ、なか……もぉ。」
それは狡いなと柔らかな声で囁く宏太に、了は尚更腕を巻き付けながら大きく左右に足を開いて腰を落とす。縋りついたまま宏太の唇に了は自分のモノを押し当てて、唇の奥を探り舌を絡めていく。見えないままに腰を前後に揺らすと宏太の熱い手が了の腰を捕らえ引き付けて、尖った切っ先のような宏太の怒張がシュシュ……と尻の割れ目を擦りたてていく。
「ん、ふぅ、ううんっ。」
当たる場所を調整する腰の淫らな動きを手で操りながら、了に唇を奪われたまま宏太の指先がスルリと了の後穴を指の腹で撫で回す。もうすっかり宏太だけのモノにされてしまって慣らされてしまってきたから、宏太は迷うことなくそこを捕らえるし切っ先を宛がわれれば了の身体も柔らかくそれを体内に迎えてしまう。肉の裂けるような感覚なんて何一つないし、柔らかく包み込むように太杭を飲み込むだけ。そして意図も容易く、了の口からは肉にもたらされる歓喜の吐息が溢れ出す。
「あ、ん……んぅっ!…………ふっ!」
これで男でも妊娠出来るなんてファンタジーが成り立つようなことが現実に起きたら、確実に宏太は了を妊娠させるまでやり続ける違いない。それに宏太との子供なんて、ちょっとどころでなく嬉しいとか考えてしまう自分もいることだし。とはいえそれが叶わなくとも、こうして宏太に存分に愛されているのは確かに感じ取れるから口付けを交わしながら喘ぐ。
「あ、こぉた……っあぅ…………も、とぉふか、く…………。」
※※※
…………バカみたいな豪邸だ。
今更ながらに庄司陸斗はリビングのソファーにごろ寝して、天井の見事なシーリングファンが回るのを眺めながら思う。キッチンが奥にあるリビングダイニングとは言えここって何畳?と呆れてしまう。何しろソファーに2人寝てても、何も問題がない規模なのだ。しかも奥に和室があってベロベロの結城晴を引きずって狭山明良が当然のように引っ込んだし、榊恭平・仁聖は上の階の客間を使うと賑やかに姿を消した。
これが個人宅でリゾート並みの風呂場に主寝室まであるのか
まぁこの場に何でか同性愛カップルが多すぎる、というのはさておきだ。隣のソファーで撃沈して寝ている鈴徳良二という男は、近郊の喫茶店で調理場を担当しているというが腕は安っぽい場末の店のレベルとは思えない。どう考えたってホテルとか一流店舗だろ?と思っていたら、会話の中に昔は海外で店舗経営もしたとかしないとか。それが何やら事件なんだが病気なんだかの事情があって、ここで暮らしているという話のようだ。
それにさっきまで一緒に飯を食っていた槙山忠志が何年か前の放火殺人事件の被害者で、しかも最初の三浦事件の重要参考人だったというのにも実は気が付いている。それに何度か三浦が関わる事件には『槙山忠志』は顔を出しているし、槙山自身が三浦を追っている節はあるのだ。
それにしたって…………情報過多過ぎだ……
自分が知りたいのは三浦和希のことではない。勿論知りたいことに三浦が絡んでくるのは事実だけれど、殺人鬼・三浦当人のことは知りたいわけじゃないのだ。最初の三浦事件の調書は、丁寧に何度も読んだ。結論としたら飲み屋に女を連れ込み昏睡レイプしていた若い男のグループのリーダーが三浦で、暴君として君臨していた三浦を他のメンバーが裏切り逆転レイプしたってのが流れだ。自分がした事を倍にしてやり返されて頭がおかしくなった三浦が、仲間に報復して歩き、仲間だけでなく他に何人か被害が広がった。
その内の1人が外崎宏太…………
あの傷でよく生き残れたと思うが、外崎宏太に関しては三浦が手慣れていなかったからこそ奇跡的に生き残れたのだと考えられていた。何しろその後は三浦自身が手慣れてきて、被害者の死亡率は鰻上りだ。もう一人の生還した男・佐伯秀晴の方は傷をつけられた後に不衛生な廊下を這いずり、敗血症を起こして完璧な寝たきり生活を過ごす内に脳死に近い状態に陥った。そして結局はそこから回復することなく死んだのだ。唯一女性で最初の事件で傷を追った瀬戸遥は人前での犯行だったから傷は深かったが、他の被害者のように幾つも傷を負わされたわけではない。
そう言えば結局榊仁聖がなんで『待て』ができるようになったのか?という以前からの疑問は、榊恭平・仁聖ともに『年月での経験』なんて了にはどうにも出来ない答えが帰ってきた。どんな惚気かと呆れ果てもしたものの、仁聖曰く数年前には健康管理が適当だった恭平が(大学時代の成田了の目には、全くもって適当さは伺えなかった。つまりはあの当時の了には恭平の本質が見えなかったし、見抜けなかったのだということなのだろうと思う。)目の前で倒れたことがあって、仁聖は恭平の体調を常に気にかけるという特殊な癖がついたのだという。というか仁聖4歳からの恋だなんて正直唖然とするし、恭平の方だって仁聖が中学になった頃には少しずつ自覚していたなんて余りにも真っ直ぐな恋愛事情を聞かされると自分の不純な中高生の頃を思い出して落ち込みそうだ。まぁ子供の頃から日々恭平だけを見続けていた仁聖だから、体調とか微細な変化に気が付いてセーブが出来るということなのかもしれない。
「了?」
低く耳に響く戸惑いを含んだ宏太の甘い声。今の宏太は了が自分から言わなくても了の身体に触れ、声や様々な音を聞き取り身体の変化には直ぐに気が付く。まぁ時々箍が外れて暴走するし嫉妬で滅茶苦茶無茶なことをしたりはするけど、基本としては了の身体を労ってくれるし大事にしてくれている。エッチの『待て』に関しては…………自分の方も悪いかなとは思う。でもキッチンとかでの『待て』は聞けよ!!と思うことが多々なのだ。とはいえ今の宏太はどうしても目が見えないから表情や感情の変動や心の機微を汲み取ることが出来ない。だから分からない、教えてくれと了に何度も繰り返して訴えてくる。
前はそんなこと…………一度もなかったのにな。
目が見えている頃の宏太は確かにそういう点で了や周囲が何も言わなくても、状況を察して先んじて行動していたような気もしなくはない。けれど正直に言うと了としては、あの頃の宏太は了の心の変化なんか全く気にしていなかったようにすら感じてしまうことがあるのだ。それは今にして思えばきっと宏太の勘が良すぎて、宏太自身も了だけでなく誰にも今どう思っているかなんて必要性を感じなくて問いかけなかったからに違いない。
「了……?」
「ふふ、俺、今の宏太が一番好き。」
少し身体をずらして頭上を見上げるようにして了が言うと、了の髪に埋めていた顔が浮いて宏太の頬がブワッと真っ赤になるのが諸に見える。こんな風に好きと言われて嬉しくなっているけれど同時に非常に照れているのが、ハッキリと目に見えて分かってしまう。前はこんな風に顔に感情なんか出ない男だと思っていた。
「こぉた、愛してる。」
ブワブワッと更に宏太の頬が薔薇色になっていくのを見上げて、了はなんとも可愛いなぁと思う。以前の宏太ならこんなことを言おうものなら逆に冷え冷えした顔になって、『お前は何言ってんだ』と呆れた声で突き放すように言い放ち放置されたに違いない。それでも了が更に宏太にも同じような言葉を強請ろうものなら、滅茶苦茶に犯す勢いで抱かれて、なし崩しに言葉をかき消された筈だ。
「こぉ……たぁ?こぉたは?」
「お前…………全く……俺を悶え殺す気か?」
甘えきった了の言葉で、宏太の頬の熱が一向に引かない。そんな宏太を眺めている了が腕の中で笑っているのを察して、背後から抱きかかえたままの宏太が低く呟く。いやいや、こんな風にスキンシップをしている自分と宏太というのも、高校時代の自分からしたら驚きなんだよなと頭の中で思う。何しろ《random face》の店長をしていた宏太に、高校生の了は再三『セフレでいいから付き合おう』と言い続けていた。それを宏太は他にセフレがいたわけでもないのに、山ほどセフレがいるフリでスルーし続けていたわけで。
「愛してる、了。」
あの時は了に恋をしているなんて、自分でも気が付いていなかったのだと宏太は言う。ずっと了が大事だとは思っていたし、了が危険な目に遭わないようにコッソリ動いたこともあると教えられたのはここ最近のことだ。何で自分がそんな風に了のことを大切にしていたのか全く自分でも理解できなくて、何となくあの当時の了が昔の自分と似ているからなんだと勝手に理由を作っていたのだと宏太は言う。でも改めて今になって考えてみれば政治関係の家系の子供というところくらいは似ていたかもしれないが、宏太と了は考え方も行動も似ても似つかない。恋愛感情が理解できないってところは確かに同じだったのだろうが、性的にも自由奔放だった了と調教師になるまでの品行方正な宏太とは全く違うタイプの人間だ。だから今になって思えば宏太は了に出会った途端一目惚れでとっくに恋に落ちていて、もしこれが怪我をして目が見えなくならなかったとしたら別の形で了を手に入れたと思う。
別?
まぁその…………調教師的な…………方法で、…………だな。
言葉を濁していたが、結論は監禁でもなんでもして本職の手練手管で篭絡したんだろうと言うことか。とんでもないなと今では笑い話として了も言えるけれど、もし以前の宏太がそうしていたら、了は邑上誠のように調教師である宏太に何もかも投げ出して従属するだけの飾りになってしまう。そうしたらきっと宏太は、今のように了のことを愛してはくれなかったのではないかと何故か思ってしまう。そう告げると何故か宏太も、それはそうかもしれないと素直に同意したりもするのだ。何しろ宏太が心から愛していて大事だと感じるのは、宏太に調教されたわけではない今のままの了。怒ったり笑ったり自由にしていて自分のことを存分に振り回す了が、なにより宏太は愛しいのだから。
「ふふ、ヤバい、もぉ超幸せ過ぎて溶けそう。」
「……全く何言ってんだ、溶けるなら別のことで蕩けてろ。」
お互い良い具合に酔っているせいか、宏太が日常より更に甘やかそうとでも言うように身体を抱きかかえ直して膝の上に座らせ首筋に顔を埋める。大きな深い傷痕は変わらない。それでも唯一直に傷痕に触れることを拒否されない了の唇が、目蓋があった筈の場所に優しく口付けていく。それに以前は微笑むことのなかった宏太の口元が柔らかく緩んで、肉感的な厚い唇が肌に触れるのを感じ取っていく。
「愛してる。俺の了。」
「……ん…………今夜は少しだけ、だぞ?」
鎖骨に口付ける宏太の艶やかな黒髪を、抱き締められたままの了の指がすくように撫でながら言う。それを聞いているのかいないのか、宏太は抱き締めたまま腰の辺りに指を滑らせて了の服を剥ぎ取りだしている。折角風呂上りに着たばかりの夜着だけど、殆んど毎晩脱がされてしまうのにも何だか慣れてきてしまっていた。何しろ普段からセックス無しで寝ていたって、一緒に寝ている最中に宏太ときたら奇術師みたいに服を脱がせてしまう。目が覚めればよくて下着1枚で抱き締められているか、全裸ってことも多々あるのだ。着たまま寝たのなんて数える程しかない筈に違いない。
それに直に肌に触れながら寝る方が、宏太が好んでいるっていうのも了にだって分かっているし、もう宏太の体温が直に肌に触れる方が気持ち良いのも教え込まれてしまったし。
「少し……は、どこまでだ?ん?」
「んん、すこ、しは、少しぃ……んぅ。」
問いかけながら服を全て剥ぎ取られて、しかも意地悪な唇に甘く乳首を咥えこまれて思わず蕩けた吐息が了の口から溢れ落ちてしまう。ヤワヤワと唇で挟まれ固さを示した乳首の先端だけを、熱くてザラリとした舌先がつつくように舐める。
「あ、んっ……バカぁ、んっ。」
「少しだけだろ?んん?」
擽るように先端だけを焦らして愛撫されるのに、思わず了は手で宏太の頭をもっとと言いたげに引き寄せてしまう。それでも宏太は意地悪く舌を引っ込めて、押し付けられた先端だけをクリクリと弱く弄り回す。
「も、バカぁこぉた、もっとぉ。」
砂糖菓子のように甘えきった強請り声に、宏太は明らかに嬉しそうに見える顔をして見せる。了にこんな風に直に強請られるのが宏太にしてみると実は凄く嬉しいらしくて、何だか恥ずかしいのに了の方もつい強請り声になってしまう。了に強請られるままに強く噛みつき吸い上げられながら、腰を引き付けられて宏太の引き締まった身体に押し付けられるのが心地良い。
「あ、んんっ、こぉた、あっ!んんっ!」
「どう、する?ん?少し……なら、やめとくか?ん?」
意地悪に耳元に唇を寄せて囁きかけながら抱き締められて、宏太の体温にスッポリと包まれ尻の下に熱の塊みたいな宏太のモノを押し付けられてしまう。裸の股間を尻の割れ目に押し付けながら、言う言葉じゃないと了は首元に腕を絡めながら不満そうに呟く。
「こ、んな、押し付けてて、バカぁ。」
「お前が少しって言ったんだろ……ん?」
「少しだけぇ、なか……もぉ。」
それは狡いなと柔らかな声で囁く宏太に、了は尚更腕を巻き付けながら大きく左右に足を開いて腰を落とす。縋りついたまま宏太の唇に了は自分のモノを押し当てて、唇の奥を探り舌を絡めていく。見えないままに腰を前後に揺らすと宏太の熱い手が了の腰を捕らえ引き付けて、尖った切っ先のような宏太の怒張がシュシュ……と尻の割れ目を擦りたてていく。
「ん、ふぅ、ううんっ。」
当たる場所を調整する腰の淫らな動きを手で操りながら、了に唇を奪われたまま宏太の指先がスルリと了の後穴を指の腹で撫で回す。もうすっかり宏太だけのモノにされてしまって慣らされてしまってきたから、宏太は迷うことなくそこを捕らえるし切っ先を宛がわれれば了の身体も柔らかくそれを体内に迎えてしまう。肉の裂けるような感覚なんて何一つないし、柔らかく包み込むように太杭を飲み込むだけ。そして意図も容易く、了の口からは肉にもたらされる歓喜の吐息が溢れ出す。
「あ、ん……んぅっ!…………ふっ!」
これで男でも妊娠出来るなんてファンタジーが成り立つようなことが現実に起きたら、確実に宏太は了を妊娠させるまでやり続ける違いない。それに宏太との子供なんて、ちょっとどころでなく嬉しいとか考えてしまう自分もいることだし。とはいえそれが叶わなくとも、こうして宏太に存分に愛されているのは確かに感じ取れるから口付けを交わしながら喘ぐ。
「あ、こぉた……っあぅ…………も、とぉふか、く…………。」
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…………バカみたいな豪邸だ。
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まぁこの場に何でか同性愛カップルが多すぎる、というのはさておきだ。隣のソファーで撃沈して寝ている鈴徳良二という男は、近郊の喫茶店で調理場を担当しているというが腕は安っぽい場末の店のレベルとは思えない。どう考えたってホテルとか一流店舗だろ?と思っていたら、会話の中に昔は海外で店舗経営もしたとかしないとか。それが何やら事件なんだが病気なんだかの事情があって、ここで暮らしているという話のようだ。
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