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間章 ソノサキの合間の話
間話44.聞こえるもの
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外崎宏太の出してきた会社ての初仕事(仮?)の話に2人と話していて僅な光明が見え始めた庄司陸斗と、自分の過去の経験話に苦笑いの結城晴、そして助け船を出すつもりではなかったのに何となく場の雰囲気で話に加わってしまった狭山明良である。夕食を囲みながら、外崎の下で働く内容について晴から聞いたパソコンに明るくない陸斗は少しだけ不安を滲ませたりしている。
「俺もそういうの、やるのかな?」
「どうかな?しゃちょーがどう思うかじゃないかなぁ。」
そういう晴も最初の内は幾らパソコンを動かせるとはいえ、クライアント関係の仕事はやらせてはもらえなかった。最近でこそ金子流通とかの仕事は晴の担当になったのだったが、最初は本当にこのデータをExcelで一覧で関数表に起こしておけとか、この流通経路を纏めて統計を取れとか、事務と言うよりパソコン入力係と言うことばかり宏太から指示されていた時期もある。それが外れてきたのは案外指示したことが、宏太の想定より早く終ると宏太が気がついてからで、そこら辺が変わってからは書類を文面に起こしてクライアントに持参とかジリジリと仕事自体が変化した。まぁいまでは最初からこれはお前に任せたと投げてくるものもあるし、宏太が進行度合いを見ていて『そこはそう進めるな、あっちをとれ。』とか的確に助言もくれる。お陰でこの年では普通なら自分独りでやる筈のないような物流会社の大仕事を独りでしてしまった。前の会社なら(とはいえ、明良はまだそこで働いているわけで、余りここからあとは晴もここでは言えない事なのだが)少なくとも3人か4人で営業だけでなく他の部所の人間も含めてプロジェクトにさせられる筈だから、そういう意味で凄く大変ではあるが自分の達成感は高い。
「…………案外、普通のことやらせるんだ?」
「…………なんの会社だと思ってバイトする気なの?」
なんの?と聞かれると陸斗も少し返答に困る。一応表立ってはコンサルタント会社とは聞いていたのだが、実質では裏社会の情報屋みたいなもので情報屋がどんな仕事内容なのか詳しいわけでもない。その反応に明良は呆れたように、ご飯茶碗をそれぞれの前に置きながら陸斗を眺める。
「そんなんで、働けるのか?」
そういわれると一抹の不安がないわけでもない。というか真面目にコンサルタント会社をしてると聞かされ、あれ?自分が思ってたのとは違うと思ったのは事実で、外崎邸の中を説明され普通に賄いまで出されて快適に過ごして来たのを考えると。
「裏家業してそうに見えない…………。」
「はぁ?」
「え?」
ポツリと食事を口にしながら呟く陸斗に、目の前で晴に過保護に構いまくっていた明良が呆れ声を上げ晴は晴で戸惑うような声をだす。いや、今の世の中裏家業って何よ?と突っ込みをいれたいのは山々だが、明良も晴もある意味ではマトモではない外崎の活動に関しては直に接している。
裏って『耳』の関係?
まぁそれのことだよね
言葉にならない声で2人で目で会話をしているけれども、これに関してはワザワザ晴達が教えることでもないし、仕事場に入ったなら珍妙なでかい機械が何か知れば自ずとバレることでもある。あえて言わなくともやがては知ることだし、あそこに入っていて知らずに過ごせるものだともいえない。
なので触らない。
それにしても陸斗が、コンサルタント会社ではなく裏家業狙いで来たんだと今さらのように知ってしまった。まぁ宏太はそれほど裏家業の方を隠して活動している訳でもないが、『耳』関連の仕事はわりと信用問題もあるので依頼者は限定的だ。『耳』自体を置かせて貰っている居酒屋やホテル、そこからの横の繋がりがある飲食店とか知人の経営店とかといった感じ。それ以外にも依頼で仕掛けたり、調査員が身に付けたりという感じが基本。
晴は、え?それじゃ陸斗も女装とかして活動したりするのかなぁ等と今の話とは少し方向性の違う期待をしてしまったりする。いや別に仕事上で女装仲間が欲しい訳じゃないが、宏太は絶対に外崎了を危険な調査に出すつもりはないので(これを狡いとかなんとか晴が考えることはない。何しろ自分が無理な範疇だと、迷わず宏太が調査に出てくるし了を調査にだそうものなら、………………それこそ明良と出会う切っ掛けになった高橋格の行動調査の時には了が囮になったが、宏太が檻の中の熊よろしく現場を彷徨き回っていたわけで。大体宏太は了が大事過ぎて過保護なので、あんなことになるのが目に見えている。)基本として調査班としての『五十嵐ハル』の出番はわりと多い。それに新たに陸斗が加わるとなると…………『五十嵐リコ』とか?いや女装きほんではないけど、女装するには陸斗は少し体格が良すぎるだろうか?でもそんなのもあり得るのか。ならウィッグとか服とかの準備を、藤咲信夫に頼んでおこうかなんて考えてしまう。うん、宏太が慣れれば十分にやらせる可能はある筈だ。
「晴?」
「あ、ううん、考えごとー。」
ニコニコして見せる晴に何を考えていたのといいたげな明良なのだが、そこら辺は陸斗もいるからまた今度にしておこうと言うことでスルーしておく。少なくとも目の前では明日の仕事には試せることが出来たのだからと表情を緩めた陸斗が、一先ずは安泰ということなのなろうかと思うのだった。
※※※
あーあ、面倒な方に進んだか…………
頬杖をついて外崎了は部屋の奥の一角で段ボールと格闘している陸斗の背中を眺めながら思う。出来ればそのUSBとかの外装に付けられた傷跡から、それに規則性があって纏めると何か書いてあるんだというのに気がついて欲しかった。が、今朝の陸斗が始めたのは、外装を集めて繋ぐ了が仕込んだ方ではなく久保田惣一がホクホクと楽しげに仕込んだ方の1つだ。
恐らくは晴とか明良に何か聞いたんだろう、何かヒントになりそうな……まぁ記録媒体の容量とか?
最初に言った通り『分類』しろという命令なのだから、中身を云々とは指示されていない。素直にそう受け止めれば、まぁ安易に記録媒体の種類で分けるか媒体に付けられた記号のようなものを見いだして分類する……が最短の分類方法だ。別にこう分類しろと命令した訳じゃないから、安易すぎるのだとこんなもんかと呆れられるというおまけはつくがそれで良かったのである。ところが宏太の性格の悪さと久保田のノリの良さが加わり、ドツボに嵌まる『分類』が2種類仕込んであるのは既に話した筈だ。その1つが目下陸斗が試そうとしているに違いない記録媒体の容量というヤツで、実はあの大量の記録媒体の中に種類通して一個ずつだけ入っている同じ128GBの媒体がある。
USB、フロッピー、Blu-ray各一個
そんなのあからさますぎるのだが、その中にはそれぞれにデータが保管されている。勿論見ないでこれが分類と終了にしてもいいのだが、ここに手をつけてしまったら確実に中を確認する羽目になると思う。何しろ128GBだけを集める理由付けが、中身を見ないことには説明出来ないからだ。何しろもっと小さい容量で共通したものも少しはあるが、他のものにはデータが入っていないものの方が多いのだ。それを知ってしまえば3種類の容量が揃っているからと宣言するには、その3種類に共通する意図が必要だと考えるのは必然的なのだ。
それがトラップなんだよなぁ…………あのデータ…………
128GBに保存できる物は画像なら解像度を下げれば、35000枚。動画なら音声付きで約6時間半。圧縮やら何やらは流石にしてないが、まぁ随分と記録は可能なものだ。その中に意図を汲み出せと言われても、それを全て確認してからとなるとすごく難しい。
最終的にそれが何か気がついたら、ある意味怖いだろうなぁ
なんて事を呑気に考えてしまうのは、自分がすっかりここでの暮らしに慣れた証拠なんだろうなんて思う。まあそれでも少なくとも目下必死にフロッピーを集めてひっくり返してをしているし、まだUSBは探せていないので時間はかかりそうだ。
何日かかるかねー…………
宏太の方はまだ風間祥太の依頼の音の聞き取り中だし、了の方は既に手にかけていた書類は上げて午後から依頼者に書類を届けにいくのみ。晴の方は昨日の遅れを取り戻そうと仕事を黙々と進行中であり、そろそろ少し離れてキッチンで昼の支度でもしてようかというところ。そんなことを考えていた矢先、ふと宏太が顔を上げて了を振り向く。
「了。」
「ん?何?珈琲?」
「いや、ちょっとこい。」
見れば顔色が少し悪くて、街の音の中に何か聞き付けたんだなとわかる。少し切羽詰まった宏太の手招きに、素直に了が傍に歩み寄ると腕が絡んできて腰を引き寄せ腕の中に抱き寄せていた。腹に顔を押し付けるようにして呼吸を整えている宏太の頭を撫でながら、何が聞こえた?とヘッドホンを取り外してやる。耳から音源を外したからといって全く聞こえないような耳ではないのだが、耳にシッカリ密着させているよりはいいだろう。了の腹に額を押し付けたままの宏太が深々と溜め息をついているのに、書類を纏めている晴も気がつき心配そうな視線を向ける。唯一何が起きているか知らない陸斗だけが、奥で壁の方を向いたまま未だに苦悩のUSB探しを継続しているだけだ。
「大丈夫か?」
「ん……。」
「何が聞こえた?」
「……たぶん解体。」
思わずうえっと苦い顔をしてしまう。街中で何をやってるんだかと言いたいが、以前より三浦が起こす事件は実は減っている。減っているのだが、どうしてもコンスタントに三浦にちょっかいを出す人間は確実に存在して、結果的には何ヵ月とかの感覚で三浦と関係して死ぬ『男』が出てしまう。晴なんかそれよりも短いスパンで三浦とお茶をしたりしているらしいが、そんな時の三浦は普通の甘い物好きの好青年で最近何か楽しいことあった~?くらいのノリでやってくるらしい。
別人じゃねぇのか?
何度も宏太はそれを確認しているが、晴の知っている三浦和希は大概そんな雰囲気なので、互いに結局はなんとも言えない模様である。まぁ晴があっている時の足音やら声やらは、既に宏太が確認もしているので確かに当人なのは確定したのだけど。恐らくは何らかのスイッチ、これに関しては宏太も晴も共通して性行為だとしているが、それさえ入らなければ普通の好青年として過ごせるのだという結論だ。
そして反面風間から持ち込まれる三浦の依頼は大概が、殺人鬼・三浦のものなのだと言えた。何らかのスイッチを入れられ完璧な殺人鬼として街の中だと言うのに、残忍な行動を起こす男。素手で人の手足を引きちぎったり、そこらにあるような物や果物ナイフみたいなもので腹を引き裂く。時には女の姿をしていたり、チャラい青年だったり、時には真面目そうな黒髪の青年だったり、神出鬼没で一定の姿のない存在。何がそうさせるのか、何かを探しているのかもわからない。以前は『真名かおる』という女を探していた筈だったのだが、暫く前に宏太と直接話した時に遂に三浦は『真名かおる』を忘れてしまったらしい。元々記憶障害があるから仕方がないのかも知らないが、それ以降の三浦が探しているのは『倉橋亜希子』という女だ。どこで関わったかは知らないが、宏太も久保田惣一・松理夫妻も知っていた女性を探し続けているらしい。残念なのは倉橋亜希子は去年の夏・元夫に惨殺され竹林に埋められたとされているということだろうか。そしてそれをした元夫も数ヵ月後病院の隔離部屋のスポンジ壁の中で、大量の失血で死んだ。
連鎖のように関係があったもの
その矢根尾俊一と言う男には宏太も少なから関係があったし、実は了の子供時代のトラウマを植え付けた人間でもある。そしてそれだけでなく矢根尾の被害にあった人間が、宏太の知り合いの中にもいるのだ。悪意の連鎖。そう言ったものもいるし、その連鎖の中で死んだものもいれば、新たな連鎖を産み出した人間もいる。
「大丈夫……か?こぉた。」
優しく柔らかな声で問われ、髪をすく指先に少し不快感が緩む。街中の物陰で人体解体の音を聴くなんて、とんでもないことだろと苦笑いしてやると了は溜め息混じりに言葉を濁す。やらなければいいのにといいたいのだろうが、宏太がこれをやめないのもわかっているからこその行動だ。
「昼飯作るけど、何がいい?好きなのにしてやるから。」
そんな優しいことを言うけれども、まだ味覚障害が直って2年目に過ぎない宏太にはそれほど好きなもの種類は多くない。というか了が作ったものならなんでも味がするから何でもいいのだけれど、そう言われると少し思案して顔を上げる。
「…………卵のがいい。和風で。」
「ザックリしたオーダーだなぁ?親子丼とか?」
わりと宏太は卵の味が気に入っていて更にオムライスとか子供が好きそうなオーダーを好むのだが、流石にケチャップライスになるオムライスは避けたくなったようだ。それでもこんな話が出きるくらいに直ぐ落ち着いたところを見ると、了だってほっとするし、心配そうに視線を向けていた晴も安堵したようである。
「俺もそういうの、やるのかな?」
「どうかな?しゃちょーがどう思うかじゃないかなぁ。」
そういう晴も最初の内は幾らパソコンを動かせるとはいえ、クライアント関係の仕事はやらせてはもらえなかった。最近でこそ金子流通とかの仕事は晴の担当になったのだったが、最初は本当にこのデータをExcelで一覧で関数表に起こしておけとか、この流通経路を纏めて統計を取れとか、事務と言うよりパソコン入力係と言うことばかり宏太から指示されていた時期もある。それが外れてきたのは案外指示したことが、宏太の想定より早く終ると宏太が気がついてからで、そこら辺が変わってからは書類を文面に起こしてクライアントに持参とかジリジリと仕事自体が変化した。まぁいまでは最初からこれはお前に任せたと投げてくるものもあるし、宏太が進行度合いを見ていて『そこはそう進めるな、あっちをとれ。』とか的確に助言もくれる。お陰でこの年では普通なら自分独りでやる筈のないような物流会社の大仕事を独りでしてしまった。前の会社なら(とはいえ、明良はまだそこで働いているわけで、余りここからあとは晴もここでは言えない事なのだが)少なくとも3人か4人で営業だけでなく他の部所の人間も含めてプロジェクトにさせられる筈だから、そういう意味で凄く大変ではあるが自分の達成感は高い。
「…………案外、普通のことやらせるんだ?」
「…………なんの会社だと思ってバイトする気なの?」
なんの?と聞かれると陸斗も少し返答に困る。一応表立ってはコンサルタント会社とは聞いていたのだが、実質では裏社会の情報屋みたいなもので情報屋がどんな仕事内容なのか詳しいわけでもない。その反応に明良は呆れたように、ご飯茶碗をそれぞれの前に置きながら陸斗を眺める。
「そんなんで、働けるのか?」
そういわれると一抹の不安がないわけでもない。というか真面目にコンサルタント会社をしてると聞かされ、あれ?自分が思ってたのとは違うと思ったのは事実で、外崎邸の中を説明され普通に賄いまで出されて快適に過ごして来たのを考えると。
「裏家業してそうに見えない…………。」
「はぁ?」
「え?」
ポツリと食事を口にしながら呟く陸斗に、目の前で晴に過保護に構いまくっていた明良が呆れ声を上げ晴は晴で戸惑うような声をだす。いや、今の世の中裏家業って何よ?と突っ込みをいれたいのは山々だが、明良も晴もある意味ではマトモではない外崎の活動に関しては直に接している。
裏って『耳』の関係?
まぁそれのことだよね
言葉にならない声で2人で目で会話をしているけれども、これに関してはワザワザ晴達が教えることでもないし、仕事場に入ったなら珍妙なでかい機械が何か知れば自ずとバレることでもある。あえて言わなくともやがては知ることだし、あそこに入っていて知らずに過ごせるものだともいえない。
なので触らない。
それにしても陸斗が、コンサルタント会社ではなく裏家業狙いで来たんだと今さらのように知ってしまった。まぁ宏太はそれほど裏家業の方を隠して活動している訳でもないが、『耳』関連の仕事はわりと信用問題もあるので依頼者は限定的だ。『耳』自体を置かせて貰っている居酒屋やホテル、そこからの横の繋がりがある飲食店とか知人の経営店とかといった感じ。それ以外にも依頼で仕掛けたり、調査員が身に付けたりという感じが基本。
晴は、え?それじゃ陸斗も女装とかして活動したりするのかなぁ等と今の話とは少し方向性の違う期待をしてしまったりする。いや別に仕事上で女装仲間が欲しい訳じゃないが、宏太は絶対に外崎了を危険な調査に出すつもりはないので(これを狡いとかなんとか晴が考えることはない。何しろ自分が無理な範疇だと、迷わず宏太が調査に出てくるし了を調査にだそうものなら、………………それこそ明良と出会う切っ掛けになった高橋格の行動調査の時には了が囮になったが、宏太が檻の中の熊よろしく現場を彷徨き回っていたわけで。大体宏太は了が大事過ぎて過保護なので、あんなことになるのが目に見えている。)基本として調査班としての『五十嵐ハル』の出番はわりと多い。それに新たに陸斗が加わるとなると…………『五十嵐リコ』とか?いや女装きほんではないけど、女装するには陸斗は少し体格が良すぎるだろうか?でもそんなのもあり得るのか。ならウィッグとか服とかの準備を、藤咲信夫に頼んでおこうかなんて考えてしまう。うん、宏太が慣れれば十分にやらせる可能はある筈だ。
「晴?」
「あ、ううん、考えごとー。」
ニコニコして見せる晴に何を考えていたのといいたげな明良なのだが、そこら辺は陸斗もいるからまた今度にしておこうと言うことでスルーしておく。少なくとも目の前では明日の仕事には試せることが出来たのだからと表情を緩めた陸斗が、一先ずは安泰ということなのなろうかと思うのだった。
※※※
あーあ、面倒な方に進んだか…………
頬杖をついて外崎了は部屋の奥の一角で段ボールと格闘している陸斗の背中を眺めながら思う。出来ればそのUSBとかの外装に付けられた傷跡から、それに規則性があって纏めると何か書いてあるんだというのに気がついて欲しかった。が、今朝の陸斗が始めたのは、外装を集めて繋ぐ了が仕込んだ方ではなく久保田惣一がホクホクと楽しげに仕込んだ方の1つだ。
恐らくは晴とか明良に何か聞いたんだろう、何かヒントになりそうな……まぁ記録媒体の容量とか?
最初に言った通り『分類』しろという命令なのだから、中身を云々とは指示されていない。素直にそう受け止めれば、まぁ安易に記録媒体の種類で分けるか媒体に付けられた記号のようなものを見いだして分類する……が最短の分類方法だ。別にこう分類しろと命令した訳じゃないから、安易すぎるのだとこんなもんかと呆れられるというおまけはつくがそれで良かったのである。ところが宏太の性格の悪さと久保田のノリの良さが加わり、ドツボに嵌まる『分類』が2種類仕込んであるのは既に話した筈だ。その1つが目下陸斗が試そうとしているに違いない記録媒体の容量というヤツで、実はあの大量の記録媒体の中に種類通して一個ずつだけ入っている同じ128GBの媒体がある。
USB、フロッピー、Blu-ray各一個
そんなのあからさますぎるのだが、その中にはそれぞれにデータが保管されている。勿論見ないでこれが分類と終了にしてもいいのだが、ここに手をつけてしまったら確実に中を確認する羽目になると思う。何しろ128GBだけを集める理由付けが、中身を見ないことには説明出来ないからだ。何しろもっと小さい容量で共通したものも少しはあるが、他のものにはデータが入っていないものの方が多いのだ。それを知ってしまえば3種類の容量が揃っているからと宣言するには、その3種類に共通する意図が必要だと考えるのは必然的なのだ。
それがトラップなんだよなぁ…………あのデータ…………
128GBに保存できる物は画像なら解像度を下げれば、35000枚。動画なら音声付きで約6時間半。圧縮やら何やらは流石にしてないが、まぁ随分と記録は可能なものだ。その中に意図を汲み出せと言われても、それを全て確認してからとなるとすごく難しい。
最終的にそれが何か気がついたら、ある意味怖いだろうなぁ
なんて事を呑気に考えてしまうのは、自分がすっかりここでの暮らしに慣れた証拠なんだろうなんて思う。まあそれでも少なくとも目下必死にフロッピーを集めてひっくり返してをしているし、まだUSBは探せていないので時間はかかりそうだ。
何日かかるかねー…………
宏太の方はまだ風間祥太の依頼の音の聞き取り中だし、了の方は既に手にかけていた書類は上げて午後から依頼者に書類を届けにいくのみ。晴の方は昨日の遅れを取り戻そうと仕事を黙々と進行中であり、そろそろ少し離れてキッチンで昼の支度でもしてようかというところ。そんなことを考えていた矢先、ふと宏太が顔を上げて了を振り向く。
「了。」
「ん?何?珈琲?」
「いや、ちょっとこい。」
見れば顔色が少し悪くて、街の音の中に何か聞き付けたんだなとわかる。少し切羽詰まった宏太の手招きに、素直に了が傍に歩み寄ると腕が絡んできて腰を引き寄せ腕の中に抱き寄せていた。腹に顔を押し付けるようにして呼吸を整えている宏太の頭を撫でながら、何が聞こえた?とヘッドホンを取り外してやる。耳から音源を外したからといって全く聞こえないような耳ではないのだが、耳にシッカリ密着させているよりはいいだろう。了の腹に額を押し付けたままの宏太が深々と溜め息をついているのに、書類を纏めている晴も気がつき心配そうな視線を向ける。唯一何が起きているか知らない陸斗だけが、奥で壁の方を向いたまま未だに苦悩のUSB探しを継続しているだけだ。
「大丈夫か?」
「ん……。」
「何が聞こえた?」
「……たぶん解体。」
思わずうえっと苦い顔をしてしまう。街中で何をやってるんだかと言いたいが、以前より三浦が起こす事件は実は減っている。減っているのだが、どうしてもコンスタントに三浦にちょっかいを出す人間は確実に存在して、結果的には何ヵ月とかの感覚で三浦と関係して死ぬ『男』が出てしまう。晴なんかそれよりも短いスパンで三浦とお茶をしたりしているらしいが、そんな時の三浦は普通の甘い物好きの好青年で最近何か楽しいことあった~?くらいのノリでやってくるらしい。
別人じゃねぇのか?
何度も宏太はそれを確認しているが、晴の知っている三浦和希は大概そんな雰囲気なので、互いに結局はなんとも言えない模様である。まぁ晴があっている時の足音やら声やらは、既に宏太が確認もしているので確かに当人なのは確定したのだけど。恐らくは何らかのスイッチ、これに関しては宏太も晴も共通して性行為だとしているが、それさえ入らなければ普通の好青年として過ごせるのだという結論だ。
そして反面風間から持ち込まれる三浦の依頼は大概が、殺人鬼・三浦のものなのだと言えた。何らかのスイッチを入れられ完璧な殺人鬼として街の中だと言うのに、残忍な行動を起こす男。素手で人の手足を引きちぎったり、そこらにあるような物や果物ナイフみたいなもので腹を引き裂く。時には女の姿をしていたり、チャラい青年だったり、時には真面目そうな黒髪の青年だったり、神出鬼没で一定の姿のない存在。何がそうさせるのか、何かを探しているのかもわからない。以前は『真名かおる』という女を探していた筈だったのだが、暫く前に宏太と直接話した時に遂に三浦は『真名かおる』を忘れてしまったらしい。元々記憶障害があるから仕方がないのかも知らないが、それ以降の三浦が探しているのは『倉橋亜希子』という女だ。どこで関わったかは知らないが、宏太も久保田惣一・松理夫妻も知っていた女性を探し続けているらしい。残念なのは倉橋亜希子は去年の夏・元夫に惨殺され竹林に埋められたとされているということだろうか。そしてそれをした元夫も数ヵ月後病院の隔離部屋のスポンジ壁の中で、大量の失血で死んだ。
連鎖のように関係があったもの
その矢根尾俊一と言う男には宏太も少なから関係があったし、実は了の子供時代のトラウマを植え付けた人間でもある。そしてそれだけでなく矢根尾の被害にあった人間が、宏太の知り合いの中にもいるのだ。悪意の連鎖。そう言ったものもいるし、その連鎖の中で死んだものもいれば、新たな連鎖を産み出した人間もいる。
「大丈夫……か?こぉた。」
優しく柔らかな声で問われ、髪をすく指先に少し不快感が緩む。街中の物陰で人体解体の音を聴くなんて、とんでもないことだろと苦笑いしてやると了は溜め息混じりに言葉を濁す。やらなければいいのにといいたいのだろうが、宏太がこれをやめないのもわかっているからこその行動だ。
「昼飯作るけど、何がいい?好きなのにしてやるから。」
そんな優しいことを言うけれども、まだ味覚障害が直って2年目に過ぎない宏太にはそれほど好きなもの種類は多くない。というか了が作ったものならなんでも味がするから何でもいいのだけれど、そう言われると少し思案して顔を上げる。
「…………卵のがいい。和風で。」
「ザックリしたオーダーだなぁ?親子丼とか?」
わりと宏太は卵の味が気に入っていて更にオムライスとか子供が好きそうなオーダーを好むのだが、流石にケチャップライスになるオムライスは避けたくなったようだ。それでもこんな話が出きるくらいに直ぐ落ち着いたところを見ると、了だってほっとするし、心配そうに視線を向けていた晴も安堵したようである。
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