鮮明な月

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間章 ソノサキの合間の話

間話40.特別な君4

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「全部晴だから、だよ?晴は俺の特別………なの………。」

そういった狭山明良の苦し気で追い詰められた顔は、これまでみたことの無いくらい切なそうに歪んでいて。なんで分かってくれないの?と言いたげに歪められた唇から言葉が溢れ落ちた瞬間、黒曜石みたいな明良の切れ長の瞳からボロボロと涙が溢れ落ち出していた。頬を両手で捕獲されたままの結城晴は逃げることもできず、その涙を真っ直ぐに浴びながら口付けを受け止めるしかない。こんな風に追い詰めたのは自分が何気なく口にした言葉で、自分としては庄司陸斗を連れ込んで迷惑をかけているのにこの上喘ぎ声がどうこうと陸斗に言われたくはなかった。そう思うから口にした言葉なのに明良は何故か晴に拒絶されたとでもいうような悲しい顔をしていて、みたことの無い大粒の涙を落とし続ける。

俺、何を間違ったの?なんでそんな泣くの?

でもさっきまで微笑んでいた明良を泣かせたのは、間違いなく自分だ。自分がまた間違った反応をしたから、明良はもう泣くしか出来なくなってしまったのだろう。

「おれ、…………ぁ、ひら……ごめ……なひゃい…………。」

謝ろうにも晴の両頬を明良が捕獲したままなので、とっても様になら無い。どうせ謝るならスパッとカッコよく謝りたいのに、明良ときたら捕獲の手を話そうともしてくれないのだ。それでもなんとか謝ると、明良は無言で再び口付ける。それでも明良の瞳から落ちる涙は止まらず、パタパタ・ハタハタと晴の頬に真珠のような涙の雨が降り落ちてくる。そして気がついたように口付けを止めて、晴のことを大粒の涙をこぼしながら見下ろす。

涙の溢れる切れ長の美しい瞳

それでも何時までも溢れ出す涙に心配になって、晴は明良に縋りついていた手を外しそっと頬に伸ばす。その時になって明良は、まるで自分が泣いていたのを今気がついたみたいな顔をして目を丸くした。

「ごめ……にゃひゃ……ぃ、おれ……。」

もう一度謝った晴に明良の表情が更に曇る。何に謝るの?と低く苦く呻くように呟いた明良の表情に、答えは凄く難しいけれど『俺が馬鹿で』としか言えない。きっと明良は陸斗を傍に近よらせたくなかっただろうし、嫌がっていたから明良に惚れている筈の陸斗がこうして目にはいる生活だって苦痛な筈だ。それでも晴が勝手なことをして振り回すのに我慢してくれていたのに。そう思って迷惑をかけるからごめんなさいと言った筈なのに、目の前で不意に明良の瞳が熱を持ったように緩み甘い輝きを浮かべた。

「愛してる、晴。謝んないで……愛してるって…………。」

その先を言葉にされなくても、その瞳をみたら明良が何を言って欲しいのかは直ぐに分かってしまう。そして明良はその言葉を晴が言ってくれるのを待つように、じっと濡れた黒曜石の瞳で晴のことを見つめたまま。

「愛してる…………、明良。」

そう恥ずかしさをこらえて呟いた晴の目の前で、言葉を受け止めた明良の顔がまるで芍薬の花が咲き誇ったみたいにパァッと明るい表情に変わる。鮮やかで優しくて、心を全て奪われてしまうような綺麗な綺麗な顔に、晴は安堵と共に微笑みかけていたが不意に何かポツリと明良が口にしたのが分かった。

「…………あぁ……凄く可愛いし、こういう顔とか声とか本当に好き。もっと聞きたいし、もっと言って欲しい。ヤバいくらいに目の前の晴が可愛くて仕方がない。」

普段ならそんなこと明良は言わないのに、泣いた後で感情が昂っているのか明良は独り言のように呟き続ける。でももっと言って欲しいって思ってるなら、そっか愛してるとかもっと言ってもいいんだ……何て素直に晴も嬉しくなってしまう。

「………………うん、やっぱりもう一回しよう。もう一度グズグズのドロドロになるまで晴の全身を愛でて、………………晴の身体が自分にしか反応しなくなるまで執拗にやりまくろう。」

………………はいぃ?!今何言ったの?っていうか、何かとんでもないこと独り言のように言ってるけど、明良正気?たまに怒りすぎてゲージがふりきれて黒オーラの明良になることあるけど、もしかしてそれじゃないよね?いや、もしかしてあり得る?あんな風に唐突に泣くくらい、明良は切羽詰まってたから。

「あきら?だ、だめ、だよ?も。そんな、俺無理だから、これ以上。」

必死に無駄と分かりつつ抵抗をしながら訴えたけれど、明良の視線が普段とは違うギラギラした輝きを灯し出したのにきがついてしまう。あ、やっぱりこれ理性ゲージ完璧にふりきれちゃってる。ヤバい、何とかしてこれは逃げないと。

「言っておくけれどそんなの別にたいした抵抗じゃないし、………俺…としたら少し抵抗して貰うのの方が、逆に燃えるから。」

というかどうにか普通に逃げようにも、既に終えた1回戦が激しすぎたせいで晴は腰がきかない。何とかしようにも身体に力が入らなくて、しかも足腰がガクガクのままなのだ。それなのにのし掛かった明良はまるで1回目なんてあったの?くらいにしか
感じていない様で、サラリと晴の身体を抱き引き寄せようとしている。

「あ、燃えるっていうなら久しぶりに手枷とか使って拘束して、メロメロになるまで延々と弄り倒すのもありかもしれないな。手枷と足枷を繋いで動けないようM字で固定して、晴の雄マンコをグチュグチュに掻き回してとか。それともまだ使ってなかったけど尿道にプラグをいれてみたらいいかな。プラグいれたまま、ひっくり返して寸止めで延々とメスイキし続けさせるのもいいよね…………。」

怖い怖い怖い!!さらっと言ってることが怖いから!何いってんの?!と青ざめながら晴は、這いつくばってでも逃げようとジタバタする。外崎宏太とかもそういうことはしそうだけどあっちは元本職で限度とかちゃんと熟知してやってるけど、明良は素人で、しかも理性が吹っ飛んでるから。その上明良ってば全部口から言ってるのに、まるで自分が妄想を言葉にしてるのすら気がついてない気がする。いや、妄想なんだよね?何時もそういうこと狙ってるとかいうのだと、ちょっと怖いよ?明良。拘束くらいなら兎も角、プラグって何?!しかもエロ小説みたいな台詞を普通に明良のイケメンボイスで言われるの、時と場合によるよ!?今のは怖いから!!

「ちょ、ちょっと?!明良?!待って、無理だよ?!ダメ!拘束は、やだ!」
「あれ?何で全部晴に筒抜け?」

疑問に首をコテンと傾げた明良が、やっぱり普段の明良の理性の箍とか様々な基盤をぶっ飛ばしていて、完璧に我を忘れているのだと気がついた。こんな風に明良が完璧にキレてぶっ飛ぶのなんか見たことがないけれど、そこまで陸斗の事で我慢が溜まっていたってことなのか。でも流石にこれは怖い。何が起こるか分かんないし、明良はさっきも言ったけど外崎宏太みたいにここまでってラインが…………まぁ宏太もあるようでないけど……明確かと言われると晴には絶対の自信がない。

「全部口から出てるから!しゃべってるから!!明良っ!」

晴が声を張り上げて指摘しても、明良は何言ってるのかな位に不思議そうに首を傾げたままで晴の背中を押さえ込む。

「しゃべってる?何が?それはさておきジタバタ踠く晴を組み伏せるっていうのも、なかなか興奮するシチュエーションだよね。うん。」
「あ、あきら?何いってんの?!ちょっとぉ?!」
「何?何か聞こえてる?」

まるで噛み合ってない。というか自分がブツブツ喋りながら行動に出ていると言う自覚が明良に無い。マジか!こんなブチギレ方ってあるの?!明良の本心駄々漏れなのは、ちょっと晴としても興味はあるけど、流石にこのキレ方は経験がないから晴だって対応しきれない。

「背中も綺麗、もう少し沢山キスマークでマーキングしておきたい…………。それにまださっき出したのを洗ってあげてないから、…………中、まだドロドロのグチョグチョな筈。」

うわぁ!その通りだけども、そんなこと言葉にして言わないで欲しい。確かに今日はそれほどキスマークつけるようなことはしてないし、今夜は準備した訳じゃなく雪崩れ込んでしまったものだから、勢い雪崩れ込んでしまったせいで体内で直に明良の出した精液がまだ残っている。でもそんな風に言葉にして指摘されたら恥ずかしい。

「白い肌……晴が踠くとプルプルって揺れてるの、……ふふ……かなりエロい。」

途端ブワッと晴の全身が薔薇色になって、プルプルと震えながら明良の視界を遮るように手で覆う。明良が何を言ってるのかは言わなくても分かるが、俯せで組み伏せられている状態で踠く晴の尻が揺れるとエロいとか言わなくていいことを言わないで欲しい。その行動にほんの少し明良が驚いたように目を丸くしたので、これでハッと我にかえってくれないかなと晴は少しだけ祈ってしまう。もうお願い、戻って。頼むから。我に返って。

「どうせなら俺が途轍もなく晴のことを愛してて誰にも渡したくなくて、陸斗どころでなく本当は外崎宏太とか甥の高城光輝にすら触れさせたくないくらい自分だけが独占したくて仕方がないのも伝わったらいいのに。」
「ふぇっ……。」

世にも珍妙な声を上げた晴がこれまでみたことがないくらい、深紅の薔薇の色にボフンと一瞬で茹で上がったみたいに赤くなっていた。何それと言いたい。明良から愛してるとは言われるけど、それはまぁ交際しているのだからというはなしであって。自分の愛してるとは、明良のは少し違うんだろうなと思ったりしていた。なんでか何て問われても困る。明良は普通の男だし、綺麗で格好いいし、凄く優しいから晴が振り回しても許してくれる。家族にだって紹介しあっていて、今後のことを考えてもいるけど、どちらかがどちらの苗字に変わろうという話には至らないのはそういうことなんだと思っていた。

「晴……俺のもの…………晴は全部俺の。愛してる。」

いつか終わりになっても仕方がない男同士の関係性。外崎了や榊仁聖のような覚悟も持ててない。それに晴はこんなにも明良に迷惑ばかりかけて、手間ばかり取らせてきていて、何時明良が『もういやだ』と言い出してもおかしくない筈で。

「あぁ可愛い…………もう、天使みたい……凄い可愛い。」
「ふにゃぁ!!」

いけない、今はそんなことに耽っている場合ではなかった。既に明良の方が臨戦態勢で晴のことを押さえ込み、背中に唇を這わせて腰を押し付けている。あっという間に明良が行動に移ろうとしているのに、晴は慌てて明良をペシベシと叩いてストップと叫ぶ。

「駄目!明良!!だーーーめ!!!」
「何で?」
「何でも!!駄目!俺死んじゃう!!」

流石にこれ以上奥を突き上げられたら腸が破けそうと訴える晴に、明良は賑やかに満面の微笑みを浮かべると『大丈夫』と朗らかに口にする。良かった、収まってくれる?と安堵したのもつかの間、明良はニッコリ微笑んで気をつけて突き破ったりしないよと宣言したのだった。



※※※



バイト初日…………とは言え何故か目下結城晴宅預かりの筈なのに一人で出勤してきた庄司陸斗に、扉を開けた外崎了は目を細めた。実は外崎了と同じ歳である陸斗はなんと説明したものかと困惑の顔つきであるけれど、了の方は別段気にしたわけでもなく家の中に陸斗を招き入れた。

「仕事の時の靴箱はそっち側な、中で履くの好きなの持ってきてもいいから。」

晴の事は聞かれないのかと一瞬思ったが、外崎達とは仲が良さそうだから事前に明良から連絡がきたのかもしれないと気がつく。言うまでもないが、あの激しい一夜のお陰で晴は熱を出して寝込んでいて、明良は有給をとってベッタリ付きっきりである。

っていうか…………明良とんでもないな…………

流石にあんなに悲鳴のような声を出させてたら、扉3枚と壁があったってうっすら聞こえるわけで。しかも1回終わったなぁと思っていたら、再戦の方が遥かに鬼畜だったのには呆気にとられた。あんなのを相手にしている晴が熱を出すのは当然のことだろうし、そこまでするか?!と止めた方がいいのかのだろうかと真剣に悩む。明良の再戦が延々と続く最中に外崎宏太から明日から仕事に来いと突然に連絡がきたのはさておき、朝起きたら晴が起きてこれないのは当然だと思う。そして晴が行けないなら自分もいかずにと思ったら、明良に断固拒否られ仕事に追い出されたのはいうまでもない。
そして一人で戸惑いながら外崎邸に来たわけで、晴と言う緩衝材のない外崎了はまだ微妙に壁が硬く取りつく隙もなく。潔癖症だっていうなら自分が使うものは持ってきてもいいけど決まったとこにだけ置くようにと説明しながら、先に向かう了が他の説明を続ける。飲食に関してはリビングは一応フリーだが、食べ残しや熱があるようなものをそのまま放置するのは禁止。仕事場内で許可なのは、了が入れたり作ったりしたものだけ。ペットボトルなどの持ち込みは出来ないし、好みの飲食物がある時は事前に了に説明しておくと言いとのこと。基本的にはキッチンの冷蔵庫に物の出し入れするのは了だけなのだと言うが、その辺りは仕事上の事なのだろう。

「注意深いってことか…………。」
「はは、それもない訳じゃないけどな。」

とりなすように了はそんなことを言いながら、淡々としているが的確な指示を続ける。
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