鮮明な月

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間章 ソノサキの合間の話

間話23.閑話休題4・甘える

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何度も何度も硬い怒張で奥底を打ち付けて、奥に欲望の証を大量に注ぎ込み続けて。声が掠れて悲鳴にすらならなくなる程に快楽で泣かせ続けられて、榊恭平が意図が切れるように歓喜の末にズルズルと脱力し崩れ落ちる。それに勢い全身でのし掛かる体勢になりながら腰を押し付けたままの榊仁聖が、失神している恭平を抱き締め蟀谷に口付けを落とす。何度も恭平から強請ったとはいえ、奥に仁聖を受け止める恭平の負担はかなりのものだと知っている。けれど、こんなにも激しく求められる現実が、心の底から仁聖には幸せで仕方がない。

「好き……、大好き……恭平。」

そっと抱き締めたまま、低く響く声で仁聖が囁く。こうして抱き締め恭平をスッカリと腕の中に納めてしまえるようになった大人の身体。でも幼くて弱くて何も出来ずに泣いていた自分を抱き締め、抱き上げてくれたあの時の恭平の姿は今でも心の中に鮮明に残っている。

綺麗で優しくて暖かくて甘い匂い…………

それは今でも腕の中に変わらず今の恭平として存在もしているけれど、あの時の記憶の鮮明さも仁聖にとっては変わらない宝物だ。最初は見ず知らずの子供のすることに戸惑いながらも自分を拒絶しないで受け止めてくれた日々も、ここに来るのを制止することなく待っていてくれた日々も。

俺のことを誰よりも大事にしてくれてた

今になれば記憶の中で、そうだったのだと幾つも幾つも気がつく。こんなに年の差のある子供が遊びに来るのを律儀に待っていてくれて、必ず相手をしてくれていて、それが何年も何年も続いて来たのだ。普通だったら血縁でもない他人のために、時間も労力も無駄にする必要なんかない。
どんなに優しく暖かい日々だったのか、自分が誰よりも甘えられて大事にされてて来たのか。恭平はそんな風に考えてなかったと笑うけれど、その答えの優しさに仁聖は深く暖かな幸せに満たされる。

「好き…………恭平、愛してる……。」

それでも心が通じあっても『愛してる』と言葉にすら出来なかった自分。それも恭平が全てを受け止めてくれると示してくれたから、仁聖はこうして変わることが出来たし、どんなに恭平が自分を支えてくれたのかも分かる。それを伝えようと恭平を抱き締め、すり寄りながら愛の言葉を繰り返していた仁聖の身体に不意に痺れるような快楽の刺激が沸き上がった。

「んん…………、気がついて、るでしょ?もぉ……。」

チュと蟀谷に口付けながら囁く言葉に、まだ快感を与え埋め込まれたままの仁聖の肉茎を柔らかく甘く蕩けるような感触でキュウ……と締め付けてしまう。その淫らで可愛い反応に、意地悪く仁聖が色気を含んだ声で耳元で囁く。すると腕の中で失神したままだと思っていた白磁の耳朶がホンノリと目の前で染まって、更に肉襞がキュウ……と淫らに肉棒に絡み付く。

「好き、愛してる……俺の、恭平。」
「も、…………や、………………ばか……ぁ……。」

仁聖の言葉に照れてしまったのか、掠れた声を上げて身悶える人の可愛らしさ。年の差なんて!!と力一杯に叫びたくなる。自分を受け止め伴侶としてくれた恭平が、最近日に日に増して可愛くなっていっている気がするのは気のせいではない筈だ。

「好き…………愛してる、大好き…………好き。」
「んん、…………ん…………。」

以前のように影のように恭平を内に引き込んでいた様々な事が変化したのもあるし、仁聖が大人になったことで更に変わってきた。身体だけでなく精神的にも社会的にも仁聖が大人になって、こうして恭平と並んで立てる立場になったからこそ変わりつつある。

「大好き、愛してる、I love you so much that the words I love you are not enough(愛してるの言葉じゃ足りないくらい大好き).」
「ばかぁ…………んぅ…………っん……。」

甘く締め付ける自分自身の身体の反応に、恭平が再び蕩けるような甘い声を上げて掠れた声で喘ぐ。こんな風に唯一甘えられ蕩けさせられるようになって、恭平の変化は仁聖にとっても大きい。

欲しがってくれたり、俺じゃないとって思って貰える…………

自分が満たされているだけでなく、恭平からも満たしてと強請って貰える立場になれたのが嬉しい。後はこれが言葉にしなくても察しあえるように慣れば、仁聖は完璧な恭平の伴侶で大人の男だと思う。抱き締める腕に歓喜で汗に濡れ震える肌が触れて、仁聖は無意識にユルリと腰を蠢かせていた。

「ひゃ……や、も、むり、や。」
「中はそう言ってないみたい……だよ?それとも、もう嫌?」

流石にここまででもやりすぎの感は拭えないのには、仁聖だって自覚はあるのだ。この後身体を洗う為に動くのだって恭平には苦痛に違いないし、中に注ぎ込み続けたモノを掻き出すのも負担だろう。と思った瞬間クチュンと音を立てて押し付けられた腰が、甘美に快楽の電気を流す。無意識で僅かに後ろに引いていた腰を逃さないように、恭平の方から腰を突き出して押し付けたのだ。潤んだ黒曜石の瞳が肩越しにホンノリ薔薇色に染まりながら、駄目と言いながら再び快楽に揺れる。淫らな腰つきで煽り立てるように前後に微かに動く腰に、甘い吐息が溢れていく。

「ちが、ばかぁ…………すき、だから…………ぁ。」

あぁこんな満たされて幸せでいいんだろうか?こんなに素直に恭平から『好き』と返して貰える日々。しかも可愛くて綺麗で凛々しい恭平が、迷うことなく自分に全てを与えてくれる事が幸せで仕方がない。

「なら、もう一回?」

耳元で囁くとビクンッと恭平の全身が震え、自分の身体で煽って来た癖に戸惑うように仁聖を肩越しに見つめる。まだ欲しがっているようにも欲しがっていないようにも見える視線に、流石にこれまでの行為が激しすぎたからか。

「優しく………ゆっくり………気持ちよく…………なる?」

その言葉にボォッと頬を染めて、喉を微かに動かす恭平は言葉に出来ないくらい綺麗だ。そんな顔をみてしまったら、止めようなんて気分が吹き飛んでしまう。

「じゃ恭平の…………一番気持ち良いとこで、俺の……包んで?ね?」

僅かにその言葉に理性が引き戻され、恭平が弱々しく頭をふり駄目と譫言みたいに繰り返す。それでも抜きかけられていた筈の怒張を奥底にクポンと嵌め込まれた感覚に、恭平の身体が快感に痙攣する。

「はぅ…………や、……だめ、も、しんじゃう。」
「あぁ奥……スッゴいトロトロ…………気持ちい…………。」
「はぅ、んん。あ、だめ、あんんっ。」

仁聖の唯一で大事な家族でもある綺麗な月のような人を、強く抱き締めたまま快感を与え続ける。そうして仁聖は緩やかに硬さを取り戻しつつあるもので、再び音を立てて恭平の体内を掻き回し始めていた。



※※※



俺にとって何より嫌なのは、了が不安になったり不機嫌になることで……

大体にして『甘える』なんて行動自体に、外崎宏太自身はこれまで余り頓着していた訳ではない。それに実際のところ、子供の時分は実の親には甘えるような余地は全くなかった。何しろ父親は外交関係の仕事のお陰で四六時中眼に入るところには存在していないようなものだったし、母親の方は弟の病気の世話で自分には手が回らない。そんな状態だから宏太の日常には、親に自分が甘えるということはなかったのだ。
そんな訳で幼馴染みの家で大人に意図して可愛がって貰えるように計らうのは、宏太なりの社交術に過ぎなくてそれ程珍しい事でもなかった。その中でも合気道の道場に通っていた鳥飼家、同じ武術の道場をしていたという流れで藤咲家に頻繁に出入りして上手いこと立ち回っていたというだけの話。勿論遠坂喜一や四倉梨央の生家にだって足は運んでいたが、喜一達だって基本的には鳥飼家に出入りしていることの方が多かった筈だ。何しろ自分達の子供の頃にはインターネットどころかテレビゲームもまだ流行りきらず、子供の遊びと言えば外を駆け回るのが主流。そんな世界で家に鬱蒼とした林や探検に適した宿泊用施設迄敷地内に持つ鳥飼邸が、遊び場の中心になったのは当然の事だ。
そんな訳で宏太は特に鳥飼家にはそれこそ四六時中出入りしていたのだから、鳥飼澪の父・千羽哉との交流が特に多かったのも仕方がない。何しろ千羽哉は、合気道でも古武術でも自分の師匠なのだし。その流れで言っても一緒に風呂に入ったり道場で雑魚寝したりなんてことは、千羽哉にしてみれば娘と同じ年の子供以前に弟子としても当たり前の話なのだ。

大体にして、千羽哉さんは他の奴も泊めてるし風呂に入ってるし

そりゃここらでは有数の合気道道場の道場だった鳥飼は、他にも古武術の鍛練のために毎日のように外弟子やら他の道場の人間が足を運んで来ていた。今じゃ敷地はマンションと公園になってしまって道場の跡地もないから知らないだろうが、あの広大な土地には林はあるわ釣りが出来そうな池はあるわ…………まだあの土地の関係でマンションのオーナーをしている信哉ですらその姿を知らない訳だから、過去の鳥飼家の繁栄ぶりを直に知らない者には想像も出来ないことだろうと思う。

いや、それがどうこうってことじゃないし、あの当時はそんなもんだったと説明すればいいだけだなのに。

何でかこう上手く説明出来ないでいるのは、外崎了が以前澪と息子の鳥飼信哉が瓜二つだったと知った時に明らかに気落ちして嫉妬したからだ。黒髪だったらよかったなんて呟かれたのを実のところ自分は寝たふりで聞いた訳だが、正直言えば自分は了の栗毛の方が可愛らしいと思っている。いや、そんな事が問題な訳じゃない。今の宏太には信哉の顔を見て確認できないが、藤咲信夫と鳥飼梨央が太鼓判を捺したことが問題なのだ。

信哉の顔は澪とそっくり。

過去の自分にはそのつもりはなかったし、澪だって自分には1寸もそんな感情は持ち合わせていない。それでも端から見れば自分と澪は、ただ幼馴染みで仲の良いだけでは済まない関係性に見えた部分があったのだろう。喜一ですらそれを信じきっていた時代があったから、澪が失踪した時に喜一と宏太は仲違いしたくらいだ。
そして瓜二つの親子を認めると、自然と澪と同じ顔立ちだった鳥飼千羽哉の存在が浮き上がってしまう。つまり恐らくは今の身長や体格からすれば、遥かに信哉の方が澪よりも千羽哉に似ているに違いない。恐らくは昔の写真を見せれば、信哉が年を重ねた姿が容易に想像できる程には似ているだろう。それにしても確かに今になって思い起こせば、鳥飼家というのは人間離れした綺麗な顔立ちの家系だ。勿論澪の母親も綺麗な人だったのだが、千羽哉や澪、信哉の顔立ちはそうそうお目にかかれないレベルだ。

いや、でも千羽哉さんに惚れるとかはない、あの人はない。

そう宏太はハッキリと宣言できる。故人云々とか以前に千羽哉が自分の合気道の師匠であることもあるが、前提として鳥飼家の人間が既に親戚とか親兄弟みたいな存在なのだ。確かに綺麗な和美人系の顔なんだろうけれど、宏太がその系統が好みなのだと周囲が勝手に思っているに過ぎない。それに宏太は鳥飼家に対し、こう認識している事もある。

あれに惚れるってのはないぞ、あれはある意味でもう人外なんだからな

親密な関係にある家系を化け物扱いは酷いと思うだろうが、信哉がその筆頭なのはいうまでもないし澪もそうだ。が、当然の事ながら彼らの血筋である千羽哉という人間も『人間兵器』という言葉に不足なく相応しい。
言うまでもないが宏太がどんなに五体満足で全盛期の時でも、澪には一度も勝てていない。本気でやっても一度も勝てた試しのない相手は、中学生にして歴戦の猛者ばかりの任侠一家を埃1つ被らず叩き潰した女。そして教えられていた古武術11種を、その彼女ですら半分程しか免許皆伝に至れなかったという事実がある。

そう、あの澪が至れないものを千羽哉さんと信哉は習得している

そんな化け物に惚れたら、確実に身がもたない。そんなことを口にしたら草葉の陰で澪が冷え冷えとした視線で『はぁ?何様?』とか言ってきそうなものだが、もし衆道OKとなり得ても絶対に無理だ。

よくまぁ信哉の愛情を梨央は受け止められるものだと実は心底思う。

正直なことをいうと、あの家系の愛情は人の事は言えないとは思うが肉食獣か獰猛な野獣…………それこそ虎か何かにでも捕えられた気分になるに違いない。そういう意味で過去に真見塚成孝に惚れていた澪が、信哉という子供がいながら成孝を捕獲して婚姻しなかったのが不思議でならないのはここだけの話だ。
いや、そんなことはまるっとさておきだ。
宏太は千羽哉にはまるでそんな感情は持ち得ないし、自分には了だけなのだから。そこを上手く了に言葉にして説明できないのは、恐らくは千羽哉に対して心の何処かで憧れというか思慕に近い感情が確かにあるからなのかもしれない。あれ程までに完全無欠の男になれたらとは思うが、そんな完全無欠の人間兵器でも事故には勝てなかった。ただその事故で同乗していた澪だけが無傷で生き残ったのに、偶然とは思えないものを感じる部分がないわけではない。
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