鮮明な月

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間章 ソノサキの合間の話

間話7.至極真っ当で率直な意見2

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もし誰かが2人のための寝室に乱入したら。勿論それが知り合いとか幼馴染みだろうとしても、現実としてはそんなことが起きるなんて考えたくもないことだ。改めて考えてみたって、どんなに例えばを考えてみても、結局は不快なことにはかわりない。友人の結城晴と狭山明良に起きた出来事なのだけれど、榊仁聖にしてみたらどうしても容認は無理そうだという結論なのだった。

これで男同士なんだから、そんなこと別に良いだろなんて言われたのなら

もし恭平に呆れた声でそう言われてしまったら、正直仁聖としてはガッツリと深く深く落ち込む自信がある。というか落ち込まずにはいられないと思う。そりゃ仁聖にしてみてもこれが恭平以外の相手だったとしたら、きっと川の字だろうが雑魚寝だろうが気にもとめないし、下手したら何人もの女性とだとしても裸で寝ていたとしても何も気にもとめなかったに違いない。そんなことに自信をもってどうすると言われそうだけれど、自分は以前にそういう精神状態で平気な顔で生きていたのを理解している。

だけど……恭平は特別…………

初めての恋心、それに唯一無二の人への愛情、そして仁聖の大切な家族。仁聖にとっては他の誰とも比較のしようのない存在。だから、そんな榊恭平も同じ意見だと聞けて心底安堵してしまっていたりする。そう言う意味では、ここで仁聖としてもなおのこと晴が首を傾げたのは分からなくはないのだ。
そんなことを考えながらスリ……と湯上がりのホンノリと暖かい恭平の胸に、覆い被さり抱きつくようにして仁聖は頬を擦り付けていた。まるで押し倒されているみたいにされながら覆い被さってくる仁聖の様子に微笑み恭平がソッと再び頭を撫でてくれるのに、仁聖は胸元に頬を押し当てたまま目を細めていた。

「ふふ…………甘えた……だな?」

以前より短く刈られた仁聖の栗色を髪に指を絡ませ、恭平が柔らかな声で胸を擽るように笑う。大分前から恭平は、気が向くとこうして頭を撫でたり髪をすいたりする。これが密かに恭平が好きな行動なのだというのは仁聖にも分かっていて、同時にこうされているのは仁聖もとっても心地いい。子供扱いとも思うけれど、こうして撫でられているのに安堵して抱きつきつつウットリとしてしまうのだ。優しく何度も何度も頭を撫でられ、引き寄せられ確りと抱き締めてもらえ満ち足りた幸せに存分に甘えさせて貰える。

「好き…………、恭平…………。」

幸せそうに恭平に甘えながら呟く仁聖の言葉に、恭平の瞳が一際柔らかに甘くトロリと緩む。以前とはまるで違う大人びて誰もが見惚れる男に育った仁聖が、こうして満たされた蕩けるように甘い笑顔を浮かべて寛ぐ。その笑顔の甘さには思わず恭平だってボォッと見とれてしまうくらいなのに、当の仁聖は全く気がついてもいない。その癖こんな風に一心に恭平に甘える時の仁聖は、まるでブンブンと尾を振る大型のワンコのようで可愛くて仕方がないのだとつい笑ってしまう。

「ふふ、全く…………。」
「ん?なぁに?」
「お前に甘えられると、弱い…………。」

その言葉にどういうこと?と言いたげに、仁聖が胸の上でジィッと上目遣いに恭平の微笑みを見つめている。ふっと仁聖の口元が悪戯を思い付いたように笑みを浮かべ、大型犬が甘えているみたいに肌を擦り付けながら仁聖は組み敷いた恭平の服の下に指を滑り込ませていた。制止する言葉が恭平の唇から溢れ落ちる前に、パジャマを脱がされてさらけ出される滑らかな白磁の肌にそっと唇を押し当てて這わせる。

「こら…………じ、んせ…………っ。」

唇に触れる肌はホンノリと熱を含んで薔薇にも似た甘く蕩けるような香りを漂わせていて、仁聖の唇の感触に微かに震えながら喘ぐような吐息を溢す。僅かに触れるだけで目に見えて艶かしく恭平の頬が染まっていくのに、仁聖は微笑みながらさらけ出した恭平の胸の突起に舌を絡めるように擦り付ける。

「んぅっ…………っ。」

ツンッと硬く尖り舌に触れる恭平のピンク色の乳首を舌で転がしながら、欲情に潤んだ瞳で自分を見つめている恭平の顔を仁聖は一際幸せそうに見上げる。恭平が仁聖をうけいれてくれてから、どれだけ肌を重ねたか。2人の関係が2年を越してしまっているから、もう実質としては仁聖も数えきれない程になる筈なのだ。その中で何度も触れられ敏感に育ち続けた恭平の身体の何処をどう触れば、恭平がどんな風に反応するか。それを全て知り尽くしているのは仁聖、只一人だけだと思う。

「くぅ………………っ。」

乳首への淫らな愛撫にピリッと快感の電流が走った恭平の唇から、一際甲高く甘い声が溢れ喉が仰け反る。舌に弾かれ転がされる刺激に、小さな乳首が淫らに存在を強くアピールしていく。

「ん、…………っふ…………ぅ…………んっ」

何度も転がされ吸われる刺激で、唇から甘い声がホロホロと溢れ落ちてくる。声を堪えようとして唇を指で塞いでも指で押さえたくらいでは止められなくて、仁聖が見つめるその仕草は言葉では表現しきれない程に艶かしい。触れ合う回数を重ねるほどに、こうして大きく鮮やかに反応してくれる恭平は本当に綺麗だと仁聖は心の底から思う。

「恭平…………大好き…………。」

ウットリと頬を染める恭平を見つめながら、仁聖が熱を込めて再び囁く。それに恭平は薔薇色に頬を染めて見せて、手を伸ばした恭平のしなやかな細い指が仁聖の明るい栗色の髪に絡み付いていた。もう一度柔らかな髪を指ですきながら恭平の手が、ソッと仁聖の頭を包み込むようにして胸に引き寄せてくれる。

「じ、んせえ…………。」

甘く快楽に蕩ける柔らかな誘いかける声。これ以上の、この先の仁聖がする行為を許してくれて、しかも自ら誘いかけてもくれている。それを示すように、恭平の声が溢れ落ちて名前を繰り返す。普段の凛とした涼やかな恭平の芯のある穏やかな声とは違う。自分だけの宝物の声が名前を呼んでくれるのに促されて、仁聖は思うままに肌に舌を這わせていく。

「あ、んっ…………あぁ……。」

乳首だけでなく、鎖骨、喉元、滑らかな腹筋。ヌルリ……とその舌が幾つも幾つも恭平の心地良い場所を重点的に舐めて擦りたてていく。それに恭平の声が熱く糖度を増していくのが、仁聖の耳には例えようもなく心地良い。

俺だけ

恭平がこんな風に甘える声を出してくれるのが、自分だけだと十分な程に知っている。村瀬篠のように友人として心を許した相手だとしても恭平の声はこんな風には甘くはならないし、どんなに鳥飼信哉のように親密になっていてもこんな甘え声には変わらない。それをちゃんと理解しているから、何よりも自分を大事に思ってくれているのも分かっているから。

「や、んんっ…………く、ぅ……っ。」

腰を抱き身体を押し付けながら口づける仁聖の動きにあわせて、恭平が恥じらいながらも思わず我慢できずに脚を開く様は例えようもなく艶かしい。白磁の肌に潤んだ黒曜石の瞳がこれから仁聖が何をするのか期待して、濡れたように欲情に光っているのに気がついて仁聖は目を細めていた。

「恭平…………どうしたい……?」

誘いかけるような問いかけに、恭平の頬がフッと色を増して染まる。最初の頃はこう問いかけると戸惑いに我に帰り曇ってしまい勝ちだった恭平の表情だけど、今はこうして2人でいることに慣れてくれてもいるから。それを示すように頬をフワリと染め一際瞳を潤ませた恭平が、仁聖を両手で引き寄せ小さく耳元に囁く。

「じん、………………せぇ…………、もっ、と。」

もっと気持ち良いところをもっと沢山舐めてと甘い声が、それ以上は言葉にならない声で恥ずかしそうにしながらも仁聖に快感を強請る。背筋がゾクゾクする程に甘い声で、そんなことを囁く恭平に喉をならす仁聖の服を恭平の指が慌ただしく脱がせにかかっているのに気がつく。こんな風に恭平から強請られるようになるなんて、信じられないことだったのが嘘のように。

「仁聖…………、もっと、…………して。」

もっとしてなんて悩殺ものの声で強請り、恭平がユラリと腰を浮かせる。慌ただしく恭平の指に肌をさらされながらも仁聖が、恭平の腰を両手で抱き上げて引き上げたのに更に淫らに腰がうねる。欲しくて堪らないと訴える激しい欲望に浮かされて無意識に仁聖の腰に脚を絡めて引き付けて、恭平が自ら仁聖を迎え入れるように股間を強く押し付けていた。

「きょうへ…………っ」

脚を絡められて押し付けられる滑らかな肌の感触に、堪らず熱く先端を滾らせて押し付けている仁聖の声が上ずる。柔らかく大きく開かれた恭平のしなやかな脚に細い腰、それを引き寄せる自らの手に力が籠るのは止めようがない。何度も熱を込めて口づけながら、押し付けていく怒張は既に杭のように硬く張り詰めきっていた。

「んんぅっ!」

グプッと灼熱のような先端がキツい体内に呑み込まれた瞬間に、僅かに苦痛めいた声が上がって恭平の眉が寄る。普段ならもっと時間をかけ愛撫で存分に慣らしてからか潤滑剤を使いでもしてからの挿入なのだから、誘われたとは言え欲望に任せた挿入には恭平の身体が追い付かないのだと仁聖もハッと気がついてしまう。それでも怒張を包み込む痺れる快感に微かに息を荒げながら、仁聖がソッと抱き寄せた恭平の耳元に心配そうに囁く。

「ごめ…………、辛い、よね?」
「ん……ふ、…………っく……な…………。」

ホンノリと目元を涙に潤ませ否定に頭を振る恭平の両手が、仁聖の身体に縋るようにまわされる。そう言いながら恭平はきつく締め付ける体内を揺らめかせ、必死に抱きつくようにして淫らに腰を揺すりたてていく。そんな恭平の仕草に仁聖は嬉しそうに微笑みながら、ユックリと身体を押し付けていた。

「あ、はぁ……んんっ。」

ズリッと腸壁を擦り付けながら奥に捩じ込まれる快感に、恭平の喉が鳴り顔が天を仰ぐように仰け反る。その真っ白な喉元に口づけながら下から突き上げるように仁聖が腰を突き出すのに、恭平は甘い声を上げながら深くそれを受け止めていく。

「恭平…………、好き…………大好き…………っ」

抱き締められながら甘く囁かれ、それに併せて腰が叩きつけられてしまう。最初に感じた筈の痛みは消え失せて、あっという間に貫かれ擦られる快感に震えて喘いでしまっている自分に恭平は頬を染めていた。

「も、あ……っあぁ…………っ、んんっ……あぁっ!」



※※※



「明良。」

耳に届く柔らかな甘い声。でもその滑らかな肌をした結城晴の顎につけられた赤黒い内出血の痣を目にするだけで、狭山明良の胸は締め付けられるように大きく軋んで痛む。見るたびに自分が傷をつけられたのならとすら思う。正直言えば自分が傷つけられたのなら、何とでも出来るのだ。痛みだって傷つけられる恐怖だって明良なら何とでも出来るのに、こうして晴が傷つけられてしまったのに今の明良は無力でしかない。

大事な可愛い晴。

自分にとって唯一の存在なのに、こんな風に傷つけられてしまった。そしてその相手に対して明良は、実際には何も手が出せないでいる。
榊恭平や槙山忠志にも諭されたのは、恐らくは庄司陸斗の狙いは明良に暴力を振るわせることではないかと言うことなのだった。どんなに明良と陸斗が同じ技能を持っていても、もし先に明良が陸斗に怪我を追わせれば陸斗は正当防衛を主張できる。ある意味では晴がそれを主張することも可能と言えば可能なのだが、同時に明良との関係を逆手にとられる危険性もあるのを分かっているからと晴はそれを望まない。そこまで相手に想定されているのかどうか迄は明良達にも分からないが、何を考えているのか分からない現状ではこれ以上は動けないまま。以前から意図して友人とかを削り続けてきたと言う話はさておき、少なくとも今回に関しては陸斗は意図して明良と晴に関わっているのだと思う。それだけしか分からない明良には、晴を傷つけた陸斗に何も手が出せない。

「大丈夫だよ、明良。」

ちゃんと気をつけて行動するからと晴が、明良に何時もと変わらずに明るく微笑んで見せる。少なくとも一人の時に陸斗と鉢合わせたりしなければ再び晴が襲われるような危険は少ないだろうし、明良と陸斗が同程度の技能なら外崎宏太のところで晴が仕事をしている分には問題がない。何しろ明良は宏太には全く敵わないのだ。それに陸斗自身だって刑事として仕事をしているのだから、四六時中晴と明良を付け狙っていると言うわけでもない筈。

そうは分かってる。分かってるんだ…………

でも、それでも明良は、これまでにない強い不安を拭えないでいる。こんなにも大事に思う唯一無二の存在の晴に激しい害意を向けられていて、しかもその男がこれまでに何度も自分と他人の間に割り込み続けていたのだと知ってしまったら。

「明良?」

気がつかないでいたと思っていたけれど、こうして考えてみると確かに明良と陸斗の関係は異常だったのかもしれない。恋人だけでなく同級生等の友人といた時にも何度か陸斗に絡まれ、出かける予定が中断したり変更したことは数えきれないほどある。ただ明良はそれをずっと、陸斗が愛想がよく誰とでも直ぐに仲良くなれてしまうからなのだと勝手に解釈して諦めてきた。そうではなくて意図して割り込み自分を孤立させるための行動だったと知らされ、恋人である晴が男性であったから今回はこれまでの方法が使えないという。

………………何でそんな事を陸斗がし続けるのか、ハッキリさせないと

でもそれを知るには一体何をどうしたらいいのかと戸惑う。そして同時にそれを知ってしまったら、この先に自分と陸斗はどうなるのか。

「明良ってば?苦しいよ。」

ハッと腕の中の晴がそう囁くのに我にかえる。大丈夫だよと笑う晴を抱き締めていた腕が力を込めすぎていて、少しだけ苦しげに晴が身を捩っていたのだ。そうして晴はもう一度大丈夫だからと繰り返して、柔らかく微笑みかける。
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