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間章 ソノサキの合間の話
間話6.至極真っ当で率直な意見
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自分と同性の恋人。
その恋人と2人でのみ使う自宅の大事なベット。そこにだ、幾ら片方のよく知る幼馴染みとはいえ、恋人達と一緒に寝る。そう言う状況に自分が陥ったらどう感じるか?と言う話なのだ。これが例えば恋人が異性だったら?まぁそれでも結果としては何も良い訳じゃないのだが、正直言ったら普通抵抗を感じるものじゃないだろうかと思う。
だってさぁ?言い換えたら夫婦のベットに他人が一緒に寝るのと同じな訳だよ?
勿論同性愛云々以前の問題で、夫婦関係の2人、恋人同士の2人が普段使うベットに一緒に寝るってこと事態に、抵抗感があって当然ではないだろうかと榊仁聖としては思う。自分が割りと昔は性的に柔軟性があったのは事実だけ、流石に恋人同士のベット………………確かにセフレとして他に恋人がいる女性と寝たことは何度かはあるけど、流石に恋人がいるところに一緒に寝るなんてことはあり得ない。
それに晴の話を再現すると、ここで仁聖で言えば一緒のベットに大事な人……榊恭平と幼馴染み(まぁ恭平からしたら異母弟と言う枕詞もあるのだけれど)宮内慶太郎を寝かせるか?と言うことになる…………と寝室のベットの上に胡座をかき枕を抱き上げ仁聖は独り想像してみる。
広いキングサイズの寝室のベットは恭平が昔から使っているものではあるが、今では日常的に2人で抱き合う愛の巣でもある訳だ。そこに幼馴染みだろうと異母弟だろうと一緒に寝る?想像はしてみるのだが、正直仁聖としては目が覚めて一緒にそこに慶太郎が寝てたら理由を聞く前に真っ先に殴るか蹴るかしてしまいそうな。
だってあの話だと意図的に2人のベットルームに幼馴染みだよ?!無理でしょ!
結城晴から『一緒に寝てて驚いた』程度に聞いた話とはいえ、それが意図して乱入されたのだとしたら不快極まりない。ベットを含めて、ここはもう2人だけの空間なのだ。2人が寄り添って一緒に過ごすための空間に、わざと乱入して偶然を装って過ごされるなんて正直ごめん被りたい。
何もなくても嫌なんだけど…………
ただ一緒に寝ただけだとしても、この部屋で第3者が一晩過ごすなんて考えたくもない。なにしろここは大事な恭平と仁聖の空間なのだと思うのは自己中心的なのだろうか。そう思うと恋人の狭山明良は結構立派に嫉妬する質だから寝ていたのが幼馴染みとはいえ、目が覚めた時に気がついて蹴り落としたのではないだろうかと密かに仁聖としては思っている。
それにもしこれがまた自分の幼馴染みではなく相手の幼馴染みだったとしたら…………例えば、村瀬篠が寝てる…………?いや、どう考えても篠はそういうことはしなさそうだ。だとしたら、幼馴染みではなく例えばそう、過去の成田了だったら?目が覚めて成田了が一緒のベットに寝ていたら…………
うん、絶対に自分は激怒してるな。
大体にして了達と以前家で宅飲みしただけでも、高校生だった仁聖は異様な嫉妬で狂ったようになったのだった。嫉妬にかられて恭平に目茶苦茶なことをしたことがある前科があったのを、今更のように仁聖は思い出して枕に顔を埋めてしまう。
恭平にトンでもないことして、俺……泣かれたんだった………………
…………それに成田了でなくて…………そうでなかったら最近特に恭平と親しくなっている鳥飼信哉とかだったら?いや!そりゃ駄目だ!絶対に。いや、流石にあの人にはどうやったって勝てる気はしないけど、寝起きで自分を挟んで寝てたら…………衝撃的過ぎて即日仁聖は鳥飼家の奥さんに電話するに違いない。
そうだ、そうするな、そうしたら梨央さんなら氷の微笑で駆けつけてくれそう…………っていうか
その時点で溺愛の範疇の愛妻家で子煩悩でもある信哉が、何をどうしたって他人の家に雑魚寝でも泊まるなんてことが有り得るわけないと前提である『泊まる』こと自体が消滅するのに気がつくけれど。そんなことをウンウンと枕を抱きかかえて、仁聖はまぁこうなってくるとヤッパリ男友達とはいえ恋人同士が寝るベットに潜り込むなんて事態は、普通なら想像どころか有り得ないんだと結論が出てしまう。
「…………どうした?仁聖。難しい顔して……?」
フワリと甘く風呂上がりの艶を漂わせて寝室に足を踏み入れてきた恭平が不思議そうに首を傾げて問いかけてきたのに、仁聖はなおのことその色香の漂う綺麗な姿を眺め神妙な顔で『うん、ヤッパリ無しだよね』と改めて呟く。
「無いな、無理。絶対無理。」
「何が?」
「一緒のベットに他人が入り込むっての。」
その言葉で『あぁあの話か』と恭平が思わず苦笑いしているが、ヤッパリ考えたくもないし考えられない事態なのだと仁聖は断言する。大体にして全くそんな関係にない性的な意味でも何もない友達同士だとしても、男3人同じベットに川の字になって寝るって言うのもどうかと思う。そう仁聖が枕を抱きながら呟くと、恭平も何気なく男3人が同じベットにと想像してみたらしく口元に浮かぶ苦笑いが深まった。恭平の頭にふと浮かんだのは自分と篠ではなく、鳥飼信哉と宇野(宮井)智雪と土志田悌順の3人組だったりするのだが、流石にこの歳で3人が同じベットは想像するのが怖い。
「まぁ確かにな…………。」
小学生の頃の幼い状態なら兎も角、酔った勢いでも成人男子3人と言われると確かに苦笑せざるを得ないなと言う恭平に、酔ってるって前提もなぁと仁聖が眉を潜める。目の前の恭平ですら酔うと微妙に仁聖には甘えたになることがあるのは確か。以前の様子からすると親友の篠に対してもそれは少しあるみたいだし信哉にも割合素直に接している気配があるから、基本的に気を許すとその傾向が強い。
「でも、雑魚寝はあるが、同じベットは経験がないな、流石に。」
「あったらやだよ。…………俺。」
キシッと軽い音を立ててベットに腰かける恭平が仁聖を覗き込み、改めてそんなのは経験無いからと恭平が思わず口にしながら笑う。そんなことあったら困るし嫌だと頬を膨らませて更に呟く仁聖に、改めて今後もそんなことはないからと優しく微笑む恭平が頬に口付けてくれる。
「今度から飲む時は一緒に行けばいいか。」
「最近はそんなに酔うことないだろ?」
確かに以前は肩を貸されて帰ってきた事があった恭平だけど、最近はそれ程の状況まで酔うこともない。それにそう言う状況になる時にはこれからは仁聖も同席出来るのだから、まぁ恭平が言う通り問題にはならないだろう。
それにしても改めて晴の話と今回の出来事を考えると、意図してそんなことをしたらどうやっても関係性が悪くなるのではとも仁聖は心の中で思う。しかもあんな風に顔に傷をつけてしまうような行動をしたら、どんな関係だって悪くなって当然だ。
まるで悪くなるのも仕方がないって思ってて、やったみたいに見えてしまう…………
明良の様子からすると明良にとっても、今回の話は殆どが寝耳に水だったようだった。何で庄司陸斗が晴にこんなことをしたのかと、晴と恭平から話を聞いて明良自身が絶句していた有り様だ。
元々幼馴染みとしても仲の良くなかった明良と陸斗の関係。どうやら晴と明良が仲が良いのが陸斗には気に入らないのだろうとは明良も思っていたようだが、それだからと言って晴に危害が及ぶ可能性があるなんて1つも思っていなかったのだ。それはそうだろう、仲の悪い幼馴染みなのだから。だから、あんな風に陸斗が直に晴に怪我をさせるとは、明良は露程も思っていなかった。
仲の悪い幼馴染み…………
仲が良くてずっと一緒にいたのなら、また話は違ったのだろう。でも現実として明良と陸斗は仲が悪かったのだ。
「………………ヤッパリなんか、変な話だよね?」
「ん?」
これまで明良の友達や恋人の一緒にいるところを再三陸斗が邪魔してきていたのだと言う話は、晴や明良の言葉から少しは仁聖にも察することが出来た。とはいえ仲が悪い相手にするには、陸斗の行動はどうなのだと思う。明良の溺愛ぶりからしたら、晴に怪我をさせるなんて陸斗の行動は最悪の選択だとしか言えない。しかも人を見抜くのに長けた面を持つ晴に痛いところを突かれて思わず逆上して手を出して、怪我までさせてしまうなんて。そんなの明良に伝わったら、これまでの関係性がどんなに良かったとしても、瓦解するのは目に見えている。
「何でそんなことしたのかなぁ?」
自分だったら絶対にそんなことはしない。恭平に嫌われるような行動は絶対にしないのは、仁聖にとって大前提ではある。けれど、もし陸斗の立場になっていたとして、何でこんな行動に出たのかと思うと理解に苦しむ。そう呟く仁聖に横に腰かけた恭平も少し考え込む様子をみせている。
「…………これまでとは…………違うことが、幾つかあるんだろうな…………。」
何とはなしに呟いた恭平の言葉は、ある意味では核心を掠めているのかもしれないと仁聖も思う。何しろ狭山明良はこれまで完全なヘテロセクシャルで生きていた。しかも他の交流があまり得意ではなかったのだが、ここにきて唯一晴だけは特別で言葉通りに首ったけの溺愛なのだ。更に明良は既に家族にも晴を恋人として紹介していて、狭山の家族達もその晴のことを新たな家族の一員の明良の恋人として受け入れてもいる。
「短期間でそんな風に……明良に変化されたから、焦った…………とか?」
確かに自分の知らない短期間に、あそこまで晴だけのものになってしまった明良をみたら驚くに違いない。とはいえ何度も言うが幼馴染みとしては仲の良くなかったと明良は感じていたらしいところをみると、陸斗が何故ここにきて突然にここまであからさまな表だった行動に出て来たのだろうか。
まぁ…………憎しみと愛情は紙一重なものでもあるし
それに陸斗の人柄も分からない2人には首をかしげるしかないのも事実だ。少なくともこうなると晴を実力行使で傷つけられるのは明良が許しはしないだろうし、晴だって前提が変わっていれば自分でも身を守る方向性に変わるに違いない。少なくとも今日のように晴だけが陸斗に絡まれて、再び怪我をするなんてことはなくなると2人だって思う。
そう思いながらも、ふと目の前の恭平の顔を上目遣いに見つめて仁聖が躊躇い勝ちに呟く。
「…………恭平。」
「ん?」
短期間で大きな変化。それは狭山明良だけに言えることではなくて晴にも言えるし、外崎宏太達にも仁聖にも目の前の大切な人にも言えることなのだった。勿論この2年に起きた自分に対する恭平の変化は言うまでもないことなのだけれど、恭平が関わる人間模様は大きく変わったし恭平自信も大きく変化してきたのだ。前ならあれほど迄にかたくなに避けていた筈の宮内家とも今の恭平は少しずつ交流しているし、合気道の関係の交流も新たに増え始めている。本当ならそれを仁聖としては、一番に喜ぶべきなのは分かるけれど。
「…………仁聖。」
自分の中にある言葉にするには子供じみた嫉妬心を須く見透かされたみたいに、首を傾げて覗き込んできた黒曜石の瞳が甘く弛み柔らかで暖かい微笑みを浮かべている。そんな優しくて甘い視線で覗き込まれているのに、ホンノリ頬を染めた仁聖の唇にフッと顔寄せた恭平の唇が触れていた。
「…………俺には目が覚めたら川の字なんて無いから、そんな顔するな。」
朗らかに笑いながらあやすようにそう告げる恭平に、そういうことじゃないんだけどなぁと思わず仁聖は不貞腐れる。いや、話の本題は確かにそこではあったのだけども、言いたいことは少し違う。自分が恭平に向けて言いたいのは恭平が自分以外に興味を示すようになったのが嫌だなぁっていう話であって、晴と明良のような珍妙な状況にならなきゃ良いと言う話ではない。そう仁聖としては言いたいのに、恭平は笑いながらヨシヨシと子供にするみたいに仁聖の頭を撫でてくる。それに子供扱いしてるでしょと仁聖は、尚更のように頬を膨らまていせる。
「お前は最近急に大人びたから、そう言うとこみると少し安心するな。」
「なにそれ……もぉ…………。」
流石に邪魔になる枕を手放して延びてきた仁聖の手が恭平の細い腰を抱き寄せるのに、恭平がクスクスと笑う。子供扱いしないでと抱き寄せつつもベットに押し倒しながら囁く声に、恭平はホンノリと甘い香りを漂わせながら目を細めていた。
「まぁ、確かにここに他の誰か…………は、嫌だな。至極真っ当だ。」
クスクスとまだ笑いながら囁く恭平に覆い被さりながら仁聖が『率直な意見でしょ?』と返してきたのに恭平も頷く。確かに嫌がらせとしては最上級の行動なんだけど、下手すると何より一番嫌われる可能性のある行動なんだよなと心の中で囁く自分がいるのに仁聖も気がついていた。
その恋人と2人でのみ使う自宅の大事なベット。そこにだ、幾ら片方のよく知る幼馴染みとはいえ、恋人達と一緒に寝る。そう言う状況に自分が陥ったらどう感じるか?と言う話なのだ。これが例えば恋人が異性だったら?まぁそれでも結果としては何も良い訳じゃないのだが、正直言ったら普通抵抗を感じるものじゃないだろうかと思う。
だってさぁ?言い換えたら夫婦のベットに他人が一緒に寝るのと同じな訳だよ?
勿論同性愛云々以前の問題で、夫婦関係の2人、恋人同士の2人が普段使うベットに一緒に寝るってこと事態に、抵抗感があって当然ではないだろうかと榊仁聖としては思う。自分が割りと昔は性的に柔軟性があったのは事実だけ、流石に恋人同士のベット………………確かにセフレとして他に恋人がいる女性と寝たことは何度かはあるけど、流石に恋人がいるところに一緒に寝るなんてことはあり得ない。
それに晴の話を再現すると、ここで仁聖で言えば一緒のベットに大事な人……榊恭平と幼馴染み(まぁ恭平からしたら異母弟と言う枕詞もあるのだけれど)宮内慶太郎を寝かせるか?と言うことになる…………と寝室のベットの上に胡座をかき枕を抱き上げ仁聖は独り想像してみる。
広いキングサイズの寝室のベットは恭平が昔から使っているものではあるが、今では日常的に2人で抱き合う愛の巣でもある訳だ。そこに幼馴染みだろうと異母弟だろうと一緒に寝る?想像はしてみるのだが、正直仁聖としては目が覚めて一緒にそこに慶太郎が寝てたら理由を聞く前に真っ先に殴るか蹴るかしてしまいそうな。
だってあの話だと意図的に2人のベットルームに幼馴染みだよ?!無理でしょ!
結城晴から『一緒に寝てて驚いた』程度に聞いた話とはいえ、それが意図して乱入されたのだとしたら不快極まりない。ベットを含めて、ここはもう2人だけの空間なのだ。2人が寄り添って一緒に過ごすための空間に、わざと乱入して偶然を装って過ごされるなんて正直ごめん被りたい。
何もなくても嫌なんだけど…………
ただ一緒に寝ただけだとしても、この部屋で第3者が一晩過ごすなんて考えたくもない。なにしろここは大事な恭平と仁聖の空間なのだと思うのは自己中心的なのだろうか。そう思うと恋人の狭山明良は結構立派に嫉妬する質だから寝ていたのが幼馴染みとはいえ、目が覚めた時に気がついて蹴り落としたのではないだろうかと密かに仁聖としては思っている。
それにもしこれがまた自分の幼馴染みではなく相手の幼馴染みだったとしたら…………例えば、村瀬篠が寝てる…………?いや、どう考えても篠はそういうことはしなさそうだ。だとしたら、幼馴染みではなく例えばそう、過去の成田了だったら?目が覚めて成田了が一緒のベットに寝ていたら…………
うん、絶対に自分は激怒してるな。
大体にして了達と以前家で宅飲みしただけでも、高校生だった仁聖は異様な嫉妬で狂ったようになったのだった。嫉妬にかられて恭平に目茶苦茶なことをしたことがある前科があったのを、今更のように仁聖は思い出して枕に顔を埋めてしまう。
恭平にトンでもないことして、俺……泣かれたんだった………………
…………それに成田了でなくて…………そうでなかったら最近特に恭平と親しくなっている鳥飼信哉とかだったら?いや!そりゃ駄目だ!絶対に。いや、流石にあの人にはどうやったって勝てる気はしないけど、寝起きで自分を挟んで寝てたら…………衝撃的過ぎて即日仁聖は鳥飼家の奥さんに電話するに違いない。
そうだ、そうするな、そうしたら梨央さんなら氷の微笑で駆けつけてくれそう…………っていうか
その時点で溺愛の範疇の愛妻家で子煩悩でもある信哉が、何をどうしたって他人の家に雑魚寝でも泊まるなんてことが有り得るわけないと前提である『泊まる』こと自体が消滅するのに気がつくけれど。そんなことをウンウンと枕を抱きかかえて、仁聖はまぁこうなってくるとヤッパリ男友達とはいえ恋人同士が寝るベットに潜り込むなんて事態は、普通なら想像どころか有り得ないんだと結論が出てしまう。
「…………どうした?仁聖。難しい顔して……?」
フワリと甘く風呂上がりの艶を漂わせて寝室に足を踏み入れてきた恭平が不思議そうに首を傾げて問いかけてきたのに、仁聖はなおのことその色香の漂う綺麗な姿を眺め神妙な顔で『うん、ヤッパリ無しだよね』と改めて呟く。
「無いな、無理。絶対無理。」
「何が?」
「一緒のベットに他人が入り込むっての。」
その言葉で『あぁあの話か』と恭平が思わず苦笑いしているが、ヤッパリ考えたくもないし考えられない事態なのだと仁聖は断言する。大体にして全くそんな関係にない性的な意味でも何もない友達同士だとしても、男3人同じベットに川の字になって寝るって言うのもどうかと思う。そう仁聖が枕を抱きながら呟くと、恭平も何気なく男3人が同じベットにと想像してみたらしく口元に浮かぶ苦笑いが深まった。恭平の頭にふと浮かんだのは自分と篠ではなく、鳥飼信哉と宇野(宮井)智雪と土志田悌順の3人組だったりするのだが、流石にこの歳で3人が同じベットは想像するのが怖い。
「まぁ確かにな…………。」
小学生の頃の幼い状態なら兎も角、酔った勢いでも成人男子3人と言われると確かに苦笑せざるを得ないなと言う恭平に、酔ってるって前提もなぁと仁聖が眉を潜める。目の前の恭平ですら酔うと微妙に仁聖には甘えたになることがあるのは確か。以前の様子からすると親友の篠に対してもそれは少しあるみたいだし信哉にも割合素直に接している気配があるから、基本的に気を許すとその傾向が強い。
「でも、雑魚寝はあるが、同じベットは経験がないな、流石に。」
「あったらやだよ。…………俺。」
キシッと軽い音を立ててベットに腰かける恭平が仁聖を覗き込み、改めてそんなのは経験無いからと恭平が思わず口にしながら笑う。そんなことあったら困るし嫌だと頬を膨らませて更に呟く仁聖に、改めて今後もそんなことはないからと優しく微笑む恭平が頬に口付けてくれる。
「今度から飲む時は一緒に行けばいいか。」
「最近はそんなに酔うことないだろ?」
確かに以前は肩を貸されて帰ってきた事があった恭平だけど、最近はそれ程の状況まで酔うこともない。それにそう言う状況になる時にはこれからは仁聖も同席出来るのだから、まぁ恭平が言う通り問題にはならないだろう。
それにしても改めて晴の話と今回の出来事を考えると、意図してそんなことをしたらどうやっても関係性が悪くなるのではとも仁聖は心の中で思う。しかもあんな風に顔に傷をつけてしまうような行動をしたら、どんな関係だって悪くなって当然だ。
まるで悪くなるのも仕方がないって思ってて、やったみたいに見えてしまう…………
明良の様子からすると明良にとっても、今回の話は殆どが寝耳に水だったようだった。何で庄司陸斗が晴にこんなことをしたのかと、晴と恭平から話を聞いて明良自身が絶句していた有り様だ。
元々幼馴染みとしても仲の良くなかった明良と陸斗の関係。どうやら晴と明良が仲が良いのが陸斗には気に入らないのだろうとは明良も思っていたようだが、それだからと言って晴に危害が及ぶ可能性があるなんて1つも思っていなかったのだ。それはそうだろう、仲の悪い幼馴染みなのだから。だから、あんな風に陸斗が直に晴に怪我をさせるとは、明良は露程も思っていなかった。
仲の悪い幼馴染み…………
仲が良くてずっと一緒にいたのなら、また話は違ったのだろう。でも現実として明良と陸斗は仲が悪かったのだ。
「………………ヤッパリなんか、変な話だよね?」
「ん?」
これまで明良の友達や恋人の一緒にいるところを再三陸斗が邪魔してきていたのだと言う話は、晴や明良の言葉から少しは仁聖にも察することが出来た。とはいえ仲が悪い相手にするには、陸斗の行動はどうなのだと思う。明良の溺愛ぶりからしたら、晴に怪我をさせるなんて陸斗の行動は最悪の選択だとしか言えない。しかも人を見抜くのに長けた面を持つ晴に痛いところを突かれて思わず逆上して手を出して、怪我までさせてしまうなんて。そんなの明良に伝わったら、これまでの関係性がどんなに良かったとしても、瓦解するのは目に見えている。
「何でそんなことしたのかなぁ?」
自分だったら絶対にそんなことはしない。恭平に嫌われるような行動は絶対にしないのは、仁聖にとって大前提ではある。けれど、もし陸斗の立場になっていたとして、何でこんな行動に出たのかと思うと理解に苦しむ。そう呟く仁聖に横に腰かけた恭平も少し考え込む様子をみせている。
「…………これまでとは…………違うことが、幾つかあるんだろうな…………。」
何とはなしに呟いた恭平の言葉は、ある意味では核心を掠めているのかもしれないと仁聖も思う。何しろ狭山明良はこれまで完全なヘテロセクシャルで生きていた。しかも他の交流があまり得意ではなかったのだが、ここにきて唯一晴だけは特別で言葉通りに首ったけの溺愛なのだ。更に明良は既に家族にも晴を恋人として紹介していて、狭山の家族達もその晴のことを新たな家族の一員の明良の恋人として受け入れてもいる。
「短期間でそんな風に……明良に変化されたから、焦った…………とか?」
確かに自分の知らない短期間に、あそこまで晴だけのものになってしまった明良をみたら驚くに違いない。とはいえ何度も言うが幼馴染みとしては仲の良くなかったと明良は感じていたらしいところをみると、陸斗が何故ここにきて突然にここまであからさまな表だった行動に出て来たのだろうか。
まぁ…………憎しみと愛情は紙一重なものでもあるし
それに陸斗の人柄も分からない2人には首をかしげるしかないのも事実だ。少なくともこうなると晴を実力行使で傷つけられるのは明良が許しはしないだろうし、晴だって前提が変わっていれば自分でも身を守る方向性に変わるに違いない。少なくとも今日のように晴だけが陸斗に絡まれて、再び怪我をするなんてことはなくなると2人だって思う。
そう思いながらも、ふと目の前の恭平の顔を上目遣いに見つめて仁聖が躊躇い勝ちに呟く。
「…………恭平。」
「ん?」
短期間で大きな変化。それは狭山明良だけに言えることではなくて晴にも言えるし、外崎宏太達にも仁聖にも目の前の大切な人にも言えることなのだった。勿論この2年に起きた自分に対する恭平の変化は言うまでもないことなのだけれど、恭平が関わる人間模様は大きく変わったし恭平自信も大きく変化してきたのだ。前ならあれほど迄にかたくなに避けていた筈の宮内家とも今の恭平は少しずつ交流しているし、合気道の関係の交流も新たに増え始めている。本当ならそれを仁聖としては、一番に喜ぶべきなのは分かるけれど。
「…………仁聖。」
自分の中にある言葉にするには子供じみた嫉妬心を須く見透かされたみたいに、首を傾げて覗き込んできた黒曜石の瞳が甘く弛み柔らかで暖かい微笑みを浮かべている。そんな優しくて甘い視線で覗き込まれているのに、ホンノリ頬を染めた仁聖の唇にフッと顔寄せた恭平の唇が触れていた。
「…………俺には目が覚めたら川の字なんて無いから、そんな顔するな。」
朗らかに笑いながらあやすようにそう告げる恭平に、そういうことじゃないんだけどなぁと思わず仁聖は不貞腐れる。いや、話の本題は確かにそこではあったのだけども、言いたいことは少し違う。自分が恭平に向けて言いたいのは恭平が自分以外に興味を示すようになったのが嫌だなぁっていう話であって、晴と明良のような珍妙な状況にならなきゃ良いと言う話ではない。そう仁聖としては言いたいのに、恭平は笑いながらヨシヨシと子供にするみたいに仁聖の頭を撫でてくる。それに子供扱いしてるでしょと仁聖は、尚更のように頬を膨らまていせる。
「お前は最近急に大人びたから、そう言うとこみると少し安心するな。」
「なにそれ……もぉ…………。」
流石に邪魔になる枕を手放して延びてきた仁聖の手が恭平の細い腰を抱き寄せるのに、恭平がクスクスと笑う。子供扱いしないでと抱き寄せつつもベットに押し倒しながら囁く声に、恭平はホンノリと甘い香りを漂わせながら目を細めていた。
「まぁ、確かにここに他の誰か…………は、嫌だな。至極真っ当だ。」
クスクスとまだ笑いながら囁く恭平に覆い被さりながら仁聖が『率直な意見でしょ?』と返してきたのに恭平も頷く。確かに嫌がらせとしては最上級の行動なんだけど、下手すると何より一番嫌われる可能性のある行動なんだよなと心の中で囁く自分がいるのに仁聖も気がついていた。
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