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間章 ソノサキの合間の話
間話9.他人様には聞かせられない
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この年になってこんな話はをするのも何だけれども、他人にはちょっと聞かせられないと思うものが最近の外崎了には幾つかある。というかこれは他人どころか自分が聞いているのだって、実は少しどころではなくかなり恥ずかしい。了が成田から外崎になって、既に1年半近くが経とうとしている。最初は何を言っているんだと思ってしまっていた部分もあったのだけど、こうして一緒に暮らして日々を過ごしていく内に宏太の態度は目に見えて変化してしまっていた。
溺愛……っていうんだよなぁ…………多分これって
結城晴には散々指摘されているし、自分で言うのも恥ずかしいがどうみても宏太の自分への態度は度を越した溺愛だってことは理解している。何しろ了が泣くのもダメなら何かに怒るのもダメ、しかもちょっと体調を崩そうものなら文字通り血相を変えて過保護なんてものじゃない状態に変わってしまう。この間みたいに了が倒れでもしようものなら、暫くは膝の上からどうやっても下ろしてもらえない有り様なのだ。
いや、うん、それがダメって言うか…………
それが駄目なのではない。勿論宏太から大事にされているのだと、了にもちゃんと分かっている。けれど、宏太の溺愛度合いが日々メキメキと増していて、される方の了も段々恥ずかしくなってしまう有り様なのだし、何しろあの宏太が過保護になるだけでなく日々愛の言葉なんて囁いて抱き締めてくるのだ。何時も冷静で揺らぎもしない男だと思っていた宏太と、こんな風にバカップルみたいにイチャイチャする日が来るなんて了にだって信じられない。大体にしてこの変化には昨年亡くなった幼馴染みの遠坂喜一だけでなく、久保田夫妻も自分も、宮直行を初めとする面々も、宏太の中身が入れ替わった?!とか宇宙人に拐われ洗脳されただのとか口を揃えて言う状態だったりするのだ。
「了…………?」
「ひゃっ!!」
ソッと甘く優しい口調。そんな低く響く掠れ声で耳元に名前を囁きかけてくる宏太の声に、食器を洗いながら物思いに耽っていた了は思わず飛び上がってしまいそうになっていた。全く宏太ときたら寸前まで目の前に座っていた筈なのに、気配もなくこうしてあっという間に背後から傍に寄ってきているのだ。背後から了を簡単に捕獲しながら耳元で甘い声で囁くものだから、大抵こうして驚かされてしまう。しかも既に腰に回された宏太の手がガッチリと了を捕獲する体勢なのに、了は手にしていた最後の食器を置きながらも何とか腕から離れようとジタバタともがく。
「皿洗ってるとこだってば。危ないから。」
「終わったろ?それが最後だ。」
「でも、キッチンの中ではダメって言ってるだろ。」
「でも終わったところだ。火も使ってない。」
暫く前にこうして捕獲された際にヤカンの蒸気で了が火傷してしまったことがあって、宏太は了とキッチンでは手を出さないという約束をした。だけど、ここ最近の出来事のせいか宏太はあの特殊な聴覚をフルに活用し音で危険がないのをちゃんと確認してから、こうして近寄ってきて抱き締めてくるようになってしまったのだ。了との約束通り危険がある調理中とか火を使ったりしているうちには、絶対に手は出してこない。約束はちゃんと守ってくれているのだけど、皿洗い程度だと終わりが耳でも判断できてしまうのが宏太なのだ。何しろ皿の枚数とか了の動きで、宏太はちゃんと状況を把握出来てしまっている。
「こら、ダメって。」
「離れてるのが寂しい。了が恋しい。」
しかも何と恐ろしいことに、最近になって宏太はこうして甘えさせろと了に対して直接アピールすることを覚えてしまった。熱を含む甘い声で強請りながら耳元に唇を寄せてきて囁き抱き締められるのに、自分がされていることを改めて認識すると了だって恥ずかしくなってしまう。
だってある意味じゃビッチだった自分を宝物みたいに扱うのが、あの宏太なんだぞ?
高校の頃から男女構わず遊びまくっていた成田了と、調教師なんてあり得ないとんでもない職業をしていた外崎宏太。今更2人が清い交際なんてものじゃないのは言わなくても分かっているけれど、それでもお互いに特定の誰かに恋したり愛を感じるなんて事自体が初めてなのだ。昔の了の全部を宏太には当に知られているのに、こんな風に『愛してる』『恋しい』なんて言葉に自分が初心な生娘みたいに恥ずかしがるなんてとは思う。何人もとセフレみたいな適当な関係は作ってきたけれど、確かにこんな風に愛を囁かれるというのはあまり経験がない。
そりゃもう他の男に抱かれる気もなければ、女と付き合う気だって微塵もない。
既に心の中ではそれを知っているのだけれども、それでも唯一無二の宝物と大事にされる自分なんてどうしてもまだ上手く想像も出来ないものだから思わずこの状況に照れてしまう。
「ん、了…………愛してる。」
耳元でそんな悩殺の囁きを繰り返される了が思わず頬を染めていても、残念ながら目が見えない宏太には伝わらない。伝わらないから宏太にはこれを止めるつもりもなくて、耳朶を甘噛みしながら腰を更に抱き寄せてくるのだ。
「…………愛してる……了。」
チュと音を立てて耳朶や喉に口付けながらスルリと腰を指先で撫でられるだけで、身体が熱を溜め始めるのに了は更に頬を染めてしまう。繰り返される甘くて熱っぽい囁きと、痺れるような快感を作る軽やかな指の動き。それを全て自分のものだと宣言する宏太に、抱き締められるだけで身体の芯まで溶かされてしまいそうになる。
「だ、め……って…………っん。」
「ふ…………可愛い声だな…………了…………。」
宏太の声や動きに了が少しでも何か反応するだけで、宏太はこんな風に心の底から嬉しそうに柔らかく微笑むようになった。そしてこれまでの宏太なら絶対にしなかったことでも………………例えばキスとか口淫とかこれまでは滅多にしていなかったこと………………相手が了なら嬉々としてしてやってくるのだ。その嬉しそうな微笑みも行動も、正直いうと悶絶しそうなほど色気を孕んでいて一瞬で悩殺されてしまう。
「も、もぉ……!恥ずかしいから、あんまりそういうの言うな!」
「そういうの?」
真っ赤になった了がジタバタと必死で抵抗するのに、宏太は先ずはキョトンとした様子で何を言われているんだ?と言いたげだ。そうなのだ、これらの変化の更に困った点というのが、宏太の方は全く自分が溺愛行動に出ているという意識がないという事。で、しかも了がこんな風に抵抗すると。
「何で駄目だ?どこが気に入らない?ん?」
ヒョイと了を軽々と抱き上げてスタスタ歩きだし、リビングのソファーまで運んでしまう。しかも座った膝の上に了を乗せて、見えないとはいえ見上げる体勢で了の事を伺ってくる。
宏太自身これまでの人生で他人の事を、こんな風に気にするということがなかった。何しろ幼馴染み達は宏太の事をよくよく理解しているから互いに気を使うなんて事は必要としない関係だったのだし、それ以外の人間に対しては宏太は別に好かれようが嫌われようが気にするわけでもない。そんな宏太が了が言う事を神妙な様子で伺うのは、宏太が了にだけはどうしても嫌がられたくないとか嫌われたくないと感じているからだった。
「だ、から……気に入るとかじゃなくて…………。」
「愛してる、お前が何よりも大切だ。…………それじゃ…………駄目なのか?」
サラッとそういうメロドラマみたいな臭い台詞を、当然な顔で口にして宏太は自分に顔を向ける。そんな宏太に、了は見る間に全身から湯気が立ちそうな程真っ赤になってしまう。いや、好きだと言われるのが嫌とかじゃない。でも心底惚れてる男が人が変わったみたいに自分にだけこんなことを口にし始めただけでなく、それを毎日のように囁かれベタベタとスキンシップをとられる状態を考えてみて欲しいのだ。
「だ…………から……。」
「俺に…………言われるのが、嫌なのか?」
「そ、じゃなくてぇ…………。」
「…………でも、………………もう無理だぞ?」
珍しく無理と口にした宏太に、思わず了は目を丸くして何が無理?と問い返してしまう。すると腰を抱いていた宏太の手がスッと持ち上がり頬を撫でてきて、了は不思議そうにそんなことをする宏太を眺める。
「気がつくと言葉になってる。」
「は?」
「もう俺は言わないと気がすまない…………だから、お前が慣れろ。」
「はぇ?何言って…………んの?」
「了を愛してる。了は可愛い。俺は了が愛しい。」
ふぁ?!と奇妙な声をあげて、了は宏太の言葉に身体を強張らせる。
「お前が恋しいし、傍にずっと置いておきたい。一時だって離したくない。愛してる。いつまでも俺のものにしておきたい、了を全部。」
しかもその目の前で平然とした顔で宏太が、更に追加で熱烈な愛の言葉を甘い声で囁き始める。それに我に変えることも出来ず了は、全身から火を吹きそうになりながら咄嗟に宏太の口を手で塞いでいた。
「も、止め!!ス、ストップ!!」
「んん?」
恥ずかしくて仕方がないんだからと必死に宏太の唇を塞ぐ了の手の下で、塞がれたままの宏太の肉感的な唇が笑みを作るのが分かる。慣れろなんて言われても、宏太が『愛してる』とか『俺の』とかを初めとした愛の言葉を紡ぐだけでも刺激が強すぎて目が回りそうなのだ。ただでさえ宏太の言葉には弱いのに、それが更に甘く糖度を増してトロリと蕩けるような熱量を含んだ愛の言葉を溢し始めて。それに宏太の手や腕や何もかもが伴って、自分を絡めとり簡単にグズグズになるまで蕩けさせてくる。
「んん…………?」
「うー………………っ、だから、も、ストップ………って………。」
どうせ了が真っ赤になっているのは、唇を塞いだままの掌から直に宏太も感じ取っているに違いない。ふと宏太の唇が少しだけ意地悪く口角をあげるのを指の下に感じた瞬間、突然見えない場所でベロッと了の掌を舌が這う。
「ひぁ!」
ヌルンと舌先が掌の中を這い回る感触が、背筋に悪寒めいた快感の震えを走らせて思わず宏太の顔から手を離す。ところが次の瞬間その了の右手を宏太の片手がとり、わざと逃がさないと言いたげに引き寄せて柔らかく唇を押し当ててくる。
「俺の可愛い了…………、愛してる。」
手をとり指の1本1本に口付け、愛してると繰り返されるのに了は再び真っ赤になりながら身悶えるしかない。何だってこんなことをするようになったのかと毎回のように叫びたいのに、幸せそうにこんなことをする宏太を見せつけられると了だって言葉にならなくなってしまうのだ。
「好きだ…………愛してる…………。」
「こ、ぉた。」
「………………赤くなってるか?……凄く熱いぞ?ん?」
「わかっ、てんなら、も…………。」
もう止めてとどれだけ了が繰り返しても、宏太は足りないと言いたげに囁き口付ける。そうして言われるのは慣れろ・諦めろと再び言われてしまうから、了は頬を染めながらおとなしく宏太がやりたいようにさせるしかない。諦めて大人しくなった了に宏太は微笑みながら、意地悪な笑みで囁きかけてくる。
「また、…………舐めてやろうか?ん?」
「は?」
「足でもどこでも、タップリとトロトロになるまで…………舐めて……泣かせたい…………。」
ヤバい、あんまりにも了がヤダヤダと腕の中で抵抗していたものだから、宏太の変な捕獲スイッチが入ったと気がついた。けれど、どんなに抵抗しても宏太が膝の上から了を下ろそうというつもりがないのは、腰をホールドした腕がビクとも動かないのを見れば分かる。
「タップリ甘やかして、グズグズに快感で蕩けさせたい……………………。」
「ちょっ…………まって。こぉた…………。」
「可愛く泣いて、お強請りして…………いきまくるまで…………よくしてやる。」
ここ最近になってやっと了も気がついた。一見して一応は平静に見えていても、宏太は案外理性をぶっちぎっていることが多々あるのだ。表には、そう感情とか表情にはあからさまにはそれ程出てこないのだけれども、怒っていたり興奮しすぎていて完全に我を忘れている時がある。そんな時の宏太はまるで容赦なく執拗に延々と快楽責めで了を狂わせ続けてくるから、ちょっと泣かせるなんて生易しい事ではすまない。先日の足を舐めるなんてのはその際足るもので、それは例えば今みたいな…………
「まって、や、やだから、…………舐めるのは、やめて。」
「よし舐めるの以外ならいいんだな?ん?」
あぁ、またはめられた。そんなことは言ってないと今更了が抵抗しても無駄だ。どう見てもそう言っている、正に肉食獣が獲物を見つけて舌舐りするような笑みが宏太の唇に浮かぶ。舐めなくても簡単に泣かせられる技術を身に付けている男の捕食者の笑顔に、了はこうなると半べそで失神する覚悟を決めるしかないのだった。
溺愛……っていうんだよなぁ…………多分これって
結城晴には散々指摘されているし、自分で言うのも恥ずかしいがどうみても宏太の自分への態度は度を越した溺愛だってことは理解している。何しろ了が泣くのもダメなら何かに怒るのもダメ、しかもちょっと体調を崩そうものなら文字通り血相を変えて過保護なんてものじゃない状態に変わってしまう。この間みたいに了が倒れでもしようものなら、暫くは膝の上からどうやっても下ろしてもらえない有り様なのだ。
いや、うん、それがダメって言うか…………
それが駄目なのではない。勿論宏太から大事にされているのだと、了にもちゃんと分かっている。けれど、宏太の溺愛度合いが日々メキメキと増していて、される方の了も段々恥ずかしくなってしまう有り様なのだし、何しろあの宏太が過保護になるだけでなく日々愛の言葉なんて囁いて抱き締めてくるのだ。何時も冷静で揺らぎもしない男だと思っていた宏太と、こんな風にバカップルみたいにイチャイチャする日が来るなんて了にだって信じられない。大体にしてこの変化には昨年亡くなった幼馴染みの遠坂喜一だけでなく、久保田夫妻も自分も、宮直行を初めとする面々も、宏太の中身が入れ替わった?!とか宇宙人に拐われ洗脳されただのとか口を揃えて言う状態だったりするのだ。
「了…………?」
「ひゃっ!!」
ソッと甘く優しい口調。そんな低く響く掠れ声で耳元に名前を囁きかけてくる宏太の声に、食器を洗いながら物思いに耽っていた了は思わず飛び上がってしまいそうになっていた。全く宏太ときたら寸前まで目の前に座っていた筈なのに、気配もなくこうしてあっという間に背後から傍に寄ってきているのだ。背後から了を簡単に捕獲しながら耳元で甘い声で囁くものだから、大抵こうして驚かされてしまう。しかも既に腰に回された宏太の手がガッチリと了を捕獲する体勢なのに、了は手にしていた最後の食器を置きながらも何とか腕から離れようとジタバタともがく。
「皿洗ってるとこだってば。危ないから。」
「終わったろ?それが最後だ。」
「でも、キッチンの中ではダメって言ってるだろ。」
「でも終わったところだ。火も使ってない。」
暫く前にこうして捕獲された際にヤカンの蒸気で了が火傷してしまったことがあって、宏太は了とキッチンでは手を出さないという約束をした。だけど、ここ最近の出来事のせいか宏太はあの特殊な聴覚をフルに活用し音で危険がないのをちゃんと確認してから、こうして近寄ってきて抱き締めてくるようになってしまったのだ。了との約束通り危険がある調理中とか火を使ったりしているうちには、絶対に手は出してこない。約束はちゃんと守ってくれているのだけど、皿洗い程度だと終わりが耳でも判断できてしまうのが宏太なのだ。何しろ皿の枚数とか了の動きで、宏太はちゃんと状況を把握出来てしまっている。
「こら、ダメって。」
「離れてるのが寂しい。了が恋しい。」
しかも何と恐ろしいことに、最近になって宏太はこうして甘えさせろと了に対して直接アピールすることを覚えてしまった。熱を含む甘い声で強請りながら耳元に唇を寄せてきて囁き抱き締められるのに、自分がされていることを改めて認識すると了だって恥ずかしくなってしまう。
だってある意味じゃビッチだった自分を宝物みたいに扱うのが、あの宏太なんだぞ?
高校の頃から男女構わず遊びまくっていた成田了と、調教師なんてあり得ないとんでもない職業をしていた外崎宏太。今更2人が清い交際なんてものじゃないのは言わなくても分かっているけれど、それでもお互いに特定の誰かに恋したり愛を感じるなんて事自体が初めてなのだ。昔の了の全部を宏太には当に知られているのに、こんな風に『愛してる』『恋しい』なんて言葉に自分が初心な生娘みたいに恥ずかしがるなんてとは思う。何人もとセフレみたいな適当な関係は作ってきたけれど、確かにこんな風に愛を囁かれるというのはあまり経験がない。
そりゃもう他の男に抱かれる気もなければ、女と付き合う気だって微塵もない。
既に心の中ではそれを知っているのだけれども、それでも唯一無二の宝物と大事にされる自分なんてどうしてもまだ上手く想像も出来ないものだから思わずこの状況に照れてしまう。
「ん、了…………愛してる。」
耳元でそんな悩殺の囁きを繰り返される了が思わず頬を染めていても、残念ながら目が見えない宏太には伝わらない。伝わらないから宏太にはこれを止めるつもりもなくて、耳朶を甘噛みしながら腰を更に抱き寄せてくるのだ。
「…………愛してる……了。」
チュと音を立てて耳朶や喉に口付けながらスルリと腰を指先で撫でられるだけで、身体が熱を溜め始めるのに了は更に頬を染めてしまう。繰り返される甘くて熱っぽい囁きと、痺れるような快感を作る軽やかな指の動き。それを全て自分のものだと宣言する宏太に、抱き締められるだけで身体の芯まで溶かされてしまいそうになる。
「だ、め……って…………っん。」
「ふ…………可愛い声だな…………了…………。」
宏太の声や動きに了が少しでも何か反応するだけで、宏太はこんな風に心の底から嬉しそうに柔らかく微笑むようになった。そしてこれまでの宏太なら絶対にしなかったことでも………………例えばキスとか口淫とかこれまでは滅多にしていなかったこと………………相手が了なら嬉々としてしてやってくるのだ。その嬉しそうな微笑みも行動も、正直いうと悶絶しそうなほど色気を孕んでいて一瞬で悩殺されてしまう。
「も、もぉ……!恥ずかしいから、あんまりそういうの言うな!」
「そういうの?」
真っ赤になった了がジタバタと必死で抵抗するのに、宏太は先ずはキョトンとした様子で何を言われているんだ?と言いたげだ。そうなのだ、これらの変化の更に困った点というのが、宏太の方は全く自分が溺愛行動に出ているという意識がないという事。で、しかも了がこんな風に抵抗すると。
「何で駄目だ?どこが気に入らない?ん?」
ヒョイと了を軽々と抱き上げてスタスタ歩きだし、リビングのソファーまで運んでしまう。しかも座った膝の上に了を乗せて、見えないとはいえ見上げる体勢で了の事を伺ってくる。
宏太自身これまでの人生で他人の事を、こんな風に気にするということがなかった。何しろ幼馴染み達は宏太の事をよくよく理解しているから互いに気を使うなんて事は必要としない関係だったのだし、それ以外の人間に対しては宏太は別に好かれようが嫌われようが気にするわけでもない。そんな宏太が了が言う事を神妙な様子で伺うのは、宏太が了にだけはどうしても嫌がられたくないとか嫌われたくないと感じているからだった。
「だ、から……気に入るとかじゃなくて…………。」
「愛してる、お前が何よりも大切だ。…………それじゃ…………駄目なのか?」
サラッとそういうメロドラマみたいな臭い台詞を、当然な顔で口にして宏太は自分に顔を向ける。そんな宏太に、了は見る間に全身から湯気が立ちそうな程真っ赤になってしまう。いや、好きだと言われるのが嫌とかじゃない。でも心底惚れてる男が人が変わったみたいに自分にだけこんなことを口にし始めただけでなく、それを毎日のように囁かれベタベタとスキンシップをとられる状態を考えてみて欲しいのだ。
「だ…………から……。」
「俺に…………言われるのが、嫌なのか?」
「そ、じゃなくてぇ…………。」
「…………でも、………………もう無理だぞ?」
珍しく無理と口にした宏太に、思わず了は目を丸くして何が無理?と問い返してしまう。すると腰を抱いていた宏太の手がスッと持ち上がり頬を撫でてきて、了は不思議そうにそんなことをする宏太を眺める。
「気がつくと言葉になってる。」
「は?」
「もう俺は言わないと気がすまない…………だから、お前が慣れろ。」
「はぇ?何言って…………んの?」
「了を愛してる。了は可愛い。俺は了が愛しい。」
ふぁ?!と奇妙な声をあげて、了は宏太の言葉に身体を強張らせる。
「お前が恋しいし、傍にずっと置いておきたい。一時だって離したくない。愛してる。いつまでも俺のものにしておきたい、了を全部。」
しかもその目の前で平然とした顔で宏太が、更に追加で熱烈な愛の言葉を甘い声で囁き始める。それに我に変えることも出来ず了は、全身から火を吹きそうになりながら咄嗟に宏太の口を手で塞いでいた。
「も、止め!!ス、ストップ!!」
「んん?」
恥ずかしくて仕方がないんだからと必死に宏太の唇を塞ぐ了の手の下で、塞がれたままの宏太の肉感的な唇が笑みを作るのが分かる。慣れろなんて言われても、宏太が『愛してる』とか『俺の』とかを初めとした愛の言葉を紡ぐだけでも刺激が強すぎて目が回りそうなのだ。ただでさえ宏太の言葉には弱いのに、それが更に甘く糖度を増してトロリと蕩けるような熱量を含んだ愛の言葉を溢し始めて。それに宏太の手や腕や何もかもが伴って、自分を絡めとり簡単にグズグズになるまで蕩けさせてくる。
「んん…………?」
「うー………………っ、だから、も、ストップ………って………。」
どうせ了が真っ赤になっているのは、唇を塞いだままの掌から直に宏太も感じ取っているに違いない。ふと宏太の唇が少しだけ意地悪く口角をあげるのを指の下に感じた瞬間、突然見えない場所でベロッと了の掌を舌が這う。
「ひぁ!」
ヌルンと舌先が掌の中を這い回る感触が、背筋に悪寒めいた快感の震えを走らせて思わず宏太の顔から手を離す。ところが次の瞬間その了の右手を宏太の片手がとり、わざと逃がさないと言いたげに引き寄せて柔らかく唇を押し当ててくる。
「俺の可愛い了…………、愛してる。」
手をとり指の1本1本に口付け、愛してると繰り返されるのに了は再び真っ赤になりながら身悶えるしかない。何だってこんなことをするようになったのかと毎回のように叫びたいのに、幸せそうにこんなことをする宏太を見せつけられると了だって言葉にならなくなってしまうのだ。
「好きだ…………愛してる…………。」
「こ、ぉた。」
「………………赤くなってるか?……凄く熱いぞ?ん?」
「わかっ、てんなら、も…………。」
もう止めてとどれだけ了が繰り返しても、宏太は足りないと言いたげに囁き口付ける。そうして言われるのは慣れろ・諦めろと再び言われてしまうから、了は頬を染めながらおとなしく宏太がやりたいようにさせるしかない。諦めて大人しくなった了に宏太は微笑みながら、意地悪な笑みで囁きかけてくる。
「また、…………舐めてやろうか?ん?」
「は?」
「足でもどこでも、タップリとトロトロになるまで…………舐めて……泣かせたい…………。」
ヤバい、あんまりにも了がヤダヤダと腕の中で抵抗していたものだから、宏太の変な捕獲スイッチが入ったと気がついた。けれど、どんなに抵抗しても宏太が膝の上から了を下ろそうというつもりがないのは、腰をホールドした腕がビクとも動かないのを見れば分かる。
「タップリ甘やかして、グズグズに快感で蕩けさせたい……………………。」
「ちょっ…………まって。こぉた…………。」
「可愛く泣いて、お強請りして…………いきまくるまで…………よくしてやる。」
ここ最近になってやっと了も気がついた。一見して一応は平静に見えていても、宏太は案外理性をぶっちぎっていることが多々あるのだ。表には、そう感情とか表情にはあからさまにはそれ程出てこないのだけれども、怒っていたり興奮しすぎていて完全に我を忘れている時がある。そんな時の宏太はまるで容赦なく執拗に延々と快楽責めで了を狂わせ続けてくるから、ちょっと泣かせるなんて生易しい事ではすまない。先日の足を舐めるなんてのはその際足るもので、それは例えば今みたいな…………
「まって、や、やだから、…………舐めるのは、やめて。」
「よし舐めるの以外ならいいんだな?ん?」
あぁ、またはめられた。そんなことは言ってないと今更了が抵抗しても無駄だ。どう見てもそう言っている、正に肉食獣が獲物を見つけて舌舐りするような笑みが宏太の唇に浮かぶ。舐めなくても簡単に泣かせられる技術を身に付けている男の捕食者の笑顔に、了はこうなると半べそで失神する覚悟を決めるしかないのだった。
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