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間章 ソノサキの合間の話
間話1. 第3の男
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えっと…………何でこうなってるんだっけ?
そう素直に結城晴は疑問符を浮かべながら、チュンチュンと雀の泣き声の響く中で自分の置かれたこの状況を茫然して見つめている。今晴がいるのは自宅であるマンションのベットの上。とは言え物語に有りがちな朝目が覚めたら全裸で事後…………な訳でもなくて、この家で時々起こる恋人が使いこなす手枷とか足枷で世にも恥ずかしい格好で拘束…………されているわけでもない。
ちゃんと服を着てはいる。
けれど普段から晴はパジャマ派と言うわけではなくて、更に夏場なのでTシャツにショートパンツなのは、まぁ服を着ているものと容認してほしいところだ。一先ずそれをちゃんと身に付けてベットで寝ていた訳であって、それだけ聞けば何もおかしな部分はない。シーツだって何も体液やら何やらで汚れていないし、ベットの上はただ転がり込んで眠っただけという雰囲気。ただ少し空気が酒臭い気もするのは、許容範囲。…………酒ってそれってベタな朝チュンのパターンじゃないかって?いや、酒を飲んでも一先ず裸じゃないから!それはさておき、一応は普通に爽やか~に目覚めたのだ。なのに何故こんな風に晴が、辺りを見てポカーンとしているのか。
…………えーと、何で?
2人が仲良く暮らすファミリー型マンションの寝室、ユッタリしたキングサイズの見事なベットの上。そこに晴と一緒にいるのは恋人で同棲相手でもある狭山明良なのは当然。ただ明良だけかといえば、今回は何故か晴と一緒にベットにいるのは明良1人ではなかったりする。
えっと…………?
明良は晴の右側から晴の腰を腕を回して抱き締めてきて、スヤスヤと眠っているのは言うまでもない。けれど、何故晴の反対側…………左側に何処かで見覚えのあるような無いような気のする青年が、もう一人スウスウと心地好さげに眠っている。
何で3人?…………しかも、誰…………この人?
……というピヨピヨと頭の回りにヒヨコでも舞ったような状態の晴なよだが、どちら様も熟睡の模様で疑問の答えが帰ってくる気配がない。晴の腰を抱く明良と、見知らぬ青年に挟まれて熟睡していたという、この訳の分からない状況。
一体これは?と悩む晴は、左側の青年を見下ろし、この人何処で見たんだっけ?と首を捻る。
何処かで見た気がするんだけど…………
何だか以前もこんな風に何処かで見たで、何かに巻き込まれた気がしなくもない。ともあれ入院中でまだ油断を許さない状態の白鞘千佳の筈はないし、もしこういう状況になっても動じないで寝ていそうな派手な金髪をした槙山忠志でもない(時折あれ以来顔を会わせると会話するようになった忠志は、案外人懐っこくて話しやすい男だ。しかも何でか明良とも鳥飼信哉の道場で会っていて珍しくスルッと気が合ったらしく明良もわりと仲良くしてもいる。ついでに言えば忠志は明良と晴の関係は当に知っているけれど、好きなら良いんじゃねーの?の一言で流せるところがヤッパリ外崎宏太や三浦和希の知り合いと言うか何と言うか。)のは見れば分かる。槙山じゃなきゃ三浦和希?なんて思うけれど、お家に三浦までお泊まりなんてことになったら外崎宏太からデコピンで大説教大会になりそうだし、明良は絶対に許さないと思う。というか明良は知っていてここに3人で寝ているのだろうか?思わず明良のことを眺めて、晴はソロソロと左側の青年の顔を覗き込む。
えぇ…………と?
晴よりは少し黒っぽく見える栗毛に近い髪をした青年。顔立ちはまあまあ端正な方だと思うけれどイケメンかと聞かれると、イケメン基準が100点満点ばかりが周囲にいるものだから比較しようがない。強いて言うなら自分とどっこい位?まぁそこそこイケメン?ただ瞳とか開いていると、印象は変わるものだから確約は難しい。何しろ槙山忠志みたいな吊目でヤンキーな顔でも、笑うと愛嬌があって人好きするなんてパターンもある世の中だ。
んー…………どっかで会ってる気がするんだけどなぁ…………
何処かで会った気はするのだけれど、名前を記憶するほどの交流ではなさそうだ。それにしてもその位の関係だとして一体何故ここで一緒に寝ているのか疑問だし、明良がそれを許したのも正直不思議で仕方がない。それとも酔った自分が引き込んだとか?そう言われると昨日は駅前の焼き鳥専門店で、久々に明良と飲んだ筈だった気がする。
飲んでベロベロになったっけ?最近そこまで飲まないようにしてたから…………
白鞘の件以来晴は飲酒自体控えていたけど、昨日は少し白鞘の状況が安定してきたと情報が入って何だが飲んじゃえ!!ってな気分になったような気がしなくもない。飲んでも記憶は失くさないが自分の取り柄だったと思うのに、最近一定量を越すと記憶が途切れるようになったのは歳なのだろうか。それともアルコール度数が高すぎるのか?スピリタスをロックで飲んだ記憶はあるけど、そんなのずっと前からだし(ちなみにスピリタスは70回以上蒸留を行っている事によって、アルコール度数96%のウォッカの一種。この酒はアルコール度数の高さから、火が付くほどなので煙草を吸いながら飲む事は厳禁。カクテルベースとして使うこともあるが、ストレートやロックで嗜むこともある酒である)今更……いや、暫く酒を控えているから、逆に酔うのか?
「ん…………は、るぅ?」
晴の腰を抱き締めたままの夢現の明良の声がして、あれ?これってもしかして明良が目が覚めてこの人のこと気がついてなかったら修羅場になったりする?と思わず首を傾げる。そうして目が覚めた明良は身体を起こしかけかけた時点で、晴の向こう側で寝ている男を見つけてサァッと顔色を変えていたのだった。
「ひっどくねぇ?ベットから叩き落とすって?…………明良さぁ。」
目覚めた明良にベットから一撃で蹴り落とされて目が覚めた青年の不満の声に、明良は噛みつかんばかりの剣幕で一緒に寝て良いとは言っていないと怒鳴り付けていた。
青年の名前は庄司陸斗。
晴達よりは2つ歳上で子供の頃から明良の実家の道場で空手を習い、明良とは子供の頃からの幼馴染みといっても過言ではない関係なのだという。陸斗は偶々なのだが昨日同じ焼き鳥屋にいて店内の明良に気がついて…………
※※※
「あっれぇ?!明良?!」
賑わう店内で大きな声で名前を呼ばれた明良が、珍しく顔色を変えたのに明良の前に座っていた晴も気がつく。カツカツと歩みより明良の顔を覗き込んだ庄司陸斗は久々だなぁと声をあげてバンバンと肩を叩いているけれども、叩かれている方の明良は幾分迷惑そうに顔をしかめている。誰この人?と言いたげな顔をして陸斗を見上げていた晴に、視線を向けた陸斗が『あれ?』と溢す。
「あれ?君、この前の。」
この前、が何のこと?と晴は思うけれど見上げた顔は見覚えがあって、それが何のことだったか相手の言葉で思い出していた。白鞘千佳救出の時に上手く話をつけておいて貰った風間祥太の後輩刑事。陸斗は風間と一緒に三浦和希の事件を担当することが多いという話だったが、今回に関しては晴と忠志は三浦の関係を警察には説明しなかった。なので白鞘の事件は、三浦ではなく進藤隆平という男の関係の事件だとされている。晴が何処かで見たようなと思っていたのかと言えば、先日の白鞘千佳を発見した際に刑事の風間祥太と一緒に現場にやってきた捜査一課の刑事が彼だ。
「明良の知り合いなの?君。」
そう言いながら当然みたいに明良の横に腰かけてしまった陸斗に、晴は何でか少しだけ心の中でムッとしてしまう。子供の時から明良のことを知っていて幼馴染みみたいなものだと説明されて、それでも当然みたいに明良の横に座り肩を組んだりしているのに晴は少しだけど不満を感じてしまうのだ。
明良の…………幼馴染み…………
今までこんな風に親しげな明良の友人なんて紹介されたことがなかったし、ましてや幼馴染みがいるなんて話も聞いたことがない。いや、それほど今は友人としての交流がなかったようでもあるから、説明の機会がなかったのかもとも思えるけど。
「晴は俺の恋人。」
「は?彼、男の子だよね?明良。」
だから?と言いたげに幼馴染みの明良に突然の同性愛のカミングアウトをされた陸斗は目を丸くしているし、晴は晴でそんな風に隠しもせずに恋人宣言されたのに思わず顔を赤らめてしまう。でも明良のことをよく知っているからなのか陸斗はマジマジと晴のことを眺めていて、晴としては何だかさっき迄の不満なんてどうでも良いから居たたまれないのであんまり見ないで欲しい。
「明良が男の子とねぇ…………。」
「何?」
明良が冷え冷えとした声で、まるで突き放すような口調で話す。そんな風に話すのを聞いたことがない晴が驚いたように瞳をパチパチと瞬かせたのに、陸斗は心配しなくても何時もこうだよとニコニコと笑う。どうやらこの会話のやり取りが2人の通常の会話のようだけれど、またもや陸斗の視線が晴のことを眺めていて戸惑う。
「えっと…………何か……?」
思わずそう問いかけしまった晴に陸斗は賑やかな微笑みを浮かべて見せる。
「あの時は慌ただしかったから、…………えっと何君?」
そう言われれば確かに名前を聞かれて話した記憶はうっすらとしていて、自己紹介というまでの会話ではなかったと思う。なので素直に自己紹介をして、そしてそこから何でか3人で杯を重ねて
※※※
それで何で一緒に寝てるんだ?
飲みながら段々と仲良くなった気はするけれど、そこら辺の記憶は今一つハッキリしていなくて。どうやら晴が泊まって良いよと言いだして、明良も泊まるのは許したけれどソファーか和室に寝ろと言っていたらしい。だが、そこら辺は実は晴には、まるで記憶がなかったりする。寝室から追い出されたら追い出されたで、陸斗はリビングでソファーに腰かけ呑気に珈琲なんか飲んでいて。自由と言うか勝手と言うか、因みに珈琲は晴が入れはしたけれど、妙な雰囲気の陸斗に晴は今一つ状況が理解しきれていない。
「刑事さん…………。」
「そうそう。でも、プライベートで刑事さんはやだなぁ。」
「あ、ごめんなさい。」
「陸斗って呼んで良いよ?」
確かに素面で話していれば白鞘の発見の時にやってきて風間祥太と一緒に事情を聴いたりしていた彼のことを思い出すけれど、プライベートとしての彼は随分印象が違う。それにしても酔った勢いとは言え何で一緒に寝てたんだろうか……と首を傾げている晴の顔に気がついた陸斗は、飄々とした顔で珈琲を飲みながら『晴君が一緒に寝て良いよって言ったから』等と言う。顔に出てたかなと思うけれども
んん?…………男同士で付き合ってる幼馴染みの家に泊まって、しかもそのベット?
幾ら良いよといわれても、既に恋人同士だと紹介された男2人のベットに、一緒にはいれるものなのだろうか?陸斗ももしかして同性愛者だとか?でもそれなら余計に他のカップルと一緒に、ベットにはいって寝れるもの?なんか考えれば考えるほど変な話だけど、え?例えば前からずっと明良のことが好きだったとか?だから、2人の間に割って入………………ってないか?間に挟まれていたのは晴であって、明良ではないのだ。そんな風にはてなマークだらけになっている晴に、陸斗は呑気に楽しげな笑いを溢す。
「晴君って、素直だよね。うん。」
「俺の晴を勝手に親しげに名前を呼ぶな。」
「いいじゃん?明良のハニーちゃんって呼ぼうか?」
「呼ぶな。陸斗、お前もう帰れ。」
「えー、つれないなー?明良は。ねー?晴君、そう思うでしょ?」
「晴に話しかけるな。帰れ。」
何でか酔っていないまっさらな状態で聴くと明良と陸斗の会話は、昨日より更に違和感が強い。仲の良い幼馴染みの会話…………晴がこれまでにそれを聴いたことがあるのは、外崎宏太と藤咲信夫の幼馴染みコンビの会話かそれに鳥飼梨央が加わるかどうかだ。それでもこの2人の会話とは、まるで質が違うのは言われなくても分かる。宏太達の幼馴染みの会話は気安く軽口を叩く感じではあるけれど、決して嫌悪めいた発言ではない。
何だろう?凄い違和感………………
酷く鬱陶しそうに相手を見て話す明良を眺めて、晴は戸惑い首を捻っている。勿論何が普通で何が普通でないのかと聞かれると正直ボーダーラインはハッキリとは答えられない。そう言う関係だからと言われると、そうなのかと思うしか晴にはないのだけれど。それでも明良と陸斗の会話は仲の良い幼馴染みには聞こえないのだ。結局それ以上のことは聴く暇もないままに明良に追い出される形で陸斗は帰途につくことになって、帰り際に意味深に晴に向かって手を振り『またね』と何故か口にしたのだった。
そう素直に結城晴は疑問符を浮かべながら、チュンチュンと雀の泣き声の響く中で自分の置かれたこの状況を茫然して見つめている。今晴がいるのは自宅であるマンションのベットの上。とは言え物語に有りがちな朝目が覚めたら全裸で事後…………な訳でもなくて、この家で時々起こる恋人が使いこなす手枷とか足枷で世にも恥ずかしい格好で拘束…………されているわけでもない。
ちゃんと服を着てはいる。
けれど普段から晴はパジャマ派と言うわけではなくて、更に夏場なのでTシャツにショートパンツなのは、まぁ服を着ているものと容認してほしいところだ。一先ずそれをちゃんと身に付けてベットで寝ていた訳であって、それだけ聞けば何もおかしな部分はない。シーツだって何も体液やら何やらで汚れていないし、ベットの上はただ転がり込んで眠っただけという雰囲気。ただ少し空気が酒臭い気もするのは、許容範囲。…………酒ってそれってベタな朝チュンのパターンじゃないかって?いや、酒を飲んでも一先ず裸じゃないから!それはさておき、一応は普通に爽やか~に目覚めたのだ。なのに何故こんな風に晴が、辺りを見てポカーンとしているのか。
…………えーと、何で?
2人が仲良く暮らすファミリー型マンションの寝室、ユッタリしたキングサイズの見事なベットの上。そこに晴と一緒にいるのは恋人で同棲相手でもある狭山明良なのは当然。ただ明良だけかといえば、今回は何故か晴と一緒にベットにいるのは明良1人ではなかったりする。
えっと…………?
明良は晴の右側から晴の腰を腕を回して抱き締めてきて、スヤスヤと眠っているのは言うまでもない。けれど、何故晴の反対側…………左側に何処かで見覚えのあるような無いような気のする青年が、もう一人スウスウと心地好さげに眠っている。
何で3人?…………しかも、誰…………この人?
……というピヨピヨと頭の回りにヒヨコでも舞ったような状態の晴なよだが、どちら様も熟睡の模様で疑問の答えが帰ってくる気配がない。晴の腰を抱く明良と、見知らぬ青年に挟まれて熟睡していたという、この訳の分からない状況。
一体これは?と悩む晴は、左側の青年を見下ろし、この人何処で見たんだっけ?と首を捻る。
何処かで見た気がするんだけど…………
何だか以前もこんな風に何処かで見たで、何かに巻き込まれた気がしなくもない。ともあれ入院中でまだ油断を許さない状態の白鞘千佳の筈はないし、もしこういう状況になっても動じないで寝ていそうな派手な金髪をした槙山忠志でもない(時折あれ以来顔を会わせると会話するようになった忠志は、案外人懐っこくて話しやすい男だ。しかも何でか明良とも鳥飼信哉の道場で会っていて珍しくスルッと気が合ったらしく明良もわりと仲良くしてもいる。ついでに言えば忠志は明良と晴の関係は当に知っているけれど、好きなら良いんじゃねーの?の一言で流せるところがヤッパリ外崎宏太や三浦和希の知り合いと言うか何と言うか。)のは見れば分かる。槙山じゃなきゃ三浦和希?なんて思うけれど、お家に三浦までお泊まりなんてことになったら外崎宏太からデコピンで大説教大会になりそうだし、明良は絶対に許さないと思う。というか明良は知っていてここに3人で寝ているのだろうか?思わず明良のことを眺めて、晴はソロソロと左側の青年の顔を覗き込む。
えぇ…………と?
晴よりは少し黒っぽく見える栗毛に近い髪をした青年。顔立ちはまあまあ端正な方だと思うけれどイケメンかと聞かれると、イケメン基準が100点満点ばかりが周囲にいるものだから比較しようがない。強いて言うなら自分とどっこい位?まぁそこそこイケメン?ただ瞳とか開いていると、印象は変わるものだから確約は難しい。何しろ槙山忠志みたいな吊目でヤンキーな顔でも、笑うと愛嬌があって人好きするなんてパターンもある世の中だ。
んー…………どっかで会ってる気がするんだけどなぁ…………
何処かで会った気はするのだけれど、名前を記憶するほどの交流ではなさそうだ。それにしてもその位の関係だとして一体何故ここで一緒に寝ているのか疑問だし、明良がそれを許したのも正直不思議で仕方がない。それとも酔った自分が引き込んだとか?そう言われると昨日は駅前の焼き鳥専門店で、久々に明良と飲んだ筈だった気がする。
飲んでベロベロになったっけ?最近そこまで飲まないようにしてたから…………
白鞘の件以来晴は飲酒自体控えていたけど、昨日は少し白鞘の状況が安定してきたと情報が入って何だが飲んじゃえ!!ってな気分になったような気がしなくもない。飲んでも記憶は失くさないが自分の取り柄だったと思うのに、最近一定量を越すと記憶が途切れるようになったのは歳なのだろうか。それともアルコール度数が高すぎるのか?スピリタスをロックで飲んだ記憶はあるけど、そんなのずっと前からだし(ちなみにスピリタスは70回以上蒸留を行っている事によって、アルコール度数96%のウォッカの一種。この酒はアルコール度数の高さから、火が付くほどなので煙草を吸いながら飲む事は厳禁。カクテルベースとして使うこともあるが、ストレートやロックで嗜むこともある酒である)今更……いや、暫く酒を控えているから、逆に酔うのか?
「ん…………は、るぅ?」
晴の腰を抱き締めたままの夢現の明良の声がして、あれ?これってもしかして明良が目が覚めてこの人のこと気がついてなかったら修羅場になったりする?と思わず首を傾げる。そうして目が覚めた明良は身体を起こしかけかけた時点で、晴の向こう側で寝ている男を見つけてサァッと顔色を変えていたのだった。
「ひっどくねぇ?ベットから叩き落とすって?…………明良さぁ。」
目覚めた明良にベットから一撃で蹴り落とされて目が覚めた青年の不満の声に、明良は噛みつかんばかりの剣幕で一緒に寝て良いとは言っていないと怒鳴り付けていた。
青年の名前は庄司陸斗。
晴達よりは2つ歳上で子供の頃から明良の実家の道場で空手を習い、明良とは子供の頃からの幼馴染みといっても過言ではない関係なのだという。陸斗は偶々なのだが昨日同じ焼き鳥屋にいて店内の明良に気がついて…………
※※※
「あっれぇ?!明良?!」
賑わう店内で大きな声で名前を呼ばれた明良が、珍しく顔色を変えたのに明良の前に座っていた晴も気がつく。カツカツと歩みより明良の顔を覗き込んだ庄司陸斗は久々だなぁと声をあげてバンバンと肩を叩いているけれども、叩かれている方の明良は幾分迷惑そうに顔をしかめている。誰この人?と言いたげな顔をして陸斗を見上げていた晴に、視線を向けた陸斗が『あれ?』と溢す。
「あれ?君、この前の。」
この前、が何のこと?と晴は思うけれど見上げた顔は見覚えがあって、それが何のことだったか相手の言葉で思い出していた。白鞘千佳救出の時に上手く話をつけておいて貰った風間祥太の後輩刑事。陸斗は風間と一緒に三浦和希の事件を担当することが多いという話だったが、今回に関しては晴と忠志は三浦の関係を警察には説明しなかった。なので白鞘の事件は、三浦ではなく進藤隆平という男の関係の事件だとされている。晴が何処かで見たようなと思っていたのかと言えば、先日の白鞘千佳を発見した際に刑事の風間祥太と一緒に現場にやってきた捜査一課の刑事が彼だ。
「明良の知り合いなの?君。」
そう言いながら当然みたいに明良の横に腰かけてしまった陸斗に、晴は何でか少しだけ心の中でムッとしてしまう。子供の時から明良のことを知っていて幼馴染みみたいなものだと説明されて、それでも当然みたいに明良の横に座り肩を組んだりしているのに晴は少しだけど不満を感じてしまうのだ。
明良の…………幼馴染み…………
今までこんな風に親しげな明良の友人なんて紹介されたことがなかったし、ましてや幼馴染みがいるなんて話も聞いたことがない。いや、それほど今は友人としての交流がなかったようでもあるから、説明の機会がなかったのかもとも思えるけど。
「晴は俺の恋人。」
「は?彼、男の子だよね?明良。」
だから?と言いたげに幼馴染みの明良に突然の同性愛のカミングアウトをされた陸斗は目を丸くしているし、晴は晴でそんな風に隠しもせずに恋人宣言されたのに思わず顔を赤らめてしまう。でも明良のことをよく知っているからなのか陸斗はマジマジと晴のことを眺めていて、晴としては何だかさっき迄の不満なんてどうでも良いから居たたまれないのであんまり見ないで欲しい。
「明良が男の子とねぇ…………。」
「何?」
明良が冷え冷えとした声で、まるで突き放すような口調で話す。そんな風に話すのを聞いたことがない晴が驚いたように瞳をパチパチと瞬かせたのに、陸斗は心配しなくても何時もこうだよとニコニコと笑う。どうやらこの会話のやり取りが2人の通常の会話のようだけれど、またもや陸斗の視線が晴のことを眺めていて戸惑う。
「えっと…………何か……?」
思わずそう問いかけしまった晴に陸斗は賑やかな微笑みを浮かべて見せる。
「あの時は慌ただしかったから、…………えっと何君?」
そう言われれば確かに名前を聞かれて話した記憶はうっすらとしていて、自己紹介というまでの会話ではなかったと思う。なので素直に自己紹介をして、そしてそこから何でか3人で杯を重ねて
※※※
それで何で一緒に寝てるんだ?
飲みながら段々と仲良くなった気はするけれど、そこら辺の記憶は今一つハッキリしていなくて。どうやら晴が泊まって良いよと言いだして、明良も泊まるのは許したけれどソファーか和室に寝ろと言っていたらしい。だが、そこら辺は実は晴には、まるで記憶がなかったりする。寝室から追い出されたら追い出されたで、陸斗はリビングでソファーに腰かけ呑気に珈琲なんか飲んでいて。自由と言うか勝手と言うか、因みに珈琲は晴が入れはしたけれど、妙な雰囲気の陸斗に晴は今一つ状況が理解しきれていない。
「刑事さん…………。」
「そうそう。でも、プライベートで刑事さんはやだなぁ。」
「あ、ごめんなさい。」
「陸斗って呼んで良いよ?」
確かに素面で話していれば白鞘の発見の時にやってきて風間祥太と一緒に事情を聴いたりしていた彼のことを思い出すけれど、プライベートとしての彼は随分印象が違う。それにしても酔った勢いとは言え何で一緒に寝てたんだろうか……と首を傾げている晴の顔に気がついた陸斗は、飄々とした顔で珈琲を飲みながら『晴君が一緒に寝て良いよって言ったから』等と言う。顔に出てたかなと思うけれども
んん?…………男同士で付き合ってる幼馴染みの家に泊まって、しかもそのベット?
幾ら良いよといわれても、既に恋人同士だと紹介された男2人のベットに、一緒にはいれるものなのだろうか?陸斗ももしかして同性愛者だとか?でもそれなら余計に他のカップルと一緒に、ベットにはいって寝れるもの?なんか考えれば考えるほど変な話だけど、え?例えば前からずっと明良のことが好きだったとか?だから、2人の間に割って入………………ってないか?間に挟まれていたのは晴であって、明良ではないのだ。そんな風にはてなマークだらけになっている晴に、陸斗は呑気に楽しげな笑いを溢す。
「晴君って、素直だよね。うん。」
「俺の晴を勝手に親しげに名前を呼ぶな。」
「いいじゃん?明良のハニーちゃんって呼ぼうか?」
「呼ぶな。陸斗、お前もう帰れ。」
「えー、つれないなー?明良は。ねー?晴君、そう思うでしょ?」
「晴に話しかけるな。帰れ。」
何でか酔っていないまっさらな状態で聴くと明良と陸斗の会話は、昨日より更に違和感が強い。仲の良い幼馴染みの会話…………晴がこれまでにそれを聴いたことがあるのは、外崎宏太と藤咲信夫の幼馴染みコンビの会話かそれに鳥飼梨央が加わるかどうかだ。それでもこの2人の会話とは、まるで質が違うのは言われなくても分かる。宏太達の幼馴染みの会話は気安く軽口を叩く感じではあるけれど、決して嫌悪めいた発言ではない。
何だろう?凄い違和感………………
酷く鬱陶しそうに相手を見て話す明良を眺めて、晴は戸惑い首を捻っている。勿論何が普通で何が普通でないのかと聞かれると正直ボーダーラインはハッキリとは答えられない。そう言う関係だからと言われると、そうなのかと思うしか晴にはないのだけれど。それでも明良と陸斗の会話は仲の良い幼馴染みには聞こえないのだ。結局それ以上のことは聴く暇もないままに明良に追い出される形で陸斗は帰途につくことになって、帰り際に意味深に晴に向かって手を振り『またね』と何故か口にしたのだった。
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