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第十七章 鮮明な月
246.
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闇に漂うように渦を巻く不快な感覚。
これがちゃんと夢だと分かっているその中で、ここに自分の意識があるのを自覚していた。出来ることなら思い出したくもない様々な事。それがまるで早回しの映画のように突きつけられる悪夢。夢の中では眼を閉じても・耳を塞いでもどんなにしても決して逃れられない、嫉妬や憎悪に満ちた己の中の負の記憶。
積み重ねられてきたこの記憶の理由。自分が気がついた時には、既に自分はこの逃げられない立場に落ちきっていて。もうこの状態で何年も経っていて、何もかもが変えようがない状況だったのに。
先生に眼をかけられているからって調子に乗るなよ?!妾の子の癖に!!
まさに自分と同胞の筈の者から投げつけられた言葉の意味が、自分には全く何を意味するか分からなかった。何しろ自分はその時まで、自分がどうしてここにこんな風に飼われることになったのか何一つ知らなかったのだ。そして同時にそれはそれ迄も大きな疑問として自分の中をずっと占めていて、誰にも問いかけることも出来ないのは自分のこの忌まわしい立場のせいだとその時になって理解した。飼われる理由は自分が、その人の子供であるからなのだ。そしてこうして飼われるのは、その人が自分を飼いたいと考えたからなのだろう。
何故、母は自分を実の父親に飼わせたのだろう?
その現実に沸き上がった不信は溝になり、自分と周囲との関係に大きな亀裂を生じさせた。それまでは自分が好きだからここに要るのだと一心に思っていたのだけれど、それはそう思い込まされて洗脳されていたのではないかとふと気がつく。それでもだからと言って、それまでの現実を素直に受け止められない意固地な自分。
自分には居場所がない………誰も自分を必要とはしていないとずっと感じていた………。
そして、自分が選択し望んだあの日。あの人と永遠の別れが来て初めて取り戻せない事態があると知ってしまうまで、自分の愚かさに気がつかなかった。そしてその現実を認めるのは辛くて、今も胸に棘が突き刺さるようだ。
今度はあなたがここを守り立てていかないと
あの人が死んでから表側しか知らない人間たちは、誰しもがそう口々に言った。
誰も自分を必要としない。自分にとっては唯一の人をあんな形で追い詰める様なことをして、死なせてしまった自分を誰が必要としてくれるのか。そんな愚かな自分は、もう二度と誰からも必要とされるわけがない。
どろりと濁った感情の中で自分は頭を抱えて、硬く眼を閉じて耳を塞ぐ。夢の中ではそんな事をしても無駄だと分かっていても、思わずそうしないではいられない。例え夢でも、自分にはもうこれ以上耐えられないから。
だって、私は人間にもなれない、人間擬きにすぎない
そう夢の中で悲しく思い続けてしまう。
※※※
ふと揺らめくように意識が世界を知覚した。
ボンヤリとした薄暗い視界。この空間が何なのか良く分からないけれど、薄暗いことだけは目に映る。自分が横になっているのは分かったけれど、体の感覚は酷く遠くて自分が今どういう状況なのかが分からない。ただ薄暗い世界には窓を叩いているらしい激しい雨脚の音がしているようだ。
夢……………?
何が何処まで夢なのか分からない意識の中で、ヒヤリと自分の素肌が全て冷え切ったように感じられた。布団を被りたくて指で探ろうにも身体が動かせないでいて、それが何故か分からないのだ。自由にならない虚ろな視線が暗い世界を眺め、また意識を容易く手放そうとしているのを意識の遠くに感じる。この体はまるで動かすための神経を失ってしまったかのようにピクリともせず、身動ぎすらできず全身が酷く怠い。
気を失ってたのか……………?…………俺…………
不意にそう頭では何とか理解が出来たが、できたからといって何か状況が変わるわけではなかった。薄暗く冷ややかな空気の漂う、雨音の響く室内。そこでただ感覚を失ったように夢の残滓にどこか嫌悪しながら、全てが消えてしまえばいいのにと心底思う。不意に微かに聴覚の端が、遠くに機械的な規則正しい電子音を刻むのを聞きつけた。
電話かな………………あぁ、でも動けない……………
何回かのコールの後に切り替わる機械的に電話を浮ける誰か。ここには自分以外にも他にも誰かいるのだと分かるけれど、だからと言って自分が身体を起こしてどうこうできるわけでもない。
「はい、…………そうですね、今夜は無理でしょうが…………。」
何かを話す声。気か覚えはあるようで、ないような声。それをボンヤリと耳の片隅で知覚していた。それでも聞くだけで疲労感が増して、理解できるはずの音が再び意識の彼方に次第に遠のいていく。そして意識は激しい雨音の向こうに次第に溶けるように再び闇の中に落ちていくような気がした。
※※※
外崎宏太も外崎了も白鞘千佳の件は、結城晴の責任ではないという。
勿論、直接に晴が白鞘の行方不明に関わった訳ではないし、晴が何かをそうするよう白鞘に仕向けた訳でもないから言うことは間違いではない。それでも晴にしてみたらこの近郊の駅よりも会社側に近い東に2駅先の住宅地に暮らしている白鞘が、ワザワザ自宅最寄り駅を乗り越してここに何度も来ていたのは自分と話すためでだったと思う。少なくともあの日の白鞘が、この駅周辺に居たのは自分と話そうとしていたからで、実際に晴と話した後に彼は消えたのだ。
そしてその画像の話を晴が知ってから、狭山明良には再三危険なことはしちゃ駄目だよと念を押されている。けれど、それを知ってしまっては、晴が現実から目を背けるには遅すぎる。
「…………ってあれの出本?」
今こうして目の前にいるのは、以前に『五十嵐ハル』で溝臭いあの矢根尾という男の作戦の時に知り合いになったゲイビデオの男優・工藤英輔。晴達より少し年上の30代後半になる年とはいえ涼やかな顔立ちの英輔は、現在は男優兼映像クリエイター関係社員となっているのだという。
何分体力勝負のアダルトビデオ俳優は、タチだろうとネコだろうと年を重ねると需要が減るもの。しかもタチなら男女構わず相手がいるが、ネコとなると次第に依頼も減るからねと英輔は呑気に笑う。勿論まだ依頼があれば男優としても働くが、同時に裏方もしていくというスタンスのようだ。そして今ではこうして販売流通にも関わることになった彼には、正規の流通ではないものも密かに情報が入るのだというのだ。
「あんまりいい噂のとこじゃないんだよね、あれ。」
その販売元になっているのは一応表で見つける時には、健康食品等の販売会社を装っている会社から辿るしかないのだという。裏側は探ろうにも得体が知れない会社だから、本当は余り関わらない方がいいと英輔は珍しく渋い顔で口にする。
確かにスナッフ映像なんてものを作って売るようなところが、(スナッフ映像を装ったものは確かに他にも幾つもあるけれど、宏太達が自分には見せないという時点でそれが本気のスナッフ映像なのだと晴だって思う。)マトモな会社の筈がない。しかも個人ではなく組織的だと言うけれど、その母体が見えない時点でヤクザとか反社会的なモノが関わっていると思うよと英輔は言う。
「外崎さんの方が、そういうとこは詳しいと思うけどね。」
「分かってる。でもさ、仕事するのに早く見たいんだよね。」
自分が白鞘の友人だということは、工藤英輔には実は知らされていない。晴が白鞘を探して欲しいと頼んだのだけれど、宏太達は秘匿の依頼で人探しをしているとしか比護には話していないのだ。そして英輔は比護の依頼で画像を入手したのだけれど、それに映っている人間に関しては比護が気がついただけで何も知らされていなかった。ただスナッフ映像に映った人間が、偶々宏太達が捜索していた人間だった程度にしか知らない筈だ。
晴がこうして英輔に密かに連絡を取ったのも、画像を手にいれた比護が画像は英輔から入手して貰ったのだという話を偶々聞き出したからで。宏太達他の面子が今まさに画像を解析していて、同じく仕事をする自分が見るまで時間がかかるという呈で英輔に話を持ちかけているのだ。
「そっかぁ、外崎さん達が解析してんのならあの子、せめて命があるうちに助けて貰えるかねー。」
何気なく英輔がそう呟いた言葉に、胸の奥がズキンと痛む。流石に販売されている本物はもうないとは言うけれど、流石そこは今回の出本捜索もあるからかディスクにコピーを保存していると英輔は言う。
「でも、本気で見るの?ちょっとエグいよ?結城君。」
一人で見るのはお勧めできないんだよねと英輔が言う。
エグい。溝臭い男の逸物を平気で咥え尻に飲み込むことが出来てしまう男優の英輔から見ても、それはエグいと評されるもの。宏太も了も自分には見るなと言ったもの。それでもそこに映っているのは、晴の元親友の白鞘千佳の可能性が高いと言われた。その顔を確認したのは了で、声を確認したのは宏太。嘘をつく必要なんか何もないし、それでいて晴には見ない方がいいと言う。
「仕事だもん…………大丈夫だよ。」
そうほんの少しいつもよりも硬く強張る声で呟いた晴に、そうなの?と英輔は躊躇い勝ちに立ち上がりディスクをとりに動き出していた。
※※※
『外崎さん、すみません、もしかして。』
そう慌てた声で電話がかかってきたのに、外崎宏太は眉を潜め話を聞いていた。相手は言う迄もなく工藤英輔で、その電話の内容に宏太は想定外だと思わずにはいられない。結城晴が密かに映像の入手先を比護から聞き出して、しかも更にその映像の入手に手を貸した英輔に接触してしまっていたのだ。
ここで学んだ事を違う方向に生かしやがったな、クソガキ。
あれは見るなと制したのが裏目に出た。最近の晴は自分や了の忠告は聞いて動けるから、それで伝わるかと思ったのだ。だが事自らの身辺にいた人間が関係した時に、人間は時として行動の想定出来ない動きをする。しかもここに来て既に1年になろうという晴が、どれだけ自分や自分の身の回りの人間の動きかたを見て学んでいたか失念した。
『気持ち悪くして吐いて、その後休ませてたんですけど。』
英輔の会社で白鞘千佳が狂わされる過程を録り続けた画像を、晴は全て視てしまったのだと言う。
最初は男として見ず知らずの女の股に逸物を延々と捩じ込まされ、腰を振るわせ続け精液を漏らす姿。白鞘は勃起しなくならないよう根本を縛られたり勃起を保つために尻に道具を突っ込んだまま、何か薬を仕込まれ白痴のようにヘラヘラと笑いながら腰を振り続ける。その身体は膝立ちに固定され手は後ろでのままで、腰だけをカクカクと前後に振り続けるのだ。
そして、恐らくはその腰振りを何日も繰り返すだけ。やがて陰茎は淫水に焼け赤黒く膨れ、しかも時にはポンプのような器具を取り付けられ圧力をかけられもする。それに白鞘は時には悲鳴をあげ懇願し、時には酩酊してヘラヘラ笑いながら繰り返して叫ぶ。
ごめん、ごめんなさい、ごめん。
それが何に対しての謝罪なのかは、画像では全く分からないだろう。そして次第に勃起しているのに射精がままならなくなっているのは、何度も絶頂に追いたてられ過ぎて体液という体液を吐き出し過ぎてしまっていたからだろう。ヘラヘラと笑うしかなくなった白鞘は、組み伏せられて腰を突き上げるように固定し直され、そこから今度はメス犬のように犯され始める。最初から容赦なくこじいれられて、ガツガツと尻を掘られる白鞘は既にネジが緩み始めていたのか言葉らしい言葉を吐くことすらできなくなっていく。
ごめぇ、ごめんよぉお、ごめぇええ、
それでも何かに謝り続けて、完全に焼ききれてしまった神経で、ブツブツと呟くようになった言葉の最後。初めて宏太にだけ聞き取れる音声で、その謝る言葉の合間に白鞘は『はる』と聞こえる言葉を放っていたのだ。勿論それは宏太は晴には話さなかったが、もし画像をつぶさに見つめていたら唇が『晴』と動くのを判別できてしまう可能性がないわけではない。
言葉を失いながら映像を見続けていた晴は、英輔に吐き気を訴えトイレに駆け込み嘔吐したらしい。そして少しソファーで休ませている間に撮影に声をかけられた英輔がその場を離れた僅かな時間の間に、英輔が持っていた画像のコピーをもって姿を消してしまったと言うのだ。
「どれくらい時間がたってんだ?あ?」
『多分15分か、20分くらいです、ほんとすみません。まさか。』
宏太の知らないところで動いているとは英輔も思わなかったのは仕方がないし、その点では晴の方が上手だったのだろう。とは言え晴自身には、何かあった時に宏太のような抵抗しうる能力があるとは言えない。
バカなことすんなよ、クソガキ。
思わず宏太は心の中でそう呟くしかないのだった。
これがちゃんと夢だと分かっているその中で、ここに自分の意識があるのを自覚していた。出来ることなら思い出したくもない様々な事。それがまるで早回しの映画のように突きつけられる悪夢。夢の中では眼を閉じても・耳を塞いでもどんなにしても決して逃れられない、嫉妬や憎悪に満ちた己の中の負の記憶。
積み重ねられてきたこの記憶の理由。自分が気がついた時には、既に自分はこの逃げられない立場に落ちきっていて。もうこの状態で何年も経っていて、何もかもが変えようがない状況だったのに。
先生に眼をかけられているからって調子に乗るなよ?!妾の子の癖に!!
まさに自分と同胞の筈の者から投げつけられた言葉の意味が、自分には全く何を意味するか分からなかった。何しろ自分はその時まで、自分がどうしてここにこんな風に飼われることになったのか何一つ知らなかったのだ。そして同時にそれはそれ迄も大きな疑問として自分の中をずっと占めていて、誰にも問いかけることも出来ないのは自分のこの忌まわしい立場のせいだとその時になって理解した。飼われる理由は自分が、その人の子供であるからなのだ。そしてこうして飼われるのは、その人が自分を飼いたいと考えたからなのだろう。
何故、母は自分を実の父親に飼わせたのだろう?
その現実に沸き上がった不信は溝になり、自分と周囲との関係に大きな亀裂を生じさせた。それまでは自分が好きだからここに要るのだと一心に思っていたのだけれど、それはそう思い込まされて洗脳されていたのではないかとふと気がつく。それでもだからと言って、それまでの現実を素直に受け止められない意固地な自分。
自分には居場所がない………誰も自分を必要とはしていないとずっと感じていた………。
そして、自分が選択し望んだあの日。あの人と永遠の別れが来て初めて取り戻せない事態があると知ってしまうまで、自分の愚かさに気がつかなかった。そしてその現実を認めるのは辛くて、今も胸に棘が突き刺さるようだ。
今度はあなたがここを守り立てていかないと
あの人が死んでから表側しか知らない人間たちは、誰しもがそう口々に言った。
誰も自分を必要としない。自分にとっては唯一の人をあんな形で追い詰める様なことをして、死なせてしまった自分を誰が必要としてくれるのか。そんな愚かな自分は、もう二度と誰からも必要とされるわけがない。
どろりと濁った感情の中で自分は頭を抱えて、硬く眼を閉じて耳を塞ぐ。夢の中ではそんな事をしても無駄だと分かっていても、思わずそうしないではいられない。例え夢でも、自分にはもうこれ以上耐えられないから。
だって、私は人間にもなれない、人間擬きにすぎない
そう夢の中で悲しく思い続けてしまう。
※※※
ふと揺らめくように意識が世界を知覚した。
ボンヤリとした薄暗い視界。この空間が何なのか良く分からないけれど、薄暗いことだけは目に映る。自分が横になっているのは分かったけれど、体の感覚は酷く遠くて自分が今どういう状況なのかが分からない。ただ薄暗い世界には窓を叩いているらしい激しい雨脚の音がしているようだ。
夢……………?
何が何処まで夢なのか分からない意識の中で、ヒヤリと自分の素肌が全て冷え切ったように感じられた。布団を被りたくて指で探ろうにも身体が動かせないでいて、それが何故か分からないのだ。自由にならない虚ろな視線が暗い世界を眺め、また意識を容易く手放そうとしているのを意識の遠くに感じる。この体はまるで動かすための神経を失ってしまったかのようにピクリともせず、身動ぎすらできず全身が酷く怠い。
気を失ってたのか……………?…………俺…………
不意にそう頭では何とか理解が出来たが、できたからといって何か状況が変わるわけではなかった。薄暗く冷ややかな空気の漂う、雨音の響く室内。そこでただ感覚を失ったように夢の残滓にどこか嫌悪しながら、全てが消えてしまえばいいのにと心底思う。不意に微かに聴覚の端が、遠くに機械的な規則正しい電子音を刻むのを聞きつけた。
電話かな………………あぁ、でも動けない……………
何回かのコールの後に切り替わる機械的に電話を浮ける誰か。ここには自分以外にも他にも誰かいるのだと分かるけれど、だからと言って自分が身体を起こしてどうこうできるわけでもない。
「はい、…………そうですね、今夜は無理でしょうが…………。」
何かを話す声。気か覚えはあるようで、ないような声。それをボンヤリと耳の片隅で知覚していた。それでも聞くだけで疲労感が増して、理解できるはずの音が再び意識の彼方に次第に遠のいていく。そして意識は激しい雨音の向こうに次第に溶けるように再び闇の中に落ちていくような気がした。
※※※
外崎宏太も外崎了も白鞘千佳の件は、結城晴の責任ではないという。
勿論、直接に晴が白鞘の行方不明に関わった訳ではないし、晴が何かをそうするよう白鞘に仕向けた訳でもないから言うことは間違いではない。それでも晴にしてみたらこの近郊の駅よりも会社側に近い東に2駅先の住宅地に暮らしている白鞘が、ワザワザ自宅最寄り駅を乗り越してここに何度も来ていたのは自分と話すためでだったと思う。少なくともあの日の白鞘が、この駅周辺に居たのは自分と話そうとしていたからで、実際に晴と話した後に彼は消えたのだ。
そしてその画像の話を晴が知ってから、狭山明良には再三危険なことはしちゃ駄目だよと念を押されている。けれど、それを知ってしまっては、晴が現実から目を背けるには遅すぎる。
「…………ってあれの出本?」
今こうして目の前にいるのは、以前に『五十嵐ハル』で溝臭いあの矢根尾という男の作戦の時に知り合いになったゲイビデオの男優・工藤英輔。晴達より少し年上の30代後半になる年とはいえ涼やかな顔立ちの英輔は、現在は男優兼映像クリエイター関係社員となっているのだという。
何分体力勝負のアダルトビデオ俳優は、タチだろうとネコだろうと年を重ねると需要が減るもの。しかもタチなら男女構わず相手がいるが、ネコとなると次第に依頼も減るからねと英輔は呑気に笑う。勿論まだ依頼があれば男優としても働くが、同時に裏方もしていくというスタンスのようだ。そして今ではこうして販売流通にも関わることになった彼には、正規の流通ではないものも密かに情報が入るのだというのだ。
「あんまりいい噂のとこじゃないんだよね、あれ。」
その販売元になっているのは一応表で見つける時には、健康食品等の販売会社を装っている会社から辿るしかないのだという。裏側は探ろうにも得体が知れない会社だから、本当は余り関わらない方がいいと英輔は珍しく渋い顔で口にする。
確かにスナッフ映像なんてものを作って売るようなところが、(スナッフ映像を装ったものは確かに他にも幾つもあるけれど、宏太達が自分には見せないという時点でそれが本気のスナッフ映像なのだと晴だって思う。)マトモな会社の筈がない。しかも個人ではなく組織的だと言うけれど、その母体が見えない時点でヤクザとか反社会的なモノが関わっていると思うよと英輔は言う。
「外崎さんの方が、そういうとこは詳しいと思うけどね。」
「分かってる。でもさ、仕事するのに早く見たいんだよね。」
自分が白鞘の友人だということは、工藤英輔には実は知らされていない。晴が白鞘を探して欲しいと頼んだのだけれど、宏太達は秘匿の依頼で人探しをしているとしか比護には話していないのだ。そして英輔は比護の依頼で画像を入手したのだけれど、それに映っている人間に関しては比護が気がついただけで何も知らされていなかった。ただスナッフ映像に映った人間が、偶々宏太達が捜索していた人間だった程度にしか知らない筈だ。
晴がこうして英輔に密かに連絡を取ったのも、画像を手にいれた比護が画像は英輔から入手して貰ったのだという話を偶々聞き出したからで。宏太達他の面子が今まさに画像を解析していて、同じく仕事をする自分が見るまで時間がかかるという呈で英輔に話を持ちかけているのだ。
「そっかぁ、外崎さん達が解析してんのならあの子、せめて命があるうちに助けて貰えるかねー。」
何気なく英輔がそう呟いた言葉に、胸の奥がズキンと痛む。流石に販売されている本物はもうないとは言うけれど、流石そこは今回の出本捜索もあるからかディスクにコピーを保存していると英輔は言う。
「でも、本気で見るの?ちょっとエグいよ?結城君。」
一人で見るのはお勧めできないんだよねと英輔が言う。
エグい。溝臭い男の逸物を平気で咥え尻に飲み込むことが出来てしまう男優の英輔から見ても、それはエグいと評されるもの。宏太も了も自分には見るなと言ったもの。それでもそこに映っているのは、晴の元親友の白鞘千佳の可能性が高いと言われた。その顔を確認したのは了で、声を確認したのは宏太。嘘をつく必要なんか何もないし、それでいて晴には見ない方がいいと言う。
「仕事だもん…………大丈夫だよ。」
そうほんの少しいつもよりも硬く強張る声で呟いた晴に、そうなの?と英輔は躊躇い勝ちに立ち上がりディスクをとりに動き出していた。
※※※
『外崎さん、すみません、もしかして。』
そう慌てた声で電話がかかってきたのに、外崎宏太は眉を潜め話を聞いていた。相手は言う迄もなく工藤英輔で、その電話の内容に宏太は想定外だと思わずにはいられない。結城晴が密かに映像の入手先を比護から聞き出して、しかも更にその映像の入手に手を貸した英輔に接触してしまっていたのだ。
ここで学んだ事を違う方向に生かしやがったな、クソガキ。
あれは見るなと制したのが裏目に出た。最近の晴は自分や了の忠告は聞いて動けるから、それで伝わるかと思ったのだ。だが事自らの身辺にいた人間が関係した時に、人間は時として行動の想定出来ない動きをする。しかもここに来て既に1年になろうという晴が、どれだけ自分や自分の身の回りの人間の動きかたを見て学んでいたか失念した。
『気持ち悪くして吐いて、その後休ませてたんですけど。』
英輔の会社で白鞘千佳が狂わされる過程を録り続けた画像を、晴は全て視てしまったのだと言う。
最初は男として見ず知らずの女の股に逸物を延々と捩じ込まされ、腰を振るわせ続け精液を漏らす姿。白鞘は勃起しなくならないよう根本を縛られたり勃起を保つために尻に道具を突っ込んだまま、何か薬を仕込まれ白痴のようにヘラヘラと笑いながら腰を振り続ける。その身体は膝立ちに固定され手は後ろでのままで、腰だけをカクカクと前後に振り続けるのだ。
そして、恐らくはその腰振りを何日も繰り返すだけ。やがて陰茎は淫水に焼け赤黒く膨れ、しかも時にはポンプのような器具を取り付けられ圧力をかけられもする。それに白鞘は時には悲鳴をあげ懇願し、時には酩酊してヘラヘラ笑いながら繰り返して叫ぶ。
ごめん、ごめんなさい、ごめん。
それが何に対しての謝罪なのかは、画像では全く分からないだろう。そして次第に勃起しているのに射精がままならなくなっているのは、何度も絶頂に追いたてられ過ぎて体液という体液を吐き出し過ぎてしまっていたからだろう。ヘラヘラと笑うしかなくなった白鞘は、組み伏せられて腰を突き上げるように固定し直され、そこから今度はメス犬のように犯され始める。最初から容赦なくこじいれられて、ガツガツと尻を掘られる白鞘は既にネジが緩み始めていたのか言葉らしい言葉を吐くことすらできなくなっていく。
ごめぇ、ごめんよぉお、ごめぇええ、
それでも何かに謝り続けて、完全に焼ききれてしまった神経で、ブツブツと呟くようになった言葉の最後。初めて宏太にだけ聞き取れる音声で、その謝る言葉の合間に白鞘は『はる』と聞こえる言葉を放っていたのだ。勿論それは宏太は晴には話さなかったが、もし画像をつぶさに見つめていたら唇が『晴』と動くのを判別できてしまう可能性がないわけではない。
言葉を失いながら映像を見続けていた晴は、英輔に吐き気を訴えトイレに駆け込み嘔吐したらしい。そして少しソファーで休ませている間に撮影に声をかけられた英輔がその場を離れた僅かな時間の間に、英輔が持っていた画像のコピーをもって姿を消してしまったと言うのだ。
「どれくらい時間がたってんだ?あ?」
『多分15分か、20分くらいです、ほんとすみません。まさか。』
宏太の知らないところで動いているとは英輔も思わなかったのは仕方がないし、その点では晴の方が上手だったのだろう。とは言え晴自身には、何かあった時に宏太のような抵抗しうる能力があるとは言えない。
バカなことすんなよ、クソガキ。
思わず宏太は心の中でそう呟くしかないのだった。
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