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間章 ちょっと合間の話3
間話125.幕間4
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そこはもう今の自分なら、全く近寄らない場所だった。
そこに入れば中は淫靡な空気に酩酊した人々の酒池肉林。そんな場所に自分が関係していると思われるのは、今の自分には余り好ましくないのは充分に分かっている。それでも自分が奥まで迷うことなく真っ直ぐに歩み寄って行くと、相手は自分を見て微かに目を細めた。驚くでもないその様子は自分が来ることを知っていたか、どちらでも良いと思っているか。
「久しぶり。元気だった?」
一見すると和やかに邂逅を喜ぶ言葉に聞こえる。そんな声だけれど、それがこの人の本心かどうかは自分には分からない。事実上は二回りも歳の離れている筈の目の前の人は、このたおやかな見た目とはまるでそぐわない内面を持っていたのを知ったのは随分前の事だ。
「…………変わらないね。」
「そうでもない。」
最近では全く縁が切れていて、相手に近寄らなくても普通に1人で生きていけるようになっていた。そうなったらここには近寄るなと、以前からこの人自身に自分は言われていたのに、それでもこうして足を運ぶ事にしたのはこの人に会う必要が今の自分にはあるからだ。そうして久々にここで2人は顔をあわせたのだが、互いに挨拶もそこそこにして要件をと口を開く。
「………………頼みたい事があるんだけど…………。」
「なに?」
そう言いながら自分の手からその人物に差し出されたのは、数人の人物が写りこんだ写真が数枚。その中に写っているのはどれも複数の人物が写りこんでいて、しかもその視線から言うとどう見ても正規の方法で撮られたモノではない。というのも写っている人物達は誰もカメラの方向を見ていないし、カメラの存在にも気がついた風ではないのだ。その写真は全部で数枚だが、そのうち殆どに股がって写っている人間もいれば、数枚にしか写りこんでいない人間もいた。
「頼みたいって、これ?」
その差し出された写真を受け取って眺め目を細める相手に向かって、先に口を開いたは自分の方だった。その写真の中をあえて指差す。つまりはそれに対して自分は何か頼みがあるということなのだと意図できて、目の前に座ったままの人物は口元を微かに歪める。それが笑ったのかそうでないのかは分からないけれど、聞いてくれそうなのに説明をする必要はあるだろう。
「…………それで…………。」
そう低い声で呟く自分に、写真を差し出された方はもう一度ユックリと他に写りこんだ人間を眺めていく。
辺りの酒池肉林の者達は、誰も自分達の事に注意を向けない。
何かに注意するような余裕もなくただ快楽に耽る様は、まるで狂ったようにも見えるのだけれど、一夜が終われば普通に会社に勤めている人間も多く混じっている。これが一夜の夢の中だと思っているから、彼らは酩酊して腰を振り続けるのにも躊躇わないのだろう。そして歓喜の悲鳴が背後に飛び交うのに、慣れてしまったのか目の前の人は彼らを何も気に掛けないのだ。
ふと写真の中の1人に改めてその人は視線を落とすと、暫くその写真の中の人間を眺めて何事か考え込んでいる。その無言に堪えられないでいる自分が僅かに苛立ちを滲ませていたが、やがてその人物が更に詳しく話を聞きたがったのに安堵の顔を浮かべていた。
※※※
「んー、と、それってアングラの作品ですかねぇ。」
そう呑気な声で電話口の相手からの問いかけに答えたのは、工藤英輔という男。ここは一応は映像作成を中心にしている会社というと聞こえは良いが、作られる物の中心はアダルトビデオという類いの奴を作るのが基盤の会社である。
如何わしい類いのビデオを作成している割には会社内は先ず先ず整っていて、撮影用のスタジオが一つと映像を編集するための機器がある部屋が一つ。そして、工藤が今電話を受けている事務所があるのだが、事務所の中は今は工藤だけしかいない。
というのも、今はスタジオでくんずほぐれつしてるからだけど。
工藤自身も若い頃からこれまで、アダルトビデオ……それもゲイビデオの男優をしていたのだ。が、ここ暫く寄る年波には勝てないと一線は退いたものの、今度はそれらのビデオ制作方面に転身することになったのである。
というのも工藤英輔は実際には30代。タチの男優なら30代はまだまだ現役でやれるのだが、工藤は生粋のネコ男優なわけで。ネコとは言わなくても分かるだろうが、男同士でされる方・入れられる方・喘いじゃう方…………まぁ言い方を変えてもどうしようもないが、結局はお尻の孔に野郎のチンコなんかを入れられて泣かされる方である。ここ最近の需要では若い可愛いイケメンが受けなら兎も角、三十路の普通のおっさんの受けは需要が少ない。これでマニアックな四十親父の初アナルとかってなれば、まぁたまにはマニアに売れるかもしれないのはさておき。工藤も歳を重ねて行くうちに、自分のネコ需要が下がってきたのをジリジリと肌に感じてはいたのだ。
タチならねー
これで入れる方…………タチなら顔を出さずに、女との作品なんて作り方もあって色々手もあるのだが、ゲイビのネコでは世の中の需要が少ないのは言う迄もない。勿論性機能がネコをしてても確りしてれば、ネコでも女相手だって出来なくはない。というのはネコばかりしていると、最初はちゃんとチンコだって立つし射精も出きるのだけれど。
ケツの中でいくようになると、だんだん立たなくなるんだよねぇ
アナルセックスを繰り返して腸の方から前立腺を刺激され、トコロテンして快感を受けるようになっていくと次第にチンコの海綿体に充血させて快感を得るより、そっちの方が良くなってしまう。女でも中いきするか、陰核でいくかどっちかって女もいるだろう?男もそれで、次第にチンコの勃起も落ちてしまうのだ。
そんなわけで工藤英輔には、もう既にタチをする程の自信はなくなってしまった。
女相手がもっと出来たら、もう少しやれたんだけどねー
とはいえ女相手だとなると大概女王様に模造チンコ付のペニパンという下着をつけて、M男として尻孔を犯していただくくらいしかネタもなく。そんなマニア向けの作品は、尚の事需要がないと仕事の依頼もないのである。それでも元々この会社の出資者の1人が工藤を過去に軟禁してエロまみれの時間を過ごしたことというのがあって、ありがたいことに色々大事にして貰えているのでこうして制作側(もし出来る時は、しちゃって良いからなんて半分男優扱いも残しつつだ。)に残して貰えたのだ。
「えーっと、あぁ、最近の奴ありますよ?若い男の子の奴ですけどねー。」
話はさておき電話口の向こうでは、探している映像作品がある様子であって問い合わせてきた模様。というのも蛇の道は蛇で、そういう類いの映像ソフトの情報は、やはり地道に調べるよりは同業者の自分達の方が耳に入る。
「入手ですか?足がつかないように?オッケーですよ。はい。」
海賊版やらパッケージ販売指定ないような裏物という奴は、下手に買うと販売側に購入者を探られる可能性もある。足がつかないように買うのには、ちょっとした工夫が必要だが、そこはこちらの企業秘密ということにしておきたい。それは兎も角相手は逆に販売元も知りたい様子で、それに関しても可能なら探っておくと請け負う。
「あぁ、最近ですか?そうですねぇ。」
そんな世間話をこの人とするようになるとは、自分でも思いもしなかったなぁと笑いながら話す。人生って言うのは想像もつかない変化を起こすもので、最初は工藤英輔は不動産仲介業だったのだ。それが今ではこんな場所で、まぁ自由に楽しくやっていたりする。
「えーさん、ちょっとー。」
スタジオの方から声がかかったのに、工藤は電話口の相手に詫びながら電話を切って立ち上がっていた。
※※※
警察庁の最新データによると、近年の日本全体の年間行方不明者数は86万人から87万人。人口10万人あたりで見ると、660人が行方不明になっている。しかもそれは年々増え続けていて、世界でも有数な治安の良さを誇るこの小さな島国で、何故か毎年行方不明者が増え続けているのだろうか。因みにここ数年では9歳以下の子供、20代の若者、80歳以上の行方不明者数が特に多く増加傾向にあるという。
実際には国際結婚の夫婦間で日本人の母親が子供を連れ去る事件が国際問題となり、日本政府は過去2014年にハーグ条約への調印を余儀なくされている。離婚後母親だけが子供を育てるのが当たり前と言う日本の慣習は徐々に崩れつつあるというわけだ。海外と違い共同親権制度がなく、親権のない親の面接交渉権が保護されない日本の法制度にも批判が集まりつつあるのが現状ということなのである。そうした風潮の中民事執行法の中で、子供の連れ去り問題に対する強制執行の法律改正が行われているところなのだ。以前であれば片親の子供の連れ去り問題では、捜索願が出されにくかったり、警察が受理を拒否したりするケースもあった。それでも近年では上記のような社会情勢の変化によって、片親の子供の連れ去り問題も失踪事件の一つとして認知されるようになっている。それが、9歳以下の子供の失踪事件増加の一因だ。
また中には、小児性愛者の犯罪に巻き込まれたケースも少なからずある。
近年、小児性愛者による誘拐殺人事件の増加も注目されて、これらの犯罪者のターゲットは9歳以下の子どもだけでなく、12歳くらいまでの子供も含まれる。小児性愛者や性犯罪者の人口に対する割合は、昔からさほど変わっていないと思いたい。昨今は犯罪被害に泣き寝入りせず積極的に告発する傾向が高まっているから、こうした背景も子供の失踪件数の増加の理由の一つかもしれない。
高齢者の失踪者の増加は高齢化社会の進行で高齢者の数が増えたことと、核家族化が徹底的に進行したことが原因だ。認知症の高齢者が家を飛び出すと、自身の住所や身分を語ることもできない。ほどんどの場合は発見されて家族の元へ戻されるが、路上で亡くなってしまったり、保護施設に収容されるケースもある。厚生労働省でも行方の分からない認知症高齢者を探している家族のための専用ページが用意されたくらいなのだ。
そして20代
20代の若者の失踪の動機としては、仕事や人間関係の行き詰まりが最も多く、またSNSが失踪しやすい環境を作っていることも影響している。そして日本には、低料金で宿泊できるインターネットカフェが全国どこでも利用できてしまう。これによって、10代や20代の若者が家出しやすい環境が整ったと言える。
「詳しいっすね?先輩。」
「これくらいは普通だ。」
後輩の庄司陸斗が感心したように言うのに、風間祥太は淡々と答える。2人は捜査一課配属の刑事で、捜査第一課の主な仕事は殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火などの凶悪犯罪を扱う。行方不明だけだと自分達の管轄にはならないのだが、その中には一課の取り扱う事件の結果の行方不明というものも多い。
「特にこの界隈は、行方不明が近郊より多い。」
「花街のせいっすか?」
「そうとは言えない。花街に行くことのない住宅地でも起きるからな。」
それは1年程前に住宅地で行方をくらませた女子高生と2課の刑事が住宅地の中の家の地下室に監禁された誘拐事件のことだ。あれは数日で解決することが出来たが、あと少し発見が遅れれば監禁致死の殺人事件になるところだった。
「あー、とーさかさんの?そういや、あれも一応は行方不明っすね。」
自分より2つ年下の庄司は当時はまだ刑事になっていなかったが、既に警察官にはなっていたから署内の騒ぎも知っているのだろう。あの後半年位この署内は大騒動に巻き込まれもしたから、忘れようにも忘れられないに違いない。何しろ行方不明になっていた現役刑事が女子高生と拉致監禁され、犯人はあの三浦和希だったのだ。社会的にはこの事件の犯人が公表されていないのは、まだあの時点で三浦和希が病院から脱走しているのを社会には公表していなかったからだ。
「それにしても、これ、ほんとに関係ありそうですか?えーっと……。」
自分で手帳に書き込んだ名前なのだが、読み方が難しくて何度読んでも記憶できないらしい庄司が呻く。確かに難読ではあるから思わず苦笑して名前を口にすると、そうそうそれ!と庄司は声をあげた。
「関係あるかどうかは分からんけどな。」
情報元が元なので無視するわけにもいかなんだと、流石に庄司には言えないので一応は心の中だけで風間は囁く。
夏の気配しかしないアスファルトの照り返しを全身で感じながら、仕事なんだから仕方がないだろと風間が歩き出すのに庄司もゲンナリした顔でしたがって歩き始めていた。
そこに入れば中は淫靡な空気に酩酊した人々の酒池肉林。そんな場所に自分が関係していると思われるのは、今の自分には余り好ましくないのは充分に分かっている。それでも自分が奥まで迷うことなく真っ直ぐに歩み寄って行くと、相手は自分を見て微かに目を細めた。驚くでもないその様子は自分が来ることを知っていたか、どちらでも良いと思っているか。
「久しぶり。元気だった?」
一見すると和やかに邂逅を喜ぶ言葉に聞こえる。そんな声だけれど、それがこの人の本心かどうかは自分には分からない。事実上は二回りも歳の離れている筈の目の前の人は、このたおやかな見た目とはまるでそぐわない内面を持っていたのを知ったのは随分前の事だ。
「…………変わらないね。」
「そうでもない。」
最近では全く縁が切れていて、相手に近寄らなくても普通に1人で生きていけるようになっていた。そうなったらここには近寄るなと、以前からこの人自身に自分は言われていたのに、それでもこうして足を運ぶ事にしたのはこの人に会う必要が今の自分にはあるからだ。そうして久々にここで2人は顔をあわせたのだが、互いに挨拶もそこそこにして要件をと口を開く。
「………………頼みたい事があるんだけど…………。」
「なに?」
そう言いながら自分の手からその人物に差し出されたのは、数人の人物が写りこんだ写真が数枚。その中に写っているのはどれも複数の人物が写りこんでいて、しかもその視線から言うとどう見ても正規の方法で撮られたモノではない。というのも写っている人物達は誰もカメラの方向を見ていないし、カメラの存在にも気がついた風ではないのだ。その写真は全部で数枚だが、そのうち殆どに股がって写っている人間もいれば、数枚にしか写りこんでいない人間もいた。
「頼みたいって、これ?」
その差し出された写真を受け取って眺め目を細める相手に向かって、先に口を開いたは自分の方だった。その写真の中をあえて指差す。つまりはそれに対して自分は何か頼みがあるということなのだと意図できて、目の前に座ったままの人物は口元を微かに歪める。それが笑ったのかそうでないのかは分からないけれど、聞いてくれそうなのに説明をする必要はあるだろう。
「…………それで…………。」
そう低い声で呟く自分に、写真を差し出された方はもう一度ユックリと他に写りこんだ人間を眺めていく。
辺りの酒池肉林の者達は、誰も自分達の事に注意を向けない。
何かに注意するような余裕もなくただ快楽に耽る様は、まるで狂ったようにも見えるのだけれど、一夜が終われば普通に会社に勤めている人間も多く混じっている。これが一夜の夢の中だと思っているから、彼らは酩酊して腰を振り続けるのにも躊躇わないのだろう。そして歓喜の悲鳴が背後に飛び交うのに、慣れてしまったのか目の前の人は彼らを何も気に掛けないのだ。
ふと写真の中の1人に改めてその人は視線を落とすと、暫くその写真の中の人間を眺めて何事か考え込んでいる。その無言に堪えられないでいる自分が僅かに苛立ちを滲ませていたが、やがてその人物が更に詳しく話を聞きたがったのに安堵の顔を浮かべていた。
※※※
「んー、と、それってアングラの作品ですかねぇ。」
そう呑気な声で電話口の相手からの問いかけに答えたのは、工藤英輔という男。ここは一応は映像作成を中心にしている会社というと聞こえは良いが、作られる物の中心はアダルトビデオという類いの奴を作るのが基盤の会社である。
如何わしい類いのビデオを作成している割には会社内は先ず先ず整っていて、撮影用のスタジオが一つと映像を編集するための機器がある部屋が一つ。そして、工藤が今電話を受けている事務所があるのだが、事務所の中は今は工藤だけしかいない。
というのも、今はスタジオでくんずほぐれつしてるからだけど。
工藤自身も若い頃からこれまで、アダルトビデオ……それもゲイビデオの男優をしていたのだ。が、ここ暫く寄る年波には勝てないと一線は退いたものの、今度はそれらのビデオ制作方面に転身することになったのである。
というのも工藤英輔は実際には30代。タチの男優なら30代はまだまだ現役でやれるのだが、工藤は生粋のネコ男優なわけで。ネコとは言わなくても分かるだろうが、男同士でされる方・入れられる方・喘いじゃう方…………まぁ言い方を変えてもどうしようもないが、結局はお尻の孔に野郎のチンコなんかを入れられて泣かされる方である。ここ最近の需要では若い可愛いイケメンが受けなら兎も角、三十路の普通のおっさんの受けは需要が少ない。これでマニアックな四十親父の初アナルとかってなれば、まぁたまにはマニアに売れるかもしれないのはさておき。工藤も歳を重ねて行くうちに、自分のネコ需要が下がってきたのをジリジリと肌に感じてはいたのだ。
タチならねー
これで入れる方…………タチなら顔を出さずに、女との作品なんて作り方もあって色々手もあるのだが、ゲイビのネコでは世の中の需要が少ないのは言う迄もない。勿論性機能がネコをしてても確りしてれば、ネコでも女相手だって出来なくはない。というのはネコばかりしていると、最初はちゃんとチンコだって立つし射精も出きるのだけれど。
ケツの中でいくようになると、だんだん立たなくなるんだよねぇ
アナルセックスを繰り返して腸の方から前立腺を刺激され、トコロテンして快感を受けるようになっていくと次第にチンコの海綿体に充血させて快感を得るより、そっちの方が良くなってしまう。女でも中いきするか、陰核でいくかどっちかって女もいるだろう?男もそれで、次第にチンコの勃起も落ちてしまうのだ。
そんなわけで工藤英輔には、もう既にタチをする程の自信はなくなってしまった。
女相手がもっと出来たら、もう少しやれたんだけどねー
とはいえ女相手だとなると大概女王様に模造チンコ付のペニパンという下着をつけて、M男として尻孔を犯していただくくらいしかネタもなく。そんなマニア向けの作品は、尚の事需要がないと仕事の依頼もないのである。それでも元々この会社の出資者の1人が工藤を過去に軟禁してエロまみれの時間を過ごしたことというのがあって、ありがたいことに色々大事にして貰えているのでこうして制作側(もし出来る時は、しちゃって良いからなんて半分男優扱いも残しつつだ。)に残して貰えたのだ。
「えーっと、あぁ、最近の奴ありますよ?若い男の子の奴ですけどねー。」
話はさておき電話口の向こうでは、探している映像作品がある様子であって問い合わせてきた模様。というのも蛇の道は蛇で、そういう類いの映像ソフトの情報は、やはり地道に調べるよりは同業者の自分達の方が耳に入る。
「入手ですか?足がつかないように?オッケーですよ。はい。」
海賊版やらパッケージ販売指定ないような裏物という奴は、下手に買うと販売側に購入者を探られる可能性もある。足がつかないように買うのには、ちょっとした工夫が必要だが、そこはこちらの企業秘密ということにしておきたい。それは兎も角相手は逆に販売元も知りたい様子で、それに関しても可能なら探っておくと請け負う。
「あぁ、最近ですか?そうですねぇ。」
そんな世間話をこの人とするようになるとは、自分でも思いもしなかったなぁと笑いながら話す。人生って言うのは想像もつかない変化を起こすもので、最初は工藤英輔は不動産仲介業だったのだ。それが今ではこんな場所で、まぁ自由に楽しくやっていたりする。
「えーさん、ちょっとー。」
スタジオの方から声がかかったのに、工藤は電話口の相手に詫びながら電話を切って立ち上がっていた。
※※※
警察庁の最新データによると、近年の日本全体の年間行方不明者数は86万人から87万人。人口10万人あたりで見ると、660人が行方不明になっている。しかもそれは年々増え続けていて、世界でも有数な治安の良さを誇るこの小さな島国で、何故か毎年行方不明者が増え続けているのだろうか。因みにここ数年では9歳以下の子供、20代の若者、80歳以上の行方不明者数が特に多く増加傾向にあるという。
実際には国際結婚の夫婦間で日本人の母親が子供を連れ去る事件が国際問題となり、日本政府は過去2014年にハーグ条約への調印を余儀なくされている。離婚後母親だけが子供を育てるのが当たり前と言う日本の慣習は徐々に崩れつつあるというわけだ。海外と違い共同親権制度がなく、親権のない親の面接交渉権が保護されない日本の法制度にも批判が集まりつつあるのが現状ということなのである。そうした風潮の中民事執行法の中で、子供の連れ去り問題に対する強制執行の法律改正が行われているところなのだ。以前であれば片親の子供の連れ去り問題では、捜索願が出されにくかったり、警察が受理を拒否したりするケースもあった。それでも近年では上記のような社会情勢の変化によって、片親の子供の連れ去り問題も失踪事件の一つとして認知されるようになっている。それが、9歳以下の子供の失踪事件増加の一因だ。
また中には、小児性愛者の犯罪に巻き込まれたケースも少なからずある。
近年、小児性愛者による誘拐殺人事件の増加も注目されて、これらの犯罪者のターゲットは9歳以下の子どもだけでなく、12歳くらいまでの子供も含まれる。小児性愛者や性犯罪者の人口に対する割合は、昔からさほど変わっていないと思いたい。昨今は犯罪被害に泣き寝入りせず積極的に告発する傾向が高まっているから、こうした背景も子供の失踪件数の増加の理由の一つかもしれない。
高齢者の失踪者の増加は高齢化社会の進行で高齢者の数が増えたことと、核家族化が徹底的に進行したことが原因だ。認知症の高齢者が家を飛び出すと、自身の住所や身分を語ることもできない。ほどんどの場合は発見されて家族の元へ戻されるが、路上で亡くなってしまったり、保護施設に収容されるケースもある。厚生労働省でも行方の分からない認知症高齢者を探している家族のための専用ページが用意されたくらいなのだ。
そして20代
20代の若者の失踪の動機としては、仕事や人間関係の行き詰まりが最も多く、またSNSが失踪しやすい環境を作っていることも影響している。そして日本には、低料金で宿泊できるインターネットカフェが全国どこでも利用できてしまう。これによって、10代や20代の若者が家出しやすい環境が整ったと言える。
「詳しいっすね?先輩。」
「これくらいは普通だ。」
後輩の庄司陸斗が感心したように言うのに、風間祥太は淡々と答える。2人は捜査一課配属の刑事で、捜査第一課の主な仕事は殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火などの凶悪犯罪を扱う。行方不明だけだと自分達の管轄にはならないのだが、その中には一課の取り扱う事件の結果の行方不明というものも多い。
「特にこの界隈は、行方不明が近郊より多い。」
「花街のせいっすか?」
「そうとは言えない。花街に行くことのない住宅地でも起きるからな。」
それは1年程前に住宅地で行方をくらませた女子高生と2課の刑事が住宅地の中の家の地下室に監禁された誘拐事件のことだ。あれは数日で解決することが出来たが、あと少し発見が遅れれば監禁致死の殺人事件になるところだった。
「あー、とーさかさんの?そういや、あれも一応は行方不明っすね。」
自分より2つ年下の庄司は当時はまだ刑事になっていなかったが、既に警察官にはなっていたから署内の騒ぎも知っているのだろう。あの後半年位この署内は大騒動に巻き込まれもしたから、忘れようにも忘れられないに違いない。何しろ行方不明になっていた現役刑事が女子高生と拉致監禁され、犯人はあの三浦和希だったのだ。社会的にはこの事件の犯人が公表されていないのは、まだあの時点で三浦和希が病院から脱走しているのを社会には公表していなかったからだ。
「それにしても、これ、ほんとに関係ありそうですか?えーっと……。」
自分で手帳に書き込んだ名前なのだが、読み方が難しくて何度読んでも記憶できないらしい庄司が呻く。確かに難読ではあるから思わず苦笑して名前を口にすると、そうそうそれ!と庄司は声をあげた。
「関係あるかどうかは分からんけどな。」
情報元が元なので無視するわけにもいかなんだと、流石に庄司には言えないので一応は心の中だけで風間は囁く。
夏の気配しかしないアスファルトの照り返しを全身で感じながら、仕事なんだから仕方がないだろと風間が歩き出すのに庄司もゲンナリした顔でしたがって歩き始めていた。
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