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間章 ちょっと合間の話3
間話121.そして、結局こうなる。2
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たかが指。でも、されど指。
なんて事を呑気にいっている場合ではないのだが、現在外崎了は何時もの如く手枷足枷をつけられ拘束中である。勿論誘拐とか質の悪いものでは…………ある意味ではそう言うものより晴かに質が悪いのか?…………兎も角そんなものではない。外崎宏太の昔の写真を久保田惣一の妻・久保田松理から貰ったのがバレて、『悪い子』にはお仕置きと宏太に拘束されてしまったのだ。両腕を胸の前で交差して互い違いに足首と手首を繋がれて、そのまま仰向けに転がされてしまった了はズボンを引き下げて腰の辺りだけ曝した恥ずかしい姿である。
なん、で
それでそこを中心に責められるなら兎も角、宏太はそこは放置で何故か手の指を1本ずつ指で撫で回し始めたのだった。何だそれ?と思うだろうが、恋人がいる人は試してみたらいい。というか、実際マッサージとか整体とかで、施術者に指を刺激されると気持ちいいだろう?その触りかたをもっとソフトにしてサワサワされるのは、案外エロチックな刺激になる。それが見えない状態で続くのだ。
「うぅー…………っ!!」
そして手の指だけだと思っていたのが、次は足の指に移行していた。見えないけれど自分の身体は僅かな刺激に反応して股間を熱く滾らせているのに、幾ら気持ち良くても触れるのは指だけ。チリチリする快感の種に了が呻いてしまっても、宏太は平然と何処吹く風なのだ。
手の指と同じで順番に小指からされるのかと思いきや、不意に別な足指にとんだり、もうやった筈の指に戻ったり。それでも宏太の手が足の指をなぞり、地面を踏む感覚の鋭い方を指が時折強く揉むように圧す。
「んんっ。」
「ん……?気持ちいいか?ここ。」
いや、気持ち良いけれども、それとこれはまた別な話で。出来るなら風呂のときとかに、普通マッサージとしてやってくれたほうがいい。そう憎まれ口を叩いてやりたいのに、宏太は突然手を伸ばしたかと思うと何かを取り上げている。
「ひゃっ!!!や、なにっ?!」
トロ……と何か粘着性の液体が突然に足にかけられたのに、了は思わず驚きの悲鳴をあげてしまう。そして、それが何なのか宏太に問いかける前に、それは宏太の指で了の足の指にヌリュンと塗り込まれていた。
「ひぁっ!やっあ!!あ!」
滑る指が足の指を絡めとり、まるで舌で舐め回されるような感触。しかも粘着性の液体は恐らくはジェルなのだろうけれど、ヌチュクチュと卑猥な水音を立ててくる。
「あ、や、あぁ、あっ、あふっ、や。」
切れ切れの声で悲鳴を上げる了に宏太の指は全く容赦なく、足の指だけでなくその根本の更に敏感なところまでユルユルと擦り出していた。
※※※
過去に様々な人間を相手に、幾つもの調教を繰り返してきた。それらは大概依頼主の希望を第一にしていたが、例えば後孔に咥えたがるように調教して欲しいと言われたからそこだけを調教すれば良いわけではない。大概は最初に反抗心や行為への不快感を取り除かないとならないから、まずは従順に従えるように心をへし折ってしまうことが多いものだ。宏太がその点で重宝されたのは心をへし折る前に、相手に従う快感を教え込む事が何故か得意だったからで、生意気なまま身体を調教して欲しいとか抵抗する姿が好みの依頼主は多かった。
右京もそうだったな
片倉右京の調教は右京が行為を嫌がる顔を見たがった依頼主のせいで、抵抗心なるべく残して調教して欲しいと言うものだった。最初は流石に断ろうとしていたのに、右京が生意気な口答えで『自分は調教なんかされない』という趣旨の言葉を言い放ったのだ。
「んんっ、んっ、くぅんっ!んっ!」
滑りを擦り付けられながら足の指を揉まれるのに、可愛い声をあげて了が悶えているのが触れる手に伝わってくる。右京がその後に親父狩りや援交狙いの高校生を逆に狩り歩いていたのは、ある意味では望まずあの状態に落とされた右京のストレス解消の1つだったのだろう。それでも実際には右京に狩られた高校生の中でその後も関係があったのは殆どいなくて、関係がこうも長く続いてしまったのは了くらいなものだったと思う。
「やっ、も、やら、んんっ!んぅ!やぁ。」
泣き出しそうな可愛い声で喘ぐ了の股間では、身悶えるせいで揺れて雫を垂らす下折立った陰茎がある。ちゃんとまだ男性としての昨日も残していて、直に触れてはいなくても了が快感に身悶えてパチンと肌にあたっている淫らな音がちゃんと宏太には聞き取れているのだ。
可愛いな…………
その反応にこんな感情を感じるようになったのは、相手が了だからだし、理由を問われても自分でも良く分からない。それくらい自分でもこの変化は理解が効かないけれど、満たされて愛おしくて仕方がなくなる。産まれてこのかた誰かにこんな感情を持つことがなかったから、自分の手でこんな風にメロメロになってしまう了が尚更可愛いのだ。
「や、らぁ、もぉ、あぁっ!ヌルヌル、やらぁあ。」
途轍もなく淫らで色っぽくて艶めかしい、指を刺激されているだけの声だなんて思えない。まぁ宏太にして見ても実際は昔の恥を掘り返されたからと言って、何も今が変わるわけではないのは理解している。あれは既に昔の事だから今更『これは貴方ですよね?』なんて言ってくる訳もなければ、当時の宏太の顧客は了の実父・成田哲のような立場の人間ばかりだったのだ。
下手に俺のことを掘り返したら、自分が痛い目を見る
それが分かっていて、ワザワザ危険な橋を渡るような人間はいない。松理が宏太の写真を秘匿していたのと同じく、宏太だって顧客の秘密は山のように知っているし、当然だが密かに情報を隠匿してもいる。それに大体にして宏太をどうにかしようとすれば、自分が宏太に調教を依頼したことがバレるのだから身の破滅になるのだ。
「や、らぁ、あうぅんっ!もぉ、あぁあ、やらぁ!!こお、たぁ。」
物思いに耽っていた自分を引き戻す了の甘い泣き声に、宏太はスルンと指を滑らせ足を解放した。目に見えるなら了は情欲に濡れた潤んだ瞳で、宏太に懇願する視線を向けているのかもしれない。甘えて潤みきった濡れた身体をもて余す了の懇願の声が、宏太のことを必死に呼ぶ。以前と宏太が大きく違うのは相手が了になるとまだ余力を持つのか、本気で限界なのかがまるで判別できなくなったことだ。
「こぉ、たぁ。こぉた…………。」
今になって何故久保田惣一が志賀松理に惚れた途端に、調教師は辞めたと言い出したのか理解できる。惣一も自分もそれまでマトモに人を好きになったり大事にしたことのない人間擬きだったから、こと相手が好きな奴に変わったら手加減が必要なのかどうなのか分からなくなってしまうのだ。自分が本気で全力で了を抱き潰してしまったら、了はもしかしたら気が狂うかもしれない。それくらいの技術は宏太も身に付けているし、これまでだったら線引き出来ていた筈なのだ。
カチャリ……と手枷足枷を外してやっても、既に脱力している了はヘニャヘニャになっていて身体を起こすことも出来ない。それをしたのは宏太がたかが手足の指を摘み撫でて、揉んだだけなのだ。
「……こぉたぁ…………。」
手を伸ばして首筋に回され引き付けれたのに、何故かチクンと胸の奥が疼く。不意に手を離したのが調教の一端でなくて、宏太の内心の変化だと気がついた了が戸惑いながら顔を覗き込んでくるのが分かる。
「…………ど、した?こぉた。」
可愛い。普段の噛みついて来るような物言いと違う、呂律が回らないほど感じて舌足らずに聞こえてしまう甘い声。しかも了のこの声は自分とだけいる時にしか出さないのも、もう分かってしまっている。だから了のこの声で名前を呼ばれるのが、宏太は実はとても好きなのだ。
「こぉた……?なぁ、どした……?」
熱っぽく潤んだ声だけれど、それでも自分のことを心配もしている声。それを聞くと胸が締め付けられるような感じがして、宏太は思わずギュッとその細い身体を抱き締める。
『調教』
自分の心の琴線を探して惣一の店に行き、始めたそれの中に自分の足りない何かがあるのかと思っていた。それでも年単位でそれを極めようとしても、まるで心の中は波立たずにいたのだ。右京を調教して結局は自分は欠けたままの人間だから、何をしても無駄なのだと理解もした。何しろ妻になった外崎希和の自殺で自覚した自分の異質さを、顔のソックリに見えた右京を『調教』しても抱いてみても何も変わらなかったのだ。
それなのに長く諦め、それでも得られなかったもの。
それを宏太に意図も容易く壁を崩して、惜しみ無く与えてくれたのは腕の中の了だった。分かってしまうから狂おしい程に愛しくて、了の行動に振り回されてしまう。
「…………何でも……。」
「何でもないって言うなよ、何でもなくないから。お前のそれ。」
不意に熱から僅かに割れに帰ったように、了の両手が宏太の頬を包む。宏太の何でもないは、絶対に何でもあるんだぞと柔らかな甘い声が囁いて覗き込む視線を傷跡に感じる。
傷のない過去の自分。
傷もなく若く、今よりもずっとマトモに見えた筈。その姿を褒められるのは悪い気はしないけれども、了がそれを求めた時には宏太にはどうしようもなくなってしまう。宏太にはもう傷のない自分は取り戻せないし、重ねてきた年月もどうやっても取り戻せないのだ。そんな馬鹿げた事を考えてしまうようになって、しかも何よりも大きな変化が胸の中にある。
調教しても構わないが、了を堕したくない
実は宏太は、これまで依頼を失敗したことが1度もない。依頼主の希望通り、もしくは希望以上の仕上がりで商品を引き渡してきたし、如月栞や右京のように一見すると依頼通りに育ててあるように見せかけたこともあるくらいだ。そんな宏太だから了を言いなりの人形に変えるつもりなら、きっと変えられてしまうに違いない。でも、それを了が望んだら?嫌なのに、望まれてしまったら?それを宏太は拒絶できるかどうかも、今は分からないと思ってしまう。
「…………了は………………、どっちが…………、いいんだ?」
何が?と不思議そうに問い返されても、上手く説明ができない宏太に了は不思議そうに顔を覗き込んでいる。
「その………………、あれだ…………。」
「何?…………何のこと?」
「…………俺は…………、……お前を調教したいとは、思ってない…………。」
ポソリと宏太が呟いた言葉に了は、見る間に顔を赤く染めて目を丸くする。宏太が何を言いたいのか理解した了なのだが、宏太にはその顔色は見えていないから戸惑いながら更に俯く。
「お前は……今のままが、いい…………。だけど………お前が、調教されたいって……。」
ブワッと更に真っ赤になってしまいながら、了は思わずその両頬を両手で力一杯摘みあげてしまう。痛いと呟く宏太に了は思わず、『馬鹿』と囁いていた。
昔の調教師の姿を見てみたかったのは、好きな宏太の事だから知りたかっただけ。それなのにこの目の前の馬鹿みたいにハイスペックな筈の男は、了が『調教師』に興味をもってされてみたいと思ったのではと不安なのだ。そして昔の傷もなく若くてイケメンだった自分に、柄にもなく嫉妬までして不貞腐れている。
「馬鹿って…………。」
「あのなぁ、ここまでしてて、何今更なこといってんだよ。」
その声に宏太が戸惑う顔をあげてくる。宏太は本当にこういう部分が、今一つ理解できないのだと了は苦笑いしてしまう。
「お前だから、宏太だからしていいんだろ。それに宏太だから、写真とか見たかっただけだし、ちょ……調教だって…………宏太だから、だろ。」
「俺だから…………?」
拘束だって緊縛だって、何だって。どんなに出来ると分かっていても、それを得け止められるかどうかは別な話だ。別に寝取られ嗜好でもないし以前のような享楽的でもないのに、他の奴に身体を許せるような感情は了にはない。
「他の奴に、こんなことさせるかよ。惣一さんだってヤだからな、俺。」
同じ調教師の経歴を持つのを知っている久保田惣一が相手だとしても、ここまで許すことはないだろうし、もし最悪行為が可能だとしてもこんな強い快楽に溺れるとは思えない。全て相手が宏太だからだろと不満そうに囁く了が、宏太にソッと口付ける。
「それに、昔の自分にまで嫉妬してんじゃねぇよ、馬鹿。」
「…………了。」
「宏太以外のボンデージなんか、俺だって興味ねぇし。」
不満そうに続ける了に、宏太が更に戸惑うように首を傾げる仕草を見せる。そりゃそうだろと言ってやりたい。宏太のだから見たいのであって、赤の他人のが誰彼構わず見たかった訳じゃないのだ。自分だって同じようなことを良くいう癖にと呟く了に、宏太は珍しくション……としょぼくれながら了のことを膝に抱き上げてくる。
なんて事を呑気にいっている場合ではないのだが、現在外崎了は何時もの如く手枷足枷をつけられ拘束中である。勿論誘拐とか質の悪いものでは…………ある意味ではそう言うものより晴かに質が悪いのか?…………兎も角そんなものではない。外崎宏太の昔の写真を久保田惣一の妻・久保田松理から貰ったのがバレて、『悪い子』にはお仕置きと宏太に拘束されてしまったのだ。両腕を胸の前で交差して互い違いに足首と手首を繋がれて、そのまま仰向けに転がされてしまった了はズボンを引き下げて腰の辺りだけ曝した恥ずかしい姿である。
なん、で
それでそこを中心に責められるなら兎も角、宏太はそこは放置で何故か手の指を1本ずつ指で撫で回し始めたのだった。何だそれ?と思うだろうが、恋人がいる人は試してみたらいい。というか、実際マッサージとか整体とかで、施術者に指を刺激されると気持ちいいだろう?その触りかたをもっとソフトにしてサワサワされるのは、案外エロチックな刺激になる。それが見えない状態で続くのだ。
「うぅー…………っ!!」
そして手の指だけだと思っていたのが、次は足の指に移行していた。見えないけれど自分の身体は僅かな刺激に反応して股間を熱く滾らせているのに、幾ら気持ち良くても触れるのは指だけ。チリチリする快感の種に了が呻いてしまっても、宏太は平然と何処吹く風なのだ。
手の指と同じで順番に小指からされるのかと思いきや、不意に別な足指にとんだり、もうやった筈の指に戻ったり。それでも宏太の手が足の指をなぞり、地面を踏む感覚の鋭い方を指が時折強く揉むように圧す。
「んんっ。」
「ん……?気持ちいいか?ここ。」
いや、気持ち良いけれども、それとこれはまた別な話で。出来るなら風呂のときとかに、普通マッサージとしてやってくれたほうがいい。そう憎まれ口を叩いてやりたいのに、宏太は突然手を伸ばしたかと思うと何かを取り上げている。
「ひゃっ!!!や、なにっ?!」
トロ……と何か粘着性の液体が突然に足にかけられたのに、了は思わず驚きの悲鳴をあげてしまう。そして、それが何なのか宏太に問いかける前に、それは宏太の指で了の足の指にヌリュンと塗り込まれていた。
「ひぁっ!やっあ!!あ!」
滑る指が足の指を絡めとり、まるで舌で舐め回されるような感触。しかも粘着性の液体は恐らくはジェルなのだろうけれど、ヌチュクチュと卑猥な水音を立ててくる。
「あ、や、あぁ、あっ、あふっ、や。」
切れ切れの声で悲鳴を上げる了に宏太の指は全く容赦なく、足の指だけでなくその根本の更に敏感なところまでユルユルと擦り出していた。
※※※
過去に様々な人間を相手に、幾つもの調教を繰り返してきた。それらは大概依頼主の希望を第一にしていたが、例えば後孔に咥えたがるように調教して欲しいと言われたからそこだけを調教すれば良いわけではない。大概は最初に反抗心や行為への不快感を取り除かないとならないから、まずは従順に従えるように心をへし折ってしまうことが多いものだ。宏太がその点で重宝されたのは心をへし折る前に、相手に従う快感を教え込む事が何故か得意だったからで、生意気なまま身体を調教して欲しいとか抵抗する姿が好みの依頼主は多かった。
右京もそうだったな
片倉右京の調教は右京が行為を嫌がる顔を見たがった依頼主のせいで、抵抗心なるべく残して調教して欲しいと言うものだった。最初は流石に断ろうとしていたのに、右京が生意気な口答えで『自分は調教なんかされない』という趣旨の言葉を言い放ったのだ。
「んんっ、んっ、くぅんっ!んっ!」
滑りを擦り付けられながら足の指を揉まれるのに、可愛い声をあげて了が悶えているのが触れる手に伝わってくる。右京がその後に親父狩りや援交狙いの高校生を逆に狩り歩いていたのは、ある意味では望まずあの状態に落とされた右京のストレス解消の1つだったのだろう。それでも実際には右京に狩られた高校生の中でその後も関係があったのは殆どいなくて、関係がこうも長く続いてしまったのは了くらいなものだったと思う。
「やっ、も、やら、んんっ!んぅ!やぁ。」
泣き出しそうな可愛い声で喘ぐ了の股間では、身悶えるせいで揺れて雫を垂らす下折立った陰茎がある。ちゃんとまだ男性としての昨日も残していて、直に触れてはいなくても了が快感に身悶えてパチンと肌にあたっている淫らな音がちゃんと宏太には聞き取れているのだ。
可愛いな…………
その反応にこんな感情を感じるようになったのは、相手が了だからだし、理由を問われても自分でも良く分からない。それくらい自分でもこの変化は理解が効かないけれど、満たされて愛おしくて仕方がなくなる。産まれてこのかた誰かにこんな感情を持つことがなかったから、自分の手でこんな風にメロメロになってしまう了が尚更可愛いのだ。
「や、らぁ、もぉ、あぁっ!ヌルヌル、やらぁあ。」
途轍もなく淫らで色っぽくて艶めかしい、指を刺激されているだけの声だなんて思えない。まぁ宏太にして見ても実際は昔の恥を掘り返されたからと言って、何も今が変わるわけではないのは理解している。あれは既に昔の事だから今更『これは貴方ですよね?』なんて言ってくる訳もなければ、当時の宏太の顧客は了の実父・成田哲のような立場の人間ばかりだったのだ。
下手に俺のことを掘り返したら、自分が痛い目を見る
それが分かっていて、ワザワザ危険な橋を渡るような人間はいない。松理が宏太の写真を秘匿していたのと同じく、宏太だって顧客の秘密は山のように知っているし、当然だが密かに情報を隠匿してもいる。それに大体にして宏太をどうにかしようとすれば、自分が宏太に調教を依頼したことがバレるのだから身の破滅になるのだ。
「や、らぁ、あうぅんっ!もぉ、あぁあ、やらぁ!!こお、たぁ。」
物思いに耽っていた自分を引き戻す了の甘い泣き声に、宏太はスルンと指を滑らせ足を解放した。目に見えるなら了は情欲に濡れた潤んだ瞳で、宏太に懇願する視線を向けているのかもしれない。甘えて潤みきった濡れた身体をもて余す了の懇願の声が、宏太のことを必死に呼ぶ。以前と宏太が大きく違うのは相手が了になるとまだ余力を持つのか、本気で限界なのかがまるで判別できなくなったことだ。
「こぉ、たぁ。こぉた…………。」
今になって何故久保田惣一が志賀松理に惚れた途端に、調教師は辞めたと言い出したのか理解できる。惣一も自分もそれまでマトモに人を好きになったり大事にしたことのない人間擬きだったから、こと相手が好きな奴に変わったら手加減が必要なのかどうなのか分からなくなってしまうのだ。自分が本気で全力で了を抱き潰してしまったら、了はもしかしたら気が狂うかもしれない。それくらいの技術は宏太も身に付けているし、これまでだったら線引き出来ていた筈なのだ。
カチャリ……と手枷足枷を外してやっても、既に脱力している了はヘニャヘニャになっていて身体を起こすことも出来ない。それをしたのは宏太がたかが手足の指を摘み撫でて、揉んだだけなのだ。
「……こぉたぁ…………。」
手を伸ばして首筋に回され引き付けれたのに、何故かチクンと胸の奥が疼く。不意に手を離したのが調教の一端でなくて、宏太の内心の変化だと気がついた了が戸惑いながら顔を覗き込んでくるのが分かる。
「…………ど、した?こぉた。」
可愛い。普段の噛みついて来るような物言いと違う、呂律が回らないほど感じて舌足らずに聞こえてしまう甘い声。しかも了のこの声は自分とだけいる時にしか出さないのも、もう分かってしまっている。だから了のこの声で名前を呼ばれるのが、宏太は実はとても好きなのだ。
「こぉた……?なぁ、どした……?」
熱っぽく潤んだ声だけれど、それでも自分のことを心配もしている声。それを聞くと胸が締め付けられるような感じがして、宏太は思わずギュッとその細い身体を抱き締める。
『調教』
自分の心の琴線を探して惣一の店に行き、始めたそれの中に自分の足りない何かがあるのかと思っていた。それでも年単位でそれを極めようとしても、まるで心の中は波立たずにいたのだ。右京を調教して結局は自分は欠けたままの人間だから、何をしても無駄なのだと理解もした。何しろ妻になった外崎希和の自殺で自覚した自分の異質さを、顔のソックリに見えた右京を『調教』しても抱いてみても何も変わらなかったのだ。
それなのに長く諦め、それでも得られなかったもの。
それを宏太に意図も容易く壁を崩して、惜しみ無く与えてくれたのは腕の中の了だった。分かってしまうから狂おしい程に愛しくて、了の行動に振り回されてしまう。
「…………何でも……。」
「何でもないって言うなよ、何でもなくないから。お前のそれ。」
不意に熱から僅かに割れに帰ったように、了の両手が宏太の頬を包む。宏太の何でもないは、絶対に何でもあるんだぞと柔らかな甘い声が囁いて覗き込む視線を傷跡に感じる。
傷のない過去の自分。
傷もなく若く、今よりもずっとマトモに見えた筈。その姿を褒められるのは悪い気はしないけれども、了がそれを求めた時には宏太にはどうしようもなくなってしまう。宏太にはもう傷のない自分は取り戻せないし、重ねてきた年月もどうやっても取り戻せないのだ。そんな馬鹿げた事を考えてしまうようになって、しかも何よりも大きな変化が胸の中にある。
調教しても構わないが、了を堕したくない
実は宏太は、これまで依頼を失敗したことが1度もない。依頼主の希望通り、もしくは希望以上の仕上がりで商品を引き渡してきたし、如月栞や右京のように一見すると依頼通りに育ててあるように見せかけたこともあるくらいだ。そんな宏太だから了を言いなりの人形に変えるつもりなら、きっと変えられてしまうに違いない。でも、それを了が望んだら?嫌なのに、望まれてしまったら?それを宏太は拒絶できるかどうかも、今は分からないと思ってしまう。
「…………了は………………、どっちが…………、いいんだ?」
何が?と不思議そうに問い返されても、上手く説明ができない宏太に了は不思議そうに顔を覗き込んでいる。
「その………………、あれだ…………。」
「何?…………何のこと?」
「…………俺は…………、……お前を調教したいとは、思ってない…………。」
ポソリと宏太が呟いた言葉に了は、見る間に顔を赤く染めて目を丸くする。宏太が何を言いたいのか理解した了なのだが、宏太にはその顔色は見えていないから戸惑いながら更に俯く。
「お前は……今のままが、いい…………。だけど………お前が、調教されたいって……。」
ブワッと更に真っ赤になってしまいながら、了は思わずその両頬を両手で力一杯摘みあげてしまう。痛いと呟く宏太に了は思わず、『馬鹿』と囁いていた。
昔の調教師の姿を見てみたかったのは、好きな宏太の事だから知りたかっただけ。それなのにこの目の前の馬鹿みたいにハイスペックな筈の男は、了が『調教師』に興味をもってされてみたいと思ったのではと不安なのだ。そして昔の傷もなく若くてイケメンだった自分に、柄にもなく嫉妬までして不貞腐れている。
「馬鹿って…………。」
「あのなぁ、ここまでしてて、何今更なこといってんだよ。」
その声に宏太が戸惑う顔をあげてくる。宏太は本当にこういう部分が、今一つ理解できないのだと了は苦笑いしてしまう。
「お前だから、宏太だからしていいんだろ。それに宏太だから、写真とか見たかっただけだし、ちょ……調教だって…………宏太だから、だろ。」
「俺だから…………?」
拘束だって緊縛だって、何だって。どんなに出来ると分かっていても、それを得け止められるかどうかは別な話だ。別に寝取られ嗜好でもないし以前のような享楽的でもないのに、他の奴に身体を許せるような感情は了にはない。
「他の奴に、こんなことさせるかよ。惣一さんだってヤだからな、俺。」
同じ調教師の経歴を持つのを知っている久保田惣一が相手だとしても、ここまで許すことはないだろうし、もし最悪行為が可能だとしてもこんな強い快楽に溺れるとは思えない。全て相手が宏太だからだろと不満そうに囁く了が、宏太にソッと口付ける。
「それに、昔の自分にまで嫉妬してんじゃねぇよ、馬鹿。」
「…………了。」
「宏太以外のボンデージなんか、俺だって興味ねぇし。」
不満そうに続ける了に、宏太が更に戸惑うように首を傾げる仕草を見せる。そりゃそうだろと言ってやりたい。宏太のだから見たいのであって、赤の他人のが誰彼構わず見たかった訳じゃないのだ。自分だって同じようなことを良くいう癖にと呟く了に、宏太は珍しくション……としょぼくれながら了のことを膝に抱き上げてくる。
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