鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話120.そして、結局こうなる。

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「これっ、しゃちょーなの?!!マジか?!すっげぇ!!」

明らかに誰が見ても分かる憮然とした顔で、リビングのソファーに腰かけている外崎宏太。珍しくその横に座って、外崎了が玄関の上り框で落とした写真を拾い上げた結城晴が目を丸くしながら大きな声を上げている。その写真とはもう改めて言うまでもないが、若い頃の宏太の件の調教師デビュー前後のもので、久保田惣一の店で働いていた時のものだった。
そして晴がこうして大きく目を丸くしているのは、その写真の宏太が正直いうと途轍もない破壊力抜群というボンデージ姿だからだ。当然だがその当時の宏太は身体に傷1つもない美丈夫だった頃の訳で、今の傷痕のある顔の宏太しか知らなかった晴にとっては初めて見る宏太の素顔になる。

「ふわぁ…………しゃちょー若っ!!これ幾つ?ねぇ、幾つの時?!」
「…………知るか。」

改めて言われなくても目の前に座っている了には分かっているが、密かに久保田松理がその写真を保存していたのにも、了がそれをワザワザ貰ったと言うのにも宏太は不満だったのはいうまでもない。そう言うわけで、目下宏太は完璧に不貞腐れている。
久保田松理は同じく惣一の元で働いていて、それから少しして惣一に見初められることになるのだが、当時は同じくSMバーで働いていたそうである(因みに松理がSなのかMなのかに関しては、宏太から惣一が怖いので聞かない方がいい。黙っておけと了は念を押されているので、あえて聞かないようにしている。だが、折に触れて強気な松理を見ていると、惣一も調教師だったとは聞いているものの松理の方が女王様だったのではないだろうかと密かに考えてしまうところだ)。その松理が撮ったという写真の当時の宏太は20代後半の筈だから、丁度今の晴や了と同じ年代の頃の写真な筈。写真を眺めて呑気にそれくらいの年かな~と笑っている晴に、相変わらずで不貞腐れているのは宏太が実は当時のことを良いことと思っていないからでもある。了が聞いても詳しく話そうとはしないが宏太にとってその衣装を着ていた辺りは、調教師としては半人前だったというから思い出したくないことがあったのかもしれない。それを知る筈もない晴は、更に呑気にねぇねぇと目を輝かせる。

「しゃちょーって、すげーイケメンだったんだ?!!」
「あ?」

突然呆気にとられた声で宏太が想定外の妙な反応をしたのは、まさか晴がキラッキラした瞳でそう言うとは宏太としても全く思っていなかったらしい。
確かに写真の宏太は若く涼やかな目元をしていて、和系のイケメンというのに相応しい男振り。しかも、今もそうだが全身にはしなやかな筋肉がついているのに、腰の括れや身体の各所から色気を漂わせている。それが露出ギリギリのエナメルのボンデージ衣装を身に付けて、手にはこれから身に付けるのだろう目元だけを覆う仮面を片手にしているのだ。

「すっげー格好いい!!こういうの着たことない!」

どうやら宏太としては、晴には鼻で嗤われて馬鹿にされるとでも思っていたようだ。確かに自分では汚点と思っている筈の姿を、こうも手放しで誉められるなんて事は普通の人間でも同じ立場だと戸惑う。

「…………え?何?俺、何か変なこと言った?」
「…………いや、お前…………。」

流石に戸惑っている宏太に気がついた晴が、逆に何が起きているのというキョトンとした顔をしている。女装は兎も角衣装チェンジには元々興味津々の晴なので、恐らくはボンデージなんて特殊な系統の衣装にも抵抗がないのだ。しかも、着てみたいけど恋人の狭山明良にも着せてみたいなんて事を言い出す始末。

「…………いや、ボンデージだぞ…………?お前。」
「え?格好いいじゃん?!超スタイルいい!」

まさかの全肯定に流石に宏太が、どう反応するべきなのか分からなくなっている。

「こんなイケメンでさぁ、しかもこういうの似合うってスタイル良くないと無理っしょ?マジですごくない?!!ね?!了!」

晴、お前本当に天使だな。
内心で了は素直に、そう晴に感謝したくなる。流石にこれで了が同じことを言っていても宏太はきっと恋人の欲目だと言って苦笑するが関の山だが、普段あからさまに中年だ何だと扱き下ろしている晴が手放しで宏太を誉めるのは全く意味が違う。

「…………おだてても、何にもでないぞ。」

プクゥと頬を膨らませて晴が、宏太に向かって反論する。

「はー?素直に受け止めれば良いじゃん!珍しく誉めてんのにぃ!クソ中年だなぁ。だったら扱き下ろしてやるから今これ着て見せろよー!!!」
「馬鹿言え。」
「えー、持ってないのー?こういうのってどこで売ってんの?」
「オーダーメイドだ。」
「マジか?!スゲーっ!!格好いい!!」

元気一杯に着て見せてと強請り始めた晴のお陰で、微妙に宏太の剣呑だった雰囲気が相殺されてきたのに心底安堵してしまう了なのだった。



※※※



と、たしか安堵した筈だった。 
あの時確かに晴のお陰でリビングの空気がホッと和んで、了はこれならもう大丈夫かなと安堵した筈だったのだけれども。

「で、何でこうなってんの?!もぉ!外せってば!!」

了は思わず力一杯そう叫んでしまう。
というのはその日の昼過ぎの写真の件では天使な晴のお陰で、機嫌が良くなった筈の宏太だった。そうして時間が過ぎてそろそろ寝るかと普段と変わらない様子で誘った宏太は、あっという間の手際の良さで了をベットに押し倒したわけで。ハッと了が気がついた時には、まぁ見事に四肢拘束が完了してしまっていたのである。そうして目下服はまだ着ているとはいえ、了はベットの上で久々の拘束具を嵌められて転がされている。そして言うまでもないが宏太の手腕なので、了は完璧に自由に身動きができなくされているのだった。

「あ?…………悪い子にはお仕置きだろうが。ん?」

何時もより一段階も低い声でそう言われ(あぁ、やっぱり腹の底では機嫌は回復してなかったのか)と了は思わず半べそになりそうになりながら痛感してしまう。手首と足首の革の枷は何時もの物なのだけど、腕を左右を交差して手首と足首を互い違いに繋がれてしまっていた。そのままベットに仰向けに転がされてしまったから、一見すると正座のまま膝を胸に抱えて天井を向いて転ばされたみたいな体勢。そんな格好になっていて、これでは言う迄もなく全く手足が自由にならない。
うーと了が唸りながらどんなに抗議の視線で睨んでみても、目の見えない宏太はどこ吹く風で平然とした顔で了の腰の下にクッションをあてがって更に了を動けなくしてしまう。

「もぉー、昔の写真1枚貰ったくらいで、こんなのどうなんだよ!!」
 
そうブチブチとしている了にドスッと音を立ててベットに腰を下ろした宏太が、身を乗り出して了の頭に手を乗せてくる。それに意識を奪われてしまった了は、既に宏太の術中にはまったも同然だった。ヒヤリとする気配なのにトロリと甘く響く低い声、それか何とかして意識を外そうにも頬や唇を撫でる宏太の熱い指が意識を引き付けてそらさせてくれない。

「なぁ了…………写真は1枚じゃねえよな?松理の事だ、他にも貰ってるだろ?ん?」

落とした1枚だけという言葉を昼から今まで了は貫き通したけれど、晴は兎も角宏太は全くそれを信じていない。声音の変化や松理や了の性格を理解すれば、1枚ぽっちというのがあり得ないという答えに宏太は辿り着いていたのだ。それはそうなのかもしれないだろうけれど、ヤッパリ宏太は勘が良すぎる。

「もう一種類の方もあるんだろ?そうだろ?了。」

そして、ヤッパリ記憶の中でもう1種類衣装があったこともそれを写真に撮られたことも、ちゃんと宏太は記憶していてそうサラリとだが指摘されてしまう。
別に褒められた写真なんだからと了がプチプチと不満そうに答えるのに、宏太は冷え冷えとした空気を放ちながら『そんなに調教されたいんだな?』と囁いていた。いや違う、了は別にボンデージで調教希望という訳じゃなくて、若い頃の宏太の格好いいボンデージ姿がみたいだけ。了としては本音はただそれだけで、別に今からお願いしてSMがしたいわけじゃないのだ。そう了が訴えようとしていた瞬間、宏太の手が服をずり下げて(この体勢だと上げて?)スルリと剥き出しになった尻を撫でていた。

「あ、やっあんっ!」

ヤワヤワと撫で回される裸の尻は自分の手足のせいで了には全く見えない上に、手足が自由にならないから酷く無防備に宏太に差し出されている。そんな見えない場所をユルユルと好きなように撫で回される感触に、了は思わず身体をブルリと震わせてしまう。

「悪い子には…………お仕置きだよな?了。」

松理から写真を貰うように計らったのは確かに了が自ら欲しいと強請ったからだし、宏太が当時の事を話したがらない位に嫌がっているのもちゃんと承知していた。そう言う意味では確かに了は宏太のいう『悪い子』なのだろう。今回に限っては、了もそう言われて否定が出来ない。そう心の中で認めてしまったら、身体を触られながら意地悪く追い詰められていくのに抵抗出来なくなっていた。

「や、ぁあ、あっ、あぅっ。」

ユルユル尻を撫でながら足の付け根を押されるだけで、快感が背筋を電流みたいに走り回る。元々脚の付け根を責められると弱いと分かっているのに、見えないから何時どうなるか了には分からない。だから尚のこと緊張してしまっていて、宏太に触れられると倍も強く快感の電気が走っている。それを知っているのか宏太は震える白い尻を撫でながら容赦なく了の感じる場所を責め立てるだけでなく、足の付け根に熱い唇を押し当てた。

「んぅ!!くぅうう!!!」

火傷するような熱さの唇でそこら中の肌を丹念に啄まれるのに、了の身体はあっという間に熱く火照って反応してしまう。抵抗しようがない愛撫に、またもや拘束されているので口を手で押さえることも出来ない。了は唇を噛んで頭を仰け反らせて、快感にブルブルと震えていた。

「んぅうううう!!!あぅうっ!や、んんんっ!」

指だけでなくヌルリと舌が了の股間を這い更に快感に追い詰められて、どうにかして嫌がろうにも快感が強すぎて了にはもうどうにも出来ない。

「あぁあ!!も、や、むり、むりぃ!!」

そう了が必死に懇願した瞬間、宏太は分かっていて了の身体からスルリと手を離してしまうのだ。唾液で濡れているだけではない自らの股間は、了は未だに自分の手足のせいでなにもじかに見ることが出来ない。それでも見なくても自分の股間がドロドロに先走りの蜜で濡れて、怒張が下折立っているくらいは自分の身体なのだから分かっている。

「う、くっ…………んぅっ。」

このどうにもならない快感を早く何とかして欲しいのに、宏太は了の様子を伺い全く手を出そうとはしていない。かといってここで懇願してもきっと宏太は思う通りにはしてくれないのは、もう了だってそれくらいは想定できる。

「どうした?どうして欲しい?」
「べ…………つに、…………な、………………も、……ぃらな。」

強がって意地になってそう告げる了に、宏太はアッサリとそうかというとスルリと了の手を取る。股間をさらしたままなのに何故手?そう戸惑う了を無視して、宏太の指が了の指をそっとなぞった。了には何も見えないところで宏太の指がスルリ……と小指を絡めとり、根本から指先までをソッと親指の腹で撫でていく。

「っ?っ…………っ!」

高々小指1本。そう思うだろう?了だってそう思う。でも試しに目を閉じて恋人にでも指を撫でて貰ってみるといい。ソワソワと落ち着かなくなるような、それでいて怒張を扱かれるような感触。

「ふぅっ!!っ!くっ!」

舐められている訳じゃない。指を1本ずつ宏太の指で撫でられていくだけなのに、どうしようもない疼きが強まってしまう。

「あ、ぅっ!くっ!」

股間は熱く滾って自分でも恥ずかしくなる程硬く下折立ち、鈴口からはトロリと蜜が溢れだしている。それがたった指1本ずつを小指から順に撫でられているだけなのだから、本当に宏太の愛撫は質が悪い。

「くぅうう!!」

実際の刺激を想像した頭が勝手に身体を反応させてしまう。そんなことあり得ないと思っても、この間のことを頭も身体に刻み込まれてしまっていて、それがあり得るのを知ってしまっている。何もいわず指だけを丹念に擦られ身悶えるなんて、とんでもない話だ。

「あんんっ!」
「本当に…………感じやすくなったな?了は。」

フワリと耳元に注ぎ込まれる媚薬めいた宏太の柔らかな声。自分だけのものだと囁かれたのが頭を過ってしまうと、ジンッと身体の奥が痺れたように熱を持つ。それを見透かしている筈の宏太は指を一通り撫で回したかと思うと、今度こそ身体と思ったのに次は脚の指に触れたのだった。
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