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間章 ちょっと合間の話3
間話116.余波の落としドコロ。5
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自分の手で相手の服を引き剥がすようにして脱がせながら、その上に跨がったまま外崎了はその傷だらけの肌に覆い被さり口付ける。昔、調教師に成りつつあった頃に久保田惣一の店で働いた時に着ていた衣装だという、外崎宏太のエナメルのボンデージ姿。そんな姿を誰か不特定多数の前で曝して、若い頃の宏太が他の男や女に調教をしていたと言うのに了は嫉妬してしまう。宏太が欲しくなったと告げ服を引き剥がしながらも、つい了は問いかけてしまっていた。
「なぁ、こぉた?その…………、最初の男ってどんな奴?…………イケメン?」
了から問いかけられた言葉に僅かに眉を潜めた宏太が、自分の腕から衣類を抜き取って更に腰まで引き下ろそうとしている了に向けてソロリと手を伸ばす。盲目の宏太にはもう見えはしないが、その脳裏には記憶の中の了の柔らかな髪が浮かんでいる。そして記憶の通りサラリと柔らかな栗毛に近い髪の毛に触れて、滑らせた指が頬を撫でていく。しなやかで細く綺麗な指先が唇に触れた途端に、了が待ち構えていたみたいに唇を開いてカプッとそれを噛む。それでも指には強く歯が当たるわけではなく、そのまま口の中に納められていて了は指に温かな舌を絡み付ける。
「了…………。」
ヌルリと舌で指先を舐め回して、強く吸い上げてから再び軽く噛む。宏太が口の中で指を動かすのに、更に舌を絡み付かせて扱く。ベルベットのような滑らかな感触が指を愛撫して、互いに感覚が甘い痺れになって身体をチリチリと炙っていく。
あの時…………宏太が初めて惣一から独りでショーをしろと衣装を着て舞台に立たされた時、闇の中から舞台に押し出されたあの青年はどこかの男が飼っていたペットだったのだろう。青年の名前も知らなければ身分も身の上も知らない、それでも華奢な身体に弱々しい卑屈な目をした青年だった。そう言う風に過ごすしかなかったのを示すように、相手を伺う目で闇の中を振り返り眺めたのを思い出す。そうして舞台の上の三角の台に腹這いに固定され、宏太に1時間もの間に何度も何度も思い切り尻を打たれていたのだ。
真っ赤に腫れ上がった尻を…………あの後、どうされたんだかな…………
1時間打ち続けただけで、その後性行為には本当にならなかった。ただ打たれ続けて悲鳴をあげながら独り絶頂した青年が、その後どこでどうなったか迄は宏太には預かり知らない事だ。恐らくはあの同時には店にまだあった(宏太が店を買い取る時にはその部屋は別な用途の部屋に作り替えたから、誰もその扉があることも知らないし、了だって入った事がない。それに今ではあの奥の秘密の部屋は壁ぶち抜きで機材の設置場所に変わった。まぁそこら辺は今はどうでも良いことなのだけれど。)もう一つの部屋にでも引き込まれたのだろうと思う。ショーをするための部屋とは違って、もう一つの部屋は客の線引きのない無法地帯で、店でそこに入ることがあったのは祐玄独り位だった。惣一はその部屋も自分の店の一部として管理はしていたが、その乱痴気騒ぎに加わる様子は全くない男だったのだ。
それは兎も角、そんな場所でほんの1時間しか接しなかった男なんて、目の前の了と比較になんか成りはしない。大事な了……そう心の中が甘い声で囁く。
「…………お前の方がずっと可愛い…………強くて芯があって、綺麗だ。」
そんなの男に向かって言う言葉じゃないと了は笑うが、本当に宏太にしてみたらあの青年と了では比較しようがないのだ。あの凌辱されることを受け入れて弱々しく俯く青年に、宏太が偶々出会ったとしても宏太には何もする気にはならなかったと思う。
それに引き換え片倉右京がお仕置き対象として連れてきた了を一目見た時、宏太は自分の中で何かが変わったのだと今は思う。それまでの宏太は、確かに時折だが調教した相手にも僅かな手助けはしていた。それも偶々同時期に何となく哀れに思ったからとか、もう少し未来迄眺めていたくなったから程度の理由。如月栞や片倉右京に手助けしたのは、その程度の理由なのだ。でも結果的に了にだけは宏太は全く態度が違っていて、了を傷つけさせないために勝手に工藤英輔を監禁状態にして手を回しているのだ。それに宏太は独りおかしそうに笑い、そっと呟く。
「お前は…………出会った瞬間に、一目で欲しくなったからな…………。」
サラリとまた髪を撫でて頬に指を触れさせそんなことを囁く宏太に、了は予想外と言いたげに少しだけ頬を染める。確かに了は初めて出会った《random face》で片倉右京と宏太の2人に、一晩で前も後ろもタップリと蹂躙され喘ぎ続けさせられた。それがなかったら今の了はここにいないし、宏太とこうして触れあってもいなかったに違いない。
「可愛い……俺の了…………。」
甘い声でこんなことを囁くように宏太がなるなんて、初めて出逢った辺りには想像も出来ない事だ。右京だってこんな宏太を見たら、絶対『頭おかしくなったんじゃないの?!』って笑うに違いない。
右京の事を思い出すと手を高く拘束されたまま宏太の指で後ろを開発されながら、右京の身体に捩じ込まされてよがらされていたのをフッと思い出してしまう。あんな激しい狂うような経験は、人生では早々ないものなのだろうとは思う。
スルリと腰を撫でる宏太の熱い手が、思考を寸断して自分の腰に引き寄せる。こうして今の宏太に引き寄せられて宝物のように蕩けさせられるのが不思議な気がするけれど、宏太にしてもこの姿の時期がなかったらここに至らない。それはお互いにも良く分かっているつもりだ。スルリと僅かに浮かせた腰から引きずり下ろしたエナメルの生地に、少しだけ了は残念だなとは思う。
「こぉた…………な、ほんと…………こぉた……エロくて、格好いい…………ぞ?」
「……だから、…………。」
「ほんと、お世辞じゃないって。な?」
甘えるような了の声に、跨がったままの了の腰の下に熱が集まる。そりゃ宏太だって男なんだから、好きな相手にこんな風にウットリとした声で格好いいとか褒められればヤッパリ嬉しい訳で。とは言えあんまり良い記憶がないのは、それで初めて人間相手の調教師ですら対人関係が大切なんだと痛切に感じたのもあるし、自分がどれだけそう言う面では劣っているのか痛烈に思い知らされもしたからだ。
独りよがりのセックスがいいなら、死体でも抱いてろよ。
そう調教を身に付けている間に、祐玄に言われた事は未だに鮮明だ。そう言われたのはそろそろ独り立ちでき掛けた頃のことで、それはとても胸に刺さる言葉だった。それまでの祐玄は余り良し悪しを口にはしなかったのだが、痛みではなく快楽だけの方が楽しいのではと問いかけた宏太に祐玄が珍しく言い放ったのだ。
こういう性癖の人間を理解して、生きていけるよう躾るんだよ。
そうでないと結果は、自分のような人殺しになるだけ。祐玄が呟いたその言葉の理由は、結局答えはもらえないままだ。でも宏太にしても、その言葉には希和という自分の過去を見透かされたような気がしたの。けれども答えを聞く前に…………それから暫くして宏太は無事独り立ちして調教をするようになり、忙しくしている内に祐玄は急逝したのだ。
祐玄の死の原因は、その当時の交際相手である他人から感染した病だった。
本来ならきちんと治療をすれば、もう暫く安定した暮らしをしていただろうけれど。生来の性格とか享楽的な祐玄は、発症後に案外アッサリと病気が悪化してストンと亡くなってしまったのだ。
…………アレと同じような暮らしは、お前は送るなよ?トノ。
その頃には松理の存在が大きくなりつつあって、自分の暮らしかたを変えようとしていた惣一に、祐玄みたいにはなるなと口を酸っぱくして言われ続けた。それは祐玄の刹那的な面が、宏太と似ていたからだと惣一は言う。
何も大事なものを見つけられずに、身を危険に曝して人を傷つけるだけ
そう言われてしまうと今こうして了を見つけるまでの自分は、確かにその言葉の通りの人間だった。(そして惣一自身も自分がそうだったと思っていて、松理を見つけられたから変わったのだと思っているのだと宏太は思う。)
人間擬きのまま、最後まで生きると…………祐玄みたいになってしまう
祐玄が殺したと言っていた相手とは、何がどうなったのだろうとは今も思う。だけど自分だって多くの人を見殺しにして殺したも同然だとも思うから、祐玄も同じように見えなかったが苦悩の中で生きていたのかもしれない。
それでも今はこうして了に自分が誰よりも大切なんだと教えられて、心が温かく包み込まれて緩んでほどけてしまう。頬をそっと撫で続ける宏太の手に頬を擦り付けて、了が猫のように背をしならせながら掌を舌を出してペロリ……と舐める。
「こら、そんなとこ…………舐めるな。了?」
細い腰を撫でる指がスルリと服の下に滑り込んでいくのに、了が更に猫のようにペロリと宏太の唇を舐め上げた。チロチロと舌先が唇を擽るのを抑えようと指で唇を押さえると、親指の先を再び加えて了の口から吐息が溢れ落ちる。
「あ、ふぁ…………ん。」
反対の手がその合間に下に滑り込み、服をずり下げながら尻をなぞるのに思わず唇から甘い声が溢れる。
「な、俺が…………その最初だったら…………?」
「それはない。」
何故かそれはないと食い気味に断言した宏太に、了が少しだけ不満そうな顔をして抗議のように親指を噛む。それでも宏太は了の手で全裸にされた身体を起こして、親指を噛む了の唇を今度は宏太の方から奪っていた。
「お前を他の奴の前で調教なんかするか。お前は俺のもんだ…………。」
可愛いお前の事はもう誰にも見せないと宏太に真剣に囁かれたのに、了は思わず頬を染めてしまう。こうして見ていれば、その頃の記憶を宏太は余り良いものとは思っていない。それに了は宏太にとっては特別だから、調教なんてしないと言われるのに少しだけ優越感を胸に感じてしまう。
誰にも了の可愛い姿を見せたいなんて思わないし、宏太自身が自分だって本当はじっくりと見ていたいのにもう見れないのだ。それなのにワザワザ人前で了を調教なんて、もったいないこと宏太には出来るはずもない。
「例えばだろぉ?」
「例えもない。お前は俺のものだ。」
チュ……チュと何度も繰り返して唇を奪われながら、そんなことを宏太から囁かれる甘さに酔う。
「もぉ…………こぉたの、この格好他の奴が見てたって言うの……、ほんとは俺やなんだからなぁ?」
「ん…………だから俺だって着たくないって言ったろ…………。」
そうじゃない、いや、少しはそうだけど、そうじゃない。と了がキスの合間に宏太に訴える。宏太が着たくないのは分かったけれど了は着て欲しかったのは確かで、当時が見れなかったことが…………まぁその当時の了は恐らくは矢根尾俊一に悪戯をされるかされないかの年頃だから無理なのは無理だけども…………分かっていても今は悔しいのだ。
「ちがう、俺だって…………見たかった…の………その時。」
「…………ん?………」
「宏太、格好いいし…………エロくて、…………きっと皆見とれてた…………。」
「知らねぇよ、周りなんか……。」
宏太の記憶にあるのは、闇の中の顔の見えない客の群れに囲まれたこと。それでも確かに周囲の客からは、ボンデージ姿の宏太が見事な身体を曝していたのだろう。そして、この衣装を身に付けた宏太に調教された人間も何人もいる。
「狡い…………その、初めての奴……。」
「…そぅ………………なのか…………?」
「一番…………俺が…………して欲しかった。」
「…………嫉妬したのか?ん?」
甘えながら抱き上げた了からそんなことを言われると、宏太としても悪い気分ではないらしくて。あんまりにも可愛くて甘えてくるその声に、思わず宏太は抱き上げたままの身体を腕で絡めとるように抱き締めて耳元で囁く。
「…………今…………してやろうか?ん?」
そう言うことはしないと告げてはいたけれども、一番目の男の話を聞かされると話しは違う。宏太の一番最初の経験になれたのは、恋心と愛情。それだけでも十分すぎる事なのだとは分かっていても、ヤッパリ得られなかったモノには了だって女々しいかもしれないがジリジリしてしまう。ある意味ではSMという奴の線引きは良く分からないから、今までしてなかったようなものと言われるのに戸惑いはある。ここで突然緊縛に鞭とかだったら、悲鳴をあげてしまいそうだ。
「でも…………いたいの、やだ。」
「なるべく痛くねぇのでしてやる。どうする?ん?」
なるべく痛くないこと?と思わず反応してしまう了に、痛くない調教って言うのは何なのかという宏太の実践講義が始められてしまうのだった。
「なぁ、こぉた?その…………、最初の男ってどんな奴?…………イケメン?」
了から問いかけられた言葉に僅かに眉を潜めた宏太が、自分の腕から衣類を抜き取って更に腰まで引き下ろそうとしている了に向けてソロリと手を伸ばす。盲目の宏太にはもう見えはしないが、その脳裏には記憶の中の了の柔らかな髪が浮かんでいる。そして記憶の通りサラリと柔らかな栗毛に近い髪の毛に触れて、滑らせた指が頬を撫でていく。しなやかで細く綺麗な指先が唇に触れた途端に、了が待ち構えていたみたいに唇を開いてカプッとそれを噛む。それでも指には強く歯が当たるわけではなく、そのまま口の中に納められていて了は指に温かな舌を絡み付ける。
「了…………。」
ヌルリと舌で指先を舐め回して、強く吸い上げてから再び軽く噛む。宏太が口の中で指を動かすのに、更に舌を絡み付かせて扱く。ベルベットのような滑らかな感触が指を愛撫して、互いに感覚が甘い痺れになって身体をチリチリと炙っていく。
あの時…………宏太が初めて惣一から独りでショーをしろと衣装を着て舞台に立たされた時、闇の中から舞台に押し出されたあの青年はどこかの男が飼っていたペットだったのだろう。青年の名前も知らなければ身分も身の上も知らない、それでも華奢な身体に弱々しい卑屈な目をした青年だった。そう言う風に過ごすしかなかったのを示すように、相手を伺う目で闇の中を振り返り眺めたのを思い出す。そうして舞台の上の三角の台に腹這いに固定され、宏太に1時間もの間に何度も何度も思い切り尻を打たれていたのだ。
真っ赤に腫れ上がった尻を…………あの後、どうされたんだかな…………
1時間打ち続けただけで、その後性行為には本当にならなかった。ただ打たれ続けて悲鳴をあげながら独り絶頂した青年が、その後どこでどうなったか迄は宏太には預かり知らない事だ。恐らくはあの同時には店にまだあった(宏太が店を買い取る時にはその部屋は別な用途の部屋に作り替えたから、誰もその扉があることも知らないし、了だって入った事がない。それに今ではあの奥の秘密の部屋は壁ぶち抜きで機材の設置場所に変わった。まぁそこら辺は今はどうでも良いことなのだけれど。)もう一つの部屋にでも引き込まれたのだろうと思う。ショーをするための部屋とは違って、もう一つの部屋は客の線引きのない無法地帯で、店でそこに入ることがあったのは祐玄独り位だった。惣一はその部屋も自分の店の一部として管理はしていたが、その乱痴気騒ぎに加わる様子は全くない男だったのだ。
それは兎も角、そんな場所でほんの1時間しか接しなかった男なんて、目の前の了と比較になんか成りはしない。大事な了……そう心の中が甘い声で囁く。
「…………お前の方がずっと可愛い…………強くて芯があって、綺麗だ。」
そんなの男に向かって言う言葉じゃないと了は笑うが、本当に宏太にしてみたらあの青年と了では比較しようがないのだ。あの凌辱されることを受け入れて弱々しく俯く青年に、宏太が偶々出会ったとしても宏太には何もする気にはならなかったと思う。
それに引き換え片倉右京がお仕置き対象として連れてきた了を一目見た時、宏太は自分の中で何かが変わったのだと今は思う。それまでの宏太は、確かに時折だが調教した相手にも僅かな手助けはしていた。それも偶々同時期に何となく哀れに思ったからとか、もう少し未来迄眺めていたくなったから程度の理由。如月栞や片倉右京に手助けしたのは、その程度の理由なのだ。でも結果的に了にだけは宏太は全く態度が違っていて、了を傷つけさせないために勝手に工藤英輔を監禁状態にして手を回しているのだ。それに宏太は独りおかしそうに笑い、そっと呟く。
「お前は…………出会った瞬間に、一目で欲しくなったからな…………。」
サラリとまた髪を撫でて頬に指を触れさせそんなことを囁く宏太に、了は予想外と言いたげに少しだけ頬を染める。確かに了は初めて出会った《random face》で片倉右京と宏太の2人に、一晩で前も後ろもタップリと蹂躙され喘ぎ続けさせられた。それがなかったら今の了はここにいないし、宏太とこうして触れあってもいなかったに違いない。
「可愛い……俺の了…………。」
甘い声でこんなことを囁くように宏太がなるなんて、初めて出逢った辺りには想像も出来ない事だ。右京だってこんな宏太を見たら、絶対『頭おかしくなったんじゃないの?!』って笑うに違いない。
右京の事を思い出すと手を高く拘束されたまま宏太の指で後ろを開発されながら、右京の身体に捩じ込まされてよがらされていたのをフッと思い出してしまう。あんな激しい狂うような経験は、人生では早々ないものなのだろうとは思う。
スルリと腰を撫でる宏太の熱い手が、思考を寸断して自分の腰に引き寄せる。こうして今の宏太に引き寄せられて宝物のように蕩けさせられるのが不思議な気がするけれど、宏太にしてもこの姿の時期がなかったらここに至らない。それはお互いにも良く分かっているつもりだ。スルリと僅かに浮かせた腰から引きずり下ろしたエナメルの生地に、少しだけ了は残念だなとは思う。
「こぉた…………な、ほんと…………こぉた……エロくて、格好いい…………ぞ?」
「……だから、…………。」
「ほんと、お世辞じゃないって。な?」
甘えるような了の声に、跨がったままの了の腰の下に熱が集まる。そりゃ宏太だって男なんだから、好きな相手にこんな風にウットリとした声で格好いいとか褒められればヤッパリ嬉しい訳で。とは言えあんまり良い記憶がないのは、それで初めて人間相手の調教師ですら対人関係が大切なんだと痛切に感じたのもあるし、自分がどれだけそう言う面では劣っているのか痛烈に思い知らされもしたからだ。
独りよがりのセックスがいいなら、死体でも抱いてろよ。
そう調教を身に付けている間に、祐玄に言われた事は未だに鮮明だ。そう言われたのはそろそろ独り立ちでき掛けた頃のことで、それはとても胸に刺さる言葉だった。それまでの祐玄は余り良し悪しを口にはしなかったのだが、痛みではなく快楽だけの方が楽しいのではと問いかけた宏太に祐玄が珍しく言い放ったのだ。
こういう性癖の人間を理解して、生きていけるよう躾るんだよ。
そうでないと結果は、自分のような人殺しになるだけ。祐玄が呟いたその言葉の理由は、結局答えはもらえないままだ。でも宏太にしても、その言葉には希和という自分の過去を見透かされたような気がしたの。けれども答えを聞く前に…………それから暫くして宏太は無事独り立ちして調教をするようになり、忙しくしている内に祐玄は急逝したのだ。
祐玄の死の原因は、その当時の交際相手である他人から感染した病だった。
本来ならきちんと治療をすれば、もう暫く安定した暮らしをしていただろうけれど。生来の性格とか享楽的な祐玄は、発症後に案外アッサリと病気が悪化してストンと亡くなってしまったのだ。
…………アレと同じような暮らしは、お前は送るなよ?トノ。
その頃には松理の存在が大きくなりつつあって、自分の暮らしかたを変えようとしていた惣一に、祐玄みたいにはなるなと口を酸っぱくして言われ続けた。それは祐玄の刹那的な面が、宏太と似ていたからだと惣一は言う。
何も大事なものを見つけられずに、身を危険に曝して人を傷つけるだけ
そう言われてしまうと今こうして了を見つけるまでの自分は、確かにその言葉の通りの人間だった。(そして惣一自身も自分がそうだったと思っていて、松理を見つけられたから変わったのだと思っているのだと宏太は思う。)
人間擬きのまま、最後まで生きると…………祐玄みたいになってしまう
祐玄が殺したと言っていた相手とは、何がどうなったのだろうとは今も思う。だけど自分だって多くの人を見殺しにして殺したも同然だとも思うから、祐玄も同じように見えなかったが苦悩の中で生きていたのかもしれない。
それでも今はこうして了に自分が誰よりも大切なんだと教えられて、心が温かく包み込まれて緩んでほどけてしまう。頬をそっと撫で続ける宏太の手に頬を擦り付けて、了が猫のように背をしならせながら掌を舌を出してペロリ……と舐める。
「こら、そんなとこ…………舐めるな。了?」
細い腰を撫でる指がスルリと服の下に滑り込んでいくのに、了が更に猫のようにペロリと宏太の唇を舐め上げた。チロチロと舌先が唇を擽るのを抑えようと指で唇を押さえると、親指の先を再び加えて了の口から吐息が溢れ落ちる。
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「それはない。」
何故かそれはないと食い気味に断言した宏太に、了が少しだけ不満そうな顔をして抗議のように親指を噛む。それでも宏太は了の手で全裸にされた身体を起こして、親指を噛む了の唇を今度は宏太の方から奪っていた。
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誰にも了の可愛い姿を見せたいなんて思わないし、宏太自身が自分だって本当はじっくりと見ていたいのにもう見れないのだ。それなのにワザワザ人前で了を調教なんて、もったいないこと宏太には出来るはずもない。
「例えばだろぉ?」
「例えもない。お前は俺のものだ。」
チュ……チュと何度も繰り返して唇を奪われながら、そんなことを宏太から囁かれる甘さに酔う。
「もぉ…………こぉたの、この格好他の奴が見てたって言うの……、ほんとは俺やなんだからなぁ?」
「ん…………だから俺だって着たくないって言ったろ…………。」
そうじゃない、いや、少しはそうだけど、そうじゃない。と了がキスの合間に宏太に訴える。宏太が着たくないのは分かったけれど了は着て欲しかったのは確かで、当時が見れなかったことが…………まぁその当時の了は恐らくは矢根尾俊一に悪戯をされるかされないかの年頃だから無理なのは無理だけども…………分かっていても今は悔しいのだ。
「ちがう、俺だって…………見たかった…の………その時。」
「…………ん?………」
「宏太、格好いいし…………エロくて、…………きっと皆見とれてた…………。」
「知らねぇよ、周りなんか……。」
宏太の記憶にあるのは、闇の中の顔の見えない客の群れに囲まれたこと。それでも確かに周囲の客からは、ボンデージ姿の宏太が見事な身体を曝していたのだろう。そして、この衣装を身に付けた宏太に調教された人間も何人もいる。
「狡い…………その、初めての奴……。」
「…そぅ………………なのか…………?」
「一番…………俺が…………して欲しかった。」
「…………嫉妬したのか?ん?」
甘えながら抱き上げた了からそんなことを言われると、宏太としても悪い気分ではないらしくて。あんまりにも可愛くて甘えてくるその声に、思わず宏太は抱き上げたままの身体を腕で絡めとるように抱き締めて耳元で囁く。
「…………今…………してやろうか?ん?」
そう言うことはしないと告げてはいたけれども、一番目の男の話を聞かされると話しは違う。宏太の一番最初の経験になれたのは、恋心と愛情。それだけでも十分すぎる事なのだとは分かっていても、ヤッパリ得られなかったモノには了だって女々しいかもしれないがジリジリしてしまう。ある意味ではSMという奴の線引きは良く分からないから、今までしてなかったようなものと言われるのに戸惑いはある。ここで突然緊縛に鞭とかだったら、悲鳴をあげてしまいそうだ。
「でも…………いたいの、やだ。」
「なるべく痛くねぇのでしてやる。どうする?ん?」
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