鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話106.裏話?

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何でまたこんなにも激しく執着してんのかねぇ…………

最近義理の弟の佐山明良の恋人・結城晴にくびったけの我が子・高城光輝の様子を眺めながら、悪阻で大変な妻の変わりに夕食を作る高城宗輝は首を傾げてしまう。
確かに結城晴という青年は一見するとチャラそうに見えるが、爽やかな笑顔の好青年だし凄く人懐っこく話しやすい。それには話題だって豊富だし、機転も利くようで話していて楽しく飽きないのだ。元は明良と同じ職場で働いていた営業マンだったとも聞いたが、それも納得のコミュニケーション能力ではある。そう言う意味では誰からも好かれそうな人柄の青年だけど、うちの息子の執着は一寸度が過ぎているわけで

「はるちゃぁああん!!!うええええぇん!」

と言うか、ほんの半年くらい前まで人見知りで知らない人間には近づきもしなかった光輝の、この変貌ぶりを見ると執着心の強さは言うまでもない。因みに長女・狭山佐久良の一人娘・優羽も、やはり晴ちゃんLOVEなのは同じなのである。ただ向こうは光輝より少し年が上で女の子なのもあってか、光輝ほどの突拍子もない行動には至っていない。ただし晴が狭山家に行くと優羽もずっと晴のお膝に乗って、しかも後をついて歩き回るそうである。
高城宗輝は中々受け入れて貰いにくかったあの狭山家に、何を特別なことをするでもなくスンナリと受け入れられた辺り。恐るべし結城晴…………と宗輝だけでなく、佐久良の夫・悠平も密かに言っていたりするのはここだけの話し……だ。

猫に木天蓼、狭山家に結城晴………………

なんて心の中で冗談を言いたくなるわけだが、今夜も再び晴会いたさに光輝は晴に電話を掛けた模様。
因みに母がオッケーを出してから晴ちゃんに電話をして、いいよと言われたら会いにいくというのが基本の約束なのだが、何よりも由良が体調が悪いためにその前半部分で光輝はちゃっかりいいと言われたと言う呈で電話をしたりしているのはここだけの話だ。まぁ、後半の晴ちゃんが電話に出るというのが最近の一番の難関なのだから、そこら辺を誤魔化せても無意味なわけだ。)明良が電話に出て、けんもほろろに会話を流され電話を切られたのだった。そして目下光輝は、家のソファーの片隅で団子虫宜しく毛布で丸くなって泣きじゃくっている。

何でまた泣くほど会いたいかねぇ?

確かに話していて落ち着くなぁとは思うが、それにしてもこんな風に誰かに純粋に好き好きとアプローチ出来る光輝が、ちょっとだけ羨ましくも思ってしまう。

「はるちゃぁああん!!!」

しかし、ここで晴の名前を呼んでこんな風に泣いているというのも、正直どんなものなのか。何がそんなに惹き付けてるんだろうかと思うのは、自分は狭山家の家系の血が流れていないからかもしれない。

「光輝ー。飯だぞー。」
「いらないもん、僕晴ちゃんに会うまで食べないもん!」
「ほーか、ほーか。食べないとおっきくなんねーから、いつまでもチビでガキで、一人で晴ちゃんちいけないままだなー。」

そう言われると子供のままでいたくないと思っているんだろうか、光輝は泣きべそのまま起き上がるとズルズル毛布を引きずって大人しく食卓につく。腹が減ったより何より、晴ちゃんちに行きたいなら食うしかないとは思うようだ。しかしまぁホントに狭山家に結城晴なんだなぁと呆れるのは、妻の由良も結城晴を見てるだけで癒されるとか言うからで。何でか強面の祖父・狭山高良まで晴にはデレデレしていたりして、何がこんなに惹き付けてるんだろうかとは改めて思う。

「由良、飯ー。食えるかー?」
「晴ちゃんも…………ご飯たべれてるかなぁ……パパ。」
「ん?」

スプーンでオムライスを掬い大きな口を開けて一口頬張った光輝が、心配そうな口ぶりでそう問いかけてきたのに宗輝は何でだ?と首を傾げてしまう。妻の由良が食事をとれないのは妊娠初期の悪阻が酷いせいで、由良は光輝の妊娠の時も初期はこの状態だった。が、それと結城晴が食事を云々は意味が分からないので、素直に何で?と改めて光輝に問いかけてみる。

「晴ちゃんはママと同じでしょ?パパにとってのママと同じで、明良にぃにとっての晴ちゃんはなんでしょ?」
「そだな?」
「だから、晴ちゃんはママと同じなんだよ。」

んん?何かちょっと息子がおかしなこと言っている気がする。確かに立場としては結城晴は明良の伴侶に当たる恋人なので、宗輝の伴侶の由良と立場は同じかもしれない。でも、それは立場的にと言うことであって、性別的なことを述べた訳ではない。妻は妻で彼氏は彼氏な訳であるから、彼氏はどんなに沢山子作りをやってても、今の社会では悪阻にはならないぞ?光輝。

「だから、僕ね、晴ちゃんが具合悪かったら……ママにするみたいに助けてあげようと思ったんだ。」

んんん?いや、確かに光輝は由良が体調が悪いと背中をさすってあげたり、冷たい水を持っていってあげたりと気遣いの出来るイイコだ。だけどさっきも思ったが、結城晴は男の子だから妊娠はしないし悪阻もないんだぞ?幾ら晴が明良の伴侶でも………………もしかして

「晴ちゃんね………時々具合悪いんだよ…………朝とか動けなくって、どっか痛いんだって……。ベットから起きれなかったり、痛かったりするの。」
「あぁー………………。」

我が子としては勿論晴ちゃんLOVEで会いたいのもあるのだろうが、方や途轍もなく優しい気持ちで大好きな晴の身体を何とか労ろうとしていたのに気がついてしまった。だが、それは…………

「光輝、あのな?」

そう言い掛けて宗輝は、はてこれはどう説明するべきなのだろうと考え込んでしまう。時々晴の具合の悪そうな様子を見て光輝は、晴が母と同じで妊娠していて体調が悪いのだと素直に思ったのだ。ところが、現実的には結城晴は男性なので当然だが妊娠はしないし、その具合の悪いってのも恐らくは身体の体調が云々ではなくて…………明良がやったことの余波だと宗輝としては思うわけで…………。

「なに?パパ。」

でも、それを説明するには小学一年生は、流石に内容が内容なので早すぎる。男の人は妊娠しないんだよと説明したら漏れ無く、ならどうして明良にとっての晴ちゃんはパパにとってのママと同じなの?となり、それを説明すると、ならなんで晴ちゃんは朝になると身体が痛くて起きれないの?となる訳だ。流石にこの年で男性同士でどうやって性行為するんだと説明しては不味い、何しろまだ男女の性行為だってハッキリとは説明してない純粋なお年頃なのだ。いや、流石に赤ちゃんがコウノトリが連れてくるとかキャベツから生まれるなんて、お伽噺混じりの話しはしていないが。

「光輝……もう少し大人になったら色々分かるからな…………。」

思わずそう言いながら、オムライスをパクつく息子を眺める。こうなると今の状況では宗輝に出来るのは、光輝の頭を撫でてやる事くらいしか出来ない。

「分かる?分かったら、晴ちゃんとこいける?」
「んー…………それは、パパには分からんなぁ…………。」
「?……それじゃ、何が分かるの?」

墓穴か。いや、まぁ色々分かると大人になるんだよと言うしかない。そうなんだと素直に納得してくれる光輝に、宗輝は染々安堵してしまう。
それにしても、もしこのまま成長して光輝が、相手は晴ではないとしても男性に恋をしたら自分達はどうするだろうか。別段家系がどうこうとか家の事なんてものは、宗輝は余り個人には関係ないと思っている。と言うのも高城宗輝は余り家庭に恵まれずに育った人間で親代わりの四倉藤路はいるのだが、実の父親は行方不明だし母親はもっと昔に失踪しているからだろう。姉も一人いるが四倉の家で出会った兄貴分の一人に嫁いで、今は子供もいて幸せに暮らしてはいる。それを考えると、別に普通一辺倒の定番でなくても良いとは思うのだ。

まぁ、光輝が幸せならいいんだけどよ。

明良が幸せなら相手が男の子でもいいわよと言いきった狭山三姉妹のことを思い浮かべながら、自分の子供が大人になって男を嫁か婿ですと紹介してきても平静でいられるようにしとかないとなぁと思わず苦笑いする宗輝なのだった。



※※※



「これどうすんの?売んのー?」

バックヤードに運んだ数々の段ボールをポケットに手を突っ込んだ姿で覗きながらの呑気な問いかけの声に、中身を黙々と仕分けしながら相園良臣が視線を返す。
背後にいるのはコジャレたキャスケット姿の比較的小柄な宮直行と何処ぞの組員かはたまた格闘家かという体格の浅木真治。どちらも既にそれぞれの親よりも長い付き合いとなっている面々で、ある意味では兄弟のようにそれぞれ久保田惣一の下で得意分野をもって活動していた過去のある仲間だ。既に説明する必要もないが、過去に培った情報網は今もそれぞれの裏の顔の一つにはなっている。
仕分け中の淫らな性的お道具の透明な箱を片手に、真顔でキリリとして見せても格好はつかないが、仕入れに金のかかっていないこの箱全部を捌ければかなりの儲けだ。

「売る。仕分けて売る。」
「…………まぁ、売れなくはないだろうけどな。」

店舗を作るには数や内容に偏りがあるが、ホテルの簡易物販でならなんとか捌ける。そう言う類いのお道具を好むタイプのホテルはあるし、興奮の勢いでそういう物を買ってしまえ!となってしまうことだってある。しかも外崎宏太から廃棄と卸された品物は、基本的に本格的な高級品が多いから本来の市場価格だと単価が高いモノばかりだ。

「まぁ、価格なんか今時スマホ検索されるしなー。」
「だろ?それを上手く売り捌けば良いんだし。」

相園の仕事はホテルの支配人と表立ってはなっているが、既に密かに幾つか経営にも関わっているのはここだけの話し。だから、一店舗のホテルだけでなく、系統を見て売れそうな場所を選べば捌くのは難しくはない。それに仕入れに金がかかっていないのだから、売れれば利益だけ。しかもこの類いの商品は買った方も当たり外れが有ることを理解して買っていくのが普通だし物が物なので、買った後のクレームはそれほど出てこないことが多い。まぁラブホで買った玩具が使ってサイズが合わないとか今一とかって、わざわざクレーム入れるようじゃ世も末だ。
それにしても、この面々一見するとどいつもヤクザ紛いかチーマー崩れと言っても過言でもないのだが、久保田のお陰でそれぞれなんだかんだと一端の生活を送れるようになってきた。宮なんかカラオケビルのオーナーでカフェ経営だし浅木だって居酒屋経営者、過去の自分を省みたらそんな風に忙しく暮らせるようになるなんて思いもしなかった面々なのだ。

「うわぁ…………流石トノ、エグぅ。」

段ボールの中を覗き見た宮がそんなことを言うのに、相園が顔出したんなら仕分けを手伝えよと不貞腐れたように言う。別段この二人を仕分けの手伝いに呼んだ訳ではないのだが、ここにこうして私服で二人揃ってやって来たのは大体予想がつく。

「駄目だ。そう言うものを触った後でお嬢に触れるわけにはいかん。」
「阿保か!新品未使用箱入りだぞ?」
「えー、何かやじゃーん、タマちゃん触るのに。」
「なら手を洗え!!」

そう今年になって産まれた久保田家のお姫様・碧希に会いに行くのに、バラバラで来るなよ・面倒だし松理が休めないんだからと惣一から再三釘を指されている。3人にとっては惣一は親……もしくは兄貴に等しく、しかも命を救われるような恩のある存在。その男の宝物のような一人娘なのだから、碧希は3人にとっても天使かお姫様というわけである。それに会いに行くのに誘いに来たら、相園が如何わしいお道具の段ボールの真ん中で仕分けをしていたということなのだ。

「じゃ何しに来たんだよー!お前ら!」
「良臣が行けないのを確認にきた。」
「オミさん、誘わないと不貞腐れんじゃん?だから、一応?」
「行くよ!待ってろっての!!」
「えー、それ仕訳してたのに?ダメでしょー?」
「新品未開封未使用品だっつーの!!」
「使用品売ったら問題っしょ?」
「使用品触ってたら、家に入れて貰えないな。」

手洗うし!!と怒鳴り返してみるものの相園としても実際のところ性的な目的の器具を触っていたと惣一が知ったら、どんなに未使用品の箱入り新品だったとしても何故か自宅ですら出禁にされそうな気がする。しかも惣一ときたら昔から電気信号でも読み取るみたいに、こういうことに関しての勘がやたら効くから下手な隠し事が出来ない。

「…………シャワー浴びたら駄目かな?」
「んー、ギリアウト?」
「今日は諦めとけ。」

その言葉に何でだよ!もとを正せばこれの仕入れ先、兄貴じゃん?!!と相園が叫んだのは言うまでもない。そう、外崎宏太のSM調教師としての発端は久保田惣一の経営していたSMバー……、その後の調教師の物品の仕入れ先も久保田惣一の紹介先……つまりはこれらの出先は全部惣一の流れだったりする。勿論それは妻の松理も知っていることなので、それを盾になんて方法も使えない。

「それ言っても無駄だよー、兄貴と姐さんだもん。ね?浅木さん。」
「そうだな。」
「何でだよー!!タマちゃーーーん!!!」

そう相園の嘆きがバックヤードの段ボールの中に、空しく木霊するのだった。
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