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間章 ちょっと合間の話3
間話98.変わっていく6
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基本的に寝る時の外崎家では寝衣や寝間着……パジャマのような物は着ていない。いや、正確には最初の頃は一応外崎了も外崎宏太もそれぞれ着て寝てはいたのだが、二人がこの関係になってからというものの朝になると何故か全裸に剥かれてしまうという事態が続いた。しかも了が剥かれるのは当然と言いたげな宏太が、マンションから引っ越したら部屋は空調も効いているのだから別に着なくても良いと押しきろうとし始めたのだ。それに対して流石に服くらい着せろと了が突っぱねた訳である。
何で毎回脱がすかなぁ?!
と当然の事だが了が、勝手に服を脱がしてしまう宏太に詰め寄った事も何度かある。だが、それに対して布地の手触りが邪魔だとか抱き締めて寝てるのに触れるなら肌がいいんだとか、宏太の訳の分からない主張と共にベットに押し倒され結果コトに雪崩れ込まれてしまう。そんな訳でどうせ宏太には口では勝てないし技でも大抵勝てないので、抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなってきた了が仕方がないから最低限の下着は着せろというところで折れた訳だ。まぁそれすら結果的には、朝には脱がされていることが多いのは言うまでもない。
とはいえ今は宏太が熱を出して悪寒もあったということもあって、普段とは違い大人しく寝間着を着せられて寝ていたのだが、
あっつ…………
モソモソと布団の中で身動ぎしているのは了ではなくて、宏太の方なのだが普段と違って自分の自由にならない部分が今日は大きい。抱き締めている腕の中の了の衣服の方は簡単に脱がせることが出来ても、自分の寝間着が上手くいかないのは汗のせいで肌に貼り付いてしまっているようだ。
「さとる…………。」
腕の中で一緒に眠り込んでいた了を揺り起こそうと、耳元に口を寄せて囁きかける。フゥッと熱を持った吐息を吹き込まれたのに、敏感に反応した了がヒャァ!と可愛い声を上げて飛び起きた。
「な、何ッ耳ッ!ってか何で俺だけ脱がすんだよ!もぉ!」
ベシッと胸元を叩かれた宏太も何時もなら憎まれ口の一つでも飛んで来そうなものなのだが、今は反論する力もないのか項垂れて低く囁く。
「あちぃ…………脱ぎたい…………。」
え?とこの状況を思い出した了が手を伸ばして、宏太の寝間着に触れてみると一寝入りしたせいなのか異様に発汗してしまったらしいのに気がつく。触れただけでも濡れているのが分かるほど、搾れてしまいそうにグッショリと湿った状態なのだ。サラッとしている肌触りのものなら体調云々があっても何とか脱げるだろうが、こんな状態だと目が見えない上に体調が悪い宏太では脱ぎようがなかったのだ。(というか、そんな状況でも何故真っ先に自分の事を脱がすんだよと、了としては突っ込みたいのはさておき。)
「脱ぎたい……気持ちわりぃ…………。」
確かにこれでは不快感は強いだろうと、了はイソイソと自分の服を着込みパタパタと駆け出していく。扉続きのバスルームから暖めた湯で絞ったタオルをとってきて、宏太の寝間着のボタンを手早く外し始めていた。
当年47歳になる外崎宏太には顔と首から胸元にかけて、後は股間の当たりに刃物で切り付けられた大きな傷跡がある。その傷を負わされたのがあまり切れ味のよい刃物ではなかったため(実際には果物ナイフより少し大きい程度のナイフだった)、その傷は鋭利さのない大きく醜い傷痕を残したのだ。それでもそれ以外の体表は今も滑らかで、年の割には均整もとれたしなやかな筋肉質の体つきをしている。
んー…………
傷がなかった頃の宏太は、事実見惚れてしまう肉体美の持ち主だった。そのことは当時の姿を知っていて、当然だが当時から全裸の付き合いもあった了は言われなくてもよく知っている。とはいえ、怪我をして入院していたせいで少し筋肉は落ちたというが、その後も年を重ねて太るわけでもなく。こうしてみれば引き締まった腹筋やら胸筋やらは、同年代だけでなく男から見たら垂涎ものだと思う。
「…………宏太、腕抜くから上げて。」
「ん…………。」
いつになく大人しく脱がされ半裸になった宏太の身体は、少し汗ばんだせいと熱のせいで体温が高いためかホンノリと上気しているように見える。いやいや、今は性的な気分で半裸を見てる場合じゃない。今の宏太は珍しく不調なのだからと了は自分に言い聞かせるけれど、普段と違って自己主張のない癖にこの宏太の様子は正直いって色気が強い。
くそ…………いい身体してんだよな、ほんと
普段は早々鍛えている訳じゃないのは一緒にいるから勿論分かっているのだが、最近の宏太は鳥飼信哉の依頼で時折だが真見塚道場で身体を動かすのに加わることがある。自分は目が見えないからそれ程は求められないと宏太は言うが、信哉に時折抜刀術と棒術の指南なんかもするそうで。密かに帰宅して洗濯に出される道着が、『これって水被ったのか?』と聞きたくなる時があるのだ。
だから、ちょっと締まったかも?
どんな運動なんだよと思ってはいるけれど、実は了の事を宏太は道場には連れていきたがらない。なので、未だに了は直に宏太が何をどうするのかは見たことがなかったりする。何で連れていってくれないのかは聞いても教えてくれないし正直道着姿の宏太を見てみたいのだけどと訴えてみても、それも何故か宏太には却下されているのだ。
「こぉた、少し身体拭くからな?」
「…………ん。」
広くて滑らかな筋肉の程好くついた背中。腕の筋肉も程好くて、手足はスラリとしなやかで、造形として言うなれば綺麗なのだ。ボディビルダーとかのような筋骨隆々とは全く違うが、必要な場所には十分についているという感じ。そうして温かく湿らせたタオルで汗を拭い新しい清潔な寝間着に手を通させようとしたら、突然宏太が服は嫌だとごね始めていた。
「着ない。」
何いってんだ?と了が眉を潜めるけれど、何でか腕を組んでの抵抗が始まったのに呆気にとられる。
「駄目、寒気してただろ?」
「今はない。」
「身体拭いた後だからだろ。身体冷えたら、また熱がぶり返してくるかもしんないだろ。」
そう言っても嫌だの一点張り。お前は子供かと内心では思うが、それにしたって着る着ないで何時までも押し問答している場合じゃない。
「いいから、今晩はちゃんと着て暖かくして寝る!」
「いや、だ。」
何なんだとあきれると、今度は不意に了の事を引き寄せて腹の当たりを抱き締めてくる有り様。こいつ、絶対に熱で頭ん中が訳が分からない状態になってて、これやってる。普段熱だしたことないって言ってたから、本気で訳分かんないんだろ?そうは思うけれど、宏太は依然として了の腹の当たりに顔を押し付けて服を着るのは断固拒否ときた。
「こぉたぁ…………。」
「なら着たら、何かしてくれるか?」
「は?」
「何かしてくれるなら、着てもいい。」
なんだそりゃ?何で宏太の体調を気遣って寝間着を着せて寝させようとしている了に、宏太が寝間着を着たら了が何かしてやるなんて発想に繋がるんだ?とポカンとしている了に、宏太が見えない目を向けるように了の顔を見上げる体勢に顔を上げる。
「してくれるか?」
「な、にを?」
「俺がして欲しいこと。」
宏太が了にして欲しいこと。そう言ってくるということは、宏太には了に何かして欲しいことがあるということでもある。実際のところ、これまで了としては宏太がしたいことは、了が拒否しようと何しようと敢行されていると思っていたのだ。けれど、こういうと言うことは何かして欲しいことがあったのに、宏太はずっと我慢しているということなのか。
ええ…………?何それ…………ちょ、こわ…………
宏太は元はSMの調教師ではあったけれど、一緒にいる了には痛いことはしない縄も鞭もなしだと言っていた。でももしかして、したいけれど我慢してるんだとか?
縄で縛るのは大変だから面倒なんだとか言ってたけど…………
縄で梁に吊るすのは素人目には簡単そうに見えても、梁の強度とか人体の血流なんかを理解してやらないとならないという。それに縄の管理も下準備が必要だったりするから、目の見えない宏太には手間のかかることが出来ないのと満足できる準備が出来るかどうか判断できないからしない。だから拘束するならベルトの枷の方と言っていて、まぁ幾つか隠し持っているようではある。
それとも他にも何かあるだろうか?
他に考えられると言えば…………えぇと……青姦とか?羞恥プレイとか?いや、ちょっと待て。困ったことに宏太がしたがりそうだと考えられるのが、大概が鬼畜なエロなんだけど?いやいや、ホントにそんな関係のことなのか?でもそれって本気で宏太がやりたかったのなら了が何と言っても止めたって、宏太ならやってそうな気もするのだが。
「して、くれるのか?」
まるで強請るみたいな甘える声で、腹の当たりで顔を上げた宏太が繰り返して聞いてくる。ちょっと可愛い……いや、違う。これ本気なのだろうか?でも、高々寝る時の服を着る着ないで、こんな押しきってまでするような事なのか?危ない橋を渡るようなもんじゃないか?でもやっと少し熱も下がってきたような。そんな気がするところで、また熱がぶり返すようなことをワザワザさせたくもないし。
「もー分かった!してやるから、一個だけ何でも。だから、服!」
「約束したからな?」
「分かった!一個な?一個!」
グルグル考え込んだ結果分かった・約束したと繰り返した了に、宏太は納得したのか素直に頷くと了の準備した新しい寝間着をしかたなしという顔ではあるもののイソイソと着始める。そして了が何なんだとグルグルと頭の中で考えながらタオルや寝間着をランドリーに入れて寝室に戻ると、着替え終わったと言いたげに宏太がまだ身体を起こしているのに気がつく。
「そうだ、何か飲むか?汗かいたんだし。」
そんな甲斐甲斐しい世話焼きを受け止めながらも、やっぱり普段と様子が違う宏太が身体を横にしないのに眉を潜める。すると大体の事を終えただろうと言いたげに、了に顔を向けて今度は手招いてきた。
「ん?何?」
「約束。」
え?何?約束って今?っていうか、その約束は元気になってからじゃないの?と了がポカンとしてしまう。いやいや、今の話じゃないでしょ?と思うのに宏太は約束したろと言いきって、了を引き寄せると枕元に座らせてしまっていた。
「よし。」
いや、よしって?と思った瞬間、宏太の頭が突然太股にのってきて。
はぁあ???!!
いや、頭冷やして寝ろよ。そう思うのだけど想定外に宏太がして欲しかったのが、了の膝枕ってありなのか?いや、女の子の柔らかな膝枕なら兎も角、男の筋張った太股に頭を乗っけて気持ちいいわけ?楽しいわけ?と正直に思ってしまう。
俺…………男なんだけど?これ、誰得?
等と了が頭の中でひたすら考えているのも他所に、宏太ときたら満足したということなのか、あっという間にスウスウと眠り込んでいて。次第に考えれば考えるほど、ちょっと膝枕して欲しかったなんてありなの?と一人膝枕しながら宏太の頭を撫でつつも、恥ずかしくなって悶絶しそうになる了がいたのだった。
蛇足ではあるのだが、男性というものは割合恋人に膝枕を好むものだそうである。膝枕というものは太腿という部位が局部にも近いためか、心を許せる相手でないと行わないものらしい。それを相手が自分にしてくれるということが、自分への愛情の証明であると男性には感じられるのだそうだ。なので甘えたい男性は特に膝枕を求める傾向にあるといい、普段は甘えた姿なんて絶対に見せられないと思っている男性ほど膝枕を好む傾向があるとかないとか。所謂子どものころ母親に甘えていたように、全身で甘えを表現したい時に男性は膝枕をお強請りしてくるということなのだろう。
とはいえ宏太は昔から余り誰かに甘える質ではないので、実はこんなお強請りまでして膝枕なんてことは産まれて始めて。熱を出して普段とは違う状況に陥った宏太が、無意識に心細く不安になっていて
この先どうすればいいんだろう、自分はなんでこうなんだろう
と密かに心の底で悩んでいたからなのかもしれない。つまりは大好きな了の匂いに包まれながら心を休めることができれば、不安や寂寥感も和らぐと無意識に考えたというところか?それがあんな風に子供染みたお強請りでくるとは思わなかったのは確かだ。
変わったなぁ……こぉた…………
それにしても膝枕というのはやってみると、長い時間はするもんじゃない。頭一つと簡単に考えるかもしれないが、実際にすると脚は痺れるし頭の重さで痛くなったりするのだ。それでもまぁちょっと宏太のこのお強請りが可愛かったから、と了としても頑張ってみたものの……
「こ、ぉた…………ごめん、もぉ無理ぃ。」
「んー…………いやだ。」
「いや、もぉ痺れた。」
「一回しかしてくれないなら、まだいやだ。」
「わかったから、また今度してやるってぇ。」
足の痺れにヒィヒィ泣いている了に、どうみてももう元気になっているような気がしなくもない宏太が楽しそうにニヤニヤしているのだった。
何で毎回脱がすかなぁ?!
と当然の事だが了が、勝手に服を脱がしてしまう宏太に詰め寄った事も何度かある。だが、それに対して布地の手触りが邪魔だとか抱き締めて寝てるのに触れるなら肌がいいんだとか、宏太の訳の分からない主張と共にベットに押し倒され結果コトに雪崩れ込まれてしまう。そんな訳でどうせ宏太には口では勝てないし技でも大抵勝てないので、抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなってきた了が仕方がないから最低限の下着は着せろというところで折れた訳だ。まぁそれすら結果的には、朝には脱がされていることが多いのは言うまでもない。
とはいえ今は宏太が熱を出して悪寒もあったということもあって、普段とは違い大人しく寝間着を着せられて寝ていたのだが、
あっつ…………
モソモソと布団の中で身動ぎしているのは了ではなくて、宏太の方なのだが普段と違って自分の自由にならない部分が今日は大きい。抱き締めている腕の中の了の衣服の方は簡単に脱がせることが出来ても、自分の寝間着が上手くいかないのは汗のせいで肌に貼り付いてしまっているようだ。
「さとる…………。」
腕の中で一緒に眠り込んでいた了を揺り起こそうと、耳元に口を寄せて囁きかける。フゥッと熱を持った吐息を吹き込まれたのに、敏感に反応した了がヒャァ!と可愛い声を上げて飛び起きた。
「な、何ッ耳ッ!ってか何で俺だけ脱がすんだよ!もぉ!」
ベシッと胸元を叩かれた宏太も何時もなら憎まれ口の一つでも飛んで来そうなものなのだが、今は反論する力もないのか項垂れて低く囁く。
「あちぃ…………脱ぎたい…………。」
え?とこの状況を思い出した了が手を伸ばして、宏太の寝間着に触れてみると一寝入りしたせいなのか異様に発汗してしまったらしいのに気がつく。触れただけでも濡れているのが分かるほど、搾れてしまいそうにグッショリと湿った状態なのだ。サラッとしている肌触りのものなら体調云々があっても何とか脱げるだろうが、こんな状態だと目が見えない上に体調が悪い宏太では脱ぎようがなかったのだ。(というか、そんな状況でも何故真っ先に自分の事を脱がすんだよと、了としては突っ込みたいのはさておき。)
「脱ぎたい……気持ちわりぃ…………。」
確かにこれでは不快感は強いだろうと、了はイソイソと自分の服を着込みパタパタと駆け出していく。扉続きのバスルームから暖めた湯で絞ったタオルをとってきて、宏太の寝間着のボタンを手早く外し始めていた。
当年47歳になる外崎宏太には顔と首から胸元にかけて、後は股間の当たりに刃物で切り付けられた大きな傷跡がある。その傷を負わされたのがあまり切れ味のよい刃物ではなかったため(実際には果物ナイフより少し大きい程度のナイフだった)、その傷は鋭利さのない大きく醜い傷痕を残したのだ。それでもそれ以外の体表は今も滑らかで、年の割には均整もとれたしなやかな筋肉質の体つきをしている。
んー…………
傷がなかった頃の宏太は、事実見惚れてしまう肉体美の持ち主だった。そのことは当時の姿を知っていて、当然だが当時から全裸の付き合いもあった了は言われなくてもよく知っている。とはいえ、怪我をして入院していたせいで少し筋肉は落ちたというが、その後も年を重ねて太るわけでもなく。こうしてみれば引き締まった腹筋やら胸筋やらは、同年代だけでなく男から見たら垂涎ものだと思う。
「…………宏太、腕抜くから上げて。」
「ん…………。」
いつになく大人しく脱がされ半裸になった宏太の身体は、少し汗ばんだせいと熱のせいで体温が高いためかホンノリと上気しているように見える。いやいや、今は性的な気分で半裸を見てる場合じゃない。今の宏太は珍しく不調なのだからと了は自分に言い聞かせるけれど、普段と違って自己主張のない癖にこの宏太の様子は正直いって色気が強い。
くそ…………いい身体してんだよな、ほんと
普段は早々鍛えている訳じゃないのは一緒にいるから勿論分かっているのだが、最近の宏太は鳥飼信哉の依頼で時折だが真見塚道場で身体を動かすのに加わることがある。自分は目が見えないからそれ程は求められないと宏太は言うが、信哉に時折抜刀術と棒術の指南なんかもするそうで。密かに帰宅して洗濯に出される道着が、『これって水被ったのか?』と聞きたくなる時があるのだ。
だから、ちょっと締まったかも?
どんな運動なんだよと思ってはいるけれど、実は了の事を宏太は道場には連れていきたがらない。なので、未だに了は直に宏太が何をどうするのかは見たことがなかったりする。何で連れていってくれないのかは聞いても教えてくれないし正直道着姿の宏太を見てみたいのだけどと訴えてみても、それも何故か宏太には却下されているのだ。
「こぉた、少し身体拭くからな?」
「…………ん。」
広くて滑らかな筋肉の程好くついた背中。腕の筋肉も程好くて、手足はスラリとしなやかで、造形として言うなれば綺麗なのだ。ボディビルダーとかのような筋骨隆々とは全く違うが、必要な場所には十分についているという感じ。そうして温かく湿らせたタオルで汗を拭い新しい清潔な寝間着に手を通させようとしたら、突然宏太が服は嫌だとごね始めていた。
「着ない。」
何いってんだ?と了が眉を潜めるけれど、何でか腕を組んでの抵抗が始まったのに呆気にとられる。
「駄目、寒気してただろ?」
「今はない。」
「身体拭いた後だからだろ。身体冷えたら、また熱がぶり返してくるかもしんないだろ。」
そう言っても嫌だの一点張り。お前は子供かと内心では思うが、それにしたって着る着ないで何時までも押し問答している場合じゃない。
「いいから、今晩はちゃんと着て暖かくして寝る!」
「いや、だ。」
何なんだとあきれると、今度は不意に了の事を引き寄せて腹の当たりを抱き締めてくる有り様。こいつ、絶対に熱で頭ん中が訳が分からない状態になってて、これやってる。普段熱だしたことないって言ってたから、本気で訳分かんないんだろ?そうは思うけれど、宏太は依然として了の腹の当たりに顔を押し付けて服を着るのは断固拒否ときた。
「こぉたぁ…………。」
「なら着たら、何かしてくれるか?」
「は?」
「何かしてくれるなら、着てもいい。」
なんだそりゃ?何で宏太の体調を気遣って寝間着を着せて寝させようとしている了に、宏太が寝間着を着たら了が何かしてやるなんて発想に繋がるんだ?とポカンとしている了に、宏太が見えない目を向けるように了の顔を見上げる体勢に顔を上げる。
「してくれるか?」
「な、にを?」
「俺がして欲しいこと。」
宏太が了にして欲しいこと。そう言ってくるということは、宏太には了に何かして欲しいことがあるということでもある。実際のところ、これまで了としては宏太がしたいことは、了が拒否しようと何しようと敢行されていると思っていたのだ。けれど、こういうと言うことは何かして欲しいことがあったのに、宏太はずっと我慢しているということなのか。
ええ…………?何それ…………ちょ、こわ…………
宏太は元はSMの調教師ではあったけれど、一緒にいる了には痛いことはしない縄も鞭もなしだと言っていた。でももしかして、したいけれど我慢してるんだとか?
縄で縛るのは大変だから面倒なんだとか言ってたけど…………
縄で梁に吊るすのは素人目には簡単そうに見えても、梁の強度とか人体の血流なんかを理解してやらないとならないという。それに縄の管理も下準備が必要だったりするから、目の見えない宏太には手間のかかることが出来ないのと満足できる準備が出来るかどうか判断できないからしない。だから拘束するならベルトの枷の方と言っていて、まぁ幾つか隠し持っているようではある。
それとも他にも何かあるだろうか?
他に考えられると言えば…………えぇと……青姦とか?羞恥プレイとか?いや、ちょっと待て。困ったことに宏太がしたがりそうだと考えられるのが、大概が鬼畜なエロなんだけど?いやいや、ホントにそんな関係のことなのか?でもそれって本気で宏太がやりたかったのなら了が何と言っても止めたって、宏太ならやってそうな気もするのだが。
「して、くれるのか?」
まるで強請るみたいな甘える声で、腹の当たりで顔を上げた宏太が繰り返して聞いてくる。ちょっと可愛い……いや、違う。これ本気なのだろうか?でも、高々寝る時の服を着る着ないで、こんな押しきってまでするような事なのか?危ない橋を渡るようなもんじゃないか?でもやっと少し熱も下がってきたような。そんな気がするところで、また熱がぶり返すようなことをワザワザさせたくもないし。
「もー分かった!してやるから、一個だけ何でも。だから、服!」
「約束したからな?」
「分かった!一個な?一個!」
グルグル考え込んだ結果分かった・約束したと繰り返した了に、宏太は納得したのか素直に頷くと了の準備した新しい寝間着をしかたなしという顔ではあるもののイソイソと着始める。そして了が何なんだとグルグルと頭の中で考えながらタオルや寝間着をランドリーに入れて寝室に戻ると、着替え終わったと言いたげに宏太がまだ身体を起こしているのに気がつく。
「そうだ、何か飲むか?汗かいたんだし。」
そんな甲斐甲斐しい世話焼きを受け止めながらも、やっぱり普段と様子が違う宏太が身体を横にしないのに眉を潜める。すると大体の事を終えただろうと言いたげに、了に顔を向けて今度は手招いてきた。
「ん?何?」
「約束。」
え?何?約束って今?っていうか、その約束は元気になってからじゃないの?と了がポカンとしてしまう。いやいや、今の話じゃないでしょ?と思うのに宏太は約束したろと言いきって、了を引き寄せると枕元に座らせてしまっていた。
「よし。」
いや、よしって?と思った瞬間、宏太の頭が突然太股にのってきて。
はぁあ???!!
いや、頭冷やして寝ろよ。そう思うのだけど想定外に宏太がして欲しかったのが、了の膝枕ってありなのか?いや、女の子の柔らかな膝枕なら兎も角、男の筋張った太股に頭を乗っけて気持ちいいわけ?楽しいわけ?と正直に思ってしまう。
俺…………男なんだけど?これ、誰得?
等と了が頭の中でひたすら考えているのも他所に、宏太ときたら満足したということなのか、あっという間にスウスウと眠り込んでいて。次第に考えれば考えるほど、ちょっと膝枕して欲しかったなんてありなの?と一人膝枕しながら宏太の頭を撫でつつも、恥ずかしくなって悶絶しそうになる了がいたのだった。
蛇足ではあるのだが、男性というものは割合恋人に膝枕を好むものだそうである。膝枕というものは太腿という部位が局部にも近いためか、心を許せる相手でないと行わないものらしい。それを相手が自分にしてくれるということが、自分への愛情の証明であると男性には感じられるのだそうだ。なので甘えたい男性は特に膝枕を求める傾向にあるといい、普段は甘えた姿なんて絶対に見せられないと思っている男性ほど膝枕を好む傾向があるとかないとか。所謂子どものころ母親に甘えていたように、全身で甘えを表現したい時に男性は膝枕をお強請りしてくるということなのだろう。
とはいえ宏太は昔から余り誰かに甘える質ではないので、実はこんなお強請りまでして膝枕なんてことは産まれて始めて。熱を出して普段とは違う状況に陥った宏太が、無意識に心細く不安になっていて
この先どうすればいいんだろう、自分はなんでこうなんだろう
と密かに心の底で悩んでいたからなのかもしれない。つまりは大好きな了の匂いに包まれながら心を休めることができれば、不安や寂寥感も和らぐと無意識に考えたというところか?それがあんな風に子供染みたお強請りでくるとは思わなかったのは確かだ。
変わったなぁ……こぉた…………
それにしても膝枕というのはやってみると、長い時間はするもんじゃない。頭一つと簡単に考えるかもしれないが、実際にすると脚は痺れるし頭の重さで痛くなったりするのだ。それでもまぁちょっと宏太のこのお強請りが可愛かったから、と了としても頑張ってみたものの……
「こ、ぉた…………ごめん、もぉ無理ぃ。」
「んー…………いやだ。」
「いや、もぉ痺れた。」
「一回しかしてくれないなら、まだいやだ。」
「わかったから、また今度してやるってぇ。」
足の痺れにヒィヒィ泣いている了に、どうみてももう元気になっているような気がしなくもない宏太が楽しそうにニヤニヤしているのだった。
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