鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話90.おまけ 減る!!!

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それは数日前の偶々連休を貰った翌日の朝の事。
金子物流の企画が通った御褒美と言うことで週末を挟んで休みを貰った結城晴なのだが(因みに三連休となったわけだが、自営業な外崎宏太の会社はある意味フレックスタイムなので仕事は常に自分のペースだしノンビリしているのはいうまでもない。)、そこにここ暫く毎週新居に出没する狭山明良の甥・高城光輝・小学一年生が定番のようにやって来て。

明良が毎週なものだから、結構フラストレーション溜まってて

夜のベットの中で明良に悪戯された晴がトイレに駆け込んだ後を追ってきた明良と、トイレの中で誠に言葉にするには申し訳ない程の激しい性行為に耽った若い二人なのだった。が、問題はその後、翌日の朝であって。
晴も何でこうなったのか、当事者なんだけれどまるで理解できていない。結果として怒り心頭の明良が高城由良に今すぐに光輝を迎えに来いと怒鳴りつけるように電話していて、一方で光輝の方はギャン泣きしながら晴の膝の上にガッチリと今もしがみついていたりする。



※※※



昨夜のトイレでの『おいた』の疲労で腰が立たない晴が、無理に身体を起こそうとしていた。それを物音で気がついた明良が寝室に顔をだして駆け寄りベットに膝をつくと、晴の事を抱き寄せ支えながら腰を労るように枕を重ねてくれる。

「晴、無理しないで。」
「明良。」

物音に駆け込んできた明良が颯爽とベットに膝をつき晴の身体を軽々と支え、枕に寄りかかれるように手早く整えていく。それを間近に見つめていた光輝はどうしてもまだ自分が子供だと目を見張っていた。光輝には明良のように晴の事を支えてもあげられないし、枕をどう重ねたら晴が楽に座れるかもわからないのに気がついてしまったのだ。それでも晴がこうして一人で起きられないような状況にしてしまう原因は、晴自身の身体の問題ではなくて明良がやっているのだということも光輝はちゃんと気がついてしまっていた。

晴ちゃんの首に、昨日はなかったのに噛んだ跡があった。

それに昨日の晴は訪れた光輝を軽々と抱き上げて、一緒にリビングで遊んでクルクル回れるくらい元気だったのだ。それに夕方には一緒にキッチンで並んでカレーを作っていたし、お風呂にも一緒にはいれた。それなのに今朝は体調が悪くて、こんな風に自分では自由に起き上がれないなんて。どれだけ酷いことをしたら晴がこんな風に顔色も悪くて、起き上がれなくなるのか光輝にはちっとも分からない。

晴ちゃんが大事なら、もっとちゃんと大事にしてあげなきゃダメだよ!!

そう思うからこそ光輝の視線は自然とキツいものに変わって、叔父である明良のことを真正面から睨む。

「光輝?どうしたの?」

その顔色に気がついた晴が不思議そうに明良の肩越しに首を傾げていたのに、晴の身体を抱きかかえるようにして枕を整えていた明良も何だ?と視線を向けていた。

「明良にぃは駄目!!晴ちゃんを大事にするのは僕だよ!!!」

は?と晴が驚きで目を丸くしているのに対して、あからさまに酷く不機嫌な顔に変わった明良がそこにいた。
まだ幼い光輝がいるせいで明良は思うように晴と過ごす二人の時間を組み込めない事への不満は強くて、それでも光輝は甥だし晴が嬉しそうだからと何とか我慢していたのだ。流石に平日にお互いが無理をするわけにもいかないのは、互いに社会人として当然のこと。それに晴だってここのところ仕事が詰まっていたから忙しかったし、明良だって自分の仕事が立て込んでもいたから思うように晴と過ごせていない。それでも大人なんだしと明良だってかなりの我慢をしていたのだ。それに言うに事欠き…………

「明良。」

少し慌てた腕の中の晴の声で、自分の苛立ちが爆発しかけているのに明良も気がつく。明良は外見から一見すると穏やかそうに見られ勝ちだが、実際にはかなり短気で熱くなりやすい一面があって、特に晴に絡むとその傾向が顕著なのだ。そして家族は大概それを知っているとしても、あまりここまでに交流がなかったと言う甥の光輝が明良の性格まで知っているとは思えない。

光輝は子供で、まだ俺達のことはちゃんと分からないんだよ

だから先ずは落ち着いてと晴が目で訴えてくるけれど自分とよく似た顔立ちの光輝に叱責され、しかも納得できないことを吠えられるのは明良にしても腹立たしくて仕方がない。

「晴ちゃんが大変になることばっかりする明良にぃのばかぁ!!!」
「はぁ?!」
「明良!」

苛立ちに声をあげた明良に思わず晴がその腰に手を回して引き留めるが、流石に急な動きに腰の痛みで晴の顔が歪む。それを見た瞬間に光輝が晴に駆け寄り、明良を思い切りドーンと突き飛ばして晴の膝にしがみつき泣き出したのだった。



※※※



そうして話は最初に戻る訳だが光輝が明良が何と言っても晴の膝にしがみついて離れず、何時までも明良を罵倒しながらギャン泣気し続けたのに明良が遂に怒り心頭で高城家に電話をしているわけだった。

「もういい加減にしてくれよ!光輝を早く連れ帰ってくれ!!!」
「明良にぃのばかっ!!明良にぃが悪いんだァああ!!!」

いや、もうこれはどうしたものなのか。語彙がそれほど多くはないので光輝の罵倒と言っても、鬼とかバカとか程度なんだけど泣きながら叫び続けているわけで割りと凄い。しかもしがみつかれている膝が光輝のギャンギャン泣く涙で濡れているのはジワジワ感じるし、実は少しこの体勢は腰が辛かったりもして。

「晴、大丈夫か?退けろ!!光輝!!!」
「いやぁあああ!!!晴ちゃんは僕のぉ!!!」

ええー……?!なんか話がそっち?と晴が呆れて苦笑いしそうになるのに、無理矢理膝から引き剥がそうとする明良に抵抗している光輝の手が爪が食い込んでいてちょっとだけ痛い。しかも引き剥がそうと揺らされると、腰も地味にそれが響いて痛いのだ。

「いた、いたた、ちょ、ちょっと。」
「こら!!!光輝!晴が痛いって!離せ!!馬鹿!!!」
「明良にぃが悪いんだ!!明良にぃが離せよ!!!」

いやもう、どっちもどっちだからと流石に言いたい。引き剥がそうとしてる明良の手も膝にしがみつく光輝の手も、どっこいくらいに地味に晴の足腰に響くし痛いのだ。何でこんな阿鼻叫喚みたいな事態になったの?と思うけれど、明良だけでなく光輝にも何かフラストレーションが溜まるようなことがあったのだろうか?

「明良にぃが晴ちゃんを噛んだから、晴ちゃんが具合悪くなった!!」
「え?!」

何で知ってるのと晴が咄嗟に首元を手で押さえたものだから、それを見ていた光輝が再びブアッと涙を滝のように溢して声をあげて泣き出したのに晴も明良も唖然としてしまう。

「やっぱり明良にぃのせいだあ!!!ばかぁ!!!おにぃ!!!」

まさか光輝は何処まで知ってるんだと二人が声もなく戸惑っているところに、由良の夫・宗輝が颯爽とまるでヤクザの下っ端のような出で立ちで光輝の迎えに参上したのだった。

「えー……何なん?この地獄絵図。」
「宗輝兄さん、もう頼むから光輝を自由に越させるの止めてください。」

チンピラかと言わんばかりの派手なアロハ紛いの服装にサングラス、しかも金のネックレスなんてベタ過ぎる出で立ち。こんな見た目の柄も悪いのだが、高城宗輝は歴とした建築関係の会社の正規の社員である。会社は宗輝の容貌から見て言うまでもないかもしれないが、マンションオーナー鳥飼氏の妻女の実家でもある四倉建設という会社に長年勤めている。
それはさておきベットの上の阿鼻叫喚の息子の姿に、呆れながら歩み寄った父親が何故か子猫を摘まむ要領でヒョイと首根っこをつまみ上げた。しかも明良がこれまでどんなに引き剥がそうとしても無理だった光輝は、その手に容易くブランと持ち上げられている。

「お前、何やってンの?光輝。」
「パパぁ!!!明良にぃがバカなのぉ!!!」

どゆこと?と宗輝が光輝に一応先ずは問いかけるが、ベショベショになりながら泣いている光輝では全くもって話が伝わらない。当然次にこれは何なの?と宗輝に問われても膝の上が涙でグチョグチョになった状態でポカンとしている晴もなんと説明するべきか判断しかねてしまう。まぁ首の跡とか少なくとも傍目には酷いことをされているように見える面があるのかもしれないが、晴としては何も問題ではないと思うし…………

「明良、これなんなのかな?お兄ちゃんには分かんないなぁ……。」
「うぇえええ、あきらにぃのばかぁ!!ばぁかぁ!!!」

まだ言うかと言いたげな明良の様子を眺めていた宗輝は、溜め息混じりに自分の手にぶら下がっても未だに泣きじゃくっている我が子・光輝の顔を覗き込む。

「光輝、男なら泣いてないで、好きな子を自分で守るくらいでないとなぁ。……お、まだお子ちゃまのまま泣いてるか?」

え?そっち?そこ?と晴としては内心では思うけれど、その言葉にハッとしたように光輝はベショベショの涙を必死に両手で拭い出している。流石父親、あのギャン泣きをあっさり泣き止ませたと驚くが、それで収まると言うのもどうなのか。

「んーと、家のが邪魔してたんだな?これは?明良。」

というか息子が家にいないのはスルーしてたんですか?と明良が目で問いかけるのに、宗輝は今朝まで仕事しててさっき帰宅したら電話がきたんだよなぁとヘラリと言う。
現場にも直接出ることのある宗輝は、会社としては夜間工事なんかも仕事の範疇なので時々こういうことがあるそうで、ここ毎週こんな感じで朝方まで仕事だったらしい。何しろ平日の昼間に出来ない環境なので週末に一気にやらないとならない現場だというから、それはそれで大変だ。
なのでこんな風に息子が叔父の家に毎週突撃していたのは、妻からまだ聞いてなかったらしい。由良は目下第二子の悪阻もあって帰ると常にグッタリしてたから、そこら辺が上手く伝わらなかったのは事実なのだろう。

「駄目だぞー?光輝。新婚さんのお家はなぁ?そんなに頻繁に泊まったら駄目なんだ。減っちゃうからな。」
「減る?!減るの?!」
「そうだぞー。減るとな?明良が怖いぞ?」
「減るって何が減るの?!晴ちゃん?!」
「何が減るかは、まだお前には早いな。後10年したらオヤジが確り教えてやるからなー。」

そう言いながら何が減るのかニヤリと笑う40目前のオヤジの言葉に、何でか聞いている晴の方が恥ずかしくなったりする。何しろ色々な意味で減った二人だけの時間のせいで、確かに明良が怖くなったのは事実だったりするからだ。しかも減ったと言われればメンタル的に大分すり減った気がしているし、晴としては更に体力的にも大分減っているのは言うまでもない。

「へ、減るのはダメェ!!晴ちゃんがぁあ!!」
「おし、なら帰るか。悪かったな、明良に晴ちゃん。」

兎も角そんな風にして嵐の最中に自身が嵐のようにやって来て、嵐のように去っていく高城宗輝に二人は完全に脱力してしまっていた。流石由良の夫で、しかも光輝の父親だとしか思えない。

「減るって…………。ふ、ふは…………。」

クタンとベットに横になった晴が、先程までの高城宗輝の発言に思い出し笑いし始める。中々こうして考えるとあれは上手い説明で、何も嘘は言っていないし誤魔化しだらけと言うわけでもない。確かに減るのは二人のイチャイチャする時間な訳で、それで苛立っていた明良が怖くなるのは事実なのだ。

「笑い事じゃないよ、もぉ…………。」

でもこれで宗輝も毎週泊まり込みをしてた息子の事は気がついたから、頻繁に光輝だけが泊まりには来なくなるだろうと明良も安堵している。でも光輝が何処まで聞いたり見たりしていたかは、ハッキリしないまま返してしまった。少なくとも項の噛み跡については、前日なかったのにと光輝が気がついてしまったのは確かだ。

「こんな目立つとこ噛むんだもん、明良が。」
「ごめん…………だって。」
「次は駄目だからね、光輝にバレるようなとこは。」

バレなきゃいいの?と一緒に横になった明良に問いかけられ、晴は笑いながら痛くないとこならと呟く。項は結構痛かったよと笑う晴に明良が手を伸ばして頬を撫でると、晴はその手に気持ち良さそうに目を細めていた。

「晴、光輝ばっかり可愛がるから……腹立った…………。」

ポツリと呟く明良に晴はおかしそうに笑いながら、でもさぁと言い訳のように呟く。

「でも、光輝見てると明良の子供の頃こんなだったのかなぁって思ってさ?俺……明良の子供の頃知らないし…………。」
「俺……?」

光輝は光輝として可愛がってるのだと思い込んでいた明良が、少し驚いて目を丸くする。いや、確かに甥としても可愛いとは思うけど、あんなに似てると子供の頃の明良を想像しちゃうでしょ。そう晴が言うのに、明良はそんなに似てるのかなと不思議そうに呟く。

「似てるよ?でも明良が一番可愛い……よ?」

ニッコリ笑いながらそう囁く晴に、明良は少し頬を染めてキスをしようと身体を起こしていた。
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