鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話85.おまけ 乱入者?

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何を二人から言われて気にしてたのか。

『茶樹』で偶々顔を揃えた狭山明良と源川仁聖の二人と外崎宏太が、セックスに関連したあれやこれやを話したのは外崎了も理解した。その中で何を二人に言われて、あんな風に気になっていたのかと了がそう繰り返すように問いかける。それでやっと了から何のことを問いかけられているのかを理解した様子で、宏太はふっと少しだけ動きを止めていた。宏太としてはさっきのも話を反らす意図はなかったと言いたげなのだけれど、それでも結果としては話しは反れてしまったのだ。それに暫し宏太は黙り込み、考え込んで言葉を選んでいる様子。やがて再びソロリと了の身体に触れる手は、またさっきと同じく躊躇い勝ちで何時もとは違う手付きに変わっていたのだった。

「了は…………。」

そんな風に戸惑いながら問いかけてくる宏太は、了としてもあまり見たことがない。そう思いながら何を問いかけようとしているのかと、伺うけれど宏太の方も何と聞いたらいいのかが分からない様子である。

「その…………、したい…………と思うか?」

したい?何を?と一瞬呆気にとられたけれど、結果としては宏太のさっきの動きから何を問われたかは理解した。まぁ一応は『男として性行為をしたいのか』と聞かれたのだろうとは理解したけど、あの3人は雁首揃えて一体何の話をしてるんだかと呆れもする。セックスの負担の話から大方バイセクシャルの了が女相手をしたがるんじゃないかとか、そんな話なんだろうけど(恐らくはそう言う点では元はヘテロセクシャルだった榊恭平と仁聖の方は兎も角、結城晴も了と同じバイセクシャルだったのだ。そんなわけで晴と付き合う明良がそれを気にしてるとか?まぁそんなことだろうと了としては思う。)

「バカ。」

何を今更聞いてんだと呆れ帰った声で言う了に、目の前の宏太が見るまに叱られた大型犬か何かのように萎れていくのが分かる。その姿は心持ち可愛いといえなくはないけれど。
大体にしてここまでのことをやってて、了は他の誰かとしたくなる程性欲過多でもないし誰彼構わない尻軽の淫乱でもない。宏太は了が高校からの長い付き合いだし、もう一年以上もこうして一緒に暮らしているのだ。だから言われなくても宏太には分かりきってる筈なのに。改めて言わなくてもそんな相手なんか、今さら欲しがっているわけないだろう?大体にして一年以上了は他の誰かと『セックスしたい』という素振りなんか一度もしたこともないし、

「こんなにしてて。他に相手なんかいるか、バカ宏太。」

その答えが何故かとても想定外だったらしくて、宏太が少しだけ驚いた顔をみせる。いや、今日だってあんな激しくしたろ?人の事、道具みたいにガツガツしてたろ?と了は言ってやりたくなる。寸前まで本気で失神する程散々なくらいに当の宏太に責め立てられていたのに、了の言葉で宏太がそんな顔をしてることの方が正直驚きだと了は思う。

あのなぁ…………どんなだよ?お前の中の俺の性欲

どれだけ了が性欲が強いと、宏太は勝手に考えているんだかと呆れる。確かに了は性的な行為に関しては、かなり奔放な時期が以前はあった。初めて宏太と片倉右京の二人とセックスした後には、一応は恋人欲しさに何人も試しにしてみたのだ。それが上手く行かなくて、その後には工藤英輔や結城晴みたいにバイセクシャルに性癖を変えるような行動だってしてる。けれど自分でも思うが、了自身は性欲がそれほど強いと言うまでではない筈だ。一晩中セックスなんて訳でもないし、しかも十分に幸せに満足させられている今の了は余剰分の性欲なんてない。というか性欲に関しては宏太の方が、絶対に格段に強いと思う。自分は普通!絶対にそうだ。

「何、考えてんだか…………。言っとくけど絶倫なのはお前の方なんだからな、もう。」

不満そうに口を尖らせた了に対して、宏太は絶妙に困った顔を浮かべてみせていた。それを見てあれ?何か質問の解釈が間違ってたか?と、思わず了は眉を潜めている。

何で、困った?あれ?

最初に股間に触れてきた宏太の行動や『したいか?』と問われたことから、そんな性的な内容のことかと了は考えたけれど。他にも何か当てはまるような問いかけは含まれていただろうか?と首を捻ってしまう。

「…………ヤッパリ…………そうなのか?」

は?ヤッパリってなんなんだ?どこら辺に関しての『ヤッパリ』なんだ?んーと?『したい』と思うかに関しては思って『ない』と答えたようなものだと思うが、したいと何か匂わせる言葉があったっけ?
了は自分の答えた言葉を思い返して首を傾げるが、自分としては変なことは言ってないと思うし大体にして本当のことしか言ってない。だけど宏太がヤッパリと口にして、シュンと再び萎れた様子に変わったのに、思わず慰めるように頭を撫でてしまう。そうすると何故か、宏太の方も嬉しそうに顔をあげてくる。

こうして欲しかっただけか?もしかして。…………子供か…………もぉ。

そう密かに心の中で思うけれど、本当に最近の宏太は子供みたいに感情の起伏が大きくなっている気がする。まさに閉じ込められていた感情が解放されたという感じで了の言葉や態度一つで一喜一憂しているといえて、それに関してはまぁ正直言うとだが了はそれほど悪い気はしない。

「ま、……まぁ、あのさ、俺は。」

何がなんだか分からないが、宏太の他に誰かとセックスしたいとは思ってないし大事なのも宏太一人だからと了が言ってやる。すると宏太は何かに安堵した様子で、しかも少し頬を赤らめて改めて了を抱き締めてきた。どうも宏太が予期していたものとは違う答えだったようだけど、それでもそこからでも宏太が欲しかった意図は汲み取れたらしい。それに照れてるところを見ると、地味に『大事』って言われて改めて嬉しかったんだなと了にも分かる。

「何だよ?答え、これで満足したのか?」
「ああ。」

満足したと宏太が言うから、まぁいいのかな?と思うことにして、撫でろと言わんばかりの宏太の仕草に苦笑いしながら再び頭を撫でてやる。こうなると一体何にそんなに戸惑っていたのやらと少し思うが、こうして抱き締めつつ頭を撫でられるのに幸せそうな顔でいるからよしとすることにしたのだった。
その内心で同時に了は今度、源川仁聖と狭山明良には絶対説教すると心に誓う。全くもって性的なことで今更宏太がこんな風に戸惑ったり悩んだりするようになっているなんて、あの二人は絶対に思ってもいないに違いない。それでも何を揃ってまで訳の分からない話をしてるんだか、大体にして性的な嗜好は本人特有なんだから他人の性生活を問いかけても無意味だと了は思う。

「全く…………。」
「ん?」
「こぉたも変なこと悩むようになったよなぁ、最近。」

呆れたように了に腕の中からそう言われても、もうそれに関しては宏太の方も考えをさっさと切り替えたらしい。そして宏太は了を無言で抱き締めたまま。それが無言なだけなのか眠りついてしまったのかは、抱き締められた状態だと了にも少し判断しにくい。そうこうしている内に宏太の規則正しい吐息と自分自身の気怠い事後の身体の疲労感に、ジワリと眠気が忍び寄ってくる。

ま、いっかぁ………………

そんな風に呑気に了も考えて、やがてそのままウトウトと微睡み始めていたのだった。



※※※



「晴ー、ただいま。」

仕事を終えて帰宅した狭山明良の声に、家の奥からパタパタと音をたてて駆け出してきたのは結城晴ではなかった。その姿に明良は目を丸くして、何やってんだと口から出そうになるのを飲み込む。

「明良にぃ、おかえりー!」

玄関先で出迎えたのは、晴ではないのは言う迄もなく姉・由良の息子。今年小学一年生になったばかりの高城光輝で、学校帰りという風でもない様相でリビングから駆け出してきたのだ。

「あ、おかえりー。明良。光輝、来てるよ?」

うん、言われなくても目の前にいるから、明良にだって来ているのは分かっている。以前のマンションなら玄関からキッチンを抜けて部屋の中まで見えていたが、現在は玄関から一応廊下があってリビングの扉。というのも実は明良と晴は最近以前のマンションが契約更新の時期だったのを機に、少し広いファミリー型のマンションに引っ越したのだった。まぁ色々なつてでこのマンションのオーナーと知り合いになったのもあって…………ここまで言えばそれが誰だが自ずと分かりそうなものだが、宏太から鳥飼信哉が近郊のファミリー型マンション二棟のオーナーと聞いた時には、明良は何だろうこの無意味な敗北感はと内心では思った。金も財産も地位も能力もあって、しかもイケメン。それで接してみたら割りと人柄もいい。

神様は本当に依怙贔屓が好きなのだと、染々思う。

もうこうなったら何か一つくらい大きな弱点があっても良いんじゃなかろうか?今のところ鳥飼信哉の弱点は、妻の鳥飼梨央に頭が全く上がらないくらい。それに宏太の方だって、了に頭が上がらないくらいしか明良に分かる弱点は出てこない。まぁそんな話はさておき、鳥飼信哉の持つマンションの一つ、信哉が以前自分が住んでいた部屋は、完全リフォームして新たに貸し出す事になったそうで、偶々タイミングよく二人で住む部屋を探していた明良にどうだ?と声がかかったわけだ。元は母親と暮らしていて一人暮らしにはやや広めだと聞いて、それなら丁度良いかもと見せて貰ったら…………そこに信哉は独りで暮らしていたというのに呆れる駅から近く最上階の角部屋で、リビングダイニング付の3LDKなのである。しかも提示された賃料が、リフォームしたとは言え築年数もわりとあるからとオーナー自ら融通して貰えたりもして、相場より実はかなり安い金額なのである。それは誰でも即決するだろう?何しろ以前明良達が暮らしていたマンションの賃貸料よりほんのちょっと高いだけで、以前より2部屋も増えるわけだから。そう言うわけで二人で暮らすには十分過ぎる3LDKという広さの部屋を借りることになった。

何でだ…………

広くてしかも最上階の角部屋は、窓からの景観も良いのはいうまでもないことだ。そんな終の棲家になるかどうかは兎も角(明良としては可能ならそれでもいいかもと思う設備の整ったマンションで、聞けばここ近郊ではかなり人気の物件なのだそうだ、納得。)最高の新居に引っ越した時に、由良達と遊びに来たのを切っ掛けにして小学生になったばかりだというのに光輝が一人で遊びに来ることを覚えてしまったのだった。電車に乗って一人で来たと最初に言われた時には焦ったが、本人は冒険したみたいにキラキラした顔でやってきた訳で。しかもそれ以降も当然みたいに現れるのだ。

「………今日は………何しに来たんだ?光輝。」

思わず明良が剣呑な声になる。というのも実際には引っ越してからというものの、ほぼ毎週週末になると光輝に新居に乱入されているからである。引っ越しの片付けが終わったと思った途端、リビング傍の和室に光輝用お布団がスタンバイされる有り様。いや、明良だって別に甥が可愛くない訳じゃないが、小学一年生の光輝はそこで寝せても一人じゃ眠れないと二人のベットに当然みたいに乱入してくるのだ。お陰で明良はここ暫く、週末は休みだからと晴と思い切りイチャイチャすることも出来ないでいる。

「お泊まりー!!」
「はぁ?またか!?由良姉は?!」
「晴ちゃんとこねー、わかったーって!」

くそ!と思わず心の中で毒づく。由良は明良の3人の姉の中では一番の天然だから、光輝ってば明良と晴を慕ってて可愛いわー位でお泊まりもオッケーを出しているに違いない。しかも、姉・由良は現在2人目をめでたく懐妊中とあって、光輝がお兄ちゃんとして自立してくれるのには率先して容認の方向なのだ。

「明良、今日はカレーにしちゃったよー。あれ?…………どした?」

一人光輝の事を苦々しく思っている明良の様子に、奥から顔を出した晴が不思議そうに首を傾げている。
晴の方も末っ子なせいか年下の光輝にこうして慕われるのが嬉しいらしくて、光輝の事をとっても可愛がっているのだ。それに明良だってちゃんと分かっている、光輝はたかだか小学一年生、これは子供のする事でただの甘えなんだと。だけど今の明良には光輝が晴の腰の辺りに縋りつき、何故か『ふふん』とドヤ顔でいるようにしか見えない。しかも子供の可愛さをフル活用して、光輝は晴に全力で甘えてくる。

「晴ちゃぁん、僕お腹すいたー。」
「うん、光輝、すぐご飯にしようね?ほら、明良も着替えてきて。」

うん、晴の言葉だけ聞いてたら新妻みたいで最高にいいのに。明良が苦々しく見ている前では、光輝が晴の腰にひしっと抱きついていて満足げに晴を一人占めしているのが途轍もなく腹立たしい。
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