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間章 ちょっと合間の話3
間話53.声が聴こえた
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『見える』ということが、実はどれだけ自分にとって大きな要素なのか…………。
それに関して、人は余り気が付かないものだ。人は多くのモノを目で見て認識して日々を過ごしているのだけれど、そんなの当然すぎて余りそれについて深く考えることはない。試しにほんの少し目隠しをして日常生活をしてみるくらいでも、自分がどれだけ視力に頼って生きているかが分かるに違いないだろう。何しろ例えば冷蔵庫から何かを取り出して飲むと言う程度の行動だけでも、見えないだけでそれはままならないものなのだ。
しかも外崎宏太という男は生まれつきの盲目ではなく、後天的な怪我という理由で突然視界を失って暗闇の世界に投げこまれた。そしてその代償として宏太が新たに身につけた聴力は、天恵と言うには余りにも人間の一般的な基準から欠けはなれたものなのだ。良ければいいと考えそうなものなのだが、実は何もかが聴こえ過ている。これがマトモな人間なら四六時中多くのものが聴こえる現状に、発狂しかねないものだにだとは誰一人気が付かない。何しろ当の宏太自身も、それには今も気が付いていない有り様なのだ。
「…………聴こえるものは…………信じるしか……ない。」
病室の向こうの部屋で同僚の荷物から財布を盗む看護師の足音。看護師の詰所で自分の醜い傷痕を嘲笑う若い看護師の話し声。毎夜誰かを探して病棟内を徘徊する寝たきりの筈の老人の足音。痛みに呻き続ける患者の助けを求める苦悩の声。
そのどれがその場に間近に立ち、視力があれば『見える』ものなのか。
それを知る術がない宏太には、耳に入る全ては聴こえるのだからと受け止めるしかないのだということなのだ。その後病棟で働く幼馴染みにそれとなく話を聞き出して、看護師の休憩室からの財布の紛失と看護師の雑談は現実なのだと確信が持てたものもある。他のものに関しても患者というものの中には寝たきりでも歩けなかったとしても認知症の老人は唐突にベットから落ちるようなこともあるのだし、急性期の病棟なのだから苦痛にのたうち回る患者はそこら中に常にいるものだと割りきるしかない。
そう…………そんなものと割りきれば、宏太に聴こえるものは全てが現実の世界なのだ。
そして別段それが現実でも他人には存在しないものでも、宏太にしてみたらどうでもよかった。それはその当時の宏太が、まだマトモな人間性を持たない人間擬きにすぎなかったからだったのだ。それが事実として存在しないものでも人間でなくても、自分の命が危うくても何ももう関係がない。そう思い生きていたけれど、それでも聴こえ過ぎる暗闇の中に一人で取り残されていると、自分が生きているものなのか何なのか境界線が分からなくなっていく。
足掻こうにも何もかもが聴こえすぎて、現実なのか虚構なのかも分からない
味覚もなく、視覚もない。聴覚と嗅覚と後は触れるだけしかない世界。それなのに、次第に触覚すら信じられない上に、次第に何が現実なのか、生きている現実感という認識が宏太自身にも出来なくなっていくのだ。そしてその闇の中には常に三浦のような存在が、至るところに潜んでいる。それから逃れるためなのか慣れるためなのか、一人きりで尚更聞くことにのめり込んでいく。
今更のように何かを聞いて引き込まれるように気を失うのは、自分が生きているのか死んでいるのか分からない恐怖に飲まれるからなのだと気が付いた。自分が狂わせて殺人鬼に変えてしまった男に、自分が心ない打算で傷つけ死を選ぶ程に苦しめてしまった妻に、境界線の向こう側に引きずり込まれ気が付かずにいるのではと自分勝手な恐怖と後悔にもがいていたのだ。
その言葉の意味が今は理解できるから、外崎了はその言葉に泣きそうになる。それでも自分を抱き締めてくる宏太を見下ろすと、宏太は視線が向けられたのを肌に感じ取って柔かな笑顔を浮かべてみせた。
「でも、…………変わった…………。」
今は違う。確かに後悔は掃いて捨てる程にこうしてあるけれど、危険なものは是が非でも回避して宏太には守らないとならないものがある。そう言いながら腕に抱き締めた暖かさは確かで、こうして目に見えていなくてもその笑顔が温度として分かるようになったら、それが自分に確かな現実を教えてくれるのだ。そう了を抱き締めながら宏太が安堵したように囁くと、ホンノリと腕の中の体温が上がるのが分かる程に確かに感じ取れる。
「お前が、俺をこっち側だと教えてくれる…………。」
スリ…………と肌を擦りあわせて宏太が幸せそうにソッと囁く。宏太にとって確かな温もりや様々な味や匂いまで与えてくれる了が、こうして傍に居てくれる。了が傍にいれば発作を起こさないのは、了の体温が宏太を現実に引き戻して感覚をこうして引き戻してくれるからなのだ。
そう思うと今こうして感じている腕の中の体温を、思わずもっと強く直に感じとりたくなるから宏太は耳元に向けて唇を寄せる。
「………………了……愛してるって、言え。」
唐突に強請るような甘さを含んだ声で耳元で低く囁かれて、了は思わず頬を染めながら急に何言い出すんだともがく。確かに最近発作が起こらなくなってきた理由は……というか了が傍にいれば落ち着くという理由は…………宏太が話した事で充分に分かった気がする。けれど、それならそれで今回の倒れた理由は?三浦ではないなら何なのかまだ聞いていないと突っぱねようとする了に、宏太は不満そうに抱き締めていた手を滑らせた。
「ひぁ!こ、らっ!」
「…………言えよ…………。な?」
腰を滑り降りた宏太の両手が左右に尻を包み込みながら、指先が了の弱い足の付け根の部分をクッと繊細な動きで押し上げる。寸前に倒れたくせにと押し止めようと了が必死にもがいても、宏太の指先にリズミカルにそこを刺激されながら両手でヤワヤワと尻を揉まれるのに抵抗できない。しかも最近では宏太が了を抱く時何時もそこを刺激して来て散々に了を泣かせるものだから、理性では抵抗しようにも了の身体がそこを触られるのが気持ちいいのだとインプットしてしまっている。
「ん、ふ……っあ……っ……ば、かぁ……っ。」
あっという間に指に反応して蕩けていく了の声に宏太は嬉しそうに微笑みながら、更に形のいい唇から甘く低く響く声を溢す。しかも狙いすましたように、滴るような色気を含んで了の耳元に囁いてくるのだ。
「…………これを俺に全部教えたのはお前だからな?…………責任とれよ?ん?」
「な、に?ぁふっううっ。」
責任?ここまでの話しと何の責任?と頬を染めて息を甘く蕩けさせながら了が、抱き上げられたままの胸の上から見上げる。そこには少し意地悪く口元を緩めて笑みを敷いた宏太が、ほんの少し上半身を起こしてきてなおのこと耳に唇が近い。
「お前が教えたんだぞ?食い物の味も……お前の吐息の甘さも、可愛い声も。」
耳元で囁くには途轍もなく甘い。まるで乙女に囁く愛の言葉のように甘くて、しかも宏太の声は低く甘く柔かに耳朶を擽り、その癖抱きかかえこまれその両手は、相変わらず卑猥に丹念に足の付け根と尻を揉みしだく。勢い股間を跨がる体勢でそれを受け止める了の身体の熱く固くなる中心の反応なんて、ここで改めて言うことでもないのは宏太だって分かっている筈だ。
「お前の溢す蜜が甘いのも、…………ここ…………の蕩ける熱さも…………。」
そんな淫らな事を滴るほどに甘く囁きながら指先が掠めるように布越しに、スルリと了の蕾をなぞるのに甲高い声が溢れる。このあからさまな態度は全部宏太が了がどうなるか分かっててやってるんだと知っていても、この声で囁かれるのにはどうしても了は抵抗できないのだ。
「了…………ほら、言えよ?ん?」
「だ、…………こぉ、た、ちゃ…………んぅっ。」
快楽に飲まれる了の様子を楽しみながら、了は宏太に今日倒れた理由を先に言わせたいのに全くそれに触れようとしない。結局はそこに触れたくないから他の触れても大丈夫な方を差し出したと分かってしまうし、本当なら了としてはそこについてはちゃんと説明しない点については怒鳴りつけたいのだ。
「も、もぉ!!駄目だってんだろ!!こ、こんな!!」
ジタバタと足掻く了の様子をどこか面白そうに伺いつつも宏太の手が執拗に動きを止めないのに、了はプルプルと震えながら身体を離そうと必死に胸に両手をつく。
「…………騎乗位で、か?ん?」
「馬鹿!」
唐突にそんなことを言い出した宏太に思わず怒鳴り付けたが、了が身体を離そうとしたのが気にくわない宏太は不満そうに眉をあげて追いかけるように上半身を起こす。身体を撫でていた宏太の手が持ち上がり、スルッと首元をなぞりながら離れるなと言いたげに了の項を引き留める。
「了。離すな。」
何をと問い返す前に宏太の手が了の事を再び引き寄せしがみつくように抱き締めてきて、了は戸惑いながらその肩に顔を乗せるようにして動きを止めていた。再三からかうようなことを何時ものように口にしてはいるものの、それとは裏腹に宏太は了の身体が離れるのが怖いのだ。
「…………なに、聞こえたんだよ、………………ちゃんと話せって。」
そう言いながら抱き締め返した了の腕に明らかな安堵の表情を滲ませて宏太は、ほんの少し躊躇うように眉を寄せたが悪いものじゃないとはポツリと呟く。
昔からそう言う類いのものを信じているわけでも、全く信じないわけでもない。
あると言われればそうかと納得するが、自分には関わりがないものだけだと言う程度で、宏太の周囲にはその類いのものが居ると声高に辺りに宣言するような人間がいなかった。しかも、過去の宏太はある意味では自分に見えるもの経験したものしか信じない現実主義者だったから、まぁ直に接したものしか受け入れないとも言える。だが今の状況では見えなくとも、聞こえるものが現実な訳で
「…………聞こえたのは…………喜一の声だったと思う…………。」
外崎宏太の幼馴染み、遠坂喜一。それに宏太がこんな風に驚くしかないのは、遠坂喜一は半年以上も前にアパートの自室で自死したとされていて、第一発見者に当の宏太が含まれているからだった。あの時、宏太と当時は結婚前の四倉姓の幼馴染み・梨央とその夫・鳥飼信哉が、アパートのドアノブで縊死している遠坂喜一と呆然と立ち尽くす遠坂の同僚・風間祥太を発見したのだ。その遠坂の声が聴こえたのに宏太は戸惑い、また自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなったのだと言う。それでも悪いものではなかったと思うのは何故かと了が視線を向けると、宏太はまた少し戸惑う様子でそんな気がすると自信無さげに呟く。
「……………アイツが…………。」
遠坂喜一は自死だとされて遺書も存在したのだけれど、幼い頃からの関係を持つ宏太は喜一は自死する人間ではないと考えていた。そして死んだ時宏太は一時精神的に不安定になってもいたが、同時に遠坂喜一を殺した犯人を探してもいたのだと思う。了には話さなかったが、恐らく宏太は犯人を見つけてもいるのだけれど、了に危険が及ぶ可能性を考慮してそれ以上の行動を起こさないことに決めたのだ。
「澪…………って言うんだ…………。」
その『澪』は鳥飼信哉の母親で、宏太の幼馴染みの一人。宏太の幼馴染みの五人組だったあと一人は、藤咲信夫で藤咲は宏太にしたら今も身近な存在でもある。彼らが子供の頃から五人組として常に高校生までは一緒に日々を過ごしていたのだと、了が聞いたのはそれこそ遠坂喜一が亡くなる寸前の事。そして同時期に鳥飼信哉から母親は既に十年も前に急逝したと聞かされた宏太は、暫く表には出さなくとも塞ぎこんでいた。
「遠坂のおっさんが?」
意味が分からないけれど自分にはそう聴こえたのだとポソリと呟く宏太に、抱き上げられたままの了も不思議そうに首を捻る。そんな風に少し心細げに呟く宏太は早々見るものではないけれど、死んだ筈の人間の声を聞いたら血の気がひいて気が付いたらソファ―の上だったということなのだ。黙りこんでしまった宏太に抱き締められたままでいた了は視線を腕の中からあげると、俯いた宏太の顔を両手で包み込むように持ち上げソッと唇を合わせる。
「了…………。」
気落ちした顔に感じるのは宏太が遠坂喜一のことを今も大事な幼馴染みで親友だ思っているからで、常識ではあり得ないけれど確かに声を聞いたと思っているからなおのこと戸惑っているのだ。そう言うところを摩訶不思議なんて簡単には融通が聞かないのも分かるから、了は慰めるようにソッと口付けて悪いものではないと思ったんだろ?と囁く。
「なら、きっと何か良い知らせでもしに来たんだ。だろ?遠坂のおっさんなら、それくらいする。」
暢気にそう了が囁くのにホッと緩んだ吐息で微笑んだ宏太は、そうだなと安堵の声を溢して了の事を抱き締めていた。
それに関して、人は余り気が付かないものだ。人は多くのモノを目で見て認識して日々を過ごしているのだけれど、そんなの当然すぎて余りそれについて深く考えることはない。試しにほんの少し目隠しをして日常生活をしてみるくらいでも、自分がどれだけ視力に頼って生きているかが分かるに違いないだろう。何しろ例えば冷蔵庫から何かを取り出して飲むと言う程度の行動だけでも、見えないだけでそれはままならないものなのだ。
しかも外崎宏太という男は生まれつきの盲目ではなく、後天的な怪我という理由で突然視界を失って暗闇の世界に投げこまれた。そしてその代償として宏太が新たに身につけた聴力は、天恵と言うには余りにも人間の一般的な基準から欠けはなれたものなのだ。良ければいいと考えそうなものなのだが、実は何もかが聴こえ過ている。これがマトモな人間なら四六時中多くのものが聴こえる現状に、発狂しかねないものだにだとは誰一人気が付かない。何しろ当の宏太自身も、それには今も気が付いていない有り様なのだ。
「…………聴こえるものは…………信じるしか……ない。」
病室の向こうの部屋で同僚の荷物から財布を盗む看護師の足音。看護師の詰所で自分の醜い傷痕を嘲笑う若い看護師の話し声。毎夜誰かを探して病棟内を徘徊する寝たきりの筈の老人の足音。痛みに呻き続ける患者の助けを求める苦悩の声。
そのどれがその場に間近に立ち、視力があれば『見える』ものなのか。
それを知る術がない宏太には、耳に入る全ては聴こえるのだからと受け止めるしかないのだということなのだ。その後病棟で働く幼馴染みにそれとなく話を聞き出して、看護師の休憩室からの財布の紛失と看護師の雑談は現実なのだと確信が持てたものもある。他のものに関しても患者というものの中には寝たきりでも歩けなかったとしても認知症の老人は唐突にベットから落ちるようなこともあるのだし、急性期の病棟なのだから苦痛にのたうち回る患者はそこら中に常にいるものだと割りきるしかない。
そう…………そんなものと割りきれば、宏太に聴こえるものは全てが現実の世界なのだ。
そして別段それが現実でも他人には存在しないものでも、宏太にしてみたらどうでもよかった。それはその当時の宏太が、まだマトモな人間性を持たない人間擬きにすぎなかったからだったのだ。それが事実として存在しないものでも人間でなくても、自分の命が危うくても何ももう関係がない。そう思い生きていたけれど、それでも聴こえ過ぎる暗闇の中に一人で取り残されていると、自分が生きているものなのか何なのか境界線が分からなくなっていく。
足掻こうにも何もかもが聴こえすぎて、現実なのか虚構なのかも分からない
味覚もなく、視覚もない。聴覚と嗅覚と後は触れるだけしかない世界。それなのに、次第に触覚すら信じられない上に、次第に何が現実なのか、生きている現実感という認識が宏太自身にも出来なくなっていくのだ。そしてその闇の中には常に三浦のような存在が、至るところに潜んでいる。それから逃れるためなのか慣れるためなのか、一人きりで尚更聞くことにのめり込んでいく。
今更のように何かを聞いて引き込まれるように気を失うのは、自分が生きているのか死んでいるのか分からない恐怖に飲まれるからなのだと気が付いた。自分が狂わせて殺人鬼に変えてしまった男に、自分が心ない打算で傷つけ死を選ぶ程に苦しめてしまった妻に、境界線の向こう側に引きずり込まれ気が付かずにいるのではと自分勝手な恐怖と後悔にもがいていたのだ。
その言葉の意味が今は理解できるから、外崎了はその言葉に泣きそうになる。それでも自分を抱き締めてくる宏太を見下ろすと、宏太は視線が向けられたのを肌に感じ取って柔かな笑顔を浮かべてみせた。
「でも、…………変わった…………。」
今は違う。確かに後悔は掃いて捨てる程にこうしてあるけれど、危険なものは是が非でも回避して宏太には守らないとならないものがある。そう言いながら腕に抱き締めた暖かさは確かで、こうして目に見えていなくてもその笑顔が温度として分かるようになったら、それが自分に確かな現実を教えてくれるのだ。そう了を抱き締めながら宏太が安堵したように囁くと、ホンノリと腕の中の体温が上がるのが分かる程に確かに感じ取れる。
「お前が、俺をこっち側だと教えてくれる…………。」
スリ…………と肌を擦りあわせて宏太が幸せそうにソッと囁く。宏太にとって確かな温もりや様々な味や匂いまで与えてくれる了が、こうして傍に居てくれる。了が傍にいれば発作を起こさないのは、了の体温が宏太を現実に引き戻して感覚をこうして引き戻してくれるからなのだ。
そう思うと今こうして感じている腕の中の体温を、思わずもっと強く直に感じとりたくなるから宏太は耳元に向けて唇を寄せる。
「………………了……愛してるって、言え。」
唐突に強請るような甘さを含んだ声で耳元で低く囁かれて、了は思わず頬を染めながら急に何言い出すんだともがく。確かに最近発作が起こらなくなってきた理由は……というか了が傍にいれば落ち着くという理由は…………宏太が話した事で充分に分かった気がする。けれど、それならそれで今回の倒れた理由は?三浦ではないなら何なのかまだ聞いていないと突っぱねようとする了に、宏太は不満そうに抱き締めていた手を滑らせた。
「ひぁ!こ、らっ!」
「…………言えよ…………。な?」
腰を滑り降りた宏太の両手が左右に尻を包み込みながら、指先が了の弱い足の付け根の部分をクッと繊細な動きで押し上げる。寸前に倒れたくせにと押し止めようと了が必死にもがいても、宏太の指先にリズミカルにそこを刺激されながら両手でヤワヤワと尻を揉まれるのに抵抗できない。しかも最近では宏太が了を抱く時何時もそこを刺激して来て散々に了を泣かせるものだから、理性では抵抗しようにも了の身体がそこを触られるのが気持ちいいのだとインプットしてしまっている。
「ん、ふ……っあ……っ……ば、かぁ……っ。」
あっという間に指に反応して蕩けていく了の声に宏太は嬉しそうに微笑みながら、更に形のいい唇から甘く低く響く声を溢す。しかも狙いすましたように、滴るような色気を含んで了の耳元に囁いてくるのだ。
「…………これを俺に全部教えたのはお前だからな?…………責任とれよ?ん?」
「な、に?ぁふっううっ。」
責任?ここまでの話しと何の責任?と頬を染めて息を甘く蕩けさせながら了が、抱き上げられたままの胸の上から見上げる。そこには少し意地悪く口元を緩めて笑みを敷いた宏太が、ほんの少し上半身を起こしてきてなおのこと耳に唇が近い。
「お前が教えたんだぞ?食い物の味も……お前の吐息の甘さも、可愛い声も。」
耳元で囁くには途轍もなく甘い。まるで乙女に囁く愛の言葉のように甘くて、しかも宏太の声は低く甘く柔かに耳朶を擽り、その癖抱きかかえこまれその両手は、相変わらず卑猥に丹念に足の付け根と尻を揉みしだく。勢い股間を跨がる体勢でそれを受け止める了の身体の熱く固くなる中心の反応なんて、ここで改めて言うことでもないのは宏太だって分かっている筈だ。
「お前の溢す蜜が甘いのも、…………ここ…………の蕩ける熱さも…………。」
そんな淫らな事を滴るほどに甘く囁きながら指先が掠めるように布越しに、スルリと了の蕾をなぞるのに甲高い声が溢れる。このあからさまな態度は全部宏太が了がどうなるか分かっててやってるんだと知っていても、この声で囁かれるのにはどうしても了は抵抗できないのだ。
「了…………ほら、言えよ?ん?」
「だ、…………こぉ、た、ちゃ…………んぅっ。」
快楽に飲まれる了の様子を楽しみながら、了は宏太に今日倒れた理由を先に言わせたいのに全くそれに触れようとしない。結局はそこに触れたくないから他の触れても大丈夫な方を差し出したと分かってしまうし、本当なら了としてはそこについてはちゃんと説明しない点については怒鳴りつけたいのだ。
「も、もぉ!!駄目だってんだろ!!こ、こんな!!」
ジタバタと足掻く了の様子をどこか面白そうに伺いつつも宏太の手が執拗に動きを止めないのに、了はプルプルと震えながら身体を離そうと必死に胸に両手をつく。
「…………騎乗位で、か?ん?」
「馬鹿!」
唐突にそんなことを言い出した宏太に思わず怒鳴り付けたが、了が身体を離そうとしたのが気にくわない宏太は不満そうに眉をあげて追いかけるように上半身を起こす。身体を撫でていた宏太の手が持ち上がり、スルッと首元をなぞりながら離れるなと言いたげに了の項を引き留める。
「了。離すな。」
何をと問い返す前に宏太の手が了の事を再び引き寄せしがみつくように抱き締めてきて、了は戸惑いながらその肩に顔を乗せるようにして動きを止めていた。再三からかうようなことを何時ものように口にしてはいるものの、それとは裏腹に宏太は了の身体が離れるのが怖いのだ。
「…………なに、聞こえたんだよ、………………ちゃんと話せって。」
そう言いながら抱き締め返した了の腕に明らかな安堵の表情を滲ませて宏太は、ほんの少し躊躇うように眉を寄せたが悪いものじゃないとはポツリと呟く。
昔からそう言う類いのものを信じているわけでも、全く信じないわけでもない。
あると言われればそうかと納得するが、自分には関わりがないものだけだと言う程度で、宏太の周囲にはその類いのものが居ると声高に辺りに宣言するような人間がいなかった。しかも、過去の宏太はある意味では自分に見えるもの経験したものしか信じない現実主義者だったから、まぁ直に接したものしか受け入れないとも言える。だが今の状況では見えなくとも、聞こえるものが現実な訳で
「…………聞こえたのは…………喜一の声だったと思う…………。」
外崎宏太の幼馴染み、遠坂喜一。それに宏太がこんな風に驚くしかないのは、遠坂喜一は半年以上も前にアパートの自室で自死したとされていて、第一発見者に当の宏太が含まれているからだった。あの時、宏太と当時は結婚前の四倉姓の幼馴染み・梨央とその夫・鳥飼信哉が、アパートのドアノブで縊死している遠坂喜一と呆然と立ち尽くす遠坂の同僚・風間祥太を発見したのだ。その遠坂の声が聴こえたのに宏太は戸惑い、また自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなったのだと言う。それでも悪いものではなかったと思うのは何故かと了が視線を向けると、宏太はまた少し戸惑う様子でそんな気がすると自信無さげに呟く。
「……………アイツが…………。」
遠坂喜一は自死だとされて遺書も存在したのだけれど、幼い頃からの関係を持つ宏太は喜一は自死する人間ではないと考えていた。そして死んだ時宏太は一時精神的に不安定になってもいたが、同時に遠坂喜一を殺した犯人を探してもいたのだと思う。了には話さなかったが、恐らく宏太は犯人を見つけてもいるのだけれど、了に危険が及ぶ可能性を考慮してそれ以上の行動を起こさないことに決めたのだ。
「澪…………って言うんだ…………。」
その『澪』は鳥飼信哉の母親で、宏太の幼馴染みの一人。宏太の幼馴染みの五人組だったあと一人は、藤咲信夫で藤咲は宏太にしたら今も身近な存在でもある。彼らが子供の頃から五人組として常に高校生までは一緒に日々を過ごしていたのだと、了が聞いたのはそれこそ遠坂喜一が亡くなる寸前の事。そして同時期に鳥飼信哉から母親は既に十年も前に急逝したと聞かされた宏太は、暫く表には出さなくとも塞ぎこんでいた。
「遠坂のおっさんが?」
意味が分からないけれど自分にはそう聴こえたのだとポソリと呟く宏太に、抱き上げられたままの了も不思議そうに首を捻る。そんな風に少し心細げに呟く宏太は早々見るものではないけれど、死んだ筈の人間の声を聞いたら血の気がひいて気が付いたらソファ―の上だったということなのだ。黙りこんでしまった宏太に抱き締められたままでいた了は視線を腕の中からあげると、俯いた宏太の顔を両手で包み込むように持ち上げソッと唇を合わせる。
「了…………。」
気落ちした顔に感じるのは宏太が遠坂喜一のことを今も大事な幼馴染みで親友だ思っているからで、常識ではあり得ないけれど確かに声を聞いたと思っているからなおのこと戸惑っているのだ。そう言うところを摩訶不思議なんて簡単には融通が聞かないのも分かるから、了は慰めるようにソッと口付けて悪いものではないと思ったんだろ?と囁く。
「なら、きっと何か良い知らせでもしに来たんだ。だろ?遠坂のおっさんなら、それくらいする。」
暢気にそう了が囁くのにホッと緩んだ吐息で微笑んだ宏太は、そうだなと安堵の声を溢して了の事を抱き締めていた。
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