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間章 ちょっと合間の話3
間話15.嬉しいから、いい
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外崎邸のゲストルームのベットの上。耳にした言葉が今一つ理解できなくて、狭山明良は晴の言った言葉を繰り返す。
「何それ…………脚折れるって…………。」
呆気にとられたような明良の声。話しているのは、ゲストルームのある邸宅の持ち主である外崎宏太のある意味では武勇伝。晴がここで働くようになって知っている宏太は了にベタ惚れの鬼畜で変態のストーカーでもあるけれど、同時に色々な事件の渦中の人間でもあって。後から晴も知ったが、ここ近郊で数年前に起きている連続殺人事件の生き残りでもある。その殺人事件に巻き込まれて今の身体になったのだが、そのせいで宏太はその犯人が関係する事件だと知ると全く利害関係なしに首を突っ込む癖があるのだという。そのお陰で既に今年にはいってから数回犯罪者と直接対峙する事件に巻き込まれてもいて、その内の一つが進藤という犯罪者と直接対決したことだった。
相手は合気道とカポエラ
そう分かっていたから軸足を杖で叩き折った。というのがその時の話で、相手がかなりの経験のある腕前だったし命懸けでもあったから、手加減も容赦もしなかった結果だったらしい。
「それって…………。」
明良には命懸けでもないし身に付けているのが空手と知っているし、ついでに言えば宏太の知り合いには藤咲信夫という空手を身に付けた男もいるわけで。先ほどの風呂の中で宏太から藤咲との喧嘩で空手を使う奴にはこう対応という方法が、既に宏太の中にはあるらしいのだ。そして藤咲は実質として言えば、狭山家の道場とも交流がある藤咲家の道場の人間。つまりは流派は少し違うが、技術には似た部分があるから、藤咲への対応方法は明良にも有効なのだ。しかも明良の性格や思考過程を把握している宏太が、それを最大限に利用しないわけがない。それを知らない時点で明良には元々勝ち目がなかったわけだが、知っていても宏太には恐らく勝てなかったろうと明良は思う。
それほどまでに合気道は兎も角、あの古武術と言うものは実践対応能力が桁外れに高過ぎる。
高々幾つかを習得しただけの宏太がこれなのだから、あれを全部習得してるのは人間兵器と宏太が某習得者を指して言うのは実際のところ決して過大評価ではないのだ。
膝の間に座らせた恋人・結城晴の事を背後から抱き締めて肩に顔を埋めたまま、晴の話をいつになく大人しく狭山明良は何もすることなく大人しく聞いている。明良は仕事の上での控えめな印象とはまるで違っていて、どちらかと言えば晴と二人きりになると明良が主導権をもって動くことが多い。しかも、最近は二人きりになると勢いよく襲われる感が拭えない一面もあって、こんな風に大人しく話を聞くなんて余りないのに晴も気がついている。
「しゃちょーは普通のモノサシじゃ無理だから。比較するだけ無駄だし。」
「…………晴は、外崎さんの事、好き?」
もしかしてこんなことを聞いてくるのは外崎宏太に何か言われたのかなとか、外で組み伏せられたせいかななんて晴はふお思ったりもする。でも、こんな風にくっついて抱き締められて、じっと話を聞いてくれる明良は少し珍しいし、今は出来るだけ自分の思うことがそのままに伝わればいいと言葉に変える。
「しゃちょーは社長としては尊敬してるよ?でも、明良の好きとは全然違う好きだからね?」
自分の中では外崎宏太も外崎了も、好きな人の位置なのは変わらない。でもそれは一緒に仕事して楽しいとかそう言う類いの好きであって、以前みたいな恋愛感情で了が好きだったのともまるで違う。何より了に向けていた恋愛感情よりずっと、明良に向ける感情の方は深くて強くて大きい。でもそれをこうして晴が言葉にしようとすると、それは酷くチープな気もして、明良に上手く伝わるのだろうかと戸惑ってしまうのだ。以前の恋人には全くその感情を言葉で伝える事ができなかったから、晴は伝える事事態が無駄なような気がして言葉にするのを止めてしまっていた。でも、さっき扉の前で了に行く手を遮られた時に、了は晴に向かってこう言ったのだ。
お前、前もそうだったけど、思ったことちゃんと明良に話さないと明良は迷うよ?
それは以前明良が怪我をした時。あの時にも了に同じように、思ったことをちゃんと伝えないとと言われていたのだ。ちゃんと自分が何を感じて何を思っているのか、明良に伝えないと明良にはなにも伝わらないのだと。晴自身黙っていても相手に察してもらえるなんて、そんな都合よく考えている訳じゃない。そうじゃなくてどうせ言っても伝わらないのだから言わないし、元から伝わらなくても仕方がない、伝わらないのが当然なんだからと諦めてしまっていたのだ。晴が相手に思いを伝えないのは、伝え方を知らないとか言うのとは全く別な問題で、最初からそれを諦めて努力すらしていないのとだったのだ。そのせいで明良が自分への接し方に迷って、何かに固執するような行動をとらせているのだとしたら。それに宏太が危険性を感じて扉の外の剣呑な空気になっているのだとしたら。そう知ったら、何よりも自分が間違っているのだと、晴だって思っていた。ちゃんと伝えないから何故か明良が一つの事に固執する、何でもただ受け入れているだけじゃ、明良だって不安で迷い、何時かは互いに疲弊しきってしまうかもしれない。そこから逃げ出せるとしても晴は明良の事が好きで離れたくないのに、それでいいのか?と思う。
「俺の、好きは全部明良だから………明良なら何してもいいし、俺の全部あげていいと思ってるし…。」
何とかして今迄より晴自身が、明良に感じたことや思っていることを伝えたい。それをゴニョゴニョと恥ずかしそうに呟く晴は、やがて意を決したように真っ赤になって明良の腕の中で必死に言葉を絞り出して見せる。
「明良は本当カッコいいよ、この間の助けに来てくれた時、男らしくてカッコ良かった…………。」
背後でその言葉に明良が目を丸くしているのには、晴は俯いていて気がつく筈もない。晴のその言葉にギュゥッと更に腕に力が入って明良の腕の中にスッポリと包み込まれ、晴は肩越しに明良の事を見ようとするけれど今の明良の顔は臥せられていて黒髪は見えても顔までは見えない。明良がどんな顔をして今の晴の言葉を聞いているのか、まるで分からないから少し戸惑いながら晴は明良と名前を呼ぶ。
「明良?ねぇ、ヤッパリどこか痛いの?」
明良は余り普段から痛いとか辛いと言うことがないし、もしかしたら宏太に何か言われて凄く怒っていたり傷ついていたりしているかもしれないのに我慢していたりするかも。大概のことだが晴の方が甘えてばかりだし、何かと心配をかけるのも結局晴ばかり、そんなことは理解しているから何時もと違う明良の様子には心配になってしまう。明良に怪我なんかしてほしくないし、それが例え宏太が手加減してくれてたとしても、掠り傷程度でも嫌なのだ。
「痛い…………。」
ヤッパリと心の中で思った晴は必死に腕の中でモコモコと動いて、何とか身体を明良の方に向けようとするけれど明良の腕は何故かそれを許してくれない。必死に明良の腕の中で動こうとする晴に、明良は唐突に更にグリグリと顔を押し付けてくるばかりだ。
「明良?どこ痛いの?ね?ちゃんと見せてよ、明良。」
懇願するような晴の声に、それでも抱き締めたままの明良の腕は全く緩みもしない。困ったと思いながらジタバタする晴に、不意に項に動いた明良の唇が触れるのに気がつく。擽ったいけれど柔らかくて甘い唇の感触に、ソワソワと背筋に震えるような感触が走る。
「晴が…………好きすぎて…………胸が痛い。」
そんな訳の分からない言葉に思わず、はい?と声をあげた晴に、明良は突然そのまま背後に向かってゴロンと晴の身体ごと転がっていた。突然の言葉と行動に呆気にとられている晴をそのまま抱きかかえベットに仰向けになった明良は、はぁと深い溜め息をついてグリグリと更に晴の項に顔を押し当てていく。
「あ、きら?」
戸惑いなんとかこの体勢から自由になろうとする晴を抱き締めたまま、ベットに埋まって項に口付けて明良は晴に好きと言葉を繰り返す。可愛くて綺麗で愛しくて、どうしようもないくらいに好きで、自分のものにしたくて仕方がない。でもそれを上手く言葉に出来なくて行動だけで縛り付けてしまおうと明良は足掻いていた筈なのに、晴の方はこんなに素直にストレートに自分が好きなんだと言葉にして与えてくれるのに驚く。
「晴、好きだ。愛してる…………。」
明良がスルリと身体を返して晴の身体にのし掛かりそっと耳元で囁くだけで、晴の顔はあっという間に薔薇色に変わって潤んだ瞳が明良を見上げてくる。大事にしたくて独り占めしたい、それで全部自分に溺れさせたいと明良が必死になっていたのに、晴はもっと沢山の晴がもう全部明良のものなんだよとこんな風にほんの少しの変化だけでも教えてくれるのだ。
何で…………今迄…………気がつかなかったのだろう…………
明良の名前を呼びながら嬉しそうに微笑んで肌を擦り寄せて来る晴に、思わず明良も微笑みながら強く抱き締める。身体の快感は確かに重要なのはわかっているけれど、それよりも今の晴の温かさが染みてくるのに明良は何かが満ちていく感覚を覚えもしていた。
「…………ごめん。」
不意にその言葉が口から溢れ落ちる。本当はずっとそう気がついていて口にしたかったけれど、気がつくと常に追い立てて気を失うほどに責め立ててしまっていて謝ることも出来ないでいた。再三乳首だけを責め立てて失神するまで快楽で攻め倒すなんて、何よりも大事な恋人と毎晩することではないのは理解している。しかも泣く程責め立てて毎日失神してしまう迄乳首だけを弄られ、最後は激しく突き破る程に腰を打ち付けられ痙攣しながら失神させられ続けるなんて。
「ごめん、晴、ここのところ沢山酷いことしてた…………身体、辛かったよね?」
思わず素直に口から出た言葉に目を丸くした晴が、何故か更に頬を染めてプルプルと首を横に振ってから明良に確りとしがみつくみたいに抱きついてくる。事実執拗に責め立てて録に眠らせてあげもしていないのに、晴はそんなことなかったとこうして否定して首を振るのだ。こんなに優しく何もかも自分を受け入れている晴に、何で毎日接していて気がつけない?と宏太が非難するのも当然だった。腕の中で頬を染めた分なのか、晴は少しだけ体温をあげていて、それに優しい甘い晴の匂いがフワリと明良に絡む。
「…………ぃよ……。」
腕の中で恥ずかしそうに小さな声で呟く晴は、今迄になく可愛くていじらしくて、何でかとてつもなく色っぽくも見えている。それに今迄よりずっとドキドキしながら明良が何?と耳元に低く甘い声で問い返すと、晴は頬を染めたまま視線を俯かせてソッと囁く。
「明良と、するの…………俺…………嬉しいから。い…………ぃの。」
あぁ、なんて可愛いことを言うんだろう。これが自分だけのための言葉だと、ちゃんと今は明良にも見えていて。冷静にこうして見えてしまったら晴のいじらしさや可愛さに、明良は思わず悶絶しそうになっている自分に気がついていた。
※※※
胸の上に乗せられ頬を寄せて来る外崎了の髪の毛を撫でながら、まぁ向こうは向こうで上手く丸く収まったかなと外崎宏太は微睡みはじめた了の吐息を直に肌で感じとる。家主である外崎二人の閨の甘い睦言は既に終わっていて自分の胸の上で気だるげに微睡む了は、体内に溢れんばかりの自分の体液を注ぎ込まれてタップリと喘がせ泣かせた後だ。その温かな身体を抱き寄せて髪の毛を撫で、そして額に口付けると微睡みの中でも了が心地よさそうな吐息を溢すのが分かる。それに躊躇わず抱き寄せられるように宏太が変わるまでは、実は宏太としてもかなりの葛藤があったわけで。
好きで仕方がなくなる
それは相手を手にいれて、自分のものにしただけでは収まる筈もない。火がついたように燃え盛って気がつくと相手すら呑み込んで、その力の持ちようで何度了を逆に傷つけてしまったかと今更のように後悔もしてしまうけれど。それでも大事にしたいと思い続けて、やっとこうして穏やかに過ごせる程に落ち着きもしたわけで
それが他の奴らにも言えるのかどうかは知らねえがな…………
自己満足でも手の届く範囲くらい、守れなくても良い方向に向かえばと願う。何度も何度も間違えて沢山のものを傷つけて、宏太が失ったものは山のようにある。例え他の人間が言うように自分がどんなに才能があって様々な力があったとしても、何一つ守れないのなら何も意味がないのだ。その葛藤が宏太自身でも気がつかない宏太の内面にもあるのを、この世界で知っているのはほんの数人だけしかいない。
「こぉ、た?ねむ、…………なぃ……?」
微睡みつつあった了が、気がついたように延び上がってきて頬に口付けてくる温かさ。宏太の苦悩を今では誰よりも感じ取って、こうしてそれを意図も容易く包み込んでくれる了の存在は宏太にとって掛け替えのないものだ。
「了。」
「んん…………?くすぐ…………た、ふふ…………こぉ、た。」
モソモソと悪戯めいた仕草で抱き寄せ更に唇を這わせる宏太に、腕の中の了が甘い柔らかな声をあげていた。
「何それ…………脚折れるって…………。」
呆気にとられたような明良の声。話しているのは、ゲストルームのある邸宅の持ち主である外崎宏太のある意味では武勇伝。晴がここで働くようになって知っている宏太は了にベタ惚れの鬼畜で変態のストーカーでもあるけれど、同時に色々な事件の渦中の人間でもあって。後から晴も知ったが、ここ近郊で数年前に起きている連続殺人事件の生き残りでもある。その殺人事件に巻き込まれて今の身体になったのだが、そのせいで宏太はその犯人が関係する事件だと知ると全く利害関係なしに首を突っ込む癖があるのだという。そのお陰で既に今年にはいってから数回犯罪者と直接対峙する事件に巻き込まれてもいて、その内の一つが進藤という犯罪者と直接対決したことだった。
相手は合気道とカポエラ
そう分かっていたから軸足を杖で叩き折った。というのがその時の話で、相手がかなりの経験のある腕前だったし命懸けでもあったから、手加減も容赦もしなかった結果だったらしい。
「それって…………。」
明良には命懸けでもないし身に付けているのが空手と知っているし、ついでに言えば宏太の知り合いには藤咲信夫という空手を身に付けた男もいるわけで。先ほどの風呂の中で宏太から藤咲との喧嘩で空手を使う奴にはこう対応という方法が、既に宏太の中にはあるらしいのだ。そして藤咲は実質として言えば、狭山家の道場とも交流がある藤咲家の道場の人間。つまりは流派は少し違うが、技術には似た部分があるから、藤咲への対応方法は明良にも有効なのだ。しかも明良の性格や思考過程を把握している宏太が、それを最大限に利用しないわけがない。それを知らない時点で明良には元々勝ち目がなかったわけだが、知っていても宏太には恐らく勝てなかったろうと明良は思う。
それほどまでに合気道は兎も角、あの古武術と言うものは実践対応能力が桁外れに高過ぎる。
高々幾つかを習得しただけの宏太がこれなのだから、あれを全部習得してるのは人間兵器と宏太が某習得者を指して言うのは実際のところ決して過大評価ではないのだ。
膝の間に座らせた恋人・結城晴の事を背後から抱き締めて肩に顔を埋めたまま、晴の話をいつになく大人しく狭山明良は何もすることなく大人しく聞いている。明良は仕事の上での控えめな印象とはまるで違っていて、どちらかと言えば晴と二人きりになると明良が主導権をもって動くことが多い。しかも、最近は二人きりになると勢いよく襲われる感が拭えない一面もあって、こんな風に大人しく話を聞くなんて余りないのに晴も気がついている。
「しゃちょーは普通のモノサシじゃ無理だから。比較するだけ無駄だし。」
「…………晴は、外崎さんの事、好き?」
もしかしてこんなことを聞いてくるのは外崎宏太に何か言われたのかなとか、外で組み伏せられたせいかななんて晴はふお思ったりもする。でも、こんな風にくっついて抱き締められて、じっと話を聞いてくれる明良は少し珍しいし、今は出来るだけ自分の思うことがそのままに伝わればいいと言葉に変える。
「しゃちょーは社長としては尊敬してるよ?でも、明良の好きとは全然違う好きだからね?」
自分の中では外崎宏太も外崎了も、好きな人の位置なのは変わらない。でもそれは一緒に仕事して楽しいとかそう言う類いの好きであって、以前みたいな恋愛感情で了が好きだったのともまるで違う。何より了に向けていた恋愛感情よりずっと、明良に向ける感情の方は深くて強くて大きい。でもそれをこうして晴が言葉にしようとすると、それは酷くチープな気もして、明良に上手く伝わるのだろうかと戸惑ってしまうのだ。以前の恋人には全くその感情を言葉で伝える事ができなかったから、晴は伝える事事態が無駄なような気がして言葉にするのを止めてしまっていた。でも、さっき扉の前で了に行く手を遮られた時に、了は晴に向かってこう言ったのだ。
お前、前もそうだったけど、思ったことちゃんと明良に話さないと明良は迷うよ?
それは以前明良が怪我をした時。あの時にも了に同じように、思ったことをちゃんと伝えないとと言われていたのだ。ちゃんと自分が何を感じて何を思っているのか、明良に伝えないと明良にはなにも伝わらないのだと。晴自身黙っていても相手に察してもらえるなんて、そんな都合よく考えている訳じゃない。そうじゃなくてどうせ言っても伝わらないのだから言わないし、元から伝わらなくても仕方がない、伝わらないのが当然なんだからと諦めてしまっていたのだ。晴が相手に思いを伝えないのは、伝え方を知らないとか言うのとは全く別な問題で、最初からそれを諦めて努力すらしていないのとだったのだ。そのせいで明良が自分への接し方に迷って、何かに固執するような行動をとらせているのだとしたら。それに宏太が危険性を感じて扉の外の剣呑な空気になっているのだとしたら。そう知ったら、何よりも自分が間違っているのだと、晴だって思っていた。ちゃんと伝えないから何故か明良が一つの事に固執する、何でもただ受け入れているだけじゃ、明良だって不安で迷い、何時かは互いに疲弊しきってしまうかもしれない。そこから逃げ出せるとしても晴は明良の事が好きで離れたくないのに、それでいいのか?と思う。
「俺の、好きは全部明良だから………明良なら何してもいいし、俺の全部あげていいと思ってるし…。」
何とかして今迄より晴自身が、明良に感じたことや思っていることを伝えたい。それをゴニョゴニョと恥ずかしそうに呟く晴は、やがて意を決したように真っ赤になって明良の腕の中で必死に言葉を絞り出して見せる。
「明良は本当カッコいいよ、この間の助けに来てくれた時、男らしくてカッコ良かった…………。」
背後でその言葉に明良が目を丸くしているのには、晴は俯いていて気がつく筈もない。晴のその言葉にギュゥッと更に腕に力が入って明良の腕の中にスッポリと包み込まれ、晴は肩越しに明良の事を見ようとするけれど今の明良の顔は臥せられていて黒髪は見えても顔までは見えない。明良がどんな顔をして今の晴の言葉を聞いているのか、まるで分からないから少し戸惑いながら晴は明良と名前を呼ぶ。
「明良?ねぇ、ヤッパリどこか痛いの?」
明良は余り普段から痛いとか辛いと言うことがないし、もしかしたら宏太に何か言われて凄く怒っていたり傷ついていたりしているかもしれないのに我慢していたりするかも。大概のことだが晴の方が甘えてばかりだし、何かと心配をかけるのも結局晴ばかり、そんなことは理解しているから何時もと違う明良の様子には心配になってしまう。明良に怪我なんかしてほしくないし、それが例え宏太が手加減してくれてたとしても、掠り傷程度でも嫌なのだ。
「痛い…………。」
ヤッパリと心の中で思った晴は必死に腕の中でモコモコと動いて、何とか身体を明良の方に向けようとするけれど明良の腕は何故かそれを許してくれない。必死に明良の腕の中で動こうとする晴に、明良は唐突に更にグリグリと顔を押し付けてくるばかりだ。
「明良?どこ痛いの?ね?ちゃんと見せてよ、明良。」
懇願するような晴の声に、それでも抱き締めたままの明良の腕は全く緩みもしない。困ったと思いながらジタバタする晴に、不意に項に動いた明良の唇が触れるのに気がつく。擽ったいけれど柔らかくて甘い唇の感触に、ソワソワと背筋に震えるような感触が走る。
「晴が…………好きすぎて…………胸が痛い。」
そんな訳の分からない言葉に思わず、はい?と声をあげた晴に、明良は突然そのまま背後に向かってゴロンと晴の身体ごと転がっていた。突然の言葉と行動に呆気にとられている晴をそのまま抱きかかえベットに仰向けになった明良は、はぁと深い溜め息をついてグリグリと更に晴の項に顔を押し当てていく。
「あ、きら?」
戸惑いなんとかこの体勢から自由になろうとする晴を抱き締めたまま、ベットに埋まって項に口付けて明良は晴に好きと言葉を繰り返す。可愛くて綺麗で愛しくて、どうしようもないくらいに好きで、自分のものにしたくて仕方がない。でもそれを上手く言葉に出来なくて行動だけで縛り付けてしまおうと明良は足掻いていた筈なのに、晴の方はこんなに素直にストレートに自分が好きなんだと言葉にして与えてくれるのに驚く。
「晴、好きだ。愛してる…………。」
明良がスルリと身体を返して晴の身体にのし掛かりそっと耳元で囁くだけで、晴の顔はあっという間に薔薇色に変わって潤んだ瞳が明良を見上げてくる。大事にしたくて独り占めしたい、それで全部自分に溺れさせたいと明良が必死になっていたのに、晴はもっと沢山の晴がもう全部明良のものなんだよとこんな風にほんの少しの変化だけでも教えてくれるのだ。
何で…………今迄…………気がつかなかったのだろう…………
明良の名前を呼びながら嬉しそうに微笑んで肌を擦り寄せて来る晴に、思わず明良も微笑みながら強く抱き締める。身体の快感は確かに重要なのはわかっているけれど、それよりも今の晴の温かさが染みてくるのに明良は何かが満ちていく感覚を覚えもしていた。
「…………ごめん。」
不意にその言葉が口から溢れ落ちる。本当はずっとそう気がついていて口にしたかったけれど、気がつくと常に追い立てて気を失うほどに責め立ててしまっていて謝ることも出来ないでいた。再三乳首だけを責め立てて失神するまで快楽で攻め倒すなんて、何よりも大事な恋人と毎晩することではないのは理解している。しかも泣く程責め立てて毎日失神してしまう迄乳首だけを弄られ、最後は激しく突き破る程に腰を打ち付けられ痙攣しながら失神させられ続けるなんて。
「ごめん、晴、ここのところ沢山酷いことしてた…………身体、辛かったよね?」
思わず素直に口から出た言葉に目を丸くした晴が、何故か更に頬を染めてプルプルと首を横に振ってから明良に確りとしがみつくみたいに抱きついてくる。事実執拗に責め立てて録に眠らせてあげもしていないのに、晴はそんなことなかったとこうして否定して首を振るのだ。こんなに優しく何もかも自分を受け入れている晴に、何で毎日接していて気がつけない?と宏太が非難するのも当然だった。腕の中で頬を染めた分なのか、晴は少しだけ体温をあげていて、それに優しい甘い晴の匂いがフワリと明良に絡む。
「…………ぃよ……。」
腕の中で恥ずかしそうに小さな声で呟く晴は、今迄になく可愛くていじらしくて、何でかとてつもなく色っぽくも見えている。それに今迄よりずっとドキドキしながら明良が何?と耳元に低く甘い声で問い返すと、晴は頬を染めたまま視線を俯かせてソッと囁く。
「明良と、するの…………俺…………嬉しいから。い…………ぃの。」
あぁ、なんて可愛いことを言うんだろう。これが自分だけのための言葉だと、ちゃんと今は明良にも見えていて。冷静にこうして見えてしまったら晴のいじらしさや可愛さに、明良は思わず悶絶しそうになっている自分に気がついていた。
※※※
胸の上に乗せられ頬を寄せて来る外崎了の髪の毛を撫でながら、まぁ向こうは向こうで上手く丸く収まったかなと外崎宏太は微睡みはじめた了の吐息を直に肌で感じとる。家主である外崎二人の閨の甘い睦言は既に終わっていて自分の胸の上で気だるげに微睡む了は、体内に溢れんばかりの自分の体液を注ぎ込まれてタップリと喘がせ泣かせた後だ。その温かな身体を抱き寄せて髪の毛を撫で、そして額に口付けると微睡みの中でも了が心地よさそうな吐息を溢すのが分かる。それに躊躇わず抱き寄せられるように宏太が変わるまでは、実は宏太としてもかなりの葛藤があったわけで。
好きで仕方がなくなる
それは相手を手にいれて、自分のものにしただけでは収まる筈もない。火がついたように燃え盛って気がつくと相手すら呑み込んで、その力の持ちようで何度了を逆に傷つけてしまったかと今更のように後悔もしてしまうけれど。それでも大事にしたいと思い続けて、やっとこうして穏やかに過ごせる程に落ち着きもしたわけで
それが他の奴らにも言えるのかどうかは知らねえがな…………
自己満足でも手の届く範囲くらい、守れなくても良い方向に向かえばと願う。何度も何度も間違えて沢山のものを傷つけて、宏太が失ったものは山のようにある。例え他の人間が言うように自分がどんなに才能があって様々な力があったとしても、何一つ守れないのなら何も意味がないのだ。その葛藤が宏太自身でも気がつかない宏太の内面にもあるのを、この世界で知っているのはほんの数人だけしかいない。
「こぉ、た?ねむ、…………なぃ……?」
微睡みつつあった了が、気がついたように延び上がってきて頬に口付けてくる温かさ。宏太の苦悩を今では誰よりも感じ取って、こうしてそれを意図も容易く包み込んでくれる了の存在は宏太にとって掛け替えのないものだ。
「了。」
「んん…………?くすぐ…………た、ふふ…………こぉ、た。」
モソモソと悪戯めいた仕草で抱き寄せ更に唇を這わせる宏太に、腕の中の了が甘い柔らかな声をあげていた。
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