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間章 ちょっと合間の話3
間話11.言葉では伝わらない
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結城晴は何にとはいわなかったが、逆上せて目を回しただけだと本人が強く主張したわけで。もう大丈夫と晴が言い張ったのと、その後顔を洗って来たら割合気持ちも落ち着いた様子なのでそれ以上の追及は終了。何時ものごとく外崎了が作ってくれた遅めの昼食を何時ものように食べ終えた後、何時もと同じように自分の分の食器を流しに食器を運んで洗ってと当然みたいに過ごしながら晴は外崎宏太が言ったことを無意識に思い起こしていた。何故狭山明良が今乳首責めなんて事を繰り返しているのかなんて、確かにされている方の晴にしても余り深く考えようともしていなかったのだ。
気に入ったのかなー…………位にしか考えてなかったなぁ……そう言われると…………
時々明良が何故そう考えるのかとか何故そう行動しているのかが、晴にも理解できない事がある。でも言い方は悪いが、どんなに深く理解しあっていると思っていても、他人の思考迄は全ては理解できないものだ。何しろ過去に結婚を考えた女性がいたほどの晴が突然彼女と別れると持ち出した時、彼女は全く晴の事が理解できないと泣いていた。どんなに理解しあっていたと思っていても、実際は上部だけ。大体にして彼女は次第にだったとはいえ、晴の大きな変化に全く気がつかなかったし、変化を引き留めることも出来なかった。
ごめん…………もう駄目だ
晴が彼女にそう言うしかなくなったのは彼女とのセックスすら出来なくなったからで、彼女に気持ちが向けられず好きなのは当時の成田了に塗り変わってしまったからだ。別れ話をしてスルッと別れられたわけではないのは当然の事、彼女にとって晴は結婚する話が既にチラホラ垣間見えるような優良物件だったし、晴の方だって何ヵ月か前迄はソロソロ親に会ったりする時期なのかと考えまでしていたくらいだった。でも了に惹き付けられてしまったら、あっという間に彼女との関係は破綻して苦痛でしかなくなってしまったのだ。
そこか1週間。
何度も顔を付き合わせて、晴は自分の変化を説明した。自分のなかで次第に他に惹かれている人が出来てしまったこととか、その人と彼女を比べてしまうようになったこととか。実際にその時には相手(流石に先輩の了だとは言えなかったが)とセックスしていたのは事実で、そこも自分の問題で晴が悪かった事なのだから隠さなかった。でも結局はずっと晴が説明していたことを、彼女はそのままにはちゃんと理解していなかった気がする。他に好きな人が出来たと言う晴の言葉を彼女は最初は全く信じなかったし、次には自分を最初から騙していたのかと問い詰められた。そうではなくて、君と付き合っている間に出逢った人に心を惹かれてしまったのだと、何度晴が説明しても彼女は決して理解しなかったのだ。
確かに見方としては彼女がいる晴が浮気をしたわけで、晴が悪いのは現実。だから、もう無理だから別れようと説明しているのに、何故か論点は二股の期間とか回数とかにズレていく。浮気するような男とは無理という彼女にしても別れは確定しているのに、何故かそこだけはハッキリさせないとと噛みつかれるのにウンザリしてしまった。
何でそこばっかり気にすんの?
当然でしょ?!
彼女は泣きながらそう叫んでいて、晴には逆に理解できない。もう無理だから、抱こうにも彼女は抱けないし一緒にいるのがしんどいから、それで十分じゃない?というと、彼女は睨み付けるようにしてこういうのだ。
男が好きなんて、おかしいでしょ?!晴君、今までずっとホモじゃないし!
好きな人に性別が関係して、ここ迄食い下がられることなのかと思うのは晴だけなのか。相手が男だから二股の期間とか相手との回数を知りたがる理由すら、晴には全くもって不可解だし彼女だけでなく他の人というものは誰しもこうなのかとも呆れてしまう。
そう言うもんだと思ったら…………諦めちゃったんだよな…………
もう説明するのにも飽きたと、彼女にはそれから会わなかった。多分彼女には酷い男だといわれているに違いないとは思うけれど、説明しても晴の気持ちが全然伝わらないのは事実だから。でも、そう言われると自分は明良の事が好きだとはちゃんと伝えていても、他の思いに関しては余り晴は言わないかもしれない。それに明良も言わないから、あえて互いに確かめようとしたことがない気がする。そうか、自分の方はそんな感じで結局言葉での理解なんて意味がないと、心の何処かで思ってしまっていたかもしれない。
だって、人間って割りとそのまま言葉を理解できない…………
どんなに説明しても理解はされない。何しろ相手の言葉をそのまま理解するのは至難の技で、人間は大なり小なり固定観念で曲解しながら相手の事を見たり聞いたりする。付き合っていた彼女は愛は不変で、一度愛したら永遠なのだと信じていた。でも晴が簡単に心変わりしたから、晴の愛は最初から愛ではなかったのだと決めつけられてもいたのだ。それを覆そうとしても、晴の言葉は彼女には何も伝わらない。経験上でそう知っているから、余り今までそれを大事には晴も思っていなかったかもしれない。
でも、今回の明良の事は…………別問題だよなぁ…………うん。
カチャカチャと食器の音をたてながらシンクからあげ、リビングの二人の姿を眺める。
目の見えない宏太が食事をしやすいようにと宏太の使う食器の種類は了が決めたものに固定していて、盛り付けた食器の設置場所も決まっている。面倒くさそうと思うが固定されてしまうと、メニューによって使う皿の大きさが違っても、慣れてしまえば迷いもなく目が見えない宏太でも食事が出来る。上手いこと考えたなと見ていて感心したけれど、知人からアドバイスされたんだと了は笑う。お陰でそれほど今は食事について、宏太も了の手を必要としなくなった。それでもスープとか汁気の多い物を出す時には了は何も言わなくともこうして傍に付き添って、自分も食事をしながらとかして宏太の事を眺めている。
…………甲斐甲斐しいっていうか…………幸せそうだよなぁ…………
出逢った時からずっと自分と同じようにある程度人間と距離をおいて接しているように見えていた会社の先輩の成田了は、晴が再会した時には外崎了という別人になっていた。あんな風に誰かを幸せそうに見つめている了なんて、会社の時には一度も見たことがなかったのだ。ただ食事をしている宏太を眺めて幸せそうに微笑みながら「旨い?」なんて問いかける姿なんて、以前の了を知っていたら驚くなんてものじゃない。それに晴としては以前の傷のない姿は知らないけれど、宏太の方も了が傍にいるのが幸せなのだという思いが全身から駄々漏れで。
俺と明良は…………あんな風になれんのかな…………?
それに宏太達だけでなく、ここにきて知り合った源川仁聖と榊恭平だってそうだ。家に行くほど仲良くなれば、彼らがどんな風に互いを大事にしながら暮らしているかは嫌でも見える。それでも仁聖達だって一緒に過ごすようになってからはまだ一年もたっていないのだと聞かされて驚くが、彼等も互いの事を理解して寄り添っているように晴には思えるのだ。
自分と明良の違い。
確かに愛し合っているけれど、まだ二人の間は何処か壁があって奇妙な緊張感が張り詰めている。それはどうにかしたら解消できるものなのだろうか、それとも他の人達とは自分達は違うということなのか。溜め息混じりに一人で仕事場に戻ってキーを打ち始めた途端、不意に背後に人の気配を感じて振り返ると当然だけどそこには食事を終えたらしい宏太が立っていて。
「晴。」
「ふぁい。しゃちょー、なに?」
「…………少し寝てこい。」
ふえ?と珍妙な声を返す晴に宏太は、ゲストルームのベットを貸してやるから午後は寝てろなんて事をいうのだ。阿保か・仕事場で食って寝るだけなんてあり得ないでしょと苦笑いして断った晴を、暫し無言で見下ろしていた宏太が晴の想定外の行動に出たのはその直後だった。ワシッと背後から腹の辺りを捕まれたかと思うと、一瞬にして軽々と晴の身体は宙に浮いていて視界が一気に変わる。
「ひえええっ!?な、なにすんのっ!!」
「うるせぇ、黙ってろ。」
いや、何度もいうがどんなにスタイルがよくて見事な肉体の持ち主とはいえ、外崎宏太は眼球すらマトモに残らない大怪我をおった視力障害者で身体にも大きな傷痕が沢山あって歩行にも杖か必要な問題が残っている。その男の肩に何故か米俵のように軽々と肩に担がれて、平然と歩き出されてて悲鳴が上がらないわけがない。
「待って!怖い!!怖いから!」
「あー?聞こえねぇ。了!こいつゲストスームに突っ込んでくるからな。」
リビングの横を通り抜けながら声をあげた宏太にキッチンの方からりょうかーいと了の呑気な声が聞こえてきて、晴は待って!了解しないで!!と了に叫びたい。ちょっと!自分の男が他の男を肩に抱えて歩いてますけど!!そう思うけれど口に出そうにも宏太の動きが止まるわけもなく、しかもこの体勢でそのまま階段を上がられるのは正直恐怖。
「ぎゃーっ!!こわいっ!おちる!!!」
「黙ってりゃ落とさん。」
肩に俵のように担がれて背中側に顔の状況で、長身の宏太の肩から階段の下側を覗くのはかなり高低差がありすぎて実は怖い。前みたいに姫抱きとかダッコなら兎も角、何故担ぐ?!と思うけれど、実際のところ恋人でもない上に男を姫抱きというのもおかしかろう。ぎゃー!!!と叫び続ける晴の声が尾を引きながら、二階のゲストルーム迄続いていったのは言う迄もない。
「ギャーギャー騒ぐな。うるせぇ。」
ボフッとゲストルームのベットの上に投げ出されて、やっと恐怖の搬送が終わったのに晴がピイピイ泣きながら怖いって言ってるし!何で寝ろなんだよ!!と食って掛かる。実際には顔色なんか見えないし、身体の何処かが腫れてるくらいのことしかないのに、何で寝てろと言われる羽目になったのかわからない。そうキャンキャンと子犬が吠えるように文句をつけていた晴に、突然宏太がドスッとベットサイドに腰を下ろしてワシャと柔らかな晴の髪を掻き回すように撫で回す。
「ふぇ?!」
「少し黙れ。うるせぇ。」
何だ?何でこんな行動を宏太がしているのか、晴にも理解出来なくて思わず黙りこむ。宏太という人間は晴との最初の出逢いからして最悪の印象で、大好きな了の恋人というのに宏太は不気味な傷だらけの訳のわからない男だった。正直醜い傷痕だらけの年上の男で、その世話をするために了は囲われているのかなんて勝手なことを晴は考えていたのだ。でも直ぐに二人のセックスを当て付けのように見せつけられ、その後はここで働くようにもなって、この男が普通の人間の物差しでは測れない存在なのだと晴だって分かってしまった。それに晴は宏太と了の関係を認めるしかなくなったし、一緒に過ごす時間が増えるほどに理解していくようになる。
宏太に大切なのは了ただ一人。
そしてそれを守るためなら何も厭わない揺るぎのない精神に、多様な技術や知識を詰め込んでもいて。もし傷痕なんかなかったら世の中の誰もが放ってはおかなかったに違いないハイスペックの男に、了は全身全霊で愛されていて晴の付け入る隙なんて何一つない。宏太の事を知れば知るほど、晴は宏太の事が嫌いじゃないと思うようになるし、本当のところ結構…………いや、かなり好きな部類にいる人間にかわってしまう。そして見ている内に宏太も了も少しずつ変わり始めていて、特に宏太の方は日に日に柔らかく穏やかな物腰をした今の変容していく。
嫌いじゃないし、好きだし、信頼も出来る
そんな宏太が何故かゲストルームとはいえベットまでこうして晴を連れこんで、しかも何故か更に子供にするみたいにヨシヨシと頭を撫でながら口を開いた。
「少しここで休んでろ、お前の心臓の音がうるさい。」
「は?」
心臓の音って何?と問いかけたら、仕事場で傍に座ると普段と違う晴の速くて大きな心音が聞こえるなんて、宏太が途轍もなく訳のわからないことを言い出した。聴診器でも当ててる訳じゃあるまいし、今は盗聴機も録音機材も何も身体に付けてもいないのに。
「心音や呼吸音も聞く気になれば聞こえんだよ。だけど、今のお前のは激しすぎてうるさい。」
何なの?それ。それって普通じゃないでしょと思うけれど、何故かナデナデと頭を撫でる宏太の大きな手が心地よくて、それに食後だし一番眠くなるのが当然の時間。それに正直毎晩濃厚に愛撫されてヘトヘトになっているのも事実だから、その手に撫でられ安堵した途端あっという間に坂を転がり落ちるみたいに晴は深い眠りに落ちていたのだった。
気に入ったのかなー…………位にしか考えてなかったなぁ……そう言われると…………
時々明良が何故そう考えるのかとか何故そう行動しているのかが、晴にも理解できない事がある。でも言い方は悪いが、どんなに深く理解しあっていると思っていても、他人の思考迄は全ては理解できないものだ。何しろ過去に結婚を考えた女性がいたほどの晴が突然彼女と別れると持ち出した時、彼女は全く晴の事が理解できないと泣いていた。どんなに理解しあっていたと思っていても、実際は上部だけ。大体にして彼女は次第にだったとはいえ、晴の大きな変化に全く気がつかなかったし、変化を引き留めることも出来なかった。
ごめん…………もう駄目だ
晴が彼女にそう言うしかなくなったのは彼女とのセックスすら出来なくなったからで、彼女に気持ちが向けられず好きなのは当時の成田了に塗り変わってしまったからだ。別れ話をしてスルッと別れられたわけではないのは当然の事、彼女にとって晴は結婚する話が既にチラホラ垣間見えるような優良物件だったし、晴の方だって何ヵ月か前迄はソロソロ親に会ったりする時期なのかと考えまでしていたくらいだった。でも了に惹き付けられてしまったら、あっという間に彼女との関係は破綻して苦痛でしかなくなってしまったのだ。
そこか1週間。
何度も顔を付き合わせて、晴は自分の変化を説明した。自分のなかで次第に他に惹かれている人が出来てしまったこととか、その人と彼女を比べてしまうようになったこととか。実際にその時には相手(流石に先輩の了だとは言えなかったが)とセックスしていたのは事実で、そこも自分の問題で晴が悪かった事なのだから隠さなかった。でも結局はずっと晴が説明していたことを、彼女はそのままにはちゃんと理解していなかった気がする。他に好きな人が出来たと言う晴の言葉を彼女は最初は全く信じなかったし、次には自分を最初から騙していたのかと問い詰められた。そうではなくて、君と付き合っている間に出逢った人に心を惹かれてしまったのだと、何度晴が説明しても彼女は決して理解しなかったのだ。
確かに見方としては彼女がいる晴が浮気をしたわけで、晴が悪いのは現実。だから、もう無理だから別れようと説明しているのに、何故か論点は二股の期間とか回数とかにズレていく。浮気するような男とは無理という彼女にしても別れは確定しているのに、何故かそこだけはハッキリさせないとと噛みつかれるのにウンザリしてしまった。
何でそこばっかり気にすんの?
当然でしょ?!
彼女は泣きながらそう叫んでいて、晴には逆に理解できない。もう無理だから、抱こうにも彼女は抱けないし一緒にいるのがしんどいから、それで十分じゃない?というと、彼女は睨み付けるようにしてこういうのだ。
男が好きなんて、おかしいでしょ?!晴君、今までずっとホモじゃないし!
好きな人に性別が関係して、ここ迄食い下がられることなのかと思うのは晴だけなのか。相手が男だから二股の期間とか相手との回数を知りたがる理由すら、晴には全くもって不可解だし彼女だけでなく他の人というものは誰しもこうなのかとも呆れてしまう。
そう言うもんだと思ったら…………諦めちゃったんだよな…………
もう説明するのにも飽きたと、彼女にはそれから会わなかった。多分彼女には酷い男だといわれているに違いないとは思うけれど、説明しても晴の気持ちが全然伝わらないのは事実だから。でも、そう言われると自分は明良の事が好きだとはちゃんと伝えていても、他の思いに関しては余り晴は言わないかもしれない。それに明良も言わないから、あえて互いに確かめようとしたことがない気がする。そうか、自分の方はそんな感じで結局言葉での理解なんて意味がないと、心の何処かで思ってしまっていたかもしれない。
だって、人間って割りとそのまま言葉を理解できない…………
どんなに説明しても理解はされない。何しろ相手の言葉をそのまま理解するのは至難の技で、人間は大なり小なり固定観念で曲解しながら相手の事を見たり聞いたりする。付き合っていた彼女は愛は不変で、一度愛したら永遠なのだと信じていた。でも晴が簡単に心変わりしたから、晴の愛は最初から愛ではなかったのだと決めつけられてもいたのだ。それを覆そうとしても、晴の言葉は彼女には何も伝わらない。経験上でそう知っているから、余り今までそれを大事には晴も思っていなかったかもしれない。
でも、今回の明良の事は…………別問題だよなぁ…………うん。
カチャカチャと食器の音をたてながらシンクからあげ、リビングの二人の姿を眺める。
目の見えない宏太が食事をしやすいようにと宏太の使う食器の種類は了が決めたものに固定していて、盛り付けた食器の設置場所も決まっている。面倒くさそうと思うが固定されてしまうと、メニューによって使う皿の大きさが違っても、慣れてしまえば迷いもなく目が見えない宏太でも食事が出来る。上手いこと考えたなと見ていて感心したけれど、知人からアドバイスされたんだと了は笑う。お陰でそれほど今は食事について、宏太も了の手を必要としなくなった。それでもスープとか汁気の多い物を出す時には了は何も言わなくともこうして傍に付き添って、自分も食事をしながらとかして宏太の事を眺めている。
…………甲斐甲斐しいっていうか…………幸せそうだよなぁ…………
出逢った時からずっと自分と同じようにある程度人間と距離をおいて接しているように見えていた会社の先輩の成田了は、晴が再会した時には外崎了という別人になっていた。あんな風に誰かを幸せそうに見つめている了なんて、会社の時には一度も見たことがなかったのだ。ただ食事をしている宏太を眺めて幸せそうに微笑みながら「旨い?」なんて問いかける姿なんて、以前の了を知っていたら驚くなんてものじゃない。それに晴としては以前の傷のない姿は知らないけれど、宏太の方も了が傍にいるのが幸せなのだという思いが全身から駄々漏れで。
俺と明良は…………あんな風になれんのかな…………?
それに宏太達だけでなく、ここにきて知り合った源川仁聖と榊恭平だってそうだ。家に行くほど仲良くなれば、彼らがどんな風に互いを大事にしながら暮らしているかは嫌でも見える。それでも仁聖達だって一緒に過ごすようになってからはまだ一年もたっていないのだと聞かされて驚くが、彼等も互いの事を理解して寄り添っているように晴には思えるのだ。
自分と明良の違い。
確かに愛し合っているけれど、まだ二人の間は何処か壁があって奇妙な緊張感が張り詰めている。それはどうにかしたら解消できるものなのだろうか、それとも他の人達とは自分達は違うということなのか。溜め息混じりに一人で仕事場に戻ってキーを打ち始めた途端、不意に背後に人の気配を感じて振り返ると当然だけどそこには食事を終えたらしい宏太が立っていて。
「晴。」
「ふぁい。しゃちょー、なに?」
「…………少し寝てこい。」
ふえ?と珍妙な声を返す晴に宏太は、ゲストルームのベットを貸してやるから午後は寝てろなんて事をいうのだ。阿保か・仕事場で食って寝るだけなんてあり得ないでしょと苦笑いして断った晴を、暫し無言で見下ろしていた宏太が晴の想定外の行動に出たのはその直後だった。ワシッと背後から腹の辺りを捕まれたかと思うと、一瞬にして軽々と晴の身体は宙に浮いていて視界が一気に変わる。
「ひえええっ!?な、なにすんのっ!!」
「うるせぇ、黙ってろ。」
いや、何度もいうがどんなにスタイルがよくて見事な肉体の持ち主とはいえ、外崎宏太は眼球すらマトモに残らない大怪我をおった視力障害者で身体にも大きな傷痕が沢山あって歩行にも杖か必要な問題が残っている。その男の肩に何故か米俵のように軽々と肩に担がれて、平然と歩き出されてて悲鳴が上がらないわけがない。
「待って!怖い!!怖いから!」
「あー?聞こえねぇ。了!こいつゲストスームに突っ込んでくるからな。」
リビングの横を通り抜けながら声をあげた宏太にキッチンの方からりょうかーいと了の呑気な声が聞こえてきて、晴は待って!了解しないで!!と了に叫びたい。ちょっと!自分の男が他の男を肩に抱えて歩いてますけど!!そう思うけれど口に出そうにも宏太の動きが止まるわけもなく、しかもこの体勢でそのまま階段を上がられるのは正直恐怖。
「ぎゃーっ!!こわいっ!おちる!!!」
「黙ってりゃ落とさん。」
肩に俵のように担がれて背中側に顔の状況で、長身の宏太の肩から階段の下側を覗くのはかなり高低差がありすぎて実は怖い。前みたいに姫抱きとかダッコなら兎も角、何故担ぐ?!と思うけれど、実際のところ恋人でもない上に男を姫抱きというのもおかしかろう。ぎゃー!!!と叫び続ける晴の声が尾を引きながら、二階のゲストルーム迄続いていったのは言う迄もない。
「ギャーギャー騒ぐな。うるせぇ。」
ボフッとゲストルームのベットの上に投げ出されて、やっと恐怖の搬送が終わったのに晴がピイピイ泣きながら怖いって言ってるし!何で寝ろなんだよ!!と食って掛かる。実際には顔色なんか見えないし、身体の何処かが腫れてるくらいのことしかないのに、何で寝てろと言われる羽目になったのかわからない。そうキャンキャンと子犬が吠えるように文句をつけていた晴に、突然宏太がドスッとベットサイドに腰を下ろしてワシャと柔らかな晴の髪を掻き回すように撫で回す。
「ふぇ?!」
「少し黙れ。うるせぇ。」
何だ?何でこんな行動を宏太がしているのか、晴にも理解出来なくて思わず黙りこむ。宏太という人間は晴との最初の出逢いからして最悪の印象で、大好きな了の恋人というのに宏太は不気味な傷だらけの訳のわからない男だった。正直醜い傷痕だらけの年上の男で、その世話をするために了は囲われているのかなんて勝手なことを晴は考えていたのだ。でも直ぐに二人のセックスを当て付けのように見せつけられ、その後はここで働くようにもなって、この男が普通の人間の物差しでは測れない存在なのだと晴だって分かってしまった。それに晴は宏太と了の関係を認めるしかなくなったし、一緒に過ごす時間が増えるほどに理解していくようになる。
宏太に大切なのは了ただ一人。
そしてそれを守るためなら何も厭わない揺るぎのない精神に、多様な技術や知識を詰め込んでもいて。もし傷痕なんかなかったら世の中の誰もが放ってはおかなかったに違いないハイスペックの男に、了は全身全霊で愛されていて晴の付け入る隙なんて何一つない。宏太の事を知れば知るほど、晴は宏太の事が嫌いじゃないと思うようになるし、本当のところ結構…………いや、かなり好きな部類にいる人間にかわってしまう。そして見ている内に宏太も了も少しずつ変わり始めていて、特に宏太の方は日に日に柔らかく穏やかな物腰をした今の変容していく。
嫌いじゃないし、好きだし、信頼も出来る
そんな宏太が何故かゲストルームとはいえベットまでこうして晴を連れこんで、しかも何故か更に子供にするみたいにヨシヨシと頭を撫でながら口を開いた。
「少しここで休んでろ、お前の心臓の音がうるさい。」
「は?」
心臓の音って何?と問いかけたら、仕事場で傍に座ると普段と違う晴の速くて大きな心音が聞こえるなんて、宏太が途轍もなく訳のわからないことを言い出した。聴診器でも当ててる訳じゃあるまいし、今は盗聴機も録音機材も何も身体に付けてもいないのに。
「心音や呼吸音も聞く気になれば聞こえんだよ。だけど、今のお前のは激しすぎてうるさい。」
何なの?それ。それって普通じゃないでしょと思うけれど、何故かナデナデと頭を撫でる宏太の大きな手が心地よくて、それに食後だし一番眠くなるのが当然の時間。それに正直毎晩濃厚に愛撫されてヘトヘトになっているのも事実だから、その手に撫でられ安堵した途端あっという間に坂を転がり落ちるみたいに晴は深い眠りに落ちていたのだった。
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