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第十六章 FlashBack2
234.
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我慢が効かなくて理性が先に限界をふりきってしまっていたのは、源川仁聖よりなにより榊恭平の方が先で上でもあったのだ。これまでの数日の我慢の間頭の中で繰り返される仁聖の淫らな自慰の姿に、恭平の身体は常に燃え上がるように欲情に煽られ続けていて。検査の結果の安堵と同時に真っ先に考えたのは自分でも不謹慎だとは分かっていたが、先ずは仁聖を腕に抱き締めることだけしか浮かばなかった。
そうして真っ先に帰ってきた仁聖の足音を効いた瞬間無意識に立ち上がっていたし、リビングで落ち着いて話すつもりだったのも仁聖の姿を見ただけで頭から弾けとんでいた。息を上げ駆け込んできた仁聖は、頬を染めながら潤んだ青味がかった瞳で自分を真っ直ぐに見つめる。その姿に一瞬で落ち着いて話をすることを放棄しまっていたし、手を伸ばし腕をとって指先にふれた滑らかで熱い肌の感触に傍に引き寄せるだけで満足なんかできなかった。
今すぐ抱き締めて自分のものにしてしまいたい
そんな欲望に自分がこんなにも駆られているなんて仁聖に上手く説明もできないし、今の恭平は説明する必要も感じていない。しかも欲望のままに仁聖をベットに座らせて膝に乗ったはいいが、抱き付いて間近に顔を見たら尚更のこと恭平には我慢が効かなくなっていた。
まるで…………
不安げに揺れていてそれでも自分のことを思って必死に見つめる視線は、あの時の眉を寄せて目を閉じていた淫らな姿を思わせてあの悩ましい面影が脳裏に過ってしまう。そんな風にそれを思い出してしまったらもう一度その姿が間近で見たいのと、あんな風に想像で自慰なんかなくともいいじゃないかと思う気持ちが膨れ上がるのを感じてしまったのだ。そして恭平がそれに身を任せてしまったから、何時になく意地悪なことを口にして、自分から仁聖に跨がりユルユルと快楽に煽られて腰を動かし続けてもいる。
「仁聖…………?い、ぃ?ん……っ、んっ!」
教えてと強請るように囁きかけると、声を堪えようとする仁聖が視界に見える。その仕草が逆に気持ちいいのだと示しているのに、恭平はウットリと見とれながら更に腰を動かしていく。
普段とは逆にもっと声を出して、もっと感じてと囁きかけている甘い恭平の声。それに尚更頬を染めて仁聖は声を押さえ込もうと眉を寄せるけれど、その顔はなおのことあの時の切な気な顔に重なるのだ。抱き付くように覆い被さって腰を振り立てるなんて酷くはしたない行動だとは分かっているけれど、目の前の仁聖の表情に魅せられて欲望に駆り立てられていく。
あぁ、すごい…………こんな、顔して…………
更に激しくグチュグチュと快感に濡れて自らが立てる淫らな音の下で、眉をしかめて喘ぐのを堪えようとしている仁聖がいつになく自分のなすがままなのが可愛くてしかたがない。何時もなら仁聖の腕に組み敷かれて、仁聖のペースで愛撫されて、深く強く貫かれて喘がされていくのだ。それが今は自分が仁聖を快楽に押し上げて、自分が仁聖を喘がせているのだと思うと目眩がしそうな程の興奮に飲まれていく。その興奮にキュゥとしめつける肉襞に絡めとられて、昇り詰めようとする仁聖の身体がガクガクと快感に痙攣する。
「んんっ!だ、めっ!そ、ん、っんんんっ!き、つ……っ!あっ!」
震えながら快感に堪える仁聖にもっと自分に溺れて欲しくて、恭平は腰を深く押し付けて奥まで飲み込み最奥でその亀頭を体内で擦りたてて味わう。一度達して敏感になった先端を擦られ絞り上げられて、真っ赤になりながら達しないように必死に堪える仁聖に胸の奥が熱くジンジンして堪らなくなる。そして喘ぎながら自分が腰をくねらせ散々に仁聖を責め立てているのも分かっているけれど、どうしても止めることができないでいる恭平の息が次第に上がっていく。
「あ、んんっ、じ、んせ、んんっ!い、?んっんん、っあ!」
「あぅっ!!うぅっきょ、うへ、駄目っもっ!いっちゃぅっ!!!」
熱っぽい甘い声で喘ぎ全身を強ばらせる仁聖に、恭平自身も縋りついて抱き締めて腰を深く押し付けて。奥底に膨れ上がる仁聖の怒張を直に感じとる恭平の薔薇色に蕩けた頬が何時にもまして艶かしくて、堪えきれずに二度目の射精を仁聖が吹き出してしまったのは仕方がない。
「ふぅ…………んんっ……あぁ……っ。で、てる…………っ……。」
甘く蕩けた声でそう呟き同時に勢い良く中に注ぎ込まれる感覚に、ブルリと全身を震わせた恭平の身体から力が抜け落ちていく。怒張を迎え入れて吸い付くような体内に全てを吐き出してしまった仁聖に、上から抱き付いたままの恭平が潤んだ瞳を向けてくる。それに快感に酩酊しかけた頭でこれは一体何が起きたのかとも考えながら仁聖が瞳を見つめ返すと、恭平の瞳がフワリと熱っぽいままに緩んで柔らかな微笑みが浮かぶ。そして次の瞬間には柔らかな甘い微笑みと共に恭平が、仁聖の頬をソッと両手で包み込んで甘い口づけを落としてくるのだ。
「きょう、へぇ…………。」
チュと柔らかな甘い音を立て何度もて口づけられ、その後も頬や額を擦るようにして顔を寄せてくる恭平は何時になく甘く柔らかい吐息を溢しながら甘えるような声で話す。普段よりずっと甘えた声で何処か強請るように話す恭平は、何時もよりずっと子供のようで自分にだけ甘えているようにも感じてしまう。
「なぁ、じんせ?…………へいき、だった、ろ?お前がいて、…………見ててくれるなら。」
「……うん…………。」
本当ならこれだけで証明できることではないのだけれど、自分の傍にいて自分のことを見ていてくれたらいいと言ってくれた言葉をまた繰り返されるのに、仁聖はそれが自分を安心させるためだけでなくて恭平自身にも言っていたのだと気がついてしまう。たった一度の検査で何もかもが問題ない事にはならないのは当然恭平だってわかっているけれど、少なくとも恭平が今すぐどうにかなるような病気ではないのはお互いに理解できた。それでも意識を失うような事は自分では分からないから、一緒にいる仁聖がそれに関してはこれからも見ていてくれると恭平だって安心もする。そういう風に誰かに守られて過ごせるのだと教えてくれたのは、仁聖がこうして自分の傍にいると分かっているからだ。
「仁聖、愛してる…………。」
スリ……と肌を寄せて擦らせながら耳元で囁く恭平の仕草に、仁聖は思わず頬を緩めて幸せそうに微笑みかけてしまう。大切に感じてくれるからこうして宝物のように抱き締めて、自分を傍においてくれるのだと伝えてくれるし、こうして傍にいてくれたら大丈夫だったろと必死に教えてもくれる。
「うん…………愛してるよ、恭平。」
そう答える言葉にボォッと頬を薔薇色に染めて恭平が見つめてくるのに、仁聖は少し戸惑いながらなに?と微笑んで問いかける。何でもないと甘えながらピッタリ肌を合わせている恭平の中には、まだ自分が包み込まれていて仁聖は一瞬抜きかけて身体を止めた。
「じん、せぇ?」
少し腰を動かした振動が響くのか、快感に甘く蕩けた声が仁聖の名前を囁く。抱き締めながら今更だけど仁聖だってこんなことに雪崩れ込んだ恭平の感情が気になるのは事実だし、実をいうと恭平が仁聖が帰ってくる前に所謂事前の準備を整えていたような気がしなくもない。そうでなければ恭平の華奢な身体は、前戯もなく仁聖の怒張を一度に深々と根本までのみこめるはずがないのだから。そう、つまりは仁聖がこうして家に帰って来る前に、少なくとも恭平はこのための支度をしていたのかとこの状況で気がついてしまう。
自分のことを考えて、自分を欲しがって…………
それが何処と無く自分が我慢できずにしてしまった自慰が、発端のような気もしなくもないのだ。それを思うと恥ずかしい反面嬉しくもなってしまうのに、思わず仁聖は恭平のことを強く引き寄せて抱き締め返してしまう。
「じんせ?」
「…………も、…………一回…………。」
「んん?」
可愛い声をあげて少しだけ驚いたように目を丸くした恭平に、仁聖はソッと耳元で強請るような低く響く甘い声でもう一回だけしたいと囁きかけていた。
※※※
次第に日の暮れる早さを感じ始める夕暮れ時の『茶樹』には最近の定番の顔ぶれが集まっている事が増えた。近郊の高校でもある都立第三高校の三年一組の面々の中で一際人懐っこい宮井麻希子を中心に、交友関係が広がっていて入れ替わりはするもののわりと客足が多い。
「了さん、最近のヒットは?」
「最近かぁ……。」
春先の宮井麻希子誘拐騒動の後で当人と知り合った外崎了は麻希子とは料理を通じてLINE友達を続けているし、藤咲の事務所で芸能活動している五十嵐海翔の方も了の卒業した文学部狙いということで交流が始まっている。麻希子が懐くと『好い人認定』という暗黙の了解に従って、懐かれている了は同級生からも好いお兄さん扱いになっていなくもない。
「了さん!これ選択しといた方がいいかなぁ?」
「んー、どうかな、それよりはこっちかなぁ。」
質問されまくっているのは高校の冬講習の話で、センター試験前の追い込みがあるのに選択科目を厳選したい五十嵐海翔と若瀬透が了に前のめりで迫っている。久保田惣一は苦笑いしながら喫茶店でする会話じゃないなぁ塾でも開いたらなんて了に笑っているけれども、営業妨害とは感じていない風だ。というのも以前からこの近郊では夕暮れ時間時以降は微妙に客足が落ちる傾向にあって、これから夕方の六時頃までは社会人の客足も途絶えているので午前のアイドルタイム並みになるのだという。そこを埋めてもらえるのとオマケにお気に入りの宮井麻希子を眺めていられるのも楽しい模様で、キッチンの鈴徳良二なんか個人的にポケットマネーを使ってまで麻希子にサービスをする有り様だ。というのもどうも宮井麻希子という人間は少し箍の外れた人間を惹き付ける特殊能力を持っていて、彼氏の宇野智雪を初めとして『茶樹』の突拍子もない面々の断トツのアイドルでもある。確かにクルクルまん丸の円らな瞳に、ニコニコ笑顔で、細々と動き回る姿は小動物のようで見ていて飽きない。
「癒されますねぇ。」
「惣一さん、子供産まれたら仕事場でも家でも癒されまくりだねー。」
了にそう言われて、ですよね!!と食い気味に答える惣一には、最近では嫌味というか皮肉が通じないのはいうまでもない。どうやら久保田松理の体内の第一子は、悪阻が落ち着いてからというものの元気一杯に胎動を初めていて、
流石だと思いませんか!声をかけると返事をするんですよ!
と大興奮の連絡をして来たくらいなのだ。昔は常に冷静沈着でピクリとも笑いもしないので氷の男だったんだけどねーと、カフェ・ナインスの宮直行が話していたのが嘘としか思えない。最近の惣一は更にデレ感が増して、『茶樹』がたまにスタッフ任せで経営していることもあるくらいだ。
「ハムちゃんが大学で栄養士になった後にここに勤めたらいいんだよ、即店長。」
「えええ?!そんなの無理ですよ!ここ立地良過ぎだし、お客さんも沢山ですもん。」
「麻希子ならやれそう。っていうか、文化祭のカフェメニュー鈴徳さん考案の凄かった!!」
どうやら先月末の高校の文化祭で彼らはカフェをやったらしいのだが、そのメニューの一つにホットサンドを提案したのが『茶樹』の調理担当・鈴徳で、軽食からデザートまでを網羅する事の出来たホットサンドは途轍もない好評だった模様なのだ。
「やっぱり初日と二日目のメニューが変わるのは斬新でしたね!」
「二日目の桃のコンポートのホットサンド神旨だった!!」
パンは変わらなくとも挟む具だけでバリエーションが作れるし温度対応も可能で、初日は肌寒かったが二日目は暑くなったからとバニラアイスを挟んだホットサンドなんてものが産まれたらしい。熱いのと冷たいのに嵌まって、一人で何個も食べた人間もいるとかいないとか。そんな楽しげな高校生との交流の場に表だったコンサル業の顔合わせ帰りに迎えに来たと外崎宏太と結城晴が珍しいスーツ姿で合流したのに、鳥飼信哉の弟でもある真見塚孝が振り返って目を丸くする。
「凄い貫禄ですね、外崎さん。」
「あ?真見塚の坊主か。」
暫く前に抜刀術で顔を会わせてから、時折ここで話したりする関係にもなった宏太のスーツ姿に、孝と香坂智美という宇野そっくりの顔立ちの青年が加わる。香坂は実は宇野の親戚で子供の頃の交通事故のせいで宏太と同じく杖を使って生活している事と、性格がどうも宏太と似ているらしくて話が合うのだ。
「外崎さん、起業するのに必要な技能ってなんだと思う?」
「あ?そんなん聞くだけ無駄だろ。」
「やっぱりそう言うと思ったんだよね、ほらみろ、透。」
香坂は異様に記憶力が良く頭の切れる人間らしく大学に通うつもりはあるらしいが、どうやら今の時点で何か起業を企んでいるらしい。それに巻き込まれつつあるのが若瀬クリニックの息子の透なのだが、香坂と何かするのには透の方も満更ではない様子なのだ。
「いや、本当に宏太も丸くなったなぁ。」
「あ?」
高校生の口撃から逃れてカウンターに座った宏太に、そんなことを染々という惣一が先んじて珈琲のくゆるカップを差し出す。晴の方は了と一緒に今後の面接の話題で高校生の勢いに巻き込まれているのが、賑やかな喧騒から背中で宏太も感じとれている。
そうして真っ先に帰ってきた仁聖の足音を効いた瞬間無意識に立ち上がっていたし、リビングで落ち着いて話すつもりだったのも仁聖の姿を見ただけで頭から弾けとんでいた。息を上げ駆け込んできた仁聖は、頬を染めながら潤んだ青味がかった瞳で自分を真っ直ぐに見つめる。その姿に一瞬で落ち着いて話をすることを放棄しまっていたし、手を伸ばし腕をとって指先にふれた滑らかで熱い肌の感触に傍に引き寄せるだけで満足なんかできなかった。
今すぐ抱き締めて自分のものにしてしまいたい
そんな欲望に自分がこんなにも駆られているなんて仁聖に上手く説明もできないし、今の恭平は説明する必要も感じていない。しかも欲望のままに仁聖をベットに座らせて膝に乗ったはいいが、抱き付いて間近に顔を見たら尚更のこと恭平には我慢が効かなくなっていた。
まるで…………
不安げに揺れていてそれでも自分のことを思って必死に見つめる視線は、あの時の眉を寄せて目を閉じていた淫らな姿を思わせてあの悩ましい面影が脳裏に過ってしまう。そんな風にそれを思い出してしまったらもう一度その姿が間近で見たいのと、あんな風に想像で自慰なんかなくともいいじゃないかと思う気持ちが膨れ上がるのを感じてしまったのだ。そして恭平がそれに身を任せてしまったから、何時になく意地悪なことを口にして、自分から仁聖に跨がりユルユルと快楽に煽られて腰を動かし続けてもいる。
「仁聖…………?い、ぃ?ん……っ、んっ!」
教えてと強請るように囁きかけると、声を堪えようとする仁聖が視界に見える。その仕草が逆に気持ちいいのだと示しているのに、恭平はウットリと見とれながら更に腰を動かしていく。
普段とは逆にもっと声を出して、もっと感じてと囁きかけている甘い恭平の声。それに尚更頬を染めて仁聖は声を押さえ込もうと眉を寄せるけれど、その顔はなおのことあの時の切な気な顔に重なるのだ。抱き付くように覆い被さって腰を振り立てるなんて酷くはしたない行動だとは分かっているけれど、目の前の仁聖の表情に魅せられて欲望に駆り立てられていく。
あぁ、すごい…………こんな、顔して…………
更に激しくグチュグチュと快感に濡れて自らが立てる淫らな音の下で、眉をしかめて喘ぐのを堪えようとしている仁聖がいつになく自分のなすがままなのが可愛くてしかたがない。何時もなら仁聖の腕に組み敷かれて、仁聖のペースで愛撫されて、深く強く貫かれて喘がされていくのだ。それが今は自分が仁聖を快楽に押し上げて、自分が仁聖を喘がせているのだと思うと目眩がしそうな程の興奮に飲まれていく。その興奮にキュゥとしめつける肉襞に絡めとられて、昇り詰めようとする仁聖の身体がガクガクと快感に痙攣する。
「んんっ!だ、めっ!そ、ん、っんんんっ!き、つ……っ!あっ!」
震えながら快感に堪える仁聖にもっと自分に溺れて欲しくて、恭平は腰を深く押し付けて奥まで飲み込み最奥でその亀頭を体内で擦りたてて味わう。一度達して敏感になった先端を擦られ絞り上げられて、真っ赤になりながら達しないように必死に堪える仁聖に胸の奥が熱くジンジンして堪らなくなる。そして喘ぎながら自分が腰をくねらせ散々に仁聖を責め立てているのも分かっているけれど、どうしても止めることができないでいる恭平の息が次第に上がっていく。
「あ、んんっ、じ、んせ、んんっ!い、?んっんん、っあ!」
「あぅっ!!うぅっきょ、うへ、駄目っもっ!いっちゃぅっ!!!」
熱っぽい甘い声で喘ぎ全身を強ばらせる仁聖に、恭平自身も縋りついて抱き締めて腰を深く押し付けて。奥底に膨れ上がる仁聖の怒張を直に感じとる恭平の薔薇色に蕩けた頬が何時にもまして艶かしくて、堪えきれずに二度目の射精を仁聖が吹き出してしまったのは仕方がない。
「ふぅ…………んんっ……あぁ……っ。で、てる…………っ……。」
甘く蕩けた声でそう呟き同時に勢い良く中に注ぎ込まれる感覚に、ブルリと全身を震わせた恭平の身体から力が抜け落ちていく。怒張を迎え入れて吸い付くような体内に全てを吐き出してしまった仁聖に、上から抱き付いたままの恭平が潤んだ瞳を向けてくる。それに快感に酩酊しかけた頭でこれは一体何が起きたのかとも考えながら仁聖が瞳を見つめ返すと、恭平の瞳がフワリと熱っぽいままに緩んで柔らかな微笑みが浮かぶ。そして次の瞬間には柔らかな甘い微笑みと共に恭平が、仁聖の頬をソッと両手で包み込んで甘い口づけを落としてくるのだ。
「きょう、へぇ…………。」
チュと柔らかな甘い音を立て何度もて口づけられ、その後も頬や額を擦るようにして顔を寄せてくる恭平は何時になく甘く柔らかい吐息を溢しながら甘えるような声で話す。普段よりずっと甘えた声で何処か強請るように話す恭平は、何時もよりずっと子供のようで自分にだけ甘えているようにも感じてしまう。
「なぁ、じんせ?…………へいき、だった、ろ?お前がいて、…………見ててくれるなら。」
「……うん…………。」
本当ならこれだけで証明できることではないのだけれど、自分の傍にいて自分のことを見ていてくれたらいいと言ってくれた言葉をまた繰り返されるのに、仁聖はそれが自分を安心させるためだけでなくて恭平自身にも言っていたのだと気がついてしまう。たった一度の検査で何もかもが問題ない事にはならないのは当然恭平だってわかっているけれど、少なくとも恭平が今すぐどうにかなるような病気ではないのはお互いに理解できた。それでも意識を失うような事は自分では分からないから、一緒にいる仁聖がそれに関してはこれからも見ていてくれると恭平だって安心もする。そういう風に誰かに守られて過ごせるのだと教えてくれたのは、仁聖がこうして自分の傍にいると分かっているからだ。
「仁聖、愛してる…………。」
スリ……と肌を寄せて擦らせながら耳元で囁く恭平の仕草に、仁聖は思わず頬を緩めて幸せそうに微笑みかけてしまう。大切に感じてくれるからこうして宝物のように抱き締めて、自分を傍においてくれるのだと伝えてくれるし、こうして傍にいてくれたら大丈夫だったろと必死に教えてもくれる。
「うん…………愛してるよ、恭平。」
そう答える言葉にボォッと頬を薔薇色に染めて恭平が見つめてくるのに、仁聖は少し戸惑いながらなに?と微笑んで問いかける。何でもないと甘えながらピッタリ肌を合わせている恭平の中には、まだ自分が包み込まれていて仁聖は一瞬抜きかけて身体を止めた。
「じん、せぇ?」
少し腰を動かした振動が響くのか、快感に甘く蕩けた声が仁聖の名前を囁く。抱き締めながら今更だけど仁聖だってこんなことに雪崩れ込んだ恭平の感情が気になるのは事実だし、実をいうと恭平が仁聖が帰ってくる前に所謂事前の準備を整えていたような気がしなくもない。そうでなければ恭平の華奢な身体は、前戯もなく仁聖の怒張を一度に深々と根本までのみこめるはずがないのだから。そう、つまりは仁聖がこうして家に帰って来る前に、少なくとも恭平はこのための支度をしていたのかとこの状況で気がついてしまう。
自分のことを考えて、自分を欲しがって…………
それが何処と無く自分が我慢できずにしてしまった自慰が、発端のような気もしなくもないのだ。それを思うと恥ずかしい反面嬉しくもなってしまうのに、思わず仁聖は恭平のことを強く引き寄せて抱き締め返してしまう。
「じんせ?」
「…………も、…………一回…………。」
「んん?」
可愛い声をあげて少しだけ驚いたように目を丸くした恭平に、仁聖はソッと耳元で強請るような低く響く甘い声でもう一回だけしたいと囁きかけていた。
※※※
次第に日の暮れる早さを感じ始める夕暮れ時の『茶樹』には最近の定番の顔ぶれが集まっている事が増えた。近郊の高校でもある都立第三高校の三年一組の面々の中で一際人懐っこい宮井麻希子を中心に、交友関係が広がっていて入れ替わりはするもののわりと客足が多い。
「了さん、最近のヒットは?」
「最近かぁ……。」
春先の宮井麻希子誘拐騒動の後で当人と知り合った外崎了は麻希子とは料理を通じてLINE友達を続けているし、藤咲の事務所で芸能活動している五十嵐海翔の方も了の卒業した文学部狙いということで交流が始まっている。麻希子が懐くと『好い人認定』という暗黙の了解に従って、懐かれている了は同級生からも好いお兄さん扱いになっていなくもない。
「了さん!これ選択しといた方がいいかなぁ?」
「んー、どうかな、それよりはこっちかなぁ。」
質問されまくっているのは高校の冬講習の話で、センター試験前の追い込みがあるのに選択科目を厳選したい五十嵐海翔と若瀬透が了に前のめりで迫っている。久保田惣一は苦笑いしながら喫茶店でする会話じゃないなぁ塾でも開いたらなんて了に笑っているけれども、営業妨害とは感じていない風だ。というのも以前からこの近郊では夕暮れ時間時以降は微妙に客足が落ちる傾向にあって、これから夕方の六時頃までは社会人の客足も途絶えているので午前のアイドルタイム並みになるのだという。そこを埋めてもらえるのとオマケにお気に入りの宮井麻希子を眺めていられるのも楽しい模様で、キッチンの鈴徳良二なんか個人的にポケットマネーを使ってまで麻希子にサービスをする有り様だ。というのもどうも宮井麻希子という人間は少し箍の外れた人間を惹き付ける特殊能力を持っていて、彼氏の宇野智雪を初めとして『茶樹』の突拍子もない面々の断トツのアイドルでもある。確かにクルクルまん丸の円らな瞳に、ニコニコ笑顔で、細々と動き回る姿は小動物のようで見ていて飽きない。
「癒されますねぇ。」
「惣一さん、子供産まれたら仕事場でも家でも癒されまくりだねー。」
了にそう言われて、ですよね!!と食い気味に答える惣一には、最近では嫌味というか皮肉が通じないのはいうまでもない。どうやら久保田松理の体内の第一子は、悪阻が落ち着いてからというものの元気一杯に胎動を初めていて、
流石だと思いませんか!声をかけると返事をするんですよ!
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「ハムちゃんが大学で栄養士になった後にここに勤めたらいいんだよ、即店長。」
「えええ?!そんなの無理ですよ!ここ立地良過ぎだし、お客さんも沢山ですもん。」
「麻希子ならやれそう。っていうか、文化祭のカフェメニュー鈴徳さん考案の凄かった!!」
どうやら先月末の高校の文化祭で彼らはカフェをやったらしいのだが、そのメニューの一つにホットサンドを提案したのが『茶樹』の調理担当・鈴徳で、軽食からデザートまでを網羅する事の出来たホットサンドは途轍もない好評だった模様なのだ。
「やっぱり初日と二日目のメニューが変わるのは斬新でしたね!」
「二日目の桃のコンポートのホットサンド神旨だった!!」
パンは変わらなくとも挟む具だけでバリエーションが作れるし温度対応も可能で、初日は肌寒かったが二日目は暑くなったからとバニラアイスを挟んだホットサンドなんてものが産まれたらしい。熱いのと冷たいのに嵌まって、一人で何個も食べた人間もいるとかいないとか。そんな楽しげな高校生との交流の場に表だったコンサル業の顔合わせ帰りに迎えに来たと外崎宏太と結城晴が珍しいスーツ姿で合流したのに、鳥飼信哉の弟でもある真見塚孝が振り返って目を丸くする。
「凄い貫禄ですね、外崎さん。」
「あ?真見塚の坊主か。」
暫く前に抜刀術で顔を会わせてから、時折ここで話したりする関係にもなった宏太のスーツ姿に、孝と香坂智美という宇野そっくりの顔立ちの青年が加わる。香坂は実は宇野の親戚で子供の頃の交通事故のせいで宏太と同じく杖を使って生活している事と、性格がどうも宏太と似ているらしくて話が合うのだ。
「外崎さん、起業するのに必要な技能ってなんだと思う?」
「あ?そんなん聞くだけ無駄だろ。」
「やっぱりそう言うと思ったんだよね、ほらみろ、透。」
香坂は異様に記憶力が良く頭の切れる人間らしく大学に通うつもりはあるらしいが、どうやら今の時点で何か起業を企んでいるらしい。それに巻き込まれつつあるのが若瀬クリニックの息子の透なのだが、香坂と何かするのには透の方も満更ではない様子なのだ。
「いや、本当に宏太も丸くなったなぁ。」
「あ?」
高校生の口撃から逃れてカウンターに座った宏太に、そんなことを染々という惣一が先んじて珈琲のくゆるカップを差し出す。晴の方は了と一緒に今後の面接の話題で高校生の勢いに巻き込まれているのが、賑やかな喧騒から背中で宏太も感じとれている。
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