鮮明な月

文字の大きさ
上 下
385 / 693
第十六章 FlashBack2

229.

しおりを挟む
待てができる、イイ子なんで。

そう自分にも重々に言い聞かせることにはしたけれど、ヤッパリどう考えてもあのシチュエーションは勿体ない千載一遇のチャンスだったと源川仁聖は思わず頭を抱えてしまう。あの榊恭平との自宅での『一緒にお風呂』自体がレアケースな上に、しかもさっきは恭平から入ってきてくれて、なんと恭平が自分から跨がって。

そんなの…………去年の大掃除の後くらい…………でもあれだって強請って御褒美だし!

勿論ドライブ旅行の時には一緒のお風呂を堪能したしお風呂場での官能的で淫らなセックスまで至っているけれど、自宅でのとはまた違う。しかも何より自分から来てくれたのだし、と思わず悶絶しそうになるのは普段よりも恭平がガードも緩かったせいに違いない。
この手に触れた滑らかなしっとりとした肌の感触も尖ってコリコリとした乳首の指に触れた固さも、思い出したらあっという間に仁聖の股間が熱く硬くなるのは言う迄もない。指でなぞるだけでなく固い乳首を舐めたり吸ったりなんて妄想が意図せずとも浮かぶのは、普段なら迷わずそうしていたからでその感触も甘く感じる肌の味も、鮮明に仁聖の中に刻み込まれていて。

ヤバい…………完全に……立つ…………

ここにきて今は家にちゃんと独りになれる自室があって良かったと仁聖が染々と思うのは、その鮮やかに浮かぶ肢体を淫らに濡らす妄想をそのまま先までしてしまうからだ。
当然現実の恭平はほんの数部屋向こうにいるけれど、今の恭平に負担をかけるような事ができないと思う仁聖は大人しくイイ子で検査の結果を待ちますと宣言してしまった。恭平の身体に性行為がどれくらい負担なのかはわからないが、時にやり過ぎて恭平を失神させてしまうこともある仁聖との性行為が負担でないとは確実に言えない。こういうのは一体誰に聞けばいいのかとは思うが、それこそ検査の結果云々ではなくて失神するまで相手を責め立てるのは最初から良くないと思う。

それでも…………色っぽかった…………

湯に揺らめく光を反射しながら、自分の太ももの辺りを跨ぐ恭平の裸体。上半身は湯に浸かりホンノリと薔薇色に染まっていて腰から下は湯に浸かっていたけれど、湯の中で立ち上がり始めた恭平の肉茎は扇情的に薔薇色に近い。

しなやかな身体を表すような滑らかな亀頭に茎は少し色を落として…ヤバい………エロい…………

思わず舌で舐め回してねぶり吸い立ててしまいたくなる恭平の色っぽいあの先端を思い浮かべてしまうと、自分の陰茎が一気に脈打つのがわかる。ツルンと滑らかで綺麗な恭平の陰茎の舐め回して、乳首を指で転がしながら時に吸い上げて甘く噛む、それに反応してヒクヒクと震える脚を抱えあげて…………妄想に痛いほどに硬くなって股間で主張する自分の欲望に、仁聖は馬鹿と怒鳴り付けたい気分になる。恭平が不安なのに自分を優先して心配してくれているのはわかっているのに、若さなのかこんなにも簡単に欲望は押さえれないほどに膨らんで。

あぁ…………駄目……も、……我慢…………きかない…………。

正直な話しをすると、余り仁聖は自慰の経験が少ない。と言うのも自慢ではないが仁聖は、初体験が平均よりかなり早かったのと余り現実の性行為では相手に困ることがない人間だったから。つまり自慰をする余地をもたなかったと言ったら嫌味だと思われるだろうか。当然全くないわけではないし、恭平のことを妄想したことだって何度もある。それでも少なくとも恭平に触れるまでは自由奔放に性行為はしていたのは事実で、こんなに一心に尽くして身持ちが固く変わったのは恭平と結ばれて以降なのだ。そう言う意味では以前と比較して性行為自体はかなり減っていて、それを言うと自分がどんだけ盛っていたのかとは自分だって思う。だけど実質今になれば良く分かるが仁聖は恭平意外とセックスしても何一つ満足感がなかったわけで、それが絶倫とか言われてセックスしても全く満足出来ずに満たされなかった理由でもあって。

でも、恭平とは満たされて幸せな気持ちになれるし、恭平は特別なわけで

言い訳がましいが結局は恭平と抱き合えるのは、仁聖にとって何よりも満たされるし気持ちいい。それが分かっていて今はこうして恭平に触れたいのに触れられない、しかも風呂場であんな風に一瞬とは言え肌に触れて反応した恭平の甘い声を聴いてしまってもいる。

こうなったら…………どうしようもない…………

既にガチガチに硬く張り詰めてしまった怒張を空気に晒して、そっといけないことをしているという背徳勘に苛まれながらも指を絡めて握りしめる。その頭の中では既に薔薇色に肌を染めて甘い香りを漂わせながら潤んだ瞳で期待に震える恭平の淫らな姿が浮かび、頭の中でオズオズと脚を広げて仁聖の怒張を強請る声を放つのを妄想していた。



※※※



風呂の後少し頭を冷やしてくるしレポート書いてくるからと萎れて自室に引っ込む仁聖の背中を見送ってから数時間。別にあのまま触れても良かったのにとは思うけれど、仁聖なりに検査の結果が出て事と次第がハッキリするまでとケジメをつけたかったのだろうとも思う。

そう言うところは頑固だもんな……仁聖も。

二人で暮らし始めてからの生活費の事とか、仕事に支障のない生活とか一度言ったら仁聖が引かない事はもう分かっている。イイ子にするは交際を始める前からの仁聖の約束事の定番の口癖で、以前は頻回に口に出てくる文言だった。

俺!イイ子にするから、遊びにきてイイ?!

この家に遊びに来たいと瞳をキラキラさせてそう言いだしたのが、一番記憶の中では古い仁聖の『イイ子にする』だ。何でこの家に遊びに来たいのか訳が分からなくて恭平はポカンとしたものだが、来たらイイ子にするからと母である榊美弥子にも強請る仁聖の姿に納得した記憶がある。

そうか、叔父さんと二人暮らしだから、母親とか兄弟が欲しいのか。

そうあの時は納得して、遊びにきては自分におぶさったり抱っこをせがんだり、構ってとアピールする仁聖に兄が欲しかったんだなぁと絆されたのだと微笑んでしまう。

ね、イイ子にしてたから、恭平の膝に座ってイイ?

オズオズとそう言う仁聖の上目遣いの顔を思い出して、あの頃のイイ子にしてるは遊びに来た筈の家で大人しく恭平が勉強を終わらせるのを待つことだったと思い出してしまう。遊びに来た家で大人しく待つなんて本末転倒だけど、仁聖は確かに一時間くらいじっと大人しく待っていて恭平が構ってくれるのをじっと待っていた。それは美弥子が居ようと居なかろうと関係なくなって、そして美弥子が亡くなった後もずっと変わらなかったのだ。

全く…………

そう言うところで妙に我慢してしまうのは、相変わらずだと苦笑してしまう。それでも検査の結果を知って対応が可能になれば、最近では意味合いの変わったイイ子にするの御褒美を強請られることになると思うと少しだけ落ち着かない。何しろ自分の方は本当はあのまま触れてもいいと心の中ではどこか思っていて、焦らされているのはお互い様なのもちゃんと知っているのだ。

…………後何日か……だもんな…………

少なくとも検査の結果が出るまで。そう考え直した恭平は先に休むからと仁聖に声をかけようとして、何故か思わず立ち止まったのは勘というか気配というか。ドアをノックしようとして歩み寄ったら、ほんの少し閉まりの甘かったドアが音もなく僅かに隙間を作ったのは本当に偶然の悪戯だ。しかもその中で仁聖が何をしているか分かってしまうのは、自分も仁聖もヤッパリ男だからで。

「……っふ………………っ………………。」

微かな甘く官能的な吐息。普段よりも圧し殺して堪えるようにしながらも熱く荒く喘ぐように放たれている矢継ぎ早な吐息に、重なる微かな湿った粘着性のある擦り立てている音。それが何なのか位男でなくても恐らく簡単に理解できるけれど、手を伸ばしかけた恭平が凍りつくには充分なものだった。

「ん………………っ………………。」

ほんの薄く開く扉の隙間から、覗くのは駄目だと理解していても瞳に映る。ベットのヘッドボードに枕を当てて上半身を起こし、見事に割れた腹筋を露にするように捲り上げた服の裾を声を押さえるためにだろう唇に挟む仁聖の悩ましい表情。眉を寄せて瞳を閉じ荒く吐息を吐きながら、ボトムの合間から抜き出し見事に立ち上がった陰茎に指を絡め、ユックリと扱きあげる手つき。

「んん…………っ、ふっ、……っ。」

艶かしくて、酷く淫らで。ヌチヌチと湿った音を立てて淫らに先走りの汁で滑り光る見事な仁聖の怒張を、こんな風に端からみるなんて初めてなのに気がつく。恭平にしてみたら普段なら何時も快感に溺れそうになっていて蕩けた頭で見ているものを、こんなに突きつけるように冷静に目にしたことがないのだ。

な、…………に、……何で…………

何でではないし、あの時仁聖が必死に我慢したのも分かっているから、それが独りで自慰になったのも理解できる。でも、男としては理解している反面理解できなくもあって、そんなに我慢するくらいなら触れてもいいのになんて考えもしていた。それでもその姿にこうしてマザマザと魅せられてしまうのは、それが何を妄想して自慰に耽る姿なのか恭平にだってもう分かっているからだ。

「ん、…………ふっ………、…………っ…きょ……………ぅへ…………。」

仁聖が欲情して自慰に耽る相手が自分だと理解していて、しかもこんなに艶かしく淫らな姿を見せつけられて頬が熱くなるのは仕方がない。一番最初に仁聖が自分に触れる切っ掛けになったのは恭平の自慰だったけれど、二人で暮らし初めてから互いに大概一緒に眠っていて一緒に過ごしているけれどこんな姿をみたこともなかった。

誰か他人の自慰なんてと思うだろうけど、正直これは反則過ぎる

愛していると自覚しているからこそ、それに相手も自分を思ってくれていると知っているからこそ、こんな光景は狡いと心の中で呟く。

「んんっ…………っっ!!」

ビクリと跳ねるように怒張が震えて仁聖が荒い吐息を一瞬詰めたのに気がついた恭平は、我にかえって咄嗟に培った合気道の賜物なのか足音を立てずに踵を返していた。



※※※



自らの手の中に吐き出した欲望の証しに荒い吐息を吐きながら、仁聖は妄想で達してみたけれど結果としての自分の過ちに気がついてゲンナリする。考えてみれば容易いことなのにこれに気がつかない自分は、結局自慰なんて無駄なことに時間を費やしてみただけ。

馬鹿…………俺の馬鹿…………

そうなのだ、自分でさっき分かっていると考えていた。自分で恭平でしか満足しないし満たされないのだと自覚していたと思ったし、それは事実。つまり他の誰でも恭平の変わりにはならないし、仁聖を幸せにも満たすことも出来ない。

それって自分もだろ?…………何やってんだ。

他人の肉体でも駄目なのに、何で自慰で満足出来るんだと頭が痛くなりそうになる。妄想の中で我慢できるくらいなら、恭平が自慰をしているのを目に焼き付けておけば満足してずっと密かに妄想で生きられた筈だ。そうできないのは仁聖には恭平しかいないからで、射精できても何も満たされていない。ただ一瞬の絶頂の心地よさと手の中の不快な精液の感触に、思わず仁聖は項垂れてしまう。

こんなんだったら、一週間禁欲の方がまし…………馬鹿か俺。

仕方がないと手早くティッシュを引き寄せ後始末をして、さっとシャワーを浴びて頭を冷やそうと逸物をしまって立ち上がろうとした仁聖は視線の先に凍りついてしまっていた。視線の先でうっすらと自室のドアが開いていて、廊下の暗闇が細い柱のように見えていてザッと背筋が冷えてしまうのを感じる。

や。待って、俺閉めたよね?いや、えっと

仁聖が混乱して凍りつくのは自分がしていた事を知られてしまったらと思うからで、その暗闇になっている廊下の先には恭平の書斎があって部屋にはいった後にドア越しに廊下を歩く音がしていて。そこまで考えてヤッパリちゃんと部屋にはいる時に、自分でドアは閉めていたと気がついてしまう。まさかと思いながらもソロリと思わず歩み寄ってドアを押し開けるが、視線の先には人の動く気配はなくて人気はない。

………………ドア……何時から……開いてた?ヤバい…………恥ずかしい……

ソロソロと恐る恐る廊下の先を覗くけれど、書斎のドアは沈黙していて書斎にいれば漏れる電気の灯りもない。いつの間にか移動していたのにも驚くが、一応はイソイソと手を洗って音を立てないように寝室の扉を押し開く。そこには何時もと同じ側に自分の潜り込む余地を残して身を寄せて眠っている恭平の身体が見えていて、思わずホッと仁聖は息をついてしまっていた。

多分、恭平がドアを開けたりしたから、かな。

マンションのような気密性の高い建物だと、他の部屋のドアを開閉することで気圧の変化が生じて他の部屋のドアが開くことがある。リビングのドアを開け閉めした時に、偶然仁聖の部屋のドアが開いてしまったのかもしれない。そう思うことにして仁聖はヤッパリ一度シャワーを浴びてから、隣に潜り込もうと気を取り直したのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...