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第十六章 FlashBack2
227.
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「ああ?」
思わず言われたことの意味が分からなくて外崎宏太は、何時にないそんな声をあげていた。外崎邸の広いリビングには当然宏太と外崎了に、仕事が終わった結城晴と来訪してきた源川仁聖がいる。そして宏太が何時にない珍妙な反応をする羽目になったのは、訪れた仁聖が夕方に突然開口一番外崎さん一体あの人に何やったんですかと問い詰めに来たからだ。
仁聖の言うあの人とは、言うまでもなく金子美乃利のこと。
問い詰められている方の宏太が唖然としているのは改めて言うまでもないのだが、仁聖がワザワザ問い詰めに迄来たのは、昼間に金子美乃利は爽やかな初冬の木漏れ日溢れるキャンパスで仁聖や佐久間翔悟にはもう絡む必要がないから止めると宣言した。しかもその宣言をした上で、美乃利は外崎に会いたいから紹介してと言い出したのだ。
「…………何で?宏太に会いたいって?」
事の次第を聞いて何故か冷ややかな空気を全身から放っている了の声に、晴が腹を抱えて笑いだしたのを聞きながらも未だに意味が分からずに呆気にとられているのは宏太の方も同様だ。逆に何でと問い返されたのだが、正直言うと仁聖にもその理由は今一ハッキリとしていない。何しろあの急激な様相の変化についていけないのに、今迄とは全く別人のような美乃利が会いたいの!と頬を染めて仁聖に言うのだ。
「知らないけど、何やったの?王子様だとかワケわかんないこと言ってたよ?」
「ぶはっしゃちょーが?!」
「笑うな、クソガキ。」
どう考えても何か起きたのだとしか思えないが、美乃利はお願い紹介して、もう一度会いたいのを繰り返し続けてきたわけで。それが何を理由にしているか分からないから、何をしたのと仁聖だって問い詰めに来た訳で。
「何もしてねぇし徳田を排除しただけだって、聞いてただろ?了。あ、おい、了!」
そう必死になって宏太は了に声をかけているが、不機嫌そうに了が身を翻してキッチンに向かったのに慌てて宏太が立ち上がって追いかけていく。その様子にすら笑いが止まらない晴が何とか事の次第を説明するには、昨夜金子美乃利と徳田高徳の密談があるのをキャッチしたということで、先にこっちを潰そうと宏太が動いたらしいのだ(何で密談をキャッチできたのと問いかけたいが、そこは企業秘密だよーと晴には呑気に答えられてしまった)。
居酒屋伊呂波の個室で徳田との密談を始める前に、宏太は美乃利に密かに接触し、徳田を排除(当然みたいに何時も一緒にいるから徳田は学部の人間かと思っていたが、実は外部の人間だったとは仁聖も知らなかった。しかも美乃利に金を無心しているとは、男としても呆れてしまうけれど)する計画を提示したのだという。その計画を完遂するためには徳田が意図して学歴詐欺を行っている証明が欲しかったので、美乃利は盗聴器を身に付けながら徳田と対面が必要になったし、そんな状況での美乃利の身の安全のために宏太が途中で助けに入ったという事なのだという。
「いやぁ吊り橋効果ってやつだねー、Fall in Loveってやつ?」
颯爽と助けに現れた外崎宏太の姿に美乃利が恋に落ちたというのがこの場合適切な説明。結果としては個室に乱入し杖一本で徳田を押さえ込み、それから全く手を出させずに口だけで徳田を意気消沈まで追い込んだという宏太を、美乃利はずっと見つめていたということなのだろう。
女性独りで何時キレるか分からない男に詰め寄られかけていた訳だし、美乃利は数日前の徳田の口論すら止められなかった。そんな美乃利には、確かに颯爽と助けに現れた宏太が王子様に見えたのかもしれない。しかも晴曰くそういうストレスにさらされての出逢いを経験すると恋に落ちるような気分になるというが、まさにそれが美乃利に起きたということか。
「…………あの人しつこいよ?かなり。」
「だよな~、仁聖もかなりの期間、絡まれてるもんな。しゃちょーも大変だなぁ。」
「ああ?!知るか!おい、了!何で怒るんだ?!俺はなにもしてないぞ!」
どちらの言い分もある意味では、その通り。一応だが仁聖が宏太はもう結婚してるよとキャンパスでハッキリと口にしたのに、美乃利は自分の目と耳で確認するまでは諦められないからと堂々と追加で宣言していた。あの点は恐らく美乃利の以前から揺るぎがないところで、自分が納得できる迄は絶対に引けないのは元からの性格に違いない。それについては宏太の方だって高々抑え込んで男をやり込めただけだと思っているから、まさか居酒屋伊呂波での一件で金子美乃利との間に何か起こるなんて考えもしていないのだ。だから、こんなことになって了が急に怒り出しても訳が分からないから、慌てふためいて了に必死に懇願する羽目になっている。
「宏太、俺はゲストルームで暫く寝るから。」
「な、何でだ?!俺は何もしてない!」
あんな風に慌てる宏太なんて見ようとしても見られるものでもないが、まあ颯爽と現れて相手を手も足も出ないようにやり込めた姿はさぞかし男前だったに違いない。しかも困っているところに唐突に現れて、あっという間に解決して去っていくわけだからなぁと仁聖も晴も納得してしまうのだった。
※※※
話を聞いて不貞腐れたくなるのは仕方がないことなのは、あの後宏太は散々に徳田高徳をやり込めた後これで終わりと『耳』を切ってしまったからということもある。こちらで聞いていた了と晴のことは分かっているとは思うが、『耳』を切った後真っ直ぐ帰宅して来るには少しだけ時間がかかっていると思う。
大体にしてあんな短時間で女をこますなよ…………
不貞腐れながら枕を抱き締めベットの上に座り込んでいる了に、そっと近寄って傍に腰かけようとした宏太に向かって了は枕をボフンと叩きつける。気がついてないと思った訳ではないだろうが目の見えない宏太はそれに反応しきれなくて、驚いたように小さな声で了の名前を呼ぶ。
「宏太の馬鹿、一緒に寝ないって言った!」
ここは普段の寝室ではなくて客用にしてあるゲストルームのベットなのだが、了のその言動に困ったように宏太が眉をしかめる。ボフンボフンと枕で応戦する了の腕をなんとか抑え込んで、そのまま腕の中に抱き止める宏太に了は力ずくで抵抗し始めていた。
「おい、待てって、俺が何した?聞いてたろうが?」
「切った後何話したんだよ、金子の娘と。」
「話してない。そのまま伊呂波で別れたんだぞ?知りたきゃ、浅木に聞いてみろ。」
最近の宏太は自覚がないけれど、笑ったりすると格段に柔らかな笑顔になるから人目を惹いている。確かに傷跡は酷いし、サングラスを外したら義眼なのは事実だけど、肉感的な唇や歳なりには見えないしなやかな身体つきに見惚れる女は結構いるのだ。だから、こういう状況になるのは嫌なのに、宏太と来たら我先にこういう時に先陣を切ってしまう。しかも仁聖が困っているのと藤咲が心配しているのを解消してやりたいのが、自分の身の周りのゴタゴタより優先度が高いのに自分でも気がついていないのだ。
そんなの…………凄く……優しくて…………男前じゃないか…………
しかも美乃利と徳田の間の諍いを宏太が率先して止める必要だって今はない。伊呂波は浅木の店なのだから浅木真治に止めさせるのだって、浅木が久保田の部下だった過去があるのを知っていればそれなりの行動をとれるのは想像に容易い。何しろカフェ・ナインスの華奢な体躯をした宮直行ですら実際にはかなりの武闘派で、久保田の関係者はそれぞれが何かしらの防衛的な技能を身に付けているのは了だってもう知っているのだ。
「了、頼むから話を聞けって。俺は本当にあの小娘とはあの後話してない。」
そんなの言い訳しなくても分かっている。分かっているけど颯爽と音もなく現れて、さっさと悪党をやり込め、それを傘にきて恩を売ることもなく立ち去る宏太なんて。
「ばかぁ…………、そんな…………の、…………。」
こんなこと言いたくもないのに、狂いそうなくらい腹が立つ。腕をとられて抱き締められながら、こんなこと嘆くなんて女々しいと思うのに、それでもそう泣きたくなるくらい腹が立つ自分。宏太は戸惑いながら了を抱き締めて、了が何を訴えようとしているのかジッと耳を凝らしているのも分かってしまう。
「俺の……こぉた、なのにぃ…………、女引っかけてんじゃねぇ…………ばかぁ……。」
思わずそう絞り出すように訴えてしまうと、了を抱き締めていた手がふっと熱をあげたのに気がつく。腕の中から見上げるとそこには戸惑いながらも頬を染めている宏太の顔があって、宏太が了の怒りの理由を理解したのが分かる。思わずそっとその唇に自分の唇を重ねる了の腰を、宏太の熱い手が強く引き寄せて抱き上げてくるのに身を任せてしまう。
「了…………?……怒ってんじゃ…………ねぇのか?」
「ばかぁ…………、分かってんだろ…………。」
甘えるような声に変わっているのも言うまでもないし、了が美乃利のことを聞いて不機嫌になったのも宏太を自分のものだと独占したいから。晴は宏太が了のことを溺愛していて過保護にして過干渉過ぎるのを言い換えればそれってストーカーだよと言うけれど、了にしてみたら今迄の自分と今の自分では雲泥の差があるのだ。正直言えば了にしてみたら誰かに必要とされて相手のものになれる幸せを、過保護とか過干渉なんて言われても困るし、まだ足りない。本当はまだ全然足りないのだと叫びたい。
「おれの。…………こぉたは………………俺のなんだから。」
自分が宏太のモノになるのと同じくらい、宏太も自分のものだと言いたい。どんなに相手に魅力があろうが綺麗だろうが、今の宏太は他の誰にも渡したくないのは誰でもない了なのだ。
「了…………。」
「おれの、こぉたは、全部……んんっ……。」
チュと音を立てて何度も口付けながら繰り返す了の言葉に、その身体を抱き上げたままの宏太の顔が見る間に真っ赤に変わって吐息が興奮に甘くほどけていく。それを自分から強請るように更に了が口付けを繰り返していくのに、宏太の唇が緩く開いて熱い吐息を溢す。
「こぉた…………ぁ、ん…………、こぉた…………。」
ゾクリと背筋が震える感触に、引き寄せたままの腰を擦り付けるような動きが加わる。しなやかな腕を絡めて何度も口付けてくる了の細い腰をなぞる指先が、スルリと服の合間から滑り込んできて下着ごと一気に衣類を引き下ろしてしまう。空気に曝されて既に自分の固くなり始めた肉棒に熱い指先が絡み付いてくるだけで、腰から下が蕩けてしまいそうに気持ちよくてユラユラと了の腰が揺らめく。
「ん…………ふ、……こぉ………………た、んん……ん、ちゅ…………。」
滑る舌を絡めながら名前を呼ぶのに、宏太の方も興奮に吐息が上がるのを感じる。最近の宏太は了に名前を呼ばれながら求められるのに弱くて、以前よりずっと快感に体温が上がるのも早いし気持ち良さそうに吐息を溢してくるのだ。それがどんなに了にとっても愛しいかなんて言わなくても、きっと伝わってしまうに違いない。
「さとる…………、足……上げろ。」
熱っぽく囁かれる低い声に了が素直に足を広げて宏太の腰に絡ませると、尻を持ち上げるようにして宏太の腰が押し付けられるのが直に感じられる。熱くて硬い切っ先が迷うことなく了の後穴にグッと押し当てられて今にも体内を抉じ開けて奥まで捩じ込まれようとしているのに、了の身体が勝手に早くとヒクヒクとひくつき強請ってしまう。
「欲しいか?ん?」
意地悪く問いかける甘く低く響く声に絡みつけた足が腰を締め付け、入り口に押し当てられた先端に強く弱く焦れてしまう了の身体が甘く吸い付く。何も準備もしていなくても、こんなにも教え込まれてしまって、奥まで一気に宏太に捩じ込まれたいと身体が訴えている。
「こぉ、た。はや、くぅ…………。」
「了…………んんっ!」
グプッと一度に裂けそうな程に体内を拡げられて、燃えて蕩けてしまう熱が奥底に音を立てて深く打ち込まれていく。ドツンと奥を打たれた快感に一気に昇り詰めて、了の身体が宏太の腕の中で微かに痙攣しながら勢いよく蜜を吹き出してしまう。それでも宏太の腰を突き上げる動きは止むことなく、音を立てて腰を突き上げ続けていく。
「ひぁ!あぁ!ああぁっ!や、あ!!い、いくっ!」
捩じ込まれただけで一度達しただけでは許されるわけもなく、ゴチュゴチュと激しい注挿の音が了の身体を支配して捩じ込まれる熱さに悲鳴が溢れ落ちていく。太い杭のような怒張に身体を貫かれ宏太の身体にしがみつきながら喘ぐ了の唇に、宏太の肉感的な唇が甘い声で囁きかけてくる。
「お前は、俺のもんだ……了…………、いけ。ほら……っ。」
「はぅっ!あぁっ!いく、やぁ!!いっちゃ……こぉた……いくぅ!」
「可愛いな…………、本当に……ほら、もっといかせてやる…………、ん……。」
ウットリとした声でそう囁かれて、そのまま奥底にドロドロと熱い精を吹き出されるのに、了は痙攣しながら何度も激しい快感に押し上げられていく。
思わず言われたことの意味が分からなくて外崎宏太は、何時にないそんな声をあげていた。外崎邸の広いリビングには当然宏太と外崎了に、仕事が終わった結城晴と来訪してきた源川仁聖がいる。そして宏太が何時にない珍妙な反応をする羽目になったのは、訪れた仁聖が夕方に突然開口一番外崎さん一体あの人に何やったんですかと問い詰めに来たからだ。
仁聖の言うあの人とは、言うまでもなく金子美乃利のこと。
問い詰められている方の宏太が唖然としているのは改めて言うまでもないのだが、仁聖がワザワザ問い詰めに迄来たのは、昼間に金子美乃利は爽やかな初冬の木漏れ日溢れるキャンパスで仁聖や佐久間翔悟にはもう絡む必要がないから止めると宣言した。しかもその宣言をした上で、美乃利は外崎に会いたいから紹介してと言い出したのだ。
「…………何で?宏太に会いたいって?」
事の次第を聞いて何故か冷ややかな空気を全身から放っている了の声に、晴が腹を抱えて笑いだしたのを聞きながらも未だに意味が分からずに呆気にとられているのは宏太の方も同様だ。逆に何でと問い返されたのだが、正直言うと仁聖にもその理由は今一ハッキリとしていない。何しろあの急激な様相の変化についていけないのに、今迄とは全く別人のような美乃利が会いたいの!と頬を染めて仁聖に言うのだ。
「知らないけど、何やったの?王子様だとかワケわかんないこと言ってたよ?」
「ぶはっしゃちょーが?!」
「笑うな、クソガキ。」
どう考えても何か起きたのだとしか思えないが、美乃利はお願い紹介して、もう一度会いたいのを繰り返し続けてきたわけで。それが何を理由にしているか分からないから、何をしたのと仁聖だって問い詰めに来た訳で。
「何もしてねぇし徳田を排除しただけだって、聞いてただろ?了。あ、おい、了!」
そう必死になって宏太は了に声をかけているが、不機嫌そうに了が身を翻してキッチンに向かったのに慌てて宏太が立ち上がって追いかけていく。その様子にすら笑いが止まらない晴が何とか事の次第を説明するには、昨夜金子美乃利と徳田高徳の密談があるのをキャッチしたということで、先にこっちを潰そうと宏太が動いたらしいのだ(何で密談をキャッチできたのと問いかけたいが、そこは企業秘密だよーと晴には呑気に答えられてしまった)。
居酒屋伊呂波の個室で徳田との密談を始める前に、宏太は美乃利に密かに接触し、徳田を排除(当然みたいに何時も一緒にいるから徳田は学部の人間かと思っていたが、実は外部の人間だったとは仁聖も知らなかった。しかも美乃利に金を無心しているとは、男としても呆れてしまうけれど)する計画を提示したのだという。その計画を完遂するためには徳田が意図して学歴詐欺を行っている証明が欲しかったので、美乃利は盗聴器を身に付けながら徳田と対面が必要になったし、そんな状況での美乃利の身の安全のために宏太が途中で助けに入ったという事なのだという。
「いやぁ吊り橋効果ってやつだねー、Fall in Loveってやつ?」
颯爽と助けに現れた外崎宏太の姿に美乃利が恋に落ちたというのがこの場合適切な説明。結果としては個室に乱入し杖一本で徳田を押さえ込み、それから全く手を出させずに口だけで徳田を意気消沈まで追い込んだという宏太を、美乃利はずっと見つめていたということなのだろう。
女性独りで何時キレるか分からない男に詰め寄られかけていた訳だし、美乃利は数日前の徳田の口論すら止められなかった。そんな美乃利には、確かに颯爽と助けに現れた宏太が王子様に見えたのかもしれない。しかも晴曰くそういうストレスにさらされての出逢いを経験すると恋に落ちるような気分になるというが、まさにそれが美乃利に起きたということか。
「…………あの人しつこいよ?かなり。」
「だよな~、仁聖もかなりの期間、絡まれてるもんな。しゃちょーも大変だなぁ。」
「ああ?!知るか!おい、了!何で怒るんだ?!俺はなにもしてないぞ!」
どちらの言い分もある意味では、その通り。一応だが仁聖が宏太はもう結婚してるよとキャンパスでハッキリと口にしたのに、美乃利は自分の目と耳で確認するまでは諦められないからと堂々と追加で宣言していた。あの点は恐らく美乃利の以前から揺るぎがないところで、自分が納得できる迄は絶対に引けないのは元からの性格に違いない。それについては宏太の方だって高々抑え込んで男をやり込めただけだと思っているから、まさか居酒屋伊呂波での一件で金子美乃利との間に何か起こるなんて考えもしていないのだ。だから、こんなことになって了が急に怒り出しても訳が分からないから、慌てふためいて了に必死に懇願する羽目になっている。
「宏太、俺はゲストルームで暫く寝るから。」
「な、何でだ?!俺は何もしてない!」
あんな風に慌てる宏太なんて見ようとしても見られるものでもないが、まあ颯爽と現れて相手を手も足も出ないようにやり込めた姿はさぞかし男前だったに違いない。しかも困っているところに唐突に現れて、あっという間に解決して去っていくわけだからなぁと仁聖も晴も納得してしまうのだった。
※※※
話を聞いて不貞腐れたくなるのは仕方がないことなのは、あの後宏太は散々に徳田高徳をやり込めた後これで終わりと『耳』を切ってしまったからということもある。こちらで聞いていた了と晴のことは分かっているとは思うが、『耳』を切った後真っ直ぐ帰宅して来るには少しだけ時間がかかっていると思う。
大体にしてあんな短時間で女をこますなよ…………
不貞腐れながら枕を抱き締めベットの上に座り込んでいる了に、そっと近寄って傍に腰かけようとした宏太に向かって了は枕をボフンと叩きつける。気がついてないと思った訳ではないだろうが目の見えない宏太はそれに反応しきれなくて、驚いたように小さな声で了の名前を呼ぶ。
「宏太の馬鹿、一緒に寝ないって言った!」
ここは普段の寝室ではなくて客用にしてあるゲストルームのベットなのだが、了のその言動に困ったように宏太が眉をしかめる。ボフンボフンと枕で応戦する了の腕をなんとか抑え込んで、そのまま腕の中に抱き止める宏太に了は力ずくで抵抗し始めていた。
「おい、待てって、俺が何した?聞いてたろうが?」
「切った後何話したんだよ、金子の娘と。」
「話してない。そのまま伊呂波で別れたんだぞ?知りたきゃ、浅木に聞いてみろ。」
最近の宏太は自覚がないけれど、笑ったりすると格段に柔らかな笑顔になるから人目を惹いている。確かに傷跡は酷いし、サングラスを外したら義眼なのは事実だけど、肉感的な唇や歳なりには見えないしなやかな身体つきに見惚れる女は結構いるのだ。だから、こういう状況になるのは嫌なのに、宏太と来たら我先にこういう時に先陣を切ってしまう。しかも仁聖が困っているのと藤咲が心配しているのを解消してやりたいのが、自分の身の周りのゴタゴタより優先度が高いのに自分でも気がついていないのだ。
そんなの…………凄く……優しくて…………男前じゃないか…………
しかも美乃利と徳田の間の諍いを宏太が率先して止める必要だって今はない。伊呂波は浅木の店なのだから浅木真治に止めさせるのだって、浅木が久保田の部下だった過去があるのを知っていればそれなりの行動をとれるのは想像に容易い。何しろカフェ・ナインスの華奢な体躯をした宮直行ですら実際にはかなりの武闘派で、久保田の関係者はそれぞれが何かしらの防衛的な技能を身に付けているのは了だってもう知っているのだ。
「了、頼むから話を聞けって。俺は本当にあの小娘とはあの後話してない。」
そんなの言い訳しなくても分かっている。分かっているけど颯爽と音もなく現れて、さっさと悪党をやり込め、それを傘にきて恩を売ることもなく立ち去る宏太なんて。
「ばかぁ…………、そんな…………の、…………。」
こんなこと言いたくもないのに、狂いそうなくらい腹が立つ。腕をとられて抱き締められながら、こんなこと嘆くなんて女々しいと思うのに、それでもそう泣きたくなるくらい腹が立つ自分。宏太は戸惑いながら了を抱き締めて、了が何を訴えようとしているのかジッと耳を凝らしているのも分かってしまう。
「俺の……こぉた、なのにぃ…………、女引っかけてんじゃねぇ…………ばかぁ……。」
思わずそう絞り出すように訴えてしまうと、了を抱き締めていた手がふっと熱をあげたのに気がつく。腕の中から見上げるとそこには戸惑いながらも頬を染めている宏太の顔があって、宏太が了の怒りの理由を理解したのが分かる。思わずそっとその唇に自分の唇を重ねる了の腰を、宏太の熱い手が強く引き寄せて抱き上げてくるのに身を任せてしまう。
「了…………?……怒ってんじゃ…………ねぇのか?」
「ばかぁ…………、分かってんだろ…………。」
甘えるような声に変わっているのも言うまでもないし、了が美乃利のことを聞いて不機嫌になったのも宏太を自分のものだと独占したいから。晴は宏太が了のことを溺愛していて過保護にして過干渉過ぎるのを言い換えればそれってストーカーだよと言うけれど、了にしてみたら今迄の自分と今の自分では雲泥の差があるのだ。正直言えば了にしてみたら誰かに必要とされて相手のものになれる幸せを、過保護とか過干渉なんて言われても困るし、まだ足りない。本当はまだ全然足りないのだと叫びたい。
「おれの。…………こぉたは………………俺のなんだから。」
自分が宏太のモノになるのと同じくらい、宏太も自分のものだと言いたい。どんなに相手に魅力があろうが綺麗だろうが、今の宏太は他の誰にも渡したくないのは誰でもない了なのだ。
「了…………。」
「おれの、こぉたは、全部……んんっ……。」
チュと音を立てて何度も口付けながら繰り返す了の言葉に、その身体を抱き上げたままの宏太の顔が見る間に真っ赤に変わって吐息が興奮に甘くほどけていく。それを自分から強請るように更に了が口付けを繰り返していくのに、宏太の唇が緩く開いて熱い吐息を溢す。
「こぉた…………ぁ、ん…………、こぉた…………。」
ゾクリと背筋が震える感触に、引き寄せたままの腰を擦り付けるような動きが加わる。しなやかな腕を絡めて何度も口付けてくる了の細い腰をなぞる指先が、スルリと服の合間から滑り込んできて下着ごと一気に衣類を引き下ろしてしまう。空気に曝されて既に自分の固くなり始めた肉棒に熱い指先が絡み付いてくるだけで、腰から下が蕩けてしまいそうに気持ちよくてユラユラと了の腰が揺らめく。
「ん…………ふ、……こぉ………………た、んん……ん、ちゅ…………。」
滑る舌を絡めながら名前を呼ぶのに、宏太の方も興奮に吐息が上がるのを感じる。最近の宏太は了に名前を呼ばれながら求められるのに弱くて、以前よりずっと快感に体温が上がるのも早いし気持ち良さそうに吐息を溢してくるのだ。それがどんなに了にとっても愛しいかなんて言わなくても、きっと伝わってしまうに違いない。
「さとる…………、足……上げろ。」
熱っぽく囁かれる低い声に了が素直に足を広げて宏太の腰に絡ませると、尻を持ち上げるようにして宏太の腰が押し付けられるのが直に感じられる。熱くて硬い切っ先が迷うことなく了の後穴にグッと押し当てられて今にも体内を抉じ開けて奥まで捩じ込まれようとしているのに、了の身体が勝手に早くとヒクヒクとひくつき強請ってしまう。
「欲しいか?ん?」
意地悪く問いかける甘く低く響く声に絡みつけた足が腰を締め付け、入り口に押し当てられた先端に強く弱く焦れてしまう了の身体が甘く吸い付く。何も準備もしていなくても、こんなにも教え込まれてしまって、奥まで一気に宏太に捩じ込まれたいと身体が訴えている。
「こぉ、た。はや、くぅ…………。」
「了…………んんっ!」
グプッと一度に裂けそうな程に体内を拡げられて、燃えて蕩けてしまう熱が奥底に音を立てて深く打ち込まれていく。ドツンと奥を打たれた快感に一気に昇り詰めて、了の身体が宏太の腕の中で微かに痙攣しながら勢いよく蜜を吹き出してしまう。それでも宏太の腰を突き上げる動きは止むことなく、音を立てて腰を突き上げ続けていく。
「ひぁ!あぁ!ああぁっ!や、あ!!い、いくっ!」
捩じ込まれただけで一度達しただけでは許されるわけもなく、ゴチュゴチュと激しい注挿の音が了の身体を支配して捩じ込まれる熱さに悲鳴が溢れ落ちていく。太い杭のような怒張に身体を貫かれ宏太の身体にしがみつきながら喘ぐ了の唇に、宏太の肉感的な唇が甘い声で囁きかけてくる。
「お前は、俺のもんだ……了…………、いけ。ほら……っ。」
「はぅっ!あぁっ!いく、やぁ!!いっちゃ……こぉた……いくぅ!」
「可愛いな…………、本当に……ほら、もっといかせてやる…………、ん……。」
ウットリとした声でそう囁かれて、そのまま奥底にドロドロと熱い精を吹き出されるのに、了は痙攣しながら何度も激しい快感に押し上げられていく。
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