鮮明な月

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間章 アンノウン

間話51.それにしてもさ?

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「それにしてもさ?セックスって痩せる?」

その唐突な結城晴の質問に盛大に吹き出したのは晴と二人でリビングにいた仁聖で、恭平が丁度着替えに奥に行っててよかったとつくづく思う。先程までの護身術の話は終わってこの唐突な晴の話題転換だったのだが、まさかそこに話題が飛んでいくとは思いもよらなかった。

「晴さぁ、話題飛びすぎ。何なの突然?」

噎せ返りながら仁聖が話の脈絡を問いかけるのに、自分の腹回りを眺め晴が溜め息をつきながらブチブチとスーツが身体に合わなくなってさと呟く。晴が前の職場を辞めてからは数ヵ月、しかもついこの間の夏場にはまだ何の変化もなかった。それなのに久々のスーツを着たらウエストに違和感があって、腰回りが少し緩くなった気がしたのだと言う。そんなわけで話の試しに外崎邸で試しに体重計に乗ってみたら、ここ二ヶ月ほどで体重は事実三キロちょっと減っていたのだった。二ヶ月で三キロだからガタッと病的に減った訳ではないが、少しウエストが緩く感じるのには十分だったという訳だ。

「いや、自分でも気がついてなかったけど………………痩せたってちょっと気がついてさー?」
「太るよかいいんじゃないの?」

いや確かに太るのも非常に困るし、ただ脂肪がつくのはこの年になるとなおさら困る。でも痩せてしまって尻周りがダブつくスラックスは、晴的にはかなり格好悪いと思うわけで一着スーツを新調することにはしたのだ。その辺りの感覚は営業職だった晴なりにこだわりでもあるみたいで、まだバイトしかしたことのない仁聖にはわからない感覚だったりもする。そして考え込んでいた晴が、オズオズと問いかけるために口を開く。

「仁聖って、なんかジムとか通ってる?」

その問いかけに仁聖は、成る程と言いたげに眉をあげた。痩せたのは事実でも春だって男なんだから、それに対してただ体重を増やしたいわけではなくて、ちゃんと鍛えて筋肉で体重を増やしたいというわけなのだ。

「もしかして、それで身体鍛えようかなってこと?」
「そうそう。仁聖って結構鍛えてるじゃん?なんかコツある?」

と腹筋を指差し言われるが、確かに以前よりは身体としては筋肉質な仁聖の腹筋は見事な割れ方をしている。ところが実際には仁聖はそれほど何かしているわけではないし、ジムに通っているわけでもない。実は下手に筋肉をつけるとダメだからと、藤咲の指導で事務所ビルの中にあるスタジオで運動するくらいしかしていないのだ。

「俺案外、筋肉つきやすい体質なんだって。」
「何だよ、その羨ましい体質っ!!?」
「え?でも逆につけすぎると仕事に障るから制限されてるのも面倒だよ?」

仁聖が素直に答えるとそう来たかと晴が頬杖をついて頬をふくらませるのに、仁聖は苦笑いしながらジムに通うのも明良はあんまり喜ばなそうなんて心の中では思う。何しろ今だって晴はそれほどスタイルが悪いわけではないし、こうして話す分にはフランクで話しやすいから、ジムなんかで他の誰かと仲良くなるのも簡単そうな気がする。そういうのには明良は嫉妬しそうだけどなぁと内心思うのはここだけの話し。

「っていうか、最初の…………セックスで痩せるってのと今の話が全然繋がんないんだけど。」
「いやー、エッチしてるとカロリー消費凄いらしくてさ?前より食ってるのになぁって思って。」

成る程。それで痩せたんだと晴は言いたいわけか。まぁ確かに明良と晴が付き合い始めたのは七月以降の話だし、夏場以降に痩せたと言われて晴に起きた変化はそれくらいしかない。つまりは明良と付き合い始めてエッチするようになったから痩せたんじゃないかって言いたいんだと思うけど、それって同時にそれくらい激しいエッチ毎日してますって言ってるのと同じことなんじゃないだろうか。
と心の中で仁聖が即座に晴の言動に突っ込みをいれていたのは兎も角、そんなの話してたら明良にまたお仕置きされるんじゃないのかなとも思う次第。それにそこまで分かっているなら、それってエッチを控えたらいいんじゃないの?と仁聖が思ったのは完璧に顔に出たらしい。

「わ、わかってるよ?!少し控え目にすればいいことだってくらい!」
「あ、顔に出た?」
「出たよ!凄い出てたよ!!分かってるけどさぁ!?」

分かってるけどそこが上手くできないから、何とかしようと思うんじゃん…………なんて真っ赤になってそうゴニョゴニョしている晴に、着替えて奥から出てきた恭平が不思議そうに首を傾げてどうしたんだと問いかける。その恭平だってホッソリとした肢体はしなやかで綺麗だけど、華奢なのは変わらない。

「なに盛り上がってるんだ?」
「えっとね。」

言われてみると昨年末から今年にかけての仁聖の目標は恭平を幸せ太りさせるだったのに中々体重が増えなくて、しかも夏ごろの花街での騒動でまたガタッと体重を落としたりもしたのだった。お陰で外崎了と仁聖が二人係で恭平の体重増加プログラムに骨をおった訳だが、最近やっと冬ごろの体重まで戻ったところだったりする。ちなみに体重増加プログラムは宏太が了に人の事を気にする前にお前が痩せてどうすると言った一言で、了が自分も痩せていたのに気がつき一旦終了になっていた。というわけで現在は恭平の食事検討は、全て仁聖の担っているところ。

「恭平さんも細いよね!?腰とか!」
「わぁっ!!?結城くん?!」

突然話をふられて驚いている恭平に構わずに、晴ときたら楽な室内着に着替えて来た恭平の腰の辺りを両手で左右からワシッと掴んだのだ。流石に両手で掴んだって指だけでは人間としては回る筈がないのだが、それでもゆったりした服で誤魔化されていたのにウエストが細いのがあからさまに分かってしまう。

「何やってんの!?晴ってば!」
「ほっそ!!俺より細いじゃん!!」

何でそこで触って確認するかなと三人でワイワイギャーギャーしてる最中に間の悪いことに明良が到着して、しかも更にタイミング悪くオートロックを開けて住民と一緒に入れてしまったものだから騒ぎを落ち着かせるほどの余裕がなかった。というか今更だが大概オートロックなわりに住民と一緒に入って、こんなタイミング良く捕獲に来る明良には舌を巻いてしまう。

「はーる?」
「いや、あのね?明良!見てよ!恭平さんの腰!細くない?!」
「だ!だから、掴まないでくれってば!」
「晴ってば!いつまで触ってんの!?」
「エーッ!細いなぁって分かりやすく…………。」

他意はなくても他の男の腰を掴んでいるという事実に明良がドロドロのオーラを放っているのに、晴は逆効果の返答を行動と発言で返すのだった。



※※※



「なにもそんなに怒んなくてもいいのに…………。」

そう晴がプチプチと文句を言いながら引き摺られて帰っていくのを見送り、二人きりになったはいいけど背後からそっと腕を回して腰を引き寄せた仁聖に恭平が眉をしかめる。

「こら、お前まで…………。」
「いや、うん、それもあるけど、さ。」

晴と同じ事をするなと言われたのに半分だけ否定しながら腰に腕を絡ませる仁聖に、恭平は気がついたように視線を肩越しに向けた。肩に乗せられた仁聖の顔に苦笑いしながら肩越しに頭を撫でると、心地良さそうに目を細める仁聖がいて恭平は思わず微笑んでしまう。

「減ってないぞ?」
「分かってる。でも、あんまり無理しないでね?また合気道始めるんでしょ?ちゃんと食べて……。」

じゃないとまた減りそうと呟く仁聖に恭平は苦笑いしながら、気を付けると約束する。以前鳥飼信哉から直に合気道をやらないかと誘われて迷っていた恭平は、仁聖ともちゃんと話し合ってまた合気道をやり始めることにしたのだ。暫くは身体を慣らして体力をつけるところからだから道場でとはいかないと恭平は言うが、少しずつ道着やなにかをしつらえ始めるところ。合気道をやる事を了承する代わりに仁聖が出した条件は今より体重を減らさないよう気を付けると言うことで、食が細いと自覚のある恭平も気にはしている。

「無敵師範みたいに底無し胃袋でも困るけどね。」

肩越しにそんなことを言う仁聖なのだが、事実鳥飼信哉は底無しの大食漢らしくて以前衝撃の椀子蕎麦やら高校時代のラーメン屋での武勇伝がある。それと比較されても困るのだけど、少なくても普通の人程度には食事量を増やしたい。そう繰り返されている恭平としても気にはしているし、仁聖と暮らし始めてから大分食べる量は増えたと思う。

「食べるようになったけどな?お前といるから。」
「…………それでも俺の半分以外だからね?恭平。」

育ち盛りと比べるなと言いたげな仁聖に、俺ももう育ち盛りじゃないし本音で言えば恭平の食べる量はダイエット中の女子高生みたいな量だと言いたい。それでも恭平は元々好き嫌いするわけでもないし、量が食べれないだけだから大分改善はしたのも事実だ。

「気を付けてる。」
「うん、分かってる。」
「お前もあんまり無理するなよ?いいな?」
「うん。」

そんな風に優しく言われて頭を撫でられ抱き締めていると満ち足りて幸せな気分になるし、まあその良い匂いがしてムラムラもする。するけど恭平の体の負担を考えると今日はおとなしくイイコで抱き締めているのが一番かなとか、そんなことを考えたり。

「…………仁聖?」
「ん。」

それが肌から伝わってしまうのか頭を撫でていた恭平の手がソッと頬に触れて、仁聖はすぐ間近の綺麗な宝石のような瞳を覗き込む。優しくて柔らかな光を湛えた瞳が悪戯っ子のようにキラキラしながら自分を見ていて、こんな風に緩んだ柔らかな瞳を自分にだけ向けてくれるのに胸が熱くなる。

「きょうへ…………。」

細い肩越しに口付ける柔らかな唇。二人で過ごせるようになって二人で暮らし始めて、そろそろ10ヶ月もたとうとしているのが信じられないくらい。沢山満たしてもらえて互いの事を考えながら暮らせる日々が、このまま何十年もずっと続けば良い。

「こら…………仁聖、……ダメ…………。」

少し甘い制止の声に、あれ?何かしたっけ?と思ったら、目の前の頬が薔薇のようにサッと色っぽく染まっている。あれ?何で赤くなってるのと覗き込む仁聖に、恭平は少し潤んだ瞳を臥せて小さく当たってると呟く。見る間に耳朶まで赤くした恭平の言葉に肌を擦り寄せている内に無意識に自分の息子が堅くなって、恭平の腰にグリグリと存在を主張し始めていたのに気がつく。

「…………じん、せ…………。」

そのまま身体を押し当てる仁聖の体温に、恭平の身体もトロリと甘くほどけて緩んでいく。誘うようにソッと囁く恭平の声に、ついさっきまで今は駄目なんて頭で考えていたのは仁聖の中から一瞬で消し飛んでしまう。

「恭平、愛してる。」

耳にそう囁く声に恭平も少し恥ずかしそうに微笑んで力を抜いてきて、抱き締められている仁聖の腕に少し身を委ねるのが仁聖にも感じ取れる。それに仁聖は嬉しそうに笑いながら、ソッと恭平のことをベットルームに連れ込もうとしていた
しなやかな撓る細い腰に滑らかな陶器のような白い肌。
口付けや指先で触れるその肌はしっとりと吸い付くように感じて、仁聖はうっとりとしながら何度も唇や指を這わせる。

「ん…………ふぅ…………、じ、ん………………せぇ…………。」

囁くような甘い声に名前を呼ばれて顔をあげると、愛撫に焦れたように恭平の両手が仁聖の頬を包み込んで引き寄せた。細くしなやかな両足の間に身体を挟んで、引き寄せられた仁聖の唇に自分のものを重ねて恭平が早くと囁く。

「も、……いい、から………………はや、く。」
「恭平。」
「はや、くほし…………じん、せ。」

焦れて甘える恭平の声に背筋がゾクゾクするような興奮に包まれて、恭平の膝の下を掬うように抱き上げ中心に杭を押し立てる。既にガチガチに下折たって先走りの汁を滴らせる先端を押し当てられ、恭平が喉をならして仁聖の首筋に両腕を絡めた。

「きて…………、じん、せ…………奥まで…………。」

こんな風に強請られて、仁聖だって我慢なんか出来る訳がない。綻びきらないのにミチミチと押し拡げられる感触を直に怒張で感じながらググッと腰が押し込められていくのに、恭平は思わず歓喜の吐息をあげていた。

「ん、ふぁ…………あっあぁ…………。」
「気持ち、い…………、あつ……っ…………ちから、抜いて……て?」
「んん…………あ、あぁ……。」

ズズ……ズズ……と次第に押し込まれる熱が心地よくて腰が震える恭平を、仁聖の腕が強く抱き寄せ更に奥に押し込んでいく。緩慢な注入に恭平の喉が仰け反って腰が更に撓り無意識に仁聖の腰に押し付けられたのに、仁聖は我慢が出来ずに腰を思い切り突き上げていた。

「あぅっ!!」
「んんっ!くっ!ごめ、我慢出来ない……っ!」

根本まで押し込まれた衝撃に甘い悲鳴をあげた恭平に、仁聖の腰が止まることなくガツガツと大きく奥深くまで突き込み始められていたのだった。
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