鮮明な月

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間章 アンノウン

間話48.過去の残像2

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「なぁ、宏太ってば。」

若いしなやかな体。初めての男同士のセックスにも容易く順応して、しかも最初からここまで快楽に浸れる淫蕩さは珍しい。だからこそ同時に成田了は、とても危うい存在だと自分は思う。了が欲しがっているものが自分にも掴めないのは、了自身が何が欲しいか分からないからで、それは過去の自分によく似ている。多分了は自分と同じように、人間として大事な何かが欠損したままで育ってきたのだろう。そう思っていたら了は自分がマトモな感覚ではないということには、とうに自分でも気がついてもいると自分に話したのだ。

なんだ、分かってやがるのか…………

自分とは違って既にそれを理解していて、その上でこうして生きているのだと知ったら、政治家の息子でただ甘やかされ安穏と育ったお坊ちゃんではなかったんだなと気がつく。それでもそれをちゃんと知りながら、何かを欲しがっている姿には何故か惹かれるとも思ってしまう。自分には無い何かを求めようと足掻く姿は、高潔で純粋で、それが手に入るのか心をへし折られるのかを見ていたくなるのだ。

「なぁってば。」
「なんだ、さっきから。」

全裸のまま俯せになっている了の手が自分の太股をなぞるように触れているが、煙草を咥えて紫煙を燻らせる自分を見上げる視線は子供のように純粋だ。まさか目の前の男が自分の父親に性奴隷という名の玩具を与えて、母親には乱交の酒池肉林を提供しているとは思わないだろうと思う。

「なぁ、もっかいしよ?セックス。」
「あ?絶倫とか人のことこき下ろしといて、まだやりたりねぇのか?ん?」

散々一晩中抱かれたというのにまだセックスを強請る了の声は、正直言うと甘え声で中々そそる。とはいえ前夜から散々に尻の穴を拡張され続けた了の穴は赤く腫れて擦り切れかけていて、これ以上は和姦を通り越した強姦の世界だ。流石にただの高校生にする所業でもないから、自分はアッサリとした風体で突き放してやる。

「馬鹿いうな、そんなユルユルに突っ込んでいけってのか?あ?」
「え!そんな簡単にケツのアナって緩くなんのかよ?!嘘だろ!!マジでもう緩いの?!!」
「気にすんのそこか?ん?…………お前……馬鹿だろ?」

その言葉に不貞腐れた了に少し穴も体も休ませろと笑いながら言い放ち何気なく頭を撫でてやると、何故か嬉しそうに頬を緩めた了の様子に絆されてしまったのがこの何もかもの始まりだった気がする。



※※※



それからというものの正直自分の店は高校生が入り浸るような場所じゃないのに、成田了は《random face》という如何わしい店に当然のように足繁く通い始めたのだ。しかも当たり前みたいに現れたかと思うと、平然とした顔で強請り始める有り様。

「こーおーーーた!な、エッチしよー!」
「ばーか、仕事中だ。さっさと帰れ、ガキ。」
「えー、仕事って客いないじゃん!閑古鳥!」

カウンターの中でカクテルグラスを磨きながらそう言い放つ自分に、あからさまに酒の瓶が幾つか立つカウンターに肘をついて了はケチと不貞腐れた顔をする。しかも近隣にある自分の母校とは違うものだが、了は高校の制服のままでここに現れるのだ。正直バーなんだから制服姿の男子高校生が平然と入れるような場所じゃないし、今もこの奥の扉の奥では淫らな酒池肉林パーティーを開催しているというのに。

「奥が動いてんだよ、ほら帰れ。」
「えー、でもさぁ、奥のだけでしょ?」
「あ?」

表には客なんかいないじゃんと尚更不貞腐れる声に、自分が奥も営業の範囲だろがと言うと了は当然みたいにカウンターの中に入ってきて自分の足元にしゃがみこむ。何度家に帰れと言っても家に帰っても何もないもんと不貞腐れて呟き、こうして足元でしゃがんだまま過ごすのには流石に困る。幾らカウンターで見えないからと言って足元に纏わりつかれているのでは、まるで子犬か子猫でも拾って懐かれている気分だ。かと思いきや足元で大人しくする気も元々なかったらしい了が、チーッと音を立てて人のジッパーを下ろしにかかる。

「こら、何してんだ、エロガキ。」
「んー?フェラ?……の、れんしゅ……ん…………。」

全くと言いたげに見下ろすが服の中から取り出した自分の半立ちの怒張に、可愛い唇から覗くピンクの舌を這わせ始めた高校生の姿は中々くるものがあった。こっちとしては露出の趣味もなきゃ男にしゃぶらせて気持ちよくなるわけでもない筈だが、まだ初々しく辿々しい仕草で了に舐められるのは何故か逸物が硬く下折たつ。

「お、っき…………んん……んむ…………こ、れ…………ろ?」

ネロネロと舌を這わせ、口を必死に大きく開いて了が亀頭を咥え込む。そのままユックリと狭く滑る口の中に飲み込まれていく怒張は、興奮に熱く昂って了の口の中を満たしていく。
自分は確かに人を性奴隷なんてものに躾るような家業をしていて、男でも女でも仕事だと割りきれば逸物をたたせるのなんて簡単だった。ただ右京を最後にその家業は面倒になって辞めたし、その後は別に男に興奮するわけでもないから右京位しか男相手にやることもない。つまり自分は元からヘテロセクシャルで、仕事に関してはAV男優みたいな職業勃起が必要なのと大差がない訳だ。

「んん、んむ、んちゅ……ろ?……いぃ?……んん。」

それなのに何故か足元に屈みこむ了の口淫でガチガチに硬くなった怒張に、徐に自分は了の頭を両手で掴むと前後に乱暴に腰を振り立て始めていた。グッポグッポと無理矢理に喉の奥に向けて亀頭を捩じ込み擦り付けるのに、了が驚きえずきながらも自分の逸物を吸い立てて舐め回す。

「んん、んっ!んぅ!うえっ!ぐ!!ぐぅ!んん!!」
「出すぞ?ん?」

グポンッと喉の奥に叩きつけた亀頭の先で大量の精液がドッと吹き出したのに、了は驚きに呻きながらもそれを躊躇いもせずに飲み下し始める。喉をならして、それでも飲みきれなかった精液が、了の濡れた唇の端から淫らに糸をひく。

「んん、んん………………ん、……んぷ………ぅ………。」

男の逸物をしゃぶって精液を飲むなんて、実のところ自分では想像も出来ない。飲ませていて鬼畜だと思うだろうが、それが本音で自分が男のものを舐める姿なんてごめん被る。でもそれを「させる」ように躾る事の方が自分の仕事だったし、そう言うことを好む人間は割合多いものなのだ。それでも目の前の高校生にこうしてさせることではないと分かっていて、了が好きなことを好きなようにやらせている自分がいる。

「は…………ふぅ………………、こ、……ぉた…………?」

何故こんなことを許しているのか、それにこんなことをさせている相手は仕事の対象でもなければ右京のようなギブアンドテイクの存在でもない。それなのに上目遣いに潤んだ瞳で自分を見上げている了が、何故か心の中では可愛いとすら感じるのはなんなのだと思う。それに右京と違ってこんな風に強請られると、何故かやってもいい…………いや、本音でいうならやりたくなるというのが正しいけれど…………と思ってしまうのだ。

「ち…………っ、………………一回だけだぞ。」

自分の渋々という体裁を浮かばせた言葉に、それでも了はパッと花が咲いたように嬉しそうに笑う。そんな了に自分が実は最初から惹かれているのだと気がつくには、実はそれからはるかに長い年月を要するのだとは。その時の自分でも、全く気がつけないでいたのだった。



※※※



死にたくないと冷たくなっていく自分の指先を感じながら思っていた。
自殺に近い右京の死。
それに俺ももういいと自暴自棄になった筈なのに、痛みも既に遠くて感覚も遠退いていくのを感じながら自分の頭の中に浮かんだのはただ一人の笑顔なのだ。稀代の殺人鬼に切り裂かれて目元から溢れだした血液が、喉から吹き出した血液と一緒になって胸を熱く濡らす。それなのに全身があっという間に冷えきって、凍えているような感覚に飲まれている。そんな絶体絶命な状態なのに自分の中に浮かんだのは、成田了のあの花みたいな明るい笑顔だったのだ。

………………何でだ……?何で…………了の…………?

自分自身でも疑問なのだ。こんなギリギリの死の縁にいるのに、走馬燈なんて殆どなくて幼馴染みの顔も遠く微かで、ずっと自分はそればかり考えていた。何で自分はこんなにも了の笑顔ばかり了の一挙手一投足ばかりを、必死になって思い浮かべているのだろう。しかも生き残ってからも何故か自分の怪我の程度なんかよりも、了に今直ぐ会いたいと感じている自分がここにいる。了の笑顔や不貞腐れた顔、その何でも良いから了の顔がみたい。その一心で死の縁から這い出した自分に気がついてから、病院のベットの上で自分は戸惑いながら何でだと自分に問い返す。

花みたいな笑顔…………?男だろ?あれは…………

そう改めて考えても記憶の中の了の笑顔は、酷く鮮やかで綺麗で美しいと思う。それに気がついたら今度は相手が男なのに実は会った時からそう頭の何処かで考えているのにも気がついて、何で自分は昔からこんなことを考えているのかと真剣に戸惑ってしまう。理由なんてまるで分からなかった。それでも了の笑顔を花のようだと感じていたのすら、その時まで自分は気がついてもいなかったのだけど。

…………会いてぇな…………

何で来ないんだ?とか早く面会にこいよと何故か心の中で呟き続ける。何故こんなことを了にだけ、願ったり考え続けているのか。自分でも全てが謎で理解が出来ないのに、そればかりが心の中を占めていく。

了…………会いてぇ…………

そう思い続けていた。それなのに更に自分をコテンパンに打ちのめしたのは、やっと駆けつけた了の顔を自分はもう二度と見られないのだと気がついたからだった。両目を潰されてしまっていて了の顔が見れないと気がつくまで、実は自分が二度と視力を取り戻せないのにすら気がつかなかったのだ。

見えない…………見れない………、………しかも…………

その頃には異常に発達し始めたこの聴力のお陰で、壁二枚越しの看護師達の噂話まで聞き取ってしまうようになっていた。その中には当然のように自分の醜い傷跡の話もあって、自分が思っている以上に無惨な状況にあるのだと知ってしまった。

「まだ若い方なのにね、あんな体と顔じゃねぇ…………。」
「奥さん死んでるんですって、なんか正直死んでて良かったって思っちゃった。」

全身の傷、それに失明、そして男性自身の切断。それを指して看護師達が聞こえないだろうと噂する言葉。了を引き留めるものは全て失っている自分の惨めな姿は、幼馴染みに評価させれば無惨の一言ではすまない。
見舞いにきた了が一目見て、二度と姿を見せなかったことからも自分が了と二度と触れあえないのを改めて証明したようなものだった。

それなのに…………了に、…………会いたい…………。

その感情が拭えない自分に戸惑い続けるけれど、この感情が一番近い表現を探し続ける。会いたくて、触れたくて、傍にいたい。そればかりを思い続けている自分は、焦がれているという表現が一番相応しいだろう。

焦がれ…………て?

男相手に会いたくて触れたいなんてと思うけれど、実際のところ男女の性別が云々ではなかった。自分には了が必要で了しか興味がないのだと、そこで初めて気がついてしまって、これはもしかして恋とか愛とかいうものなんじゃと思ったのだ。そう知ったら自分の体ではセックスはもう無理だとしても、了をこの腕に抱き締めたくて仕方がない。

出きるなら…………腕に抱き締めたい……

そればかり考えながらリハビリをしている自分に、馬鹿じゃないのかと怒鳴り付けたい。何しろもくこの醜い傷を見せてしまったから、了は二度と自分には顔を見せてはくれないのだ。

「…………リハビリ中に周囲に威嚇すんな、コータ。」
「リオ。」

幼馴染みで都立総合病院の看護師でもある四倉梨央が、呆れたようにそう言うのは鬼気迫る様子でリハビリをして人を寄せ付けない自分のことが耳にはいったからに違いない。死にかけて、恐らくは二度と自力で歩くことも出来ないと思われたのに、元々鍛えてあったのも功を奏して自分は何とか歩行まで回復したばかり。しかも、盲目になってしまったのに、鬼気迫る勢いでリハビリをするものだから、逆にやりすぎですと理学療法士に引き留められてもいる。

「動けて早く退院した方がいいだろ?ん?」
「まぁな、でも目が見えないからって時間関係なく訓練すんな。」

どうやら暗がりでリハビリ訓練をしていた自分の姿が幽霊にでも見えたらしいと、それで気がつく始末。それでも退院したかったのは、了のことをなんとか日常だけでもただ聞き続けるだけでも、それだけだったのだ。
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