鮮明な月

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間章 アンノウン

間話40.おまけ 定番デートは垂涎の期待

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誰もが自分のことは、案外正しく認識できない

こんなこと分かっているし、こんなことを考えて拗ねるなんてのは馬鹿げてる、そんなことは勿論良く分かっている。分かっているけどそれでも腹の虫の居所というか気持ちが収まらないのは、ヤッパリ大事な相手が自分自身のことを正しく理解していなくて、結果として認識が甘いからなのだ。元々彼は同じ職場の時から、どんな時でもパッと人の目を惹く存在だった。誰も彼もが同じようなスーツ姿なのに一際彼が目立つのは、その体から放つ無意識の存在感の強さだからだ。人の輪の中に居ても鮮やかに人の印象に残る明るい笑顔に、誰にたいしてもそつなく接する人当たりの良さに、それに仕事だって実は手際もよくて何に対しても気が利いて。勿論失敗だってするけれど、失敗しても大きな問題にならないよう事後の対処も完璧で、実際には本人はあまり大事になるような問題なんて起こしたこともない。そのやり方は先輩から指導されたのだと話したけれど、それを簡単に習得できていて自分の手段として活用できるのは彼が有能だからだ。だから誰も彼も彼の印象は凄く良くて、正直言うとこうして交流する前から彼のことはずっと気にかかってもいたくらい。

ほんと辞めちゃうなんて………

そう周囲が惜しがるのが当然の存在。こうしてひょんなことから二人の交際が始まってしまえば、彼の魅力がなんなのかは尚更のように直ぐわかる。何しろこうしてデートに出ても彼の笑顔に思わずコッソリと盗み見る女性の姿は確実に分かるし、それに自分は少なからずムッとしていたりするのだ。

分かってないんだよな…………ほんと、晴ってば。

確かに身長がもう少し欲しいなんて常々のことで良く話してはいるが、百七十後半の身長は男としても十分だし、最近少し痩せてしまったけれど晴は元々かなりスタイルもいい。それにちょっと女装しただけで美女になれるくらい顔立ちは女の子のように整っていて、しかも晴の笑顔の破壊力は正直半端ないのだ。明良の作り物めいた愛想笑いなんかと違って、晴の笑顔は見るだけで眼福ものの鮮やかで爽やかな可愛さ。今だって明良のことを見上げてニコニコしている笑顔に、斜め前の女の子があまりの笑顔の素晴らしさにボォッと見とれている。

「あ、あれ、明良!ほらすごい!」

あぁ、とっても可愛い。それに晴は全く気がついていないのが腹立たしくなってしまうほど、とてつもなく可愛いし綺麗。目の前でも晴の表情は目まぐるしく変わって、あっという間に明良だけでなく周囲の人の視線を惹き付けていく。可愛い笑顔に拗ねたり喜んだり、ほんとに見てて飽きないし惹き付けられて目が離せないのが明良の何よりも大事な結城晴という人間なのだ。外崎了とか外崎宏太にも一部なんなのだろうとは思う面はあるのだけれど、ある意味では晴自身も系統としては他の人に比較しても少し特殊な一面があると明良は思う。晴は仕事に関する能力は飛び抜けてて、機械関係には特に敏くて、一度教えれば応用まで自分で簡単に習得してしまうのだ。だけど晴は外崎達に言わせると危機管理に関しては、認識がかなり甘い。他の二人とは違う意味で、晴はとてつもなく危機管理に対する認識が甘いのだ。

晴はスリルとサスペンスに弱くて、危険の認識が出来ない。

そう言う意味ではだからこそ平然と外崎達の仕事にも馴染んでしまったし、女装なんかして危険な調査に先頭切って加わってしまったりする。しかも外崎達と接していると内に、外崎達みたいに特定の人間に対するアピールも強くなっているのだと明良は思う。ただ晴の問題は彼ら二人みたいに自分のことを理解していて周囲にうまく立ち回るなんて器用なことを、全くもって出来ないしその必要性も理解できていないから危機回避能力も二人より格段に低い。低すぎて明良が腹立たしくなるほど、晴は危機回避に対する意識が低いのだ。

だから高橋の件だって…………

あんなに散々駄目だと言っても、高橋の危険性に関してまるで理解できていなかったのはそのためだ。高橋に明良が襲われた後、晴は暫く明良の身辺の危険に怯えていた。でもそれは明良のことであって晴自身のことではないし、最近落ち着いてもやはり自分の危機管理となると楽観的というか呑気というか。晴自身はどこまで行っても危うい癖に明良だけを大切に守ろうなんて、明良としては断固として拒否しするしそんなの納得できるはずもない。

「晴。」

思わず一人先に駆け出してしまいそうな晴の手を握ると、振り返った晴はキラキラの瞳で笑いながら「あれ見て!」と子供のように笑って暗い水槽を指差しカラフルな南洋の魚に指を指す。

「凄い色!旨いかな?!あれ?明良はどう思う?!」

その癖こんなに子供みたいにはしゃいで手を繋いでいるのも気がつかずに、天真爛漫な可愛い笑顔を明良に向けて。それが周囲の視線を集めても気にする風でもなくて、明良にばかり視線を投げてくる。周囲の女の子達が「可愛い」とか「子供みたいに喜んでる。」とかヒソヒソしてても、晴の方はまるで気にもしていないわけで明良は少し腹立たしい。この可愛い笑顔は自分のものだと、今すぐ周囲に叫んでやりたくなるのだ。

「明良?どしたの?」

そう言いながら覗き込み首をかしげる晴の笑顔が本当に天使みたいで、とんでもなく純粋に可愛すぎる。そんな晴に周りを良く見てなくてぶつかってしまった別なカップルの女性がよろめいたのに、晴は咄嗟にその腕をとって体勢を引き戻す。

「あ、あの。」
「ごめん、大丈夫?」

咄嗟なのに完璧な動き。しかもにこやかで柔らかな晴の微笑みにそう問いかけられて、相手の女の子がボォッと頬を染めて晴の笑顔に見とれて釘付けになっている。本当に何で自分では気がつきもしなくて、しかも晴のこの行動は別に何も意図してやってない。意図しないで誰にでもこんな風に親切にしてしまうし、誰にでもこんな極上の笑顔を向けてしまうのだ。

「明良?」

でもそれ以上にこえして自分に向けてくれる天使みたいな微笑みは、格段に甘くて柔らかで思わずつられて明良も微笑み返してしまう。自分の微笑みに晴は更に嬉しそうにして、未だに繋いだままの明良の手に頬を染める。ヤバい、とっても可愛い。

「明良……?」

そっと順路の物陰に向かって晴の手を引く明良に、ほんの少しだけ戸惑い晴の声が小さく明良のことを呼ぶのに嬉しくなる。そうして他の恋人同士の目を盗んで、柱の影で晴の腰を抱き寄せて口づけると晴は尚更のように真っ赤になって俯いてしまった。

「どうかした?晴。」
「あ、明良ってば………………人前…………だって……。」

真っ赤になって俯きゴニョゴニョしている晴はなおのこと可愛くて、しかもキスのせいか少し潤んで色っぽくて。思わずその顎を捕らえて再び唇を重ねると、今度は丹念に舌を吸い甘く噛みチュクチュクと自分の舌を絡める。

「ん、…………んぅ…………。」

順路から少し外れて円柱の柱の物陰で丹念に舌を絡めてやると、晴の吐息が次第に気持ち良くなって熱く蕩けて来るのがわかる。しかも誰かに見られるのが怖いとか・でもちょっとドキドキ感に興奮しちゃうとか様々な思考で混乱していく晴の吐息が、ハクハクと喘ぐようにしているのが実はとっても可愛いのだ。そんな顔をされると無性に

触りたい…………、泣かせたい…………、喘がせたい…………

そんなこと今まで思ったこともなかったし以前付き合った相手には一度も感じたことがなかったのに、明良の中でムラムラと欲望が沸き上がってしまうようになったのは何故だろうか。



※※※



「ちょ…………まっ、て…………あっ……。」

殆ど通常とやることが変わらないと思うのは何故だろうか。いや、二人きりで長距離の旅行が初めてなのはさておき、新幹線も着いてからの待遇も破格で、高級宿では当然みたいに別邸の露天風呂つき。しかも部屋に準備された料理はとてつもなく上品な会席料理(宏太の分は火を使わない料理だったのは言うまでもないけど、了の方はちゃんと鍋もあった。え?当然宏太にも食べさせたけど?ちゃんと味がわかるようになってきた宏太は、最近何でも試したがるから)。だけど何でここだったのとか、あの女将との関係は何なのとも聞けないまま。
キングサイズの和風ベットはフワフワで極上の寝心地なんだけど、当然みたいに宏太にのし掛かられて慌てて制止した了。だけど浴衣姿の宏太と来たら普段より色気が五割増しくらいで、夜の光に照らされたはだける浴衣にクラクラしてしまう。

「ちょ、っと、……こぉ、た。」
「了……、愛してる…………。」

それなのに色気駄々漏れでチュと鎖骨に口付けられて、前合わせの合間からスルリと滑り込んで来る指先に了はあっという間に腰が抜けてしまいそうだ。

「こ、ぉた。んっ…………ぁ。」

身悶えはだけられていく浴衣に、なんで浴衣ってこんなに簡単に脱げるんだとバカなことを考えてしまう。指先に太股をなぞられただけで軽く達してしまいそうな程気持ち良くて、思わず喉が仰け反った了に宏太が嬉しそうに微笑みながら更にのし掛かってくる。そのまま雪崩れ込むと思った瞬間、別邸と言う名で人も来ないからと鍵もかけていなかった引き戸が音をたてていた。しかもドカドカと言わんばかりの足音がそのまま室内に入り込んできて、声を出す間も与えずに廊下と室内を隔てる襖が開け放たれる。

「宏太!!?」

突然の怒鳴り声に完全に前をはだけられかけていた了に覆い被さっていた宏太が不機嫌そうに体を起こし、その声に傷だらけの顔を向けた。

「…………客商売の癖に、客を呼び捨てか?あ?ヒデ。」

怒鳴り混んできた方は来た方で、和風ベットに男を組み敷いて今にも襲いかかろうとしている宏太の姿にポカーンとしている。が、宏太の下に組み敷かれた了はしどけなく前をはだけていて、しかも食前の露天風呂での行為の痕も生々しく淫ら。端とそれに気がついたらしい宏太が、さっさと了の浴衣を直し出したのは言うまでもない。

ヒデ…………って……呼んだ…………だれ?

さっさと手早く浴衣を直されているものの、了も怒鳴り込んできた相手もまだ状況が飲み込めていない。水をさされた宏太は了に浴衣を着せてから悠々とベットからおりながら自分の浴衣を整え始めて、やっと相手も我に返ったように二人を眺める。
宏太にヒデと呼ばれた人物は、整った顔立ちをした長身。黒髪に涼しげな目元をしていて、良く見れば宿の人間らしい服装。

あれ?もしかして、この人がいるから、ここに来たとか?

ポカーンとしたままの了が何気なくそんなことを考えているのに、相手は少し戸惑う様子で宏太の顔を見つめる。どんな関係なのかは分からないし、今まで会ったことがないのに、何故か奇妙に見覚えがあって。

和美人って言うか…………イケメンっていうか………

ここでまた和風な美形が出てくると、若女将のことも疑問なのに。思わずそんなことを考えてしまう自分に、了は戸惑いながら宏太の顔を見上げてしまう。

……………なんなの………何で俺には説明なし?

朝から何一つ聞かされずに、出会うイケメンや美女は宏太のことを知っていて。これってなに?調教師の時の知り合いとか?ここで調教したとか?でもそんな相手のいる場所にワザワザ了を連れてくるなんて、幾らなんでも意地が悪いとか言う問題じゃない。そんな不快感に泣きたくなるのは宏太がそこら辺には、まるで頓着してくれないからだし、きっと宏太はそんなことまだ理解もしてない筈

「了?おい、どうした?ん?」

相手に投げ放った言葉とは違う柔らかな甘い声で唐突にこっちを気にかけて来る宏太に何と言ったらいいかわからない了だが、視界にいる宿のイケメンの方が何故か唖然として了の頬を撫でる宏太を信じられないものを見たみたいな顔をしている。しかも宏太が迷いもなく了の事を愛でて、しかも口付け抱き上げたのに開いた口が塞がらない様子なのだ。

「こ、こぉた、み、見られて、る。」
「あ?別に構わん、お前は俺のもんだ。」
「いや、そういう、ちょっ。」

抱き上げられ当然みたいに座卓に了を抱き上げたまま座る宏太に、相手はやっと我に帰ったみたいに額に手を当てると深々と溜め息をついている。

「全く…………あんたは…………。」

その言葉に了が視線を向けようとすると、宏太は何故かそれを阻止するみたいに了の事を腕の中に抱き締めた。こらと了が腕の中で身動ぎして身悶えると、相手は溜め息混じりに二人の向かいにドカッと座り込んだ。

「本当に昔から、予想も出来ない事ばかりする…………。嫁って……。」
「うるせぇよ。俺の自由だ。」

相手が溜め息混じりにそう言ったのに、宏太が事前に自分を連れてくると連絡していたのは了だって分かる。
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