鮮明な月

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間章 アンノウン

間話39.おまけ 定番デートは絶大の嫉妬2

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正直なことを言うと独占欲なんて言葉だけでは表現しきれない、奇妙なこの感覚に外崎宏太自身も戸惑っていた。それでいて無理だと分かってはいても、宏太は了の全てを独占したくて仕方がない。ただでさえ了を無理矢理に自分の籍にいれて囲っただけでなくて、体も心も自分だけのものにしたい欲求を押さえきれないのだ。そしてそれに答えようとしてくれる了の優しさで、尚更その欲求はとどまることもない。

少しは自制しろよ?宏太

そう幼馴染み達には言われるが、どうしてもその自制というものが出来ない。しかも何故出来ないのかも、コントロール出来ない自分の理由も分かっていても変えられないのだ。それが人に惚れたということだよと久保田惣一には言われたのたが、こんな理不尽で不条理な感情ってものに振り回されるのが誰も彼も平気なのだろうかと思いすらする。それに結城晴に指摘された通り定番とされるものは殆どしたことがないという事実に、

あのクソガキめ…………

虫の居所がここまで悪いのは今まで宏太自身が気がつかなかったのに指摘されたということもあるけれど、それ以上に以前だったらそれがどうした?必要ない・で済ませられたことでも相手が了なのだと考えると話が変わる。妻もいたが妻とマトモなデートなんかしたことがないし、他に付き合った彼女とはどうかと言われても実は録に記憶にない有り様。したことがないわけではない筈なのだが、今一記憶にないし、付き合った彼女と出掛けてないわけでもないのにだ。

…………お前さぁ?ほんとそういうとこ疎いって言うかさ…………

幼馴染み達なら確実にそう言う。それに鳥飼梨央なら更にそこに人でなしと呆れ声で言われるに違いないし、澪なら…………なんて思わず考えてしまう。男連中?いや、これ以上自分で墓穴を掘ってへこみたくないから、そこは言いたくない。男としては自分はあの二人にそういう面での弱味をさらしたことなんか、一度としてないのだ。
そんなことは兎も角今まで了と一緒に過ごすのだけでも宏太は実は精一杯になっていて、了と出掛けたりとかってことをまるで考えもしてなかった。が、恋人同士や夫婦は、普通ならそんなことを積み重ねているはず。それを指摘されないと気がつけなかったのに、不貞腐れた宏太はそんなわけで色々とあの時思案して、こんな短い期間でとはいえ無理矢理に旅行へ雪崩れ込んだのだ。

しかし…………すぐ浮かんたのがここだったのはな…………

ここが浮かんだ理由も一応は自分では分かっているつもりではある。とはいえ宿についてから了が迎えに出た若女将を眺めているのには当然気がついているし、まぁ女将の容貌も知っているわけで。それに当然のように了の好みだって宏太は十分知っているから、尚更それが気分が悪いなんて宏太は絶対に口に出しては言えない。

右京や、榊なんかと系統は同じタイプだしな……あいつは…………

シットリした和美人、こんな宿で女将をするだけあってたおやかで艶もある女。そんなことは当然知っているのだし、大体にして他の宿でなくここを選んだのは間違いなく自分なのだ。それに嫉妬するなんて馬鹿馬鹿しいことだろうし、愚の骨頂なのに内心溜め息をつきたくなったあたりが宏太が自分ではコントロール出来ない感情というやつなのだった。そうして了が押し黙って自分を見ているのに、結局あいつをどう思ってるなどとは問いかけることも出来ず。風呂に雪崩れ込み有無を言わせず抱き寄せているのに、こんな自分はらしくないと宏太だって分かっている。

「も…………ぉ、無理ぃ…………我慢…………。」

一応は話をしようかと思っていたのに、滑らかな肌に触れた途端にヤッパリ宏太にはまるで歯止めは効かなくて。しかも宏太の施す刺激に火照った了が湯殿の中で余りにも可愛く自分を欲しがって強請るものだから、ほんの一瞬で宏太の理性なんて意図も容易く弾けとんでいた。

「こぉた…………も、無理ぃ……ほし…………ぃ。」

本当は撫でて愛でるだけで、一応は止めるつもりだった。本当にそのつもりだったのに、反射的に露天風呂の浴槽の端の簀に乱暴過ぎると分かっていて了を組み敷いてしまう。了の滑らかな肌が簀で傷ついたりしないかと密かに心配もしているのに、無理矢理に容赦なく怒張を捩じ込んでガツガツと奥まで抉り、何度も何度も掻き回して自分のものだと示すように奥底に欲望の塊を放つ有り様。

「あぁ!!あつっ…ぅ……………くぅうっ!」
「了…………っ。」

絶頂の歓喜に更に熱を持った腕の中の了の肌に、性急過ぎるほどに何度も何度も口付け吸い上げて新たな自分の痕を所有の証みたいに刻み込んでいく。それにすらヒクヒクと反応して甘く泣く了の声が、宏太の体の芯に更に新たな火を着けてしまうのだ。

「ふぁ!あ、も、むり、ぃ、あ、ああっ!こぉたぁ!うごく、の、やぁんん!!」
「ふ、ぅ!まだ、だっ!」
「あぁ!お、ねが、も、あぅうん!!こぉたぁ!」

グンと奥深く捩じ込まれた反動に仰け反る了の細い腰を掴み、無理矢理に自分に引き寄せると悲鳴のような高い声が溢れる。こんなにも宏太には愛しくて堪らないのを了はちゃんと理解しているのだろうかと考えながら、何度もこうして求めているのを全て受け入れてくれる了がもっと欲しくて仕方がない。

「愛してる、了。俺の…………了。」
「んんっんぅ!ふぁあ!や、むり、こぉた、もぉ俺!!」

悲鳴めいた喘ぎを甘く放ちながら自分の体に縋りついて、自分の名前を呼びながら絶頂に震える了が確かに腕の中にいる。それだけでどんなに宏太が幸せに満たされているか。そして以前ならそんなことは宏太は露程も気にもかけていなかった、そんな自分がいた。それが分かっていて宏太は、ここまで容易く自分を変えてしまう了に驚いてしまう。

「こぉ、たぁ……、も、俺……こぉた……ぁ…………。」

それをこんな風に自分に気がつかせて、更に自分を変えていくのは全て了で、その了がこうして今は腕の中にいるのだ。それだけのことだとしても宏太は、幸福に満たされて思わず微笑みを浮かべてしまう。

あぁ…………お前は凄いな…………

たったこれだけで、直ぐ傍にいて名前を呼んで貰うだけで、こんなにも幸福に満たされる。了から縋りつかれれば尚更胸が熱くなって口付けたくなるし、愛してるやら俺のものやら実のところ自分でも恥ずかしくなるようなことばかり何故か再三口に出して言いたくなるのだ。その癖何度言ってもまだ伝え足りない気がして、何度も繰り返してしまう。そしてそうできない時には手を繋ぎ抱き締め、了がちゃんと傍にいることを確かめもしてしまう自分がいる。

了………………

誰かの名前を幸せを感じながら呼ぶ自分。その事実に自分自身が実はずっと驚いてもいるのだと宏太が言ったら、了はきっと「何言ってんだよ?」と呆れて言いながら笑うに違いない。それでも言わずにはいられないことが多すぎて…………

「愛してる…………了………………。」

そうして激しい事後の激しい倦怠感と恐らくは湯中りで、半分失神してクッタリとしている了を手慣れた手つきで浴衣で包みこむ。元は合気道をやっていた宏太は実は和装も問題なかったりするし、宿の浴衣なんてものは正直和装の着付けまでもいかないのだから問題にもならない。

まぁ本音を言えば浴衣の了は見たい。

そんな本音はさておきその後で宝物みたいにその頭を膝に抱きかかえるようにして膝枕なんてものをしながら、宏太は見えない目を暮明に向けてボンヤリと再び考え込む様子を浮かべている。軽い了の吐息と遠くの潮騒の音を聞きながら見えない義眼の前では暮明の海辺には街の光が宝石のように散らばって、その先の海にも月明かりが射しユラユラと光を反射させていく。

目が見えてたらな…………一緒に眺めて……………………か

常々そんなことを考えて後悔すらしてしまうのは今更で、自業自得なのだと理解している。傷がなければ、目が見えれば、了とこうして過ごせなかったと理解できても、それでも見たいと願う自分がいるのに気がつかされて何度も打ちのめされてしまう。

「ん…………、こぉ、た?」

モソモソと膝枕されていたのに気がついて身動ぎする了に、宏太も考え事を終えたように柔らかな笑顔を向けた。それに了が何も言わずに下から見つめているのに気がついて、宏太はどうかしたか?と低く問いかけながらそっと了の頬を撫でる。
窓の外の夜景の光にうっすら照らされた宏太の顔は物憂げにも見えて、了は膝に頭を乗せたままボンヤリと見つめていた。あまりこんな風に物憂げに見える表情を宏太が見せるなんてなくて、思わずうっとりとして了は見いってしまう。いつも自信満々で迷いもない様子に感じる宏太がボンヤリしていて、それでも物憂げな横顔も色っぽいなぁなんて思ってしまうのに頬が少し熱い。

「なぁ…………?」
「…………ん?」
「どうして、…………ここに連れてきたんだ?」

咄嗟に問い掛けた言葉にそう言えば説明してなかったっけなと宏太も思い出すが、説明が難しいというか何と言えばいいかよくわからない。何でというか、どうしてといわれて答えるには、理由はあるにはあるが宏太がそれを言うのは何となく気恥ずかしい気もする理由なのだ。そんな無言のままの室内には微かに潮騒の音がして、ここがいつもの家ではなくて海辺の街だったのだと了に思い出させてくる。

怪我してから…………一度もあの街から出てないんだよな……?宏太は。

足の付け根の引き連れになった傷のせいで、片足を少し引きずる形で歩く宏太。杖をついて長距離を歩くのは、この足では面倒だといっていた宏太の言葉の意味は容易に理解できる。それに宏太はここ半年の変化が起こるまでは、ずっと自分を見る好奇の視線を肌に感じて実は不快だったのだ。
無惨な傷痕に引き摺る足取り、白木の杖にサングラス。
その姿に普通に自立して暮らせていても、殆どの人間は宏太の姿に眉を潜めるか憐れみの視線を向けるかする。その視線を肌に感じたり、あからさまに距離をとられたり、酷い時にはわざとぶつかってこようとする人間もいた。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、杖をつきユックリと歩いている宏太に苛立ち嫌がらせをする人間は実はいるのだ。当然それに宏太がぶつかられることもないし、転倒させられるなんてことはないのだが、ぶつかってくる人間は確かにいることはいる。

だから、そうしない、見ない視線の中だけでしか暮らしていない。

怪我をしてからの宏太の生活圏はあの街の中だけで、久保田惣一や駅の北側の懇意の相手達としか殆ど接してこなかった。コンサルタント業の方も好奇の視線を向けるような輩には、仕事自体うけないとか全てメール対応なんて方法を選択する位は宏太の能力なら簡単だ。それが今のように変わったのは了が宏太の傍にいるようになったのと、そのせいで宏太の周囲もまるで時計が動き出したみたいに変わり始めたからかもしれない。

何もかもが一度に動き出して…………

宏太自身も様々なことが変化して戸惑いながら、手探りしながら進んでいるのだと少しずつ了にも分かり始めている。了と同じで宏太自身も沢山のことに戸惑い、躊躇いながら、了と一緒にいたくて足掻きもするのだとちゃんと知りつつあるのだ。そして宏太の性格もよく理解できはじめて、案外宏太は子供のような一面もあって……。

こっちが言わなきゃ宏太には分からないと、何度も繰り返されてるんだよな………

頬を撫でる指先にそっと了の手が触れて了が物言いたげにしているのに気がついた宏太は、その先の言葉を発しないままに了が何か言うかと待っている。

「あの…………さ?」

更に了が何かを問いかけようとした途端、戸口の外から中居らしき女性の声が「お夕食を準備に参りました」とかけられて水を差す。それに膝枕の了は驚いて跳ね起きるし、了が何が聞きたかったのかを答えを聞き逃す結果になってしまって宏太は何一つ不機嫌を隠しもしないのだった。



※※※



「はーる?」

甘い声で名前を呼ばれたのはいいけど、なんでかなぁと晴は疑問に首を傾げている。確かに晴の方から定番デートの話はしたのだし、明良からデートしようかとお誘いもされたのだけど、だけど

「晴?何難しい顔してるの?」

そんな風に問いかけながら顔を覗きこむ明良は、文句なしのキラキラのイケメン彼氏で。それに何がそんなに疑問なのかと言われると、答えは一つ。相手の自分がなんか普通過ぎて…………なんてこと、なんか悔しいから明良には簡単には言えない。
そんな二人が今いるのは夜間水族館というやつで、ナイトサファリとかみたいに普段見れない夜の水族館を見て歩くというもの。

定番、デート…………なんだけどなぁ

他には男女のカップルと女性のグループ。二人のように男二人という組み合わせは同じ年代ではいないし、晴の手を握る明良のイケメンぶりに周囲の女の子がチラチラ視線を向けている。
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