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間章 アンノウン
間話31.おまけ マニュアルorオートマチック
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実は恭平には必死に内密にしたまま、密かに学校に通いはじめて既に三ヶ月。かかった期間が随分長いと思われるかもしれないが大学やバイトの合間を縫っての通学は時間が取れず、こんなにも時間がかかってしまったと言うのが正直な本音。それでもなんとか仮免許も実技試験も通過して、目下免許センターのホールで手にしたカードにハワハワと感動しながら見つめているわけで。
「やっと…………とれたぁ。」
そんなわけで喜びにホクホクしながら帰途についた仁聖が、帰り道の途中で寄り道して顔を見せたのは言うまでもない『茶樹』である。最近では仁聖もこの店の常連の一人となりつつあるのだが、何しろ今の交友関係が殆どこの店に集まる人間なのだから仁聖だって通うのはやむを得ない。
「えー、先輩!!免許とったの?!すごーい!」
久々に『茶樹』で顔を会わせた妹分のモモこと宮井麻希子が、おめでとうと歓声をあげてくれる。モモと一緒にいたのは、同級生でモモの溺愛彼氏に顔がそっくりの香坂智美、土志田の彼女(一応は秘密と言う話だが、既に茶樹ではバレているのは当人がテレテレしながらここでのろけ話を話すからだったりする)・須藤香苗、それに久保田松理の姪・志賀早紀の何時もの面子。これに後、鳥飼信哉の母親の違う弟だという真見塚孝が加わるのが通常の五人組なのだが、真見塚孝は本日生徒会の仕事で合流が遅れているのだと言う。
「結構かかったんだよなぁー。時間がなくってさ。」
「えー、三ヶ月って長いの?源川先輩。私もっとかかりそう!」
「半年でしたっけ?最長って。え、9ヶ月?一年?」
「見して、見してー!あ、やっぱ安定のイケメン写真!」
頬杖でいう仁聖の手から取り上げてキャッキャッと女性陣が仁聖の免許証を眺めて盛り上がっているが、智美の方はどれくらい全部で金額がかかったのかとか実技の何が難しかったかとか。質問が酷く現実的なのは、恐らくは自分も早々に免許を取りたいと考えているに違いない。
「何、仁聖、免許とったの?」
「鈴徳さん、やっとねー。」
店内の賑やかさにひょっこりとキッチンから顔をだした鈴徳良二に向けて、仁聖が笑いながら言う。鈴徳も一緒になって覗きこんでみて、やっぱ最近はオートマ限定なんだよなぁと呟くのに麻希子が首を傾げる。
「鈴徳さん、オートマ限定ってなんですか?」
「ハムちゃん、車はねー、マニュアル車とオートマ車って言うのがあってねー。」
因みにマニュアル車のマニュアルとは、『マニュアルトランスミッション』の略。トランスミッションとは、エンジンからの動力をタイヤに伝える『変速機』のことを言っているのだが、エンジンからの動力はマニュアル車ではクラッチペダルというもので操作するものなのだ。つまりマニュアル車は、スピードや道路の勾配など車や周囲の状況に応じ、ドライバーがアクセルやクラッチペダルを操作して自分でギアの切り替えを行いながら運転をする。
方やオートマ車のオートマとは、『オートマチックトランスミッション』の略である。オートマ車とはドライバーがクラッチの操作をしなくてもギアチェンジが自動で行われる車のこと。なのでクラッチペダルを踏む必要もなく簡単であると、近年日本で販売されている新車の殆どがオートマ車なのである。方や業務用のトラックやスポーツカーなどの多くが、マニュアル車だというのはここだけの話だ。
蛇足だが近年ではオートマ限定免許を取得する人の割合が増えており、普通免許取得者の半数を超えている。警察庁が発表している『運転免許統計』によると、2016年は普通免許取得者127万7150人のうち、72万6216人(全体の56.9%)がオートマ限定免許取得者。2017年は普通免許取得者128万5520人のうち、オートマ限定免許取得者が73万7800人(全体の57.4 %)なっており、60%台は間近なのだという。おまけに2018年3月12日に『準中型免許』が新設されたこともあって、マニュアル免許取得者の割合は減少傾向。因に準中型車は、車両総重量が3.5トン以上7.5トン未満、最大積載量が2トン以上4.5トン未満、乗車定員が10人以下のものをいうのだが、2017年3月12日より前に普通自動車免許を取っていると、普通自動車免許の車両総重量が5トンから3.5トンになったため、車両総重量5トン未満の限定付き準中型自動車運転免許に名称が変更される。つまりはそれ以前に免許をとっている人の中には、何もせずとも準中型車や中型車を運転可能な人が今はいると言うわけ。
更に蛇足だが世界的に目を向けてみると、アメリカは日本と同様にオートマ車の割合が高いといわれている。それはアメリカは広大な土地を運転することが多く、ガソリンの価格が安いためと運転しやすいオートマ車の方が普及しているということらしい。一方、マニュアル車の車体価格がオートマ者よりも安いヨーロッパでは、マニュアル車の人気が高いとか。またヨーロッパの人々は基本的に一度購入したものを長く大切に使い続ける傾向が強く、車も数年で買い替える人は少数派なのだという。そのため、多くの人々が今もマニュアル車を長く乗り続ける傾向にあるらしい。
「まぁ、日本の世相的にはオートマ主流ってことですね。」
「久保田さんは?免許は?」
「あ、私はマニュアルも勿論運転しますよ?」
当然のようにティーポットを磨きながら微笑んで言う久保田。実は1973年前後の生まれの人が免許をとった辺りは、マニュアル車の方が免許取得率が高かったのだと言う。それにオートマとマニュアル車では、どっちが得なのかと聞く智美の真剣さ。車単体として考えれば燃費としてはマニュアル車の方が得だろうが、最近はマニュアル車の方が売っていないので高額になる可能性もある訳で。鈴徳が笑いながら最近はマニュアル車の方が販売店じゃ珍しいもんなと苦笑いしている。
「東北だとわりとマニュアル車多いんだけどなぁ。」
「どうしてですか?」
「雪道はマニュアル車の方が運転しやすいからだよー、ハムちゃん。」
ハムちゃんはオートマっぽいなどと呑気に笑う鈴徳だが、確かに女性はオートマ率が高いかもしれない。どちらにせよ免許証としてはマニュアル車でとっても、オートマも運転できるからマニュアルでとるのが良いかもとは言うが、そのために講習時間が延びるのとマニュアルならではの車の操作に手間がかかるという問題はある。
「なんの話で盛り上がってるんだ?」
そんな最中に顔を出したのはタイミングよく出版社帰りの鳥飼信哉と久保田松理。運転免許の話に関東圏じゃ車なしでも生活が効くからなと笑いながらも鳥飼信哉は、マニュアルで免許をとっていてわりと運転もしているという。慣れてしまえばなんともないがと信哉は笑うが、ここらは車線変更を必要とする事が多いから運転は気を付けろよと言われて仁聖は苦笑いだ。そこから再びマニュアルとオートマの話。
「でもマニュアルなんか、そうそう売ってないわよねー?」
「松理さんは?」
「私?マキマキ、私が運転するように見える~?」
その問いかけに麻希子はスッゴいスピード出して運転するか全くしないかのどっちかなとど言う始末だが、何故か他の面子もそれに賛同しているのに松理はそうかしらと首をかしげている。確かにここ近郊では交通網が発達しているからあまり運転の機会がないのは事実なので、結局松理はマニュアル車も可の免許は持っているが一度も運転したことのないペーパードライバーというやつらしい。
「松理は助手席専門だからね。」
「そうねぇ惣一くんが運転させないものねぇ。」
そんな呑気な夫婦の会話に香苗や早紀も、それも女としてはありだと賛同している有り様だ。
※※※
「いつの間に?」
帰宅した仁聖が真っ先に書斎に向かって、差し出された免許証を眺めた恭平が目を丸くする。それを仁聖は恭平の椅子の足元に座って、その膝に甘えながら褒めて褒めてと瞳で訴えかけながら足元から見上げていた。その様子に思わず笑いだしながらも、恭平は感心したように口を開く。
「すごいな、いつの間に通ってたんだ?」
撫で撫でと差し出された頭に誘われるように栗毛の髪を撫でながら恭平が驚いたように言うのに、仁聖は嬉しそうにその膝に顎を乗せていて。まるで大型犬のように足元でじゃれてくるのに笑いながら、何とはなしに免許証を眺めていた視線の先で恭平が「あ」と呟く。
「ん?なに?恭平?」
「あぁいや、オートマ限定なんだなと。」
案外それには誰しも気がつくものなのかと目を丸くした仁聖が視線をあげると、恭平が暫し考え込むようにしているのに気がつく。その表情にあれ?と疑問を感じながら仁聖が不思議そうに首を傾げた。
「恭平?何かした?」
「ん?いや、次に車買うなら、オートマの方がいいのかなと。」
え?!と今更ながらに仁聖の目が丸くなる。自動車学校の受付の時現在ではほぼオートマ限定で皆が通うと説明されたし、ここ数年マニュアルでの受講は数えるほどだとも。それに車自体殆どオートマ車になっているからと、仁聖と同時期に通った受講生でマニュアル車を選択したのはゼロだったのだ。それに今日の『茶樹』でも…………いや、あそこで免許を持っていたのは殆どがマニュアルの運転が可能で、ペーパードライバーの松理も実はマニュアル可なのだった。それにしたって恭平は久保田達より最近免許をとった人間で、確実にオートマ主流世代なのに!
「嘘!!恭平って、マニュアルなの?!」
「嘘って………………一度乗せたんじゃなかったか?確か。」
「えええええ!?」
そうなのだ、一度去年の今頃仁聖が乗せられた事のある恭平の車は、実は何をかくそうマニュアル車だったりする。ただしあの時は仁聖がインフルエンザで酷い高熱だったのと、まだ車の事なんて何一つ知らなかったのでマニュアルなのかオートマなのか全く気にもしていなかったというだけのこと。ここに来てまさかのマニュアル車オーケーの免許取得、つまり恭平はマニュアル車で教習を受けたわけで。
「な、なんでぇ?!」
「なんでって…………何となく?」
何となく?ってそんなぁと嘆きたくなるのは、仁聖としては何だか立場がないような気がするからで。オートマ車を自分で購入すればいいだけだけど、何だか恭平がマニュアルなのに自分はオートマというのが格好悪い気がする。
「そ、そんなことはないと思うけど…………。」
「なくない!やだっ!なんかやだ!!」
そんな風に膝でごねられてもと正直思う恭平に、何でか負けたと嘆きたくなる仁聖なのだった。
※※※
因みにオートマ限定でも運転できるマニュアル車というものも存在しているし、おまけに何時間か追加講習をうければマニュアル車の運転も可能になるのでオートマ限定でも心配はいらない。蛇足だけれど、仁聖が慌てて追加講習に走ったのは言うまでもないことなのだった。
「やっと…………とれたぁ。」
そんなわけで喜びにホクホクしながら帰途についた仁聖が、帰り道の途中で寄り道して顔を見せたのは言うまでもない『茶樹』である。最近では仁聖もこの店の常連の一人となりつつあるのだが、何しろ今の交友関係が殆どこの店に集まる人間なのだから仁聖だって通うのはやむを得ない。
「えー、先輩!!免許とったの?!すごーい!」
久々に『茶樹』で顔を会わせた妹分のモモこと宮井麻希子が、おめでとうと歓声をあげてくれる。モモと一緒にいたのは、同級生でモモの溺愛彼氏に顔がそっくりの香坂智美、土志田の彼女(一応は秘密と言う話だが、既に茶樹ではバレているのは当人がテレテレしながらここでのろけ話を話すからだったりする)・須藤香苗、それに久保田松理の姪・志賀早紀の何時もの面子。これに後、鳥飼信哉の母親の違う弟だという真見塚孝が加わるのが通常の五人組なのだが、真見塚孝は本日生徒会の仕事で合流が遅れているのだと言う。
「結構かかったんだよなぁー。時間がなくってさ。」
「えー、三ヶ月って長いの?源川先輩。私もっとかかりそう!」
「半年でしたっけ?最長って。え、9ヶ月?一年?」
「見して、見してー!あ、やっぱ安定のイケメン写真!」
頬杖でいう仁聖の手から取り上げてキャッキャッと女性陣が仁聖の免許証を眺めて盛り上がっているが、智美の方はどれくらい全部で金額がかかったのかとか実技の何が難しかったかとか。質問が酷く現実的なのは、恐らくは自分も早々に免許を取りたいと考えているに違いない。
「何、仁聖、免許とったの?」
「鈴徳さん、やっとねー。」
店内の賑やかさにひょっこりとキッチンから顔をだした鈴徳良二に向けて、仁聖が笑いながら言う。鈴徳も一緒になって覗きこんでみて、やっぱ最近はオートマ限定なんだよなぁと呟くのに麻希子が首を傾げる。
「鈴徳さん、オートマ限定ってなんですか?」
「ハムちゃん、車はねー、マニュアル車とオートマ車って言うのがあってねー。」
因みにマニュアル車のマニュアルとは、『マニュアルトランスミッション』の略。トランスミッションとは、エンジンからの動力をタイヤに伝える『変速機』のことを言っているのだが、エンジンからの動力はマニュアル車ではクラッチペダルというもので操作するものなのだ。つまりマニュアル車は、スピードや道路の勾配など車や周囲の状況に応じ、ドライバーがアクセルやクラッチペダルを操作して自分でギアの切り替えを行いながら運転をする。
方やオートマ車のオートマとは、『オートマチックトランスミッション』の略である。オートマ車とはドライバーがクラッチの操作をしなくてもギアチェンジが自動で行われる車のこと。なのでクラッチペダルを踏む必要もなく簡単であると、近年日本で販売されている新車の殆どがオートマ車なのである。方や業務用のトラックやスポーツカーなどの多くが、マニュアル車だというのはここだけの話だ。
蛇足だが近年ではオートマ限定免許を取得する人の割合が増えており、普通免許取得者の半数を超えている。警察庁が発表している『運転免許統計』によると、2016年は普通免許取得者127万7150人のうち、72万6216人(全体の56.9%)がオートマ限定免許取得者。2017年は普通免許取得者128万5520人のうち、オートマ限定免許取得者が73万7800人(全体の57.4 %)なっており、60%台は間近なのだという。おまけに2018年3月12日に『準中型免許』が新設されたこともあって、マニュアル免許取得者の割合は減少傾向。因に準中型車は、車両総重量が3.5トン以上7.5トン未満、最大積載量が2トン以上4.5トン未満、乗車定員が10人以下のものをいうのだが、2017年3月12日より前に普通自動車免許を取っていると、普通自動車免許の車両総重量が5トンから3.5トンになったため、車両総重量5トン未満の限定付き準中型自動車運転免許に名称が変更される。つまりはそれ以前に免許をとっている人の中には、何もせずとも準中型車や中型車を運転可能な人が今はいると言うわけ。
更に蛇足だが世界的に目を向けてみると、アメリカは日本と同様にオートマ車の割合が高いといわれている。それはアメリカは広大な土地を運転することが多く、ガソリンの価格が安いためと運転しやすいオートマ車の方が普及しているということらしい。一方、マニュアル車の車体価格がオートマ者よりも安いヨーロッパでは、マニュアル車の人気が高いとか。またヨーロッパの人々は基本的に一度購入したものを長く大切に使い続ける傾向が強く、車も数年で買い替える人は少数派なのだという。そのため、多くの人々が今もマニュアル車を長く乗り続ける傾向にあるらしい。
「まぁ、日本の世相的にはオートマ主流ってことですね。」
「久保田さんは?免許は?」
「あ、私はマニュアルも勿論運転しますよ?」
当然のようにティーポットを磨きながら微笑んで言う久保田。実は1973年前後の生まれの人が免許をとった辺りは、マニュアル車の方が免許取得率が高かったのだと言う。それにオートマとマニュアル車では、どっちが得なのかと聞く智美の真剣さ。車単体として考えれば燃費としてはマニュアル車の方が得だろうが、最近はマニュアル車の方が売っていないので高額になる可能性もある訳で。鈴徳が笑いながら最近はマニュアル車の方が販売店じゃ珍しいもんなと苦笑いしている。
「東北だとわりとマニュアル車多いんだけどなぁ。」
「どうしてですか?」
「雪道はマニュアル車の方が運転しやすいからだよー、ハムちゃん。」
ハムちゃんはオートマっぽいなどと呑気に笑う鈴徳だが、確かに女性はオートマ率が高いかもしれない。どちらにせよ免許証としてはマニュアル車でとっても、オートマも運転できるからマニュアルでとるのが良いかもとは言うが、そのために講習時間が延びるのとマニュアルならではの車の操作に手間がかかるという問題はある。
「なんの話で盛り上がってるんだ?」
そんな最中に顔を出したのはタイミングよく出版社帰りの鳥飼信哉と久保田松理。運転免許の話に関東圏じゃ車なしでも生活が効くからなと笑いながらも鳥飼信哉は、マニュアルで免許をとっていてわりと運転もしているという。慣れてしまえばなんともないがと信哉は笑うが、ここらは車線変更を必要とする事が多いから運転は気を付けろよと言われて仁聖は苦笑いだ。そこから再びマニュアルとオートマの話。
「でもマニュアルなんか、そうそう売ってないわよねー?」
「松理さんは?」
「私?マキマキ、私が運転するように見える~?」
その問いかけに麻希子はスッゴいスピード出して運転するか全くしないかのどっちかなとど言う始末だが、何故か他の面子もそれに賛同しているのに松理はそうかしらと首をかしげている。確かにここ近郊では交通網が発達しているからあまり運転の機会がないのは事実なので、結局松理はマニュアル車も可の免許は持っているが一度も運転したことのないペーパードライバーというやつらしい。
「松理は助手席専門だからね。」
「そうねぇ惣一くんが運転させないものねぇ。」
そんな呑気な夫婦の会話に香苗や早紀も、それも女としてはありだと賛同している有り様だ。
※※※
「いつの間に?」
帰宅した仁聖が真っ先に書斎に向かって、差し出された免許証を眺めた恭平が目を丸くする。それを仁聖は恭平の椅子の足元に座って、その膝に甘えながら褒めて褒めてと瞳で訴えかけながら足元から見上げていた。その様子に思わず笑いだしながらも、恭平は感心したように口を開く。
「すごいな、いつの間に通ってたんだ?」
撫で撫でと差し出された頭に誘われるように栗毛の髪を撫でながら恭平が驚いたように言うのに、仁聖は嬉しそうにその膝に顎を乗せていて。まるで大型犬のように足元でじゃれてくるのに笑いながら、何とはなしに免許証を眺めていた視線の先で恭平が「あ」と呟く。
「ん?なに?恭平?」
「あぁいや、オートマ限定なんだなと。」
案外それには誰しも気がつくものなのかと目を丸くした仁聖が視線をあげると、恭平が暫し考え込むようにしているのに気がつく。その表情にあれ?と疑問を感じながら仁聖が不思議そうに首を傾げた。
「恭平?何かした?」
「ん?いや、次に車買うなら、オートマの方がいいのかなと。」
え?!と今更ながらに仁聖の目が丸くなる。自動車学校の受付の時現在ではほぼオートマ限定で皆が通うと説明されたし、ここ数年マニュアルでの受講は数えるほどだとも。それに車自体殆どオートマ車になっているからと、仁聖と同時期に通った受講生でマニュアル車を選択したのはゼロだったのだ。それに今日の『茶樹』でも…………いや、あそこで免許を持っていたのは殆どがマニュアルの運転が可能で、ペーパードライバーの松理も実はマニュアル可なのだった。それにしたって恭平は久保田達より最近免許をとった人間で、確実にオートマ主流世代なのに!
「嘘!!恭平って、マニュアルなの?!」
「嘘って………………一度乗せたんじゃなかったか?確か。」
「えええええ!?」
そうなのだ、一度去年の今頃仁聖が乗せられた事のある恭平の車は、実は何をかくそうマニュアル車だったりする。ただしあの時は仁聖がインフルエンザで酷い高熱だったのと、まだ車の事なんて何一つ知らなかったのでマニュアルなのかオートマなのか全く気にもしていなかったというだけのこと。ここに来てまさかのマニュアル車オーケーの免許取得、つまり恭平はマニュアル車で教習を受けたわけで。
「な、なんでぇ?!」
「なんでって…………何となく?」
何となく?ってそんなぁと嘆きたくなるのは、仁聖としては何だか立場がないような気がするからで。オートマ車を自分で購入すればいいだけだけど、何だか恭平がマニュアルなのに自分はオートマというのが格好悪い気がする。
「そ、そんなことはないと思うけど…………。」
「なくない!やだっ!なんかやだ!!」
そんな風に膝でごねられてもと正直思う恭平に、何でか負けたと嘆きたくなる仁聖なのだった。
※※※
因みにオートマ限定でも運転できるマニュアル車というものも存在しているし、おまけに何時間か追加講習をうければマニュアル車の運転も可能になるのでオートマ限定でも心配はいらない。蛇足だけれど、仁聖が慌てて追加講習に走ったのは言うまでもないことなのだった。
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