鮮明な月

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間章 アンノウン

間話22.幸せの形

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気を失った外崎宏太の体を抱えて鳥飼信哉が『茶樹』迄戻ったのは、あの騒動からほんの十五分後。あの場で倒れた宏太を竹林から抱えて来たとは思えない速度だが、これ以上耳元で久保田松理に怒鳴られるのはごめんだったのだろう。宏太が三浦和希と対面したのはそこで了も説明されたが、その場で信哉の友人の看護師を呼び出してから再度宏太の長身を抱え今度はちゃんと久保田の車で外崎邸まで帰宅したのだった。自宅で宇佐川義人という看護師が来訪して簡単な診察を受けたが、(宇佐川はもと医学部に通っていて家庭の事情で看護学校にきり変えたという異色の経歴の持ち主で、土志田悌順の従兄弟なのだそうだ。)特に血圧や呼吸状態には異常がなく、元々ストレスに曝されると起こしていた軽い脳貧血じゃないかということになった。というわけで意識のない外崎宏太はそのまま寝室で休ませる事にして、了だけがその場に残ったのだった。

「以前から倒れる事があるからとクリニックに受診されてましたけど、あんまりストレス与えないで下さいよ?信哉さん。」

淡々と若瀬クリニック勤務の義人にそう言われた信哉が両手を上げて降参と言いたげに分かったと答えているが、穏和そうな見た目と違って再三辛口なのは元々そういう人物なのだという。既にそこまでに信哉を始めとして今夜のことでカッチリと義人からもお説教されて、警察の仕事に頭を突っ込むんじゃありませんと義人にこんこんと言われて返す言葉もない上に、梨央だと倍説教されると思ってあえて義人を呼んだのに結果として同じだったわけで。

「何か?梨央さんに連絡しましょうか?僕から。」
「ああ、しなくていい、頼む、義人。」

従兄弟の土志田はまだ現場で風間達と矢根尾を取り押さえた事情の説明をしているところだが、帰宅したら槙山忠志共々コッテリ説教されると思われる。
そんなわけで最初に階下にいたのは、鳥飼信哉と榊恭平に家の前で待っていた源川仁聖、後は久保田惣一と宇佐川義人。そこにやっと事情聴取から解放された土志田悌順と槙山忠志、そして鈴徳良二が集まったのだった。一先ず誰も大きな怪我もなかったし全員がここにいるのもなんだしと言うことで殆どが解散して、リビングに残ったのは巻き込んだ責任を取っての久保田惣一と、最初に了の事を頼まれていた恭平と仁聖、後は何故か鈴徳良二だ。

「なんで…………そんなことになってんの?」

お泊まりセットを準備に一端自宅まで戻って、帰ってきたら外崎邸には誰もおらず、しかも再三電話をかけても恭平も了も電話にでない。やむ無く玄関先で待っていたら、今度は外崎宏太を抱えた鳥飼信哉を含め多人数で戻ってきたわけで。
その後もどたばたしていてやっと今夜の事の次第を聞いた仁聖が、呆れたようにそう口にした。それに恭平もなんと答えたものかと首を捻るが、良二は呑気に絶品の夜食を準備しながらまぁ終わったことだしと笑う。そんな中で予想よりもションボリなのは久保田惣一の方で、松理のスタンガン三連撃の上にちゃんと責任とってから帰って来ないと家に入れないと松理に宣告されてしまったらしい。

「うう、でもさぁ放置してたら妊婦とか大事な人に害があるかもしれないし……。」
「うーん、でも姐さんに説明してなかったのはマスターの失態。ほら、ホットサンド出来たぞー。」

そんな暢気な良二の返答には聞いてるものとしては苦笑いするしかないが、ふと上階の様子が気になった恭平が視線を上げて立ち上がると様子を見てくると口にして階段に向かっていた。



※※※



「んっんん、ふっうんんっ!」

迷うことなく一気にヌプヌプと怒張が押し込まれていく。淫らなと音を立てて飲み込まされる熱を持った杭に、全身が逆に蕩けてしまいそうに支配されて了は思わず腰を押し付けてしまう。自分の吐き出した蜜と外崎の先走りの汁であっという間に滑りズリズリと押し込まれる快楽に、腰を引き寄せる宏太の手と肌に触れる唇が熱くて心地好くて。声を出さないように必死で押さえ込んでいる自分の口から絶え間なく喘ぎが溢れるのを、必死で堪えるのも忘れてしまいそうになる。

「了…………。」

熱っぽく耳元で囁きながら緩慢にユサリユサリと腰を揺らされ、時にはドツと根本まで叩き込まれ奥を抉られる。他に愛撫はキスだけなのに、ただ奥まで捩じ込まれる怒張に頭の芯まで痺れて感じて、全身が快感にヒクヒクと震えてしまう。

「了……、了………………。」

しかも何時もよりも甘くて低い声で、何度も耳元で名前を呼ばれているだけで容易く軽くいってしまいそうになっている自分。それが宏太が自分をどれだけ必要としていて、しかもそれこそ名前一つ読んでもらえないだけでしんどいなんて言うほどベタ惚れなんだと知らされたからで。言葉だけでなく声に酔わされてしまったみたいにビクビク痙攣する体に、宏太は執拗に名前を呼びながら更に深く奥まで怒張を咥え込ませてくる。

「んん、んっ、んんぅ、や、んんんっ、あ、ん!んんんぅうう……ふぅうん……んんん……っ!」

激しく突き込まれると甘ったるくリズミカルに声が溢れてしまうし、捏ね回されても同じように喘ぎが尾をひくばかり。しかも前後に蠢く腰に淫らに両足を絡めたまま揺さぶられてしまっている了の腰を、宏太の大きな手が引き寄せて離そうとしない。その上時々了の弱い足の付け根や腰まで刺激してくるそれが、いつになく優しい指なのに余計に気持ち好くて腰が跳ねてしまう。

「くぅんっ!!」
「ふふ、可愛い声出しやがるな…………了、ここがいいか?ん?」

酷く淫らなグポッという音と同時に深く奥に突き刺さる怒張に、一緒に尻を両手で包み込まれてグッと引き寄せられると腰が痙攣しながら仰け反ってしまう。それに併せて鎖骨の辺りに噛みつくようにして口づけて一時も離れまいとする宏太の愛撫に、何も考えられない程に感じてしまっていた。

「んっ……うぅ、くふぅ…………んっ!」
「了…………名前。」

口を押さえているままじゃ名前なんて呼べないけれど、手を離した途端盛大に喘ぎ声が出てしまいそうで了が必死に頭を振るのに宏太は不満げな気配を漂わせる。下に人がいると了は言おうとしたのに、宏太は不満そうな顔のままに腰を揺らしながら顔を近づけた。

「了…………、愛してる…………、ん……。」

低くてとんでもなく甘くて、聞いてるだけで赤面してしまうほど掠れた官能的な囁き。しかもそのまま耳朶に甘ったるくチュッと口付けて、また同じ言葉を繰り返しながら腰を抱き寄せユサユサと揺すりたてもする。それでも宏太の思う通りの言葉を了が言わないからか、ヒョイとそのまま抱き上げられて腰の上に乗せられてしまう。ズンッと喉元まで太い怒張を捩じ込まれ貫かれて、ジンジンと感電させられているみたいに腹の奥まで激しくて熱い快感が響いてくる。

「了…………中……ヒクヒクしてるな、気持ちいいか?ん?」
「うう、んんぅ…………ふ、ぅ、んんっ。」
「…………強情だな?ん?素直に、いいって言うまで、名前呼ぶまで、…………止めてやらねぇからな?覚悟しろよ?」

待ってと懇願する前に下からの突き上げがリズミカルに再開されて、ボチュボチュとはしたない淫らな音がするのに頬が熱い。こんな府設楽な音を立ててしまうほど自分の体が悦んでいて、声を堪えているのは結局行為が嫌なのではなくて階下に人がいるからというだけ。誰もいなければ迷わず声上げて、甘えながら抱かれていたのが自分でも分かってしまう。恐らく今の宏太は我を忘れているのだろうけれども、もし了が問いかければ下の事なんかどうでもいいと答えるのも分かってしまうのだ。

「ん、んんっ、んんっ、んぅんっ!んっ!」
「了……ほら、名前。」

強請る宏太の声が溶けてしまいそうに甘くて媚薬みたいに沁みてくるのに、舌先でチロリと乳首を舐められただけで先端から蜜を吹き上げてしまう。トロトロと溢れてく茎に滴る了の蜜をやんわりと宏太の指先が捉えて、溢れだす先端の鈴口を親指が意地悪く塞ぐ。

「んぅ!くぅうん、ううぅん!!」

絶頂に敏感になった先端にヌチヌチと指が擦り付けられ、それに反応する自分の声も酷く甘ったるい。刺激から逃げようと腰を揺すれば、後穴に咥えこんだ宏太の太くて硬い逸物を自分で体内に擦り付けているも同然。かといって反対に動かせば宏太の手に自分の怒張を擦り付けているみたいで、どちらもどうしようもないほど気持ちいい。

「ふぅ、う、あ、う、んんっ、ぉた……っんん、や、んっ。」
「了……俺の…………了…………、了…………。」

その声に誘われているように勝手に腰がガクガクと揺れ、了を抱き上げて乳首を舐め吸いたてている宏太も快感に息が上がるのを直に宏太の唾液で濡れた乳首に感じてしまう。自分の動きで宏太が良くなっていると、吐息で知らされるのは例えようもない快感で。それに宏太の腰に巻き付けていた足が耐えきれずにベットに立てられて、自然と自分から腰を大きく上下、前後と揺さぶりかけてしまっていた。

「可愛いな、自分からそんなに擦って…………いいか?ん?了……。」
「ふぁ、あ、や、…………こぉ、た。はぅん…………っ!」

頭の芯まで快感で蕩けてどうしようもなくなって、もっと強い快感が欲しくて。それにもっと囁いて欲しくて、怒張と指とどちらも宏太にだけ愛されて、蕩けてしまいそうに気持ち好くて。頭の中はそればかりで堪えきれずに口元から離した両手で宏太の首もとに手を回して縋りつく。

「了……、いい、ん、了…………っ。」
「あ、んんっ、ふぁ、こぉた、あっ……ああっ!」

すると下から宏太の手が了の体を再び掬い上げて、激しく腰を打ち付けはじめる。

「ひんっ!あっ!だめっ……あぅ!こ、ぉたぁあ!ああっ!こぅ、た。」

もうそうなってしまったら後は耐えられる筈もなくて、了もアラレもなく喘ぎ宏太の名前を呼び続けるしか出来なくなってしまっている。それが逆に宏太には嬉しいのか宏太も甘い声で了の名前を何度も何度も繰り返し耳元で囁き続けて、更に追い上げるように腰を振り立て了を歓喜に泣かせていく。

「こぉ、た、こぅたっ…………あ、んんっ、こぉたぁ!」

そうしてあっという間に陥落させられてしまうのが、実は何者にも変えがたいくらいに酷く甘くて幸せなのだった。



※※※



流石に恭平には階段では分からなかったが、寝室のドアの前まで来れば何が起きているかは言うまでもなく分かる。ドアノブに伸ばしかけた手を止めて素直に廻れ右して戻ってきたのは英断だと思うが、他人の睦事なんて早々聞くこともなくて。

…………なんか、申し訳ない…………

階下に戻ろうにもまだ顔が紅くなっているような気がして、階段の手摺に頬杖をついて階下を見下ろす。視界には変わらず大きくて広い邸宅だけど、了が記憶をなくしていても結局ここは以前と変わらず外崎宏太が過ごしやすいように整えられているのに気がつく。
あの時記憶を取り戻した了が真っ先に気にしたのは、外崎宏太がどんな様子でここから出ていったかで。

それ聞いただけで…………って。

それを聞いただけで了は外崎宏太が所謂良からぬことをしようとしていると断定して、久保田松理に電話をしてさっさと『茶樹』に乗り込んだのだった。つまりは記憶がないなんて大した問題ではなくって、どこまでいっても了は外崎宏太しか見ていないわけで。それに気がつくとおかしいような呆れてしまうような気持ちに、恭平もなってしまう。

しかも記憶が戻って直ぐこれだ。

仲睦まじいことこの上ない、寝室の甘い空気には正直参ってしまう。いや、帰ったのを確認してからとは思うが、結城晴がどうせ外崎は数日も我慢できないと宣言していたのが過る。『茶樹』に向かう道中、なんて記憶をなくしたかと松理に聞かれた了が、自分でも忘れたい事があったからと呟いてもいたけれど結局はそれもあっての今の了なのだと思う。

自分も同じ……ようなもんだけどな…………。

結局は過去は変えようもないし、それを乗り越えてこそ今の自分達がいるわけなのだから、何もかもオールリセットは不可能なのだ。大体にしてオールリセットしてしまったら、今の幸せも消してしまうことになる。そういう意味では帰途で耳にした三浦和希のように記憶が維持できないという症状は、余りにも残酷なものだと恭平は思う。

大事な人や思い出を次々に失っていく人間は、何時かは幸せになれるんだろうか…………。

誰かを探し歩いていても、その人との思い出も名前すら覚えていられない孤独な殺人鬼。何時かは治るかもしれないし、もしかしたら永遠にそのままかもしれない障害。実は誰よりも不幸で悲しい存在なのかもしれないと頬杖をついたままの恭平は、溜め息混じりの吐息を溢していた。
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