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第十五章 FlashBack
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車の中という空間で何でこんな行動に鳥飼信哉が出たのか正直恭平には分からないまま、横で全身から不穏な空気を放っている仁聖の姿になんと話を納めたら良いのか混乱していた。確かに鳥飼信哉が新たに鳥飼道場を再興して門下生を新たに集めるのだとすれば、宮内と関係なく再び合気道や古武術を学ぶことは可能なのだ。しかも宮内に文句を言わせないほどの血筋と能力を実際に鳥飼信哉は持っていて、宮内でさえ身に付けられない抜刀術だけでなく全ての古武術を指南できる鳥飼道場の再興に門下生になる方が困難になるのは目に見えている。その当人から指名されて通わせると言われて嬉しくないはずがなかったけれど、何もこんな事態の時に敢えて喧嘩を売るような発言は
「信哉さんっ………ちょっと!」
車を止め車外に出た鳥飼信哉の腕を気がついたように咄嗟に掴んで、少しだけ距離をとって睨み付けながらあんた何やってんですかと低い声で指摘する。案の定夜風の中でにニヤリと人を食ったような笑顔を浮かべた信哉は、分かっていてわざと仁聖に当て付けるようにあんなことを言ったのだ。
「二人で通ってもいいぞ?」
「何言ってんですか、仁聖を焚き付けるような。」
「だって、お前、虫の居所が悪いの飲み込んだろ?」
その通りだ。本当なら恭平だってあの場で仁聖だけでなく藤咲信夫も外崎宏太も約束が違うと怒鳴り付けてやりたかった。怪我は絶対にさせないし、そんな行動はさせないという話だから、渋々仁聖が囮になるのだって折れたのだ。しかも元から相手を捕まえるつもりではなく、相手の行動を抑制するのが目的だなんて何一つ聞いていない。こんな風に自分だけ茅の外にされて、最終的に仁聖が怪我しましたなんて。
「それは……。でも、それとこれは……。」
「人の事はさておき、お前と俺は立場も境遇も同じ。ある意味じゃ兄弟みたいな気分なんだがな。俺としちゃ歯痒いばっかりだ、お前を見てると。」
立場も境遇も同じ。互いにシングルマザーの一人息子で育ち、父親は今も生きていて、それぞれに父親は同じ流派の派生道場の道場主。しかも互いに過去には天才と褒めそやされ、将来を有望視された人間。それなのにと恭平だって信哉を見て考えたのは事実だったが、でも鳥飼信哉の方も同じように自分を見ていたのだ。
「お前はなんでもかんでも我慢しすぎだ。」
生まれついての性格がと言い返そうとした恭平に向かって、突然信哉は諭すように声を潜めて呟く。
「過去の俺みたいに全てを我慢して呑み込む必要なんかないだろ?お前は。」
それは想定にない言葉だった。自分と違って何もかも持っているように見える。血筋も能力も、そして理解のある家族すらも持っている鳥飼信哉が、全てを我慢して生きてきたなんて思いもよらない言葉だ。でも確かに考えてみれば、今になって信哉が結婚の話やそれ意外の事で堰をきったように生き生きと活動し始めたように見えるのは事実。つまりは長い間何か鳥飼信哉自身が、生きる全てを我慢して呑み込みながらずっと生きていたということのように感じる。そしてその彼は恭平にも何もかも我慢している必要はないと言いたいのだと、自分を見下ろす瞳の中に見つける。
「…………あの怪我の事だって、お前はまるで納得してないんだろ?」
「そ、れは………。」
納得なんか出来る筈がない怪我なのだ。しなくていい危険に飛び込んで、しなくていい怪我をして、もし仁聖を永遠に失う事になったら。自分が茅の外にされている間に、もし仁聖を失っていたら?怪我が酷くて何か障害をおったら?その時に隣に自分がいたのならと、何かできたかもと悔やむだけなのか?思わず遠目に信哉といる自分を見ることもできずに、不機嫌そうに俯いている仁聖を見つめ恭平は唇を噛む。
「失ってからじゃ………無意味だと、お前だって嫌になるほど知ってるだろ?恭平。」
互いに兄弟のように同じく大事なものを失ったからこそ。そして恭平よりも更に何か多くの経験を重ねて老成したような低く穏やかな声音に、恭平は弾かれたように信哉を見上げた。そこにいるのは自分より僅かに二つだけ上の人間には見えず、しかも何もかもを見透かすように恭平を覗きこむ。鋭利で刃物のように鋭く老成した野生の虎のような光を放つ瞳に息を飲んで、信哉の言葉の意味を噛み締める。
怒り、不快だと考えていることを全て我慢してのみこむ。
それをして失った時にどれだけ深く後悔して苦悩してきたか。そうならない対応を学んだはずだと言われて、おまけに好きだったことなんだから自分から取り戻したらどうなんだと言われている。好きなのに自分から逃げ出したことに一度改めて向き合えといわれてしまった上に、飲み込んで良いことと悪いことがあると言われているのだ。
思わずもう一度振り返る恭平の視線の先に、気がついたように顔を向けた仁聖の戸惑う表情が浮かぶ。仁聖の視線にはワザワザ腕を取り距離をとって話す恭平と信哉が映っている筈で、それが仁聖の戸惑う表情になっているのもわかっていた。
好きだから、大事だから一緒に
そう二人で決めたはずなのにと恭平の心が呟くのに反応したみたいに仁聖が数歩こちらに歩み寄るのが見えて、思わず恭平は傍にいた信哉の腕から手を離していた。互いに歩み、先に歩み寄ったのは仁聖というよりは恭平の方なのにホッと仁聖の険しい表情が一瞬緩んだ。ところが歩み寄った先で仁聖の頬を音を立てて恭平の手が打ったのに、訳もわからずポカーンとしたのは仁聖だけ。
「きょ……へ?」
背後で恭平の行動に何故かニヤリと笑う信哉の様子にムッとした仁聖を、グイと襟首を掴んで自分に引き寄せて恭平が鋭い視線を向けた。
「お前、俺の事なんだと思ってる?」
「え、あ………きょ、うへ?」
「俺はお前のなんだ?荷物か?」
大事に囲われて何も知らされず、ただ待つだけ。そんなの望んでもいないのに勝手に自分だけが茅の外にされて、それでも仁聖が望んだのだからと怒りをのみこむ。そんな関係を押し付けられるのは本当は真っ平ごめんだと、怒りながら思っていたのに言えなかった。仁聖が大事だから嫌われたくないからだと自分では思い込もうとしていたが、それは今までと何も変わらず苦悩を飲み込み自分を殻に籠らせるだけ。それじゃ何も変わらないし、それでは自分が後退していくだけなのだ。
「そんな…俺は………。」
「そうしたかったんだろ?でも、その理由を俺に隠した。」
仁聖が自分を大事にしてくれてるのは分かっているけど、だからって他の奴らとこんなかたちであからさまに差別される謂れはない。それを怒っても本当はいいはずなのに、言えなくなっていたのは以前の自分となにもかわらない。そう気がつかされて改めて呑み込もうとしていた怒りのまま言葉を放った恭平は、信哉に挨拶もそこそこに仁聖を引き摺るようにして歩き出す。
突然向けられた怒りといつにない行動に言葉にならない仁聖は、大人しく子犬のように項垂れてそれに従うしかできないでいる。確かに恭平の言う通り、最初から仁聖が囮になると決めた時点で仁聖がそうしたかったのは事実なのだ。
誰かを好きになると人は思いもよらない行動をしたくなるものなのか
それは度々目にしてきたのだけど、そのせいで相手を傷つけたくなるのか。他に方法はないのか。自分が知らないところで様々な出来事が日々起きていて。それを知る度に思うのは自分は受け入れて貰えたからこうして幸せに過ごせているけど、本当は彼らと自分は紙一重なのではという強い焦燥感だ。同時に誰か自分よりも恭平の心を引き寄せる人間が現れたらという恐怖感や、もしそうなった時に自分は了のような行動に出るのだろうかという不安。
だから知りたかった、高橋という人が何故狭山明良を傷つけてしまったのか。
でも結局は正しい答えなんか存在しなくて、そこにあるのは利己的で自分勝手な感情だけだった。つまりは何も得られる答えになんかならない、自分が大人になりたいと足掻いていた時了に聞いたのと答えはまるで同じだったのだ。それが分かったけれど、それを恭平に説明するには難しい。
「お前が何を知りたくてしたかは分からん。」
「きょ……うへ…。ごめ……。」
扉に引き込まれ冷たく怒りに満ちた声でいい放たれて思わず視線をあげた仁聖の目の前には、月のように澄んで真っ直ぐに自分を見つめる恭平の瞳。それに射ぬかれたように言葉を失った仁聖を、言葉を繋ぐこともなく恭平は引き寄せて口付けていた。
※※※
「あ、………んっ!んぅ!」
抱きかかえられ下から突き上げ、ズルリズルリと体内を深く抉られ擦られる熱に甘い声が溢れ落ちて体がガクガクと戦く。無造作に組み敷かれて抱かれ初めて延々と溺れさせられる快感に戸惑うし、明良が何故こうするのか今の晴にはまるで理解できないままだ。明良に別れるかと問われて嫌だと晴が答えたからなのか、それとも何か明良をこうさせる言葉を自分が放ったのか。戸惑い混乱しているのに答えがわりに与えられる快楽には抗えなくて、しかも宝物のように丹念に執拗に愛撫を施されて晴はもう狂いそうだ。
「晴っ……!」
後ろ抱きに組み敷かれ貫きながら、掠れた明良の甘い声に耳を擽られる。それだけで本当は胸が痛いほどに疼く。好きで大事なものをどうしたら守れるのか分からないから晴はこうして戸惑い迷うのに、抱かれるだけで何もわからなくなるくらいに明良に溺れてしまう。そして今度は晴を幼女のように抱き上げ、まるで排泄でもさせるような体勢で淫らに下から突き上げ出す。グプッと淫らな音をあげながら、耳元に熱っぽく囁いてくる明良の声。
「晴、……俺の、晴っ………愛してる…。」
そんな風に愛を囁くのに、別れようとも同じ口で言った。それを思うだけで心が砕けてしまいそうなのに、明良にはそれが伝わらないのが悔しくて悲しい。それを思うとこんなにも深く体は感じさせられているのに、晴の瞳からは自然と涙が溢れていた。
「晴………?」
「ふっ………うっ、うぅんっ!」
ゆっくり擦られ感じさせられる喘ぎ混じりの晴の掠れた泣き声に、明良が背後で戸惑うのが分かってしまう。気がつかないで乱暴に犯し尽くして狂わせて欲しいのに、明良の暖かな手が晴の頬を撫でて抱き締めてくる。
「晴………ごめん、俺が悪かった…………。」
そんなことを囁きながら腰を揺すられ、今度は完全な喘ぎが甲高く甘く溢れ落ちてしまう。こんな狡いやり方で快楽の中で溺れさせられてこんな風に謝られて、しかも優しく抱き締め頬を撫でられ口付けてくる。気持ちいいこと以上に胸が痛くて苦しいのにと晴が泣きながら喘ぐと、明良はまた僅かに嬉しそうに耳を噛んで愛撫を繰り返す。
「俺が………怪我したの、半分は晴のせい。」
揺すられながらそう囁く声に、晴が酩酊しつつある頭を降りながら必死に明良を見つめる。興奮に頬を上気させ獣のように口付けながら鋭い視線が晴をうっとりと見つめ返して頬を撫でてくるのに、晴は荒い息を吐きながら戸惑いの瞳を向けた。怪我をしたのは晴が全く警戒もせずにいたせいで、半分もなにも能天気にしていた晴のせいだ。それなのにこうして明良は半分とはっきり言う。
「あ、…ひ、らぁ?な、んれ、はんぶ……んぅんっ!」
「晴が……可愛くて、俺の晴が、可愛くて……見とれてて……、好き、晴が。」
そう熱っぽく囁きながらより深く捩じ込まれた熱が体内の最も奥に当たって、晴は意識を失いかけながら全身を震わせて明良の怒張を熱くねっとりと締め上げた。
「んんっすご……晴、気持ちい……んっ、もっと奥に、ね?」
「ふぁっ!あっ!あ、やら、それ、んんんぅ!!」
足を高く持ち上げられ完全に怒張を根本まで捩じ込まれると、全身がガクガクと勝手に快感に痙攣し始めてしまう。気持ち良すぎて酩酊しながら喘ぐ晴を明良は夢見心地のように幸せそうに微笑んで、耳元で意地悪な言葉ばかりを囁き続ける。
「晴、一緒にいたい?」
「い、……らぃよぉ、あ、きらとぉ……お、れぇあんんんっ!」
そう答えると明良は今まで見たことないほどに幸せそうに微笑んで、晴の唇を奪い全てを征服して晴に何度も繰り返させる。
「じゃ俺のものね?いい?晴。」
「い、からぁ、あ、きらぁあ、も、おれぇ……。」
もしかしたらこの感覚は夢なのかもとボンヤリ考えると、明良は嬉しそうに微笑みながら尚更に激しく腰を振り立てて晴を泣きじゃくらせてくるのだ。そうして何度も何度もグズグスに溶けるほど抱き尽くされ声が掠れるほどに晴は喘がされて、晴は何度目かの絶頂に既に水のような射精を繰り返していた。
「信哉さんっ………ちょっと!」
車を止め車外に出た鳥飼信哉の腕を気がついたように咄嗟に掴んで、少しだけ距離をとって睨み付けながらあんた何やってんですかと低い声で指摘する。案の定夜風の中でにニヤリと人を食ったような笑顔を浮かべた信哉は、分かっていてわざと仁聖に当て付けるようにあんなことを言ったのだ。
「二人で通ってもいいぞ?」
「何言ってんですか、仁聖を焚き付けるような。」
「だって、お前、虫の居所が悪いの飲み込んだろ?」
その通りだ。本当なら恭平だってあの場で仁聖だけでなく藤咲信夫も外崎宏太も約束が違うと怒鳴り付けてやりたかった。怪我は絶対にさせないし、そんな行動はさせないという話だから、渋々仁聖が囮になるのだって折れたのだ。しかも元から相手を捕まえるつもりではなく、相手の行動を抑制するのが目的だなんて何一つ聞いていない。こんな風に自分だけ茅の外にされて、最終的に仁聖が怪我しましたなんて。
「それは……。でも、それとこれは……。」
「人の事はさておき、お前と俺は立場も境遇も同じ。ある意味じゃ兄弟みたいな気分なんだがな。俺としちゃ歯痒いばっかりだ、お前を見てると。」
立場も境遇も同じ。互いにシングルマザーの一人息子で育ち、父親は今も生きていて、それぞれに父親は同じ流派の派生道場の道場主。しかも互いに過去には天才と褒めそやされ、将来を有望視された人間。それなのにと恭平だって信哉を見て考えたのは事実だったが、でも鳥飼信哉の方も同じように自分を見ていたのだ。
「お前はなんでもかんでも我慢しすぎだ。」
生まれついての性格がと言い返そうとした恭平に向かって、突然信哉は諭すように声を潜めて呟く。
「過去の俺みたいに全てを我慢して呑み込む必要なんかないだろ?お前は。」
それは想定にない言葉だった。自分と違って何もかも持っているように見える。血筋も能力も、そして理解のある家族すらも持っている鳥飼信哉が、全てを我慢して生きてきたなんて思いもよらない言葉だ。でも確かに考えてみれば、今になって信哉が結婚の話やそれ意外の事で堰をきったように生き生きと活動し始めたように見えるのは事実。つまりは長い間何か鳥飼信哉自身が、生きる全てを我慢して呑み込みながらずっと生きていたということのように感じる。そしてその彼は恭平にも何もかも我慢している必要はないと言いたいのだと、自分を見下ろす瞳の中に見つける。
「…………あの怪我の事だって、お前はまるで納得してないんだろ?」
「そ、れは………。」
納得なんか出来る筈がない怪我なのだ。しなくていい危険に飛び込んで、しなくていい怪我をして、もし仁聖を永遠に失う事になったら。自分が茅の外にされている間に、もし仁聖を失っていたら?怪我が酷くて何か障害をおったら?その時に隣に自分がいたのならと、何かできたかもと悔やむだけなのか?思わず遠目に信哉といる自分を見ることもできずに、不機嫌そうに俯いている仁聖を見つめ恭平は唇を噛む。
「失ってからじゃ………無意味だと、お前だって嫌になるほど知ってるだろ?恭平。」
互いに兄弟のように同じく大事なものを失ったからこそ。そして恭平よりも更に何か多くの経験を重ねて老成したような低く穏やかな声音に、恭平は弾かれたように信哉を見上げた。そこにいるのは自分より僅かに二つだけ上の人間には見えず、しかも何もかもを見透かすように恭平を覗きこむ。鋭利で刃物のように鋭く老成した野生の虎のような光を放つ瞳に息を飲んで、信哉の言葉の意味を噛み締める。
怒り、不快だと考えていることを全て我慢してのみこむ。
それをして失った時にどれだけ深く後悔して苦悩してきたか。そうならない対応を学んだはずだと言われて、おまけに好きだったことなんだから自分から取り戻したらどうなんだと言われている。好きなのに自分から逃げ出したことに一度改めて向き合えといわれてしまった上に、飲み込んで良いことと悪いことがあると言われているのだ。
思わずもう一度振り返る恭平の視線の先に、気がついたように顔を向けた仁聖の戸惑う表情が浮かぶ。仁聖の視線にはワザワザ腕を取り距離をとって話す恭平と信哉が映っている筈で、それが仁聖の戸惑う表情になっているのもわかっていた。
好きだから、大事だから一緒に
そう二人で決めたはずなのにと恭平の心が呟くのに反応したみたいに仁聖が数歩こちらに歩み寄るのが見えて、思わず恭平は傍にいた信哉の腕から手を離していた。互いに歩み、先に歩み寄ったのは仁聖というよりは恭平の方なのにホッと仁聖の険しい表情が一瞬緩んだ。ところが歩み寄った先で仁聖の頬を音を立てて恭平の手が打ったのに、訳もわからずポカーンとしたのは仁聖だけ。
「きょ……へ?」
背後で恭平の行動に何故かニヤリと笑う信哉の様子にムッとした仁聖を、グイと襟首を掴んで自分に引き寄せて恭平が鋭い視線を向けた。
「お前、俺の事なんだと思ってる?」
「え、あ………きょ、うへ?」
「俺はお前のなんだ?荷物か?」
大事に囲われて何も知らされず、ただ待つだけ。そんなの望んでもいないのに勝手に自分だけが茅の外にされて、それでも仁聖が望んだのだからと怒りをのみこむ。そんな関係を押し付けられるのは本当は真っ平ごめんだと、怒りながら思っていたのに言えなかった。仁聖が大事だから嫌われたくないからだと自分では思い込もうとしていたが、それは今までと何も変わらず苦悩を飲み込み自分を殻に籠らせるだけ。それじゃ何も変わらないし、それでは自分が後退していくだけなのだ。
「そんな…俺は………。」
「そうしたかったんだろ?でも、その理由を俺に隠した。」
仁聖が自分を大事にしてくれてるのは分かっているけど、だからって他の奴らとこんなかたちであからさまに差別される謂れはない。それを怒っても本当はいいはずなのに、言えなくなっていたのは以前の自分となにもかわらない。そう気がつかされて改めて呑み込もうとしていた怒りのまま言葉を放った恭平は、信哉に挨拶もそこそこに仁聖を引き摺るようにして歩き出す。
突然向けられた怒りといつにない行動に言葉にならない仁聖は、大人しく子犬のように項垂れてそれに従うしかできないでいる。確かに恭平の言う通り、最初から仁聖が囮になると決めた時点で仁聖がそうしたかったのは事実なのだ。
誰かを好きになると人は思いもよらない行動をしたくなるものなのか
それは度々目にしてきたのだけど、そのせいで相手を傷つけたくなるのか。他に方法はないのか。自分が知らないところで様々な出来事が日々起きていて。それを知る度に思うのは自分は受け入れて貰えたからこうして幸せに過ごせているけど、本当は彼らと自分は紙一重なのではという強い焦燥感だ。同時に誰か自分よりも恭平の心を引き寄せる人間が現れたらという恐怖感や、もしそうなった時に自分は了のような行動に出るのだろうかという不安。
だから知りたかった、高橋という人が何故狭山明良を傷つけてしまったのか。
でも結局は正しい答えなんか存在しなくて、そこにあるのは利己的で自分勝手な感情だけだった。つまりは何も得られる答えになんかならない、自分が大人になりたいと足掻いていた時了に聞いたのと答えはまるで同じだったのだ。それが分かったけれど、それを恭平に説明するには難しい。
「お前が何を知りたくてしたかは分からん。」
「きょ……うへ…。ごめ……。」
扉に引き込まれ冷たく怒りに満ちた声でいい放たれて思わず視線をあげた仁聖の目の前には、月のように澄んで真っ直ぐに自分を見つめる恭平の瞳。それに射ぬかれたように言葉を失った仁聖を、言葉を繋ぐこともなく恭平は引き寄せて口付けていた。
※※※
「あ、………んっ!んぅ!」
抱きかかえられ下から突き上げ、ズルリズルリと体内を深く抉られ擦られる熱に甘い声が溢れ落ちて体がガクガクと戦く。無造作に組み敷かれて抱かれ初めて延々と溺れさせられる快感に戸惑うし、明良が何故こうするのか今の晴にはまるで理解できないままだ。明良に別れるかと問われて嫌だと晴が答えたからなのか、それとも何か明良をこうさせる言葉を自分が放ったのか。戸惑い混乱しているのに答えがわりに与えられる快楽には抗えなくて、しかも宝物のように丹念に執拗に愛撫を施されて晴はもう狂いそうだ。
「晴っ……!」
後ろ抱きに組み敷かれ貫きながら、掠れた明良の甘い声に耳を擽られる。それだけで本当は胸が痛いほどに疼く。好きで大事なものをどうしたら守れるのか分からないから晴はこうして戸惑い迷うのに、抱かれるだけで何もわからなくなるくらいに明良に溺れてしまう。そして今度は晴を幼女のように抱き上げ、まるで排泄でもさせるような体勢で淫らに下から突き上げ出す。グプッと淫らな音をあげながら、耳元に熱っぽく囁いてくる明良の声。
「晴、……俺の、晴っ………愛してる…。」
そんな風に愛を囁くのに、別れようとも同じ口で言った。それを思うだけで心が砕けてしまいそうなのに、明良にはそれが伝わらないのが悔しくて悲しい。それを思うとこんなにも深く体は感じさせられているのに、晴の瞳からは自然と涙が溢れていた。
「晴………?」
「ふっ………うっ、うぅんっ!」
ゆっくり擦られ感じさせられる喘ぎ混じりの晴の掠れた泣き声に、明良が背後で戸惑うのが分かってしまう。気がつかないで乱暴に犯し尽くして狂わせて欲しいのに、明良の暖かな手が晴の頬を撫でて抱き締めてくる。
「晴………ごめん、俺が悪かった…………。」
そんなことを囁きながら腰を揺すられ、今度は完全な喘ぎが甲高く甘く溢れ落ちてしまう。こんな狡いやり方で快楽の中で溺れさせられてこんな風に謝られて、しかも優しく抱き締め頬を撫でられ口付けてくる。気持ちいいこと以上に胸が痛くて苦しいのにと晴が泣きながら喘ぐと、明良はまた僅かに嬉しそうに耳を噛んで愛撫を繰り返す。
「俺が………怪我したの、半分は晴のせい。」
揺すられながらそう囁く声に、晴が酩酊しつつある頭を降りながら必死に明良を見つめる。興奮に頬を上気させ獣のように口付けながら鋭い視線が晴をうっとりと見つめ返して頬を撫でてくるのに、晴は荒い息を吐きながら戸惑いの瞳を向けた。怪我をしたのは晴が全く警戒もせずにいたせいで、半分もなにも能天気にしていた晴のせいだ。それなのにこうして明良は半分とはっきり言う。
「あ、…ひ、らぁ?な、んれ、はんぶ……んぅんっ!」
「晴が……可愛くて、俺の晴が、可愛くて……見とれてて……、好き、晴が。」
そう熱っぽく囁きながらより深く捩じ込まれた熱が体内の最も奥に当たって、晴は意識を失いかけながら全身を震わせて明良の怒張を熱くねっとりと締め上げた。
「んんっすご……晴、気持ちい……んっ、もっと奥に、ね?」
「ふぁっ!あっ!あ、やら、それ、んんんぅ!!」
足を高く持ち上げられ完全に怒張を根本まで捩じ込まれると、全身がガクガクと勝手に快感に痙攣し始めてしまう。気持ち良すぎて酩酊しながら喘ぐ晴を明良は夢見心地のように幸せそうに微笑んで、耳元で意地悪な言葉ばかりを囁き続ける。
「晴、一緒にいたい?」
「い、……らぃよぉ、あ、きらとぉ……お、れぇあんんんっ!」
そう答えると明良は今まで見たことないほどに幸せそうに微笑んで、晴の唇を奪い全てを征服して晴に何度も繰り返させる。
「じゃ俺のものね?いい?晴。」
「い、からぁ、あ、きらぁあ、も、おれぇ……。」
もしかしたらこの感覚は夢なのかもとボンヤリ考えると、明良は嬉しそうに微笑みながら尚更に激しく腰を振り立てて晴を泣きじゃくらせてくるのだ。そうして何度も何度もグズグスに溶けるほど抱き尽くされ声が掠れるほどに晴は喘がされて、晴は何度目かの絶頂に既に水のような射精を繰り返していた。
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