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第十五章 FlashBack
179.
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リビングのソファーで了に抱き締められて泣きじゃくっていた晴の腕を突然に掴んだ手に、晴は反射的にその手の主を涙に潤んだ瞳で見上げていた。そこにいたのは誰でもない狭山明良。一度自宅に寄って私服に着替えて晴の分の着替えを持参してきた様子の明良が、了の腕の中で泣きじゃくっていた晴の腕をソファーの背もたれ越しに掴んでいた。
「……あ、きら。」
掠れて弱々しい声で晴が名前を呼ぶと、一瞬傷ついたような光が明良の瞳を過る。了がその様子を目に明良に向かって口を開く前に、抱き締められていた腕からもがくようにして逃れた晴の両手が明良に縋りついていく。その様子に了は放とうとした言葉を納めて、晴がしたいようにさせてやるように身を引いた。
「………あ、きら、あきらぁ。」
弱く震えながら繰り返される晴の自分を呼ぶ声に、明良は低く抑揚のない声でただいまと呟きながら晴のことを意図も容易く背もたれも構わずにソファーから抱き上げた。いつになく憮然とした明良の表情と声に、了が少しだけ表情を固くして思わず声をあげる。
「明良。」
「すみません、話なら後で聞きます………。」
了がかけた声に何ともすげない言葉を返した明良は、まるで了から晴を引き離そうとするように抱きついた晴を抱き上げたさっさと踵を返す。そしてこれ以上了から話しかけられたくないと言わんばかりに、全身から威嚇するような気配を漂わせて明良はリビングから晴を連れ出していた。
なんで
本当はあの場でそう問いかけて晴を問い詰めたかった。が、腕に抱き止めた晴はまだ泣いているのか押し付けられた肩の辺りが熱く濡れる感触がする。階段を上がる振動にもまるで反応しないで顔を埋めている晴の様子は、明良が怪我をした時とまるで変わりがないことに密かに明良の方も衝撃を受けてもいた。
ここ数日の晴の様子は理解していたつもりだったけど、自分が傍にいない間に晴が泣きじゃくっていて、しかもそれを真っ先に慰めたのが自分ではないという現実への苛立ち。そして最も先にそれに気がつくべき自分は、晴の様子に気がついていなかったのではなく見て見ないふりをしていたに等しい。
晴がおかしいのは分かっていたのに、様子を見てた………
陽気な笑い顔の印象が強い結城晴。それを明良だって十分にわかっている。それなのに晴がここ数日ずっと笑いもせず物憂げに目を伏せていたのにも、明良はちゃんと気がついていた。晴は明良が話しかけても悲しげに視線を向けて仄かな微笑みを見せるだけ。
俺にすら天真爛漫なあのいつもの可愛い笑顔を見せなかったのに。
分かっていてそのままにしてしまった結果追い詰められた晴は、了に抱き締められて泣いていた。明良の今沸き上がるこの激しい苛立ちが、明良のくだらない嫉妬なのもわかる。自分より先に異常を見抜いて晴を慰めて抱き締めていた了の姿に激しく憤り、それをみて晴を引き離すことしかできない自分の未熟さが腹立たしい。
ゲストルームの扉を乱暴に開けて音をたててドサリとベットに晴を下ろした途端、明良は晴のまだ濡れて潤んだ瞳を真っ直ぐに見下ろすことになった。
綺麗で可愛い明良の大事な晴
周囲の光を集めてキラキラ潤んだ瞳が光りながら明良のことを捉えて、離れてしまった明良の体に戸惑うような手が伸ばされてくる。離れちゃイヤとその手が明良を引き寄せてくれるのが嬉しくもあるのに、明良の口からは素直じゃないひねくれた言葉がついこぼれ落ちてしまう。
「なんで………他の男の腕ん中で、泣いてるの?晴。」
晴がこんな風に追い詰められそうするしかなくなってしまったことを明良は謝りたいのに、明良の口から出たひねくれた言葉に晴は叱責されたと感じて尚更に傷つき目を見開いて更に大粒の涙を溢す。晴が意図してそんな行動ができる人間ではないのは、もう明良にだってよく分かりきっているのにまた傷つけてしまう。
「ご、め………あき、らぁ………ごめ、なさい…………ふぇ……。」
ふにゃと泣きながら心の底から真っ直ぐな思いで謝り続ける晴。謝らなくてはいけないのは明良の方なのに、晴はまるで自分が悪いことをしたと言うように泣きながら明良に縋りついて。
そうじゃない。
こんな風に晴に謝らせたい訳でもなければ、こんな風に脆く泣かせたいわけでもない。明良はただ晴がこんなにも脆く泣き続けるのか理由が知りたいだけだし、出来ることなら何時もの天真爛漫な笑顔の晴に戻してやりたい。それなのに自分が出来ることと言えば、こうして晴をいつも追い詰めて、そして乱暴に抱いてしまう。
「あきらぁ……。」
泣きじゃくっている晴はろくな抵抗もしないままベットに押し付けられて、乱暴に服を引き剥がされても晴は困惑に震える瞳で明良の事を見上げるだけ。それでも抵抗しない晴を無理矢理に俯せにして、明良は白く滑らかなうなじに噛みつくように口づけ覆い被さった。怪我をしてここに泊めるよう指示されてから明良だって流石に他人の家のゲストルームだからと我慢して、個人的には必死に抱き締めて眠るだけに納めてきたのだ。それなのに他人の腕で泣いていた姿だけでなく、今こうして組み敷かれた晴の肌が吸い付くように熱を持ち明良を獣のようにしてしまう。
「あ、きら、んぅっ!」
明良の唇がなぞり吸い付かれる感触に、あっという間に快感に呑まれ始めた肌を染めて晴が震えた声をあげる。こんなにも可愛く甘く自分に溺れている筈の晴なのに、どうしてあんな風に他の男の腕の中で泣きじゃくる必要があると頭の中では怒りが煮えくり返っていた。そしてこんなにも腹立たしいのに、晴にそれをさせたのは自分自身なのだ。
「あ、んんんっあ、きらっ、あ、んんっ!」
軽く指で触れるだけでこんなにも甘い声をあげ、尚更に乱暴に組み敷き無理矢理愛撫に悲鳴混じりに喘がせる。ただ舐めて吸い付く感触だけで腰を揺らめかせて、引き剥がされた衣類を艶かしく体にまとわりつかせ晴の背中が撓るのを見下ろす。
「ふぁ、あ、んんんっんぅんっ!」
「晴………。」
「んぅ、あ、きら、んんっ!」
頼りなくシーツを掴む晴の指先すらこんなに苦しいくらいに愛しいのに、明良がやろうとしていることは乱暴に晴を滅茶苦茶に抱くことだけ。それに酷く胸が軋んで張り裂けてしまいそうで、明良は思わずその体を力一杯抱き寄せ腕の中に納めた。
「はぅ………ぁ、きらぁ?」
突然背後から抱き寄せ抱えあげられて腕の中に納められたのに、腕の中では息を切らせて晴が戸惑う声をあげる。好きで仕方がないのに、どうしてこんなにも伝わらないのか通じあえないのか。同じような立場の外崎達も、源川仁聖と榊恭平も互いの事を大事にして、しかも気持ちを理解しあっているのだと明良にはみえている。なのに自分と晴はどうしてこんなにも通じあえないのか、そう考えてしまうと晴を抱き締め明良も泣き出してしまいたくなる。
「晴。………俺と、……………別れる?」
外崎了のように晴を抱き締め慰めることも、外崎宏太のような既知で晴を先んじて理解してやることもできない。そんな明良に出来る事は、これ以上晴を苦しませる位なら身をひくくらいなものだ。そう思って明良が放った言葉に、腕の中にいた晴が一瞬にして身を強張らせていた。そしてヒュッとひきつけるような息をした晴は困惑に弱く頭を振って、ヒクッと晴の喉が引き付けを起こしたように戦き肩越しの晴の瞳が真っ直ぐに明良だけをみつめる。
「………あ、……………。」
目の前の晴の瞳が、明らかに色を変えていく。深く清んで空のように澄みきってまるで鏡のように明良自身を映し込んだ瞳が大きく輝きながら、同時にガラスが砕けていくように見たことのないほど脆く揺れ動いている。
「……あき、…………………、ら。」
それはどう見ても完全な混乱で、問いかけの言葉を口にした明良の方が戸惑うほど鮮明で。そしてまるで子供がひきつけでも起こす前のように、強張り震えを帯びて言葉にならない喘ぎめいた呼吸を矢継ぎ早にこぼす。
「ひ、ぅ……や、あ。」
「晴。」
晴の異様な変化に戸惑う明良に名前を呼ばれた瞬間、それは堰を切ったように震える晴の唇から溢れだしていた。
「……っ………やだぁあ!や、おれ、やぁあっ!やだぁ!」
縋りつきなから明良の方が驚くほど激しく泣き出し叫んだ晴に、明良は呆然とその様子を見下ろす。触れて感じている腕の力は今までより強い筈なのに、触れたら一瞬で砕け散ってしまいそうに脆く儚い晴の声に明良の方が余計に戸惑ってしまう。
「ごめんなさい、俺が言うこと聞かなくて!ごめ、だから!あきらぁ!!」
「晴………。」
「ごめ、なさい……怪我させて、ごめんなさ……、明良、嫌わないで、ごめ。」
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら晴が口にした言葉に、明良は目を丸くして晴の事をみつめる。パニックになって震えながら縋りつき泣きじゃくる晴の姿に、明良は初めて晴のせいで明良が怪我をしたことで嫌われてしまうのにこんなにも晴が怯えているのに気がつかされたのだ。
怪我が軽いからとかそんなことはどうでもよくて、怪我をさせてしまった自分が許せない。
それを防ぐためには自分が身を引くしかないかもと同じように晴自身も考えてはいたけれど、それを言葉にはできなかった。明良に怪我をさせた自分を許せなくて、それでもどうしても明良の傍に居たくて苦悩していた晴。晴が負っている心の傷は根深く晴をさいなんでいて、同時にこんなにも明良を必要としていて。
「晴。」
「いや、やだ、やだぁ、おれ、お、おれ。」
そう理解してしまえば、晴がそれに何でこんなに苦悩しているのか。それを考えるだけで胸の奥底から沸き上がる感情にかられて明良は思わず、泣きじゃくる晴の唇を奪ったまま勢いよくドサリと晴をベットに押し倒していた。
「ん、ふ………ぅ、んん…………ら……。」
チュクチュクと音をたてて唇を塞がれて息も絶え絶えの晴の脚を、明良の手が無造作に掬い上げ大きく淫らに開かせる。その感触に思わずビクリと戦く晴の動きを無視して、明良は唇を重ねたまま割り広げられた脚の間に体を捩じ込み晴の肉茎を掌に握り込むと激しく愛撫を施し始めていた。
「んくぅ!!んんぅ!んんっ!んぅーっ!!!」
※※※
帰途の道すがら恭平は仁聖を見るどころか一言も口を利かず、恭平の青ざめ凍りつくような横顔を見ながら仁聖はどうしたものかと思案にくれていた。恭平が怒っていると一言で言うのは簡単だが、仁聖は事前にこんなことは起こさないとあれほど約束していたのだ。結果として自ら危険に飛び込んだも同然の仁聖のせいで、何が起こったか聞いた後の恭平は怒り言葉にすることもなく全てを飲み込んだまま、何故か病院に一緒に姿を見せた鳥飼信哉の車の後部座席に収まったのだった。
謝るのは当然なんだけど、理由聞いてくれるかな………
仁聖があんな行動に出たのは、正直言えば高橋至の利己的な考えが許せなかったからだ。以前の自分の中にも少なからず同じように考えてしまう一面がないわけでもない事もわかってはいるけど、だからと言ってもし気持ちが通じなかったとして恭平を傷つけたいと仁聖には思えない。好きという気持ちが伝わらないから、相手を傷つけて酷い目に遭わせるなんて考え方は良いことだとはちっとも思えないのだ。しかも例えば高橋が心底狭山明良のことを好きだった結果としてあの事件が起きたのなら、了が以前した事を考えもする。
やったことは許されないけど……、どうしても好きで欲しくて……してしまったのだとしたら
そう思ったから高橋の考えを知りたかったけど、高橋は本当に狭山が好きだと言う訳じゃなくて自分の身を守りたがっていて、怪我をさせた理由も大概納得できるものではなかった。だから、あんなことをしたと言ったら恭平はきっと激怒しかねない。
仁聖は体が商品でそれに怪我をさせたら、高橋はこの世界には仕事が得られなくなる。しかもあの場には事務所の社長である藤咲だけでなく、第三者に当たる人間も多数いたから逃げ道はない。これほどの怪我をしてしまったのは少しだけ間が悪かっただけで、殴られるつもりではあったと言ったら恭平はきっと激怒ではすまないはずだ。
スマホを粉砕されたのに気をとられて、完全に殴り付けられたなんて
避けられる程度だと思っていたのにスマホに飛びかかられて、しかもそれをもぎ取られて踏みつけられたのに、一番ショックをうけてるなんて恭平には正直言えない。思わずその事実に溜め息をついた仁聖に、バックミラー越しの瞳が僅かに細められたのに気がつかないでいた。
「源川仁聖、だったよな?」
「あ、はい。」
運転席からの声に思わず返事を返すと、鏡越しに真っ直ぐに視線が向いていたのに気がつく。都立第三高校の伝説的な三人組の一人で、しかも現在体育教師の土志田悌順とモモを溺愛する宇野智雪の幼馴染み、そして恭平と村瀬篠の先輩でもある男。容姿は和風のかなりの美形で恭平と二人きりで現れたのには、正直詰め寄りたいのは確か。ただし今年結婚したばかりな上に子供もできたのは知っていて
「恭平は俺んとこに通うことにしたからな。」
「「は?!」」
予想外の発言に後部座席の二人が声をあわせて疑問をていしたのに、運転席の当人はケロリとしている。通うってなに?仁聖の知らないところで恭平はこの男と何をするつもりで?なんなの?何でこんな宣戦布告みたいに宣言と泡を食っている仁聖の横で、恭平が慌てて声をあげながら身を乗り出す。
「信哉さん!俺はまだ返事をしてない!」
え?それって何かを既に問いかけられてて返事をしてないってことなの?!と仁聖の顔が険しくなる。二人きりで過ごされるのだって嫌なのに、自分の知らないところで何か約束までされてる。それがどんなに腹立たしいかとしかめた顔をミラー越しの瞳が油断なく眺めていた。
「信哉さん!」
「別に構わんだろ?お前もやりたいことだし。」
「そんな………。」
車内の空気を変えることもできずにいる恭平の言葉に、空気なんか全く気にした風でない鳥飼信哉の言葉は仁聖の神経を逆撫でする。ミラー越しの視線が全てをわかっていてやっているのに気がついてからは鳥飼信哉が敢えて神経を逆撫でしようとしているのに気がついた。大事な家族がいるくせにこんな風にちょっかいを出してくるなんて、性格が悪すぎると仁聖が苛立ちを隠せないでいるのを無視して信哉はマンションの客用の駐車場に車を乗り入れた。
「……あ、きら。」
掠れて弱々しい声で晴が名前を呼ぶと、一瞬傷ついたような光が明良の瞳を過る。了がその様子を目に明良に向かって口を開く前に、抱き締められていた腕からもがくようにして逃れた晴の両手が明良に縋りついていく。その様子に了は放とうとした言葉を納めて、晴がしたいようにさせてやるように身を引いた。
「………あ、きら、あきらぁ。」
弱く震えながら繰り返される晴の自分を呼ぶ声に、明良は低く抑揚のない声でただいまと呟きながら晴のことを意図も容易く背もたれも構わずにソファーから抱き上げた。いつになく憮然とした明良の表情と声に、了が少しだけ表情を固くして思わず声をあげる。
「明良。」
「すみません、話なら後で聞きます………。」
了がかけた声に何ともすげない言葉を返した明良は、まるで了から晴を引き離そうとするように抱きついた晴を抱き上げたさっさと踵を返す。そしてこれ以上了から話しかけられたくないと言わんばかりに、全身から威嚇するような気配を漂わせて明良はリビングから晴を連れ出していた。
なんで
本当はあの場でそう問いかけて晴を問い詰めたかった。が、腕に抱き止めた晴はまだ泣いているのか押し付けられた肩の辺りが熱く濡れる感触がする。階段を上がる振動にもまるで反応しないで顔を埋めている晴の様子は、明良が怪我をした時とまるで変わりがないことに密かに明良の方も衝撃を受けてもいた。
ここ数日の晴の様子は理解していたつもりだったけど、自分が傍にいない間に晴が泣きじゃくっていて、しかもそれを真っ先に慰めたのが自分ではないという現実への苛立ち。そして最も先にそれに気がつくべき自分は、晴の様子に気がついていなかったのではなく見て見ないふりをしていたに等しい。
晴がおかしいのは分かっていたのに、様子を見てた………
陽気な笑い顔の印象が強い結城晴。それを明良だって十分にわかっている。それなのに晴がここ数日ずっと笑いもせず物憂げに目を伏せていたのにも、明良はちゃんと気がついていた。晴は明良が話しかけても悲しげに視線を向けて仄かな微笑みを見せるだけ。
俺にすら天真爛漫なあのいつもの可愛い笑顔を見せなかったのに。
分かっていてそのままにしてしまった結果追い詰められた晴は、了に抱き締められて泣いていた。明良の今沸き上がるこの激しい苛立ちが、明良のくだらない嫉妬なのもわかる。自分より先に異常を見抜いて晴を慰めて抱き締めていた了の姿に激しく憤り、それをみて晴を引き離すことしかできない自分の未熟さが腹立たしい。
ゲストルームの扉を乱暴に開けて音をたててドサリとベットに晴を下ろした途端、明良は晴のまだ濡れて潤んだ瞳を真っ直ぐに見下ろすことになった。
綺麗で可愛い明良の大事な晴
周囲の光を集めてキラキラ潤んだ瞳が光りながら明良のことを捉えて、離れてしまった明良の体に戸惑うような手が伸ばされてくる。離れちゃイヤとその手が明良を引き寄せてくれるのが嬉しくもあるのに、明良の口からは素直じゃないひねくれた言葉がついこぼれ落ちてしまう。
「なんで………他の男の腕ん中で、泣いてるの?晴。」
晴がこんな風に追い詰められそうするしかなくなってしまったことを明良は謝りたいのに、明良の口から出たひねくれた言葉に晴は叱責されたと感じて尚更に傷つき目を見開いて更に大粒の涙を溢す。晴が意図してそんな行動ができる人間ではないのは、もう明良にだってよく分かりきっているのにまた傷つけてしまう。
「ご、め………あき、らぁ………ごめ、なさい…………ふぇ……。」
ふにゃと泣きながら心の底から真っ直ぐな思いで謝り続ける晴。謝らなくてはいけないのは明良の方なのに、晴はまるで自分が悪いことをしたと言うように泣きながら明良に縋りついて。
そうじゃない。
こんな風に晴に謝らせたい訳でもなければ、こんな風に脆く泣かせたいわけでもない。明良はただ晴がこんなにも脆く泣き続けるのか理由が知りたいだけだし、出来ることなら何時もの天真爛漫な笑顔の晴に戻してやりたい。それなのに自分が出来ることと言えば、こうして晴をいつも追い詰めて、そして乱暴に抱いてしまう。
「あきらぁ……。」
泣きじゃくっている晴はろくな抵抗もしないままベットに押し付けられて、乱暴に服を引き剥がされても晴は困惑に震える瞳で明良の事を見上げるだけ。それでも抵抗しない晴を無理矢理に俯せにして、明良は白く滑らかなうなじに噛みつくように口づけ覆い被さった。怪我をしてここに泊めるよう指示されてから明良だって流石に他人の家のゲストルームだからと我慢して、個人的には必死に抱き締めて眠るだけに納めてきたのだ。それなのに他人の腕で泣いていた姿だけでなく、今こうして組み敷かれた晴の肌が吸い付くように熱を持ち明良を獣のようにしてしまう。
「あ、きら、んぅっ!」
明良の唇がなぞり吸い付かれる感触に、あっという間に快感に呑まれ始めた肌を染めて晴が震えた声をあげる。こんなにも可愛く甘く自分に溺れている筈の晴なのに、どうしてあんな風に他の男の腕の中で泣きじゃくる必要があると頭の中では怒りが煮えくり返っていた。そしてこんなにも腹立たしいのに、晴にそれをさせたのは自分自身なのだ。
「あ、んんんっあ、きらっ、あ、んんっ!」
軽く指で触れるだけでこんなにも甘い声をあげ、尚更に乱暴に組み敷き無理矢理愛撫に悲鳴混じりに喘がせる。ただ舐めて吸い付く感触だけで腰を揺らめかせて、引き剥がされた衣類を艶かしく体にまとわりつかせ晴の背中が撓るのを見下ろす。
「ふぁ、あ、んんんっんぅんっ!」
「晴………。」
「んぅ、あ、きら、んんっ!」
頼りなくシーツを掴む晴の指先すらこんなに苦しいくらいに愛しいのに、明良がやろうとしていることは乱暴に晴を滅茶苦茶に抱くことだけ。それに酷く胸が軋んで張り裂けてしまいそうで、明良は思わずその体を力一杯抱き寄せ腕の中に納めた。
「はぅ………ぁ、きらぁ?」
突然背後から抱き寄せ抱えあげられて腕の中に納められたのに、腕の中では息を切らせて晴が戸惑う声をあげる。好きで仕方がないのに、どうしてこんなにも伝わらないのか通じあえないのか。同じような立場の外崎達も、源川仁聖と榊恭平も互いの事を大事にして、しかも気持ちを理解しあっているのだと明良にはみえている。なのに自分と晴はどうしてこんなにも通じあえないのか、そう考えてしまうと晴を抱き締め明良も泣き出してしまいたくなる。
「晴。………俺と、……………別れる?」
外崎了のように晴を抱き締め慰めることも、外崎宏太のような既知で晴を先んじて理解してやることもできない。そんな明良に出来る事は、これ以上晴を苦しませる位なら身をひくくらいなものだ。そう思って明良が放った言葉に、腕の中にいた晴が一瞬にして身を強張らせていた。そしてヒュッとひきつけるような息をした晴は困惑に弱く頭を振って、ヒクッと晴の喉が引き付けを起こしたように戦き肩越しの晴の瞳が真っ直ぐに明良だけをみつめる。
「………あ、……………。」
目の前の晴の瞳が、明らかに色を変えていく。深く清んで空のように澄みきってまるで鏡のように明良自身を映し込んだ瞳が大きく輝きながら、同時にガラスが砕けていくように見たことのないほど脆く揺れ動いている。
「……あき、…………………、ら。」
それはどう見ても完全な混乱で、問いかけの言葉を口にした明良の方が戸惑うほど鮮明で。そしてまるで子供がひきつけでも起こす前のように、強張り震えを帯びて言葉にならない喘ぎめいた呼吸を矢継ぎ早にこぼす。
「ひ、ぅ……や、あ。」
「晴。」
晴の異様な変化に戸惑う明良に名前を呼ばれた瞬間、それは堰を切ったように震える晴の唇から溢れだしていた。
「……っ………やだぁあ!や、おれ、やぁあっ!やだぁ!」
縋りつきなから明良の方が驚くほど激しく泣き出し叫んだ晴に、明良は呆然とその様子を見下ろす。触れて感じている腕の力は今までより強い筈なのに、触れたら一瞬で砕け散ってしまいそうに脆く儚い晴の声に明良の方が余計に戸惑ってしまう。
「ごめんなさい、俺が言うこと聞かなくて!ごめ、だから!あきらぁ!!」
「晴………。」
「ごめ、なさい……怪我させて、ごめんなさ……、明良、嫌わないで、ごめ。」
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら晴が口にした言葉に、明良は目を丸くして晴の事をみつめる。パニックになって震えながら縋りつき泣きじゃくる晴の姿に、明良は初めて晴のせいで明良が怪我をしたことで嫌われてしまうのにこんなにも晴が怯えているのに気がつかされたのだ。
怪我が軽いからとかそんなことはどうでもよくて、怪我をさせてしまった自分が許せない。
それを防ぐためには自分が身を引くしかないかもと同じように晴自身も考えてはいたけれど、それを言葉にはできなかった。明良に怪我をさせた自分を許せなくて、それでもどうしても明良の傍に居たくて苦悩していた晴。晴が負っている心の傷は根深く晴をさいなんでいて、同時にこんなにも明良を必要としていて。
「晴。」
「いや、やだ、やだぁ、おれ、お、おれ。」
そう理解してしまえば、晴がそれに何でこんなに苦悩しているのか。それを考えるだけで胸の奥底から沸き上がる感情にかられて明良は思わず、泣きじゃくる晴の唇を奪ったまま勢いよくドサリと晴をベットに押し倒していた。
「ん、ふ………ぅ、んん…………ら……。」
チュクチュクと音をたてて唇を塞がれて息も絶え絶えの晴の脚を、明良の手が無造作に掬い上げ大きく淫らに開かせる。その感触に思わずビクリと戦く晴の動きを無視して、明良は唇を重ねたまま割り広げられた脚の間に体を捩じ込み晴の肉茎を掌に握り込むと激しく愛撫を施し始めていた。
「んくぅ!!んんぅ!んんっ!んぅーっ!!!」
※※※
帰途の道すがら恭平は仁聖を見るどころか一言も口を利かず、恭平の青ざめ凍りつくような横顔を見ながら仁聖はどうしたものかと思案にくれていた。恭平が怒っていると一言で言うのは簡単だが、仁聖は事前にこんなことは起こさないとあれほど約束していたのだ。結果として自ら危険に飛び込んだも同然の仁聖のせいで、何が起こったか聞いた後の恭平は怒り言葉にすることもなく全てを飲み込んだまま、何故か病院に一緒に姿を見せた鳥飼信哉の車の後部座席に収まったのだった。
謝るのは当然なんだけど、理由聞いてくれるかな………
仁聖があんな行動に出たのは、正直言えば高橋至の利己的な考えが許せなかったからだ。以前の自分の中にも少なからず同じように考えてしまう一面がないわけでもない事もわかってはいるけど、だからと言ってもし気持ちが通じなかったとして恭平を傷つけたいと仁聖には思えない。好きという気持ちが伝わらないから、相手を傷つけて酷い目に遭わせるなんて考え方は良いことだとはちっとも思えないのだ。しかも例えば高橋が心底狭山明良のことを好きだった結果としてあの事件が起きたのなら、了が以前した事を考えもする。
やったことは許されないけど……、どうしても好きで欲しくて……してしまったのだとしたら
そう思ったから高橋の考えを知りたかったけど、高橋は本当に狭山が好きだと言う訳じゃなくて自分の身を守りたがっていて、怪我をさせた理由も大概納得できるものではなかった。だから、あんなことをしたと言ったら恭平はきっと激怒しかねない。
仁聖は体が商品でそれに怪我をさせたら、高橋はこの世界には仕事が得られなくなる。しかもあの場には事務所の社長である藤咲だけでなく、第三者に当たる人間も多数いたから逃げ道はない。これほどの怪我をしてしまったのは少しだけ間が悪かっただけで、殴られるつもりではあったと言ったら恭平はきっと激怒ではすまないはずだ。
スマホを粉砕されたのに気をとられて、完全に殴り付けられたなんて
避けられる程度だと思っていたのにスマホに飛びかかられて、しかもそれをもぎ取られて踏みつけられたのに、一番ショックをうけてるなんて恭平には正直言えない。思わずその事実に溜め息をついた仁聖に、バックミラー越しの瞳が僅かに細められたのに気がつかないでいた。
「源川仁聖、だったよな?」
「あ、はい。」
運転席からの声に思わず返事を返すと、鏡越しに真っ直ぐに視線が向いていたのに気がつく。都立第三高校の伝説的な三人組の一人で、しかも現在体育教師の土志田悌順とモモを溺愛する宇野智雪の幼馴染み、そして恭平と村瀬篠の先輩でもある男。容姿は和風のかなりの美形で恭平と二人きりで現れたのには、正直詰め寄りたいのは確か。ただし今年結婚したばかりな上に子供もできたのは知っていて
「恭平は俺んとこに通うことにしたからな。」
「「は?!」」
予想外の発言に後部座席の二人が声をあわせて疑問をていしたのに、運転席の当人はケロリとしている。通うってなに?仁聖の知らないところで恭平はこの男と何をするつもりで?なんなの?何でこんな宣戦布告みたいに宣言と泡を食っている仁聖の横で、恭平が慌てて声をあげながら身を乗り出す。
「信哉さん!俺はまだ返事をしてない!」
え?それって何かを既に問いかけられてて返事をしてないってことなの?!と仁聖の顔が険しくなる。二人きりで過ごされるのだって嫌なのに、自分の知らないところで何か約束までされてる。それがどんなに腹立たしいかとしかめた顔をミラー越しの瞳が油断なく眺めていた。
「信哉さん!」
「別に構わんだろ?お前もやりたいことだし。」
「そんな………。」
車内の空気を変えることもできずにいる恭平の言葉に、空気なんか全く気にした風でない鳥飼信哉の言葉は仁聖の神経を逆撫でする。ミラー越しの視線が全てをわかっていてやっているのに気がついてからは鳥飼信哉が敢えて神経を逆撫でしようとしているのに気がついた。大事な家族がいるくせにこんな風にちょっかいを出してくるなんて、性格が悪すぎると仁聖が苛立ちを隠せないでいるのを無視して信哉はマンションの客用の駐車場に車を乗り入れた。
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上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
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