鮮明な月

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第十五章 FlashBack

162.

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ズブッグプッとリズミカルに振られる腰に、熱が身体を侵食していく。懇願して欲しがって満たされる快感の強さに明良に縋りつきたいのに手足が自由にならないから、晴は喉を反らして明良に叩きつけられ揺さぶられるしかない。

「あ、や、ああっ!あっ!ふぁっ、ああっ!」

グズグズに蕩けさせられている晴の頭の中では、チカチカと快感が真っ白く星になって瞬き続けていた。明良の大きなもので無理矢理深く体内を抉じ開けられ、根本まで力強く押し込められて、容赦なく中を強くゴリゴリと擦りあげられてしまう。それが酩酊するほど気持ちよくて本当に何でこんなに違うのかと戸惑ってしまうし、明良にされるからと思うだけで余計にも感じきってしまうのだ。それにしても高橋至をただ顔を見かけただけで、こんなに明良が怒るとは思わなかったし怒っている理由もまだ理解が効かない。確かにこの間街中で飛びかかって来た時は真っ直ぐ自分に向かって来たような気も少しはしたが、それでも向こうとは年齢は蓋回りも離れていて反射神経だって違うし晴だって列記とした男なのだ。

やっぱし女の子って無意識に考えてんのかな?俺が…………抱かれる方だから?

明良の中では何処かで晴の事を男だと思ってないからなのかとヤッパリ思ってしまうけど、それにしてもここまで怒ることなのだろうかとも思う。高橋が明良にセクハラをしていたのとも関係ある気もしなくもないし。そんな晴の一瞬の思考の途絶を、見つめている明良が見逃す筈もなくて許してくれる筈もない。

「…………考え事?はーる。」
「ち、がああっあっああっ!あうぅうん!」

ドツンと勢いよく怒張を奥に捩じ込まれ、グポと深く奥に嵌まりこんでしまった圧力と快感。余りの衝撃に頭の奥が更に真っ白に焼けついて、一瞬で思考が弾けび晴は訳がわからなくなる。こんなの駄目なんて思う間もなくあっという間に押し上げられて、訳もわからずに快楽に泣かされてしまう。それなのに明良は晴が考え事をしていたからと、意図も容易くそれを音を立てて抜き取って晴にお預けを食らわせる。

「や、やらぁ、ぬ、抜いちゃ……奥ぅ、も、とぉ、……あ、きらぁ、やらぁ!」
「考え事する余裕があるんだもんね?晴は。だから、もう少し気持ちよくしてから、タップリして……あげるね?」

そして再び張り詰めきっている亀頭だけへの執拗な愛撫が再開され、晴は快感の甲高い喘ぎ混じりに悲鳴をあげ始めていた。
怒張を愛撫され啼き続ける晴を見下ろしながら、明良は緩急をつけながら亀頭を舐めたり吸ったりと責め立てる。何がそれほど明良には腹立たしいのかと言えば、勿論晴が全く危機管理が出来ないことが第一なのだ。晴は明良の愛撫に泣きながらも、自分が何でこんなに怒られてるんだなんて思っているに違いない。

高橋のやつが晴に手を出したら絶対許さないけど、問題なのは晴がスリルに弱いって言うとこ

晴は自由に放っておいたら危険なことに自分から頭を突っ込みそうだと明良は考えているけれど、晴はそれに関してきっとそんな状況にならなきゃ実際には分からない程度でまるで気にもかけていない。一緒に暮らす程の関係の相手がいるのだから気をつけて危機管理をしなきゃと晴には思って欲しいのに、明良はそれをどう伝えるべきなのか。

「ふぇ、ごめ、あっあぅうううんっ、も、ゆるし、ふぁああっ!」
「ん……ちゅ、気持ちいいんでしょ?晴。ここも擦りながらしてあげるね?」
「ふぁんっ!ふぁ、あふぅ、うぅん、あぅううっ、んくぅうう!」

苛立ちを愛撫でぶつけるのは正しくはないとは思うけれど束縛してウザいと思われて嫌われるのはごめんだし、それに本当にそれが正しいのかどうかも実は分からない。高橋だって就職先がなくて全く関係なく戻ってきた可能性だって、本当は一応だが可能性としてあるわけだ。そんなことを考えながら更に愛撫を重ねてしまう明良なのだった。



※※※



日常に慣れて日々が滞りなく過ぎていくのを考えながら、去年の今頃は何をどうしていたんだろうとも考えてしまう。この先のことを必死に考えながらも見えているのはほんの目の前のことだけで、本当は何も理解していない。今にすれば理解できる事でもあの頃にはまるで先が見えなくて、ただがむしゃらに目の前の恭平に助けて貰いたくて手を伸ばしていた。

「おーい、仁聖?」

目の前でヒラヒラと手を振られて、はたと自分が一人考え込んでいたのに気がつく。
目の前にいるのは同じ建築科の佐久間翔悟、そしてここは大学の学食。学食は広大で百人近く一度に過ごせるキャパシティーがあって、周囲のキャイキャイしている雰囲気は何時もと何も代わりがない。何しろ近隣の住民や近郊の会社勤めの人間も利用できるので、年代は幅がありすぎて学生なのかどうなのかも分からないほど。そういえば夏休み中のオープンキャンパスに来たらしい後輩達が学食の広さに感嘆していたと麻希子からLINEが来て、麻希子はここの別な学科狙いなのだと初めて聞いたばかりだった。大きな嵌め込みの窓ガラスからは柔らかな秋めいた陽射しが射し込み、辺りは白く霞むように目映い光に照らされている。

「ごめん、少し考え事してた。」
「何?休み明け早々の鬼の課題のこと?」
「あー、忘れてたのに思い出させんなって。」

夏休み中も殆ど東北の実家に帰らずバイト暮らしをしていた翔悟は、何故か海外でも行ってきたような小麦色。余りにも見事に焼けているのでなんの海かプールでバイトでもしてたのかと問いかけたら、実は翔悟は余り泳げないのだという。ウィンタースポーツはオールオッケーだがサマースポーツは駄目、なので監視員や海の家でのバイトは出来る筈がないということらしい。それにしても余りにも綺麗に焼けているものだから、どうやって焼いたのと気になってしまう。

「窓清掃。」
「は?」
「いや、建築外壁見るのにいいかなぁと思ってさぁ?」

いや、本当に予想外のことをやってくれる。建築物の外観や外壁材なんかを眺めてみたくて、ビルの外壁清掃のアルバイトをしたというのだ。よく高層ビルなんかで窓の外にゴンドラで下がって外部から窓の清掃をしたり、それこそ中規模の建物ではロープで吊り下げされてするあれである。

「怖くないの?それ。」
「いやぁ怖い!完璧お化け屋敷以上だったね!聞いてくれよ!」

特殊構造の張り出しの硝子窓の建物で屋上からロープで下がって硝子清掃をしたというのだが、高さ的にはゴンドラ程ではなく、かといって梯子では窓ガラスに傷がつくのでぶら下がるしかないという物件。命綱をつけているから落ちる心配がないと思うだろうが振り子のように左右に窓ガラスを清掃していたら、他のスタッフが突然墜ちたというのだ。

「い、命綱は?!」
「フックが外れたって、で、ヒューッて堕ちるの見ちゃったわけ!」
「こっわ!!」

運よく彼は植木の中に墜ちて足首の捻挫と腰の打撲だけで済んだのだが、本来外れない筈のフックの破損はかなりの恐怖で残念ながら実入りのいいバイトだったのだが翔悟はその日それで御免被ったそうだ。
四階以上から墜ちて捻挫と打撲だけのその人も凄いが、流石に人が墜ちるのを見てしまうと続けるのは困難だったのは想像に難しくない。聞けば何故かそのビルの清掃の時には、同じような落下事故が続いているというのだ。

「ええぇ……やだなぁそんなビル。」
「で、何でか考えてみたわけ。」

聞けばジグザグに張り出す形の窓ガラスが印象的なビルは仁聖も何度か見上げたことがあるビルで、あの窓どうやって掃除してるんだろうと確かに気にはなってもいた。バイト先でも依頼を断りたいらしいのだが、清掃会社の社長の親族がその依頼主なので断りきれないのだという。

「そのフックが問題って言うかさぁ、構造もあるんじゃないかなってさぁ。」
「ふんふん、命綱のフックかける場所って一ヶ所な訳?」
「こことここね、あとここ。」

横巾としては十五メートルちょっとなので五メートル毎の区切り。そこに三人がぶら下がれるようにしてあって、そこから一つ1t迄の過重が可能な大元の金具に二百キロ迄対過重可能なフックをかけて。翔悟が見たスタッフは翔悟より華奢で恐らくは七十キロ前後の体重で、しかも仕事に慣れたベテランだったという。

「周囲に割合高いビルが多いけど、それほど風は強くない訳でぇ。」
「一つの窓って角度どれくらいなの?あれ。」
「百度ちょいじゃないかな、九十度ではないんだよな。」

ぶら下がっていて左右に揺らされる程の風は感じなかったと言うから、確かにビル風で揺られて偶々フックが外れたわけでもないようだ。しかし度重なるという事は何かしらの原因が存在する可能性もあるし、翔悟が聞くと必ず同じ金具を使って降りたスタッフが墜ちるという。三ヶ所のうち真ん中だけが、事故の多発するビル清掃。しかも真ん中なのでそこを飛ばす訳にもいかないし、窓の形がジグザグだからゴンドラもつけられない。

「探偵染みてるなぁ。」
「でもさ、ここだけだろ?毎回じゃなくて……、何か条件があんのかな?」

そんなことを二人で頭を付き合わせて建築家志望らしく建築物件としての意見交換をしていた矢先、ふと傍によってくる気配に二人は気がついた。賑やかというより少し騒々しいという方が相応しいような甲高い女性の笑い声に、取り巻くような他の人間の愛想笑いの声。

「やぁだぁ。そんなの聞いたことないのにぃ。」
「美乃利さんが可愛いからだよ。」
「やだぁお世辞ぃ。」

品を作る女性のあからさまな猫撫で声。この大学には学部も多いし学生だけでなく教授連も医療関係施設まであるから大勢人間がいて、大人しくしていればそれほど誰もが目立つわけではない。その中でもあえて自分を誇示しようとする人間は幾分存在する訳で、そういう人間ほど声が大きく甲高い気がしてしまうのは偏見だろうか。そしてそういう人間ほど自分を取り巻く太鼓持ちを欲しがるし箔が付くような華を欲しがり、しかもそれを全く望まない人間まで平気で巻き込みたがるのだ。素知らぬふりをしているのに恐らくは最初から二人を巻き込むつもりで、相手がこっちに向かってきていたのは想像に難しくない。

「源川君に佐久間君、この間も合コン来てくれなくて、美乃利・凄く悲しかったぁ。」

取り巻きを引き連れた金子美乃利の甲高い猫撫で声に、スンッと今までの二人の熱が冷めて味気無い温度のない顔に変わる。再三誘いを断っているのは事実だが誘いにのって取り巻きになりたいわけでもないので、思わずこんな反応になるのはやむを得ない。望まないのに誘われても二年も年上の金子と話が合うわけでもないと思うし、何しろこの取り巻きを引き連れてワザワザやって来る姿が時代遅れに感じてしまうのはここだけの話だ。

「ねぇ、今夜も集まるけどこない?」

再三他の男に誘わせても靡かないので遂に本人が直に誘いに来たのに気がついて、仁聖は溜め息を吐き出さないように飲み込む。これで昔の仁聖だったらチャラチャラと誘いにのって彼女の誘いにホイホイとベットインしてたんだろうなと自分でも分かるだけに、思わず溜め息が出そうになるのだ。

「すみません、先輩。俺バイトなんで。」
「あ、すみません、俺もバイト。」

食い気味に二人に即答されて、ワザワザ誘いに来た側の金子は気勢を削がれたように目を丸くした。二つ年上なだけの筈なのに何故かでのなの社会人よりも老けて見えるしやさぐれて見えてしまうのは、退廃的な生活をしているからなのだろうか。それとも食生活が悪いから肌が荒れているんじゃないかと無意識に考えている自分に、最近は仕事上スキンケアを一際煩く言われる事の多い仁聖は気がつく。

「バイト終わってから顔だしたらいいじゃない?ね?」
「…………あんまり夜遊びしてると肌荒れ酷くなりますよ。先輩。」

サラリとそんなことを口にした仁聖に金子が凍りつく。どうやらこの様子では自分でも気にしていた面が少なからずあったらしいのを、あからさまに指摘されてしまったらしい。翔悟が仁聖の馬鹿と言いたげな顔をするが、既に口にしたことはしたことだ。何しろ普段から陶器みたいに滑らかでキメの細かい恭平の真っ白な肌を見ているものだがら、不摂生で荒れた肌と比較するのも可哀想なのだが。肌が荒れていると指摘された金子はその場で真っ赤になって、微かに唇を震わせたがそれ以上は言葉を繋ぐ事もなくクルッと踵を返していた。

「馬鹿、一言多いって仁聖。」
「…………ごめん、面倒臭くて、つい…………。」

素直に謝りはしたものの、あんな風に人を引き連れて歩かないとならない気持ちは理解できないと内心で考えてもいた。
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