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間章 ちょっと合間の話2
間話30.コイゴコロ
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明良が迎えに来てくれるまで。
ゲストルームのフカフカの布団の魅力は抗いがたい、だから明良が起こしてくれるまでと睡眠不足の晴は欲求への抵抗をやめた。晴が体力的に無理だと一度も説明してないのにこれを明良のせいにはできないし、正直言えば晴だって明良とセックスがしたいからしたのだ。でも、こんな風に仕事で支障が出るのは、晴としても流石に不本意ではある。だから明良とちゃんと話し合ってこれからのことを考えてみるつもりで、明良が来てくれるまで宏太の好意に甘えることにした。
明良が起こしてくれたら、そしたら一緒に帰って、これからも上手くやれるように二人で話をして。
そう夢現に晴は考えていた。最初は宏太の暴走でとんでもない状況だった宏太達だって最近は無茶はしないで上手くやっているし、残念イケメンだと思ってたけど実は源川仁聖が榊恭平のことを大事にして一番上手く付き合っているのをこの間教えてもらったばかり。
無理って時はどうするの?
そう何気なく晴が問いかけたら、了も同じ相談をしたなぁなんて笑うのだ。そしてそれに了は今は素直に無理って言うと答えて、恭平は言わなくても仁聖は察してくれるからと穏やかに微笑んだのだ。了はそれに仁聖は待てができるよう恭平が躾てるなんて笑ってたけど、恭平と仁聖はちゃんと信頼して一緒にいるからそうできるんだとあの微笑みを思うと今は分かる。
俺も…………明良とそうなりたい…………
今みたいに明良から熱烈に求められるのは凄く嬉しい。でもお互い信頼して一緒にいられたらもっといいなんて、乙女みたいだなと晴も思うけれどそうなりたいと心底思ってしまう。明良と一緒に幸せって感じながら過ごせるようになれるのが、今の晴の一番の願いだ。セックスだけで良い訳じゃなくて体だけでもなくて、ほんとは明良に何よりも晴が一番だなんて思って欲しい。了達みたいに恭平達みたいに、愛し合ってるって言えるのが羨ましいと晴は思う。
明良に愛してるって言えたら凄いよな…………大好きで、愛してるって……。
そんなことを考えていたら夢の中で何時もみたいに明良が頭を優しく撫でてくれて、それが気持ちよくて晴は思わず微笑んでしまう。触れてくれる明良の手の温度が心地よくて、もっと撫でてと心の中で呟く。
一緒にいたい、もっと沢山。明良が好き、大好き、愛してる。
頭を撫でてくれる手の感触が、頬に触れて、更に何時もと同じで気持ちいいキスをされて。もしかして一緒に暮らせたらこんな気持ちいいのが、もっと沢山続くんじゃないかと思ったら夢みたいに幸せな気分になってしまう。こんなに好きになってしまったのに気がつきながら凄くいい夢に思わず頬が緩むと、夢の中の明良は凄く優しく耳を擽るように晴に囁く。
おやすみ、晴。ユックリ休んで。
それなら明良も一緒に俺を抱き締めて寝てよと言いたいのに、安堵がユルユルと深い眠りに晴を引き込んでしまう。明良はまた頭を撫で、また優しく頬に触れてくれて、晴は幸せ過ぎて胸が一杯になって、そのまま深く深く眠りに落ちていた。
※※※
「はーる!起きろ、晴!」
そんな大きな活気のある声で勢いよく布団をひっぺがされて、心地よくて幸せな夢が一瞬で霧散してしまった。同時に目映い朝日が射し込んでいて、元気一杯な了の姿に晴は何が何だか分からなくてポカーンとしてしまう。スッキリ爽快な目覚めではあるけどココハドコイッタイドウナッテル?になったのは、明良が迎えに来て起こしてもらえた訳でもなくて、しかも目が覚めたのが最近当然の筈の明良の腕の中ではなかったせいだ。
「ふ、…………え?俺……。」
「朝飯、出来たから。」
どうやら昨日の午後だけと思ってゲストルームで横になったまま、翌朝まで完全に爆睡したらしい自分に暫し晴のポカーンが続く。昨日寝不足で倒れたのは現実みたいで、暫しボンヤリしてたら了に大丈夫か?と再び問いかけられ晴は我に帰る。ここのところ明良は毎日のように外崎邸までお迎えに来てどっちかの家に雪崩れ込んでいたのだが、何故か昨日に限って明良はお迎えに来なかったということらしい。
「晴?大丈夫か?まだボーッとする?」
「あ、うん……だいじょぶ…………。」
あれ?何で明良は迎えに来てくれなかったの?夢の中であんなに明良が優しく頭を撫でてくれたせいなのか、目が覚めた晴は何だか納得出来ないものがないわけではない。それでもここで一晩食事もそっちのけで爆睡したのは事実で、空腹感を感じつつ首を傾げながら晴はトボトボと階段を下り始める。
まあ、明良だって仕事もあるんだし毎日のようにってのは…………
そんな風に何とか階段を下りながら自分を納得させてみたものの、晴の問題はまるで解決しなかったのだった。
※※※
なんで……?
お迎えのなかった日から四日目。その間に晴がどんなに明良にLINEしても電話しても、仕事が忙しくてとすげない返事しかしてくれない。そんな対応の明良に、晴は正直自分が何かしたんだろうかと一人自宅で悶々としている。誰かに相談しようにも自分が何をしたのか分からないから相談しようもないし、大体にして誰に何を相談したら良いのか。
散々エッチして毎日イチャイチャしてたのに、外崎邸で一泊した途端…………。
もしかして明良は、外崎邸でまさかの外崎二人と晴がエッチしてるとか思ってる?いや、あの日泊まったのすら知らない筈だけど、自分が一晩音信不通だったのは事実で近郊で外泊できる家と言われると外崎邸しかない。そこからのこの塩対応。疲れてるみたいだから一週間休めと宏太がタイミングよく休みをくれたのが、幸か不孝かまるで分からない。
会いたい…………
今日は?とLINEしても仕事で遅くなると帰ってきて、明日土曜だし休みじゃないのと問いかけても返答がない。会いたいと言えれば良いかもしれないけど、本当に仕事でウザいと思われるのもキツい。キツいけど会いたい。でも明良の会社は元職場で、顔見知りもいて。こんな混迷を既に四日も悶々と一人で続けているのは、流石にもう限界で。とはいえ、これって俺の馬鹿…………と思わず叫びたくなる。
「……なんで、その格好?晴……君。」
晴に呼び出されて待ち合わせ場所にやって来た榊恭平の呆れ顔に、久々の五十嵐ハルは頬を染めて俯くしかない。栗色のウィッグに赤い縁のだて眼鏡、可愛らしい女の子だけど、相手が晴だと知っている恭平は暫し唖然としている。
明良の動向を一目見たくて何故女装かと聞かれると、元職場の面々に明良にワザワザ会いに来る理由が説明できないからで。しかも明良にもバレないようにするにはカップルのふりでとなけなしの知恵を働かせたつもりなのだが、恭平にそれを説明したら思いっきり苦笑いされてしまった。
「まあ。良いけど、それって直に話した方が良い気がするけどな……。」
「う、…………デスヨネ。」
一応電話越しに仁聖にも状況を晴が説明すると、大爆笑されて晴・馬鹿だなぁときた。今撮影中だから後で合流するという仁聖に、イケメン二人と女一人(?)で恋愛相談かと溜め息が出てしまう。二人に呆れられたのに冷静になったのか晴は、溜め息混じりに最初の目的はもういいので食事しましょうと苦笑いの恭平に声をかけた。
「え?狭山君は?」
「後でちゃんと直に会って話します、頭冷えたんで……。」
言われるまでもなくこんな間抜けなことしないで、ちゃんと会って話すべきなのだ。明良は元々ヘテロセクシャルなのだから、晴がバイセクシャルなのとは違う。何かがあって晴とは無理だと思えば、それまでのことでそれをこんな格好でコソコソ調べたって意味がない。意味がないけど
「だってっ!明良のこと好きになったんですぅ!!」
居酒屋伊呂波が個室で良かったなぁと染々思う恭平の前で、一見可愛い女の子に見える晴はガンガンと杯を重ねていて。何か食べなきゃといってもまるで食べないし度数が高い酒を水みたいに飲んで、しかも気持ちの良い位の泣き上戸になっている。
「はいはい、それを素直に言えば良いんじゃないかな?」
「い、言えないですよぉ!!らって、明良はノン気のヘテロなんれすよぉ?!!」
それを言われると恭平も仁聖以外に興味があるわけではなくて、元はノン気のヘテロセクシャルなんだがと思う。こんな一見すると格好は女の子でも、結城晴はまるで弟みたいで、何だか子供にジャレつかれている気分だ。それにしても恋心というやつは確かに難しくて、自分だって一時期は篠にこんな風にくだをまいていたんだなぁと何やら染々してしまう。
「きょーへーさんは、あの残にぇんイケメンに告白された?」
「残念って……。」
「にゃんて言われたの?好きって?愛してるって?」
瞳をキラキラしながらそんなことを問いかけられ思わず頬が染まる恭平に、なんでか勢いづいて晴がどんな風に言われたの?初エッチはどうしたの?なんて前のめりで詰め寄った。それと殆ど同時に合流して個室の扉を開けた仁聖が、室内の空気にウェッと声をあげる。室内にいた二人は気がつかなかったが、個室内はかなり強い酒の臭いが充満するほどだったらしい。
「酒くさっ!!何この部屋っ!なんなの頭から被ったの?!」
「あー、残にぇんイケメン!」
「何その酷い言い方っ!晴、絡み酒なの?!」
お疲れと微笑みかける恭平の方は殆ど素面なのに、晴一人でこの臭いなのと仁聖が唖然とする。やって来た仁聖が、撮影後だけあって男前ぶりが何時もより三割ましなのに晴が目を丸くしていて、おしぼりを持ってきた店員まで思わず見とれてしまう男前に晴が何でかテーブルの上に突っ伏して嘆く。
「それくらい男前にゃら、明良だって塩対応じゃなくてぇ。」
「……何?明良さんに塩対応されてるの?」
「そうらしい。」
「明良さんて塩対応、得意そうだもんね。」
え?と答える恭平に仁聖は酩酊した晴を眺めながら、何でか早速と言いたげにスマホを取り出していた。
※※※
晴に会いたい。
でも会うとどうしようもなくなって、明良は自分を押さえられない。それが分かっているから会わないでいるのに、会わないと余計に頭の中は晴のことで一杯になってしまっている。仕事だからなんて嘘をついてLINEも電話も距離をおいて、少し頭を冷やすつもりだった。
こんなに滅茶苦茶な感情で晴をいいようにしていて、ゲストルームで疲れきって眠っている晴の目の下の隈や少し窶れた顔を見下ろしたらどうしたらいいのかわからなくなったのだ。それなのに今も頭を撫でるとフニャリと微笑む晴を思うと、胸が裂ける位に軋んで痛くて仕方がない。
好き、大好き、晴が好き
そう繰り返しても足りなくて、もっとふさわしい言葉を探す。こんなに愛しくて可愛くて、欲しくて、狂いそうになる感情なんて感じたことがない。たった一人、晴が欲しくて、晴が好き。そう分かっているのに、晴を壊してしまうのが怖くて仕方がない。だったら距離をおいて、晴から嫌ってくれないかなんて都合の良いことを考えてしまう。
会いたい。
晴を抱き締めてここに閉じ込めたい。自分のものにしたい、でも晴を傷つけるのは嫌だ。加減しろと外崎宏太に言われたけど、好き過ぎてどうしたら良いか分からない。たった四日晴に触れないだけで、気が狂うと思いながら一人で部屋に閉じ籠っている。
ピロン
不意に耳に入った着信音に、晴かもと思う都合の良い自分。晴に会いたいと言ってもらえたらなんて都合よく考えてしまうことに自己嫌悪しながら、画面を開いたら頭が真っ白になっていた。
《早く迎えに来て。》
相手は晴じゃなかった。先日『茶樹』で友人になって、外崎邸でも一緒になった源川仁聖からのLINE。なのに、添付の画面にはどうみても茶色のウィッグをつけて赤い縁のだて眼鏡をかけたオンナノコの晴。何で?と思うのと同時に咄嗟に立ち上がってしまっていて、気がついた時には迷いもなくLINEに表示された居酒屋伊呂波にダッシュしていた。
「あ、来た。ほら、晴、明良だよ。」
「明良ぁ?こにゃいもん、あきらは俺のこと嫌いにゃんだもぉん!だからこんな塩対応なんだもん!」
ベロベロに泥酔している晴がにゃあにゃあと泣きながらそんなことを叫んでいるのに、ゼェゼェと肩で息をしている明良に恭平と仁聖が呑気に来た来たと手をふっている。息を切らせて何が起こってるのと二人に問いかける明良に、オンナノコの格好の晴がトロンとした視線を向けて首を傾げた。
「明良ぁ?あにぇ?夢ぇ?」
「な、にやって、んの?晴、は……。」
まるで素面の…………というか仁聖はまだ未成年なので飲めるわけがないし、恭平の方も殆ど飲んでいる風でもない。ということはこの個室の酒の臭いは晴一人。しかも晴は飲むと極端に甘えたになるからとグルグルしている明良に、やっとなんとかなると仁聖が呆れ顔で言う。
「明良さん、あんまり塩対応すると晴はこんな風に暴走するからね?今回だけだよ、連絡するの。」
「明良ぁ!明良ぁ!会いたかったぁ、俺明良と一緒に帰るぅ!!」
仁聖の言葉に呆気にとられているとまるで明良を見つけて大喜びする子供のように甘えたの晴に抱きつかれて、明良はあっという間に陥落している自分に気がついていた。
ゲストルームのフカフカの布団の魅力は抗いがたい、だから明良が起こしてくれるまでと睡眠不足の晴は欲求への抵抗をやめた。晴が体力的に無理だと一度も説明してないのにこれを明良のせいにはできないし、正直言えば晴だって明良とセックスがしたいからしたのだ。でも、こんな風に仕事で支障が出るのは、晴としても流石に不本意ではある。だから明良とちゃんと話し合ってこれからのことを考えてみるつもりで、明良が来てくれるまで宏太の好意に甘えることにした。
明良が起こしてくれたら、そしたら一緒に帰って、これからも上手くやれるように二人で話をして。
そう夢現に晴は考えていた。最初は宏太の暴走でとんでもない状況だった宏太達だって最近は無茶はしないで上手くやっているし、残念イケメンだと思ってたけど実は源川仁聖が榊恭平のことを大事にして一番上手く付き合っているのをこの間教えてもらったばかり。
無理って時はどうするの?
そう何気なく晴が問いかけたら、了も同じ相談をしたなぁなんて笑うのだ。そしてそれに了は今は素直に無理って言うと答えて、恭平は言わなくても仁聖は察してくれるからと穏やかに微笑んだのだ。了はそれに仁聖は待てができるよう恭平が躾てるなんて笑ってたけど、恭平と仁聖はちゃんと信頼して一緒にいるからそうできるんだとあの微笑みを思うと今は分かる。
俺も…………明良とそうなりたい…………
今みたいに明良から熱烈に求められるのは凄く嬉しい。でもお互い信頼して一緒にいられたらもっといいなんて、乙女みたいだなと晴も思うけれどそうなりたいと心底思ってしまう。明良と一緒に幸せって感じながら過ごせるようになれるのが、今の晴の一番の願いだ。セックスだけで良い訳じゃなくて体だけでもなくて、ほんとは明良に何よりも晴が一番だなんて思って欲しい。了達みたいに恭平達みたいに、愛し合ってるって言えるのが羨ましいと晴は思う。
明良に愛してるって言えたら凄いよな…………大好きで、愛してるって……。
そんなことを考えていたら夢の中で何時もみたいに明良が頭を優しく撫でてくれて、それが気持ちよくて晴は思わず微笑んでしまう。触れてくれる明良の手の温度が心地よくて、もっと撫でてと心の中で呟く。
一緒にいたい、もっと沢山。明良が好き、大好き、愛してる。
頭を撫でてくれる手の感触が、頬に触れて、更に何時もと同じで気持ちいいキスをされて。もしかして一緒に暮らせたらこんな気持ちいいのが、もっと沢山続くんじゃないかと思ったら夢みたいに幸せな気分になってしまう。こんなに好きになってしまったのに気がつきながら凄くいい夢に思わず頬が緩むと、夢の中の明良は凄く優しく耳を擽るように晴に囁く。
おやすみ、晴。ユックリ休んで。
それなら明良も一緒に俺を抱き締めて寝てよと言いたいのに、安堵がユルユルと深い眠りに晴を引き込んでしまう。明良はまた頭を撫で、また優しく頬に触れてくれて、晴は幸せ過ぎて胸が一杯になって、そのまま深く深く眠りに落ちていた。
※※※
「はーる!起きろ、晴!」
そんな大きな活気のある声で勢いよく布団をひっぺがされて、心地よくて幸せな夢が一瞬で霧散してしまった。同時に目映い朝日が射し込んでいて、元気一杯な了の姿に晴は何が何だか分からなくてポカーンとしてしまう。スッキリ爽快な目覚めではあるけどココハドコイッタイドウナッテル?になったのは、明良が迎えに来て起こしてもらえた訳でもなくて、しかも目が覚めたのが最近当然の筈の明良の腕の中ではなかったせいだ。
「ふ、…………え?俺……。」
「朝飯、出来たから。」
どうやら昨日の午後だけと思ってゲストルームで横になったまま、翌朝まで完全に爆睡したらしい自分に暫し晴のポカーンが続く。昨日寝不足で倒れたのは現実みたいで、暫しボンヤリしてたら了に大丈夫か?と再び問いかけられ晴は我に帰る。ここのところ明良は毎日のように外崎邸までお迎えに来てどっちかの家に雪崩れ込んでいたのだが、何故か昨日に限って明良はお迎えに来なかったということらしい。
「晴?大丈夫か?まだボーッとする?」
「あ、うん……だいじょぶ…………。」
あれ?何で明良は迎えに来てくれなかったの?夢の中であんなに明良が優しく頭を撫でてくれたせいなのか、目が覚めた晴は何だか納得出来ないものがないわけではない。それでもここで一晩食事もそっちのけで爆睡したのは事実で、空腹感を感じつつ首を傾げながら晴はトボトボと階段を下り始める。
まあ、明良だって仕事もあるんだし毎日のようにってのは…………
そんな風に何とか階段を下りながら自分を納得させてみたものの、晴の問題はまるで解決しなかったのだった。
※※※
なんで……?
お迎えのなかった日から四日目。その間に晴がどんなに明良にLINEしても電話しても、仕事が忙しくてとすげない返事しかしてくれない。そんな対応の明良に、晴は正直自分が何かしたんだろうかと一人自宅で悶々としている。誰かに相談しようにも自分が何をしたのか分からないから相談しようもないし、大体にして誰に何を相談したら良いのか。
散々エッチして毎日イチャイチャしてたのに、外崎邸で一泊した途端…………。
もしかして明良は、外崎邸でまさかの外崎二人と晴がエッチしてるとか思ってる?いや、あの日泊まったのすら知らない筈だけど、自分が一晩音信不通だったのは事実で近郊で外泊できる家と言われると外崎邸しかない。そこからのこの塩対応。疲れてるみたいだから一週間休めと宏太がタイミングよく休みをくれたのが、幸か不孝かまるで分からない。
会いたい…………
今日は?とLINEしても仕事で遅くなると帰ってきて、明日土曜だし休みじゃないのと問いかけても返答がない。会いたいと言えれば良いかもしれないけど、本当に仕事でウザいと思われるのもキツい。キツいけど会いたい。でも明良の会社は元職場で、顔見知りもいて。こんな混迷を既に四日も悶々と一人で続けているのは、流石にもう限界で。とはいえ、これって俺の馬鹿…………と思わず叫びたくなる。
「……なんで、その格好?晴……君。」
晴に呼び出されて待ち合わせ場所にやって来た榊恭平の呆れ顔に、久々の五十嵐ハルは頬を染めて俯くしかない。栗色のウィッグに赤い縁のだて眼鏡、可愛らしい女の子だけど、相手が晴だと知っている恭平は暫し唖然としている。
明良の動向を一目見たくて何故女装かと聞かれると、元職場の面々に明良にワザワザ会いに来る理由が説明できないからで。しかも明良にもバレないようにするにはカップルのふりでとなけなしの知恵を働かせたつもりなのだが、恭平にそれを説明したら思いっきり苦笑いされてしまった。
「まあ。良いけど、それって直に話した方が良い気がするけどな……。」
「う、…………デスヨネ。」
一応電話越しに仁聖にも状況を晴が説明すると、大爆笑されて晴・馬鹿だなぁときた。今撮影中だから後で合流するという仁聖に、イケメン二人と女一人(?)で恋愛相談かと溜め息が出てしまう。二人に呆れられたのに冷静になったのか晴は、溜め息混じりに最初の目的はもういいので食事しましょうと苦笑いの恭平に声をかけた。
「え?狭山君は?」
「後でちゃんと直に会って話します、頭冷えたんで……。」
言われるまでもなくこんな間抜けなことしないで、ちゃんと会って話すべきなのだ。明良は元々ヘテロセクシャルなのだから、晴がバイセクシャルなのとは違う。何かがあって晴とは無理だと思えば、それまでのことでそれをこんな格好でコソコソ調べたって意味がない。意味がないけど
「だってっ!明良のこと好きになったんですぅ!!」
居酒屋伊呂波が個室で良かったなぁと染々思う恭平の前で、一見可愛い女の子に見える晴はガンガンと杯を重ねていて。何か食べなきゃといってもまるで食べないし度数が高い酒を水みたいに飲んで、しかも気持ちの良い位の泣き上戸になっている。
「はいはい、それを素直に言えば良いんじゃないかな?」
「い、言えないですよぉ!!らって、明良はノン気のヘテロなんれすよぉ?!!」
それを言われると恭平も仁聖以外に興味があるわけではなくて、元はノン気のヘテロセクシャルなんだがと思う。こんな一見すると格好は女の子でも、結城晴はまるで弟みたいで、何だか子供にジャレつかれている気分だ。それにしても恋心というやつは確かに難しくて、自分だって一時期は篠にこんな風にくだをまいていたんだなぁと何やら染々してしまう。
「きょーへーさんは、あの残にぇんイケメンに告白された?」
「残念って……。」
「にゃんて言われたの?好きって?愛してるって?」
瞳をキラキラしながらそんなことを問いかけられ思わず頬が染まる恭平に、なんでか勢いづいて晴がどんな風に言われたの?初エッチはどうしたの?なんて前のめりで詰め寄った。それと殆ど同時に合流して個室の扉を開けた仁聖が、室内の空気にウェッと声をあげる。室内にいた二人は気がつかなかったが、個室内はかなり強い酒の臭いが充満するほどだったらしい。
「酒くさっ!!何この部屋っ!なんなの頭から被ったの?!」
「あー、残にぇんイケメン!」
「何その酷い言い方っ!晴、絡み酒なの?!」
お疲れと微笑みかける恭平の方は殆ど素面なのに、晴一人でこの臭いなのと仁聖が唖然とする。やって来た仁聖が、撮影後だけあって男前ぶりが何時もより三割ましなのに晴が目を丸くしていて、おしぼりを持ってきた店員まで思わず見とれてしまう男前に晴が何でかテーブルの上に突っ伏して嘆く。
「それくらい男前にゃら、明良だって塩対応じゃなくてぇ。」
「……何?明良さんに塩対応されてるの?」
「そうらしい。」
「明良さんて塩対応、得意そうだもんね。」
え?と答える恭平に仁聖は酩酊した晴を眺めながら、何でか早速と言いたげにスマホを取り出していた。
※※※
晴に会いたい。
でも会うとどうしようもなくなって、明良は自分を押さえられない。それが分かっているから会わないでいるのに、会わないと余計に頭の中は晴のことで一杯になってしまっている。仕事だからなんて嘘をついてLINEも電話も距離をおいて、少し頭を冷やすつもりだった。
こんなに滅茶苦茶な感情で晴をいいようにしていて、ゲストルームで疲れきって眠っている晴の目の下の隈や少し窶れた顔を見下ろしたらどうしたらいいのかわからなくなったのだ。それなのに今も頭を撫でるとフニャリと微笑む晴を思うと、胸が裂ける位に軋んで痛くて仕方がない。
好き、大好き、晴が好き
そう繰り返しても足りなくて、もっとふさわしい言葉を探す。こんなに愛しくて可愛くて、欲しくて、狂いそうになる感情なんて感じたことがない。たった一人、晴が欲しくて、晴が好き。そう分かっているのに、晴を壊してしまうのが怖くて仕方がない。だったら距離をおいて、晴から嫌ってくれないかなんて都合の良いことを考えてしまう。
会いたい。
晴を抱き締めてここに閉じ込めたい。自分のものにしたい、でも晴を傷つけるのは嫌だ。加減しろと外崎宏太に言われたけど、好き過ぎてどうしたら良いか分からない。たった四日晴に触れないだけで、気が狂うと思いながら一人で部屋に閉じ籠っている。
ピロン
不意に耳に入った着信音に、晴かもと思う都合の良い自分。晴に会いたいと言ってもらえたらなんて都合よく考えてしまうことに自己嫌悪しながら、画面を開いたら頭が真っ白になっていた。
《早く迎えに来て。》
相手は晴じゃなかった。先日『茶樹』で友人になって、外崎邸でも一緒になった源川仁聖からのLINE。なのに、添付の画面にはどうみても茶色のウィッグをつけて赤い縁のだて眼鏡をかけたオンナノコの晴。何で?と思うのと同時に咄嗟に立ち上がってしまっていて、気がついた時には迷いもなくLINEに表示された居酒屋伊呂波にダッシュしていた。
「あ、来た。ほら、晴、明良だよ。」
「明良ぁ?こにゃいもん、あきらは俺のこと嫌いにゃんだもぉん!だからこんな塩対応なんだもん!」
ベロベロに泥酔している晴がにゃあにゃあと泣きながらそんなことを叫んでいるのに、ゼェゼェと肩で息をしている明良に恭平と仁聖が呑気に来た来たと手をふっている。息を切らせて何が起こってるのと二人に問いかける明良に、オンナノコの格好の晴がトロンとした視線を向けて首を傾げた。
「明良ぁ?あにぇ?夢ぇ?」
「な、にやって、んの?晴、は……。」
まるで素面の…………というか仁聖はまだ未成年なので飲めるわけがないし、恭平の方も殆ど飲んでいる風でもない。ということはこの個室の酒の臭いは晴一人。しかも晴は飲むと極端に甘えたになるからとグルグルしている明良に、やっとなんとかなると仁聖が呆れ顔で言う。
「明良さん、あんまり塩対応すると晴はこんな風に暴走するからね?今回だけだよ、連絡するの。」
「明良ぁ!明良ぁ!会いたかったぁ、俺明良と一緒に帰るぅ!!」
仁聖の言葉に呆気にとられているとまるで明良を見つけて大喜びする子供のように甘えたの晴に抱きつかれて、明良はあっという間に陥落している自分に気がついていた。
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