鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話2

間話26.可愛い君の可愛いところ

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最近人を好きになると感情の波が大きくなるし、涙腺が緩くなるなんて外崎了は綺麗な笑顔で晴に言っている。よく分からないけど確かに了を好きだと思う自分は色々な事を楽しんでたり、不貞腐れたり怒ったり、以前に比べると感情的になることが増えた気が晴もしていた。そういうのが恋愛感情ってやつの副作用なのかななんて考えながら、そう言われれば高校時代の彼女とかも結構すぐ泣いてたもんななんて晴は朧気に考える。ホルモンとかそういうもののせいなんて説明も何時か何処かで聞いたことがある気がするけど、恋愛したことがないわけではないのに晴がそれほど強い感情の変化を感じないのはどうしてだろうか。それともこれで十分感じているのだろうかと密かに疑問に思ってきた。
晴の知らない外崎宏太を知っている人達は、宏太が別人のように変わったと口々に言う。
晴の出会った宏太は最初から割合感情的な一面があるんだくらいに思っていたが、次第に時間を重ねるうち笑ったり案外優しいところもあるし、時には分かっていて悪戯をしたりと子供っぽい面を見せるようになった。それを『茶樹』の久保田や内縁の奥さんに世間話に教えると、彼等は驚くと同時に良かったと微笑む。

宏太は幸せになったんだねぇ

そう微笑みながら言う二人に、一体了と暮らす前の宏太はどんな人間だったのだろうと疑問に思う。宏太の友人の一人宇野智雪に言わせても、宏太はまるで人が変わって宇宙人に拐われて中身が入れ替わったなんて平然と口にするくらいらしい。

そんなに恋愛って人を変えるのかな……

世の中そんな変化をするような恋愛を、本当に皆しているのだろうか。でも、あの残念イケメンの源川仁聖自身もコッソリ話していて自分が榊恭平と一緒にいられて変わったんだと笑い、そして恋い焦がれていた筈の了も同じことを言う。
人も変わってしまう程に激しく誰かに恋い焦がれる。
結城晴はちゃんと彼女がいたし付き合ってセックスだってしたし、一応は結婚まで考えたことだってある。それなのに今までの恋愛ではまるで自分がそんな風に変わるなんて経験したことがないのは、なんでだろうか。

欲かね、俺もよく分からねぇけどよ。

そう外崎宏太は恋愛がしたいと口にした晴に、何気なく呟く。自分でも分からないが、色々な事に欲張りになったと宏太は何気なく口にする。今まではなにもほしくも興味もなかったのに、ある日突然了と暮らすために欲が出てきたと言う。
大事にしたい
傍にいたい
傍にいて欲しい
ずっと一緒にいたい
そんな様々な欲を感じるようになったんだと宏太は言うが、自分だってそれを感じたことがない訳じゃないなんてどこか不貞腐れた気分で考えもした。
それなのに今の自分の感情がまるでコントロールできなくなっているのは、どうしてなのだろうか。了を好きだと思っていた時とはまるで違う大きな感情に飲み込まれて、こんな筈じゃないのに無様に明良の目の前で泣き出してしまったのだ。驚いた明良に引き起こされて体を起こしても涙が止まらないし、奥まで何度も突き上げられて腹の奥が脈打つようにジンワリと痛む。それすら気持ちいいと頭のどこかが感じてもいるのに、それより泣き出したら止まらないのだ。

「おれ……………ぇ。」

今朝の夢の中、晴は明良以外の誰かに触れられた感触が酷く不快で、激しい嫌悪感に呑まれていった。触らないで・触っていいのは目の前の明良だけと叫びたかったし、同時に明良に触れられて感じてしまっていると知られたくないし明良に嫌われるのが怖い。そんな自分に気がついたら、今度は自分がしたことは棚にあげるのかと頭の中で冷ややかに自分の声が言うのを聞いてしまった。

最低な男だし、最低な嘘をついてきた、でもそれを明良に知られたら?

でももう・それを黙ってもいられないのは、苦しくて辛くて我慢できないからだった。宏太には別に最低男で構わないとあの時は平気で言いはなったのに、明良には絶対にそう言えない。間男なんて言われたのを今朝必死に誤魔化したかったのも、明良だからで明良を好きになる前の晴は宏太に何度も言われていてもその言葉に何も感じていなかったし全く平気だったのだ。

でも、明良にだけやだ。

何で嫌なのか。そう考えたら答えは簡単だった。

明良が好きだから、明良にはそう思われたくない。明良だけだって、そう信じて欲しい

今の晴にあるのは、正直それだけだった。そしてまだ明良と触れあう前、ほんの一ヶ月と少し前の話。偶々もう宏太と愛し合っていた了を、様子がおかしくなったのをいいことに無理矢理犯してしまったこと。だけど以前にはセフレでもあったのに了には完全に拒絶されて、酩酊して記憶が曖昧な了には抱いてないとその後も嘘をついていること。そしてそれをこんなに今になって苦しいほど晴が後悔するのは、明良が心底好きになってしまったからだ。

「おれ、明良以外にさわられるの、もうやだ……っ了がしゃちょー以外やなのと、おんなじで、やだって思ったら、すげ……最悪で……了の気持ち分かったら、辛くて……。」

泣きじゃくりながらこんなことを話して、明良に嫌われるのが怖い。でも、吐き出さないと苦しくて胸が張り裂けそうになるのは、明良が好きすぎて感情が押さえ込めなくなってしまっている。

「明良じゃなきゃ、やなのに、おれそんなことしてたって……いま………ぁ、明良のことしか、考えらんないし……ふ、えっくっ………黙ってて、ばれて、…………嫌われんのも、やだぁ………ふぇええ………。」

以前に過ちでそんなことをしてしまったと泣きじゃくりながら懺悔する晴を、唐突に明良が抱き寄せて腕の中にギュウッと包み込む。

「ぁきらぁ……ごめんなさい、もう、しない……、明良だけだから……。」
「晴。」

ひんやりした明良の声に、思わず晴の声がしゃくりあげながら止まる。ヤッパリそんなことするような、相手に好きな人がいるって知ってて、タイミングに飲まれてレイプ紛いに人を犯すような人間じゃ嫌われても当然。そう震えながら明良の顔を見つめ青ざめる晴に、明良はフウと深い溜め息をついてグシャグシャになった晴の頬を突然ベロと舐める。

「ひゃうっ!んんっうぅんん?!」

しかも完全にそのまま口を塞がれて、あっという間に舌に口の中を掻き回されてしまう。ヌチュヌチュと淫らな音をたてて口の中を愛撫されて、全身から力が抜けるまで丹念にキスされるのにボウッとした晴の事を僅かに苛立ちを含んだ視線がとらえる。

「ぁき、ら……ぁ……?」
「晴が後悔してるのは分かったし、聞いてて気分がいいことでもない。」

憮然とそう言い放たれて当然だと晴が俯こうとするのを、明良の手が顎をガシッと引き留め真っ直ぐに瞳を覗き込む。一つ言わせてと明良に低く言われて晴が瞳に涙を一杯にためて見つめてくるのに、明良は目を細め覗き込む。確かにタイミングがあったからってレイプされたんじゃやってられないのは事実だし、後悔してて自分が悪いから最低な役割を演じたのも分かった。

「……だけど俺に出会う前のことで、今も罪悪感で泣かれるのは面白くないんだけど。」

晴の気持ちはわかるけど。でもその時明良が隣にいたら晴がそんなことするわけがないし、大体にしてさせる気もないんだけどと低く囁いた明良の視線に晴が震える。自分が知らない時間の事で晴が自分に対して罪悪感を勝手に抱かれるのは、自分以外の事を考えているみたいで凄く不快だ。晴が自分に焦がれて泣くのは構わないけど、他人の、しかも溺愛され幸せそうに微笑みあっている人間の事で泣かれるのは凄く面白くないし、腹立たしくて許せない。

「……二度とそんなこと出来ないようにしてあげるね?晴は、俺のことしか考えられなくしてあげる。」
「ふぇ?……あ、……きら?」

怯えた瞳で見ている晴を有無を言わせず押し倒してニッコリ微笑みながら脚を抱き上げると、晴は目を丸くして力の入らない体でもがく。

「あ、きら、なに?も、エッチ、むり、おれ、や、やだ、むりぃ!」
「は?何いってるの?エッチじゃなくてお仕置きだよ?晴がおいたしたら、これからこうするから、で俺しかわかんない体にしてあげる。」

そうしたら他の人とエッチなこと出来ないでしょ?と見たことのないほど爽快に微笑みかけられ、晴は思わずその微笑みに見とれてしまう。見とれたのもつかの間ヌプッと勢いよく捩じ込まれたのに、晴は思わず仰け反り快感に悲鳴をあげていた。つい数十分前まで散々していたのに、まるでそんなことなかったかのように熱くて硬い。

あんなに散々いかされたのに、また

そう考えた瞬間に晴がドロドロに蕩けさせられる場所にそれが突き刺さってきていたのだった。
今度こそは完全に失神して、全く目の覚める気配のない晴の事を腕に抱いて、地味に目下明良は深い自己嫌悪にドロドロと負のオーラを纏っている。正直レイプ紛いに入れたと言うのは確かに気分のいい話ではないが、晴の認識そのままだったら外崎宏太は晴を外崎了と接触させ続ける筈がない。おかしくなったと言うのがどう言うことかは分からないが、その後も交流しても構わない事態だったと思いたいところだ。少なくとも晴はそれに対して開き直っているわけではなく、強い後悔をしていて今は明良を好きなので余計に辛くなったと言うところだろう。

いや、そこは大体にして、俺がいないし。

そうなのだ。その時点で晴と明良が付き合っていたんなら話は別だが、何しろ明良はまだその時の晴を知らないし、晴は了に恋愛感情を抱いていた。もし自分と付き合っててされたんなら違うだろうが、俺いないし!と叫びたくなる。いない時の恋愛で自己嫌悪で泣かれるのもどうかと思うが、だからといって逆ギレで失神するまでやるって獣か自分!!と明良は一人悶々としていた。

「んにゅ………………らぁ……。」

モソモソと腕の中の晴が寝言を囁くのに、晴は本当に分かっていないとしみじみ思う。好きで嫌われたくないなんて可愛いことを言って泣いてしまうところなんか見せたら、明良はもう断固として晴を手放す気がなくなる。女の子云々なんかもうどうでもいいし、こんなに晴に執着したら明良は本気で部屋を借りるなりなんなりして晴の事を監禁しかねないと自分でも思うのだ。駄目だと分かっていても本気で心底惚れてしまって、相手もそう思ってて自分に嫌われたくないなんて泣かれたら。

「もう…………覚悟決めて、俺のものにしてやる…………。」

飽きるとかそんなこと言えないくらい。ズブズブにはまりこむまで自分だけのものにして、自分のことしか考えられないようにしてしまおう。そう身を摺り寄せてスヤスヤ眠っている晴を抱きしめ、密かに決心する明良は甘いキスをおとしていた。



※※※



「う…………ぅっ。」

地味な腰痛に思わず呻きをあげてしまったのに、晴は溜め息を付きながら微妙に中途半端な体勢でデスクに両手をついて固まる。その様子に背後の了が気がついて、クルリと椅子を回しながら気遣わしげな視線を向けた。

「大丈夫か?湿布やろうか?」
「あ、えーと、…………うん。ぅっ。」

返事をした自分の声がズンと腰に響いて思わず晴が呻いてしまうのに、了は大変だなぁと苦笑いで立ち上がるとリビングに向かってパタパタと足音をたてる。目下言うまでもなく晴は仕事中で、あの散々やりまくった日からは既に丸二日がたつ。既に二日も経つのに何でこんな風に腰が痛むのかと言うと、その二日の間にニッコリ微笑む明良が晴をベットに拉致しているからだ。

晴、好きだよ。だから、俺のものにしてあげる。

爽やかに吹っ切れたように微笑みながら明良がそう言い、有無を言わさずに晴を抱き締めてくる。勿論抱き締めるだけでは済まなくて、最後には酩酊して失神するまでいかされて。明良が自分を好きだと愛情表現をしてくれるのは嬉しい。凄く嬉しいのだけれど、何分後ろは元々挿入される場所ではなく、しかも溺愛されている部類で何しろ突き上げが激し過ぎて。

「人のやり過ぎに説教くれてる場合じゃねぇな、ご苦労なこった。」

以前やり過ぎて了が失神した後、了が起きなくてプチパニックになったことのある宏太にだけは言われたくない。そう思うが地味に自分も同じようにやられ過ぎて失神しそうで心配だったりもする。そういうのも恥ずかしくて、一応了にはぎっくり腰をやったとしているが。

「貼ってやろうか?湿布。どこ?」
「いい…………自分で貼る…………。」

湿布をもって戻ってきた了に、服を捲られでもしたら完全にアウト。確かに人のことは言えないほどのキスマークに、自分でも鏡を見て地味にドン引きするほどヤバいとは思う。何しろ宏太と違って明良は目が見えててわざと目立つように、全身くまなくキスマークだらけにしている節がある。何でと聞いたらにこやかに微笑んで

マーキング。晴は俺のだから。

と断言された。そんな明良の求愛に拒絶出来ないのは、求められると晴も嬉しいからだったりもするから質が悪い。人のことは言えないというのは確か。ギシギシする体でトイレに向かって腰に湿布を貼ったはいいが、湿布は体内の痛みにも聞くんだろうかと染々考えてしまう。

「はーるー、明良が迎えに来てるけどー?」

そんな長閑な了の声が考え込んでいる晴の耳には届いたのだった。

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