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間章 ちょっと合間の話2
間話17.夏の夜のひととき
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しつこいほど何度も言うが外崎邸は超がつく大豪邸だ。比較対照があまり出来ないので説明しがたいが、築年数がある中古住宅とは言え数年前に完全にリノベーションされていて、しかも駅も近い戸建て。広い庭には池もあるしガレージもあって、隣家との境はキチンと塀とフェンスと生け垣で防犯もプライバシー保護もされてる。玄関はマホガニーの重厚なドアで幅は三メートル、玄関ホールには奥に階段があるが廊下の幅も三メートルあるのだ。
一階にはアイランドキッチンのLDK二十八畳にウッドデッキ、奥にはパントリー、十四畳の仕事用部屋完備、それ以外に八畳の和室と同じサイズのフリールームが一つ。二階はデカい十二畳越えの主寝室に六畳もあるウォークインクローゼット、書斎兼ゲストルームは十畳ちょっと、デカい風呂場には恐ろしいことにジャグジーまで完備と来ている。しかもまだこれに半地下の部屋が二つで、どの部屋も八畳の和室以下の大きさではないと言えば、その広大さは分かってもらえるだろう。全くもって豪勢な邸宅での夏のバーベキューは名(迷?)シェフのお陰でかなりの美食にとって変わっていて、料理のただならぬいい匂いに隣近所も興味津々の気配だ。何しろ窓を開ける音が何度もするのは、うるさいというよりは匂いが気になる様子で開けると暫く匂いを嗅いでいる風だし、まだ午後八時前でそれほど時間が遅い訳でもない。
「うわ!肉無くなる!」
「キロで買ったのによく食べるわねぇ、若人。」
全部で三キロ以上あったというが、流石に八人男性だとこんなものかしらねと藤咲が笑う。男性の平均的なバーベキューの肉の量は300グラム前後らしいが、海鮮や野菜もあったのだからかなりの量だ。仁聖と晴、明良のたべっぷりも中々だったが、何より衝撃的なのは鈴徳の食べる量。
「大食い選手権とか出れそう、鈴徳さん。」
「あー、ダメダメ、俺時間制限とかやだし、おんなじもの食うのやだもん。」
どうやら食べるのが好きで何時まででも食べられるが、同じものを延々と食べるのは無理なのだと言う。確かに同じものを何十皿と食べるのは飽きてしまうのかもと、納得するが最初から大皿一つのものだったら?
「なるほど、確かにねえ。チャレンジメニューとかはありじゃないの?」
「んー、そうねぇラーメンとかやってみたいかなぁ。でも営業時間にいけないかなぁ。」
なるほど。そういわれれば定休日が存在してない『茶樹』で働いている鈴徳には、チャレンジメニュー営業中に他の店舗にいけないのだ。休みの時は何してるのと問いかけると、遠方まで食材を探しにいったりしているらしい。根っから食べ物や食べることに興味があって、それを主体に生活していると言うわけだ。それにしても定休じゃないの辛くない?と聞くと、いや全然楽しいしとのことだから、ある意味幸せな職場ということなのだろう。ちなみに完全無休ではなくて月に四日は店舗休業だし、あとは半日とか時間給とか適当に自由にできちゃっているらしい。
そう言えば近隣でチャレンジメニューの店が随分増えている気がするが、『茶樹』ではその類いのメニューは今のところ見たことがない。元々近郊のケーキ屋より少しケーキは大きく作ってあるし、パフェなんかの盛りが大きめなのはあると思う。それでもランチや食事系も含めてジャンボメニューの類いは未だに一つもないのだ。
「作る方はさぁ……マスターにとめられてんだよねぇ。案は出してるけどさぁ。」
「作り始めたら絶対無茶苦茶しそうだもんね。鈴徳さんって。」
「ハムちゃんと同じこと言うなよ~。源川君。」
食材一つで目の色が変わるような鈴徳に好きなようにやらせていたら、とんでもないチャレンジメニューを作りそうだと仁聖は思うし、そこの点は宮井麻希子もどうやら同感だったらしい。流石に近隣の迷惑も考えてバーベキューが一段落して、片付けをしながら何でか二次会とばかりにリビングがいつになく騒がしい。
「えー、仁聖ってまだ未成年?!嘘だ!!」
「あと十ヶ月ある。」
「それで、その身長?!何それ!おかしくね?」
確かに百九十ある仁聖と並び立ち歩かれると、結城晴は頭一つ小さく見える。この中では晴が一番小柄で次が鈴徳といったところ、仁聖は藤咲とほぼ同じで八人の中では一番背が高い。しかもこの身長が去年一年のものなのだと聞いて晴がなんだそれと憤慨している。
「晴がちっちゃいんだよ。」
「ちっちゃい言うなよ!仁聖!これでも百七十五はある!」
「あるか?」
「ないような……。」
「あきらーっ!二人して酷くね?!」
キャンキャン騒いでいる姿は兄弟のようで何だか微笑ましいなぁと恭平が笑って眺めていると、また了が宏太のことを視線でおっているのに気がつく。勝手知ったるで晴がリビングで二次会飲みを始めている宏太と藤咲の高級酒に手を伸ばす。
「しゃちょーっ!今晩泊まっていいー?帰んの面倒ーっ!」
「あー、もう好きに泊まれ。そのかわり了に迷惑かけないように綺麗に使えよ。」
豪邸だが邸内の掃除は基本了がやっているし、宏太が目が見えないのでものの定位置が決まっていて、それを熟知しているのも了だ。そんなわけで実質は家主の宏太よりも、影の主人は了とも言える。その言葉にふと視線を緩めた了に、恭平は少し首を傾げながら歩み寄った。
「さっきから何かしたか?」
「あ、いや……少し気になることが……な。」
恭平にそう答える了はお前も泊まる?と話をそらしたのに、あまり口にしたくはないのだろうと察した恭平は手間でなければと微笑む。それほど帰るにも距離はないのだが、実は楽しそうな仁聖の様子にもう少し楽しませてやりたいとも考えてしまうのだ。そんなわけでこの大騒ぎのまま宿泊の流れになってしまったのだが、流石にゲストルームに六人は無理なのでゲストルームは二人・和室は四人と了が宣言してジャンケン大会になったのだがジャンケンをしているのは何故か晴と仁聖と鈴徳の三人だけ。
「何であの三人?」
「仁聖はお前とペアだし、晴は明良とだし、残りは二人だから。」
了が平然と言うのに折角心配したのにと恭平は脱力してしまう。しかも勝負運がいいのか、勝ってしまった鈴徳が何故か盛大にえー!!と不満げに叫ぶ。
「えー!俺ゲストルームやだっ!和室がいい!源川君チェンジ!!」
「ラッキー!」
「えーっ!俺もゲストルームがいいよーっ!」
「二番目、源川君だろー?」
「ちぇー。」
どうやら鈴徳と藤咲がゲストルームで二人きりは流石に回避になるらしいが、藤咲はいやぁね二人きりでも手なんか出さないわよと憮然としている。それにしても何処ぞの修学旅行のようだなと笑ってしまう会話に、何でかノリが本気で修学旅行になりつつ。そんな中で何でか怪談に話が向き始めるのに、家主の宏太が乗り気になっているのは何でだ。
「ええ?!それでそれで?突然足音が聞こえて?」
「おお、それでなぁ?」
「電気消そうよ!雰囲気!」
「ひぃっ!やだよっ!!暗いと怖いじゃん!!」
了が苦笑いしながら晴が幽霊とか怖いのが苦手だから、あれ絶対わかってて虐めてるんだという。確かに既に周囲が盛り上がっているのに、一人だけ縮こまって明良の腕にヒッシと顔を埋めている姿はなかなか可笑しい。しかもそれを面白がって鈴徳も藤咲も加わってしまって、仁聖ときたら目をキラキラさせてそれでと聞き出している。
「それでなぁ?突然耳元で…………。」
「ひぎゃっ!!」
「うわっビックリ!!なに?!晴?!」
「あはは、ごめん、俺が耳に息かけた。」
「あ、明良ーっ!!鬼ぃ!!ふええぇ!!」
「ふははっ!なんだその声!」
「笑うなーっ!くそしゃちょーっ!」
いや、これは本気で修学旅行だな。というかこんな年齢差があるのに、随分気が合うもんだと感心しながら恭平は仁聖の隣に座ってそう言えば仁聖もホラー映画苦手じゃなかったっけ?と首を捻る。以前一緒にホラー映画を見に行って、日本のホラーは苦手と話していたのだ。画像がないし、人数も多い今は楽しくて興奮状態でつられて盛り上がっているが、後から思い出したりしても大丈夫だろうかと内心心配。とはいえ仁聖の楽しそうな様子は事実だ。そういわれるとあんまりこういう集まりに参加したという話を、仁聖から聞いたことがない。もしかして個人的な友人達とのバーベキューとかは経験がないのかもしれないと気がついた。
「これはなぁ……、俺の親父の実家の辺りでの話でなぁ……。」
「鈴徳さんの親父さんの実家って東北?」
「らしいな。」
そんな訳で突然始まった怪談話は晴を怖がらせるために、次第にヒートアップしていく。しかも年嵩三人の怪談が妙に真実味が強くて、他の何人かも震え上がらせるほどの怖い話が飛び交っていくのだった。
※※※
和室に強いた布団に明良がシャワーを借りた後の明良が戻ってくると、既にリビングは消灯してリビングのソファーで撃沈している藤咲が見える。まあリビングのソファーも簡易ベッドより大きいし、藤咲の長身の体を抱えて来るには二人は必要そうだ。和室の襖を開けると既に一番奥の布団に丸くなっている鈴徳と、布団の上でパッと顔をあげてホッとした顔をする可愛い晴。
「あれ?どうしたの?晴、眠そうにしてたのに。」
明良がシャワーに行く前、晴は既に眠そうに船を漕いでいてシャワーはいいとウニャウニャしていたのだ。ところが今の晴はハッキリ目覚めていて、明良が戻ってくるのを待っていたのがよくわかる。隣に膝をつくとヒシッと抱きついてきて、腹の辺りに酔って熱い顔を刷り寄せた。
「晴?」
「明良ぁ……怖いから、一緒、寝よぉ。」
酔っている時の甘えたかと思ったけれど、少し震えている辺りもしかして先程までの怖い話が尾を引いているのかもと明良は気がつく。よしよしと頭を撫でてやると安心したようにフニャリと安堵の笑顔に変わる晴は、嬉しそうに頭を差し出してもっと撫でてとすり寄ってくる。
うう、隣に寝てる人いるんだよ?晴ってば、可愛い……。
もしここで鈴徳が寝ていなかったら。いやいや、他人様のお宅で不埒な事をするわけにはいかないとは思うが、晴は酔っていて甘えたになっていて一緒に寝ようと繰り返し甘え声で強請ってくる。
「ねぇ、明良ぁ、一緒寝よぉよぅ。」
「んんっ、分かったからね?晴、鈴徳さんいるからね?寝るだけね。」
「んー……はぁい。」
不満そうにしながら腹に抱きついたままの晴を抱きかかえて布団に潜り込んだ明良は、一晩我慢なんてできるかなぁと内心不安に考えながら晴の撫でてという頭をヨシヨシと撫で回していた。
※※※
呆気にとられる豪邸なのは分かっていたが、流石に風呂場には衝撃を受けすぎてここはいったい何処のホテルだと呆れてしまう。何しろ先に狭山明良が入っていたが、まるで余裕で仁聖も恭平も湯船に浸かれる上にもう一つジャグジーまであって、そこにノンビリ使っている家主に唖然としてしまった。それにしてももう顔の傷跡のことは知っていたが、体にもかなり酷い傷があって杖は目だけではなく足の傷も問題なのだと初めて知ったくらいだ。
「外崎さん、風呂場二階っていいよねー。」
「んぁ?お前、自分の親父の設計がいいと言いたいんだろ?」
「あ、わかった?」
「まあ、認める、春仁さんは腕はいい。マニアだけどな。」
「マニアックねぇ……そこが息子としてはちょっと引っ掛かるんだけど。」
それにしてもこうしてみていると父親の事を知っていたからもあってか、仁聖はまるで本当の父親のように宏太や藤咲に甘えていると恭平は思う。こんな風に誰かに甘える仁聖なんて実は初めて見たから、恭平が少しだけモヤッとしてしまうのは嫉妬なのだろうか。
「恭平、もしさ?」
「うん?」
「もし、だよ?家建てるとかってなったら、俺絶対いい家作るから!」
予想外の言葉に目を丸くする恭平に、外側のジャグジーから秘密基地かと言いぶはっと吹き出す声が聞こえる。浴室の扉から楽しげな話し声が聞こえたのか、ピョコンと了が顔を出して服のままジャグジーに向かっていく。
「宏太、そろそろ上がる?」
「ん、お前ははいんねぇのか?」
苦笑いで流石にこの人数のとこには入りにくいだろと笑う了に、宏太は首を傾げているが耳打ちされて納得した様子で立ち上がると足を僅かに引き摺りながら浴室を横切っていく。甲斐甲斐しいなと笑われながら、うるさいと頬を染めた了を見送ってそれにしても凄い家だなと恭平は苦笑いしてしまう。マンション暮らしの自分には余り考えたこともなかったが、老朽化してくれば何時かは越すってこともあるのだろうか。そう言われると今のマンションは、既に築年数は三十年近いかもしれないなんて考えてしまうのだった。
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「うわ!肉無くなる!」
「キロで買ったのによく食べるわねぇ、若人。」
全部で三キロ以上あったというが、流石に八人男性だとこんなものかしらねと藤咲が笑う。男性の平均的なバーベキューの肉の量は300グラム前後らしいが、海鮮や野菜もあったのだからかなりの量だ。仁聖と晴、明良のたべっぷりも中々だったが、何より衝撃的なのは鈴徳の食べる量。
「大食い選手権とか出れそう、鈴徳さん。」
「あー、ダメダメ、俺時間制限とかやだし、おんなじもの食うのやだもん。」
どうやら食べるのが好きで何時まででも食べられるが、同じものを延々と食べるのは無理なのだと言う。確かに同じものを何十皿と食べるのは飽きてしまうのかもと、納得するが最初から大皿一つのものだったら?
「なるほど、確かにねえ。チャレンジメニューとかはありじゃないの?」
「んー、そうねぇラーメンとかやってみたいかなぁ。でも営業時間にいけないかなぁ。」
なるほど。そういわれれば定休日が存在してない『茶樹』で働いている鈴徳には、チャレンジメニュー営業中に他の店舗にいけないのだ。休みの時は何してるのと問いかけると、遠方まで食材を探しにいったりしているらしい。根っから食べ物や食べることに興味があって、それを主体に生活していると言うわけだ。それにしても定休じゃないの辛くない?と聞くと、いや全然楽しいしとのことだから、ある意味幸せな職場ということなのだろう。ちなみに完全無休ではなくて月に四日は店舗休業だし、あとは半日とか時間給とか適当に自由にできちゃっているらしい。
そう言えば近隣でチャレンジメニューの店が随分増えている気がするが、『茶樹』ではその類いのメニューは今のところ見たことがない。元々近郊のケーキ屋より少しケーキは大きく作ってあるし、パフェなんかの盛りが大きめなのはあると思う。それでもランチや食事系も含めてジャンボメニューの類いは未だに一つもないのだ。
「作る方はさぁ……マスターにとめられてんだよねぇ。案は出してるけどさぁ。」
「作り始めたら絶対無茶苦茶しそうだもんね。鈴徳さんって。」
「ハムちゃんと同じこと言うなよ~。源川君。」
食材一つで目の色が変わるような鈴徳に好きなようにやらせていたら、とんでもないチャレンジメニューを作りそうだと仁聖は思うし、そこの点は宮井麻希子もどうやら同感だったらしい。流石に近隣の迷惑も考えてバーベキューが一段落して、片付けをしながら何でか二次会とばかりにリビングがいつになく騒がしい。
「えー、仁聖ってまだ未成年?!嘘だ!!」
「あと十ヶ月ある。」
「それで、その身長?!何それ!おかしくね?」
確かに百九十ある仁聖と並び立ち歩かれると、結城晴は頭一つ小さく見える。この中では晴が一番小柄で次が鈴徳といったところ、仁聖は藤咲とほぼ同じで八人の中では一番背が高い。しかもこの身長が去年一年のものなのだと聞いて晴がなんだそれと憤慨している。
「晴がちっちゃいんだよ。」
「ちっちゃい言うなよ!仁聖!これでも百七十五はある!」
「あるか?」
「ないような……。」
「あきらーっ!二人して酷くね?!」
キャンキャン騒いでいる姿は兄弟のようで何だか微笑ましいなぁと恭平が笑って眺めていると、また了が宏太のことを視線でおっているのに気がつく。勝手知ったるで晴がリビングで二次会飲みを始めている宏太と藤咲の高級酒に手を伸ばす。
「しゃちょーっ!今晩泊まっていいー?帰んの面倒ーっ!」
「あー、もう好きに泊まれ。そのかわり了に迷惑かけないように綺麗に使えよ。」
豪邸だが邸内の掃除は基本了がやっているし、宏太が目が見えないのでものの定位置が決まっていて、それを熟知しているのも了だ。そんなわけで実質は家主の宏太よりも、影の主人は了とも言える。その言葉にふと視線を緩めた了に、恭平は少し首を傾げながら歩み寄った。
「さっきから何かしたか?」
「あ、いや……少し気になることが……な。」
恭平にそう答える了はお前も泊まる?と話をそらしたのに、あまり口にしたくはないのだろうと察した恭平は手間でなければと微笑む。それほど帰るにも距離はないのだが、実は楽しそうな仁聖の様子にもう少し楽しませてやりたいとも考えてしまうのだ。そんなわけでこの大騒ぎのまま宿泊の流れになってしまったのだが、流石にゲストルームに六人は無理なのでゲストルームは二人・和室は四人と了が宣言してジャンケン大会になったのだがジャンケンをしているのは何故か晴と仁聖と鈴徳の三人だけ。
「何であの三人?」
「仁聖はお前とペアだし、晴は明良とだし、残りは二人だから。」
了が平然と言うのに折角心配したのにと恭平は脱力してしまう。しかも勝負運がいいのか、勝ってしまった鈴徳が何故か盛大にえー!!と不満げに叫ぶ。
「えー!俺ゲストルームやだっ!和室がいい!源川君チェンジ!!」
「ラッキー!」
「えーっ!俺もゲストルームがいいよーっ!」
「二番目、源川君だろー?」
「ちぇー。」
どうやら鈴徳と藤咲がゲストルームで二人きりは流石に回避になるらしいが、藤咲はいやぁね二人きりでも手なんか出さないわよと憮然としている。それにしても何処ぞの修学旅行のようだなと笑ってしまう会話に、何でかノリが本気で修学旅行になりつつ。そんな中で何でか怪談に話が向き始めるのに、家主の宏太が乗り気になっているのは何でだ。
「ええ?!それでそれで?突然足音が聞こえて?」
「おお、それでなぁ?」
「電気消そうよ!雰囲気!」
「ひぃっ!やだよっ!!暗いと怖いじゃん!!」
了が苦笑いしながら晴が幽霊とか怖いのが苦手だから、あれ絶対わかってて虐めてるんだという。確かに既に周囲が盛り上がっているのに、一人だけ縮こまって明良の腕にヒッシと顔を埋めている姿はなかなか可笑しい。しかもそれを面白がって鈴徳も藤咲も加わってしまって、仁聖ときたら目をキラキラさせてそれでと聞き出している。
「それでなぁ?突然耳元で…………。」
「ひぎゃっ!!」
「うわっビックリ!!なに?!晴?!」
「あはは、ごめん、俺が耳に息かけた。」
「あ、明良ーっ!!鬼ぃ!!ふええぇ!!」
「ふははっ!なんだその声!」
「笑うなーっ!くそしゃちょーっ!」
いや、これは本気で修学旅行だな。というかこんな年齢差があるのに、随分気が合うもんだと感心しながら恭平は仁聖の隣に座ってそう言えば仁聖もホラー映画苦手じゃなかったっけ?と首を捻る。以前一緒にホラー映画を見に行って、日本のホラーは苦手と話していたのだ。画像がないし、人数も多い今は楽しくて興奮状態でつられて盛り上がっているが、後から思い出したりしても大丈夫だろうかと内心心配。とはいえ仁聖の楽しそうな様子は事実だ。そういわれるとあんまりこういう集まりに参加したという話を、仁聖から聞いたことがない。もしかして個人的な友人達とのバーベキューとかは経験がないのかもしれないと気がついた。
「これはなぁ……、俺の親父の実家の辺りでの話でなぁ……。」
「鈴徳さんの親父さんの実家って東北?」
「らしいな。」
そんな訳で突然始まった怪談話は晴を怖がらせるために、次第にヒートアップしていく。しかも年嵩三人の怪談が妙に真実味が強くて、他の何人かも震え上がらせるほどの怖い話が飛び交っていくのだった。
※※※
和室に強いた布団に明良がシャワーを借りた後の明良が戻ってくると、既にリビングは消灯してリビングのソファーで撃沈している藤咲が見える。まあリビングのソファーも簡易ベッドより大きいし、藤咲の長身の体を抱えて来るには二人は必要そうだ。和室の襖を開けると既に一番奥の布団に丸くなっている鈴徳と、布団の上でパッと顔をあげてホッとした顔をする可愛い晴。
「あれ?どうしたの?晴、眠そうにしてたのに。」
明良がシャワーに行く前、晴は既に眠そうに船を漕いでいてシャワーはいいとウニャウニャしていたのだ。ところが今の晴はハッキリ目覚めていて、明良が戻ってくるのを待っていたのがよくわかる。隣に膝をつくとヒシッと抱きついてきて、腹の辺りに酔って熱い顔を刷り寄せた。
「晴?」
「明良ぁ……怖いから、一緒、寝よぉ。」
酔っている時の甘えたかと思ったけれど、少し震えている辺りもしかして先程までの怖い話が尾を引いているのかもと明良は気がつく。よしよしと頭を撫でてやると安心したようにフニャリと安堵の笑顔に変わる晴は、嬉しそうに頭を差し出してもっと撫でてとすり寄ってくる。
うう、隣に寝てる人いるんだよ?晴ってば、可愛い……。
もしここで鈴徳が寝ていなかったら。いやいや、他人様のお宅で不埒な事をするわけにはいかないとは思うが、晴は酔っていて甘えたになっていて一緒に寝ようと繰り返し甘え声で強請ってくる。
「ねぇ、明良ぁ、一緒寝よぉよぅ。」
「んんっ、分かったからね?晴、鈴徳さんいるからね?寝るだけね。」
「んー……はぁい。」
不満そうにしながら腹に抱きついたままの晴を抱きかかえて布団に潜り込んだ明良は、一晩我慢なんてできるかなぁと内心不安に考えながら晴の撫でてという頭をヨシヨシと撫で回していた。
※※※
呆気にとられる豪邸なのは分かっていたが、流石に風呂場には衝撃を受けすぎてここはいったい何処のホテルだと呆れてしまう。何しろ先に狭山明良が入っていたが、まるで余裕で仁聖も恭平も湯船に浸かれる上にもう一つジャグジーまであって、そこにノンビリ使っている家主に唖然としてしまった。それにしてももう顔の傷跡のことは知っていたが、体にもかなり酷い傷があって杖は目だけではなく足の傷も問題なのだと初めて知ったくらいだ。
「外崎さん、風呂場二階っていいよねー。」
「んぁ?お前、自分の親父の設計がいいと言いたいんだろ?」
「あ、わかった?」
「まあ、認める、春仁さんは腕はいい。マニアだけどな。」
「マニアックねぇ……そこが息子としてはちょっと引っ掛かるんだけど。」
それにしてもこうしてみていると父親の事を知っていたからもあってか、仁聖はまるで本当の父親のように宏太や藤咲に甘えていると恭平は思う。こんな風に誰かに甘える仁聖なんて実は初めて見たから、恭平が少しだけモヤッとしてしまうのは嫉妬なのだろうか。
「恭平、もしさ?」
「うん?」
「もし、だよ?家建てるとかってなったら、俺絶対いい家作るから!」
予想外の言葉に目を丸くする恭平に、外側のジャグジーから秘密基地かと言いぶはっと吹き出す声が聞こえる。浴室の扉から楽しげな話し声が聞こえたのか、ピョコンと了が顔を出して服のままジャグジーに向かっていく。
「宏太、そろそろ上がる?」
「ん、お前ははいんねぇのか?」
苦笑いで流石にこの人数のとこには入りにくいだろと笑う了に、宏太は首を傾げているが耳打ちされて納得した様子で立ち上がると足を僅かに引き摺りながら浴室を横切っていく。甲斐甲斐しいなと笑われながら、うるさいと頬を染めた了を見送ってそれにしても凄い家だなと恭平は苦笑いしてしまう。マンション暮らしの自分には余り考えたこともなかったが、老朽化してくれば何時かは越すってこともあるのだろうか。そう言われると今のマンションは、既に築年数は三十年近いかもしれないなんて考えてしまうのだった。
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