鮮明な月

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第十四章 蒼い灯火

間話4.下着の話。

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最近の宏太が凄く可愛い。いや、四十男にしかもこっちも男なのに、こんなことを口にするのは充分おかしいとは思うけれど。何にせよ宏太ときたら以前と違って、何を考えているか格段に顔に出るようになったのだ。以前は顔にそれほど感情が出なかったから、自分に何を感じているかは手探りでしかなかった。でも最近は見ていれば宏太が何を感じているか、了には少しずつ理解できるようになったのだ。
案外宏太は直ぐ不貞腐れる事が多いのに気がついた。常に了に自分のことを優先して欲しがっていて、その癖了に特別扱いされるのには凄く弱いのだ。この間なんか結城晴に盛り付け終わった食器を運んで貰うのに、それは宏太の食器だからと何気なく了が口にしたのに気がつかれてしまった。晴に何が違う?と密かに問いかけて「社長の食器って全部同じ色系統とメーカーで統一されてる」とバラされてしまったのだ。最初は関係なく食器を使っていたが目の見えない宏太に使いやすい物があるのに気がついたから、それで宏太の物を統一したのは了の密かな楽しみだったのに。でもそれを知った宏太は何でか凄く嬉しそうで、一言でいうならその後の午後の仕事を完全放棄した。いや、寝た訳じゃないぞ。訳じゃないが止まらないスキンシップに、晴は呆れてもう帰りますと帰途についたくらいだ。
ちょっとしたことで何かと拗ねるし、その癖了には始終ベッタリで甘えてくるし。正直前の何時でもクールな感じも格好よくて好きだったのは事実だけど、今の宏太は凄く人間臭くて、しかも自分にベタ惚れ感が満載で……

「了…………ノロケは、もういい……。」
「えー、この話できるの恭平だけなんだってー。」

もう少し聞いてくれってー、とヘニャッとした惚気顔で了に言われても、正直呆れるしかない。何しろ恭平は元は了に説教するつもりで、ここ『茶樹』に呼び出した筈だった。と言うのも先日外崎了が仁聖に与えたお土産のせいで恭平の方は、仁聖にそれこそ文字通りとんでもない目に遇わされているのだ。その土産というのが、世にいうセクシーランジェリーだったのは言うまでもない。

「え?なに?もしかして仁聖立たなかった?あれ、色違いのあってさ?宏太は喜んだけどなぁ。」

仁聖って宏太と似てるんじゃないの?なんて呑気に了は言うが、恭平は色違いってと絶句するしかない。と言うか盲目だよな?!外崎宏太は?!あんなの了に履かせて何を喜ぶんだ?!と恭平の顔が愕然としているのに、了はあれはねぇなんて呑気にいう始末だ。



※※※



「…………で、さぁ?これ、何が楽しいわけ……?」

腰に縁取られた赤いレースと赤いサテンのリボン、しかも前は全く隠さず所謂コックリングのみ。会陰部にはヒヤリと冷たい金属の珠が三つで、ベルトはキツく尻を持ち上げている風に回され、そのお陰で常に腰を突き上げている感触だ。もうこれを下着と言うのはかなり烏滸がましい。何せ本来隠すべきところが前も後ろも完全露出なのだから、使用目的は性行動としか言えないのだ。
ヤワヤワと了の肉茎の先端を舌で撫で、その太股を跨がりレースの下に潜り込んだ大きな手で尻を撫でられながら、了は少し頬を染め宏太を見下ろす。いや、本気で目が見えない宏太の前で、こんなエロ下着を履いて何の意味があるのと聞きたい。

「ん。手触りがいい。」
「いや、それ下着関係なくないか?大体、あっんっ!」

クプと亀頭を口に含まれた刺激に思わず甘い声をあげると、大きな手がスルリと尻を撫でた後にベルトを指先でなぞり始める。指の腹と爪の先を上手く使う指先の動き。自分の指がどう感じるかを知り尽くした、計算ずくの指の動きが腰の回りを這い回っていく。その指の動きが酷く淫らで擽ったいのに身を竦めると、蕩けるような熱さで先端を口内に含んだまま強く吸われてしまう。

「はぅんっ!あっ……あ、こぉ、たぁ。」

スス……とベルトをなぞる指の動き。まるでそこを見ていると言っていると錯覚するような宏太の指の動きに、体が反応してヒクリと後ろが疼き始めている。そんなのおかしいと頭の中で考えた瞬間、それを見透かしたように宏太が低く笑いながら囁く。

「見えないからって……俺は……何もわかんねぇ訳じゃねぇぞ?ん?」

低くて甘い色気を含む掠れ声に、ドキンと了の心臓が大きく跳ねる。盲目で視界からの情報は得られないだけで、宏太が何も出来ない訳じゃないと口にした。そんな風に改めて言われるのは、正直初めて聞いた気がした。最近は常々見えないから分からない、だから教えろと強請られていたから、そんな風に言う宏太は了の予想になかった。

「お前…………忘れてんだろ?ん?」

何をと了が問い返そうとした途端、スルリと股に潜った手が金属の珠を押し付けながら肌を擦って反対の手が後孔を円を描くように撫でる。合間にフッと吹き掛けられる宏太の吐息が、唾液だけでなく別なもので濡れた亀頭を撫でて背中が震えてしまう。しかも宏太の両手が太股の付け根を軽く撫でながら、先端を咥え込まれた瞬間に強い快感に崩れ落ちそうになる。

「な、あ?あぅ、あっ、ひぁっ!」
「んん、ここも感じるか?ん?どれ……。」

そういったかと思うと唐突に宏太の膝頭が会陰部に当たって、肉茎の両脇ちょうど太股から胴体に切り替わるくぼみ部分を緩急をつけて親指が押し始めた。それに合わせて宏太の舌がベロリと肉茎の根本を這う。

「ひぁ!あ!あんっ!」

そのまま指と膝に刺激されるだけで、何でかガクガクと腰が震えていきり立った怒張が跳ねる。たかが足の付け根でなんでこんなと混乱しているのに、膝頭が会陰部に当たってへたり込むことも出来ない了の太股の裏側を掌が撫で下ろす。

「ふぁっ?!あぅっ!」

何が起きているか分からない了の太股裏から膝裏まで指でなぞり時折強く弱く刺激され、いきり立ったままになった怒張の根本から腹を這う舌で見る間に煽られていく。しかも僅かでも気持ちいいと感じた場所が、指先に丹念に刺激されて触れてもいない亀頭の先端から先走りの露が溢れる。背中、腰回り、尻、太股、様々な場所を探られ、丹念にマッサージのように揉まれているだけなのに、何でか全てが快感に結び付いていく。

「ひゃ!あ!や、あっ!な、あっんん!」
「気持ちいいか?ん?」

その合間に尻を持ち上げるベルトをグイと引かれると、金属の刺激が腰の奥にガツンと響いて腰が抜けそうになってしまう。しかも快感に足が崩れれば宏太の膝頭にドンッと腰が落ちるだけで、了には刺激から逃れる方法がない。思わず宏太の首もとに縋りつくようにして体を支えると、宏太が嬉しそうに低く笑う。

「あっ!や、あっ!ひんっ!」
「可愛い声だすな?ここ気に入ったか?ん?」

一番反応が大きかった太股の付け根を重点的に押されて、反り返った怒張がパタパタと宏太の肌に露を溢してしまう。たかが太股の付け根を押されただけ、それなのにこの刺激はなんなんだと震える了に宏太は戸惑いもなく刺激を繰り返す。しがみついたままの体が丸まって次第に崩れて行くと、宏太の膝も少しずつ低くなっていたのに気がつく。やがては膝の上に跨がり縋りつく体勢で首元を舐め吸い付かれながら、太股の付け根を揉まれているだけ。

「ふぁ、ああっあっ……っ。」

時折ベルトをなぞったり引かれたり鎖骨を舐められるのに、宏太が目が見えないことを忘れてしまいそうになる。そうして意図も容易くまるで足腰がたたなくなるまで、太股を刺激され続けた了を、ベットに押し倒した宏太は舌舐めずりしながら了の脚を抱えあげた。

「どうだ?ん?」 

何時もとは違う快感にボウッと全身を薔薇色にして、トロンとした顔で宏太の言葉に視線を向ける。言葉にならない了に宏太は下着を再びなぞりながら、似合うのも困りものだなと口元を緩めて囁く。そうして膝の裏から太股に舌を這わせながら、広げられた足の間にさらされた後孔に指が滑り込む。

「やぁ、ふぁ、あぁんっ!あー……っ!」

そうして指を差し込まれて中をクリクリと擦られながら太股の付け根を舐められ強く吸わた瞬間、あっという間に絶頂に昇り詰めた了は勢いよく精を吹き出していた。ビクビクと痙攣する体でそれに気がついている宏太は、ニヤリと意地悪く微笑む。

「了?」
「ふ、ぁ…………あ。」
「ここに、キスマークついたか?見えないから教えろ。」
「ふぇ?」

着いてなかったらもう一回なと笑いながら指先で太股の付け根をなぞられた了の視線には、そんな場所に何してんだよといいたくなるような鮮やかな鬱血の後が見えて宏太がここらからが本領発揮と言いたげなのに悲鳴をあげたくなっていた。



※※※



まさか、下着を指でなぞるなんて。指の動きがイヤらしくて、しかもあの性感帯探しにはホトホト参ってしまった。それにしても耳とか首とか、勿論指とか性感帯なのは分かるし、女性の太股に口付けると喜ぶタイプがいるのは知っている。だけど自分にはそこはないなぁと思っていたのに、しかも太股の付け根?!ピンポイントでそこを責められメロメロにされてしまった。終わってからも暫く足腰が全く立たない程気持ちよくされてしまったのに、何なの?と恨めしく睨んでいたら「調教師ナメんなよ」と意味深に嗤われてしまったのだ。

つまりまだ引き出しに隠してるってことか……ヤバい……これ。

SMの調教と聞いたから、どう考えても縄+鞭+玩具=痛いのが気持ちいいの!だと思ってたのに。まさかのただただ気持ちいいだけもあるなんて。しかもメロメロにされてから、この下着はこの体位なんて平然と言い宏太はヒョイと了を俯せにして貫いたのだ。貫かれると会陰部の珠が擦れて、しかも深くてもう気持ちよくて仕方がなかった。

「あれさぁ。ベルトの位置が絶妙にくるんだよなぁ……そう思わなかったか?」
「だから…………履いた前提で話すな…………頼むから。」
「え?履いたろ?履かされたろ?」

いや、確かに履いたが、それを話したいわけじゃないし、大体にしてそんなものを仁聖に渡すなと恭平は怒りに来たわけで。それなのに了ときたら当然のように、身を乗り出してニッと笑いながら恭平に言う。

「黒良かったろ?赤より黒の方が恭平似合いそうだし。」

だからそこを強調するなと怒鳴りたい、しかも色違いって赤かよ?!だけどここでそれを怒鳴ったらただ履いたのを認めただけで、結果的に余計に恥ずかしいのには気がついている。というか、なんでそれに同意を求めるんだと恭平は言葉を失うが、既に赤面しただけで充分履いたことを肯定しているのだとは実は気がついていない。

「あれさぁ?左右に開かれる感じだろ?」

それが何を示しているのかは分かる。ベルトが尻に回って左右に開かれる感覚があると言いたいのだろうが、ここでする話ではない。それにしてもこの話題をどうやって断ち切るべきか。正直怒って立ち去るべきなのだが、何しろ話題はどうあれ呼び出したのが自分と思うと

「いや、もうさぁー。あれはかなり凄かったから、経験仲間が欲しくて。」
「は?」
「あれってバックからやられると、いつもより深く感じるよな?」

え?あ?と思わず真っ赤な顔で恭平は答えに詰まる。下着を履いたまま後ろから何時もよりも遥かに奥深くまで仁聖を感じながら貫かれて喘いだ、そんな自分の痴態がマザマザと脳裏に浮かぶ。快感に酩酊して腰を突きだした恭平に、いつもより見えると囁きかけ咥えた縁を淫らになぞる指の感触。その上抱き上げられて怒張にだけ揺さぶられたのは、腹の中が突き破られてしまうと思うほど深かった。そしてその深さが満たされていると思わせて、とてつもなく快感だったのだ。
否定も肯定も出来ない恭平が遂に俯いてしまうと、了はニヤニヤしながらヤッパリ満更でもないんじゃんというのだ。

「な?次どんなのがいい?前重点の方がいい?今度は紫とか?」
「なっ!?」

怒りに来た筈なのに何でか次の下着なんて話を持ちかけられて、恭平が尚更顔を赤くする。何でこうなると思うが、考えてみたら了は元々こういうタイプの男だったのだ。自分の快楽には素直に従うし、快楽に繋がるならスリルを求めるのにも躊躇いもない性に奔放な自由人。いや、今は相手が外崎宏太だけなのだから、以前のように自由奔放と言うのは当てはまらないのかもしれないが、性的なことには充分奔放だと恭平は思う。しかも、相手も同じような…………ノリとしては仁聖も似ているのか?!という人間なのだ。それにしたって何で下着を履く方の経験仲間を作ろうとしてるんだと頭を抱えたくなる。

「だって、情報共有できた方がいいだろ。恭平、仁聖一筋だから安心だし。」
「あ、あのなぁ……。」
「それに、仁聖好みにジャストだったろ?黒レース。」
「…………なんで、履いて見せる前提で好みを思案してるんだ…………。」
「あ、何?仁聖が履く方がいいか?それは確かにかんがえてなかったなぁ……宏太に履かせるってのもありか。」

これは何を言っても無駄だと恭平が脱力するまで、それほど時間がかからなかったのは言うまでもない。
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