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第十四章 蒼い灯火
133.
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まだ高校生の時、福上教頭は連れて行ったラーメン屋で、上手いもんをたらふく食ってよく寝れば翌日には気持ちも明るくなるなんてことを仁聖によく言っていた。確かに眠れなかったりリラックス出来なかったりでは気持ちは落ち込むばかりだし、食事がとれなきゃ気力だって沸いてこない。そういう意味ではこの言葉は四十年以上の人生経験の差が言わせてる事なのかもしれないとは思うんだけど、それを本気で納得はできなかった。何しろその頃の仁聖は、正直なところ何をしても満たされなかったし、何が足りていないのかも実際のところ理解できていなかったからだ。今までの仁聖は福上の言葉に、そんなの教頭だけでしょと平然と言い返してしまっていた。
だってさ、結局一人きりで美味しいものを食べても風呂に入っても沢山寝ても、なんにもならないんだよ。
仁聖が福上の言葉を本当の意味で理解できるようになったのは、実はここ一年足らずのこと。恭平とこうして一緒に過ごすようになって、やっと福上の言葉が理解できたし納得できた。相手の事を考えながら過ごしている内に、一緒に美味しいものを食べて一緒にお風呂に入って一緒に寝る、たったそれだけで仁聖の中にある不安が和らぐのを感じることができる。傍にいて恭平が支えてくれるし寄り添ってくれると、自分の中にある寂しさや不安が和らぐのを理解できたのだ。
福上の言葉は本当のことで、きっとあの言葉の影には寄り添ってくれる家族の存在があるからこその言葉だと思う。寄り添い互いに支えあえる存在があるからこそ、美味しいものを食べれば一緒に共有できるし、一緒に風呂に入ったり眠ったり心の休まる時を過ごせるようになるのだと仁聖は感じたのだ。だからこれが自分だけのことではなく、恭平も絶対に同じだと信じている。
そうしたことだけで心の中の不安が全て消えるわけじゃないけど、それで少しでも暗い気分が明るくなるならいいんじゃないかな。
それを暢気だと他人に言われても構わないし、それで恭平が少しでも笑ってくれるなら十分だと思う。
それでも実のところ、耳にした宇野智雪の話は凄く気にかかっていた。
宮井麻希子の失踪事件からまだ高々二ヶ月だと言うのに、今度は宇野が通り魔だなんて運が悪いにも程がある。それになんで宇野の話を聞いた恭平があんなに困惑して不安に怯えてしまったのか、その理由は考えれば分かった。宮井麻希子と息子を守って怪我をした宇野の行動は、仁聖には男として勇敢で当然なことなんだって思える。けれど恭平には、それ以外の強い不安の方が顕著に掻き立てられてしまったようだ。
多分……恭平は…………三月のこと、考えちゃったんだよな…………。
三月の卒業式の日、仁聖が成田了に拉致された事件。あの時の恭平は成田了に脅迫され、ホテルまで呼び出され言いなりで暴行されている。今だったらあの行動は間違っていたと恭平は言うし、やった方の外崎了も悪いことをしたと告げたけど、でもあれは恭平にしてみれば仁聖を助けよう・守ろうと必死だったんだ。あの時聞いた恭平の悲痛な叫び声は仁聖には絶対に忘れられないし、実際にはまだあれからほんの二ヶ月ちょっとしか経っていない。成田了が二人にしたことは、腹が立つ程度じゃ済まなくて決して許せることではないのだ。
ところが許せるものではないけれど何故か成田から外崎了に変わったあの男は、仁聖にしてもあの時の成田了と同一人物とは思えなくなってしまった。
不思議だけど……あの時の成田了はもう影も形もない……んだよな……。
仁聖にとって成田了は粗暴で危険なことをするのに躊躇いもない危険人物だった。ところが今の外崎了は、社交性の高い穏やかで面倒見も良い人懐っこい全くの別人。それに本当に危険人物なら、宮井麻希子は恐らくあんな風に容易く親しくはならない。確かに基本天然の巻き込まれ体質の宮井麻希子なのだが、命にか関わるような事態でも切り抜けられるのは高感度の危険度センサーがあるんじゃないかと思っている。まあ少し危険っていうのにはセンサーが微妙に甘いのは、溺愛彼氏の雪ちゃんさんみたいなのに平気で付き合える点で甘くしておかないとならないのは否めないが。大体にして外崎了と自分が似てるなんて言われた日には、余りにも衝撃過ぎて仁聖の方が超絶に凹んだくらいだ。
兎も角恭平に言わせれば成田了は元々は社交的でとても人懐っこい人間だったとも言うし、その上何でか今では恭平の良い相談相手になってしまっている。恭平は直に話してても大丈夫なのかなとは内心思うけど、仲良く互いの相談をしあっている節で仁聖としては困惑してしまう程だ。しかもそんな自分だってあれほど許せなかった筈なのに、一度病院で外崎了の本音と謝罪を聞いたら、今までの自分と重なってしまったんだ。大事に思う人に手が届かず別な人間を代わりにしようとしてきた外崎了、しかも手が届いてしまったら、今度は一途にその相手だけに尽くしている。その上状況を理解できるからと思わず自分だって相談相手に外崎了を選んでしまっているし、案外適切な返答まで返されてしまった。
なんか……今はそれほど嫌な奴じゃない気がしちゃうんだよな……あんな最悪なことされてんだけど………………
なので最近ではやむを得ず仁聖の認識としては、成田了と外崎了は別人と考えることにしている。とは言え幾ら外崎了と以前のように会話ができるようになりつつあるとは言え、恭平がほんの数ヵ月前の心の傷まで完全に癒えて消えているとは仁聖には一つも思えない。
それが…………雪ちゃんさんと重なったんだろうな………。
大事な相手を守って自分が傷つくと言うことに、恭平があの時の事を考えたのは仁聖にも分かる気がする。純粋だから余計その気持ちが理解できて、二度とこんなことはしないと互いに誓ってはいるけど、同じことが起きたらって考えてしまったんじゃないかと思う。それにもし仁聖が同じ状況だったら……そう考えると、迷わず自分も飛び出すだろうと思ってしまうのだ。
だって恭平が危なかったら、絶対我慢なんか出来ない……でも、自分が危なくて恭平が飛び出してきたらって思ったら…………
自分はそうするだろうけど、恭平にはしてほしくないなんて自分勝手なことを思ってしまう。だって恭平のあんな叫ぶ声は二度と聞きたくないし、もしあの時に戻れるなら仁聖は腕の皮がズル剥けようが骨が折れようが構わない。意地でも恭平に触れさせる前に成田了をぶち殺す。そうしないのはただ単に過去には戻れないからだけで、出来るなら絶対にする。つまりは同じことが起きたら自分は、同じことを繰り返してしまうに違いないと思ってしまうのだ。もしそれが恭平も同じ気持ちだったら、恭平があの時の事を思い出して不安になってしまったのは分かる気がする。それに宇野が死にかけたって事が、恭平の心に違う意味で胸に刺さってしまったのだ。
実際のところ恭平は人の生死に関してとても敏感で、本人は母親のことは少しは乗り越えたとは言うが基本的には避けているのは仁聖にだって聞かなくてもわかる。自分のように幼いうちに訳もわからず両親をなくしたのと違って、恭平は物事が理解できる中学の時に自分の身の上を知ってしまった。でも色々な誤解からそれを受け入れられないまま突然母親を亡くしてしまっている。沢山の誤解から生まれたすれ違いが、恭平の中で強い罪悪感になって、あんな酷い高所恐怖症になってしまったくらいなのだ。
高所恐怖症だって少しはましだって言うけど、苦手なのは変わらないし。
自宅である高層階のマンションの窓にも近づけなかったのは、大分改善して一緒に自宅の窓の風景くらいは眺められるようにはなった。それでも一人ではまだベランダには近寄れないし、ドアの向こうのエレベーターホール迄の通路だって外を見ないように壁に沿うようにして歩くのは今も変わらない。恭平は隣に仁聖がいるから大分いいんだなんて微笑むけど、八年も一人で密かに苦しんでたことが早々に消えるはずもなかった。
あんな風に泣いちゃうの……久しぶりに見たな…………
不安感に堪えられなくて泣いてしまった恭平の姿が脳裏に過る。儚くて脆くて…そんなことない大丈夫と、恭平に信じて貰える方法がないだろうかとふと考えてしまう。こういう時の自分が出来ることっていうのは、何かないんだろうか。
「仁聖?」
「あ、うん?なぁに?」
「食器だすか?」
「うん、お願い。もうできる。」
うんと仁聖の言葉に頷いた恭平が食器棚に向かうのを眺め、そこにまだ少し落ち着かない様子なのを見てとる。
「恭平。」
「うん?なんだ?」
振り返り仁聖の顔を見つめる恭平に、仁聖はニッコリと微笑みかけた。
「ねぇ、もしさ?俺が雪ちゃんさんの立場になったらさ?」
その言葉に恭平は凍りついたように言葉もなく立ち尽くして、仁聖の事をじっと見つめる。不安そうに黒曜石の瞳が揺れて、自分が何を言おうとしているのかを不安がっているのが見えた。きっと恭平はさっき自分が考えた事と同じことを、仁聖から言葉にして言われるのを怖がっているんだと思う。
「俺は二人とも怪我しないで、二人とも無事でいられる方法を探す。なくても探してそれを選ぶからね。」
そう自分も同じことをするなら、きっと恭平も同じ。でも感じることが同じなら、それに対して思っていることも恭平も同じはずだ。だったら、もう答えはこれしかないと仁聖は思う。二人とも怪我もしないで、二人一緒に無事でいられる方法を探す。その言葉に恭平は驚いた様子で目を丸くした。
「二人……とも?」
「うん。雪ちゃんさんが、そうするしかなかったのは分かるよ。でも、俺と恭平だよ?きっと、できると思うんだ。だから、そうする。」
笑いながらそういう仁聖に、やがてふっと恭平の表情が緩み柔らかな笑みが溢れる。そして安堵したような表情で恭平が穏やかに微笑むのを見つめながら、仁聖は内心人の命って本当に儚いんだよななんて何処かで考えてもいた。
※※※
相手から呼び出されて久々に顔をあわせた幼馴染みの姿に、仁聖は思わず目を丸くしてポカーンとしてしまった。三月末の結婚式から二ヶ月足らず会っていなかったら、目の前の村瀬真希の腹がどう考えても別世界のものみたいに大きく膨らんでいるのだ。唖然とする変化に着いていけなくて、仁聖は思わず
「…………何はいってんの?その腹。」
「アホか!可愛いベビちゃんに決まってるでしょ?!」
スカンッと真希に頭を叩かれかが、たかが二ヶ月でこんなに膨れるものなのかと呆気にとられる。既に七ヶ月近い胎児の成長というのが、男の仁聖には全くもって理解できないからだ。それにマタニティー用ではないが緩いワンピース姿の真希は、自分が知っている幼馴染みの真希とは全くの別人みたいに見える。近くの喫茶店に入り席を促すと、ゆったりした動作で真希は腰を下ろした。
「重い?腹。」
「重いー。それに、結構動く。」
「え?動くのわかんの?!」
思わずそう前のめりになってしまうのは、やっぱり男には感覚として妊娠と言うものが理解が出来ないからなのだろう。真希にこいこいと手招きされて腹に手を当てさせられた仁聖が暫し黙り込んでいると、腹壁を通してポコポコと何かが皮膚を通して当たる感触がする。驚きに目を丸くして仁聖は、その振動を感じとる。
「えええ?!これ?!これ、そうなの?!」
「そうそう、結構暴れるのよ、男の子なのかなぁ?」
真希曰く通っている産婦人科の医師が事前に性別を教えないタイプらしく、目下村瀬・坂本両家では男女共用出来そうなベビー用品準備が流行りらしい。真希はどちらのうちも近いので産後をどっちで過ごすかは決めてないらしく、初孫に両家が盛り上がっているというところ。あえて決めないでいるのは、真希としても両家に孫を見せたいというところなのだろう。
「真希的にどっちが良いわけ?男?女?」
「どっちでも良いに決まってるでしょ?篠ちゃんと私の赤ちゃんだもん。」
「くー、ノロケだ。」
当たり前じゃないと真希は朗らかに楽しそうに笑うが、それにしても母親と言うのはこんな風に赤ん坊が腹の中で育つのを体感しながら育てるのかと密かに驚いてしまう。こんなに体まで変化しながら赤ん坊が育つなんて、正直なところ男には想像も出来ない。だけどここまでして育てるのだから、母親の愛情は質の違う強い感情なのだろうとも思う。
「そうそう、慶太郎から連絡きてる?」
「あいつゴールデンウィーク戻ってこなかったな。」
「独り暮らし悪戦苦闘してるからでしょ?」
大学としては実家から通える範囲なのだが、たっての希望で独り暮らしを始めた宮内慶太郎は、実は連休に実家に戻ってこなかった。自宅の道場には通いで戻っていると言うが目下独り暮らしに必要なものや何やと揃えつつ、何よりもやったことのない調理に悪戦苦闘している。
「この間さ、パスタソースの話でLINEきてさ?」
「あー、うちにも来た、牛乳からクリームって話でしょ?」
それは半月ほど前の丁度ゴールデンウィーク辺りのLINEで、突然LINEで牛乳からクリームソースってどうすれば良い?と来たのだ。塩コショウしてコンソメキューブいれてトロミつければ?そう仁聖が答えたら、何それと帰ってくる。
「そうそう、あいつコンソメキューブも知らないから、ただ牛乳いれててさ。」
「塩コショウもなかったんでしょ?どうやってそれ食べたの?」
まだ独り暮らし初心者の慶太郎は自炊にまでは至っていなくて、ゴールデンウィークで初チャレンジだった模様。パスタは茹でるだけと購入してみたはいいが、それにかけるソースやなにかは考えが及ばなかったらしい。それで、冷蔵庫にあった牛乳をかけると言う暴挙に出たのだ。せめてかける前にLINEしろ、パスタにただ牛乳からのリカバリーに塩コショウもなし、コンソメキューブもないで仁聖は完全に呆れてしまう。聞いたら何故か和風の顆粒だしの素と味噌はちゃんとあると言うから、やむを得ずそれを入れさせた。
「顆粒出汁と味噌はあるって言うから入れさせた。」
「ええ?!」
「一応少し豚骨っぽくなったらしいぞ?」
調味料もろくに揃ってないのに何でかパスタだけ茹でた慶太郎が試した牛乳だけのクリームに見えるだけソースは、流石に仁聖は大爆笑で恭平に即教えたのは言うまでもない。しかも低脂肪乳だったらしいし、慶太郎はまだ小麦粉も片栗粉も揃えていなかったので、唯一あった味噌で対応するのを提言したわけだ。大体にしてチャレンジ調理するくらいなら、まずはレトルトソースを買えと仁聖が言ったら。
「レトルトの使い方が分かんないって。」
「うわ!きた!流石お坊ちゃん!」
完全な男子厨房に入らず家庭で十八年も生きると、小学生の時の調理実習生なんかは記憶から消えるらしい。レトルトは茹でてかけるだけだろと思うのだが、それすら直ぐには理解できない世界だったらしい。何しろ調味料を何を買ったらいいかまで、困ったらしい慶太郎からLINEが来たのだ。そこで母親に聞けない辺りもどうかと思うが、調味料自体を売り場で見たらわかりそうなものなのだが。
「基本的なさしすせそって分かるのかな?慶太郎。」
「わかんなかったわよ?私聞いたもの。」
どうやら真希にも調味料についてのLINEが来ていたらしく、真希からさしすせそを問われて慶太郎は
酒、醤油、スープ、せが分からなくて、ソース
と返答が帰ってきたのを見せられる。凄い、ある意味全部外れているって方が凄い。確かに砂糖を酒とするのと最近は味噌ではなくソース説はわかるが、それにしたってスープってなんだ?思わず爆笑してしまった仁聖に、真希はさしすせそを教えたら逆に慶太郎には衝撃だったらしいという。砂糖と塩はよしとして、酢?!醤油?!味噌?と後半の全部に驚いた返答がある。今まで何を食べているか考えてないのだろうか……、染々とそんな風に思ってしまう。
「私、自分の子供が男の子でも、料理の出来る子に育てるわ……。」
「まあ、あそこまでしないのも珍しい方だしな。」
暫く笑いが止まらない仁聖に、真希もつられて苦笑いしている。
「それにしても予定日いつ?」
真希の出産予定は九月末位らしく、予定日は九月の末日だ。それにしても妊娠したと聞いてから、この姿になるまではあっという間に感じて仁聖は目を丸くしてしまう。何しろ三月には真希は隣で高校の制服を普通に着ていたのに、あと三ヶ月もしたら母親になってしまうというのだ。
「不思議だなぁ……、母親って。」
「私もそう思う。」
呑気にそう言う真希の姿に、ふと自分の母親はどうだったんだろうと仁聖は考えている自分に気がつく。母親のことを考えるなんて、そういわれれば久々の事過ぎて一瞬戸惑ってしまうくらいだ。何しろ四歳に死んでしまった両親との思い出なんて記憶には殆ど残ってなくて、覚えているのは病院で最後のハグをしてキスして貰った事くらいで後は殆ど両親との記憶は霞んでしまっている。
そう言えば暫く写真も見てない……
だってさ、結局一人きりで美味しいものを食べても風呂に入っても沢山寝ても、なんにもならないんだよ。
仁聖が福上の言葉を本当の意味で理解できるようになったのは、実はここ一年足らずのこと。恭平とこうして一緒に過ごすようになって、やっと福上の言葉が理解できたし納得できた。相手の事を考えながら過ごしている内に、一緒に美味しいものを食べて一緒にお風呂に入って一緒に寝る、たったそれだけで仁聖の中にある不安が和らぐのを感じることができる。傍にいて恭平が支えてくれるし寄り添ってくれると、自分の中にある寂しさや不安が和らぐのを理解できたのだ。
福上の言葉は本当のことで、きっとあの言葉の影には寄り添ってくれる家族の存在があるからこその言葉だと思う。寄り添い互いに支えあえる存在があるからこそ、美味しいものを食べれば一緒に共有できるし、一緒に風呂に入ったり眠ったり心の休まる時を過ごせるようになるのだと仁聖は感じたのだ。だからこれが自分だけのことではなく、恭平も絶対に同じだと信じている。
そうしたことだけで心の中の不安が全て消えるわけじゃないけど、それで少しでも暗い気分が明るくなるならいいんじゃないかな。
それを暢気だと他人に言われても構わないし、それで恭平が少しでも笑ってくれるなら十分だと思う。
それでも実のところ、耳にした宇野智雪の話は凄く気にかかっていた。
宮井麻希子の失踪事件からまだ高々二ヶ月だと言うのに、今度は宇野が通り魔だなんて運が悪いにも程がある。それになんで宇野の話を聞いた恭平があんなに困惑して不安に怯えてしまったのか、その理由は考えれば分かった。宮井麻希子と息子を守って怪我をした宇野の行動は、仁聖には男として勇敢で当然なことなんだって思える。けれど恭平には、それ以外の強い不安の方が顕著に掻き立てられてしまったようだ。
多分……恭平は…………三月のこと、考えちゃったんだよな…………。
三月の卒業式の日、仁聖が成田了に拉致された事件。あの時の恭平は成田了に脅迫され、ホテルまで呼び出され言いなりで暴行されている。今だったらあの行動は間違っていたと恭平は言うし、やった方の外崎了も悪いことをしたと告げたけど、でもあれは恭平にしてみれば仁聖を助けよう・守ろうと必死だったんだ。あの時聞いた恭平の悲痛な叫び声は仁聖には絶対に忘れられないし、実際にはまだあれからほんの二ヶ月ちょっとしか経っていない。成田了が二人にしたことは、腹が立つ程度じゃ済まなくて決して許せることではないのだ。
ところが許せるものではないけれど何故か成田から外崎了に変わったあの男は、仁聖にしてもあの時の成田了と同一人物とは思えなくなってしまった。
不思議だけど……あの時の成田了はもう影も形もない……んだよな……。
仁聖にとって成田了は粗暴で危険なことをするのに躊躇いもない危険人物だった。ところが今の外崎了は、社交性の高い穏やかで面倒見も良い人懐っこい全くの別人。それに本当に危険人物なら、宮井麻希子は恐らくあんな風に容易く親しくはならない。確かに基本天然の巻き込まれ体質の宮井麻希子なのだが、命にか関わるような事態でも切り抜けられるのは高感度の危険度センサーがあるんじゃないかと思っている。まあ少し危険っていうのにはセンサーが微妙に甘いのは、溺愛彼氏の雪ちゃんさんみたいなのに平気で付き合える点で甘くしておかないとならないのは否めないが。大体にして外崎了と自分が似てるなんて言われた日には、余りにも衝撃過ぎて仁聖の方が超絶に凹んだくらいだ。
兎も角恭平に言わせれば成田了は元々は社交的でとても人懐っこい人間だったとも言うし、その上何でか今では恭平の良い相談相手になってしまっている。恭平は直に話してても大丈夫なのかなとは内心思うけど、仲良く互いの相談をしあっている節で仁聖としては困惑してしまう程だ。しかもそんな自分だってあれほど許せなかった筈なのに、一度病院で外崎了の本音と謝罪を聞いたら、今までの自分と重なってしまったんだ。大事に思う人に手が届かず別な人間を代わりにしようとしてきた外崎了、しかも手が届いてしまったら、今度は一途にその相手だけに尽くしている。その上状況を理解できるからと思わず自分だって相談相手に外崎了を選んでしまっているし、案外適切な返答まで返されてしまった。
なんか……今はそれほど嫌な奴じゃない気がしちゃうんだよな……あんな最悪なことされてんだけど………………
なので最近ではやむを得ず仁聖の認識としては、成田了と外崎了は別人と考えることにしている。とは言え幾ら外崎了と以前のように会話ができるようになりつつあるとは言え、恭平がほんの数ヵ月前の心の傷まで完全に癒えて消えているとは仁聖には一つも思えない。
それが…………雪ちゃんさんと重なったんだろうな………。
大事な相手を守って自分が傷つくと言うことに、恭平があの時の事を考えたのは仁聖にも分かる気がする。純粋だから余計その気持ちが理解できて、二度とこんなことはしないと互いに誓ってはいるけど、同じことが起きたらって考えてしまったんじゃないかと思う。それにもし仁聖が同じ状況だったら……そう考えると、迷わず自分も飛び出すだろうと思ってしまうのだ。
だって恭平が危なかったら、絶対我慢なんか出来ない……でも、自分が危なくて恭平が飛び出してきたらって思ったら…………
自分はそうするだろうけど、恭平にはしてほしくないなんて自分勝手なことを思ってしまう。だって恭平のあんな叫ぶ声は二度と聞きたくないし、もしあの時に戻れるなら仁聖は腕の皮がズル剥けようが骨が折れようが構わない。意地でも恭平に触れさせる前に成田了をぶち殺す。そうしないのはただ単に過去には戻れないからだけで、出来るなら絶対にする。つまりは同じことが起きたら自分は、同じことを繰り返してしまうに違いないと思ってしまうのだ。もしそれが恭平も同じ気持ちだったら、恭平があの時の事を思い出して不安になってしまったのは分かる気がする。それに宇野が死にかけたって事が、恭平の心に違う意味で胸に刺さってしまったのだ。
実際のところ恭平は人の生死に関してとても敏感で、本人は母親のことは少しは乗り越えたとは言うが基本的には避けているのは仁聖にだって聞かなくてもわかる。自分のように幼いうちに訳もわからず両親をなくしたのと違って、恭平は物事が理解できる中学の時に自分の身の上を知ってしまった。でも色々な誤解からそれを受け入れられないまま突然母親を亡くしてしまっている。沢山の誤解から生まれたすれ違いが、恭平の中で強い罪悪感になって、あんな酷い高所恐怖症になってしまったくらいなのだ。
高所恐怖症だって少しはましだって言うけど、苦手なのは変わらないし。
自宅である高層階のマンションの窓にも近づけなかったのは、大分改善して一緒に自宅の窓の風景くらいは眺められるようにはなった。それでも一人ではまだベランダには近寄れないし、ドアの向こうのエレベーターホール迄の通路だって外を見ないように壁に沿うようにして歩くのは今も変わらない。恭平は隣に仁聖がいるから大分いいんだなんて微笑むけど、八年も一人で密かに苦しんでたことが早々に消えるはずもなかった。
あんな風に泣いちゃうの……久しぶりに見たな…………
不安感に堪えられなくて泣いてしまった恭平の姿が脳裏に過る。儚くて脆くて…そんなことない大丈夫と、恭平に信じて貰える方法がないだろうかとふと考えてしまう。こういう時の自分が出来ることっていうのは、何かないんだろうか。
「仁聖?」
「あ、うん?なぁに?」
「食器だすか?」
「うん、お願い。もうできる。」
うんと仁聖の言葉に頷いた恭平が食器棚に向かうのを眺め、そこにまだ少し落ち着かない様子なのを見てとる。
「恭平。」
「うん?なんだ?」
振り返り仁聖の顔を見つめる恭平に、仁聖はニッコリと微笑みかけた。
「ねぇ、もしさ?俺が雪ちゃんさんの立場になったらさ?」
その言葉に恭平は凍りついたように言葉もなく立ち尽くして、仁聖の事をじっと見つめる。不安そうに黒曜石の瞳が揺れて、自分が何を言おうとしているのかを不安がっているのが見えた。きっと恭平はさっき自分が考えた事と同じことを、仁聖から言葉にして言われるのを怖がっているんだと思う。
「俺は二人とも怪我しないで、二人とも無事でいられる方法を探す。なくても探してそれを選ぶからね。」
そう自分も同じことをするなら、きっと恭平も同じ。でも感じることが同じなら、それに対して思っていることも恭平も同じはずだ。だったら、もう答えはこれしかないと仁聖は思う。二人とも怪我もしないで、二人一緒に無事でいられる方法を探す。その言葉に恭平は驚いた様子で目を丸くした。
「二人……とも?」
「うん。雪ちゃんさんが、そうするしかなかったのは分かるよ。でも、俺と恭平だよ?きっと、できると思うんだ。だから、そうする。」
笑いながらそういう仁聖に、やがてふっと恭平の表情が緩み柔らかな笑みが溢れる。そして安堵したような表情で恭平が穏やかに微笑むのを見つめながら、仁聖は内心人の命って本当に儚いんだよななんて何処かで考えてもいた。
※※※
相手から呼び出されて久々に顔をあわせた幼馴染みの姿に、仁聖は思わず目を丸くしてポカーンとしてしまった。三月末の結婚式から二ヶ月足らず会っていなかったら、目の前の村瀬真希の腹がどう考えても別世界のものみたいに大きく膨らんでいるのだ。唖然とする変化に着いていけなくて、仁聖は思わず
「…………何はいってんの?その腹。」
「アホか!可愛いベビちゃんに決まってるでしょ?!」
スカンッと真希に頭を叩かれかが、たかが二ヶ月でこんなに膨れるものなのかと呆気にとられる。既に七ヶ月近い胎児の成長というのが、男の仁聖には全くもって理解できないからだ。それにマタニティー用ではないが緩いワンピース姿の真希は、自分が知っている幼馴染みの真希とは全くの別人みたいに見える。近くの喫茶店に入り席を促すと、ゆったりした動作で真希は腰を下ろした。
「重い?腹。」
「重いー。それに、結構動く。」
「え?動くのわかんの?!」
思わずそう前のめりになってしまうのは、やっぱり男には感覚として妊娠と言うものが理解が出来ないからなのだろう。真希にこいこいと手招きされて腹に手を当てさせられた仁聖が暫し黙り込んでいると、腹壁を通してポコポコと何かが皮膚を通して当たる感触がする。驚きに目を丸くして仁聖は、その振動を感じとる。
「えええ?!これ?!これ、そうなの?!」
「そうそう、結構暴れるのよ、男の子なのかなぁ?」
真希曰く通っている産婦人科の医師が事前に性別を教えないタイプらしく、目下村瀬・坂本両家では男女共用出来そうなベビー用品準備が流行りらしい。真希はどちらのうちも近いので産後をどっちで過ごすかは決めてないらしく、初孫に両家が盛り上がっているというところ。あえて決めないでいるのは、真希としても両家に孫を見せたいというところなのだろう。
「真希的にどっちが良いわけ?男?女?」
「どっちでも良いに決まってるでしょ?篠ちゃんと私の赤ちゃんだもん。」
「くー、ノロケだ。」
当たり前じゃないと真希は朗らかに楽しそうに笑うが、それにしても母親と言うのはこんな風に赤ん坊が腹の中で育つのを体感しながら育てるのかと密かに驚いてしまう。こんなに体まで変化しながら赤ん坊が育つなんて、正直なところ男には想像も出来ない。だけどここまでして育てるのだから、母親の愛情は質の違う強い感情なのだろうとも思う。
「そうそう、慶太郎から連絡きてる?」
「あいつゴールデンウィーク戻ってこなかったな。」
「独り暮らし悪戦苦闘してるからでしょ?」
大学としては実家から通える範囲なのだが、たっての希望で独り暮らしを始めた宮内慶太郎は、実は連休に実家に戻ってこなかった。自宅の道場には通いで戻っていると言うが目下独り暮らしに必要なものや何やと揃えつつ、何よりもやったことのない調理に悪戦苦闘している。
「この間さ、パスタソースの話でLINEきてさ?」
「あー、うちにも来た、牛乳からクリームって話でしょ?」
それは半月ほど前の丁度ゴールデンウィーク辺りのLINEで、突然LINEで牛乳からクリームソースってどうすれば良い?と来たのだ。塩コショウしてコンソメキューブいれてトロミつければ?そう仁聖が答えたら、何それと帰ってくる。
「そうそう、あいつコンソメキューブも知らないから、ただ牛乳いれててさ。」
「塩コショウもなかったんでしょ?どうやってそれ食べたの?」
まだ独り暮らし初心者の慶太郎は自炊にまでは至っていなくて、ゴールデンウィークで初チャレンジだった模様。パスタは茹でるだけと購入してみたはいいが、それにかけるソースやなにかは考えが及ばなかったらしい。それで、冷蔵庫にあった牛乳をかけると言う暴挙に出たのだ。せめてかける前にLINEしろ、パスタにただ牛乳からのリカバリーに塩コショウもなし、コンソメキューブもないで仁聖は完全に呆れてしまう。聞いたら何故か和風の顆粒だしの素と味噌はちゃんとあると言うから、やむを得ずそれを入れさせた。
「顆粒出汁と味噌はあるって言うから入れさせた。」
「ええ?!」
「一応少し豚骨っぽくなったらしいぞ?」
調味料もろくに揃ってないのに何でかパスタだけ茹でた慶太郎が試した牛乳だけのクリームに見えるだけソースは、流石に仁聖は大爆笑で恭平に即教えたのは言うまでもない。しかも低脂肪乳だったらしいし、慶太郎はまだ小麦粉も片栗粉も揃えていなかったので、唯一あった味噌で対応するのを提言したわけだ。大体にしてチャレンジ調理するくらいなら、まずはレトルトソースを買えと仁聖が言ったら。
「レトルトの使い方が分かんないって。」
「うわ!きた!流石お坊ちゃん!」
完全な男子厨房に入らず家庭で十八年も生きると、小学生の時の調理実習生なんかは記憶から消えるらしい。レトルトは茹でてかけるだけだろと思うのだが、それすら直ぐには理解できない世界だったらしい。何しろ調味料を何を買ったらいいかまで、困ったらしい慶太郎からLINEが来たのだ。そこで母親に聞けない辺りもどうかと思うが、調味料自体を売り場で見たらわかりそうなものなのだが。
「基本的なさしすせそって分かるのかな?慶太郎。」
「わかんなかったわよ?私聞いたもの。」
どうやら真希にも調味料についてのLINEが来ていたらしく、真希からさしすせそを問われて慶太郎は
酒、醤油、スープ、せが分からなくて、ソース
と返答が帰ってきたのを見せられる。凄い、ある意味全部外れているって方が凄い。確かに砂糖を酒とするのと最近は味噌ではなくソース説はわかるが、それにしたってスープってなんだ?思わず爆笑してしまった仁聖に、真希はさしすせそを教えたら逆に慶太郎には衝撃だったらしいという。砂糖と塩はよしとして、酢?!醤油?!味噌?と後半の全部に驚いた返答がある。今まで何を食べているか考えてないのだろうか……、染々とそんな風に思ってしまう。
「私、自分の子供が男の子でも、料理の出来る子に育てるわ……。」
「まあ、あそこまでしないのも珍しい方だしな。」
暫く笑いが止まらない仁聖に、真希もつられて苦笑いしている。
「それにしても予定日いつ?」
真希の出産予定は九月末位らしく、予定日は九月の末日だ。それにしても妊娠したと聞いてから、この姿になるまではあっという間に感じて仁聖は目を丸くしてしまう。何しろ三月には真希は隣で高校の制服を普通に着ていたのに、あと三ヶ月もしたら母親になってしまうというのだ。
「不思議だなぁ……、母親って。」
「私もそう思う。」
呑気にそう言う真希の姿に、ふと自分の母親はどうだったんだろうと仁聖は考えている自分に気がつく。母親のことを考えるなんて、そういわれれば久々の事過ぎて一瞬戸惑ってしまうくらいだ。何しろ四歳に死んでしまった両親との思い出なんて記憶には殆ど残ってなくて、覚えているのは病院で最後のハグをしてキスして貰った事くらいで後は殆ど両親との記憶は霞んでしまっている。
そう言えば暫く写真も見てない……
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宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
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楽しんでいただけたら嬉しく思います。
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