鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話

間話18.予想外の関係図2

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「不貞腐れんなって。仁聖。」

何気なくそう言われて不貞腐れない訳がない。横にいる成田了は今月頭に自分を拉致して恭平に乱暴した男なのに、あっという間に関係性を取り戻したかと思ったら自分と同じように伴侶を捕まえた。しかもなんでか、自分の知人に関係があって、ついには宮井麻希子と有希子親子まで意図も簡単に味方につけてしまったのだ。しかも、親子揃って料理のこと相談していいですか?と礼儀正しく聞いた了に絆されLINE交換。

なんだか面白くない。

いや、別に二人が望んでしたものなのだから仁聖には、文句の言いようがないが、なんだか面白くなく感じるのは致し方ない。こいつがどんなやつか知らない宮井親子に不満を感じても仕方がないのはわかっている。しかも、人のことをあれだけごっこ呼ばわりで馬鹿にしたのに、気がついたらシルバーのリングなんかしてるし。

「お前、シスコンの兄貴みたいだな。雪の彼女だろ?麻希子ちゃんは。」
「あんたが麻希子ちゃんなんて呼ぶな。」
「何て呼ぶんだよ、ハムちゃんか?」

しかも何で気に入らないのに、こうして並んで帰る羽目になっているのか。帰る方向が同じらしいから仕方がないが、こうなると腹立たしいことこのうえない。ハムちゃんってなんだよと問いかけると何と『茶樹』では、宮井麻希子はハムスターのハムちゃんと呼ばれていると教えられる。何でそれを知ってるんだと聞けば、あそこのマスターと外崎宏太が知り合いと来た。あの人、どこまで交遊関係の広い人間なんだと呆れてしまう。

「それにしても何で溺愛彼氏さんの友達なんだよ、あんた。」
「溺愛彼氏か、上手いこと言うな。雪が宏太の友達なんだよ。」
「どういう関係で繋がんの?そこ。」
「うちの鬼畜、裏で動くの得意なんだよな。」

彼氏にそのいいかたってどうなのって思うけど、見てる分に楽しそうに言うから指摘するのも馬鹿臭い。悪態の割りに成田了の方がベタ惚れしているようにしか仁聖には見えないし、了が恭平ではない別な相手に惚れこんでるなら仁聖には何も問題じゃないわけだ。そういわれれば昔・恭平に肋を折られても気にしなかったというから、元来成田了という人間はこういう人間なのかもしれないと今更気がつく。

「まあ、ハムちゃんとの交流も宏太の頼みだからさ。これも仕事のうちって事だから、許せよ。」
「はぁ?」
「宏太がハムがまた監禁されたりしたら雪がキレそうだってさ。」
「まだ……狙われてるっていうことかよ?!」
「それはわかんねぇけど、何か変だから気にかけとこうってよ。」

二週間前の麻希子の誘拐監禁事件で裏で協力していた外崎宏太の頼みで、了はあえて接触してきたのだと仁聖に教える。何がどう変なのかは外崎にしか分からないのだろうが、また何かあるのは確かに仁聖としても心配だ。警察というわけではないのだが、今回の件で麻希子をアッサリ見つけたのには外崎の協力が過分にあったのは仁聖にも薄々分かっている。それにしても何か変程度でこうして動く行動力には、仁聖も唖然とするしかない。

「外崎って人、何やってるの?探偵?」
「はは、経営コンサルタントだよ。」
「嘘臭い……って言うか、胡散臭い。」
「だよなぁ、俺もそう思うけど。」

経営コンサルタントって嘘だろと内心思う。それが分かっても気にした風ではなく平然と答える成田了に、思わず眉をひそめる仁聖はそういえばと了の指を指差す。

「人のことゴッコ呼ばわりしてて自分は?」
「あれは…………悪かったよ。僻んでたんだ、と思う。」

素直にまた謝られて文句を言ってやろうとしたのに、仁聖は言葉に詰まってしまう。そんなん調子が狂うとため息をつくと、相手もだよなぁなどと苦笑いしている位だ。

「でも、俺の方が一歩先だと思うけどな。」
「何が。」
「あ、登録の名字変えとけよ?俺、もう外崎になってるから。」
「はあぁ?!」
「案外簡単に変えられるもんだよなぁ。」
「なんだよ、それっ!俺まだ二十歳なんないから我慢してんのに!」

あー、そっか二十歳前だと裁判所経由なんだもんなと了がニヤリと笑う。そう、養子縁組。仁聖も同じことを考えているのだが年齢問題で我慢しているというのに、成田了の方はさっさと外崎了になったとあからさまに自慢されている。

やっぱりあんた腹立つ!!

目に見えるほどに苛立ちながら帰宅した仁聖を驚いたように恭平が眺めているが、こればかりはどうした?と問いかけられてもそうそう口にしたい訳でもなく。しかも帰宅を見越したようにトドメの一撃がLINEで送られてきた。

《外崎さんって先輩と似てますね。》

宮井麻希子の何気ないトドメの一撃に、仁聖は思わずリビングで崩れ落ちたくなる。何処がどう似てるって?!あんな奴と似てるなんて言われたくないと思うが、そう麻希子に送って気持ちが伝わるか微妙。

「……似てるって一番言われたくない……。」
「……でも、まあ似てると言われれば似てるんじゃないか?」

恭平までそんなことを苦笑いしながら口にしたものだから、何でか泣き出したくなってくる。あんな非常識な奴に似てるって言われたくないと嘆くと、恭平が苦笑いのまま頭を撫でながらまあまあと言うのにどう見ても恭平もそう思ってたんだと気がついてしまった。

「似てるって……何処が?」

不貞腐れたように頬を膨らませた仁聖に、以前は行動とか思考過程が似てるなって思ってたんだよと恭平は言う。破天荒だし、天然だし、何するか分からないし、と当然のように言われてしまって、仁聖は脱力してしまう。破天荒で天然で何するかわかんないって、いや、確かにその通りなんだけど。

「でも!俺恭平一筋だもん!!」
「分かった、分かった。」

笑う恭平の腰の辺りを抱き締めながら言うと、柔らかな恭平の香りに安堵もする。そう言いながら、ちょっと待て、あっちも外崎さん一筋だったってこの間話したんじゃないかと気がついて、再びガックリと肩を落としてしまったのだった。
何でか再び脱力した仁聖を、頭を撫でながら恭平が不思議そうに覗きこみ首を傾げている。一筋といいつつ脱力する理由が分からないが、何か本人的には落ち込むような言葉だったらしい。最近髪を短くして少し男っぽくなったと思ったが、こうしてみるとヤッパリ仁聖は仁聖だ。

「仁聖?」
「うう、何か凹む……。俺、あんな感じなのか……。」

了に似ているがとことん嫌らしいのに、思わず苦笑いしてしまう。別に顔が似てるとかではなく、恭平にはない自由奔放なところが羨ましいだけなんだけど。そう考えながら今は似てないけどなと呟く。

「……今は?」
「お前はお前だけだし……自由そうに見えてちゃんと相手を考えるしな。」

そう恭平に微笑みかけられて、仁聖は心底嬉しそうな顔をしたのだった。



※※※



「言った通り、ハムちゃんと仲良くしてきたぞ。」

その言葉に宏太が手をヒラリと振る。仕事部屋の自分のデスクチェアを跨ぐように座りながら、ヘッドホン片手の宏太の姿に視線を向け了は口を開く。

「なぁ、宏太。」
「ん?」
「雪はどうしてそんなにお気に入りな訳?」

その言葉におやといいたげに、宏太が振り返り了の様子を伺う。別段そこまで気にすることでもないのだろうが、宏太が利害得失関係なしで動くのは何人もいるわけではない。

「ヤキモチか?」
「ばーか、純粋な疑問だっての。」

宏太の顔の傷を気にしなかったし情報の価値を知っているのが気に入ったとは聞いたけれど、だからと言って彼女の安否まで便宜を図る程の理由とは思えない。

「……了。」

こっち来いと呼ばれて素直に歩み寄ると、当然のように膝に座らされる。誤魔化されねぇしと笑う了を抱き締めながら、宏太は理由はよくわかんねぇが……と呟く。

「何となく、似てる…ってとこだな。一歩間違うと俺みたいになる。」
「……アンダーグラウンドの住人にってことか?」
「まあ、そんなもんだ。」

そう言いながら宝物のように抱き締めた了に愛しげに口付けて、宏太は何故か溜め息混じりに呟く。

「も少し幸せになってもいいんじゃねぇかな、あいつはよ。」

それが何処か悲しげに見えて、了は不思議そうに宏太の顔を眺める。傍にいればいるほど、実は宏太が色々なものを表に出さないように過ごしていたのが分かる。いや、表に出すこと自体を知らなかったようにすら見えることもあるくらいだ。

「宏太?」
「ん?」
「今、宏太は幸せかよ?」

何気なく聞いたけれど、目の前の男は嬉しそうに柔らかな微笑みを浮かべてまた口付けてくる。

「当然だろ?了が傍にいるんだぞ?」
「よし。」

嬉しそうな顔に頬を緩めた了が、立ち上がろうにもしっかり抱き止めた手が腰を引き寄せたままで身動きがとれない。溜め息混じりに了が手に触れながら、こらと口を開く。

「……飯作るから、手離せ。」
「一回。」
「あのなぁ、宏太の一回は飯作れなくなる。」

それは困るという癖に未だに手を離そうとしない宏太が、手を伸ばして機械の電源を落とす。これはどう考えてもやる気だと呆れながら、了が何とか食後にしろと抵抗する。

「じゃ、軽く。」
「軽くってなんだ、一回は変えない気かよ。」
「気持ちよくなる度合いだな。」
「……ほんと絶倫だよな、宏太。」
「自分でも驚いてる。」

ほぼ連日される身にもなれと呟くと、辛いかと真剣に聞かれて答えに詰まってしまう。辛くないと言えば嘘だか、気持ちいいのも事実。だけど回数が多すぎて流石に……

「愛してる……了。」

クイと顎を持たれて唇を重ねられ、柔らかく唇を噛まれたり吸われたり。それだけで体の奥がジンと熱くなっていく、腰を引き寄せられ背が独りでに撓って宏太が口付けるのに胸を預けてしまう。何度も何度も唇を重ねられ口の中を愛撫されるのに、体は素直に反応して蕩け始め次第に吐息が上がっていく。

「ん……ふ…………ん、んん……。」
「愛してる…。」

ほんと狡い。
こんな風に惚れた男に甘く囁かれたら、甘く口付けられたら、了が抵抗する気なんてなくなるに決まってる。それが分かっているんだかいないんだか。
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