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間章 狂宴・成田了の事象
14.
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宏太の言ってることが、理解出来ない。
宏太はどっか可笑しくなっているんじゃないかと、了はポカーンとしたまま見上げる。今なんて言った?と思わず了が呟くと、宏太は何でか再び甘い口付けをしながら覆い被さって低く囁く。
「好きだ、了。」
「……………あんた、自分は好きとかそう言うの分かんないって……言ってなかったか?」
確かに宏太はそう言う感情が自分は理解出来ない人間だと自分で言った筈だ。しかも、了が同じだから気を付けろとまで忠告した。それなのに、なんで今になって唐突に自分の事を好きだなんて言い出したのか。あまりにも右京が義理の弟・からの話の展開が急すぎて了にはついていけない。
「ああ、わからん。希和は綺麗な顔だとは思ってたが、愛とかなんとかはちっとも分からんから希和を愛してたかと聞かれても答えられん。」
右京の実の姉だった人。中性的な顔立ちの右京とよく似ているなら、少し勝ち気そうな美人だったに違いない。
「でも、結婚……したんだよな?」
「社長の娘だったからな。」
それって政略結婚ってやつ?そういうものが世の中にあるのは知っているが、とは言え好きとか愛とかは分からないと言ったのに、何故自分を好きだなんて言い出したのだ。
「な、なんで俺?」
「知るか、俺だって初めての事なんだ、好きになった理由なんてわからん。」
「いや、それは……そうかも知んないけど……。」
こんなことを宏太が言い出すなんて考えても見なかったから、了は状況に全くついていけていないでいる。
「な、なんか、訳が……わかんね……。」
「………ただ俺はお前が可愛いと思うし、お前は特別だ。」
あまりの予想外な宏太の言葉に、了は目を丸くして驚きすぎて言葉が出て来ない。それに宏太は微かに微笑みながら、また当然みたいに顔を寄せてくる。そうして再びの口付けに全てを奪い取られそうになりながら、了はやっと脳まで伝わってきた情報に声を張り上げた。
「ま、待てって!何時からそんなっ……。」
「まあ、考えりゃ最初からか。」
サラリと言う言葉が余計訳が分からない。最初に右京と二人係で強姦紛いに狂わされた時の様子は、そんな風には見えないし感じなかった。暴れる了を容易くいなしながら、宏太は何も知らないガキに一晩で最後までなんか普通するかよと当然みたいに言い放つ。
「流石にガキ相手にまで鬼畜な訳ねぇだろ?本職だぞ?」
「やったじゃんか!最後まで。」
「だから、お前だけだろ?それにしっかり気持ちよくしてやったろうが?丁寧に慣らしてやったし。」
「慣らしゃいいって話かよ?!」
「俺は本職で紳士だって言ったろうが。翌日も可愛くお強請りして欲しがったお前にタップリ気持ちよくしてやったろ?」
いやいや、ちょっと待て。段々話がおかしくなってきていると了は呆然としながら、確かに言われればその通りだとも思う。右京も宏太も確かに、了に本当はそこまでするつもりではなかったと話していた。亀頭責めで二度ほどいかせて泣かせて帰らせるつもりだったとは確かに聞いた記憶はある。一晩で最後までするなんて普通はないとも言われたし、右京ですら数ヶ月かけて慣らしたと……それにしたって何にもそんな素振り見せたこともないなんて有りかと了は騒ぐ。
「自覚したのが最近だから、しかたねぇだろ?」
「何時だよ!それ!」
「お前が見舞いに来ないのが不思議で……、お前を……待ってる自分がいた。」
そんなことを言いながら押し倒されて、ヌリュと指が再び体内に埋め込まれクリクリと前立腺を転がし始める。
そんなの反則だろ!?
一命をとりとめた宏太がボロボロの体で、それでも自分が来るのを待っていたなんて言われて何も感じない筈がない。そうして宏太は、待っても了が来ないのは瞼すらまともに残らなかった醜い顔を、以前の自分を知っている了が見たくないからだと考えた。自分が希和の事を顔でしか見ていなかったのと、了が同じだと考えた瞬間何故か酷く辛くなったのだ。その辛さがなんなのだと考えるうちに、同時に了に会いたくて仕方がなくなった。しかしこの顔では会えないとなったら、何故か更に会いたくて仕方がなくなったと囁く。
ツプと音をたてて孔から抜き取られた指に、思わず了の腰がひくつく。
「こんなグロい顔じゃ仕方がねぇ、俺だってそう考えた。」
カシャッと軽い音をたてて了の目の前でサングラスを外す宏太の顔は、何度も真横に切りつけられた痕で横断され歪になってしまっている。瞼はそれぞれに閉じきることも出来ず、コンタクトのように嵌め込んだ義眼ですら綺麗に収まらない。グロいと表現するのは、きっと宏太の脳裏にある元妻の無惨な姿が浮かぶのだろう。だけど、了には正直こんな風に間近にしても、グロいなんて一つも思えない。それどころか宏太は宏太で、傷痕があろうが…。手を伸ばそうとしてガヂャと枷が引き留めたのに気がついて、了は目を細める。
「おい、手枷……、外せよ……。」
了の声に枷の存在を思い出したように、足首と手首を繋ぐ金具だけを外す。そんな宏太に呆れたように了は、どうせなら枷も外せよと呟きながら手を伸ばす。伸ばした手で頬に触れ宏太を引き寄せると、その顔にソロリと唇を寄せて傷を舐める。
「ん……っ。」
「痛い、か?」
「いや……触れられたことがねぇから、よくわからん……。」
それでも了がしたいようにさせる宏太の姿に、了は不思議な気分になっていく。待ってたと言われて、それでも傷を見たくないのだろうと諦めようとした宏太。傷痕を舐められる感触に戸惑う宏太の様子が不思議でチュと音をさせると、腰をそっと抱き上げてくる宏太の手に気がついた。探るように肌を滑る手が了の事を確認しているみたいに感じるのは、記憶の中の了と重ね合わせているのかもしれない。
「来ねぇくせに、やっと久々に会ったと思ったら、急に男になりやがって………しかも、声もかけずに人のことじっと見つめやがる……。」
「ちょ、ちょっと待てよ、それって墓での事か?」
「他にどこの話だよ?ああ?他に会ったか?」
その言葉に愕然としてしまう。あの腕を咄嗟にとった時宏太がここにいるのが自分だと分かっていたような気がしたのは、本当に間違っていなかったのだ。だけど、そんなことあり得る筈がない。目の前の男は目が見えないのに、どうやって背後の遠くから歩いてくる了の事を認識できたのか。
「………足音でわかんだよ。頭ん中でお前の足音は何回も繰り返し聞いてる。後ろから歩いてくるので直ぐ分かった。」
「はぁ?!」
「それに、この音……も、こうして傍にいると聞こえる……俺が触れると、早鐘みたいに脈打って……。」
ソロリと胸に手を当てられ心拍の上昇まで見抜かれて、了は思わず唖然とする。外での足音一つ?心拍?何処まで聞こえてんだと呟くと、ニヤリと笑う宏太が耳元で囁く。
「風呂場でオナニーも俺の名前を呼びながらなんて、最高にエロくて可愛かったぞ?ん?何時でも気にせずやってくれ、楽しみにしてる。」
あからさまに秘密を暴露され、宏太に全て聞かれているのが分かってカァッと頬が熱くなる。密かに了が風呂場で自慰をしているのを知っているから、宏太はベットで触れるのにあんな風に踏み切ったのだ。それにしても異常すぎる聴覚に呆れてしまう了に、宏太は再び肌を撫で始める。
「や、やめろっ!も、やだっ!んっ!」
「ああ……いい声だな、了。聞いてるだけで興奮する。」
まるで感嘆するような低い掠れた囁きに、頬が更に熱くなるのが分かった。了が感じて喘ぐ声に、宏太が興奮している。でも、宏太にはそれ以上の快感は得られない筈なのだ。ところが耳元で囁く声は、嬉しそうに耳朶を舐めながら手を止めるふうではない。
「や、あっ!あっ!ああっ!んふぅっ!なんで、だよっ!?」
聞くだけで何が得られるんだと必死で抵抗しようとしながら問う了に、宏太は酷く楽しげにニヤリと微笑み了の乳首を舐める。そう言えばキスも初めてだったが、宏太がこんな風に体を舐めてくるなんて事も初めてだ。
「ああ……お前の可愛い声聞くと……な……、頭ん中煮えたぎるみたいだ……、ジンジン熱くなって、頭ん中だけでもいける…。」
チュクチュクと舐め回す舌の動きが視界に入るだけで、恥ずかしくていきそうになる。しかも、了が手で口を塞いでも宏太はその声を我慢してる吐息もいいな、なんてイヤらしく呟く。ネロリと乳首を舐め回されきつく吸われ、甘噛みされると腰が蕩けてしまう。
「いいな、もっと聞かせろ……了……。」
「やああっ!あっ!あっあああっ!」
「愛してる…了。」
ビクビクと痙攣して悲鳴をあげる了に、宏太は微笑みながら口付けてくる。特別だと言われ、しかも愛まで囁かれながら乳首を責められ腰を抱かれて、今迄に感じたことのない電気が走るような快感に飲み込まれてしまう。思わず宏太の体に縋りつくと、尚更興奮をした宏太が乱暴にここ数日で初めて二本の指を捩じ込んでくる。
「ひぅっ!あううっ!やっあっ!あーっ!!あああっ!」
「俺以外の男に泣き顔見せやがって………、お前、たっぷり仕込んで俺のものにしてやるからな……?覚悟しろよ?」
「な、んんんっ!あっ!そこやだっ!くうううっ!」
二本の指が前立腺を挟んで責め立ててくるのに悲鳴を上げながら腰を揺らす了に、宏太は何故か満足そうに口付けた。見舞いに来ないとか恭平の前で泣いたとか、なんだそりゃ?と言いたくなる事で不満を漏らす宏太に、乱暴にグポグポと音をたてて孔を掻き回される快感に背が撓る。
「こんなに孔、グヂョグヂョにしやがって……可愛いな、了。」
「い、うなぁっ!!あああっ!あーっ!」
「ちょっと俺に掻き回されただけで、あっという間にトロットロだぞ?お前の孔。」
くそ、なんだこの変態と思うのに宏太の言葉責めと指と口付けだけで、了は完全にメロメロに蕩けさせられてしまっていた。突き込まれる指に向かってガクガクと上下する腰を撫でられながら、こんなにも意図も容易く宏太に操られてしまう。
「たっぷり、いかせて狂わせてやる。俺のことしか考えられないように、俺の女にしてやるからな。了。」
「や、だっ!何でっ、今さらっああっ!」
「今だからだろ……お前が欲しくて堪らない……全部俺のものにしてやる……満足できなきゃ、玩具使ってでも仕込んでやる。」
その言葉にヒクリと体が戦き了は喘ぎながら、必死に頭を振り拒否を伺わせる。なんだ?奥まで突っ込んで欲しいだろ?と甘く囁いてくる宏太に、了は急激に酩酊させられながら嫌だと喘ぐ。
「ゆ、びでい……から、…玩具は、い、やああっ!あーっ!」
「可愛い奴だな、ほんとに……タップリ指でいかせてやる。」
絶え絶えの了の喘ぎに宏太は酷く嬉しそうに微笑むと、もう一度体にのし掛かり出していた。いつの間にか片足を大きくあげられ、宏太の肩に膝裏を押さえ込まれる淫らな姿。ヒクヒクと痙攣しながら、惚けて半開きにした唇からは喘ぎめいた吐息が切れ切れに溢れ落ちる。
「やぁ……も、……い、くぅうう………んんっ……っ!」
一瞬の失神の後に我に返ると了は肩で息をしてグッタリしながら、宏太の腕に抱きすくめられている。涼しい顔の宏太は楽しげに了の様子を抱き締めながら感じ取っているようだが、了は腕を挙げることすら苦労する程なのだ。
くそ……やりたい放題だ………。
やりたい放題にされていると思うのに、それがどうも嫌ではない自分もいて恥ずかしくなる。どうせならせめて宏太も服くらい脱いでみせる位すればいいのにと、腹の辺りを捲りあげようとした了の手を宏太が握り締めた。
「こら、悪戯すんな。まだたりねぇか?ん?」
「なんで、あんた着たままだよ?脱げ。」
「必要ねぇだろ?」
「俺が見たいから脱げ。」
大体にして顔の傷を見せるのにもあんなに躊躇う位だから、恐らく体の傷も見せないようにしているのに気がついて了がそう言う。裸も見せねぇ奴の傍にいられるかと了が言い放つと、宏太は諦めたようにとしかたがねぇなぁと呟く。
グイとしなやかな動きで上着を腹から捲り上げていく肩や腕は、昔と変わらず色気のあるままで張りのある筋肉が覗いている。しかし曝された首から鎖骨にかけ滑らかな肌に、不気味に色を変えて歪に盛り上げる傷痕と抉りとられひきつれるような肌に了は思わず吸い寄せられた。脱ぎ捨てられた服の下の胸元はそのまま滑らかな肌のまま、引き締まった腹筋が見える。なのに下は
「満足か?」
全て脱ぎ去った服を床に落として歪に傷痕に呑み込まれた股間を隠すこともしない宏太に、了は息を詰めたままそれを見つめていた。片方の太股にまで斜めに走った傷跡は、反対側の足の付け根まで長く大きい。太股と股間の一部は削り取られたように抉られていて、そのせいで歩行にまで支障があるのが見てとれる。長大だった陰茎は根本からとまではいかないが、歪に半分ほどの姿で醜く縫合の傷痕に埋まっていた。
「了?」
微かに不安げにも聞こえる声に、了は息を吐いて気だるい体を起こすと膝立ちのままの宏太の手をとった。こんなの見てもグロいし面白くもねぇだろ?と囁く宏太に、了は無言のまま体を引き寄せベットに押し倒す。
「なんで、あんたそんなにグロいって言ってんだよ……?」
「あ?看護師が若いのに傷痕はグロいし可哀想だって散々言ってたからな。」
「看護師がそんなこと言うかよ。」
患者の前では言わねえが影ではそんな話を普通にしてんだよと苦笑する宏太が、過敏すぎる自分の耳でそれを聞いていたのに了は気がつく。それを病室で独り聞きながら、宏太は見舞いに来なくなった了も醜さに怯えて逃げてしまったのだと思ったのだ。そう考えるだけで疼くように胸が痛む。
了は押し倒したその体に股がると、そっと喉元の傷痕を撫でると顔を寄せて口付ける。
「こら、何すんだ?」
「グロくなんかない………でも、痛かっただろ?」
「そんなん覚えてねぇよ……ん……。」
微かな反応の声に了はここに触れるの俺が初めて?と囁きかけた。当たり前だろと苦笑する宏太に、了は見えないと分かりながらほろ苦く笑って体をずらすと股間の傷痕にまで丹念に舌を這わせる。
「ん……。」
「………舐めると、………痛む?」
「いや……、……擽ったいな……んっ。」
引きつれた傷を舐め回す舌の動きに、宏太の口から微かに熱い吐息が溢れた。擽ったいというなら、感覚がないわけではないのだと了は吐息と一緒に口付けていく。傷だらけの陰茎は微かに固さを感じさせるが、引き連れた皮膚のせいで怒張するのかまでは分からない。縫合された先端から微かに感じる体液の味に、思わずそこに執拗に口付けてしまう。
「ここ、……全部切り取られた訳じゃないんだ……?」
「半分って……っとこだな、玉も半分千切れてっからな……だけど、これでもましだ。全部切り取られて下半身不随よりはな。ふっ……ぅ。」
その言葉に了がふと動きを止めたのに、微かに吐息を溢していた宏太は気がつく。そして、自分の足の間に座り込んでいる了に向かって、手を差し伸べ頬を撫でる。
「なんだ、また泣いてんのか?了。」
何でそんなに泣き虫だよ、ほらこいと苦笑混じりに囁かれ胸に抱き寄せられ頭を撫でられるのに、了は唇を噛んだまま暫く黙りこんだ。やがて掠れた弱い声で腕の中の了が呟く。
「……怖かったか?」
「……そうだな。………ちっとは…怖かったのかもな。」
偶然手が当たってスマホが通話にならなければ、そのまま冷たくなっていた筈のあの時間。正直言えばそのジワジワと迫る死が、宏太は怖かったわけではない。あの死との狭間で聞いた希和の高い笑い声と、三浦和希の狂気の声がまるで会話をしていたような気がしてそれが怖いのだ。また、あの三浦がやって来て希和と会話しながら、生き残りと言う同じ境遇の男と宏太を同じ状態にしてやると言いそうな気がする。
あの事件の生き残りは三人。
うち、男は二人で宏太以外のもう一人は人工呼吸機と胃に孔を開けての栄養剤、そして腹に直接開けた穴から管を突っ込み排尿していると言う。最初は頭はしっかりしていたらしいが三浦の写真を見せただけで完全に発狂してしまって、今では脳すらグズグズになったのか完全な植物状態だと言う。宏太の傷がこれで済んだのは偶然の巡り合わせなのだ。三浦が宏太を傷つけたのは連続殺傷の三人目、前の二人は目に金属の棒を捩じ込んで硬質の瓶で殴打したり瓶を腹に捩じ込んだりとその場のもので計画性もなく実行しているように見える。宏太を襲った凶器も《random face》のキッチンのナイフだった。慣れない事と切れ味の悪い既製品の包丁。そのお陰で宏太は、この程度の傷跡で生存できたのだ。
その後の三浦は次第に犯行に手慣れて行き、切れ味の鋭いナイフを使用するようになる。お陰でもう一人の生き残りは逸物は根本から切り取られ睾丸も抉られて下半身に障害を引き起こすほどの傷になった。首の傷も宏太の時はまだ戸惑いもあったのか力が弱かったが、後々慣れてしまった三浦は深く抉り込むように切りつけるようになっている。
もう一人の生き残りに比べれば、今の宏太は三浦の影で発作が起こるトラウマがある程度で、独りで生活するのに支障がない体ならましなものだ。
「……こんなに、されたのに………あんたが………生きてて良かった……。」
小さく腕の中でそう囁く声に思わず宏太は微笑んでしまう。
それがどんなに自分の胸を揺らして、愛しいと感じさせているか了はまだ分かりもしない。他の誰かにそんなことを言われても馬鹿馬鹿しい・そこで死んだら運命だとしか言わない筈の宏太が、了にそう言われると甘く熔けるような疼きを感じてしまう。そんな甘い気分になる理由も分からないのに、こうなると目茶苦茶に愛撫して泣かせて縋りつかせたい衝動に刈られるのだ。宏太の傷を見ても悲しそうに見つめている風な気配だけで、触れるのに戸惑わないどころか醜い傷痕に口付けまでする。人が吸えないから棄てろと言ったタバコを吸ってみたり、一緒に住むとなったら今度は宏太の体を考えて一本も吸おうともしない。そこまで筒抜けだと教えてやったら、真っ赤になって否定するに違いないがそれを可愛らしいと思わない筈がない。素直じゃない生意気なその態度だって、宏太にしてみればただただ可愛いだけだと知りもしないのだ。
「了、お前これから、ずっと俺の傍にいろよ?いいな?」
「はぁ?何プロポーズみたいなこと言ってんだよ?頭打ったんじゃねぇの?!」
「みたいじゃねぇよ。俺の嫁にしてやるって言ってんだ、嬉しいだろ?ん?」
プルプルと腕の中で震える了に、思わず更に笑みが浮かんでしまう。嫌だとも言えずいいとも言えない素直じゃない生意気な了が、宏太の言葉に絶句してどう反応していいのか怒るべきなのかと見悶えている。
「素直じゃねぇなぁ、お前俺のこと大好きだろ?ん?」
「か、勝手なこと言うな!俺はっ!」
「俺はお前が好きだ。愛してる。」
ググッと言葉に詰まる了の様子に、頭の中が再び熱を持ち始める。確かに射精のような絶頂はもう感じられない。睾丸は半分は切除しているし残り半分も機能しているかは分からない上に、陰茎も皮膚の引き連れのせいもあって勃起してるんだかも分からないのだ。それでも耳が過ぎるせいなのか、了の甘い喘ぎ声と淫らな体液のたてる音と反応を感じると頭の中が歓喜で煮え滾る。頭の中がジンジンと痺れるように煮えて、了の蕩けた声に快感に飲まれていく。ただこちらの快感には限界がないのが問題で、しかも了の身体を見てやってる訳ではないから限度が分からない。
「まだこの体じゃ手加減の仕方がわかんねぇから、悪いけどな?愛してるから、素直にされろ。」
「は?され………?手加減って………?」
「お前が可愛いから歯止めが効かねぇし、何処まですると失神するかもよく分かんねぇからな、声だしておしえてもらわねぇとな?了。」
何度も抉られて綻んだ了の孔に指を突き立てて擦り始めてやると、ヒィッ!とひきつるような悲鳴を上げて指をキチキチと食い絞めてくる。それでも既に執拗に擦られた前立腺はプクリと腫れて探り易く、コリコリと指先に転がされ了はまた喘ぎながら腰をガクガクさせて可愛い声で懇願を始めた。
「諦めろ、俺の女にしてやるから。」
「んんっ、んうっ!ああっ!あーっ!やぁ!」
宏太はどっか可笑しくなっているんじゃないかと、了はポカーンとしたまま見上げる。今なんて言った?と思わず了が呟くと、宏太は何でか再び甘い口付けをしながら覆い被さって低く囁く。
「好きだ、了。」
「……………あんた、自分は好きとかそう言うの分かんないって……言ってなかったか?」
確かに宏太はそう言う感情が自分は理解出来ない人間だと自分で言った筈だ。しかも、了が同じだから気を付けろとまで忠告した。それなのに、なんで今になって唐突に自分の事を好きだなんて言い出したのか。あまりにも右京が義理の弟・からの話の展開が急すぎて了にはついていけない。
「ああ、わからん。希和は綺麗な顔だとは思ってたが、愛とかなんとかはちっとも分からんから希和を愛してたかと聞かれても答えられん。」
右京の実の姉だった人。中性的な顔立ちの右京とよく似ているなら、少し勝ち気そうな美人だったに違いない。
「でも、結婚……したんだよな?」
「社長の娘だったからな。」
それって政略結婚ってやつ?そういうものが世の中にあるのは知っているが、とは言え好きとか愛とかは分からないと言ったのに、何故自分を好きだなんて言い出したのだ。
「な、なんで俺?」
「知るか、俺だって初めての事なんだ、好きになった理由なんてわからん。」
「いや、それは……そうかも知んないけど……。」
こんなことを宏太が言い出すなんて考えても見なかったから、了は状況に全くついていけていないでいる。
「な、なんか、訳が……わかんね……。」
「………ただ俺はお前が可愛いと思うし、お前は特別だ。」
あまりの予想外な宏太の言葉に、了は目を丸くして驚きすぎて言葉が出て来ない。それに宏太は微かに微笑みながら、また当然みたいに顔を寄せてくる。そうして再びの口付けに全てを奪い取られそうになりながら、了はやっと脳まで伝わってきた情報に声を張り上げた。
「ま、待てって!何時からそんなっ……。」
「まあ、考えりゃ最初からか。」
サラリと言う言葉が余計訳が分からない。最初に右京と二人係で強姦紛いに狂わされた時の様子は、そんな風には見えないし感じなかった。暴れる了を容易くいなしながら、宏太は何も知らないガキに一晩で最後までなんか普通するかよと当然みたいに言い放つ。
「流石にガキ相手にまで鬼畜な訳ねぇだろ?本職だぞ?」
「やったじゃんか!最後まで。」
「だから、お前だけだろ?それにしっかり気持ちよくしてやったろうが?丁寧に慣らしてやったし。」
「慣らしゃいいって話かよ?!」
「俺は本職で紳士だって言ったろうが。翌日も可愛くお強請りして欲しがったお前にタップリ気持ちよくしてやったろ?」
いやいや、ちょっと待て。段々話がおかしくなってきていると了は呆然としながら、確かに言われればその通りだとも思う。右京も宏太も確かに、了に本当はそこまでするつもりではなかったと話していた。亀頭責めで二度ほどいかせて泣かせて帰らせるつもりだったとは確かに聞いた記憶はある。一晩で最後までするなんて普通はないとも言われたし、右京ですら数ヶ月かけて慣らしたと……それにしたって何にもそんな素振り見せたこともないなんて有りかと了は騒ぐ。
「自覚したのが最近だから、しかたねぇだろ?」
「何時だよ!それ!」
「お前が見舞いに来ないのが不思議で……、お前を……待ってる自分がいた。」
そんなことを言いながら押し倒されて、ヌリュと指が再び体内に埋め込まれクリクリと前立腺を転がし始める。
そんなの反則だろ!?
一命をとりとめた宏太がボロボロの体で、それでも自分が来るのを待っていたなんて言われて何も感じない筈がない。そうして宏太は、待っても了が来ないのは瞼すらまともに残らなかった醜い顔を、以前の自分を知っている了が見たくないからだと考えた。自分が希和の事を顔でしか見ていなかったのと、了が同じだと考えた瞬間何故か酷く辛くなったのだ。その辛さがなんなのだと考えるうちに、同時に了に会いたくて仕方がなくなった。しかしこの顔では会えないとなったら、何故か更に会いたくて仕方がなくなったと囁く。
ツプと音をたてて孔から抜き取られた指に、思わず了の腰がひくつく。
「こんなグロい顔じゃ仕方がねぇ、俺だってそう考えた。」
カシャッと軽い音をたてて了の目の前でサングラスを外す宏太の顔は、何度も真横に切りつけられた痕で横断され歪になってしまっている。瞼はそれぞれに閉じきることも出来ず、コンタクトのように嵌め込んだ義眼ですら綺麗に収まらない。グロいと表現するのは、きっと宏太の脳裏にある元妻の無惨な姿が浮かぶのだろう。だけど、了には正直こんな風に間近にしても、グロいなんて一つも思えない。それどころか宏太は宏太で、傷痕があろうが…。手を伸ばそうとしてガヂャと枷が引き留めたのに気がついて、了は目を細める。
「おい、手枷……、外せよ……。」
了の声に枷の存在を思い出したように、足首と手首を繋ぐ金具だけを外す。そんな宏太に呆れたように了は、どうせなら枷も外せよと呟きながら手を伸ばす。伸ばした手で頬に触れ宏太を引き寄せると、その顔にソロリと唇を寄せて傷を舐める。
「ん……っ。」
「痛い、か?」
「いや……触れられたことがねぇから、よくわからん……。」
それでも了がしたいようにさせる宏太の姿に、了は不思議な気分になっていく。待ってたと言われて、それでも傷を見たくないのだろうと諦めようとした宏太。傷痕を舐められる感触に戸惑う宏太の様子が不思議でチュと音をさせると、腰をそっと抱き上げてくる宏太の手に気がついた。探るように肌を滑る手が了の事を確認しているみたいに感じるのは、記憶の中の了と重ね合わせているのかもしれない。
「来ねぇくせに、やっと久々に会ったと思ったら、急に男になりやがって………しかも、声もかけずに人のことじっと見つめやがる……。」
「ちょ、ちょっと待てよ、それって墓での事か?」
「他にどこの話だよ?ああ?他に会ったか?」
その言葉に愕然としてしまう。あの腕を咄嗟にとった時宏太がここにいるのが自分だと分かっていたような気がしたのは、本当に間違っていなかったのだ。だけど、そんなことあり得る筈がない。目の前の男は目が見えないのに、どうやって背後の遠くから歩いてくる了の事を認識できたのか。
「………足音でわかんだよ。頭ん中でお前の足音は何回も繰り返し聞いてる。後ろから歩いてくるので直ぐ分かった。」
「はぁ?!」
「それに、この音……も、こうして傍にいると聞こえる……俺が触れると、早鐘みたいに脈打って……。」
ソロリと胸に手を当てられ心拍の上昇まで見抜かれて、了は思わず唖然とする。外での足音一つ?心拍?何処まで聞こえてんだと呟くと、ニヤリと笑う宏太が耳元で囁く。
「風呂場でオナニーも俺の名前を呼びながらなんて、最高にエロくて可愛かったぞ?ん?何時でも気にせずやってくれ、楽しみにしてる。」
あからさまに秘密を暴露され、宏太に全て聞かれているのが分かってカァッと頬が熱くなる。密かに了が風呂場で自慰をしているのを知っているから、宏太はベットで触れるのにあんな風に踏み切ったのだ。それにしても異常すぎる聴覚に呆れてしまう了に、宏太は再び肌を撫で始める。
「や、やめろっ!も、やだっ!んっ!」
「ああ……いい声だな、了。聞いてるだけで興奮する。」
まるで感嘆するような低い掠れた囁きに、頬が更に熱くなるのが分かった。了が感じて喘ぐ声に、宏太が興奮している。でも、宏太にはそれ以上の快感は得られない筈なのだ。ところが耳元で囁く声は、嬉しそうに耳朶を舐めながら手を止めるふうではない。
「や、あっ!あっ!ああっ!んふぅっ!なんで、だよっ!?」
聞くだけで何が得られるんだと必死で抵抗しようとしながら問う了に、宏太は酷く楽しげにニヤリと微笑み了の乳首を舐める。そう言えばキスも初めてだったが、宏太がこんな風に体を舐めてくるなんて事も初めてだ。
「ああ……お前の可愛い声聞くと……な……、頭ん中煮えたぎるみたいだ……、ジンジン熱くなって、頭ん中だけでもいける…。」
チュクチュクと舐め回す舌の動きが視界に入るだけで、恥ずかしくていきそうになる。しかも、了が手で口を塞いでも宏太はその声を我慢してる吐息もいいな、なんてイヤらしく呟く。ネロリと乳首を舐め回されきつく吸われ、甘噛みされると腰が蕩けてしまう。
「いいな、もっと聞かせろ……了……。」
「やああっ!あっ!あっあああっ!」
「愛してる…了。」
ビクビクと痙攣して悲鳴をあげる了に、宏太は微笑みながら口付けてくる。特別だと言われ、しかも愛まで囁かれながら乳首を責められ腰を抱かれて、今迄に感じたことのない電気が走るような快感に飲み込まれてしまう。思わず宏太の体に縋りつくと、尚更興奮をした宏太が乱暴にここ数日で初めて二本の指を捩じ込んでくる。
「ひぅっ!あううっ!やっあっ!あーっ!!あああっ!」
「俺以外の男に泣き顔見せやがって………、お前、たっぷり仕込んで俺のものにしてやるからな……?覚悟しろよ?」
「な、んんんっ!あっ!そこやだっ!くうううっ!」
二本の指が前立腺を挟んで責め立ててくるのに悲鳴を上げながら腰を揺らす了に、宏太は何故か満足そうに口付けた。見舞いに来ないとか恭平の前で泣いたとか、なんだそりゃ?と言いたくなる事で不満を漏らす宏太に、乱暴にグポグポと音をたてて孔を掻き回される快感に背が撓る。
「こんなに孔、グヂョグヂョにしやがって……可愛いな、了。」
「い、うなぁっ!!あああっ!あーっ!」
「ちょっと俺に掻き回されただけで、あっという間にトロットロだぞ?お前の孔。」
くそ、なんだこの変態と思うのに宏太の言葉責めと指と口付けだけで、了は完全にメロメロに蕩けさせられてしまっていた。突き込まれる指に向かってガクガクと上下する腰を撫でられながら、こんなにも意図も容易く宏太に操られてしまう。
「たっぷり、いかせて狂わせてやる。俺のことしか考えられないように、俺の女にしてやるからな。了。」
「や、だっ!何でっ、今さらっああっ!」
「今だからだろ……お前が欲しくて堪らない……全部俺のものにしてやる……満足できなきゃ、玩具使ってでも仕込んでやる。」
その言葉にヒクリと体が戦き了は喘ぎながら、必死に頭を振り拒否を伺わせる。なんだ?奥まで突っ込んで欲しいだろ?と甘く囁いてくる宏太に、了は急激に酩酊させられながら嫌だと喘ぐ。
「ゆ、びでい……から、…玩具は、い、やああっ!あーっ!」
「可愛い奴だな、ほんとに……タップリ指でいかせてやる。」
絶え絶えの了の喘ぎに宏太は酷く嬉しそうに微笑むと、もう一度体にのし掛かり出していた。いつの間にか片足を大きくあげられ、宏太の肩に膝裏を押さえ込まれる淫らな姿。ヒクヒクと痙攣しながら、惚けて半開きにした唇からは喘ぎめいた吐息が切れ切れに溢れ落ちる。
「やぁ……も、……い、くぅうう………んんっ……っ!」
一瞬の失神の後に我に返ると了は肩で息をしてグッタリしながら、宏太の腕に抱きすくめられている。涼しい顔の宏太は楽しげに了の様子を抱き締めながら感じ取っているようだが、了は腕を挙げることすら苦労する程なのだ。
くそ……やりたい放題だ………。
やりたい放題にされていると思うのに、それがどうも嫌ではない自分もいて恥ずかしくなる。どうせならせめて宏太も服くらい脱いでみせる位すればいいのにと、腹の辺りを捲りあげようとした了の手を宏太が握り締めた。
「こら、悪戯すんな。まだたりねぇか?ん?」
「なんで、あんた着たままだよ?脱げ。」
「必要ねぇだろ?」
「俺が見たいから脱げ。」
大体にして顔の傷を見せるのにもあんなに躊躇う位だから、恐らく体の傷も見せないようにしているのに気がついて了がそう言う。裸も見せねぇ奴の傍にいられるかと了が言い放つと、宏太は諦めたようにとしかたがねぇなぁと呟く。
グイとしなやかな動きで上着を腹から捲り上げていく肩や腕は、昔と変わらず色気のあるままで張りのある筋肉が覗いている。しかし曝された首から鎖骨にかけ滑らかな肌に、不気味に色を変えて歪に盛り上げる傷痕と抉りとられひきつれるような肌に了は思わず吸い寄せられた。脱ぎ捨てられた服の下の胸元はそのまま滑らかな肌のまま、引き締まった腹筋が見える。なのに下は
「満足か?」
全て脱ぎ去った服を床に落として歪に傷痕に呑み込まれた股間を隠すこともしない宏太に、了は息を詰めたままそれを見つめていた。片方の太股にまで斜めに走った傷跡は、反対側の足の付け根まで長く大きい。太股と股間の一部は削り取られたように抉られていて、そのせいで歩行にまで支障があるのが見てとれる。長大だった陰茎は根本からとまではいかないが、歪に半分ほどの姿で醜く縫合の傷痕に埋まっていた。
「了?」
微かに不安げにも聞こえる声に、了は息を吐いて気だるい体を起こすと膝立ちのままの宏太の手をとった。こんなの見てもグロいし面白くもねぇだろ?と囁く宏太に、了は無言のまま体を引き寄せベットに押し倒す。
「なんで、あんたそんなにグロいって言ってんだよ……?」
「あ?看護師が若いのに傷痕はグロいし可哀想だって散々言ってたからな。」
「看護師がそんなこと言うかよ。」
患者の前では言わねえが影ではそんな話を普通にしてんだよと苦笑する宏太が、過敏すぎる自分の耳でそれを聞いていたのに了は気がつく。それを病室で独り聞きながら、宏太は見舞いに来なくなった了も醜さに怯えて逃げてしまったのだと思ったのだ。そう考えるだけで疼くように胸が痛む。
了は押し倒したその体に股がると、そっと喉元の傷痕を撫でると顔を寄せて口付ける。
「こら、何すんだ?」
「グロくなんかない………でも、痛かっただろ?」
「そんなん覚えてねぇよ……ん……。」
微かな反応の声に了はここに触れるの俺が初めて?と囁きかけた。当たり前だろと苦笑する宏太に、了は見えないと分かりながらほろ苦く笑って体をずらすと股間の傷痕にまで丹念に舌を這わせる。
「ん……。」
「………舐めると、………痛む?」
「いや……、……擽ったいな……んっ。」
引きつれた傷を舐め回す舌の動きに、宏太の口から微かに熱い吐息が溢れた。擽ったいというなら、感覚がないわけではないのだと了は吐息と一緒に口付けていく。傷だらけの陰茎は微かに固さを感じさせるが、引き連れた皮膚のせいで怒張するのかまでは分からない。縫合された先端から微かに感じる体液の味に、思わずそこに執拗に口付けてしまう。
「ここ、……全部切り取られた訳じゃないんだ……?」
「半分って……っとこだな、玉も半分千切れてっからな……だけど、これでもましだ。全部切り取られて下半身不随よりはな。ふっ……ぅ。」
その言葉に了がふと動きを止めたのに、微かに吐息を溢していた宏太は気がつく。そして、自分の足の間に座り込んでいる了に向かって、手を差し伸べ頬を撫でる。
「なんだ、また泣いてんのか?了。」
何でそんなに泣き虫だよ、ほらこいと苦笑混じりに囁かれ胸に抱き寄せられ頭を撫でられるのに、了は唇を噛んだまま暫く黙りこんだ。やがて掠れた弱い声で腕の中の了が呟く。
「……怖かったか?」
「……そうだな。………ちっとは…怖かったのかもな。」
偶然手が当たってスマホが通話にならなければ、そのまま冷たくなっていた筈のあの時間。正直言えばそのジワジワと迫る死が、宏太は怖かったわけではない。あの死との狭間で聞いた希和の高い笑い声と、三浦和希の狂気の声がまるで会話をしていたような気がしてそれが怖いのだ。また、あの三浦がやって来て希和と会話しながら、生き残りと言う同じ境遇の男と宏太を同じ状態にしてやると言いそうな気がする。
あの事件の生き残りは三人。
うち、男は二人で宏太以外のもう一人は人工呼吸機と胃に孔を開けての栄養剤、そして腹に直接開けた穴から管を突っ込み排尿していると言う。最初は頭はしっかりしていたらしいが三浦の写真を見せただけで完全に発狂してしまって、今では脳すらグズグズになったのか完全な植物状態だと言う。宏太の傷がこれで済んだのは偶然の巡り合わせなのだ。三浦が宏太を傷つけたのは連続殺傷の三人目、前の二人は目に金属の棒を捩じ込んで硬質の瓶で殴打したり瓶を腹に捩じ込んだりとその場のもので計画性もなく実行しているように見える。宏太を襲った凶器も《random face》のキッチンのナイフだった。慣れない事と切れ味の悪い既製品の包丁。そのお陰で宏太は、この程度の傷跡で生存できたのだ。
その後の三浦は次第に犯行に手慣れて行き、切れ味の鋭いナイフを使用するようになる。お陰でもう一人の生き残りは逸物は根本から切り取られ睾丸も抉られて下半身に障害を引き起こすほどの傷になった。首の傷も宏太の時はまだ戸惑いもあったのか力が弱かったが、後々慣れてしまった三浦は深く抉り込むように切りつけるようになっている。
もう一人の生き残りに比べれば、今の宏太は三浦の影で発作が起こるトラウマがある程度で、独りで生活するのに支障がない体ならましなものだ。
「……こんなに、されたのに………あんたが………生きてて良かった……。」
小さく腕の中でそう囁く声に思わず宏太は微笑んでしまう。
それがどんなに自分の胸を揺らして、愛しいと感じさせているか了はまだ分かりもしない。他の誰かにそんなことを言われても馬鹿馬鹿しい・そこで死んだら運命だとしか言わない筈の宏太が、了にそう言われると甘く熔けるような疼きを感じてしまう。そんな甘い気分になる理由も分からないのに、こうなると目茶苦茶に愛撫して泣かせて縋りつかせたい衝動に刈られるのだ。宏太の傷を見ても悲しそうに見つめている風な気配だけで、触れるのに戸惑わないどころか醜い傷痕に口付けまでする。人が吸えないから棄てろと言ったタバコを吸ってみたり、一緒に住むとなったら今度は宏太の体を考えて一本も吸おうともしない。そこまで筒抜けだと教えてやったら、真っ赤になって否定するに違いないがそれを可愛らしいと思わない筈がない。素直じゃない生意気なその態度だって、宏太にしてみればただただ可愛いだけだと知りもしないのだ。
「了、お前これから、ずっと俺の傍にいろよ?いいな?」
「はぁ?何プロポーズみたいなこと言ってんだよ?頭打ったんじゃねぇの?!」
「みたいじゃねぇよ。俺の嫁にしてやるって言ってんだ、嬉しいだろ?ん?」
プルプルと腕の中で震える了に、思わず更に笑みが浮かんでしまう。嫌だとも言えずいいとも言えない素直じゃない生意気な了が、宏太の言葉に絶句してどう反応していいのか怒るべきなのかと見悶えている。
「素直じゃねぇなぁ、お前俺のこと大好きだろ?ん?」
「か、勝手なこと言うな!俺はっ!」
「俺はお前が好きだ。愛してる。」
ググッと言葉に詰まる了の様子に、頭の中が再び熱を持ち始める。確かに射精のような絶頂はもう感じられない。睾丸は半分は切除しているし残り半分も機能しているかは分からない上に、陰茎も皮膚の引き連れのせいもあって勃起してるんだかも分からないのだ。それでも耳が過ぎるせいなのか、了の甘い喘ぎ声と淫らな体液のたてる音と反応を感じると頭の中が歓喜で煮え滾る。頭の中がジンジンと痺れるように煮えて、了の蕩けた声に快感に飲まれていく。ただこちらの快感には限界がないのが問題で、しかも了の身体を見てやってる訳ではないから限度が分からない。
「まだこの体じゃ手加減の仕方がわかんねぇから、悪いけどな?愛してるから、素直にされろ。」
「は?され………?手加減って………?」
「お前が可愛いから歯止めが効かねぇし、何処まですると失神するかもよく分かんねぇからな、声だしておしえてもらわねぇとな?了。」
何度も抉られて綻んだ了の孔に指を突き立てて擦り始めてやると、ヒィッ!とひきつるような悲鳴を上げて指をキチキチと食い絞めてくる。それでも既に執拗に擦られた前立腺はプクリと腫れて探り易く、コリコリと指先に転がされ了はまた喘ぎながら腰をガクガクさせて可愛い声で懇願を始めた。
「諦めろ、俺の女にしてやるから。」
「んんっ、んうっ!ああっ!あーっ!やぁ!」
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