鮮明な月

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間章 狂宴・成田了の事象

13.

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自分が酷く混乱しているのはよく分かっていた。宏太の家に転がり込んで、まだたった数日。それなのにあれから宏太は箍が外れたのかと思うほどに、繰り返し何度も失神する迄了に触れてきた。時間があけばというより時間を置く気もないという風に、執拗に了を快楽で責め立てる。しかも、何度了が果てても宏太はいくことがないから、何時まで経っても満足する筈もない。執拗にグズグズに蕩けさせられる甘い愛撫と口付けなんて、あの宏太がやりそうにもないことなのにまるで了が感じるのが楽しいみたいに何時までもなぶり続けられる。
完全に失神させられて抱き締められたまま目を覚ました了は、唖然とすると同時に混乱して腕から這い出す。眠っている宏太を見下ろしていると、いたたまれなくなって遂には宏太の家を飛び出していた。

何でだろう……なぁ、どうしてかな?右京。

行く宛もない了が独りで辿り着いたのは片倉右京の墓の前で、ボンヤリと佇んだまま心の中で片倉右京に問いかける。

何であんたは居ないんだ?宏太はあんたの代わりが欲しくて、俺を代用にしてるんだぞ。それでも満たされるわけがないから執拗に俺を責め続け、俺はそれに歓喜するしか出来ない。こんな歪んだままで本当に俺は狂わないでいられるのかな。

無意識に右京がいれば違うのにと心の中で呟いた途端、酷く脆くなっていた涙腺が崩壊するのが分かった。ボロボロと溢れ落ちる涙が、酷く心の中の傷にしみる。

答え、教えてくれよ……この感情は何なんだ。

涙が溢れて止まらないのに、了は俯いたまま唇を噛む。そんな耳に足音が聞こえた気がして、体を震わせて思わず了は振り返った。
淡い桜の花弁の散る風の向こうに居たのは、榊恭平とその恋人のガキ。二人が仲良く寄り添い歩く姿を見て心に重なったのは、右京と宏太の姿で胸が切り裂かれるように痛んだ。光を反射するプリズムのように揺れる世界で、了は初めて何がこんなに苦しいのかやっと理解できた自分に気がつく。それでいいと思った筈なのに、やっぱり自分は宏太に右京でなく自分を見てくれと何処かで叫んでいるのだ。

「……了?」

墓の前で不様に泣いている了の名前を戸惑うような恭平の声が呟くと同時に、恋人を守ろうと背後に庇うガキの癖にいっちょまえな仕草。そんなことしなくったって、もうなにもお前らには感じねぇよ、今は宏太の事で手一杯で何も感じる余裕なんてねぇんだよ、と苛立ちに怒鳴り付けてやりたくなる。

「……何かあったのか?了。」
「恭平!」

戸惑いながら自分にかける残酷なほど優しい恭平の言葉を、ガキが咎めるように遮ってくる。拭っても溢れ出す涙が忌々しくて、答える気もない了は無言のまま二人の横をすり抜け駆け出した。了に犯された現実を知ってても、ガキの淫らな過去を突き付けても、何一つ変わらず幸せそうに二人はしっかりと寄り添っている。二人の寄り添う幸せそうな姿を見せつけられれば見せつけられる程に、誰かの身代わりになって溺れていく今の自分は愚かな道化のまま。そう思うから、どうにもならない涙が余計に溢れてしまう。

「了!」

不意に目の前に姿を見せた姿に、ギョッとしたように了は立ち尽くした。サングラス越しでもわかるほど顔色を変えて目の前に姿を表した宏太に、言葉が喉の奥で凍りつくのが分かる。

何でこんな時にあんたはここに来るんだよ?!

間が悪いにもほどがあるし、しかも何だってそんな血相変えてるんだと考えた瞬間、白木の杖の音を上げて歩み寄り空いた手が真っ直ぐに伸びた。遮る間もなく唐突に引き寄せられ強く抱き締められ、その感触に目の前がチカチカと眩むような気がする。背後ではこの状況を呆然と見ている二人の気配がしていて、了は腕の中で困惑してしまう。何で目の見えない宏太は目の前の人間が了だと信じて疑わずに、こんな風に抱き寄せるのか分からないのだ。

「了。」

掠れて聞き取りにくくなっている筈の声が耳を擽って、思わず膝が震えるのが分かる。人前だと言おうとした瞬間不意に耳朶をヌルンと舐めあげる宏太のイヤらしい舌に、ズキッと体の奥が脈打つように疼いて、はしたなく反応してしまう。

「よ、せっ!!」
「了…。」

甘ったるい掠れ声が再び耳元で吹き込まれ、名前を呼ばれただけなのに息が詰まって体から力が抜けそうになる。何でこんな事になっているのか分からないし、もがこうにも強く抱き締められ過ぎていて身動きも出来ない。

「………泣いてたのか?また。」
「う、っせぇ、目が見えねぇくせに勝手なこと言うな、泣いてねぇ。」

そう言うと素直じゃねぇなと耳元で囁く声が、ネロリと耳朶を舐め音と感触で再び了を責め始める。頭を振ってもその快感から逃れられるわけでもなく、了は顔を赤く染め俯いて頼むからやめてくれと胸に縋って震える声で懇願した。背後にいる戸惑いに満ちた恭平の気配と、あのガキが唖然としたように見ているのが肌に分かる。それが恥ずかしいのと同時に、宏太にされると諦めにも似た感情に呑まれてしまう。公衆の面前なのに愛撫を受け入れてしまいそうになるのだ。その気配にやっと気がついたように、了の耳に宏太が囁きかけた。

「あれは……お前の知り合いか?了……。」
「あんたの方法が効かなかった奴だよ………だから、やめてくれ、頼むから。」

ジンジンと既に疼き始めた体を持て余しながら懇願する了に、宏太はまるで見えているように二人の方に顔を向ける。相手の方も宏太のサングラスと白木の杖で、宏太の目が見えないのには気がついた風だ。やがて何処か怒りを含んだような低い声で、宏太が耳に命令めいた口調で呟く。

「了……、家に帰るぞ?」
「あんたの家だろ、俺、は…。」
「今はお前の家だ、帰るぞ?それとも素直になるまで、ここで躾られたいか?ん?」

耳元でネットリとそんなことを低く囁かれ舐められると、それだけで足がガクガクするのが分かる。全くそれを冗談で言ってないのは、聞きなれた響きを持った宏太の声を聞けば了には直ぐ分かってしまう。それなのに大人しく帰ると頷いた了に、酷くホッとした顔で宏太は手を引いてくれと呟く。そんなこと必要ないくせにと心では思いながら、その手を取ると何故か宏太が微かに微笑むのが見えていた。
家のドアを開けた瞬間体を家の中に押し込まれて、腰を抱き寄せられたのに了は戸惑いながらもがく。それなのに杖すら床に落とした宏太は、両手で了の事を抱き締めて身動ぎもしない。まるで愛しい人を抱き締めるような腕の強さに、了は何でこんな残酷な事をするのかと心の中で呟く。背の高い宏太に抱き締められ爪先で立つような了に宏太がまた唇を重ねてきて、拒否しようにも巧みに舌を絡められ強く吸い上げられてしまう。滑り甘く噛まれながら吸われる快感に、あっという間に腹の奥がズンと甘く痺れていく。

「んぅ……。」

唇を奪われ犯されながら、薄い布地越しに尻を揉み解され孔を押される。手慣れたその卑猥な手管に、あっという間に了の股間が硬く膨らんでいく。やめろと弱く懇願しても無駄なのは分かっているが、容易くベルトを抜き取られ下着ごと太股まで服をずり下げられてしまう。

「フラれた男に何で泣き顔さらしてんだ、お前は。」

苛立つ声が低くそう呟くのに、カッと了の頬が熱くなる。みっともない姿を見せたくて見せたわけではないし、宏太が右京がいないからと了を身代わりに恋人にするようなあり得ないことばかりしてるから自分まで混乱したのだ。そう言ってやりたいと思った瞬間、今朝まで何度もされて綻んだままの孔に、尻を掴んでいた指が捩じ込まれる。

「うぁっ!!あっ!やめろっ!あうっ!!」
「俺の傍にいろって言ったろうが。」

その刺激でカクンと力の抜けた了の体を苦もなく肩に抱え、片足を引きずりながら歩く宏太に了は呆然としながら見下ろす。傍にいろとは確かに言われているが、代用品としてだろうが。そう返してやろうとするのに、あからさまに不機嫌な宏太の様子に面食らってしまう。ドサリとベットに投げ出されたかと思うと、上にのし掛かる宏太が了の服を引き剥がしだす。駄目だ、また拒否も出来ずにいいように代用品にされる。そう思うと体が震えて、涙が溢れ出す自分に了は唇を噛みしめ顔を腕で覆い隠した。

「了……?また、泣いてんのか?おい……何で泣いてんだ?」

腹立たしいことに微かな泣き声を聞き取った宏太が、探るように頬を撫でてくる。何で気がつくんだ・どうせなら気がつかずに犯せばいいのにと叫びたい了を、宏太はまるで壊れ物のように抱き寄せて訝しげに眉を潜めた。酷く優しくて甘い手つきに了が耐えられなくなっているのも知らずに、宏太は覗き込むように覆い被さってくる。

「何で泣く?……了。」
「なん、でだよ。」

溢れてくる涙にもう駄目だ・やっぱり堪えれない。この場所にいることすら駄目になると感じながら、了は子供のように宏太の手から逃れようともがく。それでも大きな手は、しっかりと了を捕らえて離さない。

「なんで、こんな、優しくすんだよ?……も、やだ、右京の代わり、に、こんなことされんの…嫌だ。」
「ああ?」
「どうせしたいなら道具みたいに乱暴に犯せばいいんだよ!恋人みたいに……俺を、右京の代用品にすんなっ!」

泣きじゃくっている自分の言葉に、何でか宏太が凍りついている。ほら見ろ図星だったんだと思った瞬間、唐突に了は顔を両手で捕まれ引き寄せられていた。

「誰が、右京のかわりなんて言った?」

呆然としているような宏太の声に、了はまだボロボロと涙を溢しながら見上げる。間近で見るサングラス越しの義眼は歪んで見えるが、何故か酷く戸惑っているようだ。そう思った瞬間宏太は子供でも抱きかかえるように持ち上げ、ベットに座り込むと了の体を抱き締める。

「ほんと、……噛み合わねぇな。お前は馬鹿か?」
「な、んだよ、馬鹿って……あんた、月命日に行く位、右京の事が好きだったんだろ?」
「………そりゃ幾ら俺だって罪悪感くらい感じんだろ、俺が殺したも同然なんだ。」

何でか抱き締められたまま呟くように言われて、罪悪感?と了が呟く。



※※※



外崎宏太は一度、結婚していた。
相手は自分が勤めていた会社の社長の娘で、名前は片倉希和という。有能でエリートコースを進んでいる自分が社長の娘と結婚は願ったり叶ったりだったし、希和は綺麗な女で貞淑な妻になりたいと考えていた。
ただ何処かでボタンがかけ違うように、歯車が狂い始めていく。元々子供の時から性的嗜好が歪んでいたのは宏太自身にも分かっているが、それが少しずつ自分の中に破滅的な形で蓄積しているとは考えもしなかった。
あの時の事は正直殆ど記憶がない。
だだ貞淑な妻を欲望のままに、宏太は蹂躙し尽くしたのだけは分かっている。気がついた時にはシャワーの飛沫を浴びながら、興奮しきった獣のように白い尻を強姦し終わっていた。飛沫の中にグッタリと脱力した希和の体の下からはダクダクと血が流れ出していて、綺麗だった顔は覗きこむと無惨な有り様に変わり果てていたのだ。

死んでる?俺は……死んでる女を抱いてたのか?

希和は私の好きなことすら知らないのねと、悲しげに宏太に問いかけていた。そして、結果として宏太に蹂躙されたのに耐えられなかったのだ。
希和は自殺した。
自ら目を抉り、舌を切り取り、喉を掻き切って、風呂場で等の昔に命を絶っていたのにシャワーのせいで体温を失わなかったその体を、宏太は状況に気がつきもせずに欲望のまま強姦していたのだ。そうして、彼女は宏太に最後の呪詛を言葉にして残してもいた。

その後、外崎宏太はエリートコースを放棄して会社を辞めた。宏太は自分の欲望のまま、自由に生きるようになった。同僚からは妻の自殺でおかしくなったとおもわれたが、どうせ生きるなら好きなようにしておこうと何処かで思ったからかもしれない。同時に自分がどう考えても、マトモではないことにも気がついていた。宏太には人を思いやったり労ったり人を大事に思うなんていう感情が、完全に欠落しているのだ。ところがそんな状態で気ままに暮らす内、欠落した人間性を生業にすることができてしまう。それがSMの調教師で、人を堕とすのに戸惑いが全くない宏太は、残酷で有能な調教師だった。そんな宏太に調教を依頼して来る人間は後を絶たず、片倉雄蔵もその顧客の一人だったのだ。

おかしな縁だ。

希和の自殺の後、片倉の希望で遺骨は片倉家に渡した。その後は縁が切れていたが、どうやら希和の自殺の余波は片倉家も狂わせていたらしい。実の娘を自殺に追い込んだ元婿に、実の息子の調教を依頼した狂った父。妻によく似た顔立ちの息子を女にして抱きたかったのか、姉とよく似た弟を身代わりに抱いてみたかったのか、その理由はわからない。ただ依頼され右京と顔を合わせたら希和とよく似た顔で、自分はあんたには屈しないとぬかしたから高嶺の花をへし折ってやる気になったのだ。
関わるうちに商品に請われたからとは言え、調教師としては初めて納品前の商品に自分の理由で手を出した。宏太は希和によく似た右京が、自分に組み敷かれて快感に喘ぐのを見てみたくなったのだ。

あいつを破滅させてやる。

年は8つも離れていたが右京は希和と性格までよく似ていて、蹂躙されたのをムザムザとよしとするような柔な人間じゃなかった。復讐を誓う狂気の瞳に惹かれて手を貸してやったのは、右京がどんな風に終わるかを宏太も見たかったからだ。もしかしたら右京が復讐を終えたら、自分も終わるのかもと何処かで考えていたのかもしれない。そうしてこれで最後だと言う右京を、宏太は分かっていながら引き留めもしなかった。

死んだと聞いて、ああ、そう言うことだったのかと思った。

子供を犯した狂った父親ごと地獄に引き込んで、右京はさっさと逝ってしまった。宏太を巻き込むこともなければ、宏太に恨み言も言わず、独りでアッサリと逝ってしまったのだ。そう思ったら自分は何時までもこうしているのだろうかと、ふと宏太は疑問に思った。

希和はただ呪詛の言葉を残しただけなのかとボンヤリと考えていた矢先、その呪詛の塊のようなあの女が遂に姿を見せたのだ。
真名かおる。
突然現れたあの女は妖艶で強かで、宏太の性癖まで見抜いて三浦和希を躾るのに手を貸せと微笑みかけた。高嶺の花をへし折って屈服させる事で、自分が生きているという満足感を得る。何故自分がそんな性癖なのか、そんなことはどうでもいい。ただあの女は全て予期しているように、三浦を地獄に落として消え去ったのだ。それは波及効果として宏太にも襲いかかり、それこそまさに希和の呪いのようだった。
希和は宏太に、こう書き残した。

《同じ目にあわせてやるから》

その言葉の通り宏太は、視力を失い喉を裂かれた。性的に蹂躙された希和は宏太の性機能も奪い去ったし、彼女の好きなことも分からない男の舌も奪いさる。だけど、そこまでしても宏太の魂は、まだ要らないらしい。闇の中で希和は高笑いしながら奪うものだけ奪って消え去った。



※※※



「弟……?義理の?右京が?」

あすこにゃ一応希和もはいってんだよと苦い微笑みで言う宏太に、了は泣くのも忘れて唖然とする。今更二人がどんな関係と聞いたことがなかったのは事実だが、実の親に調教を依頼され姉の夫に犯され、親に迄犯されるなんて。既に過去の事だとはいえ、流石に言葉にしようもない。その様子に宏太は一つ溜め息をつきながら、それでよ?と改めて口を開く。

「お前、誰が誰を身代わりにするって?」

改めてそう言われても話が急展開過ぎて抱きかかえられたまま、了は呆然としたまま宏太の顔を眺めている。右京は願いを叶えて去ったのは理解できても、その原因は父親で宏太で。それにしたって右京の身代わりでないと言うなら、何でこんなあり得ないことばかり宏太がしているのか余計に分からない。なんで、あんな甘ったるい恋人みたいな事をするようになったんだろうと、ボンヤリと考え込む。

「了……?」

呆然としている了に低い掠れる声が耳朶を擽る。その声はどう聞いても興奮を滲ませていて、了は我に返って宏太の膝から逃げようともがく。そんな了の動きに宏太が呆れたように容易く腕を掴み、ベットに押し付けるように押さえ込んだ。

「離せよ!」
「可愛くねぇな、全く。犯すぞ?ん?」
「チンポねぇくせに犯すとか言うな!」
「ああ?……お前、俺が誰だか分かって言ってんだろうな?」

図星を突いた筈なのにニヤリと笑いながら、宏太が不意に意地悪く言う。昔と何も変わらないその口調にギョッとする了を、何処から出したのか意図も容易く枷で拘束して淫らな姿に変えてしまう。左右それぞれに手首と足首を枷で繋がれて、簡単に俯せにひっくり返され背中にのし掛かる熱さに了が声をあげる。淫らではしたない姿で上にのし掛かられるのに、ガチャガチャと枷が音をたてて室内に響く。

「な、んで、まだこんなもん持ってんだよ!?使いようねぇ癖に!」
「ああ?だから、今使ってんだろうが。有効によ。」

明るい中で全てを曝され、指先で撫で回される後孔がヒクヒクと蠢く。まだ綻んだままのそこに、容易く長い指が侵入してくるのに思わず悲鳴が溢れた。中に刺しこまれた指にグリグリと前立腺を転がされ、快感に腰が浮いてしまう。

「ん、くぅ!ううっ!あうっ!」
「昨日もたっぷり可愛がってやったから、まだ可愛く膨れ上がってんな。どうだ?効くだろ?ん?」
「やめ、っ!んんっ、んうっ!や、だっ!あっ!」

腰がガクガクと震え強い快感に怒張が張り詰めていくのを、手がまさぐるように捕らえて卑猥な手つきで扱き撫で回す。

「いかせてほしいか?」
「い、やだっ……んっ!ううっ!」
「素直じゃねぇな、了は。まあ、そこが可愛いがな。」

思わずはあ?!と声を上げた了に、宏太がのし掛かり体を探り回す。見えないからこそ探っているのは理解できなくもないが、その手が探りだそうとする場所が乳首みたいに感じる場所ばかりなのだ。可愛いってなんなんだよと叫びたいのに、口を開くと喘ぎ声しか出せない。腰を震わせて突き上げなから散々弄くり回されて、意識が飛びかけた了の耳朶を執拗にねぶる音が頭の中に木霊する。

「お前が悪いんだぞ?…あの時お前が何もしなかったら諦めるつもりだったんだからな………?」
「な、ん、んんっ!ううっ!」

軽々とひっくり返され今度は前から覆い被さられて、口付けてくる宏太の言葉にゼエゼエと肩で息をしながら惚けた了は弱く眉を潜める。

「あき、らめるって、な、に?」
「転けそうになってもお前がなにもしなかったら諦めた。だけど……駆け寄るどころか、支えやがる……。」

何の事を言っているか了にはまだ理解出来ないのに、宏太はふと真剣な顔で息を切らせている了の頬を撫でた。

「なぁ、何で会いに来なくなった?」
「い、つ?」
「病院にだ、………てっきり……この傷がグロいから、こなくなったと。」

そんな訳はない。了が病院にいけなくなったのは、宏太か右京を大事にしていて好きだったのだろうと。自分には宏太が高嶺の花で手が届かないのに、バランスがとれなくなったからだ。あのまま宏太の傍にいたら、何時か欲しくて狂ってしまいそうだった。それに傷が醜いなんて今まで思ったことなんかない、そう呟く了に宏太はまた戸惑う様子を見せる。

「じゃあ、何で来なかった?」
「お、俺だって生活があんだよ……。」 
「あの恭平とかいうのと乳繰りあってたのか?」
「馬鹿か!フラれて前科持ちなの知ってんだろ!?」

何で今恭平の話なんだと、ガチャガチャと枷をならし了が混乱し始めるのが分かる。何だってここに来て見舞いに来なかっただの、恭平がどうだだのと宏太が言い始めたのか分からない。それとこれが何の関係があるんだと声を荒げると、宏太は再び了にネットリと口付けし始める。

「んんっ!なん、で!んっ、何で、キス、すんだよ!?」
「お前が好きだからだろ。」
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