鮮明な月

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間章 狂宴・成田了の事象

4.

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「信じらんねぇ、早漏な上に一回しかできねぇって。」

完全に不貞腐れた顔でスツールに座りそんなことを言う了に、呆れたように横に座る片倉右京はピシッとしたスーツ姿で髪も整えられていて初めて出会った時とは別人のようだ。カウンターに座る客は了と右京の二人だけ、カウンターの中には勿論宏太がニヤニヤしながら立っている。

「あのさぁ、了。基準が宏太じゃリーマンが可哀想だよ?宏太はそれでお仕事できる位の変態なんだから。」
「ああ?右京、お前人の事変態扱いか?」

嘘じゃないでしょ?と右京は平然と言う。片倉右京は普段は有名企業に勤めていて、しかも二十八歳で出世コースを爆進中の超エリートらしい。そんな人間が何で男なんかとセックス?と聞くと、右京は妖艶に微笑んで社会人には社会の闇があるのと囁く。最初はなんと仕事の関係で、右京は外崎宏太と出会ったらしい。何かの縁で宏太と出会って、了のように宏太に男とするセックスをじっくり仕込まれたんだよと話す。宏太は冗談のように調教師なんて言ったが、驚いたことにほんの数年前迄はそっちの方が本業で男女関係なく人からの依頼で躾とか言うのをしていたのだと言うのだ。勿論躾といったってマトモなものじゃなく、つまりは了や右京にしたようなエッチな事を教えこむのだという。

「そういうのって違法なんじゃないの?」
「馬鹿言うな、当人が自分から望んで躾られてんのに。」

調教師ってのが何なんだか分からない了に、宏太は平然と答える。依頼ということは頼まれてやっていたと言えるから、了のように気持ちよくなりたくて頼んでくるのか。そう言うと右京がニヤニヤしながら、本人以外の依頼の方が多い癖にと皮肉めいた口調で言う。

「……お前の会社はそう言うのが好みだろ?右京。順応してて望んでないなんて今更言っても無駄だぞ?ん?」
「はいはい、だって時間かけてネットリ仕込む変態が相手だったんだよ?僕の気持ち分かるだろ?了。」
「望むって、そう言うように追い込んでんだろ?宏太のデカイので。」
「はは、了は賢いなぁ。流石に一晩で身につけただけある。」

右京が笑うのに了は苦笑いを浮かべる。後日右京から聞かされたのだが、了のように高々丸一日程度であそこまでされるのは珍しい。大概は数日から数ヵ月もかけて馴染ませないと、快感に精神的におかしくなったり体が傷ついたりするらしいのだ。そういう意味では二人がしたことは鬼畜の所業なんだが、あの時宏太がいった通り本当は最初の亀頭責めで終わる予定だったという。それ以上を望んでいたのは、確かに了の方でもあったのだ。

「でもさぁ、宏太は毎回してくんないし。他の奴とやってもいいって言うからやってみたけど、全然良いのに当たんない。」
「そんで高校生が男漁りか、お前は猿か?ん?全く淫乱で参るな。」
「だって、全然気持ちよくなんないんだよぉ。」

最初のように責め立てて追い詰められなくても、今では宏太とセックスすると直ぐドライでいけるし何時までも太いので狂うほど気持ちよくなれる。だけど、他の人間ではどうしてもそうはなれないでいた。
こうして毎回会う度に強請っても宏太が時折しかしてくれないのには、宏太なりの理由もあるようだ。同時に一人で出来る乳首や亀頭・前立腺での自慰は、固く禁止されてもいた。やりたかったら病気がないか確認できる人間としろとまで言われたのには呆れてしまう。エッチは良くて自慰禁止は何でと問うと常にドライでいくようになると、勃起しなくなるし女になるぞと宏太は言う。宏太はそういうのは好みじゃないんだよと右京に言われて、変態だと笑ってやったが宏太に飽きられるのも立たなくなるのも嫌なので律儀に守ってはいるのだ。

「女とやってる分には萎えにくくなったから、何時までも突っ込んでられるようになったけどさぁ。男は不発ばっかり、いけない上に勝手に終わるしさぁ。」
「どうせなら、入れる方やったら?了、才能ありそう。」
「高校生に変なこと勧めてんじゃねぇよ、右京。」

呆れたようにそんなことを言う宏太に、なら久々にやろうよと了が強請ると仕事中だろうがと突っぱねられてしまう。バーは閑古鳥なのだが、実はあの奥の部屋では目下六人も男女がくんずほぐれつの真っ最中と言うことらしい。《random face》の奥の部屋は宏太や右京だけのお楽しみの場所ではなく、こうして提供されるこの店の売りでもあるのだ。秘密なのだが実はカウンターの横の戸口の奥のワインセラーの影に隠し部屋があって、そこではあの部屋の監視カメラが存在している。因みに録画もできるので、最初の時の映像は記念に貰ったりもしていた。なにせ普通のエッチより、はるかにあの時三人でした方が刺激的だ。普通に扱く自慰はしてもいいというから、見ながら楽しむ位には活用できる。

「男も女も突っ込んでやってる辺りで、もう十分変態だよね?了は。」
「どっちもって言うかさぁ、俺は気持ち良ければいいんだよね。しかも、男にいれたのって右京が乗っかってんのだけじゃん。それで変態扱いしないでよ。」

そう平然と言う了に、入れられてて入れてるって辺りで十分なんじゃと宏太は苦笑混じりに口角をあげていた。



※※※



男漁りとは言うが結局宏太とするのに近い快楽は感じない。その理由がよく分からないでもいるのは、宏太と同じくらいの逸物の男とやっても快感は得られないし、宏太ほどではないにしろ長く突き続ける相手でも快感に結びつかないのが分かったからだ。女とする分には十分楽しめるから困るわけではないが、宏太と知り合ってから何か自分の中は少し変化したような気がする。

何かが欲しいのに、それが満たされない。

宏太には了の中の何かを満たして貰えそうなのに、宏太の方がそれ自体を拒否してその気になってくれないと感じていた。それはきっと宏太自身の問題が何かあるに違いない。
人が流れる街中でカーキのモッズコートのポケットに手を突っ込みニットのスヌードに顔を埋めた了は、白い息を吐き出しながら辺りの人間を油断ない視線で眺める。男も女も誰しも裸になってしまえば同じだ。獣のように息を荒くして腰を振り続けるだけ、そう考えながら了はあの時の公園の影の事を思い浮かべる。

もしかして……今あいつに完全に犯されたら、俺は満足出来るのかな……。

そう無意味に考えるが実際はあの影が誰なのかも分からないし、あの影はあの時自分が男だと知って舌打ちをしていた筈だ。今では完全に昔の面影を取り払い男になってしまった自分には、きっとあの男は反応すらしないに違いない。右京のように妖艶さがあれば違うだろうが、そう考えたら不意に腹立たしくなった自分に了は気がつく。

どうして俺だけがこうなった?

高校二年の健全さなんて何一つない。女ともセックスして男にもされてまで、快楽を求めなきゃいけないように歪んでしまったのは自分が悪いのか?もしあの経験がなかったら、自分はこんな風にならなかったかもしれない。

「ねぇ、君。」

そんな時了の怒りには気がつかずにホロ酔いで声をかけてきた男に、了は燃えるような瞳を向けていた。その男はただ声をかけた相手とタイミングが悪かっただけだったのだ。酔いで気が大きくなって、何処と無く興味があった男とのセックスをしてみたくなっただけ。しかも、そんな男を漁る目的の通りにポツンと一人でいた了の、何処かに心ここに有らずという表情に目を止めただけ。了が近寄ってみたら綺麗な顔立ちの若い男で、これなら抱けそうと感じただけ。
男は了が内面で溶岩のような怒りに満ちているのを知らずに声をかけただけで、ホテルで了の後孔に怒張を捩じ込んで腰を振り先に果てただけだった。そうして酔いのせいでウトウト寝付いた男の体を冷ややかに見下ろして、了はその怒りを迷わず男にぶつける事に決める。了自身痛め付けるのは興味がないが、自分がされたことを大人の男にしてやるのは幼かった自分がされたことの仕返しのようなものだ。ありがたいことにそのラブホテルにはその類いの道具がふんだんで、寝ている男を拘束するのにも困らない。男が気が付いた時にはベットに大の字で固定されて、足元に屈んだ了が再び立ち上がった肉棒を深く口の中に咥えこんでいた。

「ね、ねぇ、なにやってんの?君。これ、外してくんない?」
「お兄さん、……気持ちいいことしてあげるよ。」

病気はないと断言した男に、スキンもなしで直に男の物を咥えこむと音を立てて喉まで呑み込み吸い上げる。驚いた男はそれでも直ぐに腰をヒクつかせて、柔らかかった肉棒を下折たたせた。一度射精していたせいで暫くは咥えられる刺激も耐えられたようだが、やがて耐えきれなくなった男が腰をカクカクと振るわせ始める。

「ううっ!凄いっ!うっ!ううっ!いくっ!」
「いいよ、飲んであげるから沢山口に出してね?」

ジュポジュポと音をさせて頭を上下に動かすと、男は呻きながら了の口の中に勢いよく二度目の精を放つ。脱力しハアハアと息を荒げて良かったよと言う男に向かって、了は宏太と右京の中間のような妖艶で皮肉めいた笑顔を浮かべた。そうして了は男の亀頭だけを、右京がしたように延々と舐め回し甘噛みして責め立て始める。

「や、やめ!うううっ!ううっ!うあっ!」

やがて男は了がなったのと同じように、透明な更々した液体を吹き出しながら痙攣し始めていた。自分もこんな顔でいきまくっていたのだろうと考えながら、了は容赦なく男の亀頭だけを責め立て続ける。

「ひうっうう!駄目だっ!またっあうううっ!」

やがて立ち上がったままの怒張からは何も出なくなり、それを見せつけるようにベロベロと舌で舐め回すと男は腰をビクビクと突き上げるようにして喘ぎ出す。

「ううっ!ひうっうう!やめて!やめてくれぇ!あうっ!いくぅ!!お、おかしくなるぅ!いぐぅ!!」

大人の男が了の手で不様に喘ぎ、やがて白目を向いて失神するのを了は酷く冷静な視線で見下ろした。本当だ、普通はこんな風にいかせ続けると、失神するんだと改めて納得する。冷静な顔なのに体の中は、溶岩のような怒りと激しい欲情で渦を巻いている。その感覚は何処か心地よく、了はユックリと深い溜め息をついた。暫くして男は目を覚ますと拘束から解かれそそくさと身支度を整え、ホテルの前で逃げるように了から離れる。
失神させられるくらいの目に遭ったのだから、二度と了に会うのは懲り懲りかと思った。それなのにその男は再び街中で人を眺めていた了を見かけると、目を潤ませて了に駆け寄ってきたのだ。てっきり難癖をつけに来たのかと身を固くしたのに、驚く事にもう一度この間のをしてくれないかと了に小さな声で懇願してきた。

「あの時は驚いたし、恥ずかしかったんだ……でも、後からドンドンあの時の事しか考えられなくて……。」

男は確か興味があるから自分を抱いてみたくなったと最初話していたはずなのに、懇願する瞳は右京の欲情した瞳に少し似ている。驚きながらもいいよと言う了に、男は自分から拘束をしてくれ、あの時のをもう一度してくれと強く強請ったのだ。

宏太の言う意味が分かった。

懇願されたから願い通りに亀頭を責め立てて、失神するまでドライでいかせてから了は男の体を見下ろして考える。顔は冷ややかなのに体の中はどす黒い欲望で埋まっていて、了は今度は気を失っている男の乳首を弄び始めていた。そうして次第に男は何度も亀頭と乳首を責められ慣れて、やがてそれだけで何度も絶頂を感じるように変化していく。一人でも家でそこだけで何度も自慰をしていると言う男は次第に、体つきが丸みを帯びたように感じもする。女のようになっていくといわれたのが分からないでもない変化で、次を望むまでそれほど時間はかからなかった。

「高校生に尻の穴弄られて感じるなんて、すっげえ変態だよね、英輔。」
「ああ!言うなよ!そんなことを言わないでくれ!」

工藤英輔は近隣では有名な大手不動産に勤める人間で、駅前の店舗でスーツで働いているのを見かけた。表ではバリバリ働く社会人なのに、了の前に来ると女のように泣きながらいかされまくる淫乱になってしまっている。高三のガキに前立腺を擦られてヒイヒイ泣きながら、尻を突きだし四つん這いになる大人の男。それを見るだけで了は満足感を感じるのに、英輔の方はそれだけでは足りなくて遂には了の怒張を体内に欲しがるようになっている。

「頼むから、それで擦ってくれ。中を目茶苦茶にしてくれよぉ!」
「うーん。どうしようかなぁ、だって、英輔の尻の穴狭いもんね。もう少し柔らかくならないとさぁ?」

自分がされたのと同じジェルを入れられる感触で何度も絶頂を教え込んだ英輔の尻の穴はすっかり綻んでいて、恐らく了の怒張を捩じ込んでも問題はない。ただ、分かっていて焦らされ懇願する情けない英輔の顔が、一番了には興奮するし気分が上がるのだ。

「何でもする、何でもするからぁ!お願いだ!了ぅ!!」

その懇願の声に冷ややかな瞳の奥で、淫らな欲望がキラリと光を放ったような気がして英輔はゴクリと喉をならしていた。



※※※



「で?その相手連れで来たわけ?」

呆れたようにカウンターに座る右京が目を細めるのに、了はだってさぁと言う。横には座りにくそうに腰を動かす英輔の姿があって、目の前のカウンター越しには同じく呆れ顔の宏太がいる。

「俺のチンポ一本じゃしたいこと出来ないんだよね?だから、手伝ってくんないかなぁって。」
「お前なぁ、人をディルドかオナホ見たいに言うなよ。」
「えー、気持ちいいことしたいだけじゃん、結構いいんだよ?英輔の穴。」
「さ、了っ!」

真っ赤になった英輔の悲鳴のような声に、少しだけ宏太が視線を細めてその顔を眺めた。切れ長の鋭い値踏みの視線に気がついて、英輔は更に顔を赤くして息を荒げ視線を伏せる。ふぅんと納得したように声を漏らした宏太に、楽しげに了が分かった?といいたげな顔をして見せた。
値踏みの視線で宏太には、英輔がラブホテルからずっと前立腺を刺激するようなプラグかディルドを後孔に射し込んだまま歩かされてきたのが分かったのだろう。中には恐らく了の精液でもタップリ注ぎ込まれ、それに栓をしたままここまで連れられてきたのだ。しかも、それでカウンターのスツールに座るのは刺激が強すぎて、既に軽く何度か達してしまっている。その微妙な色気が、宏太の目には隠しようもない。

「………まあ、奥はあいてるがな。」
「やった!英輔良かったね。タップリ気持ちよくしてあげれるよ。」

そう言いながら了は賑やかに笑う。モジモジと歩みの遅い英輔の背中を押して、戸惑いもなく了が店の奥に姿を消すのを右京は呆れたように眺める。

「……ねぇ、僕、男との教えない方がよかったかなぁ?」
「今更だろ?それにあいつはほっといてもこうなる。……頭が俺とたいしてかわんねぇからな。」
「あらま。宏太のお墨付きなんて、先行きが怖いね。」

そう言いながら右京は苦笑い混じりに、表の扉のopenの札を裏返しにいく。ふんっと襟元を緩めながら宏太はカウンターから歩みでると、店の証明を僅かに落として連れだって奥に姿を消していた。
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