鮮明な月

文字の大きさ
上 下
81 / 693
第九章 可愛い人

78.

しおりを挟む
そっと夜具に下ろしたしなやかな裸体から仁聖に更に強請る視線が向けられて、不意に伸ばされた両腕が首に絡みつきながら引き寄せる。しっとりと甘く誘いかけるその仕草にゾクゾクと悪寒めいた欲情を感じながら、素直に仁聖が肌を寄せていく。

「仁聖…。」
「な、なに?」

ねだる視線が恥ずかしそうに俯き、素肌の仁聖の腹に指が触れなぞる。擽ったそうに身を捩る仁聖に、オスオズと恭平の視線が物言いたげに頭を刷り寄せた。

「………たまには………、その、……俺にも。」
「え?ええ?!」

驚いたみたいに言う仁聖に、恭平は少し不満そうに頬を赤らめる。白い裸身を隠しもせずに上半身を起こして、仁聖を横にする姿に仁聖が頬を染めながら息を飲む。勿論同性なんだから、こんな風に恭平が求めることもあり得る。わかってはいたが少し前置きが欲しかったかもと、内心で呟く仁聖に恭平は気がつく様子もなく軽々と細い足で股がった。
チュと頬にキスをして、ユルユルと肌に触れながらその黒髪が肌をくすぐっていく。何が起こっても相手は大切な伴侶と決心して目を閉じていた仁聖の予想と違い、唐突に温かな滑る感触で亀頭が吸い込まれる。

「んふぅっ!」

滑る舌が幹を這いまわり、快感に腰が蕩けて吸われる亀頭がみる間に巨大に膨らんでいく。目を開けると自分が受けるのかと危惧していたが、全く違う官能的な光景が目の前には広がっていて仁聖の肉茎を口で愛撫する恭平のしどけない姿。

「んん……、ど……う?…」

ジュプジュプと淫らな音をたてて問いかける響きに腰が震えて、思わず体を起こすとその光景は更に淫らだ。真っ白な背中も滑らかな尻の姿も目に入り、誘いかけるように腰が揺れている。肉茎の血管が浮き出るのを、舌でなぞられるのに思わず達してしまいそうになる。

「スッゴい…いい……、でも、出ちゃいそう……」

はぁと溜め息のように息をつくと滑らかな唇から欲望の塊が滑り出し、その唇との間に淫らな唾液の糸をひく。腕をとられそのまま屹立の真上まで引き寄せられた、恭平が艶やかに濡れた唇で甘く喘ぐ。
恭平が何時になく甘い声で「早く」と囁き、自分の唾液で濡れた肉茎を後孔に押し当てる。腕をとられ自分で腰を下ろすしかない恭平の腰がユルリと回すように動き、先がクプと中にめり込み始めていく。先ほど緩まされた後孔は柔らかく、喜んでその巨大な先端を飲み込み始める。

「あう……ああ、やだ……入る……んん。」
「すご…吸い込まれてくみたい……あっつ…、トロトロだよ…?」

腕をとりながら耳元で囁く声に、恭平は羞恥を感じるように頬を染めて首を降って言うなと喘ぐように言う。

「一気に…腰おろしてみせて?恭平…。」
「む、り、そんなの……。」

弱く頭を振る恭平の腕から手を離した、仁聖の両手が恭平の腰骨に触れる。嫌だと首をふる恭平の腰を掴むと、一息にその肌が密着するまで引き下ろした。

「ひゃううっ!ああっ!ああああッ!!」

トプトプッと捩じ込まれた反動で恭平の肉茎から蜜が放たれて、恭平自身の腹と仁聖の腹を濡らしヌメヌメとした光を反射させる。ガクガクと腰を震わせる恭平の背中を抱きかかえて、微かに揺すりながらベットに押し倒す。

「や、うご…く…な…、響くぅ……、いや、ああ!あ!」

中を掻き回される感触に恭平が甘く喘ぐ。中のどこを擦ると恭平がこんな風に蕩けてしまうのかは、もう仁聖には場所も方法もわかってしまっている。ズグリズグリとそこを亀頭で擦りあげる度に、恭平は内部をひくつかせうねらせながら蜜を吹き出させ甘く可愛い声で鳴くのだ。

「そこ、だめ……ああっ、あああ!やあ!ああっ!」

圧し掛かられる重みを心地よく受け入れながら、亀頭からトロトロと蜜を溢し腰を這う仁聖の指先に甘い吐息を放つ。酷く煽情的な眼差しで腕を伸ばす恭平の仕草に、鎖骨に軽く歯を立てて愛撫しながら腰をかかえるようにして更に腰を沈ませた。ここから更に深く奥底迄一つになるのだ。
途端耳に軽やかなチャイムの音が響き思わず二人の動作が止まる。

「ん、ふぅ、……いい…ほおっておこう……、仁聖。」

珍しく恭平の方が先を促す仕草を浮かべたのに喜びながらも、もう一度響くチャイム。
何しろ先ほど浴室の電気をそのままにしていたのと換気扇などの状況からも、在宅があからさまだという事に仁聖が目を細める。もう一度の呼び鈴の音に身を起こした仁聖に、恭平がねだる熱っぽい視線を向けた。微かなヌプンと水音を立てて抜き取られる仁聖に恭平が物欲しげに見上げる。

「……出てくる。…待ってて。」

柔らかい仁聖の声に少し拗ねた表情が浮かぶのに思わず微笑み頬に口付ると、仁聖は手近な衣類を身につけながらバタバタと足早に玄関に向かっていた。

よし、さっさと用件を聞いて追い返して……

そう内心で決意じみた想いを呟きながらまだ少し濡れた髪をかきあげて、仁聖は玄関のドアを押しあけその場に立つ人影に思わず目を丸くする。

「……仁聖…お前、年末まで兄さんの所に入り浸ってるのか?」

夕闇の中に立つ私服姿の慶太郎の姿とその言葉に一瞬仁聖は、目を丸くしたまま確認するかのようにその姿を見下ろす。対する慶太郎もどう見ても風呂上りで寛いで居るとしか判断できない仁聖の姿に眉を潜めた。そしてやっと状況に対応できたのかポリと頭をかきながら仁聖が1つ溜め息をつく。

「言ってなかったけど…俺、ここに住む事にしたんだ。」
「はぁ?!」
「俺、恭平にプロポーズしたの。恭平からもして貰ったから。」

予期せぬ言葉に唖然とした慶太郎に、仁聖は平然としながらニッコリと微笑んで見せていた。



※※※



廊下の先で微かな会話の声の気配を感じ取って恭平は、微かに訝しげな表情を浮かべながら身を起こした。話はすぐ終わりそうな気配でもなく、スルリと滑って毛布が肌から落ちるのを感じ取りながら自分も着替えて出るべきかと思案を始める。瞬間、バタバタと室内に足音が響くのに気がつき恭平は眉をよせる。やはり着替えようとベットから身を滑り出させ、床に足をついた途端、唐突に寝室のドアが音を立てて開かれた。

「兄さ……っ!!?」
「!?」

素肌を晒している事に気がついて恭平が咄嗟に毛布を引き寄せながら、ドア口で呆然としたまま立ちすくんだ慶太郎を思わず睨む。

「っば…馬鹿っ!着替えていくからリビングに行ってろ!!」
「は………、はい……っ!」

その言葉に弾かれた様にドアを閉じてリビングに足を向けた慶太郎を、呆れた様に追いかけてきた仁聖が迎える。

「……だから駄目だって言っただろ?全く人の話聞けよな。」

暫くして寝室から柔らかい部屋着に身を包んだ恭平が、微かに青ざめた表情でリビングに姿を見せた。疲労が滲んで少しふらつく足取りに、仁聖がふっと傍に歩み寄ると労わる様に腕をとり支えると表情を見つめる。

「止めたんだけど…突っ切っていかれちゃって……大丈夫?少し顔色悪いよ?」
「……うん、大丈夫だ。」

そう少し憮然とした風にも見える様子で言う恭平の表情を眺めていた仁聖が、気遣う様にグイとその腕を引くとソファーに向かって引き寄せ有無を言わさず座らせた。かと思うと、立ち竦んだままの慶太郎に一瞬視線を向けてから、再び恭平に向かって屈みこむ。

「珈琲入れるね?」

酷く恭平を気遣う仕草を見せる仁聖に、少し驚いた視線を向けながら慶太郎もソファーに座る恭平に歩み寄る。困惑した表情を浮かべたまま彼を下ろした視線に、少し溜め息をつきながら恭平が視線でソファーに腰掛けるよう促す。躊躇いがちにソファーに腰を下ろした慶太郎がオズオズと仁聖の様子を眺めてから思い切った様に口を開いた。

「兄さん……あの……兄さんは本当に…仁聖と…。」
「うん…?」
「仁聖と……その……、セックス…して…るんですか?」

慶太郎の言葉に一瞬で唖然とした表情で恭平が凍りつく。珈琲を入れてキッチンから滑りだした仁聖が、その言葉に同じく唖然とした表情で慶太郎を見下ろす。それぞれ目の前にカップを置いて恭平の横にストンと座り込んだ仁聖が、心底呆れた様に口を開いた。

「お前…前に俺と恭平がしてるの聞いたんだろ?何いまさらおかしな質問してるんだ。」
「……いや…、そうだけど……あの…だって……、ベットの上で……。」

その言葉に一瞬先ほどの自分の姿を思い出したのか、恭平が思わず頬を染める。それを視界に入れながら慶太郎が、困惑した瞳で息をつく。
直に耳にしたとはいえ以前電話口で聞いた微かな音声と、先ほど目にした煽情的で鮮やかな白くしなやかな素肌。それがやっとイコールで結ばれて、改めて二人の関係を認識したらしい。慶太郎の理解力がややオーバーヒートしそうになっているのが分かって思わず恭平は頬を染めながら溜め息をついた。

「…それで一体今日はどうした?年末だと忙しいんじゃないのか?」

一つ咳払いをして話を切り替えた恭平の言葉に、仁聖も僅かに眉をしかめる。道場を開いている宮内家は旧家でもあるので、年末年始は人の出入りも多くバタバタしている事が多い。それなのに年末の差し迫った三十日の夕方に息子である慶太郎が私服で来訪した。それに訝しげに眉を潜めた恭平の言葉に、我に返ったように慶太郎が表情を変える。

「…兄さん…泊めて下さい!」
「えぇぇッ??!!」

唐突なその申し出に思わずそろって声をあげていた二人に向かって慶太郎は事の次第を説明し始めていた。

他の同級生より一足先に大学の推薦入試で合格が決まった慶太郎は、十二月の中旬にその手続きも終えて進学を決めていた。決定した進路に新しい生活を考えた慶太郎は一人暮らしをしたいと両親に申し出たのだが、大体の部分で理解力がある方だと思っていた両親それぞれに猛反対されたのだ。終いには一人暮らしをするくらいなら大学は通わなくていいとまで言い切られ喧嘩になって家を飛び出してきたのだと言う。

「全然僕の意見なんか聞く耳持たないで、頭ごなしに駄目だしか言わなくて…っ。」

話に暫し聞き入っていた恭平が深い溜め息をついて、少し頬を紅潮させた慶太郎を眺める。横で無言で話を聞いていた仁聖が呆れた様な視線を向けたのに気がついて、その口が開く前に行動を遮る様に声を零した。

「お前の言いたい事は分からないでもないけど、…お前の両親の気持ちも分からないでもない。」
「…兄さん……?」
「お前は大事な一人息子だし、………結婚してだいぶ経ってから出来た子供でもあるんだから…。」

溜め息交じりに諭す声が告げた言葉に、一瞬憤りに似た表情が慶太郎の顔に浮かぶ。

「そんな!!兄さんがいるのに!」
「……宮内の息子はお前だけなんだよ。」

ここ数ヶ月慶太郎自身も思う事があって、実は両親に直に疑問をぶつけていた。その結果理解出来た事実に少なからず慶太郎自身憤る事も多く、同時に自分の過保護さを感じ取って故に自立したいと考えたのは分からないでもない。その意図を表情から読み取った様に恭平は溜め息交じりの微笑みを浮かべる。

「…お前もちゃんと理由を言って・もっと話し合わなきゃ駄目だ。いいな?」
「……はい……。」

諭されてしゅんと肩を落とした慶太郎にやや呆れ気味の仁聖の視線が投げられ、それに気がついた慶太郎が不満げな仕草で睨みつける様にみると仁聖が冷ややかな声を上げた。

「両親がいるくせに贅沢な悩みだよな?喧嘩してもいいから納得できるまで話し合えばいいのに。」
「う………。」
「こら、お前だって叔父さんと最近まで素直に話せなかっただろうが。」
「でも・俺は言いたいことは全部言うもん。」

不満を口にしたもののその場で自分だけが両親との生活の中で過ごしている事に改めて気がついた慶太郎が、自分の未熟さに赤面して黙り込み視線を俯かせてしまう。その様子を少し苦笑しながら眺めていた恭平が思い出したように仁聖をちらりと上目遣いに見上げ、視線が何を言いたいのかわかった仁聖が思わず眉をしかめる。しかし、変わらず浮かぶ懇願するようなその恭平の視線に溜め息をついて仁聖が仕方ないと言いたげに髪をかきあげた。

「もう…。………分かったよ…恭平。」

その言葉にほっとしたような視線を浮かばせた恭平を不思議そうな顔をした慶太郎が眺める。

「……今夜はまだ気まずいだろう?泊まってもいいから、ちゃんと明日話しあうんだぞ?」
「兄さん。」

パアッと喜びで明るくなった慶太郎の表情を溜め息交じりに眺めた仁聖が、座っていてと恭平に囁きながら和室に足を向けた。その二人の様子にはたと今の奇妙な恭平が漂わせた間の理由が、実際恭平ではなく仁聖に自分を泊めることをを承諾させたのだとわかった。それに少し物問いたげな表情を浮かべた慶太郎に、横をすり抜けながら仁聖が声を上げる。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...