鮮明な月

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第六章

58.

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驚愕したように目を見張り立ち尽くした仁聖の姿に慶太郎が凍りつく。慌てたように身を捩ったが慶太郎の腕から恭平が滑り出した瞬間・仁聖の足が室内に向くのが視界に入っていた。

「…何…やってんだよ?!!慶太郎!!お前!!」
「…っ仁聖!!」

鋭い怒声を上げ駆け寄った仁聖の腕が慶太郎の胸倉を掴んで殴りつけようとするのを、咄嗟に腕の間に体を挟んで恭平が素肌のままの体で阻む。振り下ろそうとした先に割り込む恭平に、更に激しい憤る声が響き渡る。

「どいて!!恭平!!」
「何もしてない!!何もしてないから!!仁聖!!」
「っそういう問題じゃない!!裸で組みしかれて何言ってんだよっ!!」
「仁聖!」

長い付き合いで一度も見たことのない激しい感情で憤る幼馴染の姿を、恭平に庇われる様に背後に突き飛ばされた慶太郎は呆然とベットに座り込み見上げた。

「どけってば!恭平ぇ!!」
「何もしてない…っ…本当だから、出来ないって…ハッキリさせただけなんだ…っ頼むから。」

縋るように押し止めながら懇願する恭平の声が弾けて、その言葉の意味を理解した仁聖は苦痛に鋭く表情を歪めた。ぎゅっと握られた拳ときつく噛んだ唇が震えながら搾り出すように言葉を放つ。

「ハッキリって…っ…なんで…!!なんで恭平!何時もそう勝手に…っ!!」
「……俺にしか出来ないことだろ?…口で言っても仕方ない。」
「だからって……っ。」

怒りのやり場を失ったように仁聖が殴りかかろうとしていた腕を自分に縋る素肌に下ろそうとして、恭平が肌を晒しているという事実に気がつき僅かに震える。触れる滑らかな肌に燠火のように揺れる欲望を体内に感じながらその細い肩に顔を埋めて、細い腰に腕を回した仁聖が呻く様に苦痛めいた声を零した。

「だからって…こんな……恭平。大事な人が…こんな事されてて……俺どうしたらいいの?!!」

埋めた声が酷く震えて哀願するようにその白い肌をした体を強く抱きすくめる。

「……仁聖…悪かった……、だから…頼むから…。」
「どうして…こんなの駄目だよ、こんなの許せないに決まってるでしょ?!許せるわけない!!」

抱き止めるように仁聖の体を抱き締めてもう一度恭平がごめんと繰り返す。その肩に埋められていた顔が子供のようにクシャと歪みながら彼を誰にも渡さないという風に、必死の仕草でその体に腕を回す。制服のブレザーを脱いで恭平の体を包み込んだ仁聖の仕草に、慶太郎は微かに罪悪感の滲む視線を震わせていた。怒りを何処に向けたらいいのか分からない燃える瞳が慶太郎を見据え、低く呻く様な声が溢れ落ちる。

「…恭平との話し、終わったんだろ?…さっさと帰れよ…。俺、今このままお前がそこにいる気なら…。」

酷く震える視線がもう絶対にその体を見せないとでも言いたげに、恭平の体を愛おしげに抱きかかえる。そうしながら、その瞳は激しく鋭い怒りを滲ませて、まるで手負いの獣のような視線で射抜く。

「恭平を目の前で今直ぐ抱いて誰のものか証明してから、お前の事ぶっ殺してやる。」
「…仁聖っ………お前何言って…!」
「恭平が止めたって、止めないから。許さないし絶対止めない。」

腕の中で身動ぎする恭平をら酷く凶暴にも見える光を宿した瞳が見据えながら呟く。今迄見たことのない視線に、恭平も慶太郎も思わず息を呑んでいた。激しい怒りとソコにある思いに恭平はそっと頬に手を添えながら目を伏せ、怯えたように唇を重ねる。その仕草の先にある視線が不意に泣きそうに揺れるのに仁聖は、唇を噛んで無理やり吐息を押し出した。

「……俺…あんなに言ったでしょ?独りで傷つこうとしないでって、俺が一緒に居るって。」
「悪かった……。」

迷う気配もなく抱き締めた手を滑らせる仁聖が、見せ付けるように無理やり引き寄せた唇を貪る様に重ねて愛おしそうに丹念に口付ける。

「ん、……んんっ…んく…っ。」

自分がただ押し当てた時とは違う甘く迸る声に、慶太郎は呆然と見上げたままだ。

「んぅ………ふぅ…ん。」

僅かに力の抜けていく恭平の体を抱きかかえたまま、ブレザーの上から指が腰を撫でる。

「ん、や……だっ…あっ…」

呆然としたままベットに座り込んでいる慶太郎を見下ろす視線は以前変わらない。滑らされる指に制止の声をあげ微かに身を竦める恭平の動作ですら意にかえさないように、酷く冷淡に見える視線が怒りに満ちたまま閃く。慣れた指先がブレザー越しに腰を這う感触に、弱く頭を振った恭平が制止を懇願する。

「じ…仁聖…、止め…頼むから…止めろ…っ。あっ…、やめ…。」
「慶太郎、見てたきゃ見てろよ…俺・言った事は絶対に実行するからな。」

無造作にそう言い放つ仁聖が、本気でそう口にしているのが分かって恭平は必死に身を捩る。それでも恭平の弱い部分を幾つも知っている指先に擽られ、自分の体が浅ましいほどに熱を感じ始めていた。馴染んでしまった愛撫を自覚させられ、恭平は涙を滲ませながら頭を振り声を絞り出す。

「いやだ…止めて……くれ…、こんなの…いや…だ。仁せ…。」
「恭平……愛してるよ?……恭平を愛してる。」
「っ……う…っ…や……ああっ…。」

酷く魅惑的に掠れる熱を含んだ声がまったく怯みもせずに恭平に触れる。それを呆然と目を見開いていた慶太郎が、我に帰ったように唇を噛んで視線を引き剥がすように背けた。しようとしても自分には決して出来なかった事を、仁聖はやすやすとして見せた。同時に恭平が言った通り恭平自身も、それに反応して甘い声をあげている。仁聖がただの気紛れではなく、本当に言葉通りの証明して見せようというのが分かって胸が疼く。仁聖は恭平に触れて熱を落とす事が出来るという事実も、その先の行為を見せ付けられる事も耐えられるはずがなかった。
咄嗟に横をすり抜け足音を立てて飛び出したその姿を感じながら、腕の中で身を震わせている恭平を見下ろした仁聖は深々と溜め息をついて体を抱きかかえたままドスンとベットに腰を下ろした。抱きかえられたままの腕の中の恭平が肩に顔を埋めて、布越しに涙の感触が染みてくる。

「あいつ行ったよ、もう泣かないでよ……頼むから。」
「……っ……ふ…、…う…っ。」
「……ずるいよ…、俺がそんな恭平見たら何もできなくなるって知ってるくせに……。」

そう言いながら抱き締めた恭平の黒髪に、そっと手を滑らせ撫でる。混乱したような様子で嗚咽を溢す恭平を抱きかかえたまま、仁聖はもう一度溜め息をつく。何かは分からないが慶太郎の気持ちの形を判断できたから、恭平が幼馴染みにそういう行動を許したのは分かった。分かったからと言って納得できることと出来ないことがある。そう仁聖の瞳が言っているのに気がついて、恭平は揺らぐような涙を湛えた瞳で腕の中から仁聖を見上げた。

「…恭平も悪いんだからね、言ったじゃないか…独りで傷つこうとするなって、そうだろ?」

先程までの怒りを含んだ声とは違う柔らかく甘い宥める声に気がついて、恭平が震える肩を竦ませながら小さく頷く。

押し付けられた唇は仁聖のものとは違っていた。

自分に向けて肉親としての思慕はあってもそれ以上のものではない慶太郎がしたキスは、それ以上の行為を願っている熱が感じられなかった。慶太郎自身の体が拒否していると感じられて、仁聖のように甘さすらも感じられない。ただ子供が戯れに親に親愛の情を示すような行為が、自分と仁聖が交わすものとは別なものだと明らかに理解できる。
恭平自身ですら時折まだ自分が仁聖を受け入れた事が信じられない事があるのに、自分と少しでも似た部分のある慶太郎が簡単に常識を踏み越えて行為に及べるとも思えなかった。

「だけど…あいつには出来ないってわかったから…。」

溜め息混じりに仁聖が微かに呆れたような声で囁く。

「もし違ったら?恭平、あの態勢じゃあのまま犯されちゃったかもしれないって…分かってる?」

涙を拭い取りながらの言葉に一瞬口を噤んだ恭平に、仁聖は深々と溜め息を再びつく。確かに男同士なら最終的には何とか逃げ出せただろうが、その時にはどちらもただでは済まなかった筈だと口にしてもう一度溜め息をつきながらその瞳を覗き込む。的確な指摘に自分が判断した事は自己満足にしか過ぎなかった事を理解した気配で恭平は俯く。

「……悪かった……、俺の考えが甘かった……。」
「ん、反省して?俺、まじで慶太郎をぶっ殺そうとしてたんだから。」
「悪かった…ごめ……っ?…ちょ……仁聖っ…。」

口にした謝罪の言葉を途中で遮るように蠢き始めた腰のあたりを弄る手の感触に、恭平が思わず声を上げる。その声を聞き流して、恭平の鎖骨に顔を寄せた仁聖が舌の先でソコをなぞる。ヒクと震える肌を包んでいたブレザーを滑り落として全てを露にさせた体を抱きかかえたまま見つめ、仁聖は少し皮肉めいた口調で耳元に囁く。

「さ、どこ触られたの?恭平。…ぜーんぶ、ちゃぁんと教えてもらうからね?」
「ちょ…ちょっと待て、お前今の今まで……やめっ…あっ!!」

くっと腰骨をなぞりおろし滑らかな双丘を割り、後ろに直に触れた指に声を上げる。恭平を見つめながら仁聖は酷く魅惑的な声を落として、不意にその体をベットに押し倒し当たり前のように覆い被さった。以前よりもはるかに大人びて穏やかにも見えるその顔に、静かに満面のハッキリと作り笑いと分かる笑みを浮かばせている。その仁聖の表情にギョッとした様に、咄嗟に恭平が身を捩った。腕から逃れようとする動きをあっさりと手と下肢の動きでいなして、仁聖が肌に指を這わせながら囁きかける。

「俺・まだすっごく怒ってるんだからね?恭平。」
「だ…だったら…、なんでっ!?さわ…っあうっ…っ!!」

ゆるりとした動きで指先に胸に残されたキスマークの上を撫でられ、蕾のように硬く芯を持った胸の突起を指で挫かれた体が戦く様に震える。それを見下ろして、仁聖は引く気はないと示すように貼り付けた作り笑いのまま微笑みかけた。

「あいつに触られたり舐められたトコ・俺がちゃんと気持ち良くしてあげる。」

艶かしく唇を舐める舌の動きが卑猥で、恭平は息を飲んで凍りつく。どうみても何時もの甘えるような仁聖とは違って、その目は笑みを浮かべていないのだ。

「さ?どこ触られたの?正直に言わないと体中、全部触っていかせまくるからね?恭平、俺がそう出来る事十分わかってるよね?」

ジッと見上げるような視線がそう言葉を口にしながら、声を放つ事ができないでいる恭平の表情を眺めふぅんと納得するかのような声を溢す。制服を脱ごうともせずに覆い被さりながら肌に舌を這わせ始めたその姿に、恭平は懇願するような表情で必死に頭を振る。

「やだ…っ…いやだってば…よせっ!!仁聖・やめろっ…頼むから!」
「俺さっき言ったよね?」

酷く冷静に囁きかけるような声がそう言いながら、恭平の顔を見つめ笑みがすうっと消えていく。その仁聖の変化に怯えるような視線を向けながら恭平が息を呑むのを見つめ仁聖は冷静に見える表情で言葉を紡ぎだす。

「恭平が止めても絶対止めないって言ったはずだよ。正直に言って?ドコとドコ触られた?」
「き…キスだけだってばっ…止め…あうっ…!!」
「嘘つき。俺をこれ以上怒らせないでよ、恭平。俺・今何するかわかんないんだから。」

恭平の暴れるような動作を意図も簡単に恭平の肉茎を強く手の中に握り込む仕草でベットに縫いとめて、仁聖の唇が恭平の直に肌に触れる。噛み付くように吸い上げる感触に身を震わせた恭平を見据えながら、仁聖はそっと肌に残る少し色を滲ませたキスマークを更に深い色に変える。

「ココのキスマーク俺がつけたのより濃くなってる。俺にわかんないと思っても無駄だよ?」
「だ…からっ…キス以外は…っ…くっ…、はっ…離せって…手を…んんぅ…!!」

頭を振ってそう口にする恭平を攻め立てるように、ゆるゆると指が音を立てて上下して熱を持った肉茎を扱きあげる。悲鳴のような声が甘い喘ぎに変わり落ちていく。眉を寄せて必死に苦痛に耐えるような表情を漂わせる恭平の顔を見下ろしながら、仁聖は表情を緩めもせずに指と唇とでその体を攻め続ける。

「い…いやっ…止め…あっ…やだ・仁聖…っあぅ…た…頼むからっ止め…。」
「…そこまで言うなら、いかせないであげる。」

その言葉に一瞬ほっと息をつこうとした恭平は、依然止まらない仁聖の愛撫に目を見開いて身を捩る。

「ん…ふぅんっ!!?やめっ…な・なんでっ…?!」
「いかせないって言ったんだよ?…いかせて欲しかったら正直になった方がいいよ?恭平。」

言葉を示すように達しないようにギュと握りこまれた肉茎の苦痛に身を捩る恭平の体を、更に煽り立てるように指と唇で弄りたてる。仁聖に懇願の悲鳴を上げて恭平が身を仰け反らせた。自身をきつく締め付けられて昇りつめ様としている体を無理やりそこに留められる苦痛を伴う快感に肌を朱に染める。恭平の下肢を無造作に割り開き、仁聖は唐突に後孔に唾液でぬらした指を潜り込ませ掻き回す。

「ひあっ!?や…あぁぁああっ!やめっ…や…はぁう!!」
「きつい……。よかった…ココは触られてないんだね…恭平。」
「うあ……あぁっ…あ…っ…くぅ……んんっ…。」

苦痛そうに歪む表情が色を落とすように艶やかに染まりながら息を荒げ眉を寄せる。達し切れない快感の真っ只中で後ろまで蹂躙されていく倒錯めいた感覚に、ブルッと肌を戦かせて恭平は覆い被さる仁聖の服に縋るように手を伸ばす。

「ふあ…ぁ…っ…あ…っ…やだ……も…あぁ…っ」
「ふふ、恭平…ココ弱いもんね?好きでしょ?ココ、こんな風に擦られて焦らされるの、辛い?」
「ああぁ……ん…ひぅ…、あ…う…っ…ふ…っや…だ……っ。」
「……俺しか知らないんだからね?……そんな可愛い恭平。」

微かに嬉しそうな響きを含む仁聖の声と体内を探る指先の擦り立てる部分に朦朧としながら、恭平が握りこまれた肉茎を開放して欲しくて腰を揺する。艶かしく腰をくねらせる恭平に仁聖が甘い口付けを落としながら、更に奥に指を呑み込ませていく。


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